説明

絶縁膜用フェニル含有シランとそれを用いた絶縁膜の製造方法

【課題】高純度なフェニル含有シランを製造すること、及びフェニル含有シランを原料に用いて絶縁性の優れた絶縁膜を得ること。
【解決手段】 モノハロゲン化ベンゼンを0.01wtppm以上300wtppm以下含むことを特徴とする一般式(1)の絶縁膜用フェニル含有シランを含むガスをチャンバー内に導入し、該ガスに高周波を印加して該ガスの少なくとも一部をプラズマ化して反応または分解し、該チャンバー内の基材表面に炭素と珪素を含む絶縁膜を形成する。
(C(CHSiH4−m−n ・・・(1)
(式中、mは1〜2の整数、nは0〜3の整数、m+nは1〜4の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料や回路材料などの絶縁膜原料に有用なフェニル含有シランと、それを用いた絶縁膜の形成方法およびその絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機シランは、半導体装置、回路基板などの精密機器用の材料として、あるいはその原料や中間体として有用な材料である。有機シランを半導体用の絶縁膜原料に用いる場合には、通常、不純物の少ない原料を用いることが一般的である。例えば、ハロゲン化合物を含有している原料を用いると、膜の絶縁性等に影響があると言われている。しかし、有機シランの1種であるフェニル含有シラン中に含まれるハロゲン化合物の含有量と絶縁膜の絶縁性等の相関について具体的に示された例はない。
【0003】
フェニル含有シランの製造方法としては、溶媒存在下でハロゲン化ベンゼンとマグネシウムの反応により形成されるフェニルマグネシウムハライド(グリニャール試薬)と、ハロゲン化シランを反応させる方法(グリニャール法)が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
グリニャール法でフェニル含有シランを製造する場合、原料の種類や濃度、溶媒、反応温度などを適切に選定することで、高収率でフェニル含有シランが得られることが知られている。しかしながら、これらの方法で得られたフェニル含有シランから、グリニャール試薬調製時の原料に由来すると考えられるモノハロゲン化ベンゼンを効率よく除去することは困難である。モノハロゲン化ベンゼンをフェニル含有シランから除去することが困難である原因は、それらがフェニル含有シランと共沸するためか、あるいは、それらがフェニル含有シランと沸点が近いために蒸留塔の段数・高さ等の限界、精製時間・収率などの制約によって高純度化することが困難であるためと考えられる。
【0005】
フェニル含有シラン中のハロゲン化炭化水素等の不純物を除去する方法として、不純物を含有するフェニル含有シランを、有機マグネシウム化合物と接触させた後、有機マグネシウム化合物を分離する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法は、既に精製して得られたフェニル含有シランに追加で後処理を加え、更に蒸留精製を行う方法であり、プロセスが複雑で、かつ、合成から精製までの時間が長いという問題がある。また、フェニル含有シランにこの方法を適用した場合、特許文献1記載の効果が得られず、ハロゲン化炭化水素が残留するという問題がある。
【非特許文献1】「有機ケイ素化学」p.95−104、槇書店、1959年10月30日(1版1刷)発行
【特許文献1】特開昭63−77887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高純度なフェニル含有シランを製造すること、及びフェニル含有シランを原料に用いて絶縁性の優れた絶縁膜を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フェニル含有シラン中のモノハロゲン化ベンゼンの含有量を所定範囲に制御する方法を見出し、フェニル含有シラン中の不純物とその含有量について鋭意検討した結果、所定量のモノハロゲン化ベンゼンを含有するフェニル含有シランを原料に用いると、絶縁膜の絶縁性が優れることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
モノハロゲン化ベンゼンを0.01wtppm以上300wtppm以下含むことを特徴とする一般式(1)の絶縁膜用フェニル含有シランであり、
(C(CHSiH4−m−n ・・・(1)
(式中、mは1〜2の整数、nは0〜3の整数、m+nは1〜4の整数である。)
一般式(2)で表されるクロロシランと、モノハロゲン化ベンゼンの含有比率がモル比で0.01未満である一般式(3)の有機マグネシウム化合物とを溶媒中で反応する工程を含む、前述の絶縁膜用フェニル含有シランの製造方法であり、
(CHSiClb4−a−b ・・・(2)
(式中、aは0〜3の整数、bは1〜2の整数、a+bは1〜4の整数である。)
MgX ・・・(3)
(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素基である。)
前述の絶縁膜用フェニル含有シランを含むガスをチャンバー内に導入し、該ガスに高周波を印加して該ガスの少なくとも一部をプラズマ化して反応または分解し、該チャンバー内の基材表面に炭素と珪素を含む絶縁膜を形成する絶縁膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シランは、電気絶縁性の優れた絶縁膜用の原料となる。また、本発明のフェニル含有シランの製造方法を用いれば、絶縁膜用として優れる、モノハロゲン化ベンゼンを所定量含有するフェニル含有シランを効率よく簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シランは、一般式(1)
(C(CHSiH4−m−n ・・・(1)
(式中、mは1〜2の整数、nは0〜3の整数、m+nは1〜4の整数である。)
で表される。本発明の絶縁膜用フェニル含有シランは、モノハロゲン化ベンゼンを0.01wtppm以上300wtppm以下含有する。本発明において、モノハロゲンベンゼンとは、クロロベンゼン、ブロモベンゼンまたはヨードベンゼンを表す。本発明におけるフェニル含有シラン中のモノハロゲン化ベンゼンの含有量は、クロロベンゼン、ブロモベンゼンおよびヨードベンゼンの各含有量の合計を意味する。モノハロゲン化ベンゼンの含有量が前記範囲であるフェニル含有シランを原料に用いて絶縁膜を形成すれば、絶縁性の優れた絶縁膜が得られる。モノハロゲン化ベンゼンを0.01wtppm未満含有するフェニル含有シランは、実質的に製造できないため比較できず、本発明の範囲外とした。ただし、モノハロゲン化ベンゼンの含有量が0.01wtppm未満であっても、本発明と同様の絶縁性を達成できる可能性がある。
【0012】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シラン中のモノハロゲン化ベンゼン含有量は、例えば、キャピラリーカラムによる分離と熱伝導度検出器(TCD)または水素炎イオン化検出器(FID)を組み合わせたガスクロマトグラフィー分析法などにより定量することができる。これらの分析においては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼンおよびフェニル含有シランが互いに分離され、かつ、それらが他含有物と分離されるように、カラム材質、カラム長、カラム径、サンプル注入量、昇温速度、希釈ガス種、希釈ガス量などを選定することが必要である。なお、各物質の定量方法としては、フェニル含有シランに各モノハロゲン化ベンゼンを所定量添加して調整した内部標準サンプルの分析値から検量線を作成する方法などを利用できる。
【0013】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シランは、フェニル含有シランとモノハロゲン化ベンゼン以外の物質の含有量が500wtppm以下であることが保存安定性の点で好ましい。
【0014】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シランは、前述のグリニャール法と呼ばれる合成法を用いることにより得ることができる。より具体的には、一般式(3)
MgX ・・・(3)
(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素基である。)
で表される有機マグネシウム化合物と、一般式(2)
(CHSiCl4−a−b ・・・(2)
(式中、aは0〜3の整数、bは1〜2の整数、a+bは1〜4の整数である。)
で表されるクロロシランとを反応させる方法を用いることができる。このとき、有機マグネシウム化合物中のモノハロゲン化ベンゼンの含有比率はモル比で0.01未満であることが好ましい。有機マグネシウム化合物中のモノハロゲン化ベンゼンの含有比率が0.01以上であると、前記含有量のモノハロゲン化ベンゼンを得ることができない場合がある。有機マグネシウム化合物中のモノハロゲン化ベンゼンの含有比率を調べる方法としては、例えば、有機マグネシウム化合物を少量分取し、過剰の酸と混合した後静置して油水2層分離させ、油層をガスクロマトグラフィーで分析する方法などが挙げられる。ここで過剰の酸とは、有機マグネシウム化合物を失活させるのに十分な酸を意味する。有機マグネシウム化合物中のモノハロゲン化ベンゼンの含有比率が0.01未満の混合物を得る方法としては、例えば、マグネシウムとモノハロゲン化ベンゼンとを溶媒存在下で反応させる工程において、マグネシウムとモノハロゲン化ベンゼンの混合比を制御する方法が挙げられる。モノハロゲン化ベンゼンに対するマグネシウムの混合比(モル比)は、1.02以上1.20以下が好ましい。1.02未満では、反応条件によってはモノハロゲン化ベンゼンが多量に残存する場合があるので好ましくない。また、1.20を超えると、過剰のマグネシウムの除去が困難であり、かつ、除去できずに残存したマグネシウムがグリニャール反応時にクロロシランと副反応を起こして収率を低下させる場合があるので好ましくない。
【0015】
一般式(3)の有機マグネシウム化合物は、フェニルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムブロマイドまたはフェニルマグネシウムアイオダイドであり、それらの混合物であってもよい。本発明の一般式(2)
(CHSiCl4−a−b ・・・(2)
(式中、aは0〜3の整数、bは1〜2の整数、a+bは1〜4の整数である。)
で表されるハロゲン化シランとしては、例えば、ジクロロシラン、メチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどがあり、これらの混合物であってもよい。
【0016】
本発明においてグリニャール反応で使用する溶媒としては、有機マグネシウム化合物の反応性を上げるために、エーテル系溶媒を用いることが好ましい。例えば、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオクチルエーテル、アニソールなどの直鎖状エーテル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリアルキレングリコールジアルキルエーテル類がある。これらの溶媒に、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒を混合して用いてもよい。本発明のフェニル含有シランの製造方法では、反応時に更に上記の溶媒のいずれかを追加で用いることができる。
【0017】
本発明で用いる有機マグネシウム化合物は、調製時に用いるマグネシウムや、活性化剤、例えばヨウ素、1,2−ジブロモエタンなどを含んでいてもよい。有機マグネシウム以外の固体は濾過などにより除去されていることが好ましい。
【0018】
本発明における有機マグネシウム化合物と、ハロゲン化シランとの反応において、原料の濃度、反応温度、反応時間、混合方法、混合比、反応雰囲気等は、原料の種類、溶媒種類等によって適宜選択される。また、反応後の後処理は、合成されたフェニル含有シランの種類や溶媒などに応じて、酸処理、水洗、炭化水素溶媒による抽出、蒸留などの処理を適宜選択できる。
【0019】
本発明の絶縁膜用フェニル含有シランを用いて絶縁膜を形成する好ましい態様は、チャンバー内に少なくともフェニル含有シランを含むガスを導入し、ガスに高周波を印加してそのガスの少なくとも一部をプラズマ化して反応または分解し、チャンバー内の基材表面に絶縁膜を形成する方法であり、プラズマCVD(化学的気相成長)法として知られている。
【0020】
基材としては、シリコンウエーハ、Silicon On Insulator(SOI)ウエーハ、SiCウエーハ、化合物半導体ウエーハ、石英ガラスや、それらの表面または内部に素子、配線、絶縁膜等があらかじめ形成されたものが使用される。また、反応容器内の圧力、反応容器の温度、基材の温度は、ガスの組成等に応じて適宜選択されるが、減圧下、とくに0.1〜1000Paの圧力下が好ましく、−10℃〜500℃の基材温度で成膜することが好ましい。反応時間は、前記反応条件や目的とする膜厚に応じて適宜選択されるが、10秒〜20分であることが好ましい。
【0021】
チャンバーに導入するガスは前記のフェニル含有シランを含む。さらに、必要に応じてフェニル含有シラン以外にハロゲン化合物以外のガスと混合して用いてもよい。例えば、モノシラン、ジシラン等の水素化シラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン等のアルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等のシロキサン、トリメチルシラノール等のシラノール、酸素、窒素、アンモニア、アルゴン・ヘリウム等の希ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化窒素、オゾン、亜酸化窒素、モノメチルアミン等のアミン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン等の炭化水素などがある。これらのガスは有機シランに対し5〜99.9vol%含有させることができる。また、ガス組成を経時で変化させて成膜することもできる。チャンバーに導入するガスにハロゲン化合物を同時に混合させると、絶縁膜の電気絶縁性が低下するので好ましくない。
【0022】
高周波源としては、マイクロ波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ、誘導結合プラズマ、ヘリコン波プラズマ等を用いる方法があり、特に限定されない。また、ガスのプラズマ化は、チャンバーへのガス導入前に行われてもよい。
【0023】
本発明により形成される絶縁膜は、少なくとも珪素と炭素を含む。膜組成は化合物種や成膜条件に大きく依存するが、珪素と炭素以外に水素、窒素、酸素などを含んでいてもよい。
【0024】
本発明の絶縁膜の膜厚は、成膜時間だけでなく、ガス組成、成膜温度、成膜圧力等の製膜条件に依存するため、使用される配線構造や所望される膜誘電率等により適宜選択される。
【0025】
本発明の方法により形成された絶縁膜は、銅、アルミニウムなどを主成分とする金属配線を含む配線構造において、電気絶縁性の優れた配線分離用絶縁膜として用いることができる。形成される配線構造には、例えば、半導体装置中の電子デバイス間を接続する配線や、プリント基板上の電子デバイス間を接続する配線などが含まれる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定される物ではない。
<ガスクロマトグラフィーの測定条件>
(5%ジフェニル)−ジメチルポリシロキサンのキャピラリーカラム(60m×0.53mmφ、膜厚1.5μm)、水素炎イオン化検出器(FID)を設置した島津製作所製ガスクロマログラフGC−14を用い、インジェクション温度150℃、検出器温度280℃、カラム温度80〜280℃(昇温速度10℃/min)、キャリヤーガスヘリウムの条件で測定した。(なお、同じキャピラリーカラムを設置した島津製作所製ガスクロマトグラフ質量分析装置GCMS−QP5050にて、各ピークの同定を行った。)
【0027】
(実施例1)
<有機マグネシウム化合物と溶媒の混合液の調製>
窒素雰囲気に制御したコンデンサー付きの500mLのフラスコにマグネシウム10.0g、テトラヒドロフラン200mLを仕込み、攪拌下で、微量のヨウ素を添加後、ブロモベンゼン62.8gを、フラスコ内の温度が30〜60℃となるように温度制御しながら1時間で滴下した。滴下終了後、2時間加熱還流したのち、放冷してフェニルマグネシウムブロマイドとテトラヒドロフランの混合液を調製した。
<混合液の分析>
この混合液を約0.5g分取し、希塩酸を過剰に混合した後、静置して油水2層分離した後、油層をガスクロマトグラフィーにより分析した。ベンゼンに対するブロモベンゼンの含有比から算出したフェニルマグネシウムブロマイドに対するブロモベンゼンの含有比率(モル比)は0.0008であった。なお、クロロベンゼンとヨードベンゼンは検出下限以下であった。
<グリニャール反応による合成>
残りの混合液に、ジメチルクロロシラン37.8gとテトラヒドロフラン25gの混合液を、フラスコ内の温度が30〜35℃となるように温度制御しながら2時間で滴下し、更に35℃で16時間攪拌して反応を行った。
<反応後の精製>
反応後、1wt%の希塩酸200gを滴下し、攪拌静置後の水層(下層)を分液除去した。純水300gで3回洗浄した後、減圧蒸留し、初留を除く留分を回収してジメチルフェニルシランを得た。
<合成物の分析>
得られたジメチルフェニルシランをガスクロマトグラフィーで分析したところ、クロロべンゼンおよびヨードベンゼンは検出下限(0.01wtppm)以下であり、ブロモべンゼンは0.1wtppmであった。
<成膜>
上記で得られたジメチルフェニルシランの15gを浸液管つきの容器に入れ、容器を50℃に保ちながらアルゴンガスでジメチルフェニルシランの液体をバブリングしてジメチルフェニルシランのガスを平行平板プラズマCVD装置のチャンバー内に導入した。13.56MHzのRF電源を用いて40Wの電力を5分間印加してチャンバー中のガスをプラズマ化し、下部電極上の2インチSiウエハ上に膜を形成した。成膜時のSiウエハの温度は350℃、チャンバーの圧力は133Paとした。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをX線光電子分光分析装置(XPS)により確認した。また、膜上にスパッタにより直径1mmのアルミニウム電極を形成し、微小電流測定装置により1MV/cmの電界付与時のリーク電流を測定したところ、5.5×10−10A/cmであった。
【0028】
(実施例2)
<液の調製>
実施例1で得られたジメチルフェニルシランに、ブロモベンゼンを添加して、ブロモベンゼン300wtppm含有のジメチルフェニルシランを得た。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、6.2×10−9A/cmであった。
【0029】
(実施例3)
<有機マグネシウム化合物と溶媒の混合液の調製>
実施例1のブロモベンゼン62.8gを、クロロベンゼン45.2gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で有機マグネシウム化合物と溶媒の混合液の調製を行った。
<混合液の分析>
この混合液を約0.5g分取し、実施例1と同様の方法で分析を行った。ベンゼンに対するクロロベンゼンの含有比(モル比)から算出したフェニルマグネシウムクロライドに対するクロロベンゼンの含有比率は0.002であった。なお、ブロモベンゼンとヨードベンゼンは検出下限以下であった。
<グリニャール反応による合成>
残りの混合液を、実施例1と同様の方法で反応を行った。
<反応後の精製>
反応後、実施例1と同様の方法で精製を行い、ジメチルフェニルシランを得た。
<合成物の分析>
得られたジメチルフェニルシランをガスクロマトグラフィーで分析したところ、ブロモベンゼンおよびヨードベンゼンは検出下限(0.01wtppm)以下であり、クロロベンゼンは1.5wtppmであった。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、9.1×10−9A/cmであった。
【0030】
(比較例1)
<液の調製>
実施例1で得られたジメチルフェニルシランに、ブロモベンゼンを添加して、ブロモベンゼン1000wtppm含有のジメチルフェニルシランを得た。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、3.0×10−7A/cmであった。
【0031】
(比較例2)
<液の調製>
実施例3で得られたジメチルフェニルシランに、クロロベンゼンを添加して、クロロベンゼン1000wtppm含有のジメチルフェニルシランを得た。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、8.2×10−7A/cmであった。
【0032】
(比較例3)
<有機マグネシウム化合物と溶媒の混合液の調製>
実施例3のクロロベンゼン45.2gを46.7gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で有機マグネシウム化合物と溶媒の混合液の調製を行った。
<混合液の分析>
この混合液を約0.5g分取し、実施例1と同様の方法で分析を行った。ベンゼンに対するクロロベンゼンの含有比(モル比)から算出したフェニルマグネシウムクロライドに対するクロロベンゼンの含有比率は0.024であった。なお、ブロモベンゼンとヨードベンゼンは検出下限以下であった。
<グリニャール反応による合成>
実施例1と同様の方法で反応を行った。
<反応後の精製>
実施例1と同様の方法で精製を行い、ジメチルフェニルシランを得た。
<合成物の分析>
得られたジメチルフェニルシランをガスクロマトグラフィーで分析したところ、ブロモベンゼンおよびヨードベンゼンは検出下限(0.01wtppm)以下であり、クロロベンゼンは6200wtppmであった。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、5.5×10−6A/cmであった。
【0033】
(比較例4)
<ジメチルフェニルシランのフェニルマグネシウムブロマイドによる処理>
比較例3で調整したクロロベンゼンを6200wtppm含むジメチルフェニルシラン5gに、市販の濃度1モル/リットルのフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液0.5gを加え、40℃で2時間攪拌した。析出物は見られなかった。
<反応後の精製>
反応後、1wt%の希塩酸5gを混合し、攪拌静置後の水層(下層)を分液除去した。純水30gで5回洗浄した後、減圧蒸留し、初留を除く留分を回収してジメチルフェニルシランを得た。
<合成物の分析>
得られたジメチルフェニルシランをガスクロマトグラフィーで分析したところ、ヨードベンゼンは検出下限(0.01wtppm)以下であり、クロロベンゼンが6160wtppm、ブロモベンゼンが10wtppmであった。
<成膜>
前記ジメチルフェニルシランを用いる以外は、実施例1と同様の方法で成膜を行った。
<膜組成、膜絶縁性の評価>
得られた膜に珪素、炭素が含まれていることをXPSにより確認した。また、実施例1と同様の方法でリーク電流を測定したところ、5.9×10−6A/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のフェニル含有シランは、電気絶縁性の優れた絶縁膜の成膜原料として有用である。また、本発明のフェニル含有シラン製造方法により、効率よくモノハロゲン化ベンゼンの少ないフェニル含有シランを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノハロゲン化ベンゼンを0.01wtppm以上300wtppm以下含むことを特徴とする一般式(1)の絶縁膜用フェニル含有シラン。
(C(CHSiH4−m−n ・・・(1)
(式中、mは1〜2の整数、nは0〜3の整数、m+nは1〜4の整数である。)
【請求項2】
一般式(2)で表されるクロロシランと、モノハロゲン化ベンゼンの含有比率がモル比で0.01未満である一般式(3)の有機マグネシウム化合物とを溶媒中で反応する工程を含む、請求項1記載の絶縁膜用フェニル含有シランの製造方法。
(CHSiClb4−a−b ・・・(2)
(式中、aは0〜3の整数、bは1〜2の整数、a+bは1〜4の整数である。)
MgX ・・・(3)
(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素基である。)
【請求項3】
請求項1記載の絶縁膜用フェニル含有シランを含むガスをチャンバー内に導入し、該ガスに高周波を印加して該ガスの少なくとも一部をプラズマ化して反応または分解し、該チャンバー内の基材表面に炭素と珪素を含む絶縁膜を形成する絶縁膜の製造方法。


【公開番号】特開2006−290747(P2006−290747A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109515(P2005−109515)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】