説明

絶縁被覆導電粒子

【課題】異方性導電接着剤の導電粒子に適した絶縁被覆導電粒子に、優れた耐溶剤性と導通信頼性とを同時に付与する。
【解決手段】導電粒子の表面がカルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆されてなる絶縁被覆導電粒子の当該絶縁性樹脂層を、多官能アジリジン化合物で表面処理する。アジリジン化合物としては、例えば、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート又はN,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス−1−アジリジンカルボキシアミドが挙げられる。絶縁性樹脂層は、アクリル酸モノマー単位又はメタクリル酸モノマー単位を有する絶縁性樹脂から好ましくは構成される。具体的には、アクリル酸・スチレン共重合体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電接着剤に使用される絶縁被覆導電粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
異方性導電接着剤に使用されている導電粒子としては、ニッケルなどの金属粒子、樹脂粒子の表面にメッキ金属層を設けたメッキ金属粒子等の導電性粒子の表面を、導電粒子間のショートの発生を防止するために熱可塑性の絶縁性樹脂で被覆した絶縁被覆導電粒子が広く用いられている(特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−217617号公報
【特許文献2】特開平5−70750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような絶縁被覆導電粒子を使用して、フィルム状あるいはペースト状の異方性導電接着剤を製造すると、場合により、絶縁被覆導電粒子を被覆している絶縁性樹脂層が製造時に使用する溶剤で膨潤、溶解、あるいは変形するという問題があった。このような場合には異方性導電接着剤の導通信頼性にも悪影響が生じていた。
【0005】
絶縁性樹脂層の耐溶剤性を向上させるために、絶縁性樹脂層を熱硬化性の絶縁性樹脂組成物から構成することも考えられるが、絶縁性樹脂層が硬くなりすぎると、接続すべき対向電極間から接続絶縁性樹脂層を十分に排除できず、結果的に十分な導通信頼性が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、異方性導電接着剤の導電粒子に適した絶縁被覆導電粒子に、優れた耐溶剤性と導通信頼性とを同時に付与できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、導電粒子の表面に、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層を設け、その絶縁性樹脂層を2以上のアジリジン基を有する多官能アジリジン化合物で表面処理することにより、絶縁性樹脂層のカルボキシル基とアジリジン化合物のアジリジン基とを反応させると、得られる絶縁被覆導電粒子の耐溶剤性と導通信頼性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、導電粒子の表面が、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆されてなる絶縁被覆導電粒子であって、該絶縁性樹脂層が多官能アジリジン化合物で表面処理されていることを特徴とする絶縁被覆導電粒子を提供する。
【0009】
また、本発明は、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆された導電粒子の当該絶縁性樹脂層を、多官能アジリジン化合物により表面処理することを特徴とする絶縁被覆導電粒子の製造方法を提供する。
【0010】
更に、本発明は、上述の絶縁被覆導電粒子が、絶縁性接着剤に分散してなることを特徴とする異方性導電接着剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異方性導電接着剤の導電粒子に適した絶縁被覆導電粒子に、優れた耐溶剤性と導通信頼性とを同時に付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の絶縁被覆導電粒子は、導電粒子の表面が絶縁性樹脂層で被覆されてなる絶縁被覆導電粒子である。
【0013】
本発明においては、導電粒子を被覆する絶縁性樹脂層を構成する絶縁性樹脂として、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂を使用する。これにより、導電粒子と絶縁性樹脂層との間の密着性を向上させることができる。このようなカルボキシル基を有する絶縁性樹脂としては、カルボキシル基を有するモノマー、好ましくはアクリル酸モノマー単位やメタクリル酸モノマー単位を有する絶縁性樹脂、例えば、アクリル酸・スチレン共重合体(PP−2000S、大日本インキ化学工業株式会社; 酸価5mgKOH/g以下)、カルボン酸変性スチレン・ジビニルベンゼン共重合体(SX8742A、JSR(株)製; 酸価約3.5mgKOH/g)等を挙げることができる。
【0014】
絶縁性樹脂中のカルボキシル量(酸価)は、少なすぎると耐溶剤性が十分ではなく、多すぎると架橋密度が過剰になり導通信頼性が低下するので、好ましくは0.1〜50mgKOH/g、より好ましくは0.5〜5mgKOH/gである。
【0015】
絶縁性樹脂層の厚さは、薄すぎると電気絶縁性が不十分となり、厚すぎると導通特性が低下するので、好ましくは0.01〜1μm、より好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0016】
ところで、本発明の絶縁被覆導電粒子は、前述したように、導電粒子の表面をカルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆するが、異方性導電接着剤の十分な導通信頼性を確保するために、絶縁被覆導電粒子の絶縁性樹脂層自体が熱圧着処理時に被接続部の間から排除される必要がある。従って、絶縁性樹脂層自体は熱処理条件下で熱可塑性である必要があるが、熱可塑性であることは、有機溶剤により膨潤しやすく、場合により溶解するので、耐溶剤性に問題が生ずる。また、カルボキシル基は、異方性導電接着剤の接着成分として汎用されているエポキシ樹脂のエポキシ基と反応しやすいため、異方性導電接着剤の保存性を低下させるおそれがある。
【0017】
そこで、本発明では、絶縁被覆導電粒子の絶縁性樹脂層を、2以上のアジリジン基を有する多官能アジリジン化合物で表面処理する。この表面処理は、絶縁性樹脂のカルボキシル基に、多官能アジリジン化合物のアジリジン基を反応させるものである。具体的には、通常、絶縁性樹脂層の表面に多官能アジリジン化合物の溶液(例えばエタノール溶液)をスプレーし、80〜140℃で加熱乾燥することにより反応させることができる。また、多官能アジリジン化合物の溶液(例えばエタノール溶液)に絶縁性樹脂で被覆された導電粒子を投入し撹拌分散させ、その状態で30〜80℃に加熱撹拌することでも反応させることができる。これにより、絶縁性樹脂層表面がアジリジン化合物により架橋されるので、絶縁性樹脂層の熱可塑性を損なわずに、絶縁被覆導電粒子の耐溶剤性を向上させることができ、しかもフリーのカルボキシル基をなくすことができるので、接着成分としてエポキシ樹脂を使用したとしても、異方性導電接着剤の保存性を向上させることができる。
【0018】
なお、アジリジン基とカルボキシル基との反応については、広く知られている事項である(Encyclopedia of Chemical Technology, vol.13, p142 to 166(1984)等)。
【0019】
多官能アジリジン化合物の好ましいアジリジン基の数は、架橋性の点で少なくとも2つ必要である。このような多官能アジリジン化合物の具体例としては、例えば、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス−1−アジリジンカルボキシアミドを挙げることができる。なかでも、反応性の点で、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートが好ましい。
【0020】
多官能アジリジン化合物の使用量は、アジリジン化合物のアジリジン基の数、絶縁性樹脂のカルボキシル基当量、必要な耐溶剤性の程度等により適宜決定することができる。
【0021】
本発明の絶縁被覆導電粒子で使用する導電粒子としては、従来の異方性導電接着剤において用いられているものと同じ構成のものを使用することができる。例えば、半田粒子、ニッケル粒子、金属(ニッケル、金等)メッキ被覆樹脂粒子、これらを絶縁被覆した粒子等を挙げることができる。なかでも、導通信頼性の良好なニッケル金メッキ被覆樹脂粒子を好ましく使用することができる。
【0022】
本発明で使用する導電粒子の平均粒子径は、小さすぎると導通信頼性が低下し、大きすぎると絶縁信頼性が低下するので、好ましくは2〜10μmである。
【0023】
本発明の絶縁被覆導粒子は、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆された導電粒子の当該絶縁性樹脂層の表面に多官能アジリジン化合物を配し、加熱することにより、絶縁性樹脂のカルボキシル基とアジリジン化合物のアジリジン基とを反応させることにより製造することができる。より具体的には、導電粒子の表面を常法により絶縁性樹脂で被覆し、その表面に、多官能アジリジン化合物の溶液(例えば、エタノール溶液)をスプレーし、80〜140℃で乾燥加熱することで反応させることができる。また、多官能アジリジン化合物の溶液に、絶縁性樹脂で被覆された導電粒子を投入し、撹拌しながら30〜80℃で加熱することにより反応させることができる。この場合、反応後に処理済み粒子を濾別すればよい。
【0024】
本発明の絶縁被覆導電粒子は、異方性導電接着剤の導電粒子として好ましく使用することができる。このような異方性導電接着剤は、絶縁被覆導電粒子を接着成分である絶縁性接着剤に、必要に応じて有機溶媒や無機フィラーと一緒に常法により均一に混合することにより製造することができる。この異方性導電接着剤は、常法によりペーストあるいはフィルム状とすることができる。
【0025】
この異方性導電接着剤中の絶縁被覆導電粒子の配合量は、少なすぎると導通信頼性が低
下し、多すぎると絶縁信頼性が低下するので、好ましくは1〜20容量%である。
【0026】
この異方性導電接着剤で使用する絶縁性接着剤としては、公知の絶縁性接着剤を使用することができ、例えば、液状のエポキシ樹脂等の重合成分とイミダゾール系硬化剤や変性アミン系硬化剤等の硬化剤成分とからなる熱硬化型の液状絶縁性接着剤、重合性二重結合を有するアクリレート系樹脂と硬化触媒から成る液状絶縁性接着剤、アクリル、SBR、SIS、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ゴム系樹脂等からなる液状ゴム系接着剤等を使用することができる。特に、絶縁被覆導電粒子の絶縁性樹脂としてカルボキシル基を有するものを使用し、絶縁性接着剤としてエポキシ樹脂を使用した場合であっても、絶縁性樹脂の表面近傍が多官能アジリジン化合物で架橋されているので、保存安定性が良好である。
【0027】
異方性導電接着剤には、必要に応じて種々の添加物、例えば、増粘剤、界面活性剤等を配合することができる。
【0028】
本発明の絶縁被覆導電粒子を含有する異方性導電接着剤は、配線基板に種々の電子部品を接合する際に、好ましく使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0030】
比較例1
4μm径のスチレン系樹脂粒子の表面にNi/Au無電解メッキ層が形成された導電粒子(AU204、積水化学工業社)の表面を、常法により0.2μm厚で、アクリル酸・スチレン共重合体(PP−2000S、大日本インキ化学工業株式会社)で被覆することにより比較例1の絶縁被覆導電粒子を得た。
【0031】
実施例1
トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート(TAZM)5重量部をエタノール95重量部に溶解させた溶液を、比較例1で得られた絶縁被覆導電粒子に、まんべんなくスプレーし、100℃で加熱乾燥することにより架橋反応を行い、実施例1の絶縁被覆導電粒子を得た。
【0032】
実施例2
比較例1で得られた絶縁被覆導電粒子100重量部を、エタノール100重量部に分散させ、その分散液中に、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート(TAZM)2重量部を添加し、撹拌分散させ、65℃で4時間加熱撹拌することにより架橋反応を行った後に濾別し、80℃で30分間乾燥することにより、実施例2の絶縁被覆導電粒子を得た。
【0033】
実施例3
トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート(TAZM)に代えて、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート(TAZO)を使用すること以外、実施例2と同様の操作により、実施例3の絶縁被覆導電粒子を得た。
【0034】
実施例4
トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート(TAZM)に代えて、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス−1−アジリジンカルボキシアミド(HDU)を使用すること以外、実施例2と同様の操作により、実施例4の絶縁被覆導電粒子を得た。
【0035】
(評価)
比較例1及び実施例1〜4のそれぞれの絶縁被覆導電粒子10重量部を、トルエン、MEK、又は酢酸エチルの3種類の溶剤90重量部に投入し、100時間、室温下に放置して絶縁被覆導電粒子を沈降させ、その上澄み液を採取した。採取した上澄み液を加熱して揮発性成分を除去し、不揮発成分の重量を測定した。この不揮発性成分が、溶剤に溶解した絶縁性樹脂の重量に相当する。絶縁性樹脂中の溶剤に溶解した割合(重量%)を表1に示す。
【0036】
また、沈降した絶縁被覆導電粒子を乾燥し、得られた乾燥絶縁被覆導電粒子を一対の銅電極間に充填し(φ6mm×125μm)、電極間に電圧を印加し、リークした電圧(耐電圧)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
また、フェノキシ樹脂(YP50、東都化成(株))35重量部、エポキシ樹脂(YL980、ジャパンエポキシレジン;エポキシ当量185g/eq)30重量部、エポキシ分散イミダゾール系硬化剤(HX3941HP、旭化成(株))35重量部、導電粒子(実施例1〜4又は比較例1の導電粒子)20重量部、トルエン40重量部及び酢酸エチル40重量部からなる接着剤組成物を、剥離処理済みポリエチレンテレフタレートフィルムに乾燥厚で25μmとなるように塗布し、80℃で5分間乾燥して接着層を形成し、接着シートを作成した。この接着シートの接着層面に、ガラス基板上に櫛の歯状に配設されたITO配線に有するショート評価用絶縁TEG(チップサイズ25×2.5mm;バンプ数8376個;バンプサイズ35×55μm;バンプ間スペース10μm)を、ボンダーで到達温度210℃、圧着時間10秒という条件で圧着した。そしてバンプ間の絶縁抵抗を測定し、ショートの発生率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から分かるように、実施例1〜4の絶縁被覆導電粒子は、いずれの溶剤についても、アジリジン化合物で表面処理していない比較例1の絶縁被覆導電粒子に比べて、耐溶剤性及び耐電圧性に優れている。従って、導通信頼性も向上する。しかも、ショートの発生率が非常に少なく、良好な保存安定性が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の絶縁被覆導電粒子は、耐溶剤性及び耐電圧性に優れ、導通信頼性が向上したものとなり、しかも、ショートの発生率が非常に少なく、良好な保存安定性が期待できるものとなっているので、異方性導電接着剤の導電粒子として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電粒子の表面が、カルボキシル基を有する絶縁性樹脂からなる絶縁性樹脂層で被覆されてなる絶縁被覆導電粒子であって、該絶縁性樹脂層が多官能アジリジン化合物で表面処理されていることを特徴とする絶縁被覆導電粒子。
【請求項2】
アジリジン化合物が、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート又はN,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス−1−アジリジンカルボキシアミドである請求項1記載の絶縁被覆導電粒子。
【請求項3】
該絶縁性樹脂層が、アクリル酸モノマー単位又はメタクリル酸モノマー単位を有する絶縁性樹脂から構成されている請求項1又は2記載の絶縁被覆導電粒子。
【請求項4】
該絶縁性樹脂が、アクリル酸・スチレン共重合体である請求項3記載の絶縁被覆導電粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁被覆導電粒子が、絶縁性接着剤に分散してなることを特徴とする異方性導電接着剤。
【請求項6】
絶縁性接着剤が、エポキシ樹脂を含有する請求項5記載の異方性導電接着剤。

【公開番号】特開2009−218228(P2009−218228A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149217(P2009−149217)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【分割の表示】特願2003−295666(P2003−295666)の分割
【原出願日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】