説明

絶縁電線

【課題】導体に対する密着性に優れるとともに、プレス加工や引っ掻き加工により損傷され難いとの耐加工性にも優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線を提供する
【解決手段】導体と、該導体を被覆する絶縁皮膜よりなる絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、前記導体を被覆する第1層及び該第1層を被覆する第2層の少なくとも2層の絶縁層を有し、第1層が、破断伸びが60%以上の樹脂膜よりなり、第2層が、下記一般式(1):
【化1】


〔式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。m、nは、同一又は異なって、1〜4の数を示す。〕で表される芳香族ジイソシアネート化合物をその10〜80モル%含有するジイソシアネート成分と、酸成分との縮合物であるポリアミドイミドの樹脂膜よりなることを特徴とする絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅等の導体とそれを被覆する絶縁皮膜からなり、電気機器のコイル等に用いられる絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気機器の高出力化、小型化等の要請に伴い、電気機器内のコイルに、より多くの電線の巻き付けが望まれ、絶縁電線をコア上に強引に詰め込むような巻回がされることがある。このような巻回の際には、絶縁皮膜に大きな応力や変形、加工が加えられることがあり、絶縁皮膜の剥離や損傷等が生じやすい。そこで、コイルを形成する絶縁電線の絶縁皮膜には、優れた絶縁性とともに、導体に対する優れた密着性(接合性)や巻回の際の変形や加工により損傷を生じない性質、すなわち耐加工性が望まれている。
【0003】
密着性及び耐加工性に優れる樹脂は種々提案されているが、同時に、絶縁皮膜を多層構造として、密着性を向上させるとともに損傷を生じにくくさせる方法も検討されている。例えば、特開平7−73743号公報(特許文献1)、特開平7−73744号公報(特許文献2)、特開平7−73745号公報(特許文献3)には、3層構造の絶縁皮膜であって、下層及び/又は上層が、下記一般式(1):
【0004】
【化1】

〔式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。m、nは、同一又は異なって、1〜4の数を示す。〕で表される芳香族ジイソシアネート化合物を含有するジイソシアネート成分と、酸成分とを原料とするポリアミドイミド系塗料の、塗布、焼付けにより形成されている絶縁皮膜が開示されている。そしてこの絶縁皮膜は、可撓性に優れ、損傷し難いと述べられている。
【特許文献1】特開平7−73743号公報
【特許文献2】特開平7−73744号公報
【特許文献3】特開平7−73745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし近年、絶縁皮膜の密着性や耐加工性に対する要請はさらに高度なものとなり、前記のような多層構造の絶縁皮膜をもってしても、充分にこの要請を満たすことは困難となってきている。すなわち、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を原料として得られる絶縁皮膜は、導体に対する密着性は優れるものの、耐プレス加工性や耐引っ掻き加工性等の耐加工性は充分でない。そして、特許文献1〜3に記載の絶縁皮膜は、導体に対する密着性、及び、プレス加工や引っ掻き加工により損傷され難い性質、すなわち耐加工性の、少なくとも一方は未だ不十分である。そこで、導体に対する密着性及び耐加工性がともに優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、導体に対する密着性に優れるとともに、プレス加工や引っ掻き加工により損傷され難いとの耐加工性にも優れた絶縁皮膜を有し、近年の要請にも対応可能な絶縁電線を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、2以上の絶縁層からなる絶縁皮膜を有し、導体を被覆する絶縁層(第1層)を破断伸びの大きい樹脂により形成するとともに、該第1層上に形成される絶縁層(第2層)を、ポリアミドイミドであって、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を所定割合含むジイソシアネート成分から得られるものにより形成すると、導体との間の密着力に優れるとともに、可撓性に優れ損傷し難い、すなわち耐加工性に優れた絶縁皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、その請求項1として、導体と、該導体を被覆する絶縁皮膜よりなる絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、前記導体を被覆する第1層及び該第1層を被覆する第2層の少なくとも2層の絶縁層を有し、第1層が、破断伸びが60%以上の樹脂膜よりなり、第2層が、前記一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物をその10〜80モル%含有するジイソシアネート成分と、酸成分との縮合物であるポリアミドイミドの樹脂膜よりなることを特徴とする絶縁電線を提供する。
【0009】
前記のように、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を原料として得られる絶縁皮膜は、導体に対する密着性は優れる。そこで、従来は、密着性の向上のためには、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を原料として得られる絶縁皮膜は、導体に接する第1層に使用することが好ましいと考えられていた。しかし、本発明者は、この絶縁皮膜を第2層に使用した場合でも、優れた密着性が得られることを見出したのである。
【0010】
さらに本発明者は、第1層を破断伸びの大きい樹脂膜とすることにより、絶縁皮膜全体の可撓性も向上し耐加工性も向上すること、従って、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を原料として得られる絶縁皮膜を第2層とし、第1層に破断伸びの大きい樹脂を用いることにより、導体との間の密着力に優れるとともに、耐加工性にも優れる絶縁皮膜が得られることを見出したのである。
【0011】
以下、請求項1に記載の絶縁電線を構成する要素毎に説明する。
【0012】
この絶縁電線は、導体と、該導体を被覆する絶縁皮膜よりなる。後述するように、絶縁皮膜以外に他の層、例えば表面潤滑層を有していてもよい。
【0013】
該導体としては銅や銅合金の線がその代表例として挙げられるが、銀等の他の金属の線も導体に含まれる。導体の径やその断面形状は特に限定されない。
【0014】
絶縁皮膜は、前記導体を被覆する第1層及び該第1層を被覆する第2層の少なくとも2層の絶縁層を有する。後述するように、第2層の外側にさらに他の絶縁層を有してもよい。
【0015】
第1層は、導体を被覆し従って導体と接するものである。この第1層は、破断伸びが60%以上の樹脂膜によりなる。ここで破断伸びは、絶縁電線から導体をエッチング等により除去し、残った絶縁皮膜を、引張試験機を用いて、チャック間隔20mm、引張速度10mm/分の条件で引張試験して求めた、破断時の伸びである。第1層を、破断伸びが60%以上の樹脂膜により形成することにより、絶縁皮膜全体の可撓性も向上し、耐加工性、特に耐引っ掻き加工性が向上する。
【0016】
破断伸びが60%以上の樹脂膜は、例えば、ポリアミドイミド系の塗料を導体の表面に塗布し、焼き付けて形成することができる(請求項2)。ポリアミドイミド系の塗料は、絶縁皮膜の強度向上、絶縁皮膜の耐熱性向上に好適である。
【0017】
樹脂膜の破断伸びを60%以上とするためには、例えば、ポリアミドイミド系の塗料の原料として無水トリメリット酸(TMA)、トリメリット酸(ETM)、トリメリット酸クロライド(TMAC)を選択する。ポリアミドイミド系の塗料は、品質安定性、経済性、汎用性等を考慮して市販品を使用してもよい。
【0018】
第1層用の塗料には、さらに必要に応じて、顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0019】
第1層の厚みは、好ましくは5〜25μmの範囲である(請求項3)。第1層の厚みが5μm未満の場合は、耐加工性、特に耐引っ掻き加工性が不十分となり、加工時に損傷が生じやすくなる。一方、25μmを越える場合は、優れた密着性が得られにくく絶縁皮膜の剥離が生じやすくなる。
【0020】
第2層は、第1層を被覆し従って第1層と接するものである。本発明は、この第2層が、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物をその10〜80モル%含有するジイソシアネート成分と酸成分との縮合物であるポリアミドイミドの樹脂膜よりなることを特徴とする。
【0021】
一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の具体例としては、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用する。
【0022】
その中でも、入手のしやすさやコスト等の点で、下記式(2)で表される3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート(以下、「TODI」と言う。)、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート及び2,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネートから選ばれる1以上の化合物が、好適に使用される(請求項4)。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物とともにジイソシアネート成分中に含まれる他のジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート等、従来公知の種々のジイソシアネート化合物が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上混合して使用される。その中でも、入手のしやすさやコスト等の点で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(以下、「MDI」という)が、好適に使用される。
【0025】
ポリアミドイミド系塗料の原料であるジイソシアネート成分中に含まれる一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の割合は、10〜80モル%の範囲内である。10モル%未満では、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の添加効果が得られず、密着性の低いものとなってしまう。一方、80モル%を超えると、絶縁皮膜の全体が剛直で可撓性に劣り、割れたり剥離したりしやすいものとなってしまう。30〜60モル%の範囲内であると、より好ましい。
【0026】
ジイソシアネート成分とともに、第2層用のポリアミドイミド系塗料の原料を構成する酸成分は、カルボキシル基を3有する多価カルボン酸又はその無水物である。酸成分の具体例としては、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、トリメリット酸クロライド、又は、トリメリット酸の誘導体のうちの三塩基酸等が挙げられる。とくに、入手のしやすさやコスト等の点で、下記式(3)で表されるトリメリット酸無水物(以下、「TMA」と言う。)が、好適に使用される(請求項5)。
【0027】
【化3】

【0028】
第2層を形成するポリアミドイミド系塗料の原料としては、ジイソシアネート成分がTODIを30〜60モル%の範囲で含有し、その他のジイソシアネート成分がMDIであって、さらに酸成分がトリメリット酸無水物である場合が特に好ましい。
【0029】
酸成分中には、テトラカルボン酸無水物や二塩基酸、例えば、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、テレフタル酸、イソフタル酸、スルホテレフタル酸、ジクエン酸、2,5−チオフェンジカルボン酸、4,5−フェナントレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、フタルジイミドジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、アジピン酸等を、一部添加することもできる。
【0030】
一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物のジイソシアネート成分中に占める割合が60〜80モル%である場合には、絶縁皮膜全体の可撓性を維持するため、酸成分中に下記式(4):
【0031】
【化4】

で表されるイソフタル酸等、分子中に折れ曲がり構造を有する酸を含有させることが好ましい。原料としての酸成分中に前記分子中に折れ曲がり構造を有する酸を含有させると、第2層ひいては絶縁皮膜全体の可撓性が向上する。分子中に折れ曲がり構造を有する酸としては、前記イソフタル酸の他、オルソフタル酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸等が挙げられる。
【0032】
前記分子中に折れ曲がり構造を有する酸の含有割合は、好ましくは5〜40モル%の範囲であり、より好ましくは10〜30モル%の範囲である。分子中に折れ曲がり構造を有する酸の割合が5モル%未満では、可撓性向上の効果が十分に得られないおそれがあり、逆に40モル%を超えると、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の添加による密着力向上の効果が阻害され、密着性が低下する傾向がある。
【0033】
第2層を構成するポリアミドイミドは、略化学量論量の前記ジイソシアネート成分と前記酸成分とを、適当な有機溶媒中で縮合させることにより得ることができる。縮合反応の条件は、従来のポリアミドイミド系塗料の製造の場合と同様の条件を採用できる。
【0034】
より詳細には、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を前記の範囲内の割合で含むジイソシアネート成分を、略等モル量の酸成分とともに、適当な有機溶媒中で0〜180℃の温度で、1〜24時間反応させると、前記芳香族ジイソシアネート化合物を含むジイソシアネート成分と酸成分との縮合物であるポリアミドイミドが、有機溶媒中に溶解又は分散したポリアミドイミド系塗料が得られる。この有機溶媒としては、N−メチルピロリドン、クレゾール、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0035】
第2層を構成するポリアミドイミドの樹脂膜は、前記のポリアミドイミド系塗料を、第1層上に塗布し焼付けすることにより得ることができる。塗布、焼付けの条件は、通常のポリアミドイミド系塗料を導体上に塗布、焼付けして絶縁層を形成する場合の条件と同様である。
【0036】
第2層用のポリアミドイミド系塗料としては、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造したポリアミドイミド系塗料と、前記芳香族ジイソシアネート化合物以外のジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造したポリアミドイミド系塗料とを配合したものも使用可能である。この場合には、原料としての全ジイソシアネート成分中の、一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の割合が10〜80モル%の範囲内になるように、両塗料の配合割合を調整すればよい。又、塗料として、ポリアミドイミドの原料である前記のジイソシアネート成分と酸成分を含有し、塗布、焼付けの過程で、縮合反応を生じさせてポリアミドイミドを形成するものも用いることもできる。
【0037】
第2層用のポリアミドイミド系塗料には、さらに必要に応じて、顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0038】
第2層の厚みは、好ましくは5〜30μmの範囲である(請求項6)。第2層の厚みが5μm未満の場合は、導体と絶縁層との密着力が不十分となる。一方、30μmを越える場合は、絶縁層の伸びが小さくなる。
【0039】
前記絶縁皮膜は、前記第1層及び第2層に加えて、その外表面側に、第2層を被覆する第3層等、他の絶縁層を有してもよい。特に、破断伸びが60%以上の樹脂膜からなる第3層を、第2層を被覆するように設けると、絶縁皮膜の耐加工性、特に耐引っ掻き加工性がさらに向上するので好ましい。請求項7は、この好ましい態様に該当する。又、伸びに優れた第3層を設けることにより、第2層を損傷から保護できる。
【0040】
第3層を構成する破断伸びが60%以上の樹脂膜としては、主鎖中にエステル結合を有する樹脂系の塗料、主鎖中にウレタン結合を有する樹脂系の塗料、あるいは主鎖中にイミド結合を有する樹脂系の塗料より選ばれた1種以上の塗料を塗布、焼付けして形成されたものを例示することができる。第3層を形成する塗料は、第1層を形成する塗料と同じ種類の塗料でも、異なる種類の塗料であってもよい。樹脂膜の破断伸びを60%以上とする方法は、前記の第1層を構成する樹脂膜の場合と同様な方法を挙げることができる。
【0041】
又、絶縁皮膜のさらに外側(上層)には、例えば、絶縁皮膜の表面に潤滑性を付与するための表面潤滑層を設けてもよい。表面潤滑層としては、流動パラフィン、固形パラフィンといったパラフィン類の塗膜も使用できるが、耐久性等を考慮すると、各種ワックス、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の潤滑剤をバインダー樹脂で結着した表面潤滑層がより好ましい。
【0042】
又、必要に応じて第2層の外側に難燃層等を適宜設けてもよい。絶縁皮膜の最外層を構成する絶縁層、例えば前記第3層が、潤滑剤を含有し、表面潤滑層を兼ねることも可能である。
【発明の効果】
【0043】
本発明の絶縁電線は、導体に対する密着性に優れるとともに、プレス加工や引っ掻き加工により損傷され難いとの耐加工性にも優れた絶縁皮膜を有する。従って、例えばモーターのコイルに使用する場合、絶縁電線をコア上に強引に詰め込むような巻回がされた場合でも、絶縁皮膜の剥離や損傷が生じ難い。従って、より小型、軽量で性能の良いモーターの製造を可能とし、近年の要請にも対応可能な絶縁電線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき、実施例により説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(合成例1)
〈ポリアミドイミドワニスの合成〉
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA108.6gと、TODI29.9gと、MDI113.1gとを投入した。TODIの全ジイソシアネート中に占める割合は20モル%であった。
【0046】
つぎに、前記フラスコ中に、N−メチル−2−ピロリドン637gを入れ、攪拌器で攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、さらに、3時間かけて140℃まで昇温した後、140℃で1時間加熱した。そして、1時間経過した段階で加熱を止め、放冷して、濃度25%のポリアミドイミドワニス(ポリアミドイミド系塗料)を得た。このポリアミドイミドワニスを、以下PAI1とする。
【0047】
(合成例2)
原料として、TMA108.6gとMDI141.5gを使用したこと以外は合成例1と同様にして、ポリアミドイミドワニスを得た。このポリアミドイミドワニスを、以下PAI2とする。
【0048】
日立化成社製ポリアミドイミドワニス(HI400A−25)をPAI4として用いた。又、デュポン社製ポリイミドワニス(パイヤーML)をPIとして用いた。
【0049】
(測定例)
上記、各ワニスを、直径1.0mmの銅線表面に常法により塗布、焼付けして、厚さ35μmの絶縁皮膜を形成して絶縁電線を得、得られた絶縁電線について後述の条件で鞘抜け引張試験を行い、被膜伸び(破断時の伸び)を測定した。その結果を以下に示す。
PAI1:34% PAI2:62% PAI4:60%
PI :120%
【実施例】
【0050】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
〈絶縁電線の作製〉
直径1.0mmの銅線表面に、表1に示すポリアミドイミドワニスを常法によって塗布、焼付けして、表1に示す膜厚の下層(第1層)を形成した。その上に、表1に示すポリアミドイミドワニスを常法によって塗布、焼付けして、表1に示す膜厚の中層(第2層)を形成した。さらに場合により、表1に示すポリアミドイミドワニスを常法によって塗布、焼付けして、表1に示す膜厚の上層(第3層)を形成し、絶縁電線を得た。
【0051】
前記各実施例、比較例で得られた絶縁電線について、以下の各試験を行った。
【0052】
(鞘抜け引張試験)
絶縁電線から銅線をエッチングにより除去し、残った絶縁皮膜(長さ6cm)を、引張試験機を用いて、チャック間隔2cm、引張速度10mm/分の条件で引張試験を行い、下記の項目につき測定した。
被膜伸び:破断時の伸び。
抗張力 :破断時の(引っ張り加重)/(被膜断面積)。
弾性率 :引張試験時のS−Sカーブ(引っ張り加重vs.伸びのグラフにおける曲線)の最大傾き。
破断エネルギー:S−Sカーブが描く図形の面積。
【0053】
(密着力測定)
絶縁電線の絶縁皮膜に、その長手方向に沿って長さ2cmの2本の切込みを0.5mm間隔で入れ、2本の切込みの間の絶縁皮膜の一端をピンセットでめくって、熱機械試験機(TMA:サーマルメカニカルアナラシス、セイコー電子社製)を用いて絶縁皮膜と電線の180°剥離試験を行い、皮膜の密着力(g/mm)を測定した。
【0054】
(密着可撓性試験)
絶縁電線を両端から急速に引っ張って急伸させた後、直径1mmの丸棒をあてがって、電線を丸棒の外形に対応させて30回巻き付けた際の、絶縁皮膜の割れや剥離を観察し、絶縁皮膜に割れが生じた個数を記録した。引張量は0%、10%、20%、30%とし、それぞれの値を測定した。
【0055】
(一方向摩耗試験)
絶縁電線に直交させてピアノ線を重ね合わせて、絶縁電線とピアノ線との間に6.5Vの電圧を印加する。これらにかかる荷重を増加させながらピアノ線を移動させて行き、磨耗による短絡電流が5mA以上となった時の荷重を測定した。
【0056】
(摩擦係数試験)
絶縁電線を2本、平行かつ水平に張り渡し、その上に、2本のピアノ線を直交させて載せ、さらにその上に重さ1kgの荷重を載せた。そして荷重を、絶縁電線の張り渡し方向と平行に引っ張った際に、荷重が動き出した引張荷重を測定し、この値から摩擦係数を算出した。
【0057】
測定の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1及び比較例2で得られた電線は、上層、中層、下層の膜厚はいずれも同じであるが、中層が密着性に優れたPAI1である実施例1は、高い密着力を有し、また破断伸びも60%以上であり、密着性および可撓性に優れている。これに対し、比較例2の電線は、中層が密着性に優れたPAI1でないため、皮膜全体の密着力が小さい。また、比較例4及び実施例2〜5の電線は、いずれも上層の膜厚は2μm、中層と下層の合計の膜厚は26μmであるが、中層が密着性に優れたPAI1であるとともに下層が伸びに優れたPAI4である実施例2〜5は、中層を有せず下層にPAI1のみを用いた比較例4よりも高い破断伸びを示すとともに、比較例4と同等かそれ以上の密着性を示している。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体を被覆する絶縁皮膜よりなる絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、前記導体を被覆する第1層及び該第1層を被覆する第2層の少なくとも2層の絶縁層を有し、
第1層が、破断伸びが60%以上の樹脂膜よりなり、
第2層が、下記一般式(1):
【化1】


〔式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。m、nは、同一又は異なって、1〜4の数を示す。〕で表される芳香族ジイソシアネート化合物をその10〜80モル%含有するジイソシアネート成分と、酸成分との縮合物であるポリアミドイミドの樹脂膜よりなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記破断伸びが60%以上の樹脂膜が、ポリアミドイミド系の塗料を導体の表面に塗布し、焼き付けて形成されるものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
第1層の厚みが、5〜25μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される芳香族ジイソシアネート化合物が、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート及び2,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネートから選ばれる1以上の化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記酸成分が、トリメリット酸無水物であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項6】
第2層の層厚が、5〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項7】
第2層上に、さらに、破断伸びが60%以上の樹脂膜からなる第3層を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2008−103270(P2008−103270A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286687(P2006−286687)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【Fターム(参考)】