説明

緑内障の診断および緑内障の処置ならびに抗緑内障薬の同定における血清アミロイドA遺伝子の使用

本発明は、緑内障を処置するための組成物および方法、緑内障を診断するための方法、および緑内障の処置において有用であり得る因子を同定するための方法を提供する。より具体的には、本発明は、血清アミロイドAの発現を調節する因子の使用を記載する。閾値局面において、緑内障を処置するための方法が提供される。この方法は、緑内障を処置する必要がある患者に対して、治療上有効な量の組成物を投与する工程、を含み、この組成物は、血清アミロイドAタンパク質(SAA)をコードする遺伝子と相互作用する因子を含み、この相互作用は、SAAの発現を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1、発明の分野)
本発明は、緑内障の診断および処置の分野に関連する。さらに具体的には、本発明は、緑内障を診断および処置するための方法および組成物、ならびに緑内障の処置のために潜在的に有用な因子を同定するための方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
(2、関連分野の説明)
視神経乳頭に対する損傷、眼の組織の変性および/または眼内圧の上昇によって生じるかまたはさらに悪化する多くの眼の状態が存在する。例えば、「緑内障」は、消耗性眼疾患のグループであり、米国およびその他の先進国で、回復不能な失明の主要な原因である。原発開放隅角緑内障(「POAG」)は、緑内障の最も一般的な様式である。この疾患は、小柱網の変性によって特徴づけられており、房水の正常な能力の障害をもたらし、眼を、虹彩と角膜との間の空間(たとえば、「隅角」)の閉鎖がない状態にする(非特許文献1)。この疾患におけるこのような障害の特徴は、眼内圧(「IOP」)の上昇であり、適切にかつ時を得たやり方で処置しなければ、進行性の視力低下および失明という結果になる。この疾患は、40歳を超えた全成人のうちの0.4%と3.3%との間が罹患すると推定されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。その上、その疾患の有病率は、年齢とともに高くなり、75歳以上のうちの6%を超えるに到る(非特許文献4)。
【0003】
緑内障は、眼内の3つの別個の組織に罹患する。POAGに関連する上昇したIOPは、小柱網(TM)(角膜と虹彩との間の隅角に位置する組織)の形態学的変化および生化学的な変化が原因である。栄養房水のほとんどは、TMを通して眼の前区から排出する。TM細胞の進行性喪失および緑内障の眼のTMにおける細胞外残屑の増加は、水性排出物に対する抵抗を増加させ、そのことによりIOPが上昇する。上昇したIOPならびに虚血のような他の要因も、視神経乳頭(ONH)における変性変化を引き起こし、ONHの進行性「杯形成」および網膜神経節細胞の喪失および軸索の喪失を誘導する。TM、ONH、および網膜神経節細胞に対する緑内障性損傷の原因となる詳細な分子機構は、知られていない。
【0004】
20年前、高眼圧症、虚血、および視神経乳頭の力学的な歪みの相互作用が、緑内障における視野喪失の進行を引き起こす主要な要因として大いに議論されていた。その後、興奮毒性、一酸化窒素、重要な神経栄養因子の欠如、異常なグリアまたはニューロンの相互作用および遺伝的性質を含む他の要因が、変性疾患過程に関係付けられている。分子遺伝学が、最終的に細胞死の機構を明らかにし、緑内障の多様な形態の区別を提供し得る限りは、分子遺伝学に関する考察について多少論議する価値がある。過去10年内に、15個を超える異なる緑内障性遺伝子がマッピングされ、7個の緑内障性遺伝子が同定された。これは、原発開放隅角緑内障についてのマッピングされた遺伝子6個(GLC1A〜GLC1F)および同定された遺伝子2個(MYOCおよびOPTN)、先天性緑内障についてのマッピングされた遺伝子2個(GLC3A〜GLC3B)および同定された遺伝子1個(CYP1B1)、色素分散緑内障または色素性緑内障についてのマッピングされた遺伝子2個、および緑内障の発生型または症候型について多数の遺伝子(FOXC1,PITX2,LMX1B,PAX6)を含む。
【0005】
このように、各々の緑内障形態は、特有の病理を有し得、それゆえにこの疾患の取り扱いに対して異なる治療の取り組みが、必要となり得る。例えば、視神経乳頭の細胞外基質を分解する酵素の発現をもたらす薬は、興奮毒性によって生じるRGC死を防ぐ可能性がない。緑内障において、RGC死はアポトーシス(プログラム細胞死)と呼ばれる過程により生じる。死を引き起こし得る種々のタイプの損傷は、少数の共通した経路に集中することによって、死を引き起こし得ると推測されている。共通した経路の下流をターゲットにすることは、薬物の有用性を広げ得、かつこの疾患の異なる形態の取り扱いにおいて有用性を有し得る確率を増加させ得る、戦略である。しかしながら、多様な代謝経路をもたらす薬物は、望ましくない副作用を産み出す可能性がより大きい。緑内障の具体的な形態を同定するための遺伝子に基づいた診断キットが出現すると、選択的神経保護剤は、測定される応答についての変化の程度を減少させる目的で試され得る。
【0006】
緑内障は、現在、この疾患の特定の徴候(特有の視神経乳頭変化および特有の視野喪失)に基づいて診断される。しかしながら、緑内障の人々のうちの半分より多くは、この失明病に罹患していることに気がつかず、診断を受けるまでには、網膜神経節細胞のうちの約30〜約50%を回復不能なように喪失している。したがって、緑内障の早期診断のための改良した方法が必要とされる。
【0007】
現在の緑内障の治療は、緑内障の発生および進行についての主要な危険因子であるIOPを下げることに関する。しかしながら、現在のIOPを降下させる治療はいずれも、実際にはIOPを上昇させる原因となる緑内障疾患の過程中に介入せず、その前区に対する進行性損傷は続く。これは、ほとんどの患者が従来の緑内障治療に対して「耐性」となるひとつの可能性のある理由である。したがって、必要とされるものは、この疾患の過程を(抑制することによって、または逆転させることによって)変えるための治療法である。
【非特許文献1】Vaughan,Dら、1992年
【非特許文献2】Leske,M.Cら、1986年
【非特許文献3】Bengtsson,B.1989年
【非特許文献4】Strong,N.P.1992年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、緑内障を診断するための方法および緑内障を処置するための組成物を提供することによって、先行技術のこれらの障害およびその他の障害を克服する。一つの局面において、本発明は、緑内障を処置するための方法を提供する。この方法は、緑内障を処置する必要がある患者に対して、血清アミロイドAタンパク質(SAA)をコードする遺伝子と相互作用する因子を含むか、またはこの遺伝子のプロモーター配列と相互作用する因子を含む、治療上有効な量の組成物を投与することによる。その因子と、SAAをコードする遺伝子またはそのプロモーター配列との間の相互作用は、SAAの発現を調節し、その患者の緑内障状態が処置されるようにする。好ましい実施形態において、その因子は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、低分子または核酸である。
【0009】
他の局面において、本発明は、血清アミロイドAタンパク質(SAA)とそのレセプターとの相互作用を阻害する因子を含む治療上有効な量の組成物を、緑内障を処置する必要がある患者に投与することによって緑内障を処置するための方法を提供する。好ましくは、その因子は、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターα(PPARα)アゴニスト、タキキニンペプチドおよびその非ペプチドアナログまたはα−リポ酸である。最も好ましくは、その因子は、フェノフィブラート、Wy−14643、(4−クロロ−6−(2,3−キシリジノ−2−ピリミジンチオール)−酢酸)、シプロフィブラート、2−ブロモヘキサデカン酸、ベザフィブラート、シグリチゾン、バフィロマイシン、コンカナマイシンまたはシュードラリン酸Bである。
【0010】
本発明は、緑内障を処置するための薬学的組成物をさらに提供する。この薬学的組成物は、治療上有効な量の血清アミロイドAタンパク質(SAA)アンタゴニストおよび薬学的キャリアを含む。その組成物中に含まれるアンタゴニストは、上記で同定される化合物のいずれかであり得る。
【0011】
なお別の実施形態において、本発明は、緑内障を診断するための方法を提供する。この方法は、
a)患者から生物学的サンプルを取得する工程;ならびに
b)上記サンプルを、血清アミロイドAタンパク質(SAA)をコードする遺伝子もしくはそのプロモーター領域またはその遺伝子産物の異常なレベル、異常な生物活性、もしくは変異について分析する工程(SAAをコードする上記遺伝子は、配列番号1または配列番号3において示される配列を含み、そのプロモーター領域は、配列番号12または配列番号13において示される配列を含み、SAAは、配列番号2または配列番号4において示される配列を含む);
による。上記SAA遺伝子または遺伝子産物の異常に高いレベル、異常に高い生物活性、または変異は、緑内障の診断を示す。
【0012】
好ましい局面において、上記生物学的サンプルは、眼組織、涙、房水、脳脊髄液、鼻スワブもしくは頬スワブ、または血清である。最も好ましくは、上記生物学的サンプルは、小柱網細胞を含む。
【0013】
あるいは、本発明は、患者において緑内障を診断するための方法を提供する。この方法は、
a)患者から細胞を収集する工程;
b)上記細胞から核酸を単離する工程;
c)上記サンプルを、配列番号1、配列番号3、配列番号12、または配列番号13のうちの少なくとも1つの対立遺伝子の5’側および3’側に特異的にハイブリダイズする1つ以上のプライマーと、その対立遺伝子のハイブリダイゼーションおよび増幅が生じるような条件下で接触させる工程;ならびに
d)その増幅産物を検出する工程;
による。上記サンプル中の配列番号1、配列番号3、配列番号12または配列番号13の異常なレベルまたは変異は、緑内障の診断を示す。
【0014】
本発明はまた、緑内障を処置するために潜在的に有用である因子を同定するための方法も提供する。この方法は、
a)SAA(配列番号1または配列番号2)を発現する細胞、またはSAAプロモーター/レポーター遺伝子をそのレポーター遺伝子が発現されるように含む細胞を取得する工程;
b)候補物質を、上記細胞と混合する工程;および
c)上記細胞におけるSAAタンパク質(配列番号2または配列番号4)レベルまたは遺伝子発現レベルを決定する工程;
による。上記候補物質の存在下でのSAAタンパク質産生の増加もしくは減少または遺伝子発現の増加もしくは減少は、緑内障の処置のために潜在的に有用な因子を示す。
【0015】
別の局面において、本発明は、緑内障を処置するために潜在的に有用である因子を同定するための方法を提供する。この方法は、
a)
(i)SAAタンパク質、またはSAAタンパク質を発現する細胞、もしくはSAAプロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子を発現する細胞:
(ii)SAAタンパク質結合パートナー;および
(iii)試験化合物;
を含む、反応混合物を形成する工程;ならびに
b)上記試験化合物の存在下および上記試験化合物の非存在下における、上記SAAタンパク質と結合パートナーとの相互作用、またはレポーター遺伝子産物のレベルを検出する工程;
による。上記試験化合物の存在下における上記SAAタンパク質とその結合パートナーとの相互作用が、上記試験化合物の非存在下における相互作用と比較して増加または減少することは、緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を示す。
【0016】
他の局面において、本発明は、緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を同定するための方法を提供する。この方法は、
a)
(i)SAA組換えタンパク質(配列番号2もしくは配列番号4)を含む細胞、または配列番号1もしくは配列番号3を含む発現ベクターを含む細胞;および
(ii)試験化合物
を含む、反応混合物を形成する工程;ならびに
b)上記試験化合物の存在下および上記試験化合物の非存在下における下流シグナル伝達(IL−8)に対する効果を検出する工程;
による。上記試験化合物の存在下での下流シグナル伝達が、上記試験化合物の非存在下での相互作用と比較して増加または減少することは、緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を示す。
【0017】
好ましい局面において、上記SAAタンパク質を含む細胞、または上記発現ベクターを含む細胞は、HL−60細胞である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
緑内障は、特定の臨床的な特徴を共有する視神経障害の異成分からなるグループである。緑内障における視力の低下は、神経網膜内の網膜神経節細胞の選択的な死に原因がある。緑内障は、視野の特徴的変化、神経線維層の欠陥およびONHの進行性の胚形成によって臨床的に診断される。緑内障が発生するための主要な危険因子のひとつは、高眼圧症(眼内圧の上昇、IOP)の存在である。IOPはまた、正常眼圧緑内障(この患者は、しばしば正常なIOPとみなされる眼内圧を有する)の病因にも関与するようである。緑内障に関連する上昇したIOPは、小柱網(TM)内における房水流出物の抵抗が上昇することにより生じる。小柱網は、前眼房の虹彩と角膜との間の隅角に位置する小さな特別な組織である。TMに対する緑内障性変化には、TM細胞の喪失およびタンパク様のプラーク様物質を含む細胞外残屑の沈着および堆積が挙げられる。加えて、緑内障の視神経乳頭(ONH)で生じる変化も存在する。緑内障の眼において、ONHグリア細胞における形態学的変化および移動性の変化が存在する。上昇したIOPおよび/または一時的な虚血性傷害に応答して、ONH細胞外基質の組成における変化ならびにグリア細胞および網膜神経節細胞軸索形態における変化が、存在する。
【0019】
本発明者らは、血清アミロイドA(SAA)のmRNAおよびタンパク質の発現が、緑内障性TM組織および緑内障性TM細胞で有意にアップレギュレートされることを発見した。本発明者らは、リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR)によりAffymetrix遺伝子チップを用いて観察される差次的なmRNA発現を確認し、増加したSAAタンパク質レベルをSAA ELISAによって証明した。SAAがTMにおいて発現していることを示したのは、これが初めてである。
【0020】
ヒトSAAは、11番染色体の短腕上に位置する遺伝子によってコードされる、差次的に発現される多数の小さなアポリポ蛋白質から成る。4つのSAAアイソフォームが存在する。配列番号1によってコードされるSAA1(配列番号2)および配列番号3によってコードされるSAA2(配列番号4)は、C反応性タンパク質のような急性期反応物質として公知である。すなわち、これらは、炎症促進性サイトカインによって劇的にアップレギュレートされる。SAA1遺伝子およびSAA2遺伝子の5’UTRプロモーター領域もまた、提供される(それぞれ、配列番号12および配列番号13である)。SAA3(配列番号5)は偽遺伝子であり、SAA4(配列番号6)は、構成的SAA4(配列番号7)をコードする、低レベルで構成的に発現される遺伝子である。SAA2は、2つのアイソフォームを有し、それは配列番号8によってコードされるSAA2α(配列番号9)、および配列番号10によってコードされるSAA2β(配列番号11)である。この2つのアイソフォームは、たったひとつのアミノ酸だけが異なる。SAA1タンパク質およびSAA2タンパク質は、アミノ酸レベル(それぞれ、配列番号2および配列番号4である)で93.5%同一であり、これらの遺伝子は、核酸レベル(それぞれ、配列番号1および配列番号3である)では96.7%同一である。
【0021】
SAAは、急性期反応物質であり、その血中におけるレベルは、様々な損傷(外傷、感染、炎症、および新形成を含む)に対する体の応答の一部として、約1000倍上昇する。急性期反応物質として、肝臓が、主要な発現部位であるとみなされていた。しかし、肝外のSAA発現が、最初にマウスの組織において記載され、その後ヒトアテローム性動脈硬化症性病変の細胞において記載された(O’Haraら、2000)。その後、SAA mRNAが、多数の組織学的に正常なヒト組織において広範囲にわたって発現していることがわかった。限局的な発現が様々な組織で注目された。その組織としては、乳房、胃、小腸および大腸、前立腺、肺、膵臓、腎臓、扁桃腺、甲状腺、下垂体、胎盤、皮膚表皮および脳ニューロンが挙げられる。発現はまた、リンパ球、プラスマ細胞および内皮細胞でも観察された。SAA mRNAの発現と共に局在化するSAAタンパク質の発現もまた、組織学的に正常なヒト肝外組織において報告された(Liangら、1997;Urieli−Shovalら、1998)。
【0022】
SAAアイソフォームは、哺乳動物の血漿における高密度リポタンパク質(HDL)の主要構成要素になり、かつHDL粒子からのA−I(ApoA−I)およびリン脂質を置換する、アポリポタンパク質である。(Miidaら、1999)。SAAは、コレステロールに結合し、一過性のコレステロール結合タンパク質として働き得る。さらに、SAA1またはSAA2の過剰発現は、アミロイド沈着物内の線状の筋原線維の形成をもたらし、このことは、病因をもたらし得る(UhlarおよびWhitehead、1999;Liangら、1997)。SAAは、感染、炎症および組織修復刺激において重要な役割を果たす。SAA濃度は、炎症、感染、壊死の後に1000倍まで上昇し得、回復後に急速に低下し得る。したがって、血清SAA濃度は、炎症性疾患の活性をモニターするための有用なマーカーであるとみなされている。SAAの肝性生合成は、炎症促進性サイトカインによってアップレギュレートされ、急性期反応をもたらす。慢性的に上昇したSAA濃度は、続発性アミロイドーシスの病因にとって不可欠である。この続発性アミロイドーシスは、主としてタンパク分解により切断されたSAAから構成される不溶性プラークが主要な器官において沈着することによって特徴づけられる、進行性で時には致死性である疾患である。これと同じ過程はまた、アテローム性動脈硬化症ももたらし得る。恒常性を維持するために、正および負のSAA制御機構の両方に関する必要条件が存在する。これらの機構は、SAA発現の急速な誘発が宿主保護機能を実現するのを可能にするが、これらの機構はまた、アミロイドーシスを防ぐためにSAA発現を基準レベルまで急速に戻すことも確立しなければならない。これらの機構は、プロモーター活性の調節を含む。この調節は、例えば、誘発因子である核因子κB(NF−κB)およびそのインヒビターであるIκB、インターロイキン−6(NF−IL6)ファミリーのための核因子の転写因子のアップレギュレーション、ならびに転写リプレッサー(例えばyinおよびyang1(YY1))を必要とする。mRNAの安定性および翻訳効率における変化を伴う転写後の調節は、SAAタンパク質合成のさらなるアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションが達成されることを可能にする。AP応答の後期段階において、SAA発現は、サイトカインアンタゴニスト(例えばインターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1Ra))の生成増加および可溶性サイトカインレセプターの生成増加を介して効果的にダウンレギュレートされ、その結果として、炎症促進性サイトカインによって生じるシグナル伝達が少なくなる(JensenおよびWhitehead、1998)。
【0023】
原発性アミロイドーシスが緑内障に関連し得ることを示唆する様々な報告が存在する。例えば、アミロイドが、原発性全身性アミロイドーシス患者の様々な眼の組織(ガラス体、網膜、脈絡膜、虹彩、水晶体およびTMが挙げられる)に沈着したことがわかった(Schwartzら、1982)。Ermilovら(1993)は、25歳から90歳までの白内障、緑内障、および/または糖尿病に罹患した313人の患者の478個の眼において、その眼のうち66(14%)個は、アミロイド偽剥脱性アミロイド(PEA)を含有していたことを報告した。Krasnovら(1996)は、開放隅角緑内障に罹患した115人の患者の44.4%がアミロイドの細胞外沈着を示したことを報告した。アミロイドーシスが、上記症例の82%の強膜においておよび上記症例の70%の虹彩において示された。アルツハイマー病を含む、多数の臨床状態は、疾患に関連した異常なアミロイド組織沈着物を示す。しかしながら、アミロイドは、分子的に不均質であり、かつアミロイドは、異なるアミロイド遺伝子によってコードされている。以前の報告では、アミロイドが緑内障に関連し得ることに関して、はっきりしない。本発明者らは、初めて、SAA遺伝子発現が緑内障性TM組織において著しく上昇することを示した。増加したSAAは、上昇したIOPの発生および視神経に対する損傷に関与し得、緑内障患者における視野喪失をもたらし得る。本発明は、緑内障を診断するために、増加したSAA発現の検出を使用する方法を提供する。本発明はさらに、潜在的に抗緑内障性である因子を同定するために、SAAの発現またはSAA機能を変える因子についてスクリーニングするための方法を提供する。別の局面において、本発明は、SAA作用および/または他のタンパク質とのSAAの相互作用と拮抗する因子を使用する、緑内障の処置のための方法および組成物を提供する。
【0024】
(緑内障診断)
緑内障に罹患している特定の被験体は増加したSAA発現レベルを有するという本発明者らの所見に基づいて、本発明は、緑内障を診断するための種々の方法を提供する。本発明の特定の方法は、不適切に高いSAAタンパク質レベルをもたらす核酸配列内の変異を検出し得る。これらの診断法は、ヒトSAAの公知の核酸配列またはそのコードされるアミノ酸配列に基づいて開発され得る(Miller、2001を参照)。他の方法が、ヒトSAAのゲノム配列またはSAA発現を調節する遺伝子配列に基づいて開発され得る。さらに他の方法が、mRNAレベルにおけるSAA遺伝子発現のレベル変化に基づいて開発され得る。
【0025】
代替的な実施形態において、本発明の方法は、SAAシグナル伝達タンパク質の活性またはSAAシグナル伝達タンパク質のレベルまたはSAAシグナル伝達タンパク質をコードする遺伝子を検出し得る。例えば、不適切に低いSAAシグナル伝達活性を検出する方法が開発され得る。この方法としては、SAAのシグナル伝達成分(IL−8のSAA誘発が挙げられる)の不適切な機能をもたらす変異が挙げられる。さらに、核酸ベースでない技術が、これらのSAAシグナル伝達タンパク質のいずれかの量における変化または比活性における変化を検出するために用いられ得る。
【0026】
種々の手段が、遺伝子および遺伝子産物の異常なレベルまたは異常な活性を検出するために現在当業者にとって利用可能である。これらの方法は、当業者により周知されており、当業者にとって慣用的になっている。例えば、多くの方法が、ヒト多型座の特定の対立遺伝子を検出するために利用可能である。特定の多型対立遺伝子を検出するための好ましい方法は、部分的には、多型の分子的な性質に依存する。多型座の種々の対立遺伝子型は、そのDNAの一塩基対が異なり得る。そのような一塩基多型(すなわち、SNP)は、遺伝変異の主要な寄与因子である。一塩基多型は、全公知多型の約80%を構成し、ヒトゲノムにおける一塩基多型の密度は、平均1000塩基対につき一つであると推定されている。種々の方法が、個体において特定の一塩基多型対立遺伝子の存在を検出するために利用可能である。当該分野における進歩は、精密で、容易で、低価格である、大規模なSNP遺伝子型決定を提供している。例えば、米国特許第4,656,127号;仏国特許第2,650,840号;PCT出願番号WO91/02087;PCT出願番号WO92/15712;Komherら、1989;Sokolov、1990;Syvanenら、1990;Kuppuswamyら、1991;Prezantら、1992;Ugozzoliら、1992;Nyrenら、1993;Roestら、1993;およびvan der Luijtら、1994を参照のこと。
【0027】
あらゆる細胞型または組織が、本明細書に記載される診断法において使用するための核酸サンプルを得るために利用され得る。好ましい実施形態において、上記DNAサンプルは、体液(例えば、公知の技術(例えば、静脈穿刺)により得られる血液)、または口腔内細胞から得られる。最も好ましくは、本発明の方法において使用するためのサンプルは、血液または口腔内細胞から得られる。あるいは、核酸の検査が、乾性サンプル(例えば、髪または皮膚)に対して行われ得る。
【0028】
診断の手順はまた、生検または切除から得られた患者の組織切片(固定切片および/または凍結切片)に対して直接インサイチュにて実施され得核酸精製は全く必要ではないようになる。核酸試薬が、そのようなインサイチュ手順のためのプローブおよび/またはプライマーとして用いられ得る(例えば、Nuovo、1992を参照)。
【0029】
一つの核酸配列の検出に主に焦点をあてた方法に加えて、プロフィールもまた、そのような検出計画において評価され得る。フィンガープリントプロフィールは、例えば、ディファレンシャルディスプレイ手順、ノーザン分析および/またはRT−PCRを利用することによって、作成され得る。
【0030】
好ましい検出方法は、SAAシグナル伝達成分の少なくとも1つの対立遺伝子の一領域に重複するプローブを用いる、対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションである。その対立遺伝子は、緑内障を示し、かつ変異または多型領域の周囲に約5個、約10個、約20個、約25個または約30個連続するヌクレオチドを有する。本発明の好ましい実施形態において、緑内障に関与する他の対立遺伝子改変体に特異的にハイブリダイズ可能である様々なプローブが、固相支持体(例えば、「チップ」(それは、約250,000個までのオリゴヌクレオチドを保持し得る)に結合させる。オリゴヌクレオチドは、種々のプロセス(リソグラフィーを含む)によって、固相支持体に結合され得る。オリゴヌクレオチドを含むこれらのチップ(「DNAプローブアレイ」とも称する)を用いる変異検出分析は、例えば、Croninら(1996)において記載されている。1つの実施形態において、チップは、特定の遺伝子の少なくとも1つの多型領域の対立遺伝子改変体すべてを含む。それから、その固相支持体は、試験核酸試料と接触され、特定のプローブへのハイブリダイゼーションが、検出される。したがって、1つ以上の遺伝子の多数の対立遺伝子改変体の正体が、単純なハイブリダイゼーション実験において同定され得る。
【0031】
これらの技術はさらに、分析の前に上記核酸を増幅する工程を含み得る。増幅技術は、当業者にとって周知であり、その増幅技術としては、クローニング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、特異的対立遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(ASA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、自己保持配列複製(3SR)(Guatelliら、1990)、転写増幅システム(Kwohら、1989)およびQβレプリカーゼ(Lizardiら、1988)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0032】
増幅産物は、種々の方法でアッセイされ得る。その方法としては、サイズ分析、制限処理およびその後のサイズ分析、反応産物において特定のタグ化オリゴヌクレオチドプライマーを検出すること、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション、対立遺伝子特異的5’エキソヌクレアーゼ検出、配列決定、ハイブリダイゼーション、SSCPなどが挙げられる。
【0033】
PCRベースの検出手段としては、同時に複数のマーカーを多重増幅することが挙げられ得る。例えば、サイズが重複せずかつ同時に分析され得るPCR産物を生成するために、PCRプライマーを選択することは、当該分野において周知である。あるいは、差次的に標識されそれゆえに各々が差次的に検出され得るプライマーを用いて、種々のマーカーを増幅することが、可能である。もちろん、ハイブリダイゼーションベースの検出手段は、サンプルにおける複数のPCR産物の差次的検出を可能にする。複数のマーカーの多重分析を可能にするための他の技術は、当業者にとって公知である。
【0034】
単なる例示的な実施形態において、上記方法は、
(i)患者から細胞のサンプルを収集する工程;
(ii)そのサンプルの細胞から核酸(例えば、ゲノム、mRNA、またはその両方)を単離する工程;
(iii)その核酸サンプルを、緑内障を示すSAAの少なくとも1つの対立遺伝子の5’側および3’側に特異的にハイブリダイズする1つ以上のプライマーと、その対立遺伝子のハイブリダイゼーションおよび増幅が生じるような条件下で接触させる工程;ならびに
(iv)その増幅産物を検出する工程;
を包含する。これらの検出計画は、核酸分子の検出のために、そのような分子が非常に少数で存在する場合に特に有用である。
【0035】
本アッセイの好ましい実施形態において、緑内障を示すSAAの異常なレベルまたは異常な活性が、制限酵素切断パターンにおける変化によって同定される。例えば、サンプルDNAおよびコントロールDNAが、単離され、(必要に応じて)増幅され、一種以上の制限エンドヌクレアーゼで処理され、そしてフラグメント長サイズが、ゲル電気泳動によって決定される。
【0036】
なお別の実施形態において、当該分野において公知である種々の配列決定反応のいずれかが上記対立遺伝子を直接的に配列決定するために使用され得る。例示的な配列決定反応としては、MaximおよびGilbert(1977)によって開発された技術に基づく反応、またはSanger(1977)によって開発された技術に基づく反応が挙げられる。種々の自動配列決定手順のいずれかが、本アッセイを行う場合に利用され得ることもまた、企図される。その手順としては、質量分析法による配列決定(例えば、WO94/16101;Cohenら、1996;Griffinら、1993を参照のこと)が挙げられる。特定の実施形態に関して、上記核酸塩基のうちの1つだけ、2つだけ、または3つだけの存在が、その配列決定反応において決定される必要があることが、当業者にとって明白である。例えば、Aトラックなどが、例えば、一つの核酸のみが検出される場合に、実行され得る。
【0037】
さらなる実施形態において、切断因子(例えば、ヌクレアーゼ、ヒドロキシルアミン、または四酸化オスミウム、およびピペリジンと共に存在するヌクレアーゼ、ピペリジンと共に存在するヒドロキシルアミン、またはピペリジンと共に存在する四酸化オスミウム)からの保護が、RNA/RNAヘテロ二本鎖またはRNA/DNAヘテロ二本鎖またはDNA/DNAヘテロ二本鎖におけるミスマッチ塩基を検出するために用いられ得る(Myersら、1985b;Cottonら、1988;Saleebaら、1992)。好ましい実施形態において、コントロールDNAまたはコントロールRNAが、検出のために標識され得る。
【0038】
なお別の実施形態において、ミスマッチ切断反応は、二本鎖DNA中のミスマッチ塩基対を認識する1つ以上のタンパク質(いわゆる「DNAミスマッチ修復」酵素)を使用する。例えば、大腸菌のmutY酵素は、G/AミスマッチでAを切断し、HeLa細胞由来のチミジンDNAグリコシラーゼは、G/TミスマッチでTを切断する(Hsuら、1994;米国特許第5,459,039号)。
【0039】
他の実施形態において、電気泳動移動度における変化が、緑内障を示すSAAの異常なレベルまたは異常な活性を同定するために使用される。例えば、一本鎖高次構造多型(SSCP)が、変異体核酸と野生型核酸との間の電気泳動移動度における差異を検出するために用いられ得る(Oritaら、1989;Cotton、1993;Hayashi、1992;Keenら、1991)。
【0040】
なお別の実施形態において、一定勾配の変性剤を含むポリアクリルアミドゲルにおける対立遺伝子の移動は、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)を用いてアッセイされる(Myersら、1985a)。さらなる実施形態において、温度勾配が、コントロールDNAの移動度およびサンプルDNAの移動度における差異を同定するために、変性剤勾配の代わりに用いられる(RosenbaumおよびReissner、1987)。
【0041】
対立遺伝子を検出するための他の技術の例としては、選択的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、選択的増幅、または選択的プライマー伸長が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、(例えば、対立遺伝子改変体における)既知の変異またはヌクレオチドの差が中心に位置するオリゴヌクレオチドプライマーが、調製され得、その後、完全一致が見出される場合に限りハイブリダイゼーションを許容する状況下で、標的DNAに対してハイブリダイズされ得る(Saikiら、1986;Saikiら、1989)。そのような対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション技術は、PCRによって増幅した標的DNAにオリゴヌクレオチドがハイブリダイズされる場合には、1回の反応につき1つの変異もしくは多型領域を試験するために、またはそれらのオリゴヌクレオチドがハイブリダイズ膜に結合され標識標的DNAとハイブリダイズされる場合には多数の異なる変異または多型領域を試験するために、使用され得る。
【0042】
あるいは、選択的PCR増幅に依存する対立遺伝子特異的増幅技術が、本発明と組み合わせて使用され得る。特異的増幅のためのプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドは、その分子の中心に目的とする変異もしくは多型領域を保有し得る(その結果、増幅がディファレンシャルハイブリダイゼーションに依存する)(Gibbsら、1989)か、または適切な条件下でミスマッチがポリメラーゼ伸長を防止もしくは減少し得る場合には、一方のプライマーの最も3’末端に、目的とする変異もしくは多型領域を保有し得る(Prossner,1993)。さらに、切断に基づく検出を行うため、その変異の領域中に新しい制限酵素認識部位を導入することが、望まれ得る(Gaspariniら、1992)。特定の実施形態において、増幅はまた、増幅用Taqリガーゼ(Barany 1991)を用いて実施され得ることが、予期される。そのような場合において、ライゲーションは、その5’配列の3’末端に完全一致が存在する場合に限り生じ、そのことにより、増幅の有無を探すことによって特定部位における既知の変異の存在を検出することが可能になる。
【0043】
別の実施形態において、対立遺伝子改変体の同定は、例えば、米国特許第4,998,617号およびLandegranら(1988)に記載されているような、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)を用いて行われる。Nickersonらは、PCRの性質とOLAの性質と合わせる核酸検出アッセイを記載している(Nickersonら、1990)。この方法において、PCRが、標的DNAの指数関数的な増幅を達成するために用いられる。その後、その標的DNAは、OLAを用いて検出される。
【0044】
このOLA法に基づいた様々な技術が、開発されており、その技術は、緑内障を示すSAAの異常なレベルまたは異常な活性を検出するために用いられ得る。例えば、米国特許第5,593,826号およびTobeら(1996)は、頻繁に用いられるそのような技術を記載する。
【0045】
1つの実施形態において、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターα(PPARα)アゴニストであるフェノフィブラートが、薬学的に受容可能な組成物中で処方され得、SAA発現を調節することにより緑内障を処置するために使用され得る。研究によって、フェノフィブラートおよびWY14643での処置が、血漿SAA濃度を減らすことが、示されている(Yamazakiら、2002)。他のPPARαアゴニスト、例えばシプロフィブラート、2−ブロモヘキサデカン酸、ベザフィブラート、シプロフィブラートおよびシグリチゾンもまた、緑内障の処置のために有用であり得ると、考えられる。
【0046】
本発明者らはさらに、アミロイド誘発性細胞死を防ぐ因子は、眼の前部ブドウ膜および後方(特に、網膜および視神経乳頭)におけるTMおよび他の眼の細胞を保護するために有用であり得ると、想定する。
【0047】
本発明の化合物が、眼への送達(例えば、局所的送達、眼房内送達、または移植片を介する送達)のための種々の型の眼科用処方物中に組み込まれ得る。その化合物は、好ましくは、眼への送達のための局所用眼科用処方物中に組み込まれ得る。その化合物は、眼科学的に受容可能な保存剤、眼科学的に受容可能な界面活性剤、眼科学的に受容可能な粘性増強剤、眼科学的に受容可能な浸透増強剤、眼科学的に受容可能な緩衝剤、眼科学的に受容可能な塩化ナトリウム、および水性の滅菌眼科用懸濁物もしくは滅菌眼科用水溶液を形成するための眼科学的に受容可能な水と、合わされ得る。眼科用溶液処方物が、生理的に受容可能な等張性水性緩衝剤中に本化合物を溶解することによって、調製され得る。さらに、上記眼科用溶液は、上記化合物を溶解するのを助けるための眼科学的に受容可能な界面活性剤を含み得る。さらに、上記眼科用溶液には、結膜嚢における上記処方物の保持を改善するために、粘性を増加させるための因子(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)を含み得る。ゲル化剤(ジェランガムおよびキサンタンガム)が挙げられるがそれらに限定されない)もまた、用いられ得る。滅菌性眼科用軟膏処方物を調製するために、活性成分が、適切な賦形剤(例えば、鉱油、液体ラノリン、または白色ワセリン)中で保存剤と合わされる。滅菌性眼科用ゲル処方物が、同様の眼科用調製物についての公開された処方に従って、上記化合物を、例えば、カルボポル−974(carbopol−974)などの組み合わせから調製された親水性塩基中において懸濁することによって調製され得る。保存剤および張度調整剤が、組み込まれ得る。
【0048】
上記化合物は、好ましくは、、pH約4〜pH約8である局所用眼科用懸濁物または局所用眼科用溶液として処方される。それぞれ個体についての特定の投薬レジメンの確立は、臨床家の裁量に任せられる。上記化合物は、通常は、これらの処方物中に、0.01重量%〜5重量%の量で含まれるが、好ましくは、0.05重量%〜2重量%の量で、最も好ましくは、0.1重量%〜1.0重量%の量で含まれる。その投薬形態は、溶液、懸濁物、マイクロエマルジョンであり得る。したがって、局所提示のために、1滴〜2滴のこれらの処方物が、熟練した臨床家の裁量により、眼の表面に1日1回〜4回送達される。
【0049】
上記化合物はまた、緑内障を処置するための他の因子(例えば、βブロッカー、プロスタグランジン、炭酸脱水酵素インヒビター、αアゴニスト、縮瞳薬、および神経保護薬であるが、これらに限定されない)と組合せで用いられ得る。
【0050】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、本発明の実施において充分に機能することが本発明者らによって発見され、従って、本発明の実施のための好ましい様式を構成すると考えられ得る、技術を示すことが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮すれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示される具体的な実施形態において多くの変更がなされ得、依然として同様の結果もしくは類似する結果を獲得し得ることを、認識すべきである。
【実施例】
【0051】
(実施例1.緑内障性TM細胞および緑内障性TM組織内でのSAA1およびSAA2の発現の増加)
9人の緑内障ドナー由来のTM組織のRNAプールに対して正常な13人のドナー由来のTM組織のRNAプールを使って、Affymetric GeneChips セット(HG−U133)を用いて遺伝子発現を測定した。アミロイドA2の発現は、正常なTM組織内と比べて緑内障性TM組織内では4倍増加することが、認められた。この結果 を確認するために、12個の緑内障性TM組織および11個の正常なTM組織からの個々のRNAを用いて、QPCRを行った。12個の緑内障性TM組織のうち5つの組織(42%)が、SAA1またはSAA2の発現において有意な増加を示した。上記12個の緑内障性TMにおけるSAA発現の平均は、11個の正常なTM組織におけるSAA発現の平均の5.4倍であった(図1)。さらに、SAAの差次的な発現について同様の傾向が、緑内障性TM細胞または緑内障性視神経乳頭組織において観察された。それぞれを正常なTM細胞と比較した場合、緑内障性TM細胞においては平均5.4倍の増加(11個の正常なTM細胞株に対する14個の緑内障性TM細胞株、図2)が存在し、緑内障性視神経乳頭組織においては平均118倍の増加(12個の正常な組織に対する14個の緑内障性組織、図2B)が存在した。6人の正常なドナー由来のTM組織内および6人の緑内障ドナー由来のTM組織内におけるSAAのELISAは、SAAタンパク質はまた、正常なTM組織内と比較して緑内障性TM組織内で有意に増加したことを示した。正常な組織と比較すると、緑内障性組織においてSAA濃度に3倍の差異が存在した(それぞれ、11.3μg/mgタンパク質および3.8μg/mgタンパク質である)。これらのデータを図3に示す。
【0052】
SAAの発現増加と緑内障の関連性を、ヒトの房水においてさらに証明した。SAAタンパク質を、16人の正常個体および20人の緑内障個体に由来する房水においてELISAによって測定した。SAAは、正常サンプルにおいてよりも緑内障の房水においてほぼ3倍高いことがわかった(それぞれ、3.7ng/mlに対して10.0ng/mlである)。その結果を図4に示す。
【0053】
(実施例2.局所適用のためのフェノフィブラートの処方)
眼内においてSAAを減少させIOPを低下させるための、局所適用のための1%フェノフィブラート懸濁物。
【0054】
【表1】

(実施例3.SAA mRNAの発現またはSAAタンパク質の発現を変える化合物のスクリーニングおよび同定のための手順)
SAAの発現およびその機能を変える因子をスクリーニングするために用い得るひとつの方法は、SAAのタンパク質レベルにおける変化を決定することである。動物またはヒトの血清、血漿、緩衝化溶液、細胞培養培地、および組織抽出物または細胞抽出物内における血清アミロイドA(SAA)の定量的な決定のためのインビトロアッセイ用のキットが、市販されている。そのアッセイは、固相サンドイッチ酵素免疫測定法(ELISA)である。SAAに対して特異的なモノクローナル抗体を、マイクロタイタープレートのウェル上にコーティングさせた。サンプル(既知のSAA含量の標準物または未知のSAA含量を含む)を、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼに結合体化させた二次抗体と共に、これらのウェルに添加する。上記抗体は、どちらの抗体も、もう一方の抗体の結合エピトープを妨げないように構築される。SAAを、一工程の手順において、上記の固定させた抗体によって上記プレート上で捕捉させ、かつ上記の結合体化された二次抗体で標識する。一定のインキュベーション期間の後、そのプレートを、全ての非結合物質を取り除くために洗浄し、基質(PNPPまたはペルオキシド)を添加する。呈色した産物の強度は、上記の未知のサンプル内に存在するSAAの濃度に比例する。
【0055】
(実施例4.SAA mRNAの発現またはSAAタンパク質の発現を変える化合物をスクリーニングするための培養細胞株内でのSAAの誘導)
ヒト肝細胞癌株(HepG2)は、サイトカインによるSAAの誘導に関する研究のために広く用いられており、プラスミドを用いるトランスフェクションおよびレポーターアッセイのためにも広く用いられている。SAA mRNAの合成およびSAAタンパク質の合成は、PCL/PRF/5、HepBおよびHepG2を含む様々なヒト肝細胞癌株において多様なサイトカインによって誘導し得る(UhlarおよびWhitehead、1999)。ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)によるSAAの合成は、糖質コルチコイドホルモンによって誘導され、炎症促進性サイトカイン(IL−1、IL−6およびTNF−α)によっては誘導されない。炎症促進性サイトカインは、肝細胞によるSAA生産を刺激する(Kumonら、2002b;Kumonら、2001;ThornおよびWhitehead、2002)。SAAは、ケモタキセル培養チャンバーを用いてアッセイした場合、用量依存的様式にてHASMCの走化性遊走を刺激した(Kumonら、2002a)。SAA mRNAの発現およびSAAタンパク質の合成は、慢関節リウマチ滑膜細胞一次培養物中において実証された(O’Haraら、2000)。
【0056】
(実施例5.培養細胞におけるSAAの機能分析)
SAAのサイトカイン様特性は、好中球によるIL−8分泌の誘導を含む(FurlanetoおよびCampa、2002;Heら、2003)。SAAに応答してIL−8の分泌が増加するHL−60細胞(前骨髄細胞株)を、同定した。このHL−60細胞を、SAA機能インビトロアッセイのために用い得る。HL−60細胞を、漸増濃度の組換えヒトSAAを用いて4時間処理し、IL−8を、培地中でELISAによって測定した。IL−8の分泌は、用量依存的様式にて増加した(図5)。HL−60細胞は、SAAの機能および発現レベルを変える因子を同定するための機能分析のための代理細胞株として用い得る。
【0057】
本明細書において開示および特許請求される組成物および/または方法の全ては、本開示を考慮すれば、過度の実験を伴わずに作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載されているが、本発明の概念、精神および範囲内から逸脱することなく、その組成物および/または方法に対して、ならびに本明細書に記載される方法の工程またはその工程の順序において、変形が適用され得ることは、当業者にとっては明白である。より具体的には、化学的かつ構造上関連のある特定の因子は、同様の結果を達成するために、本明細書に記載される因子の代用になり得ることが、明白である。当業者にとって明白なそのような置換および改変の全ては、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内にあると考えられる。
【0058】
(参考文献)
以下の参考文献は、本明細書に示される手順の詳細または他の詳細を補充する例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、本明細書において参考として明確に援用される。
(米国特許)
(書籍)
(他の刊行物)
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0061】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含まれる。本明細書に提示した特定の実施形態の詳細な説明と共にこれらの図面を参照することによって、本発明は、よりよく理解され得る。
【図1】11個の正常TM組織に対する12個の緑内障TM組織におけるSAA発現のQPCR分析。NTMおよびGTMは、それぞれ正常グループおよび緑内障グループにおける遺伝子の平均発現レベルを示す。
【図2A】TM細胞株におけるSAA発現のQPCR分析。NTMおよびGTMは、それぞれ正常グループおよび緑内障グループにおける遺伝子の平均発現レベルを示す。
【図2B】視神経乳頭組織におけるSAA発現のQPCR分析。NTMおよびGTMは、それぞれ正常グループおよび緑内障グループにおける遺伝子の平均発現レベルを示す。
【図3】正常なドナーおよび緑内障ドナー(n=6)に由来するTM組織内のSAAタンパク質。正常な組織と比較して、SAAの著しい増加(3倍)が、緑内障のTM組織内で観察された(p=0.031)。バーは、平均+/−標準誤差を示す。
【図4】正常個体および緑内障個体に由来するヒト房水におけるELISAによって決定したSAAタンパク質。値は、平均SAA(ng/房水ml)+/−標準誤差として表す(p=0.005)。
【図5】漸増濃度のrhSAAに応答したHL−60細胞によるIL−8分泌。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障を処置するための方法であって、該方法は、
緑内障を処置する必要がある患者に対して、治療上有効な量の組成物を投与する工程、
を含み、該組成物は、血清アミロイドAタンパク質(SAA)をコードする遺伝子と相互作用する因子を含み、該相互作用は、SAAの発現を調節する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記因子は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、低分子または核酸である、方法。
【請求項3】
緑内障を処置するための方法であって、該方法は、
緑内障を処置する必要がある患者に対して、治療上有効な量の組成物を投与する工程、
を包含し、該組成物は、血清アミロイドAタンパク質(SAA)とそのレセプターとの相互作用を阻害する因子を含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記因子は、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターα(PPARα)アゴニスト、タキキニンペプチドおよびその非ペプチドアナログまたはα−リポ酸である、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記因子は、フェノフィブラート、Wy−14643、(4−クロロ−6−(2,3−キシリジノ−2−ピリミジンチオール)−酢酸)、シプロフィブラート、2−ブロモヘキサデカン酸、ベザフィブラート、シグリチゾン、バフィロマイシン、コンカナマイシン、またはシュードラリン酸Bである、方法。
【請求項6】
治療上有効な量の血清アミロイドAタンパク質(SAA)アンタゴニストと、薬学的キャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項7】
緑内障を診断するための方法であって、該方法は、
c)患者から生物学的サンプルを取得する工程;ならびに
d)該サンプルを、血清アミロイドAタンパク質(SAA)をコードする遺伝子、そのプロモーター領域、または遺伝子産物の、異常なレベル、異常な生物活性、もしくは変異について分析する工程であって、該SAAをコードする遺伝子は、配列番号1または配列番号3において示される配列を含み、該プロモーター領域は、配列番号12または配列番号13において示される配列を含み、SAAは、配列番号2または配列番号4において示される配列を含む、工程;
を包含し、該SAA遺伝子もしくは該遺伝子産物の、異常に高いレベルまたは異常に高い生物活性または変異は、緑内障の診断を示す、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記生物学的サンプルは、眼組織、涙、房水、脳脊髄液、鼻スワブもしくは頬スワブ、または血清である、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記生物学的サンプルは、小柱網細胞を含む、方法。
【請求項10】
患者において緑内障を診断するための方法であって、該方法は、
e)患者から細胞を収集する工程;
f)該細胞から核酸を単離する工程;
g)該サンプルを、配列番号1、配列番号3、配列番号12、または配列番号13のうちの少なくとも1つの対立遺伝子の5’側および3’側に特異的にハイブリダイズする1つ以上のプライマーと、該対立遺伝子のハイブリダイゼーションおよび増幅が生じるような条件下で接触させる工程;ならびに
h)該増幅産物を検出する工程;
を包含し、該サンプル中の配列番号1または配列番号3の異常なレベルまたは変異は、緑内障の診断を示す、方法。
【請求項11】
緑内障を処置するために潜在的に有用である因子を同定するための方法であって、該方法は、
a)SAA(配列番号1または配列番号2)を発現する細胞、またはSAAプロモーター/レポーター遺伝子を該レポーター遺伝子が発現されるように含む細胞を取得する工程;
b)候補物質を、該細胞と混合する工程;および
c)該細胞におけるSAAタンパク質(配列番号2または配列番号4)レベルまたは遺伝子発現レベルを決定する工程;
を包含し、該候補物質の存在下でのSAAタンパク質産生の増加もしくは減少または遺伝子発現の増加もしくは減少は、緑内障の処置のために潜在的に有用な因子を示す、方法。
【請求項12】
緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を同定するための方法であって、該方法は、
a)
(i)SAA組換えタンパク質(配列番号2もしくは配列番号4)を含む細胞、または配列番号1もしくは配列番号3を含む発現ベクターを含む細胞;および
(ii)試験化合物
を含む、反応混合物を形成する工程;ならびに
b)該試験化合物の存在下および該試験化合物の非存在下における下流シグナル伝達(IL−8)に対する効果を検出する工程;
を包含し、該試験化合物の存在下での下流シグナル伝達が、該試験化合物の非存在下での相互作用と比較して増加または減少することは、緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を示す、方法。
【請求項13】
緑内障を処置するために潜在的に有用な因子を同定するための方法であって、該方法は、
c)
(iii)SAAタンパク質、またはSAAタンパク質を発現する細胞、もしくはSAAプロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子を発現する細胞;
(iv)SAAタンパク質結合パートナー;および
(v)試験化合物;
を含む、反応混合物を形成する工程;ならびに
d)該試験化合物の存在下および該試験化合物の非存在下における、該SAAタンパク質とその結合パートナーとの相互作用、またはレポーター遺伝子産物のレベルを検出する工程;
を包含し、該試験化合物の存在下における該SAAタンパク質とその結合パートナーとの相互作用が、該試験化合物の非存在下における相互作用と比較して増加または減少することは、緑内障を処置するための潜在的に有用な因子を示す、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−514783(P2007−514783A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545696(P2006−545696)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/040156
【国際公開番号】WO2005/060542
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】