説明

緑内障を予防するかまたは治療する方法

本発明は、一般的に、緑内障、そして具体的には、スタチンを用いて緑内障を予防するかまたは治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願第60/524,912号、2003年11月26日出願に優先権を主張し、該出願の全内容は本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、一般的に、緑内障、そして具体的には、スタチンを用いて緑内障を予防するかまたは治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
緑内障は、米国における失明の主要3原因の1つであり、そして世界中の失明の主要原因である。米国において、220万人を超える人々が緑内障を患い、そしてさらに数百万人がこの疾患の発生のリスクを持つ。緑内障は最高齢の個体に偏った影響を及ぼすため、集団が高齢化するに連れて、緑内障の個体数は増加し続けるであろう。
【0004】
緑内障は単に1つの疾患ではなく、むしろ、視神経のニューロン構成要素が後天性で進行性に変質する、最終的な共通経路を共有する、ある範囲の状態である。十分な数の個々の神経が破壊されると、ニューロンの死は視覚の喪失を生じる。
【0005】
緑内障発生および進行に関連する要因が同定されてきており、そして解明されつつある。眼内圧(IOP)の上昇が緑内障の主要原因である。眼内からの房水排出が損なわれるため、眼内圧が上昇する。現在の緑内障の治療は、産生される房水の量を減少させることによって、あるいは機械的手段または他の手段により目からの房水の流出を増進することによって、眼内圧を減少させることに集中している。現在入手可能な薬剤は、天然の排水経路の機能を、増進も、また回復もしない。
【0006】
緑内障の患者はまた、視神経およびニューロン組織への血流が減少することで、神経組織の損傷に対する抵抗性が減少し、そして視神経を取り囲み、そして支える結合組織の整合性が減少することに苦しむ可能性もある。現在の治療は、こうした要因のいずれにも取り組んでいない。1つの剤、メマンチンのみが、神経組織の損傷に対する相対的な抵抗性を増加させうる剤(すなわち神経保護剤)として、第3相臨床試験中である(Allergan)。
【0007】
いくつかの研究において、スタチンの使用は、年齢に関連する黄斑変性が発生するリスクの減少、並びに心臓血管疾患に関連するいくつかの医学的状態のリスクを減少させる潜在能力と関連付けられてきている(Hallら, BMJ 323:375−376(2001), McCartyら, MJA 175:340(2001), Shovmanら, Immunol. Res. 25:271−285(2002), Kaganskyら, QJM 94:457−463(2001))。直接の原因と推測される機構は、コレステロール産生を減少させ、そして血漿からのLDL−コレステロールの除去を増進する際の、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)レダクターゼ阻害剤の影響に集中している。過剰な総コレステロールまたはLDLコレステロールがこれらの状態に関連付けられる範囲内で、スタチンの使用は、これらの状態が発生するリスクを減少させるか、または少なくともこれらの状態の開始を遅延させるであろう。スタチンはまた、非ステロイド性イソプレノイド産生も阻害する(EdwardsおよびEricsson, Annu. Rev. Biochem. 68:157−185(1999), Comparatoら, Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis. 11:328−343(2001), TakemotoおよびLiao, Arterioscler. Throm. Vasc. Biol. 21:1712−1719(2001))。多くのスタチンはまた、rhoキナーゼの活性も阻害するが、こうした阻害は房水流出を増進することが示されてきている(Raoら, Invest. Ophthalmol. & Vis. Sci. 42:1029−1037(2001))。もちろん、これらの化合物に、いまだ発見されていない効果または間接的な効果があり、保護的関連を説明するのを、こうした効果が補助する可能性もある。
【0008】
本発明は、緑内障患者のための治療法の分野に、新規アプローチを提供する。スタチンを用いて緑内障を予防するかまたは治療する方法を提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明は、一般的に、緑内障に関する。より具体的には、本発明は、スタチンを用いて、緑内障を予防するか、または緑内障発生のリスクを減少させる方法に関する。本発明はまた、スタチンを用いて、緑内障を治療する方法にも関する。
【0010】
本発明の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、患者において、緑内障発生のリスクを減少させるためのスタチンの使用に関する。本発明は、緑内障を治療するか、または該疾患の進行を阻害する方法に、さらに関する。
【0012】
用語、スタチンは、酵素HMG−CoAレダクターゼによって触媒されるような、ヒドロキシメチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)のメバロン酸への変換を阻害する化合物を指す。当業者は、標準的アッセイを用いて、こうした阻害を達成可能な化合物を容易に同定可能である(例えば、Methods of Enzymology 71:455−509(1981)および該文献に引用される参考文献を参照されたい)。
【0013】
本発明で使用するのに適したスタチンの例には、例えば、USP 3,983,140、4,231,938、4,346,227、4,444,784、4,450,171、4,681,893、4,739,073、5,177,080、5,273,995、5,284,953、5,354,772、5,356,896、および5,856,336、並びに欧州特許出願第738,510 A2号および第363,934 Al号、並びにEP 491,226に記載される、天然発酵産物、メバスタチンおよびロバスタチン、並びに半合成スタチンおよび完全合成スタチンが含まれる。本発明で使用するのに適したHMG−CoAレダクターゼ阻害剤のさらなる例は、Yalpani, “Cholesterol Lowering Drugs”, Chemistry & Industry, pp.85−89(1996)に記載される。
【0014】
好ましくは、本発明の方法で用いるスタチンは、メバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ベロスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン(リバスタチン)、ダルバスタチン、フルインドスタチンもしくはアトルバスタチン、またはそのプロドラッグ、あるいはこうしたスタチンまたはプロドラッグの薬学的に許容しうる塩である。より好ましくは、スタチンは、ロバスタチン(メバコール(USP 4,231,938))、シンバスタチン(ゾコール(USP 4,444,784を参照されたい))、プラバスタチン(プラバコール(USP 4,346,227を参照されたい))、フルバスタチン(レスコール(USP 5,354,772))、アトルバスタチン(リピトール(USP 5,273,995))、セリバスタチン(USP 5,177,080)またはニバスタチン(NK−104(USP 5,284,953、5,356,896および5,856,336))である。
【0015】
適切なスタチンを産生する方法は、例えば、上に引用する特許/特許出願の1以上に記載される。
【0016】
本発明で使用するのに適したスタチンを、例えば上に引用する特許/特許出願に記載されるように、薬剤組成物中に配合することも可能である。スタチンは、好ましくは、経口投与に適した型で、例えば錠剤またはカプセルとして、配合される。当業者は過度の実験を伴わずに、最適投薬措置を確立することも可能である。緑内障治療/予防に用いられる投薬措置は、コレステロールを低下させるのに用いる措置と同じであることも可能である一方、当業者は最適措置を容易に確立可能である。
【0017】
本発明の方法において、併用療法もまた、使用可能である。すなわち、選択されるスタチンを、緑内障の治療に有用であることが知られる別の薬剤(単数または複数)と組み合わせて使用することも可能である。本発明において、スタチンと併用可能な剤の例には、β−アドレナリン遮断剤、炭酸脱水酵素阻害剤、縮瞳アゴニスト、交感神経刺激アゴニストおよびプロスタグランジン・アゴニストが含まれる。スタチンと併用するのに適した、現在入手可能な薬物の具体的な例には、ラタノプロスト(キサラタン)、ビマトプロスト(ルミガン)、トラボプロスト(トラバタン)、およびウノプロストン(レスキュラ)が含まれる。米国特許出願20030207925に記載されるような、選択的EP受容体アゴニストまたはそのプロドラッグは、本発明の方法において、スタチンと併用することも、またしないことも可能である。緑内障治療に現在用いられている薬物の大部分は、液滴として目に投与される。スタチンもまた、液滴として目に投与可能であるが、また経口でも投与可能であるという利点がある。したがって、併用療法を用いる場合、投薬型は同じであることも可能であるし、また異なることも可能である(例えば、スタチンが、経口投与に適した型で存在する一方、他の薬物が、目への液滴として存在することも可能である(あるいは、どちらも液滴として目に投与することも可能である))。化合物を本質的に同時に投与することも、また異なる時点で投与することも可能である。
【0018】
本開示から、本発明の方法が、ヒト療法戦略において、そしてまた、獣医学的設定において、適用を有することが認識されるであろう。
【0019】
緑内障において、流出系または視神経に潜在的に影響を及ぼしうる、多数の機構をよりよく理解すると、スタチンの使用を緑内障発生リスクの減少と関連させうる妥当な手段がある。理論に束縛されることは望ましくないが、スタチンは、アテローム性動脈硬化プロセスおよびそれに続く血管疾患を減少させることによって、視神経頭の血管系を直接保護するか、または目の血流を間接的に改善することも可能であることが注目される。小柱網は、血管内皮細胞と多くの特質を共有する内皮細胞を有するため、スタチンはまた、小柱内皮細胞機能を増進させて、保護効果を発揮する可能性もある。さらに、多くのスタチンはまた、rhoキナーゼの活性も阻害するが、こうした阻害は房水流出の増加を生じることが示されてきている。
【0020】
以下の限定されない実施例において、本発明の特定の側面をより詳細に記載することも可能である。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
実験の詳細
研究集団およびデータ供給源
退役軍人医療センター・バーミンガム(アラバマ州)部(BVAMC)は、134床の救急三次医療施設であり、そしてアラバマ州の退役軍人病院管理局三次医療紹介センターとして機能している。指定した期間に、バーミンガムBVAMCに少なくとも1度来院した患者(入院または外来)はすべて、研究に含まれる資格があった。緑内障の有病率は50歳未満では低いため、研究集団を50歳以上の患者に限定した。女性は、患者集団の非常に少ない比率(10.8%)しか占めず、意味がある解析が不可能であるため、やはり排除された。
【0022】
BVAMCは、各患者に関して、人口統計学的情報(年齢、性別、人種)を含有するデータファイル、並びに臨床情報および薬物情報を提供した。臨床ファイルは、入院および外来の来院、並びに診断日の間に、BVAMCで行われた各診断の説明を含んだ。すべての診断は、国際疾患分類、第9版、臨床修正版(ICD−9CM)を用いてコード化された。薬物ファイルは、患者の各来院中に処方された各薬物に関する情報を含んだ。このファイルはまた、処方日および処方が調合された日付も含んだ。臨床ファイルおよび薬物ファイルの両方に関して、提供された情報は、BVAMCでの各患者の病歴の経過に渡るすべての診断および薬物に関連し、そして指定した期間に生じたもののみではなかった。
【0023】
研究設計
研究集団内で、ネスティド症例対照研究を行った。ICD−9CMコード365.1(開放隅角緑内障)、365.8(緑内障の他の特定される型)および365.9(特定されない緑内障)を用いて、緑内障の症例を定義した。緑内障の特定されない型の使用は、不正確にコード化された開放隅角緑内障を反映する可能性があると考えられた。これらが、スタチン使用と関連しない、他の型の緑内障に真に相当する限り、こうして導入された偏向は、無効に近づくであろう。
【0024】
緑内障診断日に関する情報を入手し、そして以下にインデックス日と称する。この研究は、スタチン使用および緑内障の新規診断の間の関連に取り組むため、研究の観察期間前に緑内障と診断された患者(有病(prevalent)症例)を排除した。
【0025】
観察期間終了時までに、緑内障と診断されなかった患者を、対照として、研究集団から無作為に選択した。既定の症例に関して、対照の資格があるとみなすためには、対照は、マッチさせる症例のインデックス日またはそれ以前に、BVAMCに来院していなければならなかった(入院または外来)。各症例に関して、10人の対照を選択し、そして年齢に応じてマッチさせた(±1歳)。各対照を、マッチさせた症例と関連するインデックス日に割り当てた。
【0026】
調合されたスタチン(アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン)処方の存在に関して、処方ファイルにクエリーを行った。非スタチン脂質低下剤(例えばフィブラート、ニコチン酸)もまた、処方ファイルから抽出した。マッチした症例および対照の各セットのインデックス日より前に調合された処方のみを考慮した。最初のスタチン使用からの時間を、最初のスタチン処方およびインデックス日の間の時間として計算した。また、スタチン使用者を現在の使用者または過去の使用者としても分類し、前者はインデックス日前の6ヶ月以内にスタチン処方が調合された患者であり、そして後者は、最後の処方調合日がインデックス日の6ヶ月前より以前である患者であった。非スタチン脂質低下剤に関しても、類似の変数セットを生成した。
【0027】
臨床データファイルから、以下の状態の存在に関する情報を抽出した:虚血性心疾患(ICD−9CMコード410〜414)、脳血管疾患(ICD−9CMコード430〜438)、脂質代謝障害(ICD−9CMコード272)、高血圧(ICD−9CMコード401〜405)、動脈、細動脈および毛細血管の疾患(ICD−9CMコード440〜448)、並びに糖尿病(ICD−9CMコード250)。解析の目的のため、インデックス日の前に記録された診断のみを考慮した。
【0028】
統計解析
条件付きロジスティック回帰を用いて、スタチンいずれかの使用および緑内障発生リスクの間の関連に関して、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を計算した。また、非使用者に比較して現在のスタチン使用者および過去のスタチン使用者に関して、そして最初の処方からの時間に応じて、ORおよび95%CIを概算した。非スタチン脂質低下剤に関しても、類似の解析セットを行った。層別解析を行って、糖尿病、脂質代謝障害、高血圧、心臓血管疾患、脳血管疾患、および動脈疾患が、スタチン使用および緑内障の間の関連を変更したかどうかを決定した。非スタチン脂質低下剤を用いて、類似のセットの層別解析を行うには、患者の数が不十分であった。
【0029】
結果
表1は、緑内障症例および対照の間の人工統計学的特性および医学的特性を示す。意図的に、症例および対照両方の平均年齢を同等にした。対照に比較して、症例では、アフリカ系アメリカ人の数が2倍であった。緑内障の患者は、糖尿病、脂質代謝障害、および高血圧もまた有する可能性が高かった。
【0030】
表2は、緑内障症例および非緑内障対照間のスタチンおよび非スタチン薬物使用特性、並びに未調整ORおよび調整ORを明示する。症例はスタチン処方が調合されていた傾向がより強い(OR 1.23、95%CI 0.99〜1.51)一方、糖尿病、脂質代謝障害、高血圧、心臓血管疾患、脳血管疾患、および動脈疾患に関して調整すると、統計的に有意ではないが、保護的関連が観察された(OR 0.85、95%CI 0.66〜1.09)。この関連は、有意ではないが、過去のスタチン使用で観察された(OR 0.74、95%CI 0.53〜1.04)が、現在のスタチン使用では観察されなかった(OR 0.94、95%CI 0.70〜1.27)。スタチンをより長期に使用するに連れて、緑内障リスクが減少する有意な傾向があった(p=0.04)(図1)。実際、23ヶ月より長い期間のスタチン使用は、緑内障リスクの統計的に有意な減少と関連した(OR 0.60、95%CI 0.39〜0.92)。
【0031】
非スタチン脂質低下薬物の使用もまた、緑内障リスクの有意な減少と関連し(OR 0.59、95%CI 0.37〜0.97)、この関連はまた、現在の使用者および過去の使用者両方で見られるようでもあったが、どちらの関連も統計的に有意ではなかった。しかし、この関連は、使用<12ヶ月の患者に限定された(OR 0.38、95%CI 0.18〜0.79)。スタチンおよび非スタチン薬物の連合効果を考慮すると、最大のリスク減少は、両方の種類の薬物の使用と関連しており(OR 0.52)、これに非スタチン剤使用のみ(OR 0.60)およびスタチン使用のみ(OR 0.86)が続いた。しかし、これらの関連はいずれも、統計的に有意ではなかった。
【0032】
表3は、併存疾患(combordities)の存在にしたがって層別化した、スタチン使用および緑内障の間の関連に関する、ORおよび95%CIを示す。他の医学的特性に関して調整すると、脂質代謝障害を有する患者、心臓血管疾患を有する患者、および脳血管疾患を患わない患者の間で、スタチン使用および緑内障の間に有意な関連が観察された。
【0033】
結論
この解析の結果は、より長期のスタチン使用、特に2年以上の使用で、緑内障発生リスクが減少する、有意でそして意味がある傾向を立証する。総合的健康管理(managed care)企業、または保険会社のクレームファイルには、疾患データおよび薬剤データが両方保存されているが、こうしたファイルを用いて行うなど、より長い追跡研究期間でより大きいデータセットを評価すると、緑内障またはその予防の付加療法としてのスタチンの有用性をより確実に評価することが可能になるであろう。
【0034】
現在の研究結果に基づくだけでなく、こうした保護効果が起こりうる何らかのありうる潜在的な機構に基づいて、このような試みは明らかに価値がある。まず、多くのスタチンは、rhoキナーゼの活性を阻害し;こうした阻害は房水流出を増進し、それによっておそらくIOPを低下させることが示されてきている(Raoら, Invest. Ophthalmol. & Vis. Sci. 42:1029−1037(2001))。スタチン使用の、IOPレベル、緑内障の状態の調節、および治療強度に対する影響を調べることが興味深いであろう。第二に、スタチンが心臓血管疾患を減少させる能力は、直接または間接的に、視神経または目への血管供給を保護することも可能である。興味深いことに、スタチン使用は、統計的に有意ではないが、心臓血管疾患を有する患者の間のより低いリスクに比較して、脳血管疾患を有する患者の間の緑内障リスクの上昇と関連する。これは、直接の機構および間接的な機構が反対の効果を有するか、またはさらなる要因が働いていることを示す可能性もある。
【0035】
23ヶ月より長いスタチン使用で見られる効果の傾向および度合いが、将来の研究において、より大きい試料サイズで維持されるならば、保護効果は実質的であり、そしてOHTS研究において薬物の使用を通じてIOPを低下させる利点、および他の研究における他の治療の利点と同様の度合いである(Kassら, Arch. Ophthalmol. 120:701−713(2002), Collaborative Normal Tension Study Group Am. J. Ophthalmol. 126:487−497(1998))。これはまた、新規療法クラスの剤が、緑内障患者のケアおよび治療に有効でありうることも示す。
【0036】
目の構造に対するスタチンの副作用が、限定的に研究されてきている。スタチンのrhoキナーゼ阻害のため、動物モデルは、白内障発生のより高いリスクを示しうるが、ヒト研究では、スタチンを摂取した患者の間で、白内障リスクの上昇は示されてきていない(Schliengerら, Arch. Intern. Med. 161:2021−2026(2001), Latiesら, Am. J. Cardiology 67:447−453(1991))。長期に渡る使用が目に完全に安全であると結論付けるためには、明らかに、長年に渡る、より長期の追跡研究が必要であろう。さらに、スタチンの潜在的な全身副作用を注意深く考慮する必要がある。
【0037】
非スタチン剤の使用と何らかの保護的関連があるという興味深い発見はまた、対照に比較して、脂質障害を持つ症例の比率がより高いことでわかるように、脂質疾患が、概して、緑内障の存在と関連している可能性も提起する。現在まで、集団に基づく評価において、これがあてはまることを示唆する研究はなかった。にもかかわらず、コレステロール低下剤と保護的関連があり、そして対照に比較して緑内障患者で見られる脂質障害の比率がより高い点の両方で、本研究において関連が発見されたことから、こうした調査が正当であることが示唆される。したがって、脂質障害の存在および脂質を低下させる薬物の使用の間の関連の性質を明確にするため、さらなる研究もまた必要である。
【0038】
しかし、併存状態に関して調整した後であっても、スタチン治療を受けていない患者に比較して、スタチン治療を受けた脂質障害の患者の間で、ORが0.63で有意であるという、治療の独立の役割を支持する証拠が見出されている。
【0039】
脳血管疾患を持たない患者の間で、スタチン使用は、緑内障の発生に関して保護性であり(ORは0.76、CIは0.58〜0.99)、一方、脳血管疾患を有する患者は、スタチン使用および緑内障の間に陽性の関連を示した(ORは2.01、CIは0.99〜4.10)。この結果の解釈は困難である。これは、データまたは結果における偽の関連または異常性である可能性もある。あるいは、中枢神経系への血管供給のより一般的な状態を反映している可能性もある。脳血管疾患の病歴がない患者は、本研究の他の下位集団および集団全体と類似のスタチン関連を有する。スタチンを使用していない患者であっても、有意ではないが上昇した緑内障リスク(ORは1.65)を有することから、病歴がある患者では、スタチンの効果を無効にする、血管流動における強い困難が反映されている可能性もある。さらに、こうした状態を有する患者およびスタチン療法を施されていた患者は、そうでない患者より重症の脳血管疾患を有していた可能性もある。
【0040】
上記研究にはある制限がある。まず、研究集団は、高齢のVA集団であったため、完全に男性からなった。女性間の、スタチン使用および緑内障の間の関連に関して、さらなる研究が必要である。第二に、緑内障の診断は、標準化された規準を使用することなく、個々の医師によって行われており、他の研究および研究集団に比較して、有意な相違が導入された可能性もある。しかし、緑内障の診断が、スタチンの使用によって偏向されていることを予期する理由はない。第三に、診断は、ICD−9コードへのコード化を誤ることもある;しかし、やはり、このことから偏向が生じると推測する理由はない。第四に、臨床データは入手可能でなく、したがって、緑内障の重症度に関してはコメント不能である。第五に、スタチンの使用は、BVAMC薬剤科内で調合された処方に基づいて定義された。これによって、スタチン処方記録があるが、マッチした調合記録がない患者は、BVAMCシステム外で処方を調合することによって実際にスタチンを使用していた場合であっても、スタチン非使用者と分類されることが示唆される。しかし、こうした分類ミスは、無効に向かって偏向するだけであろう。さらに、90%を超えるスタチン処方がBVAMCで調合されたため、この分類ミスが有意な影響を生じた可能性は低い。最後に、我々の研究集団(症例および対照両方)の大部分に関しては、人種が未知であった。しかし、データが知られるものの間の人種分布は、既定の集団に基づく研究に関して予期されるであろうものと類似であり、そしてしたがって、解析に偽の結果を導入した可能性は低い。さらなる潜在的な混乱させる特性(例えば喫煙)に関する情報も同様に入手不能であった。
【0041】
重要な方法論的問題点は、「左側打ち切り(left−censoring)」の可能性であり、開放隅角緑内障または特定されない型の緑内障と診断された最初の来院に基づいて、症例同定を行うため、あらかじめ存在する緑内障を患っていた患者の多くが、研究の1または2年目に採用されていたであろうことである。したがって、緑内障の「新規診断」症例の多くは、BVAMCでは最初に見られ、そしてデータベースに記録され、そして登録時間間隔のために、選択アルゴリズムによって、「新規診断」と捉えられていたものの、実際には有病症例であると予測された。しかし、スタチンまたは他の抗脂質剤の使用に関して、有病症例が、偶発的な症例と異なると考える演繹的な理由はないため、この問題点は、本明細書に記載する発見を損なう可能性は低い。
【0042】
(実施例2)
小柱網(TM)および毛様筋細胞は、平滑筋様の特性を所持し、この特性が、房水流出能の制御に関与していると仮定されてきている。以下の研究の目的は、Rho経路、細胞形状、収縮特性、TMおよび毛様筋細胞における細胞骨格完全性、並びにTMを通じた房水流出に影響を及ぼすことが知られる、コレステロール低下性スタチン薬剤の効果を調べることであった。
【0043】
実験の詳細
ブタ初代小柱網(PTM)および毛様筋細胞(PCM)を培養し、そして25μMおよび50μMの濃度のロバスタチンまたはコンパクチンで処理した。アクチン・ストレスファイバー(ファロイジン染色)および接着斑形成(ビンキュリン)に対する影響を、免疫蛍光染色によって評価した。尿素/グリセロール・ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウェスタンブロット解析を利用して、ミオシン軽鎖(MLC)リン酸化に対するスタチンの影響を調べた。位相差顕微鏡を用いて、細胞形状の変化を記録した。定流量臓器培養灌流系を用いて、灌流したブタの目の前方部分において、流出能を測定した。
【0044】
結果
ロバスタチンおよびコンパクチンで処理したPTM細胞は、細胞形状の劇的な変化を示し、細胞は丸くなり、そして互いに分離された。これらの形態学的変化は、薬剤使用中止に際して、可逆性であることが見出された。薬剤投与の24時間以内に、アクチン脱重合および接着斑喪失の徴候があった。ロバスタチンを含有する細胞培地に、ゲラニルゲラニルピロリン酸を補充すると、細胞形状および細胞骨格構成の変化が完全に逆転した。ロバスタチンおよびコンパクチンはまた、細胞弛緩の指標である、MLCリン酸化の顕著な減少も誘導した。細胞形状、細胞骨格構成およびMLCリン酸化における類似の変化が、スタチンで処理したPCM細胞で観察された。進行中の研究において、ブタの目の前房を100μMロバスタチンで灌流すると、72時間後、対照の目の眼内圧の22%減少に比較して、眼内圧が48%低下した。
【0045】
結論
これらのデータは、スタチン(例えばロバスタチンおよびコンパクチン)が、TMおよび毛様筋細胞において、細胞形状、アクチン細胞骨格完全性、およびMLCリン酸化に対する影響を介して、細胞弛緩を誘導することを立証する。スタチンのこれらの影響は、Rho GTPアーゼなどの小さいGTP結合性タンパク質のイソプレニル化を伴うようである。さらに、これらのスタチンは、臓器培養灌流モデルにおいて、IOPを減少させる能力を示し、緑内障療法におけるその潜在的な使用が示された。
【0046】
上に引用する、すべての文献および他の情報供給源は、本明細書に完全に援用される。
【0047】
表1. 緑内障症例および非緑内障対照の間の人口統計学的特性および医学的特性
【0048】
【表1】

【0049】
表2. 緑内障症例および非緑内障対照の間のスタチンおよび非スタチン薬物使用特性、並びに関連するオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)
【0050】
【表2】

【0051】
糖尿病、脂質代謝障害、高血圧、心臓血管疾患、脳血管疾患、および動脈疾患に関して調整。
【0052】
表3. 医学的状態の存在にしたがって層別化した、スタチン使用および緑内障の間の関連に関する、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)
【0053】
【表3】

【0054】
適切な場合、糖尿病、脂質代謝障害、高血圧、心臓血管疾患、脳血管疾患、および動脈疾患に関して調整。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】より長期でスタチンを使用した際の、緑内障のリスク減少に向かう、有意な傾向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において、緑内障発生のリスクを減少させる方法であって、ヒドロキシメチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)レダクターゼが触媒する、HMG−CoAからメバロン酸への変換を阻害する化合物を、前記患者に投与する、ここで前記減少を達成するのに十分な量で前記化合物を投与する、前記方法。
【請求項2】
前記化合物がスタチンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スタチンが、メバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ベロスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、ダルバスタチン、フルインドスタチン、ニバスタチンおよびアトルバスタチン、並びにそのプロドラッグからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記スタチンが、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンおよびニバスタチンからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記化合物を経口投与する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記化合物を前記患者の目に直接投与する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
β−アドレナリン遮断剤、炭酸脱水酵素阻害剤、縮瞳アゴニスト、交感神経刺激アゴニストおよびプロスタグランジン・アゴニストからなる群より選択される剤を、前記患者に投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
選択的EP受容体アゴニストまたはそのプロドラッグを前記患者に投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
緑内障進行を治療するかまたは阻害する方法であって、HMG−CoAレダクターゼが触媒する、HMG−CoAからメバロン酸への変換を阻害する化合物を、緑内障進行を治療するかまたは阻害する必要がある患者に投与する、ここで前記治療または阻害を達成するのに十分な量で前記化合物を投与する、前記方法。
【請求項10】
前記化合物がスタチンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記スタチンが、メバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ベロスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、ダルバスタチン、フルインドスタチン、ニバスタチンおよびアトルバスタチン、並びにそのプロドラッグからなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記スタチンが、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンおよびニバスタチンからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記化合物を経口投与する、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記化合物を前記患者の目に直接投与する、請求項9記載の方法。
【請求項15】
β−アドレナリン遮断剤、炭酸脱水酵素阻害剤、縮瞳アゴニスト、交感神経刺激アゴニストおよびプロスタグランジン・アゴニストからなる群より選択される剤を、前記患者に投与することをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項16】
選択的EP受容体アゴニストまたはそのプロドラッグを前記患者に投与することをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項17】
HMG−CoAレダクターゼが触媒する、HMB−CoAからメバロン酸への変換を阻害する化合物、並びにβ−アドレナリン遮断剤、炭酸脱水酵素阻害剤、縮瞳アゴニスト、交感神経刺激アゴニストおよびプロスタグランジン・アゴニストからなる群より選択される剤を含む、組成物。
【請求項18】
目薬の容器を含む容器手段であって、該容器手段内に、HMB−CoAレダクターゼが触媒する、HMG−CoAからメバロン酸への変換を阻害する化合物の溶液または懸濁物が配置されている、前記容器手段。
【請求項19】
患者において、緑内障発生のリスクを減少させる化合物を同定する方法であって、HMB−CoAレダクターゼが触媒する、HMB−CoAからメバロン酸への変換を阻害する能力に関して、前記化合物をスクリーニングすることを含む、ここで前記阻害を達成する化合物が、前記リスクを減少させることも可能な化合物である、前記方法。
【請求項20】
患者において、緑内障進行を治療するかまたは阻害するのに使用可能な化合物を同定する方法であって、HMG−CoAレダクターゼが触媒する、HMG−CoAからメバロン酸への変換を阻害する能力に関して、前記化合物をスクリーニングすることを含む、ここで前記阻害を達成する化合物が、緑内障進行を治療するかまたは阻害するのに使用可能な化合物である、前記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−512347(P2007−512347A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541438(P2006−541438)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/039657
【国際公開番号】WO2005/053683
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(500092491)デューク・ユニバーシティー (12)
【Fターム(参考)】