説明

線材の曲げ加工装置及び加工方法

【課題】帯状の線材を幅方向に曲げる際に、線材の曲げ方向内側の厚み方向の膨らみの発生を抑えることができ、同時に複数の線材の曲げ加工を容易に行うことができる線材の曲げ加工装置及び曲げ加工方法を提供する。
【解決手段】積層線材Wの曲げ方向内側面に当接する曲面9を有する当接部材7と、積層線材Wに曲げ荷重を付与して積層線材Wを曲面9に沿って曲げる曲げ部材19と、積層線材Wの曲げ量の進行に追従して曲面9の曲率中心軸線x回りの曲げ部材19より内側の軌道cを移動することにより、当接部材7の曲面9と積層線材Wの曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態を維持させる圧接部材20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の線材をその幅方向に曲げる線材の曲げ加工装置及び曲げ加工方法に関し、詳しくは、厚み方向に積層された複数の線材を同一方向に同時に曲げる線材の曲げ加工装置及び曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、帯状の線材をその幅方向に曲げた場合には、線材の曲げ方向の内側に厚み方向の膨らみが発生してしまい、曲げ部分における幅方向の厚みが均一にならない。特に、複数の線材を厚み方向に積層させた状態で全ての線材に同一方向の曲げ加工を施した場合には、上記の膨らみにより各線材間に隙間が形成されるので、各線材同士が密着した積層状態を維持することができないといった不都合がある。
【0003】
従来、帯状の線材を幅方向に曲げる際に、曲げ方向の内側に発生する厚み方向の膨らみを抑えて曲げ加工を行う曲げ加工装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この曲げ加工装置は、線材の曲げ方向内側に当接部材を配し、線材の曲げ方向外側に曲げ部材を配して、当接部材を支点として曲げ部材を回動させることにより帯状の線材を幅方向に曲げるものである。更に、当接部材には線材の厚み方向の一側面に当接する規制面が設けられ、曲げ部材には線材の厚み方向の他側面に当接する規制面が設けられている。そして、線材の厚み方向の両側に夫々規制面が当接している状態で、線材に曲げ加工が施されることにより、曲げ部分における線材の厚み方向の変形を防止するようになっている。
【0005】
また、上記従来の装置では、線材の厚み方向の一側面に当接する規制面が当接部材側に設けられ、線材の厚み方向の他側面に当接する規制面が曲げ部材側に設けられている。そして、当接部材側の規制面を備える部材が線材の曲げ方向に直行する方向に移動可能に構成されており、当接部材と曲げ部材との間へ線材を供給する際に、当接部材側の規制面が線材から離反して線材の供給が円滑に行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3920311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の装置により、当接部材側の規制面と曲げ部材側の規制面とで線材をその厚み方向両側から拘束した状態で曲げ加工を行うと、曲げ部材の規制面が線材に圧接した状態であることにより、曲げ部材の移動が阻害されるおそれがある。このため、各規制面と線材との間にクリアランスを設ける必要があるが、このクリアランスによって線材の厚み方向への変形が許容されてしまい、線材における曲げ方向内側の膨らみを十分に抑制することができない。
【0008】
更に、上記従来の装置では、一回の挙動で単一の線材の曲げ加工しか行えない。このため、複数の線材に曲げ加工を行うときには工数が増加する不都合がある。
【0009】
上記の点に鑑み、本発明は、帯状の線材を幅方向に曲げる際に、線材の曲げ方向内側の厚み方向の膨らみの発生を抑えることができ、同時に複数の線材の曲げ加工を容易に行うことができる線材の曲げ加工装置及び曲げ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、帯状の線材をその幅方向に曲げる線材の曲げ加工装置であって、複数の前記線材が厚み方向に積層された積層線材の曲げ方向内側面に当接する曲面を有する当接部材と、前記当接部材から離間した位置で前記積層線材の曲げ方向外側面に当接し、前記曲面の曲率中心軸線回りに移動することにより、前記積層線材に曲げ荷重を付与して該積層線材を前記曲面に沿って曲げる曲げ部材と、前記積層線材の曲げ方向外側面に圧接して前記曲げ部材に連動し、前記当接部材に向かう押圧力を前記積層線材に付与しながら、前記積層線材の曲げ量の進行に追従して前記曲面の曲率中心軸線回りの前記曲げ部材より内側の軌道を移動することにより、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態を維持させる圧接部材とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の装置によれば、前記曲げ部材による積層線材の曲げ加工に際して、前記圧接部材が、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させる。この摩擦力は、前記曲面に接した積層線材の曲げ方向内側面の厚み方向への膨らみ変形に対抗する力となって積層線材の曲げ方向内側面に作用する。
【0012】
即ち、前記圧接部材は、当接部材に向かう押圧力を積層線材に付与する。このときの押圧力は、積層線材を構成する各線材の幅方向に作用するので、各線材の曲げ方向内側面が当接部材の曲面に強固に押し付けられた状態を形成する。そして、曲げ部材の移動に伴って積層線材が当接部材の曲面に沿って曲げられている最中にも、圧接部材が曲げ部材に連動して積層線材の曲げ量の進行に追従し、各線材の曲げ方向内側面が当接部材の曲面に強固に押し付けられた状態を維持して移動する。
【0013】
各線材は積層された状態であっても、当接部材の曲面に接する個々の曲げ部分において独立して厚み方向に膨らむように変形しようとする。このとき、前記押圧力によって各線材の曲げ方向内側面が当接部材の曲面に強固に押し付けられているので、各線材が厚み方向に膨らむように変形しようとしても、当接部材の曲面との摩擦により、その変形が阻止される。更に、積層線材の互いに隣り合う線材同士においては前記膨らみ方向は逆方向になるので、膨らもうとする力同士で打ち消し合い、これによっても、各線材の厚み方向への膨らみが規制される。
【0014】
このように、曲げ部材によって積層線材の曲げ量が進行しているとき、圧接部材によって当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態が維持されるので、積層線材の曲げ部における厚み方向の膨らみを確実に抑えることができ、しかも、一回の挙動で積層線材を構成する各線材に曲げ加工を施すことができる。
【0015】
そして更に、本発明の装置によれば、圧接部材により付与される押圧力の方向は、積層線材を構成する各線材の幅方向であるので、圧接部材を曲げ方向に荷重を付与する曲げ部材に連動させる構成を簡単に得ることができるという利点もある。
【0016】
また、本発明の装置においては、前記当接部材を、前記曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間の摩擦力が大となる材料により形成することで、上記膨らみを確実に防止することができる。しかも、前記摩擦力を十分に発生させながら、前記圧接部材による押圧力を比較的小さくすることができ、圧接部材の移動が円滑に行われると共に前記積層線材の負担も軽減することができる。なお、摩擦力が大となる材料としては、適宜選択することができるが、例えば、硬質の合成樹脂や鉱物等を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の装置においては、前記当接部材の前記曲面に粗面加工を施しておくことにより、該曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間の摩擦力を大とすることができ、上記膨らみを確実に防止することができる。更に、十分な前記摩擦力を発生させて、前記圧接部材による押圧力も比較的小さくすることができるので、圧接部材の移動が円滑に行われると共に前記積層線材の負担も軽減することができる。また、曲面に粗面加工を施せばよいので、当接部材が金属、合成樹脂、鉱物等の何れの材料であっても、前記曲面の摩擦力を大とすることができる。なお、前記曲面への粗面加工としては、周知の方法を適宜採用することができるが、例えば、砥粒が比較的大きな石砥による研磨や、ショットブラスト等による加工を挙げることができる。
【0018】
また、本発明の装置において、前記曲げ部材は、前記積層線材の曲げ方向外側面に当接する当接面と、該積層線材の積層方向両側面に当接して前記積層線材の積層方向への移動を規制する一対の規制壁とを備えることが好ましい。これによれば、一対の規制壁による規制により、前記積層線材を構成する各線材の積層状態を確実に維持して、積層線材への曲げ加工を確実に精度良く行うことができる。
【0019】
また、本発明は、帯状の線材をその幅方向に曲げる線材の曲げ加工方法であって、複数の前記線材が厚み方向に積層された積層線材の曲げ方向内側面に、当接部材に形成された曲げ方向に沿った曲面を当接させると共に、積層線材の曲げ方向外側面に各線材の幅方向に押圧力を付与する圧接部材を圧接させる圧接工程と、該圧接工程の後に、前記当接部材から離間した位置で前記積層線材の曲げ方向外側に曲げ部材を当接して前記曲面の曲率中心軸線回りに移動させることにより、前記積層線材を前記曲面に沿って曲げる曲げ部材移動工程と、該曲げ部材移動工程により前記積層線材の曲げ量が進行するとき、前記曲げ部材の移動に連動して前記当接部材に向かって前記積層線材の各線材の幅方向に押圧力を付与しながら圧接部材を移動させることにより、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態を維持させる圧接部材移動工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の方法によって積層線材の曲げ加工を行うときには、先ず、前記圧接工程によって、当接部材の曲面に曲げ方向内側面が当接された積層線材の曲げ方向外側面に圧接部材を当接し、積層線材の各線材の幅方向に押圧力を付与する。これにより、積層線材は各線材の幅方向の両側から挟持された状態になる。
【0021】
次いで、前記曲げ部材移動工程によって、当接部材から離間した位置で積層線材の曲げ方向外側に当接した曲げ部材を移動させ、積層線材に曲げ荷重を付与することにより積層線材を前記曲面に沿って曲げる。
【0022】
前記曲げ部材移動工程においては、曲げ部材の移動に伴い積層線材の曲げ量が前記曲面に沿って次第に増加する。このとき、前記圧接部材移動工程によって、前記圧接部材を移動させる。圧接部材は、前記圧接工程によって積層線材に押圧力を付与しており、この状態を維持して移動する。これによって、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態が維持される。
【0023】
この摩擦力は、前述した通り、前記曲面に接した積層線材の曲げ方向内側面の厚み方向への膨らみ変形に対抗する力となって積層線材の曲げ方向内側面に作用する。そして、この摩擦力によって、各線材の曲げ方向の内側が厚み方向に膨らむ変形を阻止することができる。
【0024】
このように、前記曲げ部材移動工程を行うときに前記圧接部材移動工程が行われるので、曲げ部材によって積層線材の曲げ量が進行しているとき、圧接部材によって当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態が維持される。従って、積層線材の曲げ部における厚み方向の膨らみを確実に抑えて前記曲げ部材移動工程を行うことができ、しかも、一回の挙動で積層線材を構成する各線材に曲げ加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態の曲げ加工装置を示す説明的側面図。
【図2】本発明の実施形態の曲げ加工装置の曲げ加工動作完了時を示す説明的側面図。
【図3】図1の曲げ加工装置の要部の作動を示す説明図。
【図4】曲げローラを示す説明図。
【図5】積層線材を示す説明図。
【図6】本実施形態の曲げ加工装置の要部の作動を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態の曲げ加工装置1は、後述するモータ部品である電機子M2のインシュレータM1(図5参照)から水平方向に延出する複数の線材(積層線材W)を、その厚み方向に積層した状態を維持して幅方向(積層方向に交差する方向)に曲げるものであり、インシュレータM1の少なくとも一部を載置するワーク台座部2と、インシュレータM1から延出する積層線材WをインシュレータM1の近傍で曲げる曲げ機構部3とを備えている。ワーク台座部2と曲げ機構部3とは機台4上に設けられている。
【0027】
ワーク台座部2には、インシュレータM1を位置決めする位置決めピン5が設けられていると共に、ブロック支持部材6を介して、硬質の合成樹脂により形成された当接ブロック7(当接部材)が支持されている。
【0028】
当接ブロック7は、図3に示すように、水平方向に延びる第1平坦面8と、第1平坦面8に連続して下方向に湾曲する成形曲面9(曲面)と、成形曲面9に連続して下方に延びる第2平坦面10とを備えている。
【0029】
曲げ機構部3は、図1及び図2に示すように、フレーム11と、可動部材12とを備えている。フレーム11は、機台4に固設されたベース部13に昇降自在に支持されている。ベース部13には、鉛直方向に延びる長穴状の上下案内スリット14が形成されている。上下案内スリット14は、先端がフレーム11に螺着されて水平方向に延びるボルト15を上下方向に案内し、これによって、フレーム11を昇降可能としている。そして、このボルト15を締め付けることにより、ボルト15の頭部がベース部13に圧接してフレーム11を所望の高さに固定することができるようになっている。
【0030】
また、フレーム11は、図1及び図2に示すように、湾曲する長穴状の円弧案内スリット16を備えている。円弧案内スリット16は、図3に示すように、当接ブロック7に形成された成形曲面9の曲率中心軸xを中心点とする円弧形状に形成されている。
【0031】
前記可動部材12は、図1乃至図3に示すように、フレーム11に移動自在に支持されたローラ支持部17と、該ローラ支持部17に連設されてフレーム11の外側に向かって延びる操作レバー18とを備えている。ローラ支持部17には、図3に示すように、曲げローラ19(曲げ部材)と、圧接ローラ20(圧接部材)とが何れも回転自在に設けられている。
【0032】
更に、ローラ支持部17には、前記成形曲面9の曲率中心軸xと曲げローラ19の回転中心軸とを結ぶ線の延長線上に第1のピン21が設けられており、前記成形曲面9の曲率中心軸xと圧接ローラ20の回転中心軸とを結ぶ線の延長線上に第2のピン22が設けられている。
【0033】
また、図1及び図2に示すように、第2のピン22は、収縮方向に付勢力を有する引きバネ23を介してフレーム11に接続されている。引きバネ23は、その付勢力により、圧接ローラ20が当接ブロック7の第1平坦面8の直上に対向するように、第2のピン22を介してローラ支持部17の位置を保持させる。なお、引きバネ23の付勢力は、操作レバー18の操作を阻害しない強さに設定されている。
【0034】
第1のピン21と第2のピン22とは、共に円弧案内スリット16に摺動自在に挿通されており、円弧案内スリット16が第1のピン21と第2のピン22とを案内することにより、可動部材12が円弧状に移動する。即ち、図3に示すように、第1のピン21と第2のピン22とは、円弧案内スリット16により第1の円弧軌道aに沿って移動し、これに伴って、曲げローラ19は第2の円弧軌道bに沿って移動し、更に、圧接ローラ20は第3の円弧軌道cに沿って移動する。従って、図1に示すように直立状態の操作レバー18を、図2に示すように水平方向に倒す操作を行うことにより、曲げローラ19と圧接ローラ20(圧接部材)とが前記成形曲面9に沿って移動し、その際に、後述の積層線材Wが成形曲面9に沿って曲げられる。
【0035】
また、曲げローラ19は、図4に示すように、積層線材Wの曲げ方向外側面に当接する当接面24と、該積層線材Wの積層方向両側面に当接して前記積層線材の積層方向への移動を規制する一対の規制壁25とを備えている。
【0036】
ここで、本実施形態において曲げ加工を施す積層線材Wについて説明する。積層線材Wは、図5に示すように、インシュレータM1から水平方向に延出されている。インシュレータM1は、図示しないモータの電機子M2の外周に装着されており、電機子M2を構成する複数のコイルM3から引き出されたエナメル銅線s(線材)を巻回保持している。各エナメル銅線sは、インシュレータM1の外周の一部で積層状態にまとめられて引き出された状態とされている。このようにインシュレータM1の外周から延出する複数のエナメル銅線sにより、積層線材Wが構成されている。個々のエナメル銅線sは、帯状の線材であり、その断面形状が長方形に形成されている。積層線材Wは、各エナメル銅線sの幅面(断面形状の長辺側)同士を密着させて厚み方向に積層されている。
【0037】
本実施形態の曲げ加工装置1は、複数のエナメル銅線sを積層線材Wとして、この積層線材Wを、各エナメル銅線sの幅方向に曲げることにより、複数のエナメル銅線sへの曲げ加工を一挙動で行うものである。
【0038】
曲げ加工装置1による積層線材Wの曲げ加工は次のようにして行われる。図1を参照して、先ず、フレーム11に螺着されているボルト15を緩めてフレーム11を上昇させることにより、圧接ローラ20を当接ブロック7から離間させ、この位置でボルト15を締め付けてフレーム11を固定する。
【0039】
次いで、ワーク台座部2にインシュレータM1をセットし位置決めピン5により位置決めして、インシュレータM1から水平方向に延出されている積層線材Wの下側面(曲げ方向内側面)を当接ブロック7の第1平坦面8に当接させる。
【0040】
続いて、フレーム11に螺着されているボルト15を緩めてフレーム11を下降させ、これによって、曲げローラ19及び圧接ローラ20を積層線材Wの上側面(曲げ方向外側面)に当接させる。そして、圧接ローラ20を下方に押圧して積層線材Wの上側面に圧接させ、この状態でボルト15を締め付けてフレーム11を固定する。これにより、積層線材Wが圧接ローラ20と当接ブロック7との間に挟み込まれ、図6に示すように、積層線材Wが圧接ローラ20からの押圧力をもって当接ブロック7に圧接された状態となる(圧接工程)。この間、操作レバー18は、引きバネ23により直立状態が維持される。
【0041】
また、積層線材Wの上側面に圧接ローラ20が当接すると同時に、図4に示すように、曲げローラ19の一対の規制壁25の間に積層線材Wが入り込んだ状態となる。これにより、積層線材Wを構成している各エナメル銅線s同士が離間することがなく、積層線材Wの積層状態が維持される。
【0042】
次いで、操作レバー18を引きバネ23に抗して水平方向に倒すことにより、曲げローラ19を介して積層線材Wには、各エナメル銅線sの幅方向に荷重が付与される。これにより、曲げローラ19は、図3に示すように、積層線材Wに曲げ荷重を付与しつつ第2の円弧軌道b(当接ブロック7の成形曲面9の曲率中心軸線回り)を移動し(曲げ部材移動工程)、積層線材Wは、当接ブロック7の成形曲面9に沿って曲げ量が増加されていく。
【0043】
一方、圧接ローラ20は、曲げローラ19と共にローラ支持部17に支持されていることにより、曲げローラ19に連動して移動する。即ち、圧接ローラ20は、図3に示すように、積層線材Wへの押圧力を維持しつつ、第3の円弧軌道c(第2の円弧軌道bより内側における当接ブロック7の成形曲面9の曲率中心軸線回り)を移動する(圧接部材移動工程)。
【0044】
これにより、圧接ローラ20は、積層線材Wに対する曲げ荷重が最も大きくなる位置に沿って積層線材Wに圧接しながら曲げの進行に追従して移動する。
【0045】
このとき、積層線材Wの各エナメル銅線sの曲げ方向内側面は、厚み方向に膨らむように変形しようとする。しかし、圧接ローラ20によって積層線材Wが当接ブロック7の成形曲面9に押圧されていることにより、図6に示すように、積層線材Wの下面と当接ブロック7の成形曲面9との間に、図中矢印で示す摩擦力Fが発生し、積層線材Wの各エナメル銅線sにおける厚み方向に膨らむような変形が阻止される。しかも、圧接ローラ20によって積層線材Wが当接ブロック7の成形曲面9に押圧されていることにより、積層線材Wの各エナメル銅線s同士の密着状態が維持され、互いに隣り合うエナメル銅線sは、互いに膨らみ変形を阻止しつつ摩擦力を打ち消し合う関係にあるので、積層線材Wの最も外側にあるエナメル銅線sの厚み方向の変位が十分な摩擦力Fにより規制される。
【0046】
そして、図2に示すように、操作レバー18が最下位置まで倒されて、積層線材Wが、当接ブロック7の第2平坦面10に密着して曲げ加工が完了するまでの間、圧接ローラ20によって、積層線材Wと当接ブロック7との間で摩擦力を発生させた状態が維持されるので、積層線材の曲げ部における厚み方向の膨らみを確実に抑えることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、積層線材Wのスプリングバックを考慮して、図3に示すように、当接ブロック7の第1平坦面8に対する第2平坦面10の角度が90°よりも2〜4°小さく設定されている。これにより、図2に示すように、曲げ加工が完了時点での積層線材Wの曲げ角度が90°よりも大きく曲げられるが、積層線材Wから曲げローラ19を離間させると、積層線材Wのスプリングバックにより曲げ角度が90°となる。
【0048】
また、本実施形態においては、当接ブロック7の材料として硬質の合成樹脂を採用した。当接ブロック7は金属や鉱物等の他の硬質材料により形成してもよいが、合成樹脂を採用することにより、積層線材Wと当接ブロック7との間の摩擦力が容易に発生する。これにより、前記圧接ローラ20による押圧力を比較的小さくすることができ、圧接ローラ20の移動が円滑に行われると共に積層線材Wの負担も軽減することができる。また、圧接ローラ20が、合成樹脂や他の硬質材料により形成されていても、当接ブロック7の第1平坦面8、成形曲面9、及び第2平坦面10にショットブラスト等による粗面加工を施すことで、積層線材Wと当接ブロック7との間の摩擦力を向上させることができる。
【0049】
また、本発明における曲げ部材及び圧接部材として、本実施形態においては、曲げローラ19及び圧接ローラ20を採用した。これによれば、積層線材Wの曲げ加工時に、積層線材Wに接した状態で曲げローラ19及び圧接ローラ20が回転し、積層線材Wの傷付き等の損傷を確実に防止できる。しかし、本発明における曲げ部材及び圧接部材は、曲げローラ19及び圧接ローラ20に限るものではなく、例えば、積層線材Wへの当接面として円弧状の平滑面を有する部材を採用することも可能である。
【0050】
また、本実施形態においては、モータ部品である電機子M2のインシュレータM1から延出する各エナメル銅線sを積層させた状態で曲げる例を挙げた。本実施形態の曲げ加工装置1は、インシュレータM1を位置決め保持するワーク台座部2に当接ブロック7を連設し、曲げ機構部3により当接ブロック7に沿って積層線材Wをその幅方向に曲げる構成としたので、インシュレータM1の直近から下方に容易に積層線材Wを曲げることができる。これにより、インシュレータM1の外側への積層線材Wの張り出しを極めて小として、電機子M2の給電用の配線部を形成することができて有利である。
【0051】
なお、本発明の曲げ加工装置は、インシュレータM1から延出する各エナメル銅線sによる積層線材Wの曲げ加工に限るものではない。即ち、帯状に形成された他の線材であっても、積層状態を維持して、しかも曲げ方向内側の厚み方向の膨らみ変形を抑えて幅方向に容易に曲げることができるものである。
【符号の説明】
【0052】
W…積層線材、s…エナメル銅線(線材)、1…曲げ加工装置、9…成形曲面(曲面)、7…当接ブロック(当接部材)、19…曲げローラ(曲げ部材)、20…圧接ローラ(圧接部材)、24…当接面、25…規制壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の線材をその幅方向に曲げる線材の曲げ加工装置であって、
複数の前記線材が厚み方向に積層された積層線材の曲げ方向内側面に当接する曲面を有する当接部材と、
前記当接部材から離間した位置で前記積層線材の曲げ方向外側面に当接し、前記曲面の曲率中心軸線回りに移動することにより、前記積層線材に曲げ荷重を付与して該積層線材を前記曲面に沿って曲げる曲げ部材と、
前記積層線材の曲げ方向外側面に圧接して前記曲げ部材に連動し、前記当接部材に向かう押圧力を前記積層線材に付与しながら、前記積層線材の曲げ量の進行に追従して前記曲面の曲率中心軸線回りの前記曲げ部材より内側の軌道を移動することにより、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態を維持させる圧接部材とを備えることを特徴とする線材の曲げ加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の線材の曲げ加工装置において、
前記当接部材は、前記曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間の摩擦力が大となる材料により形成されていることを特徴とする線材の曲げ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の線材の曲げ加工装置において、
前記当接部材の前記曲面に、該曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間の摩擦力を大とすべく粗面加工が施されていることを特徴とする線材の曲げ加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の線材の曲げ加工装置において、
前記曲げ部材は、前記積層線材の曲げ方向外側面に当接する当接面と、該積層線材の積層方向両側面に当接して前記積層線材の積層方向への移動を規制する一対の規制壁とを備えることを特徴とする線材の曲げ加工装置。
【請求項5】
帯状の線材をその幅方向に曲げる線材の曲げ加工方法であって、
複数の前記線材が厚み方向に積層された積層線材の曲げ方向内側面に、当接部材に形成された曲げ方向に沿った曲面を当接させると共に、積層線材の曲げ方向外側面に各線材の幅方向に押圧力を付与する圧接部材を圧接させる圧接工程と、
該圧接工程の後に、前記当接部材から離間した位置で前記積層線材の曲げ方向外側に曲げ部材を当接して前記曲面の曲率中心軸線回りに移動させることにより、前記積層線材を前記曲面に沿って曲げる曲げ部材移動工程と、
該曲げ部材移動工程により前記積層線材の曲げ量が進行するとき、前記曲げ部材の移動に連動して前記当接部材に向かって前記積層線材の各線材の幅方向に押圧力を付与しながら圧接部材を移動させることにより、前記当接部材の曲面と前記積層線材の曲げ方向内側面との間に摩擦力を発生させた状態を維持させる圧接部材移動工程とを備えることを特徴とする線材の曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−76139(P2012−76139A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226279(P2010−226279)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】