説明

線状ガラス物品

【課題】事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品であっても、そのガラス外表面に傷が付くという事態を確実に防止して、高い製品品位を実現する。
【解決手段】ガラス外表面に表面保護膜2が形成され、且つ、加熱処理が施される線状ガラス物品1であって、表面保護膜2を、ガラス外表面に形成された無機物質からなる第1の表面保護膜3と、第1の表面保護膜3の上に形成された有機物質からなる第2の表面保護膜4とからなる多層膜で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品に関し、詳しくは、そのガラス外表面に表面保護膜を形成した線状ガラス物品に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス管や、中実のガラス棒などの線状ガラス物品は、種々の分野で利用されており、近年要求される製品品位も高まっている。特に、液晶ディスプレイ装置のバックライト用として利用されるガラス管においては、液晶ディスプレイ装置の画像の高精細化に伴って、非常に高い製品品位が要求されるに至っているのが実情である。
【0003】
そのため、線状ガラス物品の外表面に傷があると、求められる製品品位に満たずに欠陥品として取り扱われるという事態が生じる割合も多くなっている。また、線状ガラス物品の外表面の傷は、製品品位の低下のみならず、各工程中や各工程間の移送中における線状ガラス物品の破損の原因ともなり得るので問題である。特に、上述のバックライト用のガラス管の場合には、液晶ディスプレイ装置の画像の高精細化に伴って、ガラス管も細線化が進められているため、ガラス外表面の傷を基点として破損が生じやすいので問題は大きい。
【0004】
この種の線状ガラス物品の外表面の傷は、主として、他の線状ガラス物品や他の金属部材等の他部材との接触によって生じるものである。そこで、このようなガラス外表面に生じる傷を防止する対策として、有機系の界面活性剤を含有する溶液(石鹸水など)をガラスの外表面に噴射して、ガラス外表面に界面活性剤の保護膜を形成し、線状ガラス物品の表面の滑り性を向上させる手法が提案されるに至っている(例えば、特許文献1を参照)。これにより、線状ガラス物品が、他部材と接触した場合でも、両者の間での不当な擦れが生じる割合が低減し、傷の発生を抑制することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−196209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バックライト用のガラス管を始めとする各種線状ガラス物品には、事後的に曲げを矯正したり或いは成膜等の各種処理を施すために、加熱処理が施されるのが通例とされている。そのため、仮に、上記のように有機系の界面活性剤の保護膜をガラス外表面に形成したとしても、有機系の界面活性剤の耐熱温度は当該加熱処理の加熱温度(例えば、600℃程度)よりも低いため、保護膜が消失したり或いは消失しなくてもその保護効果が失われるという事態が生じてしまう。したがって、線状ガラス物品の表面に有機系の界面活性剤のみからなる保護膜を形成した場合には、加熱処理前の工程でのガラス外表面の傷の発生は防止できるものの、加熱処理以後の工程でのガラス外表面の傷の発生を防止することができなくなる。よって、事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品の場合には、そのガラス外表面の傷の発生を確実に防止することができず、高い製品品位を確保することが極めて困難となる。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明は、事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品であっても、そのガラス外表面に傷が付くという事態を確実に防止して、高い製品品位を実現することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために創案された第1の発明は、ガラス外表面に表面保護膜が形成された線状ガラス物品において、前記表面保護膜が、無機物質からなる第1の表面保護膜と、該第1の表面保護膜よりも外表面側に形成された有機物質からなる第2の表面保護膜とを有する多層膜で構成されていることに特徴づけられる。
【0009】
このような構成によれば、加熱処理前においては、第1の表面保護膜よりも外表面側に形成され、且つ、有機物質に由来する緻密な構造を有する第2の表面保護膜によって、線状ガラス物品のガラス外表面を確実に保護することができる。一方、加熱処理を施した場合には、加熱処理時の熱で第2の表面保護膜による保護効果が弱められたり或いは完全に消失したりしても、無機物質に由来する高い耐熱性を有する第1の表面保護膜によって線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができる。したがって、加熱処理以後においても、第1の表面保護膜によって線状ガラス物品のガラス外表面を確実に保護することが可能となる。なお、表面保護膜は、第1の表面保護膜と、第2の表面保護膜のみで形成されていてもよいし、それ以外の他の膜を含んでいてもよい。さらに、後者の場合には、第1の表面保護膜と、第2の表面保護膜との間に他の膜を介在させてもよい。
【0010】
上記の構成において、前記無機物質が、加熱処理により緻密化するものであることが好ましい。なお、ここでいう「緻密化」とは、第1の表面保護膜に含まれる無機物質の相互間に形成された空隙部が小さくなり、第1の表面保護膜の密度が増すことを意味している(以下、同様)。
【0011】
このようにすれば、第1の表面保護膜でガラス外表面を保護する必要が生じる加熱処理以後の段階において、第1の表面保護膜を形成する無機物質が加熱処理により緻密化することになる。そのため、当該緻密化により、無機物質からなる第1の表面保護膜中の空隙部が、加熱処理前よりも加熱処理後において非常に少なくなるので、第1の表面保護膜でガラス外表面をより確実に保護することができる。
【0012】
上記の構成において、前記無機物質が、500℃以上の加熱温度で緻密化するものであることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、通常、線状ガラス物品に対して施される加熱処理によって、第1の表面保護膜を形成する無機物質が緻密化されるので、第1の表面保護膜によって加熱処理以後のガラス外表面をより確実に保護することが可能となる。
【0014】
上記の構成において、前記無機物質が、平均粒子径0.2μm以下の微粒子であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、線状ガラス物品の表面に均一に分散させることができるので、保護効果にばらつきの少ない第1の表面保護膜を形成することができる。また、0.2μm以下の微粒子であれば、加熱処理時の熱で、緻密化しやすくなるという利点があると共に、ガラス外表面の着色を抑えて製品の外観を良好に保つことできるという利点がある。
【0016】
上記の構成において、前記無機物質が、二酸化ケイ素(シリカ)又は窒化ホウ素であることが好ましく、この場合に特に高い滑り性を付与できることが確認されている。
【0017】
上記の構成において、前記有機物質は、シリコーン又は界面活性剤であってもよい。
【0018】
以上の線状ガラス物品は、線引き成形により製造されたものであることが好ましい。
【0019】
以上の線状ガラス物品は、液晶ディスプレイ装置のバックライト用のガラス管であることが好ましい。すなわち、バックライト用のガラス管であれば、ガラス外表面に傷等がない高い製品品位が要求されるが、本発明に係る線状ガラス物品であれば、第1の表面保護膜と第2の表面保護膜とによりガラス外表面の傷を確実に防止できるので、当該要求に的確に応じることができる。
【0020】
また、以上の線状ガラス物品としては、外径が8mm以下で、肉厚が0.6mm以下のガラス管であることが好ましい。すなわち、このような細線状のガラス管であれば、ガラス外表面の傷により破損を来たし易いため、第1の表面保護膜と第2の表面保護膜とによるガラス外表面の傷の防止効果が非常に有益なものとなる。
【0021】
上記課題を解決するために創案された第2の発明は、ガラス外表面に表面保護膜が形成された線状ガラス物品において、前記表面保護膜が、有機物質中に無機物質を分散させて形成された単一膜を有することに特徴づけられる。
【0022】
このような構成によれば、加熱処理前においては、表面保護膜の単一膜中に含まれる有機物質により、線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができる。一方、加熱処理を施した場合には、加熱処理時の熱で有機物質に由来する成分による保護効果が弱められたり或いは完全に消失したりしても、表面保護膜の単一膜中に含まれる高い耐熱性を有する無機物質によって線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができる。したがって、加熱処理以後においても、表面保護膜の単一膜中に含まれる無機物質によって線状ガラス物品のガラス外表面を確実に保護することが可能となる。なお、表面保護膜は、前記単一膜のみで形成されていてもよいし、それ以外の他の膜を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上の第1の発明によれば、加熱処理前においては、有機物質に由来する緻密な構造を有する第2の表面保護膜により、線状ガラス物品のガラス外表面を確実に保護することができ、加熱処理以後においては、無機物質に由来する高い耐熱性を有する第1の表面保護膜によって線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができる。したがって、事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品であっても、そのガラス外表面への傷の発生を可及的に防止して高い製品品位を実現することが可能となる。
【0024】
また、以上の第2の発明によれば、加熱処理前においては、表面保護膜の単一膜中に含まれる有機物質により、線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができ、加熱処理以後においては、同じ単一膜中に含まれる耐熱性の高い無機物質によって線状ガラス物品のガラス外表面を保護することができる。したがって、この場合にも、事後的に加熱処理が施される線状ガラス物品であっても、そのガラス外表面への傷の発生を可及的に防止して高い製品品位を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る線状ガラス物品を示す縦断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る線状ガラス物品の表面保護膜の状態を概念的に示すものであって、(a)は、加熱処理前の表面保護膜の状態を、(b)は、加熱処理後の表面保護膜の状態をそれぞれ示す縦断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る線状ガラス物品の製造装置の要部を拡大して示す側面図である。
【図4】図3の第1の噴射ノズルと長尺ガラスとの位置関係を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る線状ガラス物品を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る線状ガラス物品を示す縦断面図である。この線状ガラス物品1は、外径が8mm以下で肉厚が0.6mm以下の細線状のガラス管であって、そのガラス外表面に表面保護膜2を形成したものである。この線状ガラス物品1には、事後的に加熱処理が施されるようになっている。なお、加熱処理としては、線状ガラス物品1の曲がりを矯正するための熱処理や、成膜時の熱処理などがあり、いずれも400〜750℃程度の温度で行われる。
【0028】
上記の表面保護膜2は、ガラス外表面に形成された第1の表面保護膜3と、この第1の表面保護膜3の外表面に形成された第2の表面保護膜4との2層で構成されている。
【0029】
第1の表面保護膜3は、上述の加熱処理にも耐え得る高い耐熱性(例えば、600℃以上の耐熱性)を有する無機物質で形成されている。また、この第1の表面保護膜3は、平均粒子径0.2μm以下の無機微粒子の集合体により形成され、その平均厚みは0.04〜10μm程度である。なお、この無機物質の微粒子の集合体には、バインダーや分散剤などが含まれていてもよい。無機物質としては、例えば、二酸化ケイ素(アモルファス二酸化ケイ素を含む。)又は窒化ホウ素(アモルファス窒化ホウ素を含む。)を使用することが好ましく、この場合に第1の表面保護膜3に特に良好な滑り性を付与することができる。
【0030】
第2の表面保護膜4は、無機物質に比して耐熱性の低い有機物質で形成されている。この有機物質としては、例えば、シリコーンや、その他にも各種脂肪酸ソルビタン系、ステアリン酸ソルビタン系、オレイン酸ソルビタン系(ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、オキシエチレンヤシ油脂肪ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸オイオキシエチレンソルビタン他)などの界面活性剤が挙げられ、その耐熱温度は200〜400℃程度である。なお、第2の表面保護膜4の平均厚みは、0.04〜10μm程度である。
【0031】
このようにすれば、加熱処理前においては、有機物質の有機結合に由来する緻密な構造を有する第2の表面保護膜4により、線状ガラス物品1のガラス外表面を確実に保護することができる。一方、加熱処理以後においては、加熱処理時の熱で第2の表面保護膜4による保護効果が弱められたり或いは完全に消失したりしても、無機物質に由来する高い耐熱性を有する第1の表面保護膜3によって線状ガラス物品1のガラス外表面を保護することができる。
【0032】
また、この実施形態では、線状ガラス物品1の第1の表面保護膜3は、熱処理により緻密化されるようになっている。詳述すると、図2(a)に示すように、加熱処理前の状態では、第1の表面保護膜3に含まれる無機物質の微粒子5の相互間に、相対的に大きな空隙部が形成されており、無機物質の微粒子5が緻密化されていない状態である。これに対して、加熱処理後、すなわち、600℃程度の加熱により、図2(b)に示すように、第1の表面保護膜3に含まれる無機物質の微粒子5の相互間の空隙部が相対的に小さくなって、無機物質の微粒子5が緻密化し、第1の表面保護膜3の密度が増加するようになっている。これにより、第1の表面保護膜3に高い滑り性が確保される。なお、この実施形態では、加熱処理後の状態において、図2(b)に示すように、耐熱性の低い有機性物質からなる第2の表面保護膜4は、熱によって消失しているが、耐熱性の高い無機物質からなる第1の表面保護膜3は、消失することなく線状ガラス物品1のガラス外表面に残存し、しかも緻密化しているので、第1の表面保護膜3によって線状ガラス物品1の外表面を確実に保護することができる。
【0033】
次に以上のように構成された線状ガラス物品1の製造装置について説明する。なお、当該製造装置の説明の中で合わせて製造方法についても説明する。
【0034】
図3に示すように、線状ガラス物品1を製造する製造装置11は、ダンナー法やダウンドロー法などの公知の手法で成形された管状の長尺ガラス管12を下流側に引っ張って、線状に引き伸ばす線引き機13を備えている。この線引き機13は、長尺ガラス管12を上下両側から挟持する一対の挟持部14を有している。この挟持部14は、長尺ガラス管12の表面に接触して当該長尺ガラス管12を下流側に案内する無端ベルト15と、この無端ベルト15を回転駆動するローラ16とから構成されている。
【0035】
線引き機13の上流側には、高耐熱性を有する上記の無機物質(二酸化ケイ素や、窒化ホウ素など)を含有してなる第1の溶液17を長尺ガラス管12の表面に噴射する第1の噴射ノズル18が配置されている。この第1の溶液17は、水などの溶媒中に少量の分散剤を添加しており、溶媒中で無機物質が分散するようにしている。また、第1の噴射ノズル18は、線引き機13の上流側の位置で、かつ、長尺ガラス管12の表面温度が200〜400℃(好ましくは250〜350℃)となる範囲に配置されている。第1の噴射ノズル18は、図4に示すように、長尺ガラス管12を挟んで上下方向に対向するように2つ配置されている。各々の第1の噴射ノズル18からは、長尺ガラス管12に向かってミスト状に第1の溶液17が噴射され、長尺ガラス管12の表面を覆うように第1の溶液17を付着させるようになっている。
【0036】
長尺ガラス管12の表面に第1の溶液17が付着すると、第1の溶液17の液体成分は、周囲温度やガラスの表面温度の影響により、蒸発等して消失或いは減少し、無機物質からなる第1の表面保護膜3が、長尺ガラス管12の外表面を覆うように形成される。
【0037】
そして、以上のような第1の表面保護膜3は、線引き機13の上流側で形成されるので、線引き機13の無端ベルト15と、長尺ガラス管12とが接触する段階では、当該第1の表面保護膜3によって長尺ガラス管12の表面を保護することができる。したがって、この第1の表面保護膜3により、長尺ガラス管12と無端ベルト15との間の擦れによって、長尺ガラス管12の外表面に傷が付く割合を低減することが可能となる。
【0038】
一方、線引き機13の下流側には、低耐熱性(例えば、300℃以下の耐熱性)を示す上記の有機物質(シリコーンや界面活性剤など)を含有してなる第2の溶液19を長尺ガラス管12の表面に噴射する第2の噴射ノズル20が配置されている。この実施形態では、第2の噴射ノズル20は、線引き機13の下流側で、かつ、長尺ガラス管12の表面温度が100〜300℃(好ましくは150〜300℃)となる範囲に配置されており、その位置で第1の噴射ノズル18と同様に長尺ガラス管12を挟んで上下方向に対向するように2つ配置されている。各々の第2の噴射ノズル20からは、ミスト状に第2の溶液19が噴射され、第1の表面保護膜3の上から長尺ガラス管12の外表面を覆うように第2の溶液19が付着するようになっている。
【0039】
第1の表面保護膜3の表面に第2の溶液19が付着すると、第2の溶液19の液体成分は、周囲温度やガラスの表面温度の影響により、蒸発等により消失或いは減少し、有機物質からなる第2の表面保護膜4が第1の表面保護膜3の表面に形成される。したがって、第2の噴射ノズル20の下流側において、長尺ガラス管12の外表面は、第1の表面保護膜3と、第2の表面保護膜4との2層によってコーティングされる。すなわち、この製造方法では、第1の表面保護膜3と第2の表面保護膜4とが長尺ガラス管12の製造ライン(オンライン)上で形成される。そのため、このように線引き成形された長尺ガラス管12を所定長さに切断するだけで、図1に示した線状ガラス物品1を製造することが可能となる。
【0040】
なお、この製造方法により線状ガラス物品1を製造すれば、無機物質からなる第1の表面保護膜3が、製造された線状ガラス物品1に対して施される加熱処理以後の工程で保護膜として機能するだけでなく、線状ガラス物品1の元材となる長尺ガラス管12と線引き機13との間で生じる擦れに対しても保護膜として機能するので有利である。
【0041】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る線状ガラス物品を示す概念図である。この線状ガラス物品1が、上記の第1の実施形態に係る線状ガラス物品1と相違するところは、ガラス外表面に形成された表面保護膜2が単一層から構成されている点である。詳述すると、この第2の実施形態に係る線状ガラス物品1の表面保護膜2は、有機物質中に無機物質の微粒子5を分散されることで、同一層内に有機物質と無機物質とが含まれた状態で形成されている。このようにすれば、加熱処理前においては、単一の表面保護膜2に含まれる有機物質により、線状ガラス物品1のガラス外表面を保護することができる。一方、加熱処理以後においては、加熱処理時の熱で有機物質に由来する成分による保護効果が弱められたり或いは完全に消失したとしても、同一の表面保護膜2中に含まれる高い耐熱性を有する無機物質に微粒子5により、線状ガラス物品1のガラス外表面を保護することができる。なお、この場合にも、加熱処理により、表面保護膜2中の無機物質の微粒子5は僅かに緻密化する。
【0042】
また、当該表面保護膜2は、例えば、図3に示した線引き機11の下流側で、溶媒中に有機物質と無機物質との両方を添加した溶液を、長尺ガラス管12に対してミスト状に噴霧することで形成される。
【0043】
なお、本発明は、上記の第1及び第2の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の第1の実施形態では、長尺ガラス管12の表面に向かって第1の溶液17および第2の溶液19をミスト状に噴射して、第1の表面保護膜3および第2の表面保護膜4を形成する場合を説明したが、第1の溶液17及び第2の溶液19を発泡させて泡状にし、当該泡の中に長尺ガラス管12を通過させて、表面保護膜を形成するようにしてもよい。また、第1の溶液17および第2の溶液19を予め貯溜槽に貯溜しておき、その溶液中に長尺ガラス管12を通過させて表面保護膜を形成したり、長尺ガラス管12の表面に耐熱ブラシ等により表面保護膜に含まれる無機物質若しくは有機物質又は無機物質若しくは有機物質を含有した溶液を直接塗布して表面保護膜を形成してもよい。これらは第2の実施形態においても同様である。
【0044】
また、上記の第1の実施形態では、線引き機13の上流側で長尺ガラス管12の外表面に第1の表面保護膜3を形成した後、線引き機13の下流側で長尺ガラス管12の外表面に第1の表面保護膜3の上から第2の表面保護膜4を形成した場合を説明したが、線引き機13の下流側で、長尺ガラス管12の外表面に第1の表面保護膜3と第2の表面保護膜4を形成してもよい。さらに、長尺ガラス管12を所定長さに切断した線状ガラス物品の段階で、第1の表面保護膜3と第2の表面保護膜4を形成してもよい。これらは第2の実施形態においても同様である。
【0045】
また、上記の実施形態では、線状ガラス物品1として、例えば、液晶ディスプレイ装置のバックライト用などに利用されるガラス管を例にとって説明したが、線状ガラス物品はこれに限定されるものではなく、中実のガラス棒などであってもよい。
【実施例】
【0046】
本発明の有用性を実証するために、ガラス管の外表面に、材質や、形成方法等を変えて表面保護膜を形成し、その表面保護膜が形成された各々のガラス管につき、焼成前と焼成後のそれぞれで擦りテストによる傷の有無を評価する評価試験を行った。
【0047】
まず、本発明の実施例1〜実施例4として、図1に示すように、ガラス外表面に無機物質からなる第1の表面保護膜3を形成し、その第1の表面保護膜3の上から有機物質からなる第2の表面保護膜4を形成したものを製作した。詳述すると、実施例1では、第1の表面保護膜3を二酸化ケイ素(SiO2)微粒子で形成し、第2の表面保護膜4をシリコーンで形成した。実施例2では、第1の表面保護膜3を二酸化ケイ素微粒子で形成し、第2の表面保護膜4が有機系の界面活性剤で形成した。実施例3では、第1の表面保護膜3を窒化ホウ素(BN)微粒子で形成し、第2の表面保護膜4をシリコーンで形成した。実施例4では、第1の表面保護膜3を窒化ホウ素微粒子で形成し、第2の表面保護膜4を界面活性剤で形成した。
【0048】
また、本発明の実施例5として、図5に示すように、ガラス外表面に有機物質中に無機物質を分散させた単一層の表面保護膜2を形成したものを製作した。詳述すると、実施例5では、シリコーン中に二酸化ケイ素微粒子を分散させた単一層の表面保護膜2を形成した。
【0049】
一方、比較例1〜4としては、いずれもガラス外表面に有機物質又は無機物質のみからなる単一の表面保護膜を形成したものを製作した。詳述すると、比較例1では、表面保護膜をシリコーンで形成した。比較例2では、表面保護膜を界面活性剤で形成した。比較例3では、表面保護膜を二酸化ケイ素微粒子で形成した。比較例4では、表面保護膜を窒化ホウ素微粒子で形成した。
【0050】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜4についての上記の評価試験の結果を表1に示す。なお、焼成条件は、600℃で20分間に加熱するものとする。また、擦りテストは、ガラス外表面を、同一の表面保護膜が形成されたガラス管同士で擦ることにより行った。
【0051】
【表1】

【0052】
上記の表1に示すように、実施例1〜5では、ガラス管の最外表面にシリコーンや界面活性剤の膜が形成されているため、焼成前であっても、滑り性がよく、擦りテストでも傷は観察されなかった。また、焼成後においては、シリコーンや界面活性剤の膜は消失するものの、耐熱性の高い二酸化ケイ素や窒化ホウ素の微粒子の膜がガラスの表面に残存するとともに、その膜が熱によって緻密化して良好な滑り性を発揮した。その結果、焼成後の擦りテストにおいても傷は観察されなかった。
【0053】
一方、比較例1及び2では、ガラス管の最外表面にシリコーンや界面活性剤の膜が形成されているため、焼成前では滑り性がよく、擦りテストでも傷は観察されなかったものの、焼成後には、シリコーンや界面活性剤の膜が消失するため、擦りテストで傷の発生が確認された。また、比較例3及び4では、ガラス管の最外表面に二酸化ケイ素や窒化ホウ素の微粒子の膜が形成されているものの、焼成前では、これらの膜が緻密化しておらず、ガラス管の最外表面にシリコーンや界面活性剤の膜が形成されたものに比べ、良好な滑り性を発揮するには至らなかった。そのため、焼成前の擦りテストの段階で、傷の発生が僅かに確認された。なお、焼結後では、膜が熱により緻密化し、滑り性を発揮するため、新たな傷の発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0054】
1 線状ガラス物品
2 表面保護膜
3 第1の表面保護膜
4 第2の表面保護膜
11 製造装置
12 長尺ガラス管
13 線引き機
14 挟持部
15 無端ベルト
16 ローラ
17 第1の溶液
18 第1の噴射ノズル
19 第2の溶液
20 第2の噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス外表面に表面保護膜が形成された線状ガラス物品において、
前記表面保護膜が、無機物質からなる第1の表面保護膜と、該第1の表面保護膜の外表面側に形成された有機物質からなる第2の表面保護膜とを有する多層膜で構成されていることを特徴とする線状ガラス物品。
【請求項2】
ガラス外表面に表面保護膜が形成された線状ガラス物品において、
前記表面保護膜が、有機物質中に無機物質を分散させて形成された単一膜を有することを特徴とする線状ガラス物品。
【請求項3】
前記無機物質が、加熱処理により緻密化する請求項1又は2に記載の線状ガラス物品。
【請求項4】
前記無機物質が、500℃以上の加熱温度で緻密化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項5】
前記無機物質が、平均粒子径0.2μm以下の微粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項6】
前記無機物質が、二酸化ケイ素又は窒化ホウ素である請求項1〜5のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項7】
前記有機物質が、シリコーン又は界面活性剤である請求項1〜6のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項8】
線引き成形により製造されてなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項9】
液晶ディスプレイ装置のバックライト用のガラス管である請求項1〜8のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。
【請求項10】
外径が8mm以下で、肉厚が0.6mm以下のガラス管である請求項1〜9のいずれか1項に記載の線状ガラス物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20868(P2011−20868A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165045(P2009−165045)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】