説明

線状工具盤用線状ブラシ

【課題】線状工具を高速回転及び往復動させる線状工具盤に取り付けて硬質プラスチック等の高脆性材が高精度に研磨できる線状工具盤用線状ブラシを得る。
【解決手段】張力に富んだ線状体(2)の両端部(2b,2c)を露出させ、該線状体(2)の長手方向中間部(2a)の外周に可撓性のブラシ材(3)を設け、前記線状体(2)の両端部(2b,2c)を、同軸に対向配置されて高速回転及び軸方向に往復動される線状工具盤のチャックに挟持可能とする。前記ブラシ材(3,3−1)は、耐磨耗性の樹脂繊維を編んで筒状、または帯状とし、該ブラシ材(3,3−1)を線状体(2)に挿通、又は螺旋状に巻いてその両端部を線状体2に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状の工具を回転及び往復動させる線状工具盤に関し、特に該線状工具盤に適用される線状ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、板ガラス、硬質プラスチック等の高脆性資材の端面あるいは孔の周面を加工する工具盤として、線状工具を高速回転及び往復動させる線状工具盤を先に出願した。該線状工具盤は、線状工具が主として周方向の回転でワークを切削することになるため、板ガラスのような脆性のあるワークであっても、切り口縁部に切欠きが発生しなくなる。しかしながら、前記線状工具盤で加工されたワークは、端面が粗面になっているとともに、端面の縁部が鋭くなっているため、この部を研磨して端面を平滑にするとともに端面の端縁を面取りする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2008−253247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、線状工具盤に取り付けられ、該線状工具盤で加工されたワークの加工面を仕上げ加工する線状工具盤用線状ブラシを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するために以下の如く構成したものである。即ち、請求項1に係る発明は、張力に富んだ線状体の両端部を露出させ、該線状体の長手方向中間部の外周に可撓性のブラシ材を設け、前記線状体の両端部を、同軸に対向配置されて高速回転及び軸方向に往復動される線状工具盤のチャックに挟持可能としたものである。
請求項2に係る発明は、前記ブラシ材を耐磨耗性の樹脂繊維で編まれた筒状とし、該ブラシ材を線状体に挿通してその両端部を線状体に固着したものである。
請求項3に係る発明は、前記ブラシ材を耐磨耗性の樹脂繊維で編んだ帯状とし、該ブラシ材を線状体に螺旋状に巻き付けてその両端部を線状体に固着したものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明は、張力に富んだ線状体の両端部が線状工具盤のチャックにより挟持されるので、線状体に大きな張力を付与してチャックで挟持することにより、線径の小さな線状体であっても、チャックを介して線状ブラシを安定して高速回転及び往復動させることができる。このため、線状ブラシをワークに形成された小径の孔あるいは細長い長孔に容易に挿通することができ、また、該線状ブラシを前記チャックにより高速回転及び往復動させることにより、前記ワークの孔あるいは長孔の内面及び縁部を容易に研磨することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、線状ブラシがチャックによって高速回転されると、円筒状のブラシ材が遠心力によって半径方向外方に広がるので、挿通時にブラシ材とワークの孔あるいは長孔との間に間隙が発生していても、該孔あるいは長孔の内面に円滑に接触し、該内面を平滑に仕上げるとともに、縁部を面取りすることになる。
【0008】
請求項3に係る発明は、帯状のブラシ材を線状体の長手方向中間部に螺旋状に巻き付けるようにしたので、この巻き付け力を調整することによって遠心力による半径方向外方への広がり量を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による線状ブラシの第1実施例を示す側面図である。
【図2】本発明による線状ブラシの第2実施例を示す側面図である。
【図3】本発明による線状ブラシの第3実施例を示す側面図である。
【図4】本発明が適用される線状工具盤の側面図である。
【図5】図4のV-V拡大断面図である。
【図6】線状ブラシによる研磨状態を示す側面図である。
【図7】図6のVII-VII拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は線状ブラシの第1実施例を示す。図1において、1は線状ブラシであり、線状体2を張力に富んだ資材、例えばピアノ線とし、該線状体2の長手方向中間部2aの外周を筒状のブラシ材3により被覆し、線状体2の両端部2b,2cを外部に露出させてなる。前記ブラシ材3は、耐磨耗性に富んだ樹脂繊維、例えばポリアミド樹脂繊維により筒状に編まれた紐とし、該紐を前記線状体2に挿通してその長手方向中間部2aに位置させ、その両端部3b,3cを絞って接着材により線状体2に固着する。なお、前記ブラシ材3の内径は線状体2よりも大径とし、両端部3b,3cを除く中間部が線状体2に対して若干半径方向に移動(振れ)可能とする。また、前記外部に露出させた両端部2b,2cは、後述する線状工具盤5(図4)のチャック16a,16bに挟持できる長さとする。
【0011】
図2は線状ブラシの第2実施例を示す。図2において、1−1は線状ブラシであり、前述と同様の資材により形成された線状体2−1の長手方向中間部2−1aの外周を帯状のブラシ材3−1により被覆する。該ブラシ材3−1は、耐磨耗性に富んだ樹脂繊維、例えばポリアミド樹脂繊維により細幅に編まれた帯とし、該帯を前記線状体2−1の両端部2−1b,2−1cを除く長手方向中間部2−1aに螺旋状に巻き、その両端部3−1b,3−1cを接着材により線状体2−1に固着する。なお、前記ブラシ材3−1は、中間部3−1aの巻き付けを緩めとし、線状ブラシ1−1が高速回転された際に、前記中間部3−1aが遠心力で半径方向外方に膨らむようにする。その他は、前記第1実施例と同様とする。
【0012】
図3は線状ブラシの第3実施例を示す。図3において、1−2は線状ブラシであり、張力に富んだ複数本の線材(ピアノ線)を撚って螺旋状の線状体2−2を形成し、 該線状体2−2を形成する際に、その長手方向中間部2−2aで、短く切断された多数の耐磨耗性樹脂繊維、例えばポリアミド樹脂繊維の中間部を挟持固定し、各繊維が線状体2−2の長手方向中間部2−2aから放射方向に突出するタワシ状のブラシ材3−2を形成する。その他は、前記第1実施例と同様とする。
【0013】
図4において、5は線状工具30、前記線状ブラシ1(1−1,1−2)が選択的に取り付けられる線状工具盤であり、以下の如くなっている。即ち、ベース6の後部(図4において右部)にコラム7を、左部にテーブル支持台8を起立固定する。前記コラム7の前部(図4において左部)は上下に分離され、各分離部の前面に上下方向に延びる往復リニアガイド9a,9bを固定し、各往復リニアガイド9a,9bにスライダ10a,10bを上下摺動可能に取り付けるとともに、上下のスライダ10a,10bを連結アーム11により一体的に連結する。
【0014】
前記コラム7の上部に往復動モータ(往復動装置)12によって正逆回転される往復動ねじ13を下方に向けて取付け、該往復動ねじ13の下部に前記連結アーム11を螺合さ、前記往復動モータ12を正逆回転させることにより、往復動ねじ13を介して連結アーム11を上下に往復動、従って、上下のスライダ10a,10bを同期させて上下に往復動させる。本例では、2〜3秒毎に100〜200mmのストロークで往復動されるようになっている。
【0015】
前記上下のスライダ10a,10bにそれぞれヘッドケース14a,14bを固定し、各ヘッドケース14a,14bに上下のスピンドル15a,15bを互いに対向させて回転自在に取り付け、各スピンドル15a,15bの対向端部にそれぞれ線状工具30を着脱可能に挟持するチャック16a,16bを取り付ける。前記各スピンドル15a,15bは中空にし、チャック16a,16bから軸方向外方に露出した線状工具30の端部30−1,30−2が前記スピンドル15a,15bの軸心部を通過できるようにする。
【0016】
前記各スピンドル15a,15bは、各ヘッドケース14a,14bに取り付けたスピンドルモータ(回転装置)17a,17bに連結され、該スピンドルモータ17a,17bによって同期して高速回転、本例では毎分3000〜5000回転で回転される。前記各ヘッドケース14a,14bに円筒状の工具サック18a,18bを各スピンドル15a,15bと同軸に配置して起立固定し、各スピンドル15a,15bから軸方向外方に露出した線状工具30の上下端部30−1,30−2が前記工具サック18a,18bに嵌合できるようにする。
【0017】
前記線状工具30は、図5に示すように、抗張力を有する断面円形の心材(ピアノ線)30aの外周にダイヤモンド粒30bを散在させて固着し、線径は約0.2mm〜1.0mm、長さは上下のチャック16a,16bの間隔よりも所定量長い約500mmとなっている。前記各工具サック18a,18bのうち、上部の工具サック18aにテンション装置20を取り付ける。該テンション装置20は、上部の工具サック18aに沿って縦ガイド21を延在配置し、該縦ガイド21に線状工具30の上端部30−1を係脱可能に挟持する挟持具22を上下摺動可能に取付け、該挟持具22のケースに該挟持具22を縦ガイド21に沿って上下動させるテンションモータ23を取付けてなる。
【0018】
前記チャック16a,16bで挟持される線状工具30は、以下の如くして張力が付与される。即ち、下部のチャック16bで線状工具30の下端部30−2を挟持するとともに、上部のチャック16aを開作動させ、この状態で挟持具22を作動させて線状工具30の上端部30−1を挟持し、次いで、テンションモータ23を、例えば正回転させて挟持具22を上方に移動させ、前記線状工具30を上方に引っ張って所定の張力を付与する。次いで上部のチャック16aを閉作動させて前記上端部30−1を挟持した後、前記挟持具22を開作動させる。
【0019】
前述したテーブル支持台8の上部に、前後、左右に移動されるテーブル25を取り付ける。即ち、テーブル支持台8の上部にY軸モータ26によって前後方向(図4において左右方向)に移動されるY軸移動台27を取付け、該Y軸移動台27にX軸モータ28によってX軸方向(図4において正背面方向)に移動されるテーブル25を取り付ける。
【0020】
そして、例えば、携帯電話のLCD保護レンズ、LCD表示ガラス等を得るための素材板ガラスからなるワーク31を加工する際には、前記テーブル25に素材板ガラス、即ちワーク31を多数積み重ね、これをクランプ32でテーブルに押圧固定する。次いで、線状工具30の上下端部30−1,30−2を上下のチャック16a,16bに挿通するとともに、上端部30−1を上部の工具サック18a内に挿通してテンション装置20の挟持具22に挿通する。次いで、下部のチャック16bを作動させて線状工具30の下端部30−2を挟持した後、テンションモータ23を一方向に回転(正回転)させて挟持具22を上方に移動させ、線状工具30を上方に引っ張る。次いで、上部のチャック16aを作動させて線状工具30の上端部30−1を挟持した後、前記挟持具22を開作動させる。これにより、上下のチャック16a,16b間の線状工具30、つまり線状工具30の中間部30−3に所定の張力を付与する。
【0021】
次いで、冷却液又は研削液をノズル33からワーク31の加工部に向けて吐出させつつ、スピンドルモータ17a,17b起動させて線状工具30を毎分3000〜5000回転で回転させるとともに、往復動モータ12を起動させて前記線状工具30を2〜3秒毎に100〜200mmのストロークで上下に往復動させる。この状態でテーブル25を作動させ、該テーブル25に載置したワーク31の該当する部位を線状工具30の中間部30−3に接触させる。
【0022】
さすれば、前記ワーク31は、前記線状工具30による周方向の回転で主に切削されることになり、ワーク31の切り口(端面)31aの縁部(図5)に厚さ(上下)方向の大きな切削負荷が加わらなくなる。この結果、高脆性のワークであっても、前記切り口31aの縁部に切欠きが発生しなくなる。しかも、低速で上下に往復動するので、線状工具30の中間部30−3の略全域がワーク31に順次均等に接触し、線状工具30が偏り磨耗したり、焼きつきを発生したりしなくなる。また、線状工具30の中間部30−3は、上下のチャック16a,16bにより所定の張力が付与されて高速回転するため、細い線状工具30であっても加工時に捩れたり、曲がったりすることがなく、小径の孔、あるいは曲率半径の小さい曲面を高精度に加工することができる。
【0023】
さらに、線状工具30は、相対する上下のチャック16a,16bで挟持されるので、線状工具30の長さを短くすることができ、図5に示すように、ワーク31に外周から閉ざされた孔34を加工する際に、上下のチャック16a,16bを係脱操作して線状工具30をワーク31の下孔34aに挿通するとともに、テンション装置20を作動させて前記線状工具30の中間部30−3に所定の張力を付与する。次いで、前述と同様に、スピンドルモータ17a,17b、往復動モータ12、及びテーブル25を作動させ、ワーク31の内周部に例えば十字形の孔34を形成する。これにより、外周から閉ざされた孔34を迅速に加工することができる。
【0024】
次に、前記加工されたワーク31の切り口(端面)31a、孔34の内面34bを研磨する際には、図6に示すように、上下のチャック16a,16b、及びテンション装置20を作動させ、線状状工具30に換えて前述した線状ブラシ1(1−1,1−2)を線状工具盤1に取り付ける。この状態で、ノズル33から研削液を前記ワーク31の加工部に向けて吐出しつつ、前述と同様に、スピンドルモータ17a,17b、往復動モータ12、及びテーブル25を作動させる。
【0025】
さすれば、前記線状ブラシ1(1−1,1−2)がチャック16a,16bにより、緊張された状態で高速回転及び往復動し、ワーク31の切り口31a、孔34の内面34bを平滑に研磨するとともに、その縁部を面取りすることになる。
【符号の説明】
【0026】
1(1−1,1−2) 線状ブラシ
2(2−1,2−2) 線状体
2a(2−1a,2−2a) 長手方向中間部
2b,2c(2−1b,2−2b、2−1c,2−2c) 端部
3(3−1,3−2) ブラシ材
3a(3−1a) 中間部
3b,3c(3−1b,3−1c) 端部
5 線状工具盤
6 ベース
7 コラム
8 テーブル支持台
9a,9b 往復リニアガイド
10a,10b スライダ
11 連結アーム
12 往復動モータ(往復動装置)
13 往復動ねじ
14a,14b ヘッドケース
15a,15b スピンドル
16a 16b チャック
17a,17b スピンドルモータ(回転装置)
18a 18b 工具サック
20 テンション装置
21 縦ガイド
22 挟持具
23 テンションモータ
25 テーブル
26 Y軸モータ
27 Y軸移動台
28 X軸モータ
30 線状工具
30−1 上端部
30−2 下端部
30−3 中間部
30a 心材
30b ダイヤモンド粒
31 ワーク
31a 切り口
32 クランプ
33 ノズル
34 孔
34a 下孔
34b 孔の内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
張力に富んだ線状体(2)の両端部(2b,2c)を露出させ、該線状体(2)の長手方向中間部(2a)の外周に可撓性のブラシ材(3)を設け、前記線状体(2)の両端部(2b,2c)を、同軸に対向配置されて高速回転及び軸方向に往復動される線状工具盤のチャックに挟持可能としたことを特徴とする線状工具盤用線状ブラシ。
【請求項2】
ブラシ材(3)は、耐磨耗性の樹脂繊維を編んで筒状とし、該ブラシ材(3)を線状体(2)に挿通してその両端部を線状体(2)に固着してなることを特徴とする請求項1記載の線状工具盤用線状ブラシ。
【請求項3】
ブラシ材(3−1)は、耐磨耗性の樹脂繊維を編んで帯状とし、該ブラシ材(3−1)を線状体(2−1)に螺旋状に巻き付けてその両端部(2−1b,2−1c)を線状体(2−1)に固着してなることを特徴とする請求項1記載の線状工具盤用線状ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167518(P2010−167518A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10830(P2009−10830)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(391040995)ショーダテクトロン株式会社 (17)
【Fターム(参考)】