説明

線維筋痛症の治療のためのドロキシドパ及びその医薬組成物

本発明は、線維筋痛症又は広範囲の疼痛及び/又は疲労を生じさせる他の疾患又は状態を治療する方法を提供する。特に、本発明は、本発明の方法において使用することができる、単独で、又は1以上のさらなる活性物質と組み合わせてドロキシドパを含む医薬組成物を提供する。治療の方法は、慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病などの、線維筋痛症の指標として認識されている様々な症状を治療、予防、軽減又は除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、線維筋痛症などの中枢性感作症候群の治療のための、単独での又は1以上の付加的な成分と組み合わせたドロキシドパの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ドロキシドパは、ドパデカルボキシラーゼ(DDC)の作用によって直接ノルエピネフリンに変換される、公知のノルエピネフリンの合成アミノ酸前駆体である。ドロキシドパは一般に起立性低血圧(OH)を治療するために使用され、抗パーキンソン病薬として分類することができる。しかし、以下を含む多数の薬理学的活性がドロキシドパに関して認められている:(1)生体内に広く分布する芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼの作用によって直接1−ノルエピネフリンに変換され、その結果ノルエピネフリンを補充する作用を有する。(2)血液脳関門を通って脳に入る限られた透過性を有する。(3)中枢及び末梢神経系において低下したノルエピネフリン活性化神経機能を特異的に回復する。及び(4)様々な組織でアドレナリン受容体を介して、ノルエピネフリンとして様々な作用を示す。
【0003】
線維筋痛症候群(FMS)とも称される、線維筋痛症は、感覚刺激の全身性知覚亢進によって特徴づけられ、筋、筋膜及び関節の広範囲のうずき、痛み及びこわばり、並びに軟組織の圧痛として現れる慢性疼痛疾病又は状態である。疼痛の最も一般的な部位は、頸部、背部、肩部、腰帯及び手を含むが、あらゆる身体部分が罹患し得る。線維筋痛症を有する患者は、異痛(痛くないはずの刺激による痛み)及び痛覚過敏(疼痛刺激に対する感受性上昇)の両方の形態の疼痛知覚異常を示す。他の症状は、典型的には全身疲労、睡眠障害及びうつ病を含む。
【0004】
線維筋痛症は、多数の圧痛点の存在及び一連の症状によって特徴づけられる。線維筋痛症の痛みは深く、広範囲且つ慢性的であり、様々な強さで身体のすべての部分に移動することが知られている。線維筋痛症の痛みは、深い筋肉のうずくような、ずきずきする、痙攣性の、刺すような及び体を走るような痛みと表されてきた。しびれ、刺痛及び灼熱感などの神経学的愁訴がしばしば存在し、患者の不快感を増大させる。痛みの重症度及びこわばりはしばしば午前中に悪化し、悪化因子は、寒い/湿度の高い気候、非回復性睡眠、身体的及び精神的疲労、過度の身体活動、身体的不活動、不安及びストレスを含む。
【0005】
線維筋痛症に関連する疲労は、それ自体が消耗性であり、最も簡単な日常活動さえも妨げることがある。時には、線維筋痛症に関連する疲労は、精神的及び身体的に機能するための限られた能力しか患者に残さないこともある。多くの線維筋痛症患者はまた、深い、静穏な回復睡眠を妨げる、付随性睡眠障害を有する。線維筋痛症患者の第4期深度睡眠の明確で独特の異常が試験で明らかにされている。睡眠中、線維筋痛症を有する個人は、深度睡眠に費やす時間の量を制限する覚醒様の脳活動の群発によって絶えず妨げられる。線維筋痛症に関連するさらなる症状は以下を含み得る:過敏性腸及び膀胱、頭痛及び片頭痛、不穏下肢症候群(周期的な下肢運動障害)、記憶及び集中力障害、皮膚過敏及び発疹、ドライアイ及びドライマウス、不安、うつ病、耳鳴り、めまい感、低血圧、視覚障害、レイノー症候群、神経症状、及び協調運動障害、並びに他の症状。
【0006】
現在、線維筋痛症に特異的な公知の診断試験はない。従って、診断は一般に、患者の病歴の評価、自己報告症状、理学的検査、及び米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)(ACR)からの標準化された判定基準に基づく正確な「圧痛点」の指診からなされる。ACRガイドラインによって定義されているように、FMSは、身体の四分円すべてにおける、並びに脊柱に沿った、3ヵ月間以上の疼痛の存在を含む。加えて、18カ所の「圧痛点」のうち少なくとも11カ所において触診によって痛みが引き起こされる。線維筋痛症患者が正確な診断を受けるには平均5年を要すると推定され、多くの線維筋痛症症状が他の状態の症状と重複する。さらに、共存症(関節リウマチ又は狼瘡など)の存在は線維筋痛症の診断を排除しない。
【0007】
線維筋痛症の病因及び病態生理学は不明である。しかし、中枢神経系の関与を含むと一般的に考えられている。大半の研究者が、線維筋痛症は神経内分泌/神経伝達物質調節不全を伴う中枢プロセシングの障害であることに同意している。線維筋痛症患者は、しばしば中枢神経系における感覚情報処理異常に起因する痛みの増幅を経験する。さらに、試験は、線維筋痛症患者において以下を含む多くの生理的異常を示す:脊髄中のサブスタンスPのレベル上昇。脳の視床領域への血流レベルの低下。HPA系の機能低下。セロトニン及びトリプトファンのレベル低下。及びサイトカイン機能の異常。最近の試験は、線維筋痛症に対する遺伝的感受性の可能性を指摘している。
【0008】
線維筋痛症の治療はしばしば多面的であり、典型的には状態自体を治療するのではなく関連症状を緩和することを目指す。鎮痛薬、抗炎症薬及び筋弛緩薬などの薬剤が疼痛を軽減する上で有益であり得る。抗うつ薬も処方され得る。補完療法としては以下のものが含まれる:理学療法、治療的マッサージ、筋筋膜リリース療法、水療法、軽度の有酸素運動、食事調節、指圧、熱又は低温の適用、刺鍼術、ヨガ、弛緩訓練、呼吸法、芳香療法、認知療法、バイオフィードバック、ハーブ、栄養補助食品、及び整骨術又はカイロプラクティック手技。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
線維筋痛症の管理のための上記のすべてのアプローチにもかかわらず、線維筋痛症の有効な薬剤治療のための探索が続けられている。広範囲の化合物に関して多数の試験が実施され、そのような試験は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,610,324号においてさらに説明されている。これまでに評価されたいずれの薬剤も、症状の緩和を超えた長期的な線維筋痛症の治療のために特に有用性を示しておらず、線維筋痛症の有効な薬剤治療に対する必要性が現在も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、線維筋痛症又は中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome)(CSS)の下に分類される他の状態の治療において有用な医薬組成物を提供する。医薬組成物は、一般に単独又は1以上のさらなる医薬的に活性な化合物と組み合わせたドロキシドパを含む。
【0011】
1つの態様では、本発明は線維筋痛症を治療する方法を提供する。1つの実施形態では、本発明の方法は、線維筋痛症に罹患している被験者に治療有効量のドロキシドパを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0012】
一部の実施形態では、治療は、線維筋痛症に罹患し、慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病などの線維筋痛症の兆候であることが公知の症状を示す被験者において適応とされ得る。そのような実施形態では、治療の方法は症状を軽減又は除去することを含み得る。
【0013】
さらなる実施形態では、治療は、線維筋痛症に罹患し、慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病などの線維筋痛症の兆候であることが公知の症状を以前に示したことが知られている被験者において適応とされ得る。そのような実施形態では、治療の方法は症状の再発を予防することを含み得る。
【0014】
特定実施形態では、本発明の方法は、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減又は除去するために線維筋痛症に罹患している患者を治療することを含む。好ましくは、そのような線維筋痛症関連疼痛が少なくとも40%軽減される。線維筋痛症の有効な治療は、従って、線維筋痛症関連疼痛の有効な軽減によって証明され得る。
【0015】
他の実施形態では、本発明の方法は、線維筋痛症に関連するうつ病を軽減又は除去するために線維筋痛症に罹患している患者を治療することを含む。
【0016】
本発明はまた、その組合せがCSS、特に線維筋痛症の治療において特に有用であり得る、活性物質の様々な組合せを提供する。そこで、本発明は、その組合せがCSS、特に線維筋痛症を治療するための方法において使用できる、ドロキシドパと1以上のさらなる医薬的に活性な化合物の組合せを提供する。一部の実施形態では、上記の1以上のさらなる医薬的に活性な化合物は、線維筋痛症に関連する症状の治療又は予防のために有用な化合物を含む。例えば、そのようなさらなる医薬的に活性な化合物は、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬、三環式化合物、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、並びにノルエピネフリン及びドパミン再取り込み阻害薬など)、抗炎症薬、筋弛緩薬、抗生物質、気分安定剤、抗精神病薬、セロトニン受容体アンタゴニスト、セロトニン受容体アゴニスト、鎮痛薬、興奮剤、NMDA受容体リガンド、s−アデノシル−メチオニン、ゾピクロン、クロルメザノン、プログルメタシン、5−OH−L−トリプトファン、ガバペンチン、プレガバリン及びタモキシフェンを含み得る。特定実施形態では、本発明は、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、セルトラリン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、デシプラミン、トラゾドン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネフォパム、ブプロピオン、及びそれらの組合せなどの、1以上の抗うつ薬と組み合わせてドロキシドパを含む組成物を対象とする。
【0017】
本発明はまた、ドロキシドパの活性に対して補完的な活性を有する1以上の付加的な活性物質と組み合わせてドロキシドパを投与することを含む、線維筋痛症を治療する方法を包む。1つの特定実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上のDOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、線維筋痛症を治療する方法を提供する。好ましくは、DOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物はベンセラジド及びカルビドパからなる群より選択される。
【0018】
さらなる実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、線維筋痛症を治療する方法を提供する。選択的に、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害化合物は、エンタカポン、トルカポン及びニテカポンなどの特定群の化合物から選択される。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上のコリンエステラーゼ阻害化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、線維筋痛症を治療する方法を提供する。選択的に、コリンエステラーゼ阻害化合物は、ピリドスチグミン、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン、ネオスチグミン、メトリホナート、フィソスチグミン、アンベノニウム、デメカリウム、チアフィソベニン(thiaphysovenine)、フェンセリン、エドロホニウム、シムセリン及びそれらの組合せなどの特定群の化合物から選択される。
【0020】
さらに別の実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上のモノアミンオキシダーゼ阻害化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、線維筋痛症を治療する方法を提供する。選択的に、モノアミンオキシダーゼ阻害化合物は、セレギリン、モクロベミド及びラザベミドなどの特定群の化合物から選択される。
【0021】
ドロキシドパを1以上の付加的な活性物質と組み合わせるとき、併用投与は様々な方法によって実施され得る。例えば、ドロキシドパと付加的な活性物質が同じ医薬組成物中に存在し得る。他の実施形態では、ドロキシドパと付加的な活性物質を別々の組成物中で投与し得る。そのような実施形態では、別々の組成物を同時に又は互いにごく近接した時間内に投与し得る。又は、別々の組成物を、併用投与する活性物質の作用を最適化するために望ましいと考えられる別の時点で投与し得る。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減、除去又は予防する方法を対象とする。上記方法は、特に、線維筋痛症に罹患していると診断された患者に治療有効量のドロキシドパを含む医薬組成物を投与することを含み得る。上記のように、この方法は、本明細書で述べるような1以上の付加的な活性物質を投与することをさらに含み得る。
【0023】
本発明はまた、1以上の治療有効用量のドロキシドパを含有する容器、及び線維筋痛症などの中枢性感作症候群に罹患している被験者に治療有効量のドロキシドパを投与するための方法を説明する指示セットを含むキットなどの、本発明の方法を実施するために有用なキットを含む。
【0024】
本発明を一般的に説明したが、ここで付属の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】絞扼性神経損傷(Chronic Constriction Injury)(CCI)後の、医薬賦形剤、フルオキセチン、又は本発明の1つの実施形態に従ったドロキシドパとカルビドパの組合せで治療したラットにおける異痛の平均パーセンテージ抑制を示すグラフである。
【図2】単独で又は本発明の一部の実施形態に従って様々な付加的活性物質と組み合わせて投与したときの哺乳動物におけるドロキシドパの半減期のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を、様々な実施形態の参照を通して以下でより詳細に説明する。これらの実施形態は、この開示が十分且つ完全であるように、及び本発明の範囲を当業者に十分に伝えるために提供される。実際に、本発明は多くの異なる形態で具体化され得、本明細書で述べる実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が適用される法的必要条件を満たすために提供されるものである。本明細書において及び付属の特許請求の範囲において使用される、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈が明らかに異なる指示を与えない限り複数の指示対象を包含する。
【0027】
I.活性物質
本発明は、医薬組成物及びそのような医薬組成物を使用した線維筋痛症の治療の方法を提供する。本発明の医薬組成物は、一般に活性物質としてドロキシドパを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は1以上のさらなる活性物質を含み得る。
【0028】
A.ドロキシドパ
本発明の方法における使用のための組成物は一般に、活性物質として、ドロキシドパとして一般的に公知であり、以下式(1)において示す構造を有する、トレオ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)セリンを含む。
【化1】

ドロキシドパはまた、トレオ−β,3−ジヒドロキシ−L−チロシン、(−)−(2S,3R)−2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)プロピオン酸及びトレオ−ドパセリンとして、並びに一般用語DOPS、トレオ−DOPS及びL−DOPSとしても知られる。この化合物は光学活性であり、L−トレオ−DOPS、D−トレオ−DOPS、L−エリスロ−DOPS及びL−エリスロ−DOPSを含む、様々な形態で提供され得る。上記化合物はラセミ体としても存在し得る。本発明によれば、L−トレオ異性体が一般に好ましい。しかし、本発明はまた、その他の形態のドロキシドパを組み込んだ組成物及び使用方法も包含する。従って、本開示全体を通して使用される、「ドロキシドパ」という用語は、あらゆる単離又は精製された異性体(例えばL−トレオ異性体)並びにドロキシドパのラセミ体を包含することが意図されている。
【0029】
本発明に従って有用なドロキシドパは、ドロキシドパのL−異性体を単離するために特に有用な方法を含む、従来の方法によって製造することができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第3,920,728号、同第4,319,040号、同第4,480,109号、同第4,562,263号、同第4,699,879号、同第5,739,387号、及び同第5,864,041号参照。
【0030】
本発明はまた、1以上の医薬的に許容されるドロキシドパのエステル、アミド、塩、溶媒和物又はプロドラッグを含む組成物を包含する。1つの実施形態では、本発明は、エステル結合の加水分解又は酵素分解から生じるドロキシドパの緩徐又は遅延型脱カルボキシル化を可能にするドロキシドパエステルの使用を含む。当業者に認識されるように、ドロキシドパのエステルは、カルボン酸エステル基上の水素を何らかの適切なエステル形成基で置換することによって形成され得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,288,898号は、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、tert−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、イソペンチルエステル、n−ヘキシルエステル等を含む、N−メチルフェニルセリンの様々なエステルを開示し、本発明はそのようなエステル並びに他のエステルを包含する。本発明に従って使用できるエステル形成基のさらなる例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,864,041号に開示されている。
【0031】
B.付加的な活性物質
上記のように、一部の実施形態では、本発明の方法における使用のための組成物は、ドロキシドパに加えて1以上の活性物質を含み得る。線維筋痛症の治療のためにドロキシドパと組み合わせることができる様々な好ましい活性物質を以下に述べる。言うまでもなく、そのような開示は、ドロキシドパと組み合わせ得るさらなる活性物質の範囲を限定するとみなされるべきではない。むしろ、さらなる活性化合物、特に線維筋痛症を治療するため又は線維筋痛症に関連する症状を治療若しくは予防するために有用と同定された化合物は、本明細書において具体的に開示される化合物に加えて使用され得る。
【0032】
1つの特定実施形態では、ドロキシドパと組み合わせて使用される活性物質は、1以上のDOPAデカルボキシラーゼ(DDC)阻害剤を含む。DDCは、レボドパ(L−DOPA又は3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)及び5−ヒドロキシトリプトファン(5−HTP)の脱カルボキシル化を触媒し、それぞれドパミン及びセロトニンを生じる。同様に、DDCはドロキシドパのノルエピネフリンへの変換を触媒する。DDC阻害剤は上記の変換を妨げ、また、変換を中枢神経系内に集中させて、CNSにおけるドロキシドパの濃度を上昇させる前駆体薬剤(ドロキシドパなど)との組合せにおいて有用である。
【0033】
DDCの活性を阻害又は低下させると典型的に認識されるいかなる化合物も、本発明に従って使用することができる。本発明において有用なDDC阻害剤の非限定的な例は、ベンセラジド、カルビドパ、ジフルオロメチルドパ、α−メチルドパ、及びそれらの組合せを含む。
【0034】
さらなる実施形態では、ドロキシドパと組み合わせて使用される活性物質は、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼの機能を少なくとも部分的に阻害する1以上の化合物(そのような化合物は一般に「COMT阻害剤」と称される)を含む。カテコール−O−メチルトランスフェラーゼは、S−アデノシル−L−メチオニンからのメチル基の、ドパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン及びドロキシドパを含む様々なカテコール化合物(例えばカテコールアミン)への転移を触媒する。COMT酵素は、カテコールアミン及びカテコール構造を有する薬剤の神経外不活性化において重要であり、一般にカテコールアミンの代謝及びそれらの代謝産物に関与する最も重要な酵素の1つである。末梢及び中枢神経系を含む大部分の組織中に存在する。
【0035】
COMTの阻害剤は、カテコール化合物の半減期を延長させることによってそれらの代謝と排出を遅らせる。従って、COMT阻害剤は、天然に生じるカテコール化合物のレベルを高め、並びに投与されたカテコール化合物(パーキンソン病の対症療法のために一般的に使用される、ドパミンの直接前駆体、L−β−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)など)の薬物動態を変化させるように機能し得る。COMTの阻害剤は末梢的に作用し得る(エンタカポン化合物など)が、また別のCOMT阻害剤(トルカポンなど)は、血液脳関門を越えることができ、従って中枢的及び末梢的に作用し得る。
【0036】
COMT阻害剤として一般的に認識されるいかなる化合物も、本発明に従った付加的な活性物質として使用することができる。本発明に従った線維筋痛症の治療のためにドロキシドパとの組合せにおいて有用なCOMT阻害剤の非限定的な例は以下を含む:エンタカポン(COMTAN(登録商標)とも呼ばれる、[(E)−2−シアノ−N,N−ジエチル−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−ニトロフェニル)プロペンアミド];トルカポン(TASMAR(登録商標)とも呼ばれる、4−ジヒドロキシ−4’−メチル−5−ニトロベンゾフェノン;及びニテカポンとも呼ばれる、3−(3,4−ジヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メチレン−2,4−ペンタンジオン。上記の例に加えて、米国特許第6,512,136号(その開示は参照により本明細書に組み込まれる)は、同じく本発明に従ったCOMT阻害剤として有用であり得る様々な置換2−フェニル−1−(3,4−ジヒドロキシ−5−ニトロフェニル)−1−エタノン化合物を述べている。同様に、米国特許第4,963,590号、英国特許第2200109号、米国特許第6,150,412号、及び欧州特許第237929号は各々、本発明において有用であり得るCOMT阻害化合物の群を述べ、上記資料の各々の開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
本発明の別の実施形態によれば、ドロキシドパと組み合わせて使用される活性物質は、コリンエステラーゼの機能を少なくとも部分的に阻害する1以上の化合物を含む。そのようなコリンエステラーゼ阻害化合物はまた、抗コリンエステラーゼ化合物とも称される。コリンエステラーゼ阻害化合物は可逆性又は非可逆性であり得る。本発明は、好ましくは可逆性コリンエステラーゼ阻害剤(競合的又は非競合的阻害剤)とみなされ得る化合物を包含する。非可逆性コリンエステラーゼ阻害剤は、一般に殺虫剤(ジアジノン及びセビンなど)及び化学兵器(タビン及びサリンなど)として使用され、本発明においては好ましくない。
【0038】
コリンエステラーゼ阻害剤は、一般に、アセチルコリンエステラーゼなどの、アセチルコリンの分解に関与する化学物質の活性を低下又は妨げることによってアセチルコリン(又はコリンアゴニスト)のレベルを上昇させる化合物を含むと理解される。コリンエステラーゼ阻害剤はまた、例えばアセチルコリンの放出を刺激すること、アセチルコリン受容体の応答を高めること、又は性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GNRH)誘導性成長ホルモン放出を増強することなどの、他の作用機序を有する化合物も含み得る。さらに、コリンエステラーゼ阻害剤は神経節伝達を増強することによって作用し得る。
【0039】
コリンエステラーゼ阻害剤(又は抗コリンエステラーゼ化合物)であると一般的にみなされるいかなる化合物も、本発明において有用であり得る。本発明に従った組成物を製造するためにドロキシドパと組み合わせて有用なコリンエステラーゼ阻害剤の非限定的な例は以下を含む:ピリドスチグミン(MESTINON(登録商標)又はRegonol)とも呼ばれる、3−ジメチルカルバモイルオキシ−1−メチルピリジニウム;ドネペジル(ARICEPT(登録商標))とも呼ばれる、(±)−2,3−ジヒドロ−5,6−ジメトキシ−2−[[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]メチル]−1H−インデン−1−オン;リバスチグミン(Exelon)とも呼ばれる、(S)−N−エチル−3−((1−ジメチル−アミノ)エチル)−N−メチルフェニル−カルバメート;ガランタミン(REMINYL(登録商標)又はRAZADYNE(登録商標))とも呼ばれる、(4aS,6R,8aS)−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−6H−ベンゾフロ[3a,3,2ef][2]ベンズアゼピン−6−オール;タクリン(COGNEX(登録商標))とも呼ばれる、9−アミノ−1,2,3,4−テトラヒドロアクリジン;ネオスチグミンとも呼ばれる、(m−ヒドロキシフェニル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェートジメチルカルバメート;メトリホナート又はトリクロロホンとも呼ばれる、1−ヒドロキシ−2,2,2−トリクロロエチルホスホン酸ジメチルエステル;フィソスチグミンとも呼ばれる、1,2,3,3A,8,8A−ヘキサヒドロ−1,3a,8−トリメチルピロロ−[2,3−b]−インドール−5−オールメチルカルバメートエステル;アンベノニウム(MYTELASE(登録商標))とも呼ばれる、[オキサリルビス(イミノエチレン)]−ビス−[(o−クロロベンジル)ジエチルアンモニウム]ジクロリド;エドロホニウム(ENLON(登録商標))とも呼ばれる、エチル(m−ヒドロキシフェニル)ジメチルアンモニウム;デメカリウム;チアフィソベニン;フェンセリン;及びシムセリン。
【0040】
より一般的には、本発明に従ったコリンエステラーゼ阻害剤として有用な化合物は、カルバメート化合物、特にフェニルカルバメート、有機リン酸化合物、ピペリジン、及びフェナントリン誘導体を含み得る。本発明はさらに、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2005/0096387号に開示されているような、カルバモイルエステルであるコリンエステラーゼ阻害剤を含む。
【0041】
上記群の化合物及び特定化合物は、本発明において有用なコリンエステラーゼ阻害剤のタイプを例示するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するとみなされるべきではない。実際に、本発明は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、以下の資料において述べられている化合物を含む、様々なさらなるコリンエステラーゼ阻害剤を包含し得る。Brzostowska,Malgorzata,et al.“Phenylcarbamates of (−)−Eseroline,(−)−N1−Noreseroline and (−)−Physovenol:Selective Inhibitors of Acetyl and,or Butyrylcholinesterase.”Medical Chemistry Research.(1992)Vol.2,238−246;Flippen−Anderson,Judith L.,et al.“Thiaphysovenol Phenylcarbamates:X− ray Structures of Biologically Active and Inactive Anticholinesterase Agents.”Heterocycles.(1993)Vol.36,No.1;Greig,Nigel H.,et al.“Phenserine and Ring C Hetero−Analogues:Drug Candidates for the Treatment of Alzheimer’s Disease.”Medicinal Research Reviews.(1995)Vol.15,No.1,3−31;He,Xiao−shu,et al.“Thiaphysovenine and Carbamate Analogues:A New Class of Potent Inhibitors of Cholinesterases.”Medical Chemistry Research.(1992)Vol.2,229−237;Lahiri,D.K.,et al.“Cholinesterase Inhibitors,β−Amyloid Precursor Protein and Amyloid β−Peptides in Alzheimer’s Disease.”Acta Neurologica Scandinavia.(December 2000)Vol.102(s176),60−67;Pei,Xue−Feng,et al.“Total Synthesis of Racemic and Optically Active Compounds Related to Physostigimine and Ring−C Heteroanalogues from 3[−2’−(Dimethylamino0ethyl]−2,3−dihydro−5−methoxy−1,3 −dimentyl−1H−indol−2−ol.”Helvetica Chimica ACTA. (1994)Vol.77;Yu,Qian−sheng,et al.“Total Syntheses and Anticholinesterase Activities of (3aS)−N(8)−Norphysostigmine,(3aS)−N (8)−Norphenserine,Their Antipodal Isomers,and Other N(8)−Substituted Analogues.”J. Med.Chem.(1997)Vol.40,2895−2901;及びYu,Q.S.,et al.“Novel Phenserine−Based−Selective Inhibitors of Butyrylcholinesterase for Alzheimer’s Disease.”Reprinted with permission from J.Med.Chem.,May 20,1999,42,1855−1861。
【0042】
本発明のさらに別の実施形態によれば、ドロキシドパと組み合わせて使用される活性物質は、モノアミンオキシダーゼの機能を少なくとも部分的に阻害する1以上の化合物を含む。モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)は、典型的には脱アミノ化を通して、モノアミン化合物を分解するように機能する、人体の脳及び肝臓において一般的に認められる酵素、モノアミンオキシダーゼの活性を阻害することによって作用すると理解されている化合物のクラスを含む。
【0043】
モノアミンオキシダーゼ阻害剤には2つのアイソフォーム、MAO−A及びMAO−Bが存在する。MAO−Aアイソフォームは、典型的には神経伝達物質として生じるモノアミン(例えばセロトニン、メラトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン及びドパミン)を選択的に脱アミノ化する。従って、MAOIは、抗うつ薬として及び広場恐怖症及び社会不安症などの他の社会性障害の治療のために歴史的に処方されてきた。MAO−Bアイソフォームは、フェニルエチルアミン及び微量アミンを選択的に脱アミノ化する。ドパミンは両方のアイソフォームによって等しく脱アミノ化される。MAOIは可逆性又は非可逆性であり得、特定アイソフォームに選択的であり得る。例えば、MAOIモクロベミド(Manerix又はAurorixとしても知られる)は、MAO−BよりもMAO−Aに対して約3倍選択的であることが知られている。
【0044】
MAOIとして一般的に認識されるいかなる化合物も、本発明において有用であり得る。本発明に従った組成物を製造するためにドロキシドパと組み合わせて有用なMAOIの非限定的な例は以下を含む:イソカルボキサジド(MARPLAN(登録商標))、モクロベミド(Aurorix、Manerix又はMoclodura)、フェネルジン(NARDIL(登録商標))、トラニルシプロミン(PARNATE(登録商標))、セレギリン(ELDEPRYL(登録商標)、EMSAM(登録商標)又は1−デプレニル)、ラザベミド、ニアラミド、イプロニアジド(マルシリド、イプロジド、イプロニド、リビボル又はプロピルニアジダ(propilniazida))、イプロクロジド、トロキサトン、ハルマラ、ブロファロミン(Consonar)、ベンモキシン(Neuralex)、及び5−MeO−DMT(5−メトキシ−N,N−ジメチルトリプタミン)又は5−MeO−AMT(5−メトキシ−α−メチルトリプタミン)などの特定のトリプタミン。
【0045】
特定実施形態では、ドロキシドパと組み合わせて使用される活性物質は、線維筋痛症を治療するため又は線維筋痛症に関連する症状の発現を軽減又は予防するために有用な1以上の化合物を含む。先に論じたように、線維筋痛症は、関節、筋及び筋膜の痛み、疲労、睡眠障害及びうつ病を含む様々な症状として現れる。従って、本発明の付加的な活性物質は、線維筋痛症と共に存在する上記症状のいずれかを治療、軽減又は予防するために有用な化合物を含み得る。
【0046】
一部の実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上の抗うつ薬(既に上述したMAOIに加えて)の組合せを投与することを含む、線維筋痛症を治療するための方法を提供する。本発明に従って有用な抗うつ薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、三環式化合物、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(5−HT−NE二重再取り込み阻害薬)、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(NRI)、並びにノルエピネフリン及びドパミン再取り込み阻害薬(NDRI)を含む。本発明に従って有用な特定抗うつ薬の非限定的な例は、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、セルトラリン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、デシプラミン、トラゾドン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネフォパム((+)−ネフォパムを含む)、及びブプロピオンを含む。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2006/0019940号は、ノルアドレナリン及びセロトニン再取り込み阻害薬として有用なベンゾキサゾシン化合物を開示し、そのような化合物は本発明に従って有用である。
【0047】
さらなる実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上の抗炎症薬の組合せを投与することを含む、線維筋痛症を治療するための方法を提供する。本発明に従って有用な抗炎症薬は、ステロイド系抗炎症薬及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を含む。本発明に従って有用な特定抗炎症薬の非限定的な例は、プレドニゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾン、イブプロフェン、ケトプロフェン、アスピリン、ナプロキセン、及びセレブレックズなどのCox−II阻害剤を含む。
【0048】
付加的な実施形態では、本発明は、ドロキシドパと1以上の筋弛緩薬の組合せを投与することを含む、線維筋痛症を治療するための方法を提供する。本発明に従って有用な筋弛緩薬は、ベンゾジアゼピン類及び非ベンゾジアゼピン類の両方を含む。本発明に従って有用な特定筋弛緩薬の非限定的な例は、ジアゼパム、アルプラゾラム、ロラゼパム、トリアゾラム、バクロフェン、カリソプロドール、クロルゾキサゾン、シクロベンザプリン、ダントロレン、メタキサロン、オルフェナドリン、パンクリオン(pancurion)、及びチザニジンを含む。
【0049】
上記化合物及び化合物のクラスは、線維筋痛症の治療のためにドロキシドパと組み合わせて使用できる活性物質のタイプの単なる例であり、本発明の限定を意図しない。むしろ、様々なさらなる活性物質が本発明に従ってドロキシドパと組み合わせることができる。さらに、本発明によれば、線維筋痛症の治療のために2以上の付加的な活性物質をドロキシドパと組み合わせることが可能である。ドロキシドパと組み合わせることができるさらなる活性物質の非限定的な例は以下を含む。抗生物質(ライム病に特異的な抗生物質など)、気分安定剤(リチウム、オランザピン、ベラパミル、クエチアピン、ラモトリジン、カルバマゼピン、バルプロエート、オキシカルバゼピン、リスペリドン、アリピプラゾール及びジプラシドンなど)、抗精神病薬(ハロペリドール及び他のブチロフェノン類、クロルプロマジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン及び他のフェノチアジン類、及びクロザピンなど)、セロトニン受容体アンタゴニスト(5−HT2及び5−HT3アンタゴニスト)(オンダンセトロン、トロピセトロン、カテンセリン、メチセルジド、シプロヘプタジン及びピゾチフェンなど)、セロトニン受容体アゴニスト(5−HT1A受容体アゴニスト)(ブスピロンなど)、鎮痛薬(アセトアミノフェン、フルピルチン及びトラマドールなど)、興奮剤(カフェイン又はモダフィニルなど)、NMDA(グルタメート)受容体リガンド(ケタミンなど)、s−アデノシル−メチオニン、ゾピクロン、クロルメザノン、プログルメタシン、5−OH−L−トリプトファン、ガバペンチン、プレガバリン及びタモキシフェン。上記化合物を化合物のクラス及び特定化合物に関して述べているが、一部のクラスの化合物の間に実質的な重複がある(気分安定剤、抗精神病薬、抗うつ薬及びセロトニン受容体アンタゴニストの間など)ことは了解される。従って、特定のクラスの化合物を例示する特定化合物はまた、1以上のさらなるクラスの化合物としても適切に同定され得る。従って、上記分類は、線維筋痛症を治療するためにドロキシドパと組み合わせて有用な化合物のタイプの範囲を限定するとみなされるべきではない。
【0050】
II.治療の方法
本発明は、特定実施形態では、線維筋痛症の治療のための方法を提供する。さらなる実施形態では、本発明は、より一般的に、典型的には広範囲の疼痛及び/又は疲労を引き起こす、中枢性感作の病態生理学を有する状態を治療する方法を提供する。そのような状態は、中枢性感作症候群(CSS)の範疇に分類され得、線維筋痛症、慢性筋筋膜痛、慢性疲労症候群、不穏下肢症候群及び過敏性腸症候群などの疾患を含む。
【0051】
本明細書全体を通じて、本発明の治療の方法は、線維筋痛症の治療に関して参照され得る。線維筋痛症の治療は本発明の好ましい実施形態であるが、それに関する開示は本発明の範囲を限定することを意図しない。むしろ、以下でさらに述べるように、本発明は、広範囲の疼痛及び/又は疲労によって特徴づけられる様々な疾患又は状態、特にCSSの範疇として典型的に認識される状態を治療する方法を提供することができる。
【0052】
本発明の方法は、一般に、中枢性感作の状態又は一般的に広範囲の疼痛及び/又は疲労を引き起こす状態に罹患している患者にドロキシドパを投与することを含む。特定実施形態では、本発明は、線維筋痛症の症状を示す又は線維筋痛症に罹患していると診断された患者にドロキシドパを投与することを含む。さらなる実施形態では、本発明は、中枢性感作症候群の範疇に含まれる1以上のさらなる状態に罹患している患者にドロキシドパを投与することを含む。従って、本発明は、中枢性感作症候群として分類される状態を治療するための方法を提供すると表現することができる。一部の実施形態では、本発明は線維筋痛症を治療する方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、線維筋痛症に関連する症状を治療、軽減又は予防するための方法を提供すると表現することができる。特に、本発明は、線維筋痛症又はCSSとして分類される別の状態に関連する慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病を治療、軽減又は予防するための方法を提供する。
【0053】
そこで、特定実施形態では、本発明の方法は、線維筋痛症に罹患している患者を治療することを含み得る。特に、患者は、典型的には線維筋痛症に関連する、上述したような症状に罹患している患者であり得、治療はその症状を軽減又は除去することを含み得る。同様に、患者は、以前に線維筋痛症の症状に罹患したことがある患者であり得、治療は、症状の再発を予防すること又は再発時の症状の重症度を軽減することを含み得る。
【0054】
線維筋痛症の根底にある正確な原因は完全には理解されていないが、大部分の研究者は、線維筋痛症が神経内分泌/神経伝達物質調節不全を含む中枢神経系のプロセシング障害に関わることに同意している。特に、線維筋痛症は神経伝達物質セロトニン及びノルエピネフリンの低レベルに関連付けられ、脳内の神経伝達物質レベルを上昇させる手段は線維筋痛症を治療する上で有効であり得る。セロトニン及びノルエピネフリンは下行性疼痛経路の鍵となるメディエイターであると思われるので、これらの神経伝達物質のレベルを上昇させることは、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減するために特に有用であり得る。線維筋痛症のための介入処置は、従って、神経伝達物質再取り込み阻害剤を含んできた。しかし、多くの再取り込み阻害剤は、同時に望ましくない副作用(例えば体重変化、睡眠障害及び性的機能不全)も生じさせる。
【0055】
ドロキシドパは、芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼDDCの作用によってノルエピネフリンに変換される。ドロキシドパは、上記の変換過程を通してノルエピネフリンレベルを上昇させるその能力のために、中枢性感作の状態、特に線維筋痛症を治療するために有用であると考えられる。線維筋痛症(及びCSSの範疇に分類される他の状態)はノルエピネフリンレベルの低下に結びつくので、特にCNSにおいて、ノルエピネフリンの使用可能な量を上昇させる治療は、そのような状態を治療するために有益である。例えば、ある公表された研究は、自律神経機能不全(すなわち起立性低血圧)と線維筋痛症との間の因果関係の可能性を示唆している。そのような研究は低いノルエピネフリンレベルと線維筋痛症との間の関係を確認し、従って、線維筋痛症を治療するためにノルエピネフリンレベルを上昇させることが指示される。Lowe,P.,(1998)Cardiol.Rev.6(3);125−134、及びLowe,P.(1995),Lancet 345(8950):623−624参照。
【0056】
先に述べたように、線維筋痛症は、感覚刺激の全身性知覚亢進によって特徴づけられ、筋、筋膜及び関節の広範囲のうずき、痛み及びこわばり、並びに軟組織の圧痛として現れる慢性疼痛状態である。線維筋痛症を有する患者は、異痛(痛くない刺激による痛み)及び痛覚過敏(疼痛刺激に対する感受性上昇)の両方の形態の疼痛知覚異常を示す。従って、疼痛緩和と有効な線維筋痛症治療の間には明らかな結びつきが存在し、この結びつきは文献において広く報告されている。
【0057】
I.J.Russell(Am.J.Med.Sci.,315(6):377−384)による1998年の試験は、線維筋痛症を有する人々は、通常なら痛くない圧刺激から痛みを経験するので、異痛という用語が線維筋痛症と適切に関連することを認めた。そこで、Russellは、動物試験の侵害受容性神経伝達物質が、線維筋痛症に一般的である、慢性の広範囲にわたる疼痛のヒトモデルに関連すると判定した。疼痛と線維筋痛症との間の関連性及び慢性疼痛の有効な治療によって実証された線維筋痛症の治療に対する効果は、文献においてさらに裏づけられる。Bomholt et al.(Brain Res.,1044(2):216−226)による2005年の試験は、線維筋痛症などの慢性疼痛状態が、慢性疼痛の症状を悪化させ得る深刻な視床下部−下垂体−副腎(HPA)系機能不全に関連することを明らかにした。Pedersen et al.(Psychopharmacology(Berl),182(4):551−561)による別の2005年の試験は、持続性の神経因性疼痛のラットモデルにおいて、抗侵害受容が多数のサブタイプのモノアミン輸送体の並行阻害によって選択的に増強されると判定した。Gracely et al.(Arthritis & Rheumatism,46(5):1333−1343)による2002年の試験は、線維筋痛症がヒト脳における疼痛プロセシングの皮質及び皮質下増強によって特徴づけられることの証拠を提供するために機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使用した。Bennett,G.J.及びXie,Y.K.(Pain,33(1):87−107)による1988年の試験は、慢性絞扼性神経損傷(CCI)を通して作製された末梢単神経障害のラットモデルが、ヒトによって経験されるような疼痛感覚障害の有効なモデルであることを示した。以下の実施例1は、そのようなモデルを使用して、慢性疼痛の軽減を通して線維筋痛症を治療するための本発明の有効性を例証する。
【0058】
本発明は、従って特に、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減又は除去することを通じて線維筋痛症を治療する能力によって特徴づけられる。そのような疼痛は、慢性疼痛、異痛又は痛覚過敏であり得、それらすべてが、一般に線維筋痛症と結びついており、患者が線維筋痛症に罹患していることの明らかな指標として認識されている。特定実施形態では、本発明の方法は、疼痛を少なくとも約30%軽減するために有用である。そのような疼痛の軽減は、公知の疼痛部位の触診によって患者の応答を測定することなどの、客観的試験によって測定され得る。同様に、疼痛軽減は、治療を考慮して患者の全体的疼痛レベルを説明する、患者からの主観的報告としても評価できる。好ましくは、本発明の方法は、疼痛を少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%又は少なくとも約90%軽減するために有用である。特定実施形態では、本発明に従った治療によって疼痛を完全に除去することができる。
【0059】
他の特定実施形態では、本発明の方法は、線維筋痛症に関連するうつ病を軽減又は除去するために特に有用である。うつ病と線維筋痛症がしばしば併発することは容易に認識される。線維筋痛症の慢性疼痛、並びに有効な治療の欠乏は、しばしばうつ病を導き得る。神経伝達物質レベルとうつ病及び線維筋痛症の間の結びつきには、しかしながら、共通の基礎となる原因も存在し得る。そこで、本発明によれば、線維筋痛症の治療が、しばしば線維筋痛症に関連する抑うつ状態の有効な軽減又は除去によって証明され得ることが認められた。うつ病の軽減は、患者によって自己報告される改善として示され得る。さらに、うつ病の軽減(及び従って線維筋痛症の有効な治療)はまた、以前に抑うつ状態であった被験者の客観的評価及びうつ病軽減の特定指標、例えば活動の増加、様々な刺激への関心の増大等を認めることによっても示され得る。
【0060】
本発明によって提供される治療の方法は、線維筋痛症に罹患している被験者に、ドロキシドパを投与又は本明細書で述べるような1以上のさらなる活性物質と組み合わせてドロキシドパを投与することを含む。一部の実施形態では、上記の1以上のさらなる活性物質は、ドロキシドパに保存作用を提供する。さらなる実施形態では、上記の1以上のさらなる活性物質は、好ましくは疼痛、うつ病、疲労、低血圧又は睡眠障害などの線維筋痛症に関連する症状の1以上を治療又は軽減する、ドロキシドパの作用に補完的な作用を提供する。
【0061】
特定実施形態では、ドロキシドパは1以上のDDC阻害剤と組み合わされる。そのような組合せは、ドロキシドパの作用をノルエピネフリンレベルを上昇させることに集中させるために特に有益である。ベンセラジド及びカルビドパなどの多くのDDC阻害剤は中枢神経系に入らない。むしろ、それらは末梢内にとどまって、化合物(レボドパ又はドロキシドパなど)が活性代謝産物(ノルエピネフリンなど)に脱カルボキシル化することを防ぐ。そこで、非CNS DDC阻害剤をドロキシドパと組み合わせて投与したとき、DDC阻害剤は末梢におけるドロキシドパの脱カルボキシル化を妨げ、従って、より多くのドロキシドパが無傷でCNSに入ることを可能にする。ひとたびCNS内に入れば(従ってDDC阻害剤から分離されれば)、ドロキシドパはノルエピネフリンに変換され得る。従って、ドロキシドパとDDC阻害剤の組合せは、CNS内でノルエピネフリンを提供するドロキシドパの有効能力を高めることができ、それにより、線維筋痛症の治療にあたって有効であるために必要なドロキシドパの用量を低減することができる。
【0062】
先に述べたように、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼは、ドパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン及びドロキシドパを含む、カテコールアミンの代謝に直接関与する。従って、COMT阻害剤と組み合わせてドロキシドパを提供することにより、線維筋痛症に作用するドロキシドパの能力が保存される。具体的には、COMTの作用を阻害することにより、COMT阻害化合物はドロキシドパ(並びにノルエピネフリン自体)の代謝を緩慢又は遅延させる。これは、投与されたドロキシドパのピーク血漿濃度(Cmax)と半減期の両方を上昇させることによってドロキシドパの全体的血漿濃度に影響を及ぼす。線維筋痛症の有効な治療を制限することなくドロキシドパの用量低下を可能にするという点で、これは特に有益である。さらに、ドロキシドパとCOMT阻害剤の組合せは、ドロキシドパ活性の期間を上昇させる(すなわちノルエピネフリン活性の期間を上昇させる)ために有効であり得、それは、ドロキシドパの投与頻度の減少を可能にし得る。
【0063】
MAOIとドロキシドパの組合せは、体内ノルエピネフリンレベルを保存するという同様の作用を有する。特定実施形態では、MAOIは、ドロキシドパの変換から形成されたものを含む、ノルエピネフリンを分解するモノアミンオキシダーゼの作用を阻害する。従って、ドロキシドパの半減期が上昇するので、ドロキシドパの血漿濃度はプラスの影響を受ける。これはやはり、線維筋痛症の有効な治療を制限することなくドロキシドパの用量低下を可能にするという点で特に有益である。さらに、ドロキシドパとMAOIの組合せはまた、ドロキシドパ活性の期間を上昇させるために有効であり、それはやはり、ドロキシドパの投与頻度の減少を可能にし得る。
【0064】
一部の実施形態では、コリンエステラーゼ阻害剤とドロキシドパの組合せは、相乗作用特性に起因して特に有効である。先に述べたように、一部のコリンエステラーゼ阻害剤(ピリドスチグミンなど)は、神経節伝達を増強し、それによって線維筋痛症に直接影響を及ぼして、線維筋痛症及びその関連症状のためのある程度の治療を提供することが認められた。ドロキシドパとコリンエステラーゼ阻害剤の相乗作用が、従って、想定され得る。例えば特定実施形態では、ピリドスチグミンをドロキシドパと組み合わせることができ、ピリドスチグミンは神経節伝達を増強し、一方ドロキシドパは神経節後ニューロンにノルエピネフリンを負荷するように働く。
【0065】
さらなる活性物質とドロキシドパの組合せも、線維筋痛症の治療において特に有用である。例えば、1以上の抗うつ薬とドロキシドパを組み合わせることは相乗作用を導き得る。さらに、神経伝達物質のレベルに影響を及ぼす治療は、最大有効性に達するために1〜3週間の「蓄積(build−up)」期を必要とすることが公知である。そこで、炎症又は睡眠障害などの、線維筋痛症に関連する症状の即時緩和を提供することができる1以上のさらなる活性物質とドロキシドパを組み合わせることは特に有用であり得る。
【0066】
III.生物学的に活性な変異体
活性物質として本明細書で開示する様々な化合物の生物学的に活性な変異体も、特に、本発明によって包含される。そのような変異体は、もとの化合物の全般的生物活性を保持すべきである。しかし、付加的な活性の存在は必ずしも本発明におけるその使用を制限しない。そのような活性は、そのような活性を同定するために一般に有用であると当業者によって認識され得る標準試験方法及びバイオアッセイを用いて評価され得る。
【0067】
本発明の1つの実施形態によれば、適切な生物学的に活性な変異体は、本明細書で述べる化合物の類似体及び誘導体を含む。実際に、本明細書で述べるような1つの化合物は、類似の活性を有する及び従って、本発明に従った有用性を有する類似体又は誘導体のファミリー全体を生じさせ得る。同様に、本明細書で述べるような1つの化合物は、本発明に従って有用な化合物のより大きなクラスの1つのファミリー成員であり得る。従って、本発明は、本明細書で述べる化合物だけでなく、そのような化合物の類似体及び誘導体、特に当分野で一般的に公知の方法によって同定可能であり、当業者に認識され得るものを全面的に包含する。
【0068】
活性物質として本明細書で開示する化合物はキラル中心を含んでもよく、(R)又は(S)立体配置のいずれかであり得るか又はその混合物を含み得る。従って、本発明はまた、該当する場合は、個別の又は何らかの比率で混合された、本明細書で述べる化合物の立体異性体を含む。立体異性体は、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ混合物、及びそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。そのような立体異性体は、エナンチオマー出発物質を反応させることによって、又は本発明の化合物の異性体を分離することによって、従来技術を用いて製造し、分離することができる。異性体は幾何異性体を含み得る。幾何異性体の例は、二重結合を越えるシス異性体又はトランス異性体を含むが、これらに限定されない。本発明の化合物の中で他の異性体も考慮される。異性体は、純粋な形態で又は本明細書で述べる化合物の他の異性体との混合物として使用し得る。
【0069】
光学活性形態を製造し、活性を測定するための様々な方法が当分野において公知である。そのような方法は、本明細書で述べる標準的試験及び当分野で公知の他の同様の試験を含む。本発明に従った化合物の光学異性体を得るために使用できる方法の例は以下を含む。
i)個々のエナンチオマーの巨視的結晶を手動で分離する、結晶の物理的分離。この手法は、特に、別個のエナンチオマーの結晶が存在し(すなわち物質が集合体である)、結晶が肉眼ではっきり見えるときに使用し得る。
ii)ラセミ化合物が固体状態の集塊である場合にのみ可能な、個々のエナンチオマーをラセミ化合物の溶液から別々に晶出させる、同時結晶化。
iii)酵素とエナンチオマーの異なる反応速度によってラセミ化合物を部分的又は完全に分離する、酵素的分割。
iv)合成の少なくとも1つの工程が、所望エナンチオマーの鏡像異性的に純粋又は富化された合成前駆体を得るために酵素反応を使用する合成手法である、酵素的不斉合成。
v)キラル触媒又はキラル補助剤を使用して達成され得る、生成物中に不斉性(すなわちキラリティー)をつくり出す条件下でアキラルな前駆体から所望エナンチオマーを合成する、化学的不斉合成。
vi)ラセミ化合物を、個々のエナンチオマーをジアステレオマーに変換する鏡像異性的に純粋な試薬(キラル補助剤)と反応させる、ジアステレオマー分離。生じたジアステレオマーを、次に、それらのより明確な構造的相違に基づくクロマトグラフィー又は結晶化によって分離し、その後キラル補助剤を除去して所望エナンチオマーを得る。
vii)ラセミ化合物からのジアステレオマーが平衡して、所望エナンチオマーからジアステレオマーが溶液中で優勢になるか、又は所望エナンチオマーからのジアステレオマーの選択的結晶化が平衡を乱して、最終的に原則としてすべての物質が所望エナンチオマーから結晶性ジアステレオマーに変換される、一次及び二次不斉変換。その後所望エナンチオマーがジアステレオマーから遊離される。
viii)速度論的条件下でのキラルな非ラセミ試薬又は触媒とエナンチオマーの不等反応速度に基づくラセミ化合物の(又は部分的に分割された化合物のさらなる分割の)部分的又は完全な分割を含む速度論的分割。
ix)所望エナンチオマーが非キラルな出発物質から得られ、合成工程の間に立体化学的完全性が損なわれない又は最小限にしか損なわれない、非ラセミ前駆体からのエナンチオ特異的合成。
x)ラセミ化合物のエナンチオマーが、液体移動相において固定相とのそれらの異なる相互作用によって分離される、キラル液体クロマトグラフィー。固定相がキラルな物質で形成され得るか又は移動相が異なる相互作用を誘発するための付加的なキラル物質を含み得る。
xi)固定された非ラセミキラル吸着層を含むカラムとのガス移動相におけるそれらの異なる相互作用によってラセミ化合物が揮発され、エナンチオマーが分離される、キラルガスクロマトグラフィー。
xii)特定キラル溶媒中への1つのエナンチオマーの選択的溶解によってエナンチオマーが分離される、キラル溶媒での抽出。及び
xiii)ラセミ化合物を薄膜障壁と接触させる、キラル膜を通しての輸送。障壁は、典型的には、一方がラセミ化合物を含む、2つの混和性流体を分離し、濃度又は圧力差などの推進力が膜障壁を通過する選択的輸送を生じさせる。ラセミ化合物の1つのエナンチオマーだけが通過することを許容する膜の非ラセミキラル特性の結果として分離が起こる。
【0070】
化合物は、場合により、1つのエナンチオマーが過剰に存在する、特に100%を含む、95%以上、又は98%以上の程度に存在するエナンチオマーの混合物などの、鏡像異性的に冨化された組成物として提供され得る。
【0071】
活性物質として本明細書で述べる化合物はまた、それらが本発明に従った薬理学的活性を保持する限り、エステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ又は代謝産物の形態であり得る。本発明の化合物のエステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ及び他の誘導体は、例えば参照により本明細書に組み込まれる、J.March,Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.(New York:Wiley−Interscience,1992)によって述べられている方法などの、当分野で一般的に公知の方法に従って製造され得る。
【0072】
本発明に従って有用な化合物の医薬的に許容される塩の例は、酸付加塩を含む。しかし、医薬的に許容されない酸の塩も、例えば化合物の製造及び精製において、有用であり得る。本発明に従った適切な酸付加塩は、有機及び無機酸を含む。好ましい塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びイセチオン酸から形成されるものを含む。他の有用な酸付加塩は、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、サリチル酸等を含む。医薬的に許容される塩の特定例は、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、ヘキシン−1,6−二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩及びマンデル酸塩を含むが、これらに限定されない。
【0073】
酸付加塩は、適切な塩基での処理によって遊離塩基に再変換され得る。本発明に従って有用な化合物上に存在し得る酸部分の塩基性塩の製造は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリエチルアミン等のような医薬的に許容される塩基を用いて同様の方法で実施され得る。
【0074】
本発明に従った活性物質化合物のエステルは、化合物の分子構造内に存在し得るヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基の官能基化を通して製造され得る。アミド及びプロドラッグも、当業者に公知の手法を用いて製造され得る。例えば、アミドは、適切なアミン反応物を用いてエステルから製造され得るか、又は無水物若しくは酸塩化物からアンモニア若しくは低級アルキルアミンとの反応によって製造され得る。さらに、本発明の化合物のエステル及びアミドは、適切な有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド)中、0℃〜60℃の温度で、カルボニル化剤(例えばギ酸エチル、無水酢酸、塩化メトキシアセチル、塩化ベンゾイル、イソシアン酸メチル、クロロギ酸エチル、塩化メタンスルホニル)及び適切な塩基(例えば4−ジメチルアミノピリジン、ピリジン、トリエチルアミン、炭酸カリウム)との反応によって製造できる。プロドラッグは、典型的には部分の共有結合によって製造され、これは、個人の代謝系によって修飾されるまで治療的に不活性である化合物を生じさせる。医薬的に許容される溶媒和物の例は、水、イソプロパノール、エタノール、メタノール、DMSO、酢酸エチル、酢酸又はエタノールアミンと組み合わせた本発明に従った化合物を含むが、これらに限定されない。
【0075】
固体組成物の場合、本発明の方法において使用される化合物が種々の形態で存在し得ることは了解される。例えば、化合物は、安定及び準安定結晶形態並びに同位体及び非晶質形態で存在することができ、それらすべてが本発明の範囲内であることが意図されている。
【0076】
本発明に従って活性物質として有用な化合物が塩基である場合、所望の塩は、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸のような無機酸で、又は酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、グルクロン酸及びガラクツロン酸などのピラノシジル酸、クエン酸及び酒石酸などのα−ヒドロキシ酸、アスパラギン酸及びグルタミン酸などのアミノ酸、安息香酸及び桂皮酸などの芳香族酸、p−トルエンスルホン酸又はエタンスルホン酸などのスルホン酸等のような有機酸で遊離塩基を処理することを含む、当分野で公知の何らかの適切な方法によって製造され得る。
【0077】
活性物質として本明細書で述べる化合物が酸である場合、所望の塩は、アミン(第一級、第二級又は第三級)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物等のような無機又は有機塩基で遊離酸を処理することを含む、当分野で公知の何らかの適切な方法によって製造され得る。適切な塩の具体例は、グリシン及びアルギニンなどのアミノ酸、アンモニア、第一級、第二級及び第三級アミン、及びピペリジン、モルホリン及びピペラジンなどの環状アミンから誘導される有機塩、及びナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びリチウムから誘導される無機塩を含む。
【0078】
本発明は、本明細書で述べる活性物質化合物のプロドラッグ及び活性代謝産物をさらに含む。本明細書で述べる化合物のいずれもが、化合物の活性、バイオアベイラビリティー又は安定性を高めるため、又は化合物の性質を変化させるためにプロドラッグとして投与することができる。プロドラッグの典型的な例は、活性化合物の機能性部分上に生物学的に不安定な保護基を有する化合物を含む。プロドラッグは、酸化、還元、アミノ化、脱アミノ化、ヒドロキシル化、脱ヒドロキシル化、加水分解、脱加水分解(dehydrolyzed)、アルキル化、脱アルキル化、アシル化、脱アシル化、リン酸化、及び/又は脱リン酸化して、活性化合物を生成することができる化合物を含む。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、異常増殖する細胞に対して抗増殖活性を有するか、又はそのような活性を示す化合物に代謝される。
【0079】
多くのプロドラッグリガンドが公知である。一般に、遊離アミン又はカルボン酸残基などの、化合物の1以上のヘテロ原子のアルキル化、アシル化又は他の脂質親和性修飾は、極性を低下させ、細胞内への通過を可能にする。遊離アミン及び/又はカルボン酸部分上の1以上の水素原子を置換することができる置換基の例は、以下を含むがこれらに限定されない。アリール基、ステロイド類、炭水化物(糖類を含む)、1,2−ジアシルグリセロール、アルコール、アシル(低級アシルを含む)、アルキル(低級アルキルを含む)、スルホン酸エステル(メタンスルホニル及びベンジルなどの、アルキル又はアリールアルキルスルホニルを含む、但しフェニル基は、場合により、本明細書で述べるアリールの定義において提供される1以上の置換基で置換されている)、場合により置換されたアリールスルホニル、脂質(リン脂質を含む)、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、アミノ酸残基又は誘導体、アミノ酸アシル残基又は誘導体、ペプチド、コレステロール、又は、インビボで投与したとき、遊離アミン及び/又はカルボン酸部分を与える、他の医薬的に許容される脱離基。これらのいずれもが、所望作用を達成するために開示される活性物質と組み合わせて使用できる。
【0080】
IV.医薬組成物
本発明の方法において使用される個々の活性物質化合物を化学原料形態(raw chemical form)で投与することは可能であるが、化合物を医薬組成物として送達することが好ましい。従って、本明細書で述べる1以上の化合物を活性物質として含む医薬組成物が本発明によって提供される。それ自体、本発明の方法において使用される組成物は、上述したように、医薬的に活性な化合物、又は医薬的に許容されるそのエステル、アミド、塩、溶媒和物、類似体、誘導体又はプロドラッグを含む。さらに、組成物は、様々な組合せで製造し、送達することができる。例えば、組成物は、すべての活性物質を含有する単一組成物を含み得る。又は、組成物は、別々の活性物質を含むが、同時、連続的、又は時間的に近接して投与されることが意図された複数の組成物を含み得る。
【0081】
本明細書で述べる活性物質化合物は、そのための1以上の医薬的に許容される担体、及び場合により、他の治療薬と共に製造し、送達することができる。担体は、それらが組成物の他のいかなる物質とも適合性であり、その受容者に対して有害でないという意味で許容されるべきである。担体はまた、活性物質の望ましくない副作用を低減し得る。そのような担体は当分野において公知である。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Wang et al.(1980)J.Parent.Drug Assn.34(6):452−462参照。
【0082】
組成物は、組成物が本明細書で述べる化合物の投与を達成することを条件として、短時間型、急速作用開始型、急速消失型、制御放出型、持続放出型、遅延放出型、及び周期的放出型組成物を含み得る。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvania,1990)参照。
【0083】
本発明の方法における使用のための医薬組成物は、経口、非経口(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、関節内、滑液包内、髄腔内、動脈内、心臓内、皮下、眼窩内、関節包内、脊髄内、胸骨内及び経皮を含む)、局所(皮膚、口腔及び舌下を含む)、膣、尿道及び直腸投与を含む、様々な送達の方式に適する。投与はまた、鼻内噴霧、外科用インプラント、内部手術用ペイント、注入ポンプによって、又はカテーテル、ステント、バルーン又は他の送達装置によってであり得る。最も有用な及び/又は有益な投与方式は、特に受容者の状態及び治療される疾患に依存して、異なり得る。
【0084】
医薬組成物は、好都合には単位投与形態で提供され得、そのような組成物は、製薬分野において一般に公知の方法のいずれかによって製造され得る。一般的に言えば、そのような製造方法は、本発明の活性化合物を、1以上の成分で構成され得る適切な担体又は他の補助薬と組み合わせること(様々な方法によって)を含む。1以上の補助薬と活性物質の組合せを、次に、送達用の適切な形態の組成物を提供するために物理的に処理する(例えば錠剤に成形又は水性懸濁液を形成する)。
【0085】
経口投与に適する医薬組成物は、各々があらかじめ定められた量の活性物質を含有する、錠剤、カプセル、カプレット及びカシェ剤(速やかに溶解又は発泡するものを含む)などの様々な形態をとり得る。組成物はまた、粉末又は顆粒、水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液、及び液体エマルジョン(水中油型及び油中水型)の形態であり得る。活性物質はまた、ボーラス、舐剤又はペーストとして送達され得る。上記投与形態の製造の方法は当分野において一般に公知であり、そのようないかなる方法も、本発明に従った組成物の送達における使用のためのそれぞれの投与形態の製造に適切であることは一般的に了解される。
【0086】
1つの実施形態では、活性物質化合物は、不活性希釈剤又は食用担体などの医薬的に許容される賦形剤と組み合わせて経口的に投与され得る。経口組成物は、ハード又はソフトシェルゼラチンカプセルに封入され得るか、錠剤に圧縮され得るか又は患者の食事の食品に直接組み込まれ得る。組成物及び製剤のパーセンテージは様々であり得る。しかし、そのような治療上有用な組成物中の物質の量は、好ましくは有効用量レベルが得られる量である。
【0087】
活性物質化合物を含有するハードカプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて作製され得る。そのようなハードカプセルは化合物を含み、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む、付加的な成分をさらに含み得る。化合物を含有するソフトゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解性の組成物を用いて作製され得る。そのようなソフトカプセルは、水又は落花生油、流動パラフィン若しくはオリーブ油などの油性媒質と混合され得る、化合物を含む。
【0088】
舌下錠は、非常に迅速に溶解するように設計される。そのような組成物の例は、酒石酸エルゴタミン、二硝酸イソソルビド及び塩酸イソプロテレノールを含む。これらの錠剤の組成物は、薬剤に加えて、ラクトース、スクロース粉末、デキストロース及びマンニトールなどの様々な可溶性賦形剤を含有する。本発明の固体投与形態は、場合により被覆されてもよく、適切な被覆材料の例は、セルロースポリマー(酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、酢酸フタル酸ポリビニル、アクリル酸ポリマー及びコポリマー、及びメタクリル樹脂(EUDRAGIT(登録商標)の商標名で市販されているものなど)、ゼイン、シェラック及び多糖類を含むが、これらに限定されない。
【0089】
医薬製剤の粉末及び顆粒組成物は、公知の方法を用いて製造され得る。そのような組成物は、直接患者に投与され得るか又は、錠剤を形成する、カプセルに充填する又は水性若しくは油性ビヒクルの添加によって水性若しくは油性懸濁液若しくは溶液を調製することなどの、さらなる投与形態の製造において使用され得る。これらの組成物の各々は、分散又は湿潤剤、懸濁化剤及び防腐剤などの、1以上の添加物をさらに含み得る。付加的な賦形剤(例えば充填剤、甘味料、香味料又は着色剤)もこれらの組成物中に含まれ得る。
【0090】
経口投与に適する医薬組成物の液体組成物は、液体形態で又は使用前の水又は別の適切なビヒクルによる再構成用の乾燥製品の形態で製剤、包装、販売され得る。
【0091】
本明細書で述べる1以上の活性物質化合物を含有する錠剤は、場合により1以上の補助薬又は補助成分と共に、例えば圧縮又は成形などの、当業者に容易に公知の何らかの標準的な工程によって製造され得る。錠剤は、場合により被覆され得るか又は割線入りであり得、また活性物質の徐放又は制御放出を提供するように製剤され得る。
【0092】
組成物における使用のための補助薬又は補助成分は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、防腐剤、着香及び着色剤等のような、当分野で一般的に許容されるとみなされる医薬成分を包含し得る。結合剤は一般に、錠剤の凝集性を促進し、錠剤が圧縮後も無傷のままであることを確実にするために使用される。適切な結合剤は、デンプン、多糖類、ゼラチン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ワックス、並びに天然及び合成ゴムを含むが、これらに限定されない。許容される充填剤は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、アルミナ、滑石、カオリン、粉末セルロース及び微結晶セルロース、並びにマンニトール、尿素、スクロース、ラクトース、デキストロース、塩化ナトリウム及びソルビトールなどの可溶性材料を含む。潤滑剤は錠剤の製造を容易にするために有用であり、植物油、グリセリン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸を含む。錠剤の崩壊を促進するために有用な崩壊剤は、一般にデンプン、粘土、セルロース、アルギン、ゴム及び架橋ポリマーを含む。一般に錠剤にかさを与えるために含まれる希釈剤は、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、セルロース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン及び粉糖を含み得る。本発明に従った組成物における使用に適する界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性又は非イオン性界面活性剤であり得る。安定剤は、酸化反応などの、活性物質の分解を導く反応を阻害又は低減するために組成物中に含まれ得る。
【0093】
固体投与形態は、被覆物の適用などによって、活性物質の遅延放出を提供するように製剤され得る。遅延放出被覆物は当分野において公知であり、それを含む投与形態は、何らかの公知の適切な方法によって製造され得る。そのような方法は一般に、固体投与形態(例えば錠剤又はカプレット)の製造後に、遅延放出被覆組成物を適用することを含む。適用は、エアレススプレー、流動床被覆、コーティングパンの使用等のような方法によって実施され得る。遅延放出被覆物として使用するための材料は、実際上、セルロース系材料(例えば酪酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルエチルセルロース)、並びにアクリル酸、メタクリル酸及びそれらのエステルのポリマー及びコポリマーなどのポリマーであり得る。
【0094】
本発明に従った固体投与形態はまた、持続放出性(すなわち長期間にわたって活性物質を放出する)であり得、また遅延放出性であってもよく又はそうでなくてもよい。持続放出組成物は当分野において公知であり、一般に、不溶性プラスチック、親水性ポリマー又は脂肪族化合物などの、徐々に分解される又は加水分解される材料のマトリックス内に薬剤を分散させることによって製造される。又は、固体投与形態をそのような材料で被覆し得る。
【0095】
非経口投与用の組成物は、水性及び非水性滅菌注射溶液を含み、それらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬、及び組成物を意図される受容者の血液と等張にする溶質などの、付加的な物質をさらに含み得る。組成物は、懸濁化剤及び増粘剤を含有する、水性及び非水性滅菌懸濁液を含み得る。非経口投与用のそのような組成物は、例えば密封アンプル及びバイアルなどの、単位用量又は多回用量容器中で提供され得、使用の直前に、滅菌液体担体、例えば水(注射用蒸留水)を添加するだけでよい凍結乾燥状態で保存され得る。即時注射溶液及び懸濁液は、先に述べたような滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。
【0096】
本発明の方法における使用のための組成物はまた、経皮的に投与され得、その場合活性物質は、長期間受容者の表皮と密接に接触したままであるように適合された積層構造(一般に「パッチ」と称される)に組み込まれる。典型的には、そのようなパッチは、単層の「薬剤入り接着(drug−in−adhesive)」パッチとして又は活性物質が接着層とは別の層に含まれる多層パッチとして使用可能である。どちらのタイプのパッチも、一般に、受容者の皮膚への接着の前に除去される支持層(backing layer)及びライナーを含む。経皮薬剤送達パッチはまた、半透膜によって受容者の皮膚から引き離される支持層の下にある貯留層と接着層で構成され得る。経皮薬剤送達は、受動的拡散を通して起こり得るか又は電気輸送又はイオン泳動を用いて促進され得る。
【0097】
直腸送達用の組成物は、直腸坐薬、クリーム、軟膏及び液体を含む。坐薬は、ポリエチレングリコールなどの、当分野で一般的に公知の担体と組み合わせた活性物質として提供され得る。そのような投与形態は、速やかに崩壊するように又は長時間かけて崩壊するように設計され得、崩壊が完了するまでの時間は、約10分などの短時間から約6時間などの長時間にわたり得る。
【0098】
局所組成物は、経皮、口腔及び舌下送達を含む、体表面への活性物質の送達のために適切であり、当分野において容易に公知のいかなる形態でもよい。局所組成物の典型的な例は、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト及び液剤を含む。口腔への局所投与用の組成物はまた、トローチ剤(ロゼンジ)を含む。
【0099】
一部の実施形態では、本明細書で開示される化合物及び組成物は医療装置によって送達され得る。そのような送達は一般に、ステント、カテーテル、バルーンカテーテル、シャント又はコイルを含むがこれらに限定されない、何らかの挿入可能又は移植可能な医療装置によってであり得る。1つの実施形態では、本発明は、その表面が本明細書で述べる化合物又は組成物で被覆されている、ステントなどの医療装置を提供する。本発明の医療装置は、例えば本明細書で開示するような疾患又は状態の経過を治療、予防又は影響を及ぼすための何らかの適用において使用できる。
【0100】
本発明の別の実施形態では、本明細書で述べる1以上の活性物質を含む医薬組成物は間欠的に投与される。治療有効用量の投与は、例えば持続放出組成物のように、持続的に達成され得るか、又は例えば1日1回、2回、3回又はそれ以上の投与のように、所望1日投与レジメンに従って達成され得る。「中断(discontinuance)の期間」とは、組成物の絶え間のない持続放出又は連日投与の中断を意図する。中断の期間は、絶え間のない持続放出又は連日投与の期間より長くてもよく又は短くてもよい。中断の期間中、関連組織中の組成物の成分のレベルは、治療期間中に得られる最大レベルよりも実質的に低い。中断期間の好ましい長さは、有効用量の濃度及び使用される組成物の形態に依存する。中断期間は、少なくとも2日間、少なくとも4日間又は少なくとも1週間であり得る。他の実施形態では、中断の期間は、少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月又はそれ以上である。持続放出組成物を使用するときは、体内での組成物のより長い滞留期間を考慮して中断期間を延長しなければならない。又は、持続放出組成物の有効用量の投与の頻度をそれに応じて低減することができる。本発明の組成物の投与の間欠的スケジュールは、所望治療効果、及び最終的に疾患又は障害の治療が達成されるまで継続することができる。
【0101】
組成物の投与は、本明細書で述べる医薬的活性物質を投与すること、又は本発明で述べる1以上の医薬活性物質を1以上のさらなる医薬活性物質と組み合わせて投与すること(すなわち併用投与)を含む。従って、本明細書で述べる医薬活性物質は固定された組合せ(すなわち両方の活性物質を含有する単一医薬組成物)で投与され得ることが認識される。又は、医薬活性物質は同時に投与され得る(すなわち同時に投与される別々の組成物)。別の実施形態では、医薬活性物質は連続的に投与される(すなわち1以上の医薬活性物質の投与の後に1以上の医薬活性物質の別の投与が続く)。当業者は、投与の最も好ましい方法が所望治療効果を可能にすることを認識する。
【0102】
本発明に従った組成物の治療有効量の送達は、組成物の治療有効用量の投与によって達成され得る。従って、1つの実施形態では、治療有効量は、線維筋痛症を治療するために有効な量である。別の実施形態では、治療有効量は、線維筋痛症の症状を治療するために有効な量である。さらに別の実施形態では、治療有効量は、一般に慢性疼痛を治療するために有効な量である。さらなる実施形態では、治療有効量は、筋痛、関節痛又は神経痛を治療するために有効な量である。さらに別の実施形態では、治療有効量は、疲労を治療するために有効な量である。
【0103】
医薬組成物中に含まれる活性物質は、重篤な毒性作用を伴わずにインビボで治療量の活性物質を患者に送達するために十分な量で存在する。薬剤組成物中の活性物質の濃度は、薬剤の吸収、不活性化及び排出速度並びに当業者に公知の他の因子に依存する。投薬量の値はまた、緩和しようとする状態の重症度によっても異なることに留意すべきである。特定被験者に関して、具体的な投薬量レジメンは、個々の必要性及び組成物を投与する又は組成物の投与を監督する人物の専門的判断に従って経時的に調節すべきであること、及び本明細書で述べる投薬量範囲は単なる例示であり、特許請求される組成物の範囲又は実施を限定することを意図しないことがさらに了解されるべきである。活性物質は、一度に投与され得るか、又は様々な時間間隔で投与されるいくつかのより小さな用量に分割され得る。
【0104】
本発明に従った治療有効量は、受容者の体重に基づいて決定され得る。又は、治療有効量は、固定用量によって表すことができる。さらなる実施形態では、本明細書で開示する1以上の活性物質の治療有効量は、活性物質の投与によって達成されるピーク血漿濃度によって表すことができる。言うまでもなく、治療量が、1日を通して投与されるいくつかの分割投薬量に分けられることは了解される。医薬的に許容される塩及びプロドラッグの有効投薬量範囲は、送達される親ヌクレオシドの重量に基づいて算定され得る。塩又はプロドラッグ自体が活性を示す場合、有効用量は、塩又はプロドラッグの重量を使用して上記のように推定され得るか又は当業者に公知の他の手段によって推定され得る。
【0105】
本明細書で述べる1以上の活性物質を含む本発明の組成物は、哺乳動物、好ましくはヒトに治療有効量で投与されることが考慮される。本明細書で述べる状態又は疾患のいずれかの治療のための化合物又は組成物の有効用量は、従来の手法を使用して及び類似の状況下で得られた結果を観察することによって容易に決定できる。組成物の有効量は、被験者の体重、性別、年齢及び病歴によって異なると予想される。言うまでもなく、他の因子も送達される組成物の有効量に影響を及ぼすことがあり、そのような因子は、関与する特定疾患、疾患の関与の程度又は重症度、個々の患者の応答、投与される特定化合物、投与の方式、投与される製剤のバイオアベイラビリティー特性、選択される用量レジメン、及び併用薬剤の使用を含むが、これらに限定されない。化合物は、選択的に、治療される状態に関連する望ましくない症状及び臨床徴候を緩和するために十分な期間投与される。効果及び投薬量を測定するための方法は当業者に公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Isselbacher et al.(1996)Harrison’s Principles of Internal Medicine 13 ed.,1814−1882参照。
【0106】
一部の実施形態では、ドロキシドパの治療有効量は、約10mg〜約3gを含む。そのような治療有効量は、本発明に従った組合せの一部として使用されるとき、単回投与で提供されるドロキシドパの量である。ドロキシドパが塩、エステル、アミド又は他の医薬的に許容される形態として提供されるとき、医薬形態のドロキシドパの量は、ドロキシドパの治療有効量を送達するために必要な範囲内で変化し得ることが了解される。さらに、ドロキシドパの治療有効量は単回投与のための量として提供されるので、本明細書で示す投薬量は、必ずしも24時間のうちに投与され得るドロキシドパの最大量を表すわけではない。というのは、組合せの多回投与が様々な状態の治療のために指示されることも可能だからである。
【0107】
さらなる実施形態では、ドロキシドパの治療有効量は様々な範囲を包含することができ、適切な範囲は、治療される状態の重症度及びドロキシドパが組み合わされる1以上の付加的な化合物に基づいて決定され得る。特定実施形態では、ドロキシドパの治療有効量は、約10mg〜約2g、約10mg〜約1g、約20mg〜約900mg、約30mg〜約850mg、約40mg〜約800mg、約50mg〜約750mg、約60mg〜約700mg、約70mg〜約650mg、約80mg〜約600mg、約90mg〜約550mg、約100mg〜約500mg、約100mg〜約400mg、又は約100mg〜約300mgを含む。
【0108】
さらなる他の実施形態では、ドロキシドパの治療有効量は、持続放出、延長放出又は連続放出製剤として提供されるときなどは、さらに一層大きくなり得る。当分野において了解されるように、そのような製剤は、時間をかけて薬剤を緩やかに放出する単一投与形態として高い薬剤量を提供する。そのような製剤における使用のためのドロキシドパの治療有効量は、上述した有効量及び所与の状態を治療するために必要な投薬の頻度を考慮して算定され得る。
【0109】
本発明に従ってドロキシドパと組み合わされる1以上の付加的な化合物の治療有効量は、投薬形態中に含まれるドロキシドパの量及びドロキシドパ対付加的化合物の所望比率に関連して決定され得る。有利なことに、本発明は組合せを製剤する上で大きな柔軟性を許容する。例えば、1以上の付加的な化合物によって提供される保存作用は、ドロキシドパをより少ない量で使用することを可能にし、ドロキシドパを単独で使用して達成されるのと同じか又はより良好な治療効果を達成することができる。同様に、1以上の付加的な化合物についての典型的な推奨投薬量よりも少ない1以上の付加的な化合物の量を使用することによってドロキシドパの治療効果を高めることが可能である。
【0110】
1つの実施形態では、ドロキシドパ対1以上の付加的化合物の比率は、約500:1〜約1:10の範囲内である。さらなる実施形態では、ドロキシドパ対付加的化合物の比率は、約250:1〜約1:5、約100:1〜約1:2、約80:1〜約1:1、約50:1〜約2:1、又は約20:1〜約3:1の範囲内である。
【0111】
本発明に従ってドロキシドパと組み合わされる1以上の付加的化合物は、他の適応症のためのその化合物単独の使用に関して典型的に推奨される量で含まれ得る。しかし、上記のように、本発明によれば、特にDDC阻害剤、COMT阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤及びMAO阻害剤に関して、典型的に推奨されるよりも少ない量で付加的化合物を使用することが可能である。一部の実施形態では、ドロキシドパと組み合わされるDDC阻害剤、COMT阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤又はMAO阻害剤の治療有効量は、約1mg〜約200mgの範囲内である。言うまでもなく、この範囲は例示であり、上述したように、組合せに含まれるドロキシドパの量及び組合せ中の化合物の所望比率に依存して異なり得る。
【0112】
上記のように、ドロキシドパはまた、線維筋痛症の治療のために補完的作用を提供し得る他の活性物質(例えば抗うつ薬、抗炎症薬、筋弛緩薬、抗生物質、気分安定剤、抗精神病薬、5−HT2及び5−HT3アンタゴニスト、5−HT1A受容体アゴニスト、鎮痛薬、カフェイン、NMDA受容体リガンド、s−アデノシル−メチオニン、ゾピクロン、クロルメザノン、プログルメタシン、5−OH−L−トリプトファン、ガバペンチン、プレガバリン及びタモキシフェン)とも組み合わせ得る。そのような補完的活性物質は、それらのそれぞれの用途のために典型的に処方される量で含まれ得る。
【0113】
V.製品
本発明はまた、本明細書で述べる1以上の活性物質を含む組成物を提供する製品を含む。製品は、乾燥形態又は液体形態のいずれかで、何らかの担体と共に本発明に従った使用に適する組成物を含むバイアル又は他の容器を含み得る。特に、製品は、本発明に従った組成物が入った容器を含むキットを包み得る。そのようなキットにおいて、組成物は様々な組合せで送達され得る。例えば、組成物は、すべての活性物質を含む単回投薬量を含み得る。又は、2以上の活性物質が提供される場合、組成物は、各々が1以上の活性物質を含み、投薬量が組合せでの投与、連続投与又は他の時間的に近接する投与を意図された、多回投薬量を含み得る。例えば、薬剤は、各々が単一活性物質を含むが、組合せでの投与のためにブリスターパック、バッグ等で提供される、固体形態(例えば錠剤、カプレット、カプセル等)又は液体形態(例えばバイアル)であり得る。
【0114】
製品はさらに、本発明の方法を実施するための、容器上のラベルの形態及び/又は容器が包装されている箱の中に含まれる添付文書の形態の指示書を含む。指示書はまた、バイアルが包装されている箱の上に印刷され得る。指示書は、被験者又は現場の作業者が医薬組成物を投与することを可能にするための十分な投薬量及び投与情報などの情報を含む。現場の作業者は、医師、看護師、技術者、配偶者又は組成物を投与し得る他の介護人を包含する。医薬組成物はまた、被験者が自己投与することもできる。
【0115】
実験
ここで、様々な実施例を具体的に参照して本発明を説明する。以下の実施例は本発明の限定を意図するものではなく、例示的実施形態として提供される。
【0116】
実施例1
<カルビドパと組み合わせたドロキシドパの投与を通しての慢性疼痛の有効な治療>
カルビドパと組み合わせたドロキシドパを使用して慢性疼痛に対する感受性を低下させることを通しての線維筋痛症の治療を、絞扼性神経損傷(CCI)モデルを用いて検討した。体重160〜200gの雄Wistarラットを使用し、Bennett and Xie(Pain,33(1):87−107)に述べられている方法を用いてCCIを誘導した。具体的には、ペントバルビタール(50mg/kg、5ml/kg、i.p.)を用いた麻酔後に、坐骨神経を大腿中央部で露出させ、3つの結紮(4−0絹縫合糸)を、約1mm離して、神経の周囲にゆるく結んだ。次に動物を、柔らかな敷わらを敷いたケージ内に個体別に7日間収容した後、機械的異痛に関して試験した。試験当日、ラットを、金網のラック上で上下逆にしたプレキシガラスケージの下に置き、20〜30分間馴化させた。機械的異痛を、左後脚の足底表面中心部に対して垂直に金網床を通して適用したNo.12 Supertip(IITC,USA)に対する応答性によって評価した。脚に対してフィラメントのわずかな座屈を生じさせるのに十分な力でチップを徐々に適用した。脚の急激な引っ込めによって認められる、適用された触圧に対する陽性応答を、Electronic Von Frey Anesthesiometer(2290CE ELECTROVONFREY(登録商標),IITC,USA)によって自動的に記録した。
【0117】
神経結紮の7日後(処置前)の侵害受容応答が、神経結紮前(結紮前)の個々の脚の応答と比較して10グラムの力分低下した場合にのみ、ラットを実験のために予備選択した(異痛の明らかな存在)。処置は、1)5ml/kgの医薬ビヒクル(2%TWEEN(登録商標)80及び0.9% NaCl)、2)400mg/kgのドロキシドパと20mg/kgのカルビドパ、又は3)18mg/kgのフルオキセチンで行った。処置薬をIP注射によって10匹の動物の群に投与し、投与の60分後に異痛のレベルを測定した。
【0118】
以下の式に従って異痛を算定した。
抑制%=△処置/△ブランク×100%
[式中、△処置は、結紮後の処置前に対する触圧閾値の変化であり[(処置後)−(処置前)]、△ブランクは、結紮前の処置前に対する触圧閾値の変化である[([(結紮前)−(処置前)]。一方向ANOVAとそれに続くt検定を、試験物質処置群とビヒクル対照群の間の比較のために適用した。P<0.05で活性を有意とみなした。
【0119】
すべての群からのラットがCCI手技後に著明な異痛を発現し、表1に示すように、触覚応答の平均変化は各群について20以上であった(範囲=12.7〜26.3)。ビヒクル処置群の動物は、処置前と処置後に認められた異痛のレベルに変化がなかった(p>0.7)。異痛の抑制パーセントは、ANOVAにより3群の間で有意に異なった(p<0.0001)。フルオキセチンで処置した動物はビヒクル処置ラットと有意に異ならなかった。これに対し、400mg/kgのドロキシドパプラス20mg/kgのカルビドパで処置した動物は、ビヒクル処置動物と比較したとき有意に低いレベルの異痛を有していた(p<0.0001)。3つの群における異痛の抑制パーセントを図1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1に認められ、図1に示されるように、本発明に従った処置は、数匹の被験動物において全面的な異痛抑制を生じさせた。本発明の方法を用いた平均抑制パーセンテージはほぼ66%であった。これに対し、対照ビヒクルを用いた処置は、異痛の5%の平均上昇を生じさせた。ビヒクルで処置した2匹の被験動物は16.6%と21%の抑制を示したが、ビヒクルで処置した他の被験動物は、15.3%、16.1%、26.0%、及びさらには43.3%の異痛上昇を示した。同様に、フルオキセチンでの処置は1%未満の平均異痛抑制を生じさせた。やはり、フルオキセチンで処置した1匹の被験動物が25%の異痛抑制を示した。しかし、他のフルオキセチン処置被験動物は、40.1%にのぼる異痛上昇を示した。
【0122】
実施例2
<ドロキシドパの組合せの薬物動態特性>
本発明の方法において有用なドロキシドパの組合せの薬物動態特性を雄Sprague Dawleyラットにおいて評価した。各群4匹のラットの4つの試験群を確立した。第1群は、基線群としてドロキシドパ単独を投与した。第2群は、ドロキシドパをCOMT阻害剤エンタカポンと組み合わせて投与した。第3群は、ドロキシドパをコリンエステラーゼ阻害剤ピリドスチグミンと組み合わせて投与した。第4群は、ドロキシドパをMAOIニアラミドと組み合わせて投与した。各群について、ドロキシドパ又はドロキシドパの組合せは、0.2%TWEEN(登録商標)80乳化剤と1%カルボキシメチルセルロースを含む水溶液で形成したビヒクルと共に製剤した。様々な製剤中で提供されるドロキシドパ、エンタカポン、ピリドスチグミン、ニアラミド及びビヒクルの重量を表2に示す。各成分の算出された濃度は表3に別々に示している。製剤2〜7で使用したエンタカポン、ピリドスチグミン及びニアラミドの量は、それらのそれぞれの公知の適応症に関して一般的に認められている用量範囲の文献中の開示に基づき「低」用量及び「高」用量として提供した。
【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
各群のラットにドロキシドパ単独又はドロキシドパの組合せの単一経口投与用量を与え、投与の時間を時間=0として記録した。投与量は被験動物の体重に基づき、すべての被験動物に約100mg/kg体重のドロキシドパ用量を与えるように調整した。血液試料(約100μL)を投与の約5、15及び30分後、及び投与の約1、2、4、8及び24時間後に採取した。投与と採血は留置頸静脈カニューレを通して実施した。血液試料をヘパリン化1mL注射器(ヘパリン溶液[1000U/mL]5μLを充填した)に吸い込み、その後微量遠心機に移した。
【0126】
0.2%ギ酸を含むアセトニトリル(100μL)を微量遠心管中の各々の血漿試料25μLに添加した。内部標準(アセトニトリル中4μg/mLの3,4−ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)5μL)を添加し、試料をボルテックス撹拌して、遠心分離機にかけてタンパク質を沈殿させた。上清をインサート付きオートサンプラー用バイアルに移し、Agilent 100高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)装置に接続したApplied Biosystems API 4000液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)装置に注入した。データを収集し、Analystソフトウエアを用いて処理した。オートサンプラーを4℃に冷却し、試料注入量は5μLであった。ガードカラムを備えるWaters Atlantis dC18カラム(25cm×4.6mm、5μm)でクロマトグラフィーを実施した。溶媒は0.2%ギ酸を含む水であり、流速は0.8mL/分に設定した。
【0127】
ドロキシドパ単独又は本発明に従ったドロキシドパの組合せの投与後のラット被験動物における血漿ドロキシドパ濃度を表4に示す。標準品として、ドロキシドパ又はドロキシドパの組合せを含まない薬剤ビヒクルを投与したラットにおける血漿ドロキシドパ濃度も評価し、ビヒクルだけを投与したラットからの血漿では24時間にわたってドロキシドパは検出されなかった。同様に、ドロキシドパ又はドロキシドパの組合せの投与前の被験動物においてドロキシドパは検出されなかった。表4に認められるように、血漿ドロキシドパ濃度は、すべての製剤について投与後約1〜2時間の時点で最大濃度に達した。
【0128】
【表4】

【0129】
ドロキシドパの組合せの投与は、ドロキシドパ単独の投与と比較して血漿ノルエピネフリン濃度に影響を及ぼすことが認められた。試験した様々な製剤に関する投与後2時間目の平均血漿ノルエピネフリン濃度を表5に示す。製剤0は、ドロキシドパ又は本発明のドロキシドパの組合せを含まないビヒクル単独の投与を示し、未処置被験動物における血漿ノルエピネフリンレベルの比較基線を提供する。
【0130】
【表5】

【0131】
表5に認められるように、ドロキシドパ単独の投与は血漿ノルエピネフリン濃度の約5倍の上昇を生じさせた。COMT阻害化合物と組み合わせたドロキシドパによる処置は、血漿ノルエピネフリン濃度のさらに大きな上昇を引き起こした。比較的低用量のコリンエステラーゼ阻害化合物と組み合わせたドロキシドパによる処置は、同様にドロキシドパ単独での処置と比較して血漿ノルエピネフリン濃度の上昇を生じさせた。しかし、比較的高用量のコリンエステラーゼ阻害化合物とドロキシドパの組合せを使用したとき、血漿ノルエピネフリン濃度はドロキシドパ単独での処置に比べて低かった。両方の用量のMAOI化合物とドロキシドパの組合せによる処置後の血漿ノルエピネフリン濃度は、ドロキシドパ単独での処置に比べて低かった。
【0132】
上記試験において使用した本発明の組合せの様々な薬物動態特性に関する平均値を表6に示す。具体的には、表6は、投与した製剤の最終排出半減期(T1/2)、各製剤中の活性物質の観察された最大濃度(Cmax)、観察された最大濃度に達するまでの時間(Tmax)、ゼロ時点から最後の測定時点までの血漿濃度−時間曲線下面積(AUCall)、及び観察された定常状態での分布容積(Vz_F_obs)を提示する。血管外モデルに関しては、吸収された用量の割合は評価できないことに留意しなければならない。従って、そのようなモデルについてのVz_F_obsは実際には容積/Fであり、Fは吸収された用量の割合である。
【0133】
【表6】

【0134】
上記からわかるように、ドロキシドパを特定の付加的な活性物質と組み合わせたとき、その組合せはドロキシドパの半減期を延長させることができ、そのような延長は様々な経路、例えば薬剤代謝、薬剤の分布容積又はその2つの組合せへの作用を通して、認めることができる。例えば、エンタカポンとの組合せから生じる半減期の延長は、ドロキシドパの3−OM−ドロキシドパ(ドロキシドパの主要代謝産物)への代謝をブロックし、従って体内でのドロキシドパの滞留時間を延長させる、末梢活性を示唆する。同様に、分布容積の増加は、半減期にさらなる影響を及ぼし得る、排泄器官にとって利用可能な薬剤の量の減少を示唆する。比較的高用量のニアラミドに関連する半減期の上昇は、MAOIが典型的にはドロキシドパの主要代謝経路とはみなされないので、意外であり、見かけ分布容積の予期しない増加の結果である可能性が高い。同様に、ピリドスチグミンとの組合せも、コリンエステラーゼ化合物が一般にドロキシドパの代謝に影響を及ぼすとは予想されないにもかかわらず、意外にもドロキシドパ半減期の延長を導いた。単独で又はエンタカポン、ピリドスチグミン又はニアラミドとの組合せで投与したときのドロキシドパの半減期を図2にグラフで示す。
【0135】
本明細書で述べる本発明の多くの変更及び他の実施形態が、上記説明で示した教示を利用して、これらの発明が属する分野の当業者に想起される。従って、本発明は、開示される特定実施形態に限定されるべきではないこと及び変更及び他の実施形態は付属の特許請求の範囲に包含されることが意図されていることは了解されるべきである。特定の用語が本明細書において使用されているが、それらは一般的な説明的意味でのみ使用され、限定のためには使用されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢性感作症候群に罹患している被験者に治療有効量のドロキシドパを投与することを含む、中枢性感作症候群を治療するための方法。
【請求項2】
前記中枢性感作症候群が、線維筋痛症、慢性筋筋膜痛、慢性疲労症候群、不穏下肢症候群及び過敏性腸症候群からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者が線維筋痛症に罹患し、慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病からなる群より選択される症状を示し、前記治療有効量が前記症状を軽減又は除去するために十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者が線維筋痛症に罹患し、慢性疼痛、異痛、痛覚過敏、疲労、睡眠障害及びうつ病からなる群より選択される症状を以前に示したことがあり、前記治療有効量が前記症状の再発を予防するために十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療有効量が、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減又は除去するために十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記線維筋痛症に関連する疼痛が少なくとも50%軽減される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記線維筋痛症に関連する疼痛が少なくとも60%軽減される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記治療有効量が、線維筋痛症に関連するうつ病を軽減又は除去するために十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
DOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、抗うつ薬、抗炎症薬、筋弛緩薬、抗生物質、気分安定剤、抗精神病薬、セロトニン受容体アンタゴニスト、セロトニン受容体アゴニスト、鎮痛薬、興奮剤、NMDA受容体リガンド、s−アデノシル−メチオニン、ゾピクロン、クロルメザノン、プログルメタシン、5−OH−L−トリプトファン、ガバペンチン、プレガバリン、タモキシフェン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上の付加的な活性物質を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記1以上の付加的な活性物質が、ベンセラジド、カルビドパ、ジフルオロメチルドパ、α−メチルドパ、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のDOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1以上の付加的な活性物質が、エンタカポン、トルカポン、ニテカポン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記1以上の付加的な活性物質が、ピリドスチグミン、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン、ネオスチグミン、メトリホナート、フィソスチグミン、アンベノニウム、エドロホニウム、デメカリウム、チアフィソベニン、フェンセリン、シムセリン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のコリンエステラーゼ阻害剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記1以上の付加的な活性物質が、イソカルボキサジド、モクロベミド、フェネルジン、トラニルシプロミン、セレギリン、ラザベミド、ニアラミド、イプロニアジド、イプロクロジド、トロキサトン、ハルマラ、ブロファロミン、ベンモキシン、5−メトキシ−N,N−ジメチルトリプタミン、5−メトキシ−α−メチルトリプタミン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のモノアミンオキシダーゼ阻害剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記1以上の付加的な活性物質が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、三環式化合物、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン及びドパミン再取り込み阻害薬、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上の抗うつ薬を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記抗うつ薬が、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、セルトラリン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、デシプラミン、トラゾドン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネフォパム、ブプロピオン、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記1以上の付加的な活性物質がドロキシドパと同じ医薬組成物中に製剤される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
1以上の付加的な活性物質が、ドロキシドパとは別の医薬組成物中で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
線維筋痛症に罹患している患者に治療有効量のドロキシドパを投与することを含む、線維筋痛症に関連する疼痛を軽減、除去又は予防するための方法。
【請求項19】
前記線維筋痛症に関連する疼痛が少なくとも50%軽減される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記線維筋痛症に関連する疼痛が少なくとも60%軽減される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
DOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、抗うつ薬、抗炎症薬、筋弛緩薬、抗生物質、気分安定剤、抗精神病薬、セロトニン受容体アンタゴニスト、セロトニン受容体アゴニスト、鎮痛薬、興奮剤、NMDA受容体リガンド、s−アデノシル−メチオニン、ゾピクロン、クロルメザノン、プログルメタシン、5−OH−L−トリプトファン、ガバペンチン、プレガバリン、タモキシフェン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上の付加的な活性物質を投与することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記1以上の付加的な活性物質が、ベンセラジド、カルビドパ、ジフルオロメチルドパ、α−メチルドパ、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のDOPAデカルボキシラーゼ阻害化合物を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1以上の付加的な活性物質が、エンタカポン、トルカポン、ニテカポン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ阻害剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記1以上の付加的な活性物質が、ピリドスチグミン、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン、ネオスチグミン、メトリホナート、フィソスチグミン、アンベノニウム、エドロホニウム、デメカリウム、チアフィソベニン、フェンセリン、シムセリン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のコリンエステラーゼ阻害剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記1以上の付加的な活性物質が、イソカルボキサジド、モクロベミド、フェネルジン、トラニルシプロミン、セレギリン、ラザベミド、ニアラミド、イプロニアジド、イプロクロジド、トロキサトン、ハルマラ、ブロファロミン、ベンモキシン、5−メトキシ−N,N−ジメチルトリプタミン、5−メトキシ−α−メチルトリプタミン、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上のモノアミンオキシダーゼ阻害剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記1以上の付加的な活性物質が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、三環式化合物、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン及びドパミン再取り込み阻害薬、及びそれらの組合せからなる群より選択される1以上の抗うつ薬を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記抗うつ薬が、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、セルトラリン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、デシプラミン、トラゾドン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネフォパム、ブプロピオン、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
1以上の治療有効用量のドロキシドパを含む容器、及び中枢性感作症候群に罹患している被験者に治療有効量のドロキシドパを投与するための方法を説明する指示セットを含む、中枢性感作症候群の治療のために有用なキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−520885(P2010−520885A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552913(P2009−552913)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/056255
【国際公開番号】WO2008/112562
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507075587)チェルシー・セラピューティクス,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】