説明

編地の編成方法および該編成方法で編成された編地からなる衣類

【課題】 シングル丸編機で編成する編地において、左右の周方向にある端縁を端始末不要に編成する。
【解決手段】 シングル丸編機により編地を編成するもので、円筒状に編地が連続せずに端縁がある部分では、前記シングル丸編機のシリンダが180度回転で左右方向に往復作動し、シリンダを正方向へ180度回転させて編成する第1コースでは、前記端縁部からは針を不作用としておき、逆回転して折り返し編成する第2コースでは、第1コースで不作用とした針あるいは該不作用とした針に連続する針までは不作用とし、その次ぎの針から前記第1コースの編糸で増やし編みを行い、前記端縁部に端始末不要のヘムを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地の編成方法および該編成方法で編成された編地からなる衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラジャーやショーツ等の衣類を丸編機により製造する場合には、丸編機で編成した筒状編地は、編み始めは端始末不要とした編み方が提供されているが、筒状編地で周方向に端縁を設けたい場合には端始末不要の編成ができない。よって、ブラジャーやショーツ等を丸編機から編成する場合、筒状編地に編成した後に所要形状に裁断し、裁断した端縁部からほつれが生じないように縫製したり、縁取りテープを縫着したり、縫製により端始末を行う必要がある。(特表平9−512593号参照)
しかしながら、前記製造方法では編地の裁断や端始末のための縫製が必要であるため、製造工数が多くなり、かつ、裁断で切り取られた部分の編地がロスとなり、コスト高になる問題がある。
【特許文献1】特表平9−512593号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、シングル丸編機により編成する編地において、筒状に編成された後に裁断不要な端始末が行なえ、カットロスを低減できるようにするおとを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明は、シングル丸編機により編地を編成するもので、
円筒状に編地が連続せずに端縁がある部分では、前記シングル丸編機のシリンダが180度回転で左右方向に往復作動し、シリンダを正方向へ180度回転させて編成する第1コースでは、前記端縁部からは針を不作用としておき、逆回転して折り返し編成する第2コースでは、第1コースで不作用とした針あるいは該不作用とした針に連続する針までは不作用とし、その次ぎの針から前記第1コースの編糸で増やし編み(ワイドニング)を行い、前記端縁部に端始末不要のヘム(耳)を設けていることを特徴とする編地の編成方法を提供している。
【0005】
従来の丸編機ではシリンダを一方向に360度回転させて前身頃側と後身頃側とを円筒状に連続して編成しているが、本発明では端縁の部分では、シリンダを180回転させた後に逆方向に180度回転させ、この左右往復作動を繰り返させて編成し、前身頃側と後身頃側とを同期させて別個に編成しており、言わば横編みと同様な原理で編成している。
このように、横編み機と同様な原理で編成し、端縁部となる部分で糸を休止させ、往復作動の復作動時に休止させていた編糸で増やし編みを行って折り返し編成していくことで、端縁の編糸をウエール方向で連続させて編むことができ、端始末不要のヘムを設けることができる。
例えば、ブラジャーを丸編機で編成する場合に、前身頃側のカップ部の左右両端縁、ストラップの左右端縁では、前記のように、180度回転させた後の折り返し作動時に端縁部で増やし編みを行うことにより、端縁にほつれを発生させない端始末不要のヘム(耳)を設けることができる。このように、裁断不要な端始末が行えるため、カットロスは従来と比較して20〜30%低減できる。
【0006】
前記編成は、前記端縁に挟まれた幅が狭い幅狭側から、幅が次第に広くなる幅広側へと前記増やし編みして端縁にヘムを編成し、最終的に筒状に連続される部分に達すると、前記シリンダを同一方向に正回転して筒状に連続編成している。
【0007】
即ち、周方向の端縁をヘムにするには前記のように増やし編みを行うため、例えば、ブラジャーを丸編機で編成する場合、シリンダを180度往復回転させ、前側および後側の左右のストラップを肩頂点位置から編み始め、左右カップ部に達すると左右幅をそれぞれ前正面中央端および脇側端に向けて次第に編地幅を広げ、左右カップ部から円筒状の土台部に達すると、シリンダを従来と同様に同一方向に360度回転させて、従来の丸編機の編成方法と同一の編成を行って筒形状に編成している。
【0008】
なお、前記編成時には複数の給糸部から張力等の物性、色、表面性状等の相違する編糸を給糸し、あるいは/および編み方を変えると、各部の面圧を相違させて、所要部位に所要の様々な面圧を付与することができる。
【0009】
本発明は、前記編成方法で編成された編地からなる衣類を提供しており、具体的には、ブラジャー、ショーツ、シャッツ等の各種肌着が挙げられる。
前記衣類がブラジャーの場合、該ブラジャーの左右カップ部の両端縁および該左右カップ部に連続する左右ストラップの両端縁が前記端始末不要のヘムとされている。
前記衣類がショーツの場合、足周りの両端縁は前記端始末不要のヘムとされている。なお、足周りの両端縁はクロッチの両端縁を含む。
前記衣類が肌着の場合、首回り、アームホールあるいは袖口の端縁が前記端始末不要のヘムとされている。
なお、前記下着の他に、アウター衣類にも適用可能であることは言うまでもない。
【0010】
このように、従来は端始末が必要な端縁を有する衣類においても、端縁にヘムを形成しながら丸編機で連続的に編成して前記した種々の衣類を簡単に製造することができる。
よって、生産性を飛躍的に高めることができ、かつ、端縁に縁取りテープを縫着した場合には膨出して外観にひびく問題があったが、それも解消することができると共に、身体に対して端縁を密着させて着用感の良いものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
前述したように、本発明によれば、シングル丸編機のシリンダを一方向にのみ回転させるのではなく、周方向に端縁を有する部位ではシリンダを180度回転させた後に逆方向に180度回転させ、左右方向に正逆移動を繰り返させることにより、丸編みでありながら横編みと同様な原理で編成でき、よって、端縁において復作動時に増やし編みを行ってウエール方向で糸を連続させることで、端縁に端始末不要なヘムを形成することができる。
よって、前記のように従来の丸編機により編成した衣類では、筒状編地から所要形状に裁断して、裁断した縁部を縫製する必要があったが、本発明では、シングル丸編機で周方向の端縁にヘムを形成しながら所要形状に編成していくことができ、従来の編地の裁断、端縁の端始末を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4は、本発明の第1実施形態を示し、ブラジャー10は、シングル丸編機により所要形状に連続して編成された編地からなり、左右カップ部11の各左右両端の前身中央端11aおよび脇端11b、前側左右ストラップ12、後側左右ストラップ13の各左右両側端縁はヘムHを設けて端始末不要としている。
【0013】
該ブラジャー10は全周方向に連続させて円筒状に編成された土台部14と、前身頃側の土台部14の上端に連続して編成された左右カップ部11(11ー1、11−2)と、該左右カップ部11の上端にそれぞれ連続して編成された前側左右ストラップ12(12A、12B)、後身頃側の土台部14の上端に連続して編成された後側ストラップ13(13A、13B)とを備え、前側左右ストラップ12と後側左右ストラップ13の先端同士のみ縫着して連続して、ブラジャー10を完成している。
前記土台部14の下端部16は内側へ折り返してメイクアップによる自動端始末がなされ、よって、前記左右ストラップの肩端に当たる位置だけを縫着している。
【0014】
また、図1(A)(B)中、斜線で示した前身頃のカップ部下端の土台部および後身頃の土台部14、左右カップ部11の脇側部17は、左右カップ部11およびストラップ12、13とは、伸びが少なく緊締力のある異なる編糸を用いると共に、生地の裏表に完全な糸切り換えを行い鮮明な配色柄および伸縮性の強弱を自由に付けることができる。
【0015】
ブラジャー10に用いる編地の編成方法は、図1中の上端(前後の左右ストラップ12、13)から編み始め、図1および図2で矢印X方向に編成していき、土台部14の下端が編み終わりとしている。
【0016】
ブラジャー10を形成する円筒形状のシリンダを有するシングル丸編機は、全周に連続した円筒状の編地とする領域R2(即ち、土台部14)を除く領域R1、即ち、周方向に端縁を有する領域では、シリンダ(図示せず)を同一方向に360度回転させず、正方向に180°回転させた後、逆方向に180°回転させ、この回転を往復で繰り返している。これにより、シリンダの前側半周部分で前身頃側を左右方向に往復作動して編成すると共に、シリンダの後側半周部分で後身頃側を左右方向に往復作動して編成している。
全周に連続させて円筒状に編成する領域R2からなる土台部14に達すると、シリンダを正方向の一方向にのみ360度回転させて従来と同様に円筒状に編地を編成している。
【0017】
前記領域R1の領域において、シリンダを180度回転で往復作動させて端縁にヘムHを形成する編成方法として、端縁で増やし編み(ワイドニング)を行っている。
詳しくは、周方向に端縁を有する領域では、編地を編成する部位でのみ針を作動させてループを形成する一方、編地を設けない部位では針を不作用としてループを形成せずに給糸を停止し、次ぎの折り返し往作動時に端縁に達すると、前記不作用とした針から給糸を停止していた糸で増やし編みしている。
【0018】
即ち、図2、図3に示すように、第1コースC1を編む際にシリンダが正回転すると、図2中で針N1〜N3は不作用としミスし、編地Fの一端縁F1に達すると、針1N4〜N7は作用させてループを形成しニットする。他端縁F2に達すると、針N8→N10…は不作用としてミスする。第1コールC1でシリンダが180度回転した後、逆方向に180度回転して第2コースC2となる。該第2コースC2では針N10〜N8まで不作用としてミスし、針N7に達すると、針N7は作用させて第1コースC1で針N7の位置で休止させていた糸でニットし、針N7〜N4までは作用させて順次ニットしていき、N3からN1、…を不作用としてミスする。シリンダが180度逆回転した後、正回転に回転方向が切り替えられ、第3コースC3となる。第3コースC3でも針N3まで休止し、針N4を作用させ、第2コースC2で針N4で休止させていた糸でニットする。
このように針を休止させた位置で糸も休止し、次コースの往作用時に休止させておいた糸を用いて連続させてニットするため、糸が切れずに連続させることができる。所要コースにおいて上記の編み方を繰り返すことにより、ウエール方向に同一幅で左右両端で糸のほつれが生じないヘムHが形成される。
【0019】
同一幅でウエール方向に編成が進んだ後、図2でコースC8に達すると幅を次第に広げていくため、不作用とした針に隣接する次ぎの針から次コースで作用させて増やし編みを行い、これを繰り返して、幅を次第に広げている。
【0020】
前記ブラジャー10においては、前側の左右ストラップ12Aと12Bはシリンダの前半周側で編成し、後側の左右ストラップ13Aと13Bはシリンダの後半周側で編成する。シリンダには前側に2口、後側に2口で、合計4口の給糸部を設け、左右ストラップ12A、12B、13A、13Bはそれぞれ前記4口から給糸される糸で編成している。
【0021】
前側の左右ストラップ12A、12Bについて説明すると、第1コースで、左脇端から左ストラップ12Aに達するまでミスされ、左ストラップ12Aの左端縁に達するとニットとなり、右端縁までニットが連続される。左ストラップ12Aの右端縁に達するとミスとなり、右ストラップ12Bの左端縁までミスが連続し、右ストラップ12Bの左端縁に達するとニットとなり、右ストラップ12Bの右端縁までニットが連続し、右端縁にたっすると、右脇端までミスとなる。第2コースでは右ストラップ12Bに達するまでミスで、右ストラップ12Bをニットし、以下、第1コースとは左右逆になるだけで繰り返される。後側の左右ストラップ13A、13Bも同様である。
左右ストラップ12A、12Bから左右カップ11−1、11−2に達すると、左右端縁の目増やしをしていくだけで、原理は同様である。
【0022】
前記したように、ブラジャー10は、シングル丸編機のシリンダを一方向にのみ回転させるのではなく、周方向に端縁がある領域ではシリンダの回転方向を180度で切り替えて左右方向に往復作動させているため、端縁で増やし編みすることができ、ヘムHを設けることができる。
また、ブラジャー10を形成する編糸を部分的に変えることにより、肌触りの異なる部分、色の異なる部分、着圧(面圧)の異なる部分を設けることができ、ブラジャー10の機能性やデザイン性を高めることができる。
【0023】
図4は、本発明の第2実施形態を示す。
本実施形態のショーツ20は、上端部21のみをメイクアップしているが、足周りの両端縁22(クロッチの両端縁を含む)は端始末不要のヘムHとして編成し、従来必要とされた端始末の縫製は行っていない。
第1実施形態と同様、編地を全周にわたって設けていないクロッチ部23の前身項との縫合箇所23aより編み初めて、矢印方向Xに沿って増やし編みを行って左右両端にヘムHを形成していき、胴回りに達すると円筒状に編成し、最終的にクロッチ部23の最下端23aで前後身頃を縫製して完成している。
【0024】
前記編み始めから、足回り端縁を有する周方向に端縁がある領域R1では、シングル丸編機のシリンダを180°ごとに反転させて編地を編成し、全周に亙って編地を設けている領域R2では、シリンダを一方向にのみ回転させている。
また、ショーツ20の下部側の斜線部は、他の部分と異なる種類の糸により編地を編成している。
【0025】
前記構成によれば、編地をショーツ20の形状に編成して編地の裁断が不要になると共に、ショーツ20の上端以外の周方向の端縁22にはヘムが形成されるため、縁部を縫製する必要がない。
【0026】
図5は、本発明の第3実施形態を示す。
本実施形態のランニングシャツ(肌着)30は、下端部31のみメイクアップしているが、首回り32とアームホール33の端縁は端始末不要のヘムとし、端始末の縫製は行っていない。
第1実施形態と同様、編地を全周にわたって設けておらず、周方向に端縁がある領域R1では、シングル丸編機のシリンダを180°ごとに反転させて編地を編成し、全周に亙って編地を設けている領域R2では、シリンダを一方向にのみ回転させている。
【0027】
図6(A)(B)(C)(D)は、本発明の他の適用例を示す。
図6(A)の水着40では、左右カップ部および首掛け部分40aの端縁はヘムHとして編成し、クロッチ部の最下端縁は端始末して、ホック等で開閉自在としている。
図6(B)のボデイスーツ41では、左右カップ部、左右ストラップ部の左右端縁はヘムHとしている。該ボデイスーツ41では、ストラップの肩頂点位置は縫着し、クロッチ部の最下端縁は端始末して、ホック等で開閉自在としている。
図6(C)のキャミソール42も、左右ストラップとバスト部分の脇側端にヘムHを編成している。
図6(D)はアウター用ドレス43も、左右ストラップとカップ部の左右端縁にヘムHを編成している。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の衣類は、前記ブラジャー、ショーツ、シャツ、水着、ドレス以外に、周方向に端縁を有する衣類であれば、インナー、アウターのいずれにも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態のブラジャーの正面図、(B)は背面図である。
【図2】左右ストラップの編糸の編み方向を示す図面である。
【図3】編地の要部拡大図である。
【図4】第2実施形態のショーツの正面図である。
【図5】第3実施形態のシャツの正面図である。
【図6】(A)〜(D)は本発明の他の実施形態を示す図面である。
【符号の説明】
【0030】
10 ブラジャー
11(11−1、11−2) 左右カップ部
12(12A、12B)、13(13A、13B) ストラップ
14 土台部
17 脇側部
H ヘム
20 ショーツ
30 シャツ
C1 第1コース
C2 第2コース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングル丸編機により編地を編成するもので、
円筒状に編地が連続せずに端縁がある部分では、前記シングル丸編機のシリンダが180度回転で左右方向に往復作動し、シリンダを正方向へ180度回転させて編成する第1コースでは、前記端縁部からは針を不作用としておき、逆回転して折り返し編成する第2コースでは、第1コースで不作用とした針あるいは該不作用とした針に連続する針までは不作用とし、その次ぎの針から前記第1コースの編糸で増やし編みを行い、前記端縁部に端始末不要のヘムを設けていることを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
前記編成は、前記端縁に挟まれた幅が狭い幅狭側から、幅が次第に広くなる幅広側へと前記増やし編みして端縁にヘムを編成し、最終的に筒状に連続される部分に達すると、前記シリンダを同一方向に正回転して筒状に連続編成している請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の編成方法で編成された編地からなる衣類。
【請求項4】
シングル丸編機で編成された編地からなり、円筒状部と、該円筒状部に連続編成されると共に周方向に端縁を有する部分を備え、該端縁は端始末不要のヘムとされていることを特徴とする衣類。
【請求項5】
前記衣類がブラジャーからなり、該ブラジャーの左右カップ部の両端縁および該左右カップ部に連続する左右ストラップの両端縁が前記端始末不要のヘムとされている請求項3または請求項4に記載の衣類。
【請求項6】
前記衣類がショーツからなり、足周りの両端縁は前記端始末不要のヘムとされている請求項3または請求項4に記載の衣類。
【請求項7】
前記衣類は肌着からなり、首回り、アームホールあるいは袖口の端縁が前記端始末不要のヘムとされている請求項3または請求項4に記載の衣類。
【請求項8】
前記編糸および編組織を相違させて各部の面圧を相違させている請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−169647(P2006−169647A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359965(P2004−359965)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000139399)株式会社ワコール (26)
【Fターム(参考)】