説明

縫製システム、多針ミシン及び記憶装置

【課題】作業効率を向上させることができる安価で簡単な構成の縫製システム、多針ミシン及び記憶装置を提供する。
【解決手段】縫製システムは、一の多針ミシンにおいて照合手段の照合結果に基づき、一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、縫製手段及び移送手段の協働により、加工布に対して前記刺繍模様を形成する縫製動作を実行する(ステップS19〜S22)。記憶装置が当該多針ミシンから取り外され他の多針ミシンへ装着されることで、他の多針ミシンごとに、読出手段により経過情報を読み出し(ステップS12)、照合手段により経過情報の糸色データと他の多針ミシンにおける糸駒色データとを照合して(ステップS15)、その照合結果に基づき縫製動作の実行を行うことで(ステップS19〜S22)、前記刺繍模様の未縫製の部分を縫製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の糸色データを含む刺繍模様データを記憶する記憶装置を備えた縫製システム、多針ミシン及び記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、加工布に対し複数の糸色数で刺繍模様を形成するミシンとして、所謂多針ミシンが用いられている。この多針ミシンは、下端部に縫針を夫々装着した複数の針棒を備え、これら複数の針棒を含む縫製手段と、加工布を保持する刺繍枠を移送する移送手段との協働により、所望の糸色で縫製が行われるようになっている。この種のミシンにあっては、当該ミシンに内蔵され或はミシンとは別個の刺繍データ作成装置で刺繍模様データを予め作成し、その刺繍模様データを前記作成装置から他のミシン(或は複数のミシン)に転送することにより、複数のミシンで縫製を行う縫製システムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の刺繍機システムでは、前記刺繍模様データを集中的に管理するコンピュータをホストとして、これに複数台の刺繍機(多針ミシン)が接続されており、刺繍模様データをコンピュータ上で糸色を編集する等して各刺繍機へ送信し、夫々の刺繍機で縫製が行われるようになっている。
また、特許文献2の縫製システムでは、2台以上のミシンがケーブルにより相互に接続されると共に、1台のミシン(第一の自動縫製ミシン)に刺繍模様データを変換する機能を持たせてある。そして、第一の自動縫製ミシンから第二の自動縫製ミシンへ自身の持つ刺繍模様データを送信することにより、第一及び第二の自動縫製ミシンの双方で、変換を施した刺繍模様データに基づき縫製動作が実行される。
【0004】
特許文献1の刺繍機システムでは、ホストコンピュータとして市販のコンピュータを使用する場合が多く、ミシンとは別に高度なコンピュータ操作技術が必要になるだけでなく、縫製機能のないコンピュータへの高額投資が必要になるという問題がある。一方、特許文献2の縫製システムでは、ホストコンピュータを省略することができるが、上記のように2台以上のミシンを連動させるには専用の処理プログラムが不可欠であり、2台以上のミシンを相互にケーブルで接続することも必要である。
【0005】
この点、特許文献3の刺繍縫製システムは、縫製装置とは別個の刺繍模様データ処理装置と、これら縫製装置及び刺繍模様データ処理装置に夫々配設された一対のタグリーダ/ライタとを有する。この刺繍縫製システムでは、刺繍模様データ処理装置で作成された刺繍模様データを、加工布に装着された無線タグに一方のタグリーダ/ライタで書き込み、縫製装置において、他方のタグリーダ/ライタによって読み出した無線タグの刺繍模様データに基づき刺繍縫製を行う。また、縫製装置は、刺繍縫製が中断された場合に、中断時点の縫製の進行状況に関する進行状況データを、他方のタグリーダ/ライタにより無線タグに書き込むようになっている。このタグリーダ/ライタによって、無線タグとの間で無線通信を行うことができ、前述した装置間のケーブルを省くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−129947号公報
【特許文献2】特開平6−304372号公報
【特許文献3】特開2008−220619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3の刺繍縫製システムでは、刺繍模様の縫製前に加工布ごとに無線タグを取付け、縫製後にその取り外しを行わなければならず、面倒である。また、無線タグとの間で無線通信を行うためのタグリーダ/ライタ等が必要となるためコスト高になる。
更には、前記刺繍模様のなかには、その糸色数が1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超えるものがある。このような刺繍模様を縫製する場合、上述した従来の縫製システムにおいても、縫製の中断を伴う糸駒交換作業が不可避となる等、縫製作業の効率化を図る上で共通の課題を残している。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業効率を向上させることができる安価で簡単な構成の縫製システム、多針ミシン及び記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の縫製システムは、複数の糸色データを含む刺繍模様データを記憶する記憶装置を備え、複数の針棒を含む縫製手段と加工布を保持する刺繍枠を移送する移送手段とを有する多針ミシンに前記記憶装置を着脱可能に装着して、前記刺繍模様データに基づき1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を複数台の多針ミシンを使用して縫製する縫製システムにおいて、前記多針ミシンは、装着された前記記憶装置から前記刺繍模様データを読み出す読出手段と、前記複数の針棒に対応する複数の糸駒の糸色データを糸駒色データとして記憶する糸駒色記憶手段と、前記読出手段により読み出された刺繍模様データに含まれる糸色データと、前記糸駒色記憶手段の前記糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合手段と、前記照合手段の照合結果に基づいて、少なくとも前記刺繍模様データの糸色データのうち不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報を前記記憶装置に書き込む経過情報書込手段と、を具備し、前記照合手段の照合結果に基づき、一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、前記縫製手段及び前記移送手段の協働により、前記加工布に対して前記刺繍模様を形成する縫製動作を実行し、当該多針ミシンに装着されている前記記憶装置を取り外して他の多針ミシンへ装着することで、前記他の多針ミシンごとに、前記読出手段により前記経過情報を読み出し、前記照合手段により前記経過情報の糸色データと前記他の多針ミシンにおける糸駒色データとを照合して、その照合結果に基づき縫製動作の実行を行うことで、前記刺繍模様の未縫製の部分を縫製することを特徴とする。
【0010】
上記縫製システムによれば、1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を縫製する場合、その多針ミシンにおいて装着した記憶装置の刺繍模様データに基づき、縫製可能な糸色数での縫製が行われる。当該多針ミシンで刺繍模様の未縫製となる部分は、経過情報書込手段により記憶装置に当該多針ミシンでの経過情報を書き込み、その記憶装置を取り外して他の多針ミシンへ装着し、読出手段により経過情報を読み出すことで、他の多針ミシンにて縫製することができる。よって、前述した従来のタグリーダ/ライタ等の装置を別途付加することなく、記憶装置を用いるだけで前記の糸色数を超える刺繍模様を縫製することができる。従って、縫製システムの全体構成を極力簡単にして安価な縫製システムを提供することができると共に、作業効率を向上させることができる。
【0011】
請求項2の縫製システムでは、請求項1の発明において、前記経過情報書込手段は、各多針ミシンで前記縫製動作が実行される前に、前記記憶装置に前記経過情報を書き込むことを特徴とする。
請求項3の縫製システムでは、請求項1または2の発明において、前記多針ミシンは、前記経過情報を表示する表示手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4の縫製システムでは、請求項1から3までの何れかの発明において、前記記憶装置は、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体であることを特徴とする。
請求項5の記憶装置は、請求項1から4までの何れかに記載の縫製システムを構成する多針ミシンに着脱可能なものである。よって、上記した請求項1から4までの発明と同様の効果を奏する。
【0013】
請求項6の多針ミシンは、複数の糸色データを含む刺繍模様データを記憶する記憶装置が着脱可能に装着される多針ミシンであって、複数の針棒を含む縫製手段と加工布を保持する刺繍枠を移送する移送手段とを有し、前記刺繍模様データに基づき、前記縫製手段及び前記移送手段の協働により、前記加工布に対して刺繍模様を形成する縫製動作を実行する多針ミシンにおいて、装着された前記記憶装置から前記刺繍模様データを読み出す読出手段と、前記複数の針棒に対応する複数の糸駒の糸色データを糸駒色データとして記憶する糸駒色記憶手段と、前記読出手段により読み出された刺繍模様データに含まれる糸色データと、前記糸駒色記憶手段の前記糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合手段と、前記照合手段の照合結果に基づいて、少なくとも前記刺繍模様データの糸色データのうち不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報を前記記憶装置に書き込む経過情報書込手段と、を具備し、前記記憶装置に前記経過情報が書き込まれていない場合には、前記照合手段の照合結果に基づき、一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、前記加工布に対し前記刺繍模様を形成する縫製動作を実行し、前記記憶装置に前記経過情報が書き込まれている場合には、前記読出手段により前記経過情報を読み出し、前記照合手段により前記経過情報の糸色データと前記糸駒色記憶手段の糸駒色データとを照合して、その照合結果に基づき縫製動作を実行することで、前記刺繍模様の未縫製の部分を縫製するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記多針ミシンを複数台使用することより、1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を縫製することができる。即ち、請求項1の発明と同様、一の多針ミシンにおいて刺繍模様の未縫製となる部分は、経過情報書込手段により記憶装置に当該多針ミシンでの経過情報を書き込み且つその記憶装置を他の多針ミシンへ脱着して、読出手段により経過情報を読み出すことで、他の多針ミシンにて縫製することができる。このように、記憶装置のみを用いて複数の多針ミシン間での経過情報の授受を行うことが可能となるので、多針ミシンの付加的構成を極力省略することができると共に、作業効率を向上させることができる。
【0015】
請求項7の多針ミシンでは、請求項6の発明において、前記経過情報書込手段は、前記縫製動作が実行される前に、前記記憶装置に前記経過情報を書き込むことを特徴とする。
請求項8の多針ミシンは、請求項6または7の発明において、前記経過情報を表示する表示手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項9の多針ミシンでは、請求項6から8までの何れかの発明において、前記記憶装置は、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体であることを特徴とする。
請求項10の記憶装置は、請求項6から9までの何れかに記載の多針ミシンに着脱可能なものである。よって、上記した請求項6から9までの発明と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の縫製システムによれば、1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を縫製する場合、その多針ミシンにおいて装着した記憶装置の刺繍模様データに基づき、縫製可能な糸色数での縫製が行われる。当該多針ミシンで刺繍模様の未縫製となる部分は、経過情報書込手段により記憶装置に当該多針ミシンでの経過情報を書き込み、その記憶装置を取り外して他の多針ミシンへ装着し、読出手段により経過情報を読み出すことで、他の多針ミシンにて縫製することができる。よって、前述した従来のタグリーダ/ライタ等の装置を別途付加することなく、記憶装置を用いるだけで前記の糸色数を超える刺繍模様を縫製することができる。従って、縫製システムの全体構成を極力簡単にして安価な縫製システムを提供することができると共に、作業効率を向上させることができる。
【0018】
請求項2の縫製システムによれば、請求項1の発明の効果に加え、多針ミシンで縫製動作が実行される前に記憶装置に経過情報を書き込み、記憶装置を当該多針ミシンから取り外して他の多針ミシンへ装着することで、当該多針ミシンでの縫製動作の実行と他の多針ミシンでの縫製の準備作業とを並行して行うことができ、より縫製作業を効率的に行うことができる。
請求項3の縫製システムによれば、請求項1または2の発明の効果に加え、各多針ミシンにおいて経過情報が表示手段に表示される。従って、例えば、加工布を保持した刺繍枠と記憶装置とを他の多針ミシンにセットして刺繍模様の未縫製部分を縫製する際、表示手段に表示された経過情報に基づく表示と、加工布上の刺繍模様の縫製部分とを見比べることができる。よって、刺繍模様の縫製の進捗を視覚的に容易に把握して確認することができると共に、記憶装置や刺繍枠のセットミスを防止することができる。
【0019】
請求項4の縫製システムによれば、請求項1から3までの何れかの発明の効果に加え、前記記憶装置は、非接触状態でデータの授受を行う従来の無線タグとは異なり、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体として多針ミシンに着脱可能に装着される。従って、例えばUSBメモリ等の小型で持ち運びが容易な記憶媒体を用いることで、多針ミシン間でデータの授受を容易に行うことができると共に、安価で簡単な縫製システムを構成することができる。
請求項5の記憶装置は、請求項1から4までの何れかに記載の縫製システムを構成する多針ミシンに着脱可能なものであり、複数台の多針ミシン間で装着して用いられることで請求項1から4と同様の効果を奏する。
【0020】
請求項6の多針ミシンによれば、多針ミシンを複数台使用することより、1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を縫製することができる。即ち、請求項1の発明と同様、一の多針ミシンにおいて刺繍模様の未縫製となる部分は、経過情報書込手段により記憶装置に当該多針ミシンでの経過情報を書き込み、その記憶装置を取り外して他の多針ミシンへ装着し、読出手段により経過情報を読み出すことで、他の多針ミシンにて縫製することができる。このように、記憶装置のみを用いて複数の多針ミシン間で経過情報の授受を行うことが可能となるので、多針ミシンの付加的構成を極力省略することができると共に、作業効率を向上させることができる。
【0021】
請求項7の多針ミシンによれば、請求項6の発明の効果に加え、経過情報書込手段によって、縫製動作が実行される前に記憶装置に経過情報を書き込むことができ、請求項2と同様の効果を奏する。
請求項8の多針ミシンによれば、請求項6または7の発明の効果に加え、経過情報を表示手段に表示することができ、請求項3と同様の効果を奏する。
【0022】
請求項9の多針ミシンによれば、請求項6から8までの何れかの発明の効果に加え、 記憶装置が、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体であることから、例えばUSBメモリ等の小型の記憶媒体を用いて、多針ミシン間でデータの授受等を容易に行うことができ、請求項4と同様の効果を奏する。
請求項10の記憶装置は、請求項6から9までの何れかに記載の多針ミシンに着脱可能なものであり、複数台の多針ミシン間で装着して用いられることで請求項5と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態を示す縫製システムの概略図
【図2】電気的構成を示すブロック図
【図3】USBメモリの記憶領域を説明するための概念図
【図4】刺繍模様データの一例を示す図
【図5】多針ミシンのRAMの記憶領域を説明するための概念図
【図6】(a)及び(b)は、第1及び第2多針ミシンの糸駒色記憶手段に記憶された糸駒色データの一例を示す説明図
【図7】各多針ミシンにおける縫製制御のフローチャート
【図8】(a)及び(b)は、刺繍模様の全体、及び経過情報に基づく刺繍模様の縫製部分の表示例を示す簡略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を複数台の多針式刺繍ミシンを用いて構成した縫製システム1の一実施形態について、図1〜図8を参照しながら説明する。図1は、縫製システムSの概略的な斜視図であり、使用者(ユーザ)が位置する方向を前方として説明する。
図1に示すように、縫製システムSは、例えば2台の多針式刺繍ミシン(以下、第1多針ミシンM1及び第2多針ミシンM2と称する)と、これら第1,第2多針ミシンM1,M2に着脱可能に装着される記憶装置(例えば、後述するUSBメモリ23)とを備えている。第1,第2多針ミシンM1,M2は、基本的に同様に構成されているので、第1多針ミシンM1の構成要素の符号に「A」を、第2多針ミシンM2の構成要素の符号に「B」を夫々付して一括して説明する。
【0025】
図2に示すように、第1,第2多針ミシンM1,M2は、このミシン全体を支持する左右1対の脚部1A,1Bと、その脚部1A,1Bの後端部から立設された脚柱部2A,2Bと、その脚柱部2A,2Bの上部から前方に延びるアーム部3A,3Bと、脚柱部2A,2Bの下端部から前方に延びるシリンダベッド4A,4Bと、アーム部3A,3Bの前端部に装着された針棒ケース5A,5Bとを備えると共に、第1,第2多針ミシンM1,M2の制御全般を司る制御装置6A,6B(図2参照)や操作パネル7A,7B等を具備して構成されている。
【0026】
脚部1A,1Bの上側には、左右方向向きのキャリッジ8A,8Bが配置されており、このキャリッジ8A,8Bの内部には、当該キャリッジ8A,8Bの前側に設けられた枠取付台(図示略)をX方向(左右方向)に駆動させるためのX方向駆動機構9xA,9xB(図2参照)が設けられている。左右の脚部1A,1B内には、キャリッジ8A,8BをY方向(前後方向)に駆動させるY方向駆動機構9yA,9yB(図2参照)が設けられている。刺繍縫製に供する加工布(図示略)は、矩形枠状の刺繍枠(図示略)に保持され、この刺繍枠が、前記枠取付台に取付けられる。刺繍枠は、Y方向駆動機構9yA,9yB及びX方向駆動機構9xA,9xBの夫々の駆動モータ(後述するX軸モータ30A,30B及びY軸モータ31A,31B、図2参照)の駆動により、キャリッジ8A,8Bと同期してY方向に移動し、或は枠取付台と共にX方向に移動して、加工布が布送りされる。
【0027】
前記針棒ケース5A,5Bには、左右に配列された上下方向に延びる6本の針棒10A,10B(図1では1本のみ図示)が上下動可能に支持されており、各針棒10A,10Bの下端部には、縫針11A,11Bが夫々装着されている。針棒ケース5A,5Bには、各針棒10A,10Bに対応する6つの天秤12A,12Bが上下動可能に装着されている。
【0028】
針棒ケース5A,5Bの上端部には、糸張力を調整するための6つの糸調子器14A,14Bが配設された、傾斜状の糸調子台13A,13Bが固定されている。この糸調子台13A,13Bの後方には、アーム部3A,3B上面の背面側に位置して、左右1対の糸駒台15A,15Bと、糸絡みを防ぐための糸案内機構16A,16Bとが設けられている。詳しい図示は省略するが、糸駒台15A,15B及び糸案内機構16A,16Bは、何れも前後方向に平行に延びるように畳まれた収納位置(図示略)と、背面側が拡開する使用位置(図1参照)とに切り替え可能に構成されている。この糸駒台15A,15Bには、糸駒17A,17Bが嵌入される3個の糸立棒17が夫々設けられており、左右1対の糸駒台15A,15Bで、縫針11A,11Bの数と同じ6個の糸駒17A,17Bを載置することができる。この糸駒台15A,15Bにおいて、各糸駒17A,17Bから延びる上糸18A,18Bは、上記した糸案内機構16A,16B,糸調子器14A,14B,天秤12A,12B等を夫々経由して、各縫針11A,11Bの目孔(図示略)に夫々供給される。尚、シリンダベッド4A,4Bの前端部には、上糸18A,18Bと下糸(図示略)とを切断するための切断機構19A,19B(図2参照)が設けられている。
【0029】
前記アーム部3A,3Bの内部には、糸替えに際して針棒ケース5A,5BをX方向へ移動させる針棒選択機構20A,20B(図2参照)が設けられており、6組の針棒10A,10B及び天秤12A,12Bのうち1組の針棒10A,10B及び天秤12A,12Bだけが択一的に駆動位置に移動される。この針棒10A,10B及び天秤12A,12Bは、脚柱部2A,2Bに設けられたミシンモータ21A,21B(図2参照)の駆動により、針棒駆動機構22A,22B(図2参照)を介して前記駆動位置で同期して上下動される。この針棒10A,10B及び天秤12A,12Bとシリンダベッド4A,4Bの前端部に設けられた回転釜(図示略)との協働によって、前記刺繍枠に保持された加工布に刺繍縫目が形成される。
【0030】
また、アーム部3A,3Bの右側面には、後述する経過情報を表示する表示手段として、横長な液晶ディスプレイ7aを備えた操作パネル7A,7Bが折り畳み可能に設けられている。この操作パネル7A,7Bの前面下部には、起動停止スイッチ7b等の複数のスイッチが設けられ、側面部には、各種の刺繍模様データが記憶されているメモリカード(図示略)が挿入されるカードコネクタ7c、USBメモリ23が着脱可能に装着されるUSBコネクタ7dが設けられている。
液晶ディスプレイ7aには、種々の刺繍模様、針棒10A,10Bに設定されている上糸18A,18Bの糸情報、糸調子や縫製速度等の縫製条件、縫製作業に必要な各種の機能を実行させる機能名、各種の縫製関連情報等が表示される。また、液晶ディスプレイ7aの前面には、透明電極からなる複数のタッチキーを有するタッチパネル7eが設けられており、このタッチキーがタッチ操作されることで、各種の機能の指示、各種の縫製パラメータの数値設定、後述する糸替えの設定等が可能となっている。
【0031】
さて、本実施形態の縫製システムSでは、前記USBメモリ23が複数の第1,第2多針ミシンM1,M2間で用いられることにより、1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数(つまり6色)を超える刺繍模様の縫製を効率的に行うことができるようになっている。このUSBメモリ23について図3及び図4も参照しながら説明する。
USB(Universal Serial Bus)メモリ23は、データの書き込み及び読み出し可能な小型の記憶媒体として、USBコネクタ7dに対し挿入及び抜き取りが可能に装着される外部記憶装置である。そして、第1多針ミシンM1或は第2多針ミシンM2とUSBメモリ23との間は、USB規格により情報の送受信が可能とされている。図3に示すように、USBメモリ23は、これに内蔵したフラッシュメモリに、複数の糸色データを含む刺繍模様データが記憶される模様情報記憶領域231、後述する糸色データに係る経過情報のうち縫い始めとなる糸色の順序に関する情報が記憶される経過情報記憶領域232、縫製速度等の縫製条件に関する情報が記憶された縫製条件情報記憶領域233等の複数の記憶領域が設けられている。
【0032】
図4に示すように、前記刺繍模様データは、例えば、複数色(例えば12色)の糸色データと、これら糸色データ毎に設定された複数の針落ち位置データと、当該糸色ごとの縫製順序を特定するための糸色順序データ(糸色1〜糸色12)とを含む。具体的には、図中一番上の糸色順序データ「糸色1」は最初に縫製される順序を特定するもので、これに対応する「ピンク」は、実際には例えばRGB値で示される糸色データである。また、針落ち位置データ「Xa0、Ya0」…「XaN、YaN」は、ピンクの糸色に対応する縫針が順次針落ちする座標位置である。これと同様に、縫製順序が2番目以降の刺繍模様データについても、糸色順序データ「糸色2」〜「糸色12」と、糸色データ「黄緑」〜「赤」と、針落ち位置データ「XbN、YbN」〜「XlN、YlN」とが夫々含まれる。尚、この刺繍模様データの作成については、例えば、特開2001−259268号公報に記載の作成方法等、周知の方法を採用することができ、その説明を省略する。
【0033】
USBメモリ23には、予め、模様情報記憶領域231に上記の刺繍模様データが書き込まれると共に、縫製条件情報記憶領域233には、例えば、加工布、上糸18A,18B、下糸等の種類に応じて、良好な縫目を形成するための縫製速度の設定値としての縫製速度データが書き込まれている。この縫製条件情報記憶領域233には、例えば縫製条件として上糸張力値の設定値等を書き込むようにしてもよい。経過情報記憶領域232には、初期情報として縫い始めとなる糸色順序データ「糸色1」が書き込まれている。
続いて、第1,第2多針ミシンM1,M2の制御系の構成について、図2のブロック図を参照しながら説明する。制御装置6A,6Bは、マイクロコンピュータを主体に構成されており、内部にCPU24A,24B、ROM25A,25B、RAM26A,26B、EEPROM27A,27B、入出力インターフェース28A,28B(I/O)、それらを結ぶバス29A,29B等を有する。
【0034】
入出力インターフェース28A,28Bには、ミシンモータ21A,21B、針棒選択機構20A,20B、切断機構19A,19B、X軸モータ30A,30B、Y軸モータ31A,31Bを夫々駆動する駆動回路32A,32B、33A,33B、34A,34B、35A,35B、36A,36Bが接続されている。また、入出力インターフェース28A,28Bには、操作パネル7A,7Bにおける液晶ディスプレイ7a、起動停止スイッチ7b、カードコネクタ7c、USBコネクタ7d、タッチパネル7eが接続されている。
上記針棒10A,10B、縫針11A,11B、前記回転釜、ミシンモータ21A,21B、針棒駆動機構22A,22B、針棒選択機構20A,20B、切断機構19A,19B、駆動回路32A,32B、33A,33B、34A,34B等は、縫製手段40A,40Bに相当する。また、加工布を保持する刺繍枠を移送するためのY方向駆動機構9yA,9yB、X方向駆動機構9xA,9xB、X軸モータ30A,30B、Y軸モータ31A,31B、駆動回路35A,35B、36A,36B等は、移送手段41A,41Bに相当する。制御装置6A,6Bは、後述する縫製制御プログラムや刺繍模様データ等に従って、上記した各種のアクチュエータを駆動制御することで、縫製手段40A,40Bと移送手段41A,41Bとの協働による加工布に対する一連の縫製動作を実行する。
【0035】
ROM25A,25Bには、縫製制御プログラム,刺繍に用いられる複数種の糸に関する全ての情報であって糸色データを含む全糸情報テーブル、糸駒17A,17Bから供給される上糸18A,18Bの糸色データと針棒10A,10Bとをユーザが関連付けるための糸指定制御プログラム、操作パネル7A,7Bの液晶ディスプレイ7a,7aを制御する表示制御プログラム等が記憶されている。
RAM26A,26Bには、各種のデータを一時的に記憶する記憶領域が設けられている。具体的には、図5に示すように、RAM26Aには、前記糸色データと針落ち位置データとが糸色順序データと共に縫製順序に従って記憶される模様情報記憶領域261A、経過情報のうち縫い始めとなる糸色の順序に関する情報が記憶される経過情報記憶領域262A、縫製速度等の縫製条件に関する情報が記憶される縫製条件情報記憶領域263A等の複数の記憶領域が設けられている。また、図示は省略するが、RAM26Bには、RAM26Aと同様の模様情報記憶領域261B、経過情報記憶領域262B、縫製条件情報記憶領域263B等の複数の記憶領域が設けられている。
【0036】
ここで、図6(a)及び(b)は、第1多針ミシンM1のEEPROM27A及び第2多針ミシンM2のEEPROM27Bに記憶された糸駒色データの一例を示している。即ち、第1多針ミシンM1には、針棒番号1〜6(正面視にて右側から順に、1番から6番まで付された針棒10Aの番号)の6本の針棒10Aの夫々に、例えばピンク、黄緑、緑、金色、黄、黒の上糸18Aが設定され、それら糸駒17Aの糸色データが糸駒色データとして当該針棒番号と対応付けられてEEPROM27Aに記憶されている。一方、第2多針ミシンM2には、針棒番号1〜6の6本の針棒10Bの夫々に、青、水色、空色、茶、紫、赤の上糸18Bが設定され、それら糸駒17Bの糸駒色データが当該針棒番号と対応付けられてEEPROM27Bに記憶されている。尚、上記糸駒色データを、例えばユーザによるタッチパネル7eの操作により針棒番号ごとに入力し、或は糸立棒17に糸駒色データを検知可能なセンサを設け、当該センサにより検出して、EEPROM27A,27Bに記憶させるようにしてもよい。EEPROM27A,27Bを有する制御装置6A,6Bは、糸駒色記憶手段に相当する。
【0037】
次に、上記縫製システムSにおいて、7色以上(例えば12色)の糸色からなる刺繍模様の縫製を行う場合の処理の流れについて、2台の多針ミシンM1,M2で順次縫製を行う場合を例に、図7も参照しながら説明する。
ユーザは、刺繍模様を縫製する際、その刺繍模様に係るデータが記憶された前記USBメモリ23を、一方の多針ミシンM1のUSBコネクタ7dに装着する。また、第1,第2多針ミシンM1,M2の糸駒台15A,15Bに、刺繍模様の縫製に必要な糸駒17A,17Bを予めセットすることで、EEPROM27A,27Bに糸駒色データ(例えば図6(a)、(b)に示す12色分のデータ)が記憶される。
【0038】
ここで、ユーザは第1多針ミシンM1の操作パネル7Aを用いて、液晶ディスプレイ7aの模様選択画面(図示略)における複数の刺繍模様のうちから、その読み出し先としてUSBメモリに対応するタッチキー(図示略)をタッチ操作することで、以下の制御が開始される。図7のフローチャートは、この第1多針ミシンM1の制御装置6Aが実行する処理手順を示しており、図中の符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップを示している。
即ち先ず、第1多針ミシンM1において、EEPROM27Aに設定された糸駒色データ(例えば図6(a)に示すピンク、黄緑、緑、金色、黄、黒)が読み込まれる(ステップS11)。次いで、USBメモリ23の模様情報記憶領域231に記憶されている刺繍模様データが読み出されて、前記の縫製順にRAM26Aの模様情報記憶領域261Aに記憶される(ステップS12)。また、USBメモリ23の経過情報記憶領域232及び縫製条件情報記憶領域233に記憶された縫い始めとなる糸色順序データ及び縫製速度データが読み出されて、RAM26Aの経過情報記憶領域262A及び縫製条件情報記憶領域263Aに夫々記憶される。この場合、経過情報記憶領域262Aには、初期情報として前記の「糸色1」が記憶されることとなる。
【0039】
続いて、読み出された刺繍模様データに係る各種の設定処理が行われる(ステップS13)。具体的には、液晶ディスプレイ7aに、糸替えの有無、当該糸替えの回数等の項目からなる糸替え設定画面が表示され、糸替えに関する設定がユーザによるタッチパネル7eの操作により行われる。この糸替えは、本実施形態の縫製システムSにおいて、12色を超える刺繍模様を縫製する場合に、その超過する糸色数の分の糸交換(つまりユーザによる糸替え作業)を行うものであるが、これについては後述する。尚、ステップS13の設定処理において、液晶ディスプレイ7aに「縫い順を変更する」等の縫い順設定画面を表示して、前述した糸色順序データ(つまり糸色ごとの縫製順序)を変更する設定を行うようにしてもよい。
【0040】
次いで、読み出された糸駒色データと刺繍模様データの糸色データとに基づき、ステップS13の設定処理に応じた縫製のためのデータが作成される。この場合、刺繍模様データは、予め設定され或は変更された糸色ごとの縫製順序で、第1多針ミシンM1での最終的なデータとして作成される(ステップS14)。
この後、この刺繍模様データの糸色データと読み出した糸駒色データとが一致するか否か、つまり刺繍模様を縫製するのに必要な糸色の全てが第1多針ミシンM1に装備されているか否かを照合する照合処理が実行される(ステップS15)。この照合処理で、縫製に必要な糸色データの全てが揃っていない場合には(ステップS15にてNo)、少なくとも刺繍模様データのうち不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報がUSBメモリ23に書き込まれる。具体的には、この書き込みの態様として例えば上書き更新する(初期化して新たに書き込む)ことで、経過情報として、ステップS14で作成された刺繍模様データがUSBメモリ23の模様情報記憶領域231に記憶されると共に、第2多針ミシンM2で縫い始めとなる糸色順序データ「糸色7」(換言すれば、第1多針ミシンM1で縫い終わりとなる糸色順序データの次の糸色順序データ)がUSBメモリ23の経過情報記憶領域232に記憶される(ステップS16)。
【0041】
尚、第1多針ミシンM1において当該刺繍模様の縫製に必要な糸色データの全てが揃っており、最後まで縫製が可能な場合には(ステップS15にてYes)、USBメモリ23への書き込みは行われない(ステップS17)。また、詳しくは後述するように、制御装置6Aは、ステップS18にて縫製動作が開始される前に刺繍模様データに基づいて刺繍模様を液晶ディスプレイ7aに表示させるようになっている。
上記のように、第1多針ミシンM1において、RAM26Aの経過情報記憶領域262Aに初期情報として「糸色1」が記憶される一方、縫製動作が開始される前にその縫製において未縫製となる部分の経過情報がUSBメモリ23に予め書き込まれる。従って、本実施形態の縫製システムSでは、第1多針ミシンM1の縫製動作開始前に、USBメモリ23を第1多針ミシンM1から取り外し、第2多針ミシンM2へ装着することで、第1多針ミシンM1でステップS18以降の縫製動作を実行しつつ、第2多針ミシンM2で縫製の準備を並行して行うことが可能となる。
【0042】
ここで、第1多針ミシンM1では、操作パネル7Aの起動停止スイッチ7bが操作されることにより、前記の刺繍模様データ、経過情報、縫製速度データ等の各種の情報に基づき縫製動作が開始される(ステップS18)。例えば、図4の刺繍模様データに基づく縫製を例にすると、先ずRAM26Aの経過情報記憶領域262Aに記憶された「糸色1」が参照され、模様情報記憶領域261Aに記憶された刺繍模様データの「糸色1」に対応する糸色データとして「ピンク」が読み出される。そして、図6(a)に示す糸駒色データが参照され、「ピンク」の糸駒色データがあると判断されると(ステップS19にてYes)、当該糸駒色データのピンクに対応する針棒10Aが選択されると共に、針落ち位置データ「Xa0,Ya0、…」に基づき移送手段41Aが制御されることで、縫製手段40Aとの協働により、ピンクの糸色での加工布に対する一連の縫製動作が実行される(ステップS20)。
【0043】
続いて、第1多針ミシンM1で刺繍模様の全ての縫製が終了したか否かが判断される(ステップS21)。この場合、糸色順序データの「糸色2」以降の処理が行われていないことから(ステップS21にてNo)、当該糸色順序データに従い「糸色2」に対応する「黄緑」について、「糸色1」と同様の処理が行われる(ステップS22、S19)。こうして、ステップS19,S20,S21,S22が糸色順序データの順に繰り返されることで、「糸色1」に対応する「ピンク」から「糸色6」に対応する「黒」までの6色分の縫製が糸色データごとに行われる。そして、糸色6までの縫製を終えると、ステップS19にて必要な糸駒色データが無いと判断されて、糸替えの設定があるか否かが判断される(ステップS23)。この点、12色の刺繍模様を縫製するにあたり、前述したステップS13での糸替えの設定が不要とされることから(ステップS23にてNo)、第1多針ミシンM1にて6色の糸色での縫製を終えた加工布は、刺繍枠ごと第1多針ミシンM1から取外されて第2多針ミシンM2に取付けられる(ステップS24)。
【0044】
尚、例えば14色の刺繍模様を縫製する場合、その縫製を2台の多針ミシンM1,M2で完了させるべく、例えば第1多針ミシンM1において2色分の糸替えを行う回数等を上記ステップS13で設定することができる。この場合、ステップS23で糸替えの設定があると判断され、ステップS25で第1多針ミシンM1における縫製が一旦中断されて糸替え作業が行なわれる。こうして、設定した回数の糸替えを終えるまで(ステップS23にてNo)、ステップS23、S25,S19,S20,S21,S22が繰り返される。尚、第2多針ミシンM2で糸替えを設定することもでき、この場合には、ステップS21で全ての縫製が終了する。
【0045】
次に、第2多針ミシンM2における制御装置6Bの縫製制御について説明する。
ユーザは、第1多針ミシンM1で経過情報を書き込まれたUSBメモリ23を、他方の多針ミシンM2のUSBコネクタ7dに装着する。そして、第1多針ミシンM1と同様に、操作パネル7Bの模様選択画面においてUSBメモリに対応するタッチキー(図示略)がタッチ操作されることで、以下の制御が開始される。尚、前述のように、第1,第2多針ミシンM1,M2は、これにセットされる糸駒17A,17Bの糸色に係る部分を除いて基本的に同様に構成されていることから、制御装置6Bの縫製制御につき図7を参照しながら説明する。
【0046】
即ち、第2多針ミシンM2において、EEPROM27Bに設定された糸駒色データ(例えば図6(b)に示す青、水色、空色、茶、紫、赤)が読み込まれる(ステップS11)。次いで、USBメモリ23の各記憶領域231〜233に記憶されている刺繍模様データ、縫い始めとなる糸色順序データ、縫製速度データ等が読み出されて、RAM26Bの各記憶領域261B〜263Bに夫々記憶される(ステップS12)。この場合、経過情報記憶領域262Bには、第2多針ミシンM2で縫い始めとなる糸色順序データとして「糸色7」が記憶される。また、この刺繍模様データと経過情報に基づいて、液晶ディスプレイ7aには、刺繍模様の全体(図8(a)参照)と、6色分の縫製を終えた現時点における刺繍模様(図8(b))が表示される。図8(a)、(b)は、これら刺繍模様の一例を示す簡略図であり、これら双方と第2多針ミシンM2の加工布における実際の刺繍模様とを比較することで、縫製が正しく行われているか、或は縫製の過程で刺繍枠やUSBメモリ23の取付けミスが無いか等、確認することができる。
【0047】
続いて、第1多針ミシンM1と同様に、読み出された刺繍模様データに係る各種の設定処理が行われた後(ステップS13)、当該刺繍模様データの糸色データと糸駒色データとに基づき、当該設定処理に応じた縫製のためのデータが作成される(ステップS14)。この後、刺繍模様データの糸色データと読み出した糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合処理が実行され(ステップS15)、第2多針ミシンM2に縫製に必要な糸色の全てが揃っていない場合には(ステップS15にてNo)、経過情報として、前述した糸色順序データとステップS14で作成された刺繍模様データとがUSBメモリ23の各記憶領域に記憶される(ステップS16)。他方、12色の刺繍模様を縫製する場合、第2多針ミシンM2に未縫製部分の縫製に必要な残り6色の糸色データの全てが揃っており、最後まで縫製が可能な場合には(ステップS15にてYes)、USBメモリ23への書き込みは行われない(ステップS17)。また、ステップS17では、USBメモリ23の経過情報記憶領域232に記憶された糸色順序データが初期化され、糸色順序データ「糸色1」が書き込まれる。
【0048】
そして、第2多針ミシンM2において、操作パネル7Bの起動停止スイッチ7bが操作されることにより、RAM26Bの各記憶領域261B〜263Bに記憶された各種の情報に基づき縫製動作が開始される(ステップS18)。例えば、刺繍模様データの糸色データにつき未縫製部分の縫製順序が図6(b)に示す針棒番号順に設定されている場合を例にすると、先ずRAM26Bの経過情報記憶領域262Bに記憶された「糸色7」が参照され、模様情報記憶領域261Bに記憶された刺繍模様データの「糸色7」に対応する「青」の糸色データから順に読み出されることとなる。そして、図6(b)に示す糸駒色データが参照され、「青」の糸駒色データがあると判断されると(ステップS19にてYes)、当該糸駒色データの青に対応する針棒10Bが選択されると共に、針落ち位置データに基づき移送手段41Bが制御されることで、縫製手段40Bとの協働により、青の糸色での加工布に対する一連の縫製動作が実行される(ステップS20)。
【0049】
続いて、第2多針ミシンM2で刺繍模様の全ての縫製が終了したか否かが判断される(ステップS21)、糸色順序データの「糸色8」以降の処理が行われていないことから(ステップS21にてNo)、当該糸色順序データに従い「糸色8」に対応する「水色」について、「糸色7」と同様の処理が行われる(ステップS22、S19)。こうして、ステップS19,S20,S21,S22が糸色順序データの順に繰り返されることで、「糸色7」に対応する「青」から「糸色12」に対応する「赤」までの6色分の縫製が糸色データごとに行われる。これにより、6色の未縫製部分の縫製が終わり(ステップS21にてYes)、縫製システムS全体での縫製も終了する。
上記ステップS12の実行に係る制御装置6A,6Bは、USBメモリ23から刺繍模様データ等を読み出す読出手段に相当する。また、上記ステップS15,S19或はS16の実行に係る制御装置6A,6Bは、糸色データと糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合手段、或はその照合結果に基づき不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報をUSBメモリ23に書き込む経過情報書込手段に相当する。
【0050】
以上のように本実施形態の縫製システムSは、各多針ミシンM1,M2において、装着されたUSBメモリ23に、前記照合結果に基づき不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報が書き込まれていない場合には、その照合結果で一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、加工布に対し刺繍模様を形成する縫製動作を実行する。他方、USBメモリ23に経過情報が書き込まれている場合には、読出手段により当該経過情報を読み出し、照合手段により経過情報の糸色データとEEPROM27A,27Bの糸駒色データとを照合して、その照合結果に基づき縫製動作を実行することで、刺繍模様の未縫製部分を縫製するように構成されている。
【0051】
上記縫製システムSによれば、1台の多針ミシンM1で縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を縫製する場合、一方の多針ミシンM1において装着したUSBメモリ23の刺繍模様データに基づき、その縫製可能な糸色数での縫製が行われる。一方の多針ミシンM1で刺繍模様の未縫製となる部分は、経過情報書込手段によりUSBメモリ23に多針ミシンM1での経過情報を書き込み、当該USBメモリ23を取り外して他方の多針ミシンM2へ装着し、読出手段により経過情報を読み出すことで縫製することができる。よって、前述した従来のタグリーダ/ライタ等の装置を別途付加することなく、記憶装置としてUSBメモリ23のみ用いるだけで、前記の糸色数を超える刺繍模様を縫製することができる。従って、縫製システムSの全体構成を極力簡単にして安価な縫製システムを提供することができると共に、上記実施形態の如く、12色の縫製模様の縫製においても面倒な糸駒交換作業を省いて作業効率を向上させることができる。
【0052】
制御装置6A,6Bは、経過情報書込手段として、各多針ミシンM1,M2で縫製動作が実行される前に、USBメモリ23に経過情報を書き込むように構成されている。これによれば、一の多針ミシンM1での縫製動作実行中に、USBメモリ23を当該多針ミシンM1から取り外して他の多針ミシンM2へ装着することで、他の多針ミシンM2で縫製の準備作業を並行して行うことができ、より縫製作業を効率的に行うことができる。ここで、経過情報書込手段がUSBメモリ23に経過情報を書き込むのは、各多針ミシンM1,M2で縫製動作を実行しているとき(実行している途中)であってもよい。或いは、作業効率は低下するが、縫製動作が終了したときであってもよい。
【0053】
多針ミシンM1,M2は、経過情報を表示する表示手段として操作パネル7A,7Bを備えている。従って、例えば、加工布を保持した刺繍枠とUSBメモリ23とを他の多針ミシンM2にセットして刺繍模様の未縫製部分を縫製する際、操作パネル7Bの液晶ディスプレイ7aに表示された経過情報に基づく表示と、加工布上の刺繍模様の縫製部分とを見比べることができる。よって、刺繍模様の未縫製部分を視覚的に容易に把握して確認することができると共に、記憶装置や刺繍枠のセットミスを防止することができる。
【0054】
記憶装置としてのUSBメモリ23は、非接触状態でデータの授受を行う従来の無線タグとは異なり、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体として着脱可能に装着される。従って、本実施形態のように、USBメモリ23等の小型で持ち運びが容易な記憶媒体を記憶装置として用いることで、多針ミシンM1,M2間でデータの授受を容易に行うことができると共に、安価で簡単な縫製システムSを構成することができる。
【0055】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。上記実施形態の縫製システムSは、2台の多針ミシンM1,M2を用いた構成に限定されるものではなく、3台以上の多針ミシンを用いて構成してもよい。
前記記憶装置は、USBメモリ23に限定されるものではなく、CD−ROM、フレキシブルディスク、DVD、フラッシュメモリ等の各種の記憶媒体であってもよい。この場合、その記憶媒体を多針ミシンM1,M2の制御装置6A,6Bにより読み込んで実行させることにより、上記実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【符号の説明】
【0056】
S 縫製システム
M1 多針ミシン
M2 多針ミシン
6A 制御装置(読出手段、糸駒色記憶手段、照合手段、経過情報書込手段)
6B 制御装置(読出手段、糸駒色記憶手段、照合手段、経過情報書込手段)
7A 表示手段
7B 表示手段
10A 針棒
10B 針棒
17A 糸駒
17B 糸駒
23 記憶装置(記憶媒体)
40A 縫製手段
40B 縫製手段
41A 移送手段
41B 移送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸色データを含む刺繍模様データを記憶する記憶装置を備え、
複数の針棒を含む縫製手段と加工布を保持する刺繍枠を移送する移送手段とを有する多針ミシンに前記記憶装置を着脱可能に装着して、前記刺繍模様データに基づき1台の多針ミシンで縫製可能な糸色数を超える刺繍模様を複数台の多針ミシンを使用して縫製する縫製システムにおいて、
前記多針ミシンは、
装着された前記記憶装置から前記刺繍模様データを読み出す読出手段と、
前記複数の針棒に対応する複数の糸駒の糸色データを糸駒色データとして記憶する糸駒色記憶手段と、
前記読出手段により読み出された刺繍模様データに含まれる糸色データと、前記糸駒色記憶手段の前記糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合手段と、
前記照合手段の照合結果に基づいて、少なくとも前記刺繍模様データの糸色データのうち不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報を前記記憶装置に書き込む経過情報書込手段と、
を具備し、前記照合手段の照合結果に基づき、一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、前記縫製手段及び前記移送手段の協働により、前記加工布に対して前記刺繍模様を形成する縫製動作を実行し、
当該多針ミシンに装着されている前記記憶装置を取り外して他の多針ミシンへ装着することで、
前記他の多針ミシンごとに、前記読出手段により前記経過情報を読み出し、前記照合手段により前記経過情報の糸色データと前記他の多針ミシンにおける糸駒色データとを照合して、その照合結果に基づき縫製動作の実行を行うことで、前記刺繍模様の未縫製の部分を縫製することを特徴とする縫製システム。
【請求項2】
前記経過情報書込手段は、各多針ミシンで前記縫製動作が実行される前に、前記記憶装置に前記経過情報を書き込むことを特徴とする請求項1記載の縫製システム。
【請求項3】
前記多針ミシンは、前記経過情報を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の縫製システム。
【請求項4】
前記記憶装置は、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体であることを特徴とする請求項1から3までの何れかに記載の縫製システム。
【請求項5】
請求項1から4までの何れかに記載の縫製システムを構成する多針ミシンに着脱可能な記憶装置。
【請求項6】
複数の糸色データを含む刺繍模様データを記憶する記憶装置が着脱可能に装着される多針ミシンであって、複数の針棒を含む縫製手段と加工布を保持する刺繍枠を移送する移送手段とを有し、前記刺繍模様データに基づき、前記縫製手段及び前記移送手段の協働により、前記加工布に対して刺繍模様を形成する縫製動作を実行する多針ミシンにおいて、
装着された前記記憶装置から前記刺繍模様データを読み出す読出手段と、
前記複数の針棒に対応する複数の糸駒の糸色データを糸駒色データとして記憶する糸駒色記憶手段と、
前記読出手段により読み出された刺繍模様データに含まれる糸色データと、前記糸駒色記憶手段の前記糸駒色データとが一致するか否かを照合する照合手段と、
前記照合手段の照合結果に基づいて、少なくとも前記刺繍模様データの糸色データのうち不一致となる未縫製の糸色データに係る経過情報を前記記憶装置に書き込む経過情報書込手段と、
を具備し、前記記憶装置に前記経過情報が書き込まれていない場合には、前記照合手段の照合結果に基づき、一致した糸色データにより特定される糸色数を用いて、前記加工布に対し前記刺繍模様を形成する縫製動作を実行し、
前記記憶装置に前記経過情報が書き込まれている場合には、前記読出手段により前記経過情報を読み出し、前記照合手段により前記経過情報の糸色データと前記糸駒色記憶手段の糸駒色データとを照合して、その照合結果に基づき縫製動作を実行することで、前記刺繍模様の未縫製の部分を縫製するように構成されていることを特徴とする多針ミシン。
【請求項7】
前記経過情報書込手段は、前記縫製動作が実行される前に、前記記憶装置に前記経過情報を書き込むことを特徴とする請求項6記載の多針ミシン。
【請求項8】
前記経過情報を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項6または7記載の多針ミシン。
【請求項9】
前記記憶装置は、データの書き込み及び読み出し可能な記憶媒体であることを特徴とする請求項6から8までの何れかに記載の多針ミシン。
【請求項10】
請求項6から9までの何れかに記載の多針ミシンに着脱可能な記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284253(P2010−284253A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139104(P2009−139104)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】