説明

繊維巻き付け装置及び繊維巻き付け方法

【課題】口金部への繊維の巻き付けをやり直すことなく、タンクへの繊維の巻き付け処理を単純化できる繊維巻き付け装置を提供する。
【解決手段】タンク2を回転させて、タンク2の外周面に繊維を巻き付ける装置1において、タンク2の回転軸方向の一方の一の側面に被せられるキャップ部32と、キャップ部32に取り付けられ、キャップ部32がタンク2の一の側面に被せられた状態でタンク2の外周面の繊維を押さえる繊維押さえ部33と、キャップ部32をタンク2の一の側面に対して回転軸方向に進退させて、キャップ部32をタンク2の一の側面に対して脱着自在とするキャップ部移動機構34と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクを回転させて、タンクの外周面に繊維を巻き付ける繊維巻き付け装置及び繊維巻き付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源としての高圧水素タンクが用いられる。この高圧水素タンクの製造は、一般に、フィラメントワインディング法(以下、「FW法」という。)を用いて行われる。具体的には、FW法により、例えば熱硬化性の樹脂を含浸させた補強繊維をタンクのライナ(内容器)の外周面に巻き付け、その後、補強繊維の樹脂を熱硬化させる。これにより、タンクの外殻に硬い補強繊維層が形成され、高圧水素タンクの強度が確保されている。
【0003】
タンクのライナへの補強繊維の巻き付けは、一般に繊維巻き付け装置を用いて行われる。この繊維巻き付け装置は、通常タンクのライナを回転させ、その回転されたライナの外周面に繊維を供給して、繊維をライナの外周面に巻き付けている(特許文献1参照)。なお、FW法については、特許文献2、3にも開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−214271号公報
【特許文献2】特開平9−60797号公報
【特許文献3】特開2003−201060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の繊維巻き付け装置では、繊維を巻き付け始めるとき、繊維の先端部を、例えばタンクの長手方向の端部にある口金部に巻き付けて固定していた。口金部は、他の部分に比べて径が小さいため、繊維の先端をしっかり固定するためには、繊維を十分に巻き付ける必要があった。そして、口金部に繊維が巻かれた状態で、タンク全体の繊維の巻き付けを実行すると、例えば口金部やその周辺の繊維の巻き付けが奇麗になおかつ適正にできなくなる。このため、途中で繊維の巻き付けを中断し、手作業で口金部の繊維を剥ぎ取り、再度口金部の巻き付けをやり直す必要があった。このため、繊維の巻き付け処理が複雑になり、時間も掛って、タンクの生産性の低下を招いていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、口金部への繊維の巻き付けをやり直すことなく、タンクへの繊維の巻き付け処理を単純化できる繊維巻き付け装置及び繊維巻き付け方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、タンクを回転させて、タンクの外周面に繊維を巻き付ける装置であって、タンクの回転軸方向の一方の一の側面に被せられるキャップ部と、前記キャップ部に取り付けられ、前記キャップ部が前記タンクの一の側面に被せられた状態でタンクの外周面の繊維を押さえる繊維押さえ部と、前記キャップ部を前記タンクの一の側面に対して前記回転軸方向に進退させて、前記キャップ部を前記タンクの一の側面に対して脱着自在とするキャップ部移動機構と、を有することを特徴とする。なお、「タンクの外周面」には、タンクの内容器の外周面も含まれる。
【0008】
本発明によれば、キャップ部の繊維押さえ部を用いて、繊維の先端部をタンクの外周面に固定できるので、例えば以前のように繊維の先端部を口金部に巻き付けてその後口金部への繊維の巻き付けをやり直すようなことがなく、タンクへの繊維の巻き付け処理を単純化できる。これにより、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。また、途中で繊維を剥ぎ取る手作業がないので、タンクへの繊維の巻き付け作業の自動化が可能になり、省人化を進めて低コスト化を図ることができる。また、繊維押さえ部により、繊維の先端部をしっかり固定できるので、繊維を高い張力で巻き付けるときにも適正に対応できる。さらに繊維を押さえる機構が比較的簡単なものであるので、低コストで上記機能を実現できる。
【0009】
前記繊維押さえ部は、前記キャップ部のタンク側の開口端部から、前記タンクの一の側面の反対側の他の側面側に向けて延びるように形成され、当該繊維押さえ部とタンクの外周面との間に繊維を挟むことによって繊維が押さえられるようにしてもよい。
【0010】
また、上記繊維巻き付け装置において、前記タンクの一の側面は、略半球状に形成され、前記キャップ部は、前記タンクの一の側面の形状に適合する略半球状に形成されていてもよい。
【0011】
別の観点による本発明は、タンクを回転させて、タンクの外周面に繊維を巻き付ける方法であって、タンクの回転軸方向の一方の一の側面にキャップ部を被せ、当該キャップ部の繊維押さえ部によりタンクの外周面の繊維の先端部を押さえる工程と、その後、タンクを回転させ、タンクの外周面に繊維を巻き付けて、当該繊維により前記繊維の先端部を固定する工程と、その後、キャップ部をタンクの一の側面から取り外す工程と、その後、タンクを回転させ、タンクの外周面に繊維を巻き付ける工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、キャップ部の繊維押さえ部を用いて、繊維の先端部をタンクの外周面に固定するので、例えば以前のように繊維の先端部を口金部に巻き付けてその後口金部への繊維の巻き付けをやり直すようなことがなく、タンクへの繊維の巻き付け処理を単純化できる。これにより、繊維の巻き付けに要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。また、途中で繊維を剥ぎ取る手作業がないので、タンクへの繊維の巻き付け作業の自動化が可能になり、省人化を進めて低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タンクへの繊維の巻き付け処理を単純化できるので、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る繊維巻き付け装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0015】
繊維巻き付け装置1は、FW法によりタンク2の外周面に補強繊維Fを巻き付けて、タンク2の外殻に、補強繊維層としての繊維強化プラスチック(FRP)層を形成するものである。本実施の形態において、補強繊維Fが巻き付けられるタンク2は、例えば略楕円体状に形成されており、長手方向の中央に円筒状の胴部2aを有し、その両側に略半球状のドーム部2bを有している。また、タンク2は、長手方向の先端部に口金部2cを有している。このタンク2は、例えば燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池を有する燃料電池システムにおいて、燃料ガスが貯留される高圧燃料ガスタンクとして用いられる。
【0016】
繊維巻き付け装置1は、例えば繊維ガイド部10と、繊維巻き付け部11を有している。
【0017】
繊維ガイド部10は、補強繊維Fを繊維巻き付け部11のタンク2の外周面に所定の角度で案内するものである。繊維ガイド部10は、例えば補強繊維Fの進行方向に対し上下方向、左右方向に往復移動自在で、なおかつ補強繊維Fの進行方向の軸周りに回転自在であり、タンク2の外周面に対する補強繊維Fの進入角度を自由に設定できる。なお、繊維ガイド部10の上流側には、例えば図示しない繊維送出部や樹脂含浸部が設けられており、繊維送出部から送出された補強繊維Fは、樹脂含浸部において樹脂が含浸され、その後繊維ガイド部10に送られている。例えば補強繊維Fとしては、例えばカーボン繊維、ガラス繊維や金属繊維等が用いられ、樹脂としては、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。
【0018】
繊維巻き付け部11は、タンク2のライナ20の長手方向の回転軸上の両端部を支持する支持部30と、ライナ20を支持部30を介して回転させる回転駆動部31と、ライナ20の回転軸方向Lの一の側面(図1の右側面)に被せられるキャップ部32と、ライナ20の外周面の繊維を押さえる繊維押さえ部33と、キャップ部32をライナ20の一の側面に対して回転軸方向Lに進退させて、キャップ部32をライナ20に対して脱着自在とするキャップ部移動機構34を備えている。
【0019】
支持部30は、例えばライナ20を水平に支持する。回転駆動部31は、例えば可変速モータを有しており、このモータによってライナ20を所定の回転速度で回転できる。このライナ20の回転運動と上記繊維ガイド部10の往復運動とを同期させることにより、補強繊維Fをライナ20の外周面に所定のパターンで巻き付けることができる。補強繊維Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であってもよい。
【0020】
キャップ部32は、ライナ20の一の側面の形状、例えばドーム部2bの略半球形状に適合するように略半球状に形成されている。このキャップ部32の中央部には、例えば支持部30が貫通する貫通孔(図示せず)が開けられている。キャップ部32のライナ20側の開口端部には、繊維押さえ部33が取り付けられている。繊維押さえ部33は、例えば細長の板状に形成され、例えばキャップ部32の開口端部からライナ20の外周面に沿って、ライナ20の他の側面(図1の左側面)側に直線状に延びている。繊維押さえ部33は、例えばキャップ部32がライナ20に被せられたときにライナ20の中央の円筒状の胴部2aまで達するように形成されている。繊維押さえ部33は、ライナ20(タンク2)の胴部2aの外周面との間に繊維径程度の狭い隙間ができるように形成されており、この隙間に補強繊維Fを挟んで当該補強繊維Fをライナ20の外周面に押さえることができる。
【0021】
キャップ部移動機構34は、例えばキャップ部32の下面を支持するキャップ支持部40と、ライナ20の回転軸方向Lに沿って延びて、キャップ支持部40が取り付けられたレール部41と、キャップ支持部40をレール部41に沿って移動させる駆動部42を備えている。例えばキャップ支持部40は、上下方向にも伸縮自在であり、例えば磁力や吸引力を用いてキャップ部32に対して脱着できる。
【0022】
次に、上記繊維巻き付け装置1を用いた補強繊維Fの巻き付け処理について説明する。
【0023】
先ず、タンク2のライナ20が繊維巻き付け部11の支持部30に支持される。次に、キャップ部移動機構34によりキャップ部32が移動され、図2に示すようにキャップ部32がライナ20の一の側面のドーム部2bに被せられる。その後、例えば先端付近の補強繊維Fがキャップ部32の繊維押さえ部33とライナ20の外周面との間に挟み込まれ、補強繊維Fの先端部が繊維押さえ部33によりライナ20の外周面に押さえられ固定される。このときの補強繊維Fの先端部の固定位置は、繊維押さえ部33で押さえられる範囲であれば、任意に選択できる。
【0024】
次に、ライナ20が回転軸周りに回転され、そのライナ20の外周面に補強繊維Fが巻き付けられる。これにより、図3に示すように先端付近の補強繊維Fの上に新たな補強繊維Fが重ねて巻き付けられ、その補強繊維Fにより補強繊維Fの先端部がライナ20の外周面に固定される。なお、このときキャップ支持部40は、キャップ部32から離脱され、キャップ部32が回転自在になっている。
【0025】
補強繊維Fの先端部が補強繊維Fの他の部分により固定された後、図4に示すようにキャップ部移動機構34により、キャップ部32がライナ20から離脱され、キャップ部32がライナ20の一の側面から取り外される。その後、ライナ20が回転され、ライナ20の外周面に補強繊維Fが多重に巻きつけられて、最終的にライナ20の外周面のほぼ全面に所定の厚みの補強繊維層が形成される。こうして補強繊維Fの巻き付け処理が終了する。
【0026】
以上の実施の形態によれば、キャップ部32の繊維押さえ部33を用いて、補強繊維Fの先端部をライナ20の外周面に固定できるので、例えば以前のように繊維の先端部を口金部2cに巻き付けてその後口金部2cへの繊維の巻き付けをやり直すようなことがなく、ライナ20への補強繊維Fの巻き付け処理を単純化できる。これにより、補強繊維Fの巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンク2の生産性を向上できる。また、途中で補強繊維Fを剥ぎ取る手作業がないので、タンク2への補強繊維Fの巻き付け作業の自動化が可能になり、省人化を進めて低コスト化を図ることができる。また、繊維押さえ部33により、補強繊維Fの先端部をしっかり固定できるので、補強繊維Fを高い張力で巻き付けるときにも適正に対応できる。さらに、補強繊維Fを押さえる機構が比較的簡単なものであるので、低コストで上述の機能を実現できる。
【0027】
繊維押さえ部33は、キャップ部32のタンク2側の開口端部から、タンク2の一の側面の反対側の他の側面側に向けて延びるように形成され、繊維押さえ部33とライナ20の外周面との間に補強繊維Fを挟むことによって補強繊維Fが押さえられるので、補強繊維Fの先端部の固定位置を任意に選択できる。これにより、タンク2の品質に影響のない位置を選んで補強繊維Fを巻き始めることができる。
【0028】
タンク2の一の側面のドーム部2bが略半球状に形成され、キャップ部32は、そのタンク2の一の側面の形状に適合する略半球状に形成されているので、キャップ部32をタンク2のライナ20の一の側面側に適正に被せることができる。
【0029】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0030】
例えば以上の実施の形態で記載した繊維巻き付け装置1は、燃料電池システムで用いられる高圧燃料ガスタンクのみならず、他の用途のガスタンクや液体タンクへの繊維の巻き付けにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】繊維巻き付け装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】キャップ部をライナに被せたときの繊維巻き付け装置の説明図である。
【図3】繊維押さえ部により補強繊維の先端部が固定されたときの繊維巻き付け装置の説明図である。
【図4】キャップ部を外したときの繊維巻き付け装置の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 繊維巻き付け装置
2 タンク
20 ライナ
32 キャップ部
33 繊維押さえ部
34 キャップ部移動機構
F 補強繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクを回転させて、タンクの外周面に繊維を巻き付ける装置であって、
タンクの回転軸方向の一方の一の側面に被せられるキャップ部と、
前記キャップ部に取り付けられ、前記キャップ部が前記タンクの一の側面に被せられた状態でタンクの外周面の繊維を押さえる繊維押さえ部と、
前記キャップ部を前記タンクの一の側面に対して前記回転軸方向に進退させて、前記キャップ部を前記タンクの一の側面に対して脱着自在とするキャップ部移動機構と、を有することを特徴とする、繊維巻き付け装置。
【請求項2】
前記繊維押さえ部は、前記キャップ部のタンク側の開口端部から、前記タンクの一の側面の反対側の他の側面側に向けて延びるように形成され、
当該繊維押さえ部とタンクの外周面との間に繊維を挟むことによって繊維が押さえられることを特徴とする、請求項1に記載の繊維巻き付け装置。
【請求項3】
前記タンクの一の側面は、略半球状に形成され、
前記キャップ部は、前記タンクの一の側面の形状に適合する略半球状に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の繊維巻き付け装置。
【請求項4】
タンクを回転させて、タンクの外周面に繊維を巻き付ける方法であって、
タンクの回転軸方向の一方の一の側面にキャップ部を被せ、当該キャップ部の繊維押さえ部によりタンクの外周面の繊維の先端部を押さえる工程と、
その後、タンクを回転させ、タンクの外周面に繊維を巻き付けて、当該繊維により前記繊維の先端部を固定する工程と、
その後、キャップ部をタンクの一の側面から取り外す工程と、
その後、タンクを回転させ、タンクの外周面に繊維を巻き付ける工程と、を有することを特徴とする、繊維巻き付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−137104(P2009−137104A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314590(P2007−314590)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】