説明

繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法

【課題】
パーティングライン位置における外観も良好な支持バーを提供する。
【解決手段】
長さ1.5〜3.0m、長手方向に垂直な断面積50〜400mmである第1の繊維強化プラスチックの表面に、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックを配すると共に、表面の有機繊維の少なくとも一部分を一旦融解したあと膜状に凝固させることを特徴とする繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板用カセットにおいて、基板を下方側から支持するためにカセットの両端に渡って設置される支持バーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネル等の製造プロセスにおいて、工程間におけるガラス基板の移動やストックのために、ガラス基板を複数枚収納する基板用カセットが用いられている。基板用カセットは、背面または側面の柱に水平に取り付けられた多数の支持バーを有し、この支持バーによってガラス基板を下方側から支持する構造となっている。支持バーは、カセットの背面に片持ち梁状に設置されたタイプと、カセットの左右側面間に両持ち梁状に設置されたタイプがあるが、大型のガラス基板を収納するカセットは後者が主流になっている。近年、ガラス基板の大型化に伴い、カセット収納時のガラス基板のたわみ量を抑えつつ、かつカセットの重量増を最小限とするために、基板を下方側から支持する支持バーの素材として、特許文献1や特許文献2に示すように炭素繊維を含む繊維強化プラスチック(以下、炭素繊維強化プラスチックと称する。)が採用される例が増えている。
【特許文献1】特開2004−146578号公報
【特許文献2】特開2005−340480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
炭素繊維強化プラスチックは、軽量で高剛性という優れた性能を持つが、成形後の加工性においては、必ずしも優れているとは言えない。特に、切断や穿孔などの機械加工性については、炭素繊維の配向方向によっては割れや欠けなどの現象が生じやすい。これを防ぐために、炭素繊維強化プラスチックの表面を、破断伸びの大きい有機繊維で強化されたプラスチックで覆うという手法がとられることがあり、炭素繊維強化プラスチック製支持バーにおいても、このような構造をとることが望ましい。
【0004】
また、支持バーのような棒状の形状をした繊維強化プラスチック成形品を得るためには、2つ以上の部分に分割された金型を用いて成形するのが一般的であるが、この場合、繊維強化プラスチック成形品の表面には、必ず金型のパーティングラインが転写された箇所が生じる。このパーティングライン位置では、成形時に強化繊維が金型の間に挟まるなどの現象が生じやすく、成形品表面に強化繊維が糸状に露出する場合があり、この現象が生じた部分は外観上好ましくないものとなる。
【0005】
本発明は、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした繊維強化プラスチックが表面に配された繊維強化プラスチック製支持バーにおいて、上記パーティングライン位置における外観も良好な支持バーを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。長さ1.5〜3.0m、長手方向に垂直な断面積50〜400mmである、少なくとも強化繊維の一部に炭素繊維を含む第1の繊維強化プラスチックの表面に、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックを配すると共に、表面の有機繊維の少なくとも一部分を一旦融解したあと膜状に凝固させることを特徴とする繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、軽量で高剛性という優れた特性を有すると共に、成形後の加工性、特に切断や穿孔などの加工時においても、割れや欠けなどの現象を生じにくく、かつ、特に金型パーティングライン位置においても良好な外観を有した繊維強化プラスチック製支持バーを得ることができることから、高性能かつ外観のよい繊維強化プラスチック製支持バーを安定して安価に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の成形方法によって得られる支持バーは、長さ1.5〜3.0m、長手方向に垂直な断面積50〜400mmである第1の繊維強化プラスチックと、その表面に、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックが配されていると共に、表面の強化材である有機繊維の少なくとも一部分が一旦融解したあと膜状に凝固していることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第1の繊維強化プラスチックは、少なくとも強化繊維の一部に炭素繊維を含むものである。少なくとも、強化繊維の一部に炭素繊維を含むことにより、炭素繊維の特性に由来する軽量で高剛性という優れた性能が得られるためである。軽量高剛性であればあるほど、ガラス基板の大型化に伴う重量増にも対応できる幅が増えるため、強化繊維中の50〜100体積%が、炭素繊維であることが好ましく、80〜100体積%であればさらに好ましい。また、得ようとする支持バーのサイズや収納するガラス基板の重量等に応じて、適宜強化繊維中の炭素繊維比率を調整することも可能である。本発明において第1の繊維強化プラスチックに用いる炭素繊維以外の強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維等が用いることが可能であるが、炭素繊維以外の強化繊維はこれらに限定されず、適宜、上記以外を選択したり組み合わせたりして用いても良い。 一般的に、炭素繊維の破断伸度は、大きなものでも2%程度であるため、強化繊維の一部に炭素繊維を含む連続繊維で強化された繊維強化プラスチック、とりわけ、炭素繊維の体積含有率が50%を超える繊維強化プラスチックは、その成形後の機械加工性において、素材に延性がないゆえの加工性の悪さを伴っている。具体的には、炭素繊維強化プラスチック製の支持バーの生産においては、成形後の長さ切断や固定用または基材保持ピン用の穴を穿孔する際に、炭素繊維強化プラスチックに割れや欠け等が生じ、不良品として扱わなければならない製品がある頻度で発生する。これを防止するためには、切削工具にダイヤモンド粒子焼結品を用いたり、切削送り速度を遅くするなどの手段が採られ、係る方法においてもある程度の効果はあるが、工具の価格が上昇したり、加工時間が長くなるなど、工程や必要な消耗品の増加など生産性を低下させる要因となり、ひいては製品のコストを増大させる結果となる。
【0010】
そこで、本発明の支持バーの成形方法においては、破断伸度は小さいが、高剛性な第1の繊維強化プラスチックで本体を形成しつつ、その表面に融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックを配することにより、特に表面で発生しやすい機械加工時の割れや欠け等の発生を防ぎ、通常の加工方法での機械加工性を高めることができる。
【0011】
さらに、本発明の支持バーにおいては、表面の有機繊維の少なくとも一部分を一旦融解させ、膜状に凝固させることにより、次のような利点がある。すなわち、かかる支持バーを成形する場合には通常は金型を用いるが、かかる金型は複数の型を組み合わせて成形体の形状を形成する必要があり、特に金型の組み合わせ面であるパーティングライン位置では成形時に強化繊維の糸状表面露出が発生しやすく、外観上好ましいものではなかったが、かかる強化繊維の糸状表面露出を、成形後の処理により除去し、外観上も好ましい製品とすることができるのである。
【0012】
このとき、支持バーは長さ方向に対して高い曲げ剛性を持つことが好ましいため、第1の繊維強化プラスチック内の炭素繊維は、実質支持バーの長手方向に配向されているものであることが好ましい。実質長手方向とは、一般的に長手方向から5°以内の方向であるということである。また、融点が150〜300℃である有機繊維としては、ポリエステル繊維やナイロン繊維が挙げられ、本発明では特にこれを限定するものではない。融点が150〜300℃である有機繊維の配向方向は、機械加工時の割れや欠けを防ぐという観点から多方向であることが好ましく、直交する長繊維の織物や、ランダムに配向された長繊維不織布を用いることが好ましい。
【0013】
本発明における第1および/または第2の繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、またはナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられるが、下記する引き抜き成形法による一体成形を行う場合には、常温で強化繊維への樹脂含浸が行えること、金型温度が低くて済むことなどより、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の支持バーは、例えばプリプレグを用いたオートクレーブ法やホットプレス法、またハンドレイアップ法や同一断面の外型内を移動させながら樹脂を硬化させる引き抜き成形法など、一般的な繊維強化プラスチック成形方法のいずれかによって成形することができる。特に、支持バーの断面形状が均一である場合は、引き抜き成形方法が低コストでの量産に適しており好ましい。
【0015】
本発明における支持バーは、表面部分において、第2の繊維強化プラスチックの層と第1の繊維プラスチックの境界での剥離の発生を防ぐために、第1の繊維強化プラスチックと第2の繊維強化プラスチックが同じマトリクス樹脂で形成されていると共に、一度の樹脂硬化プロセスによって一体的に成形されていることが望ましい。これは、上記の引き抜き成形方法を採用して容易に実現することが可能である。
【0016】
以下、本発明の実施態様の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の成形方法により得られる繊維強化プラスチック製支持バーの一例を示す斜視図である。本実施態様では、支持バー1は、中実の矩形断面を持つ棒状部材であり、その両端にはカセットの取付部との締結用貫通穴2が、また、長さ方向に分布した基材保持ピン用の非貫通穴3が加工されている。
【0018】
図2は、本発明の成形方法により得られる繊維強化プラスチック製支持バーの一例を示す、長さ方向に垂直な面における断面図である。断面の構造は、第1の繊維強化プラスチックからなる本体4の表面に、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチック5が配置されている。
【0019】
図3は、本発明を、熱硬化性樹脂を用いた引き抜き成形法で実施する場合の状況を示した概略図である。
【0020】
第1の繊維強化プラスチックを形成する炭素繊維6は、ボビンに巻かれた状態からクリールスタンド7によって供給される。糸道ガイド8によって引き揃えられた炭素繊維6の束は、樹脂バス9にためられたマトリクス樹脂10を含浸される。さらに、炭素繊維6の束の外側を覆うように、第2の繊維強化プラスチックを形成する強化繊維によるテープ状の布帛11を配置し、加熱された金型12へと導く。マトリクス樹脂10は金型12を通過中に硬化し、金型12の下流で所望の成形品を得る。クリールスタンド7から金型12に至るまでの移動力は、すべてプラー13による引き抜き力によって与えられる。こうして得られた連続する成形品を、所望の長さに切断、穿孔などの機械加工を施して、支持バー1を得ることができる。なお、このとき金型12は、成形品高さ方向の中央をパーティングラインとして、上下に2分割されているため、支持バー1には、側面中央部に引き抜き方向と平行に金型のパーティングラインが転写される。
【0021】
図4は、上記のようにして得られた支持バー1の金型パーティングライン転写部14に、糸状の強化繊維15が露出した状況を示す斜視図である。金型パーティングラインにはわずかながら隙間が存在するため、このような現象が生じる場合がある。糸状の強化繊維15の露出は、支持バーとしての性能をなんら低下させるものではないが、外観上は糸くずが付着しているように見え、好ましくない。本発明では、支持バー1の表面は融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックでなっているため、露出している糸状の強化繊維15は、融点が150〜300℃である有機繊維である。このため、支持バー1の表面を一時的に有機繊維の融点以上の温度に加熱、冷却することにより、露出した糸状の強化繊維15を除去し、一旦融解した有機繊維が膜状に凝固した表面を有する支持バー1を得ることができる。
【0022】
表面の加熱方法は、熱した気体や液体による方法、熱した金属などを当てる方法、レーザー光などを照射する方法などをとり得るが、本発明においてはその方法を制約するものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1
炭素繊維6として東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T700S、第2の繊維強化プラスチックを形成する強化繊維の布帛11として東レ(株)製ポリエステル不織布である“アクスター(登録商標)”H2050、マトリクス樹脂10としてビニルエステル樹脂を用いて、図3に示す引き抜き成形法により、幅19mm×高さ9mmの長方形断面を持つ連続した成形品を得た後、超硬チップを持つ丸鋸にて長さ2080mmに切断し、超硬ドリルビットにて4箇所のφ7貫通穴2と8箇所のφ4非貫通穴3を加工して、支持バー1を得た。さらに、レーザー照射器16としてSUNX社製LP−420S9Uを2台用いて、図5に示すレーザー加工機にて、支持バーの両側面の、金型パーティングライン転写部を中心に4mm幅で、長さ方向に連続的に表面を加熱加工した。
【0024】
得られた支持バーは、レーザーを照射した部分の“アクスター(登録商標)”繊維が膜状に凝固しており、糸状の強化繊維の露出がない外観上好ましいものであった。
【0025】
比較例
炭素繊維6として東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T700S、第2の繊維強化プラスチックを形成する強化繊維の布帛11として東レ(株)製ポリエステル不織布である“アクスター(登録商標)”H2050、マトリクス樹脂10としてビニルエステル樹脂を用いて、図3に示す引き抜き成形法により、幅19mm×高さ9mmの長方形断面を持つ連続した成形品を得た後、超硬チップを持つ丸鋸にて長さ2080mmに切断し、超硬ドリルビットにて4箇所のφ7貫通穴2と8箇所のφ4非貫通穴3を加工して、支持バー1を得た。得られた支持バーの側面金型パーティングライン部には、“アクスター”からの長さ1mm前後の糸状の繊維の露出が、支持バー1本当たり1〜5本程度観察された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の成形方法により得られる繊維強化プラスチック製支持バーの一例を示す斜視図
【図2】本発明の成形方法により得られる繊維強化プラスチック製支持バーの一例を示す、長さ方向に垂直な面における断面図
【図3】本発明を、熱硬化性樹脂を用いた引き抜き成形法で実施する場合の状況を示した概略図
【図4】糸状の強化繊維露出が見られる繊維強化プラスチック製支持バーの一例を示す斜視図
【図5】実施例1で用いたレーザー加工機の一例を示す斜視図
【符号の説明】
【0027】
1:繊維強化プラスチック製支持バー
2:締結用貫通穴
3:基材保持ピン用の非貫通穴
4:第1の繊維強化プラスチックからなる本体
5:破断伸度3%以上の強化繊維を用いた第2の繊維強化プラスチック
6:炭素繊維
7:クリールスタンド
8:糸道ガイド
9:樹脂バス
10:マトリクス樹脂
11:第2の繊維強化プラスチックを形成する強化繊維によるテープ状の布帛
12:金型
13:プラー
14:金型パーティングライン転写部
15:糸状の強化繊維
16:レーザー照射器
17:上下ガイドローラー
18:左右ガイドローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ1.5〜3.0m、長手方向に垂直な断面積50〜400mmである、少なくとも強化繊維の一部に炭素繊維を含む第1の繊維強化プラスチックの表面に、融点が150〜300℃である有機繊維を強化材とした第2の繊維強化プラスチックを配すると共に、表面の有機繊維の少なくとも一部分を一旦融解したあと膜状に凝固させることを特徴とする繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。
【請求項2】
繊維配向方向が前記繊維強化プラスチック製支持バーの長手方向である炭素繊維が、前記第1の繊維強化プラスチックに含まれる全炭素繊維中の90〜100重量%である請求項1に記載の繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。
【請求項3】
第2の繊維強化プラスチック中の融点が150〜300℃である有機繊維を、織物または長繊維不織布形態で配する請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。
【請求項4】
第1の繊維強化プラスチックと第2の繊維強化プラスチックを、同じマトリクス樹脂で成形する請求項1から3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。
【請求項5】
第1の繊維強化プラスチックと第2の繊維強化プラスチックを、一度の樹脂硬化プロセスによって一体的に成形した後、表面の少なくとも一部分にレーザー光を照射することにより表面の温度を上昇させ、融点が150〜300℃である有機繊維の少なくとも一部分を一旦融解させることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。
【請求項6】
引き抜き成形法により連続的に成形した後、1.5〜3.0mの長さに切断する請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製支持バーの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−302540(P2008−302540A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150040(P2007−150040)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】