説明

繊維強化プラスチック長尺シートおよびその製造方法

【課題】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートであって、厚さ精度の高い繊維強化プラスチック長尺シートを提供すること。
【解決手段】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを、該シートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイスに連続的に引き込みながら加熱成形することを特徴とする繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法であり、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmの繊維強化プラスチック長尺シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法に関するものである。本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法によれば、厚さが均一な繊維強化プラスチック長尺シートを製造することができる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のガス拡散体を構成する基材として、炭素繊維を樹脂炭化物で結着してなる多孔質炭素基材が知られている(特許文献1および特許文献2参照)。これらの多孔質炭素基材は、長尺で連続的に成形と焼成を行うため、従来の枚葉状バッチ式での製造方法(特許文献3参照)に比べて生産性が高く、低コストであるという特徴がある。
【0003】
ここで、成形工程では、加圧した状態で加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させて炭素繊維を結着させる必要がある。したがって、加圧されない状態で熱硬化性樹脂が加熱されると、炭素繊維と樹脂が十分に結着されず、成形品の厚さ精度が悪くなるなどの問題が生じる。
【0004】
ここで、図2に、従来技術および本発明における成形工程の模式図と、成形品が受ける圧力と温度の履歴を示す。
【0005】
図2において、上記の特許文献1では、連続的な成形を行うために、ダブルベルトプレス装置5を用い、一対のエンドレスベルト6で補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を搬送しながら予熱ゾーン7で予熱後、ロールプレス8で加熱加圧して、繊維強化プラスチック長尺シート13を得ている(図2の左端の図参照)。しかしながら、ダブルベルトプレス装置5では、加熱は、予熱ゾーン7からロールプレス8までの間で行われているが、加圧は、ロールプレス8でごく短時間の線圧でしか行われない。したがって、ダブルベルトプレス装置5による成形では、従来の枚葉状の多孔質炭素基材の製法で用いられるバッチ式の平板プレスと比べると、厚さ精度の劣る成形品しか得られないという問題がある。
【0006】
このような問題に対して、上記の特許文献2では、上面盤10と下面盤11からなる平板プレスの開閉を繰り返し、平板プレスが開いている間に成形品を搬送する間欠プレス装置9による成形を行い繊維強化プラスチック長尺シート14を得ている(図2の中央の図参照)。間欠プレス装置9では、加熱は、プレスの入口から出口までの間で行われており、加圧は、平板プレスが開いて成形品を搬送している間以外は面圧で加圧されている。したがって、間欠プレスによる成形では、ダブルベルトプレスと比べると、加圧状態で加熱される時間を十分に確保できるため、より優れた厚さ精度の成形品が得られる。
【0007】
しかしながら、間欠プレス装置による成形であっても、平板プレスが開いて成形品を搬送をしている間は、加圧されない状態で樹脂の硬化が進むため、従来のバッチ式の平板プレス装置によるものと同程度の厚さ精度の成形品しか得られない。
【特許文献1】国際公開第01/56103号パンフレット(第12頁)
【特許文献2】国際公開第04/085728号パンフレット(第18頁)
【特許文献3】特開平6−92731号公報(第2頁、段落番号0007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の技術における上述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを常に一定クリアランスに保たれた状態で加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させ炭素繊維を結着させる繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法、および、厚さ精度の高い繊維強化プラスチック長尺シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法は、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを、該シートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイスに連続的に引き込みながら加熱成形することを特徴とする繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法である。
【0010】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の ダイスのスリットは、一対の金属ブロックで挟まれたスペーサーにより設けられている。
【0011】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、繊維強化プラスチック長尺シートに含まれる補強繊維の繊維配向(または配列)は非一方向性であるシートを用いることができる。
【0012】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の一対のベルトは、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートと接する面に離型性を有する層を設けたベルトであり、一対のベルトに設けられた離型性を有する層は、フッ素樹脂を含むものである。
【0013】
また、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の一対のベルトは、ダイスと接する面に潤滑性を有する層を設けたベルトであり、前記のダイスのスリットは、一対のベルトと接する面に潤滑性を有する層を設けたスリットであり、潤滑性を有する層は、フッ素樹脂および充填材を含むものである。
【0014】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の 一対のベルトは、ガラス繊維織物とフッ素樹脂を含むシート、または、金属シートの両表面をフッ素樹脂で被覆したシートである。
【0015】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、前記の 一対のベルトは、エンドレスベルトであり、エンドレスベルトのダイスと接する面の両端には全周に渡って張力伝達部が設けられている。
【0016】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法の好ましい態様によれば、繊維強化プラスチック長尺シートを構成する前記の補強繊維には、炭素短繊維であるシートを用いることができる。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートは、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmであることを特徴とする繊維強化プラスチック長尺シートである。繊維強化プラスチック長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差は、長尺シートの長手方向に5cm間隔で100点以上の厚さデータを測定して算出する。厚さデータは、マイクロメーターを用いて繊維強化プラスチック長尺シートの厚さ方向に0.15MPaの面圧を付与して測定する。マイクロメーターの測定子の断面は、直径5mmの円形である。
【0018】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの好ましい態様によれば、前記の繊維強化プラスチック長尺シートに含まれる補強繊維は炭素短繊維である。
【0019】
また、本発明の多孔質炭素長尺シートは、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されている多孔質炭素シートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.0μmである多孔質炭素長尺シートである。多孔質炭素長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差は、前記の繊維強化プラスチック長尺シートと同様の方法で算出する。
【0020】
本発明の多孔質炭素長尺シートの好ましい態様によれば、多孔質炭素長尺シートの厚さ方向への圧縮による歪みは5μm以下である。多孔質炭素長尺シートの厚さ方向への圧縮による歪みは、測定子の断面が直径5mmの円形であるマイクロメーターを用いて多孔質炭素長尺シートの厚さ方向に0.33MPaの面圧を付与して測定した厚さをdとし、その後、多孔質炭素長尺シートの厚さ方向に1.60MPaの面圧付与および面圧の解放を2回繰り返してから0.33MPaの面圧を付与して測定した多孔質炭素長尺シートの厚さをdとして、次の(I)式により求めることができる。測定回数は3回とし、次の(I)式により求めた3つの平均値から圧縮による歪みを算出する。
圧縮による歪み=d−d (I)式
本発明の多孔質炭素長尺シートの好ましい態様によれば、多孔質炭素長尺シートの厚さ方向の比抵抗は、70mΩ・cm以下である。多孔質炭素長尺シートの厚さ方向の比抵抗は、多孔質炭素長尺シートを一定面積の水銀電極で挟み、電極間に一定電流を流したときの電圧降下から、次の(II)式によって算出する。
厚さ方向の比抵抗(mΩ・cm)=(V×S)/(I×d) (II)式
ただし、V:電圧降下(mV)
I:電流(A)
d:シートの厚さ(cm)
S:水銀電極の面積(cm
とし、水銀電極は直径3cmの円形である。
【0021】
本発明の多孔質炭素長尺シートの好ましい態様によれば、多孔質炭素長尺シートの厚さは100〜250μmである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを、該シートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイスに連続的に引き込みながら加熱成形することにより、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmである繊維強化プラスチック長尺シートを得ることができる。該繊維強化プラスチック長尺シートを不活性雰囲気下で連続的に焼成することにより、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されている多孔質炭素シートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.0μmである多孔質炭素長尺シートを得ることができる。
【0023】
本発明によれば、以下に説明する実施例と比較例との対比からも明らかなように、厚さ精度の高い繊維強化プラスチック長尺シート、および、多孔質炭素長尺シートを提供することが可能である。また、該多孔質炭素長尺シートは、厚さ精度が高く寸法安定性に優れるため、固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図2の右端の図は、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を説明するための装置12の概略図であり、図1は、本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック長尺シート1の製造工程の一形態を説明するための概略縦断面図であり、前記図2の右端の図の部分拡大図である。
【0026】
図3は、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の他の一形態を説明するための装置12の概略図であり、図4は、図3のA−A’面における部分断面図であり、図5は、本発明で用いられる金属ブロックの一形態を説明するための概略断面図である。
【0027】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シート1の製造方法は、図1において、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を、該シート2の両表面を一対のベルト3で挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイス4に連続的に引き込みながら加熱成形することに特徴がある。
【0028】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2が、熱硬化性樹脂の硬化によってダイス4に固着しないために、一対のベルト3の幅は該シート2の幅よりも大きいことが好ましい。すなわち、該シート2の全面が、常に一対のベルト3に覆われた状態でダイス4に連続的に引き込まれることが好ましい。
【0029】
ダイス4の長さは、5〜100cmが好ましく、より好ましくは10〜80cmであり、更に好ましくは30〜60cmである。ダイス4の長さが5cmよりも小さいと、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2がダイス4で加熱される時間が短くなり、熱硬化性樹脂が十分に硬化しないことがある。また、ダイス4の長さが100cmより大きいと、一対のベルト3の駆動に必要な張力が大きくなりすぎることがある。
【0030】
ダイス4に設けるスリットの幅は、製造したい繊維強化プラスチック長尺シート1の幅よりも大きくすることが好ましい。
【0031】
ダイス4の加熱温度は、120〜300℃が好ましく、より好ましくは160〜280℃であり、更に好ましくは180〜260℃である。加熱温度が120℃よりも低いと、熱硬化性樹脂の反応速度が低下することがある。また、加熱温度が300℃よりも高いと、後述する離型性や潤滑性を有する層に含まれるフッ素樹脂が溶融や熱分解を起こすことがある。ダイス4の加熱装置には、通常の平板プレスやロールプレスに用いるのと同様の装置を用いることができる。
【0032】
補強繊維としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などを用いることができる。後述するように、固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として好ましく用いられる多孔質炭素長尺シートを得るためには、高い導電性と機械的強度を有する炭素繊維を用いることが好ましく、より好ましくは炭素短繊維である。炭素短繊維の繊維長は、好ましくは3〜20mmであり、更に好ましくは5〜15mmである。炭素短繊維の繊維長を上記範囲とすることにより、炭素短繊維を分散させ抄紙して炭素繊維シートを得る際に、炭素短繊維の分散性を向上させ、目付のばらつきを抑制することができる。
【0033】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂およびエポキシ樹脂などを用いることができるが、不活性雰囲気下で加熱した際の炭化収率が高いフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2は、例えば、炭素短繊維を抄造した炭素繊維紙や炭素繊維フェルトに、フェノール樹脂を含浸することにより得られる。
【0035】
熱硬化性樹脂の量は、補強繊維100重量部に対して10〜400重量部が好ましく、より好ましくは30〜300重量部であり、更に好ましくは50〜200重量部である。熱硬化性樹脂が10重量部よりも少ないと熱硬化性樹脂による補強繊維の結着力が不十分となり、繊維強化プラスチック長尺シート1の厚さのばらつきが大きくなることがある。また、熱硬化性樹脂が400重量部よりも多いと、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2が、ダイス4に設けられたスリットを通過する際に樹脂が搾り出されて流出することがある。
【0036】
バッチプレス、間欠プレスおよびダブルベルトプレス等の、圧力で繊維強化プラスチックシートの厚さを制御する方法では、補強繊維や熱硬化性樹脂の目付のばらつきが、そのまま成形された繊維強化プラスチックシートの厚さのばらつきにつながる。
【0037】
一方、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法は、該シートの厚さを圧力ではなくダイスに設けたスリットのクリアランスで制御する。したがって、目付のばらつきがある材料を用いても、目付の高い部分は高い圧力が、目付の低い部分は低い圧力がかかることとなり、高い厚さ精度の繊維強化プラスチック長尺シートが得られる。
【0038】
スリット4に設けるスリットのクリアランスは、一対のベルト3の厚さと、製造したい繊維強化プラスチック長尺シート1の厚さに0.5〜1.0の係数を乗じたものの和とすることが好ましい。該シート1の厚さに乗ずる係数は、用いられる補強繊維や熱硬化性樹脂の種類や量によって調整する必要はあるが、好適には0.5〜1.0の範囲で調整することにより希望する厚さの繊維強化プラスチックシート1を得ることができる。
【0039】
また、図1に示すように、本発明に係る繊維強化プラスチック長尺シート1の製造方法は、常に一定クリアランスに保たれた状態で加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させ炭素繊維を結着させる。したがって、従来の長尺成形品を得る方法である間欠プレスやダブルベルトプレスなどのように、加圧されない状態で加熱される部分がある製造方法よりも、高い厚さ精度の繊維強化プラスチック長尺シートが得られる。
【0040】
さらに、枚葉状の繊維強化プラスチックシートを得る方法であるバッチプレスでは、プレス面盤の大きさが、成形する繊維強化プラスチックシートの大きさ以上であることが必要であるため、長尺の成形品を得るためにはプレス装置を大規模にしなければならなくなる。また、成形する繊維強化プラスチックシートが大きくなると、プレス面盤のサイズを大きくしなければならず、プレス面盤の平行度を維持することが困難となるため、得られる繊維強化プラスチックシートの厚さ精度が悪くなる。
【0041】
一方、本発明の繊維強化プラスチック長尺シート1の製造方法では、ダイス4の幅は、成形する繊維強化プラスチック長尺シート1の幅以上でなければならないが、ダイス4の長さは、繊維強化プラスチック長尺シートを引き込みながら連続的に加熱成形するため、繊維強化プラスチック長尺シート1よりも短くて済む。したがって、ダイス4に設けたスリットの平行度も維持しやすく、バッチプレスによるものよりも高い厚さ精度の繊維強化プラスチック長尺シートが得られる。
【0042】
図3と図4に示すように、ダイス4のスリットは、一対の金属ブロック19で挟まれたスペーサー18により設けられることが好ましい。スペーサー18によりダイス4のクリアランスを調整することができるため、繊維強化プラスチック長尺シート1の求める厚さ毎にダイス4を用意する必要がない。また、ダイス4の組立、分解ができるため、後述する一対のエンドレスベルト15を用いることが可能となる。
【0043】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法によれば、補強繊維の繊維配向(または配列)が非一方向性である繊維強化プラスチック長尺シートを得ることができる。ここで、繊維配向が非一方向性であるとは、補強繊維が繊維強化プラスチック長尺シートの長手方向に配向していないことをいう。繊維配向が非一方向性である補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートとしては、炭素短繊維からなる紙や炭素繊維フェルトに熱硬化性樹脂を含浸したものなどが挙げられる。
【0044】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法と同様に、熱硬化性樹脂を含む補強繊維を加熱したダイスの中を引き抜くプルトルージョン法がある。該プルトルージョン法では、得られる成形品に張力をかけて引き抜く。したがって、成形品が張力により破壊しないためには成形品の長手方向に補強繊維が配向していることが必要である。
【0045】
一方、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法では、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを一対のベルトで挟んでスリットを有するダイスに引き込みながら加熱成形する。したがって、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを引き込む際に必要な張力はベルトにかかるため、プルトルージョン法では成形することが困難な、長手方向に補強繊維が配向していない、長手方向の引張りに弱いシートも成形することができる。
【0046】
一対のベルト3は、補強繊維と熱硬化性樹脂からなるシートと接する面に離型性を有する層を設けたベルトであることが好ましい。離型性を有する層は、熱硬化性樹脂が加熱により硬化する際にベルト3に固着するのを防ぐことができる。離型性を有する層は、フッ素樹脂を含む層であることが好ましい。フッ素樹脂は高い離型性を有するからである。
【0047】
一対のベルト3は、ダイス4と接する面に潤滑性を有する層を設けたベルトであることが好ましい。補強繊維と熱硬化性樹脂からなるシートをダイス4に設けたスリットに引き込むため大きな張力が必要となる。潤滑性を有する層を設けることでダイスとの摩擦を低減し、必要な張力を低減することができる。
【0048】
一対のベルト3とダイス4との摩擦を低減するためには、ダイス4のスリットに、一対のベルトと接する面に潤滑性を有する層を設けることもできる。
【0049】
ダイス4に設けた潤滑性を有する層は、充填材を含むことが好ましい。潤滑性を有する層が充填材を含むことにより、潤滑性を有する層の耐摩耗性が向上するからである。潤滑性を有する層が摩擦により摩耗すると、ダイス4のスリットのクリアランスが変化し、所定の厚さの繊維強化プラスチックシートが得られなくなることがある。
【0050】
潤滑性を有する層は、フッ素樹脂を含む層であることが好ましい。フッ素樹脂は高い潤滑性を有するからである。具体的には、フッ素樹脂の焼き付けによるコーティングなどが好ましい。
【0051】
フッ素樹脂とは、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)およびフッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)等の分子内にフッ素原子を含む樹脂のことをいう。
【0052】
潤滑性を有する層に含む充填材としては、炭素繊維、ガラス繊維、グラファイト、ブロンズおよび二硫化モリブデンなどを用いることができる。
【0053】
図5に示すように、金属ブロック19に充填材入りフッ素樹脂シート21を貼り付け、止め板20で固定することにより、ダイス4のスリットに一対のベルト3と接する面に潤滑性を有する層を設けることができる。交換可能な充填材入りフッ素樹脂シート21を用いることにより、フッ素樹脂の焼き付けによるコーティング等よりもメンテナンス性に優れている。
【0054】
一対のベルト3としては、ガラス繊維織物とフッ素樹脂を含むシートを用いることができる。また、金属シートの両表面をフッ素樹脂で被覆したシートを用いることもできる。両表面に高い離型性と潤滑性を有するフッ素樹脂の層を有しているためである。
【0055】
一対のベルト3は、図3と図4に示すように、一対のエンドレスベルト15であることが好ましい。ベルト3をエンドレスとすることにより、任意の長さの繊維強化プラスチック長尺シート1を得ることができる。
【0056】
一対のエンドレスベルト15は、ダイス4と接する面の両端に全周に渡って張力伝達部16を設けられることが好ましい。求める繊維強化プラスチック長尺シート1の幅や厚さによっては、一対のエンドレスベルト15に大きな張力が必要となることがある。エンドレスベルトへの動力伝達には幾つかの方法が考えられる。
【0057】
エンドレスベルトを駆動ロールでニップして動力伝達した場合は、該エンドレスベルトに線圧がかかり負荷が局所に集中するため、エンドレスベルトの耐久性が問題となる。また、エンドレスベルトに潤滑性を有する層を設けた場合、エンドレスベルトと駆動ロール間で滑りが生じ十分な動力を伝達できない。
【0058】
エンドレスベルトを摩擦ロールで駆動させ動力伝達した場合は、該エンドレスベルトに設けた潤滑性を有する層が摩擦ロールにより摩耗する。また、エンドレスベルトに穴加工やピンを取り付けを行い、対応するプーリで動力伝達した場合は、該エンドレスベルトにプーリ部分で局所的に負荷がかかるため、エンドレスベルトの耐久性が問題となる。
【0059】
一対のエンドレスベルト15に、ダイス4と接する面の両端に全周に渡って張力伝達部16を設けることにより、ベルトの全周に渡って張力を分散することができ、エンドレスベルト15の局所部分に大きな負荷をかけることなく必要な動力を伝達することができる。
【0060】
一対のエンドレスベルト15に張力伝達部16を設けた場合、図4のように、金属ブロック19に、動力伝達部16が通過するための溝を設けることが好ましい。
【0061】
張力伝達部16としてはアタッチメント付ローラーチェーンのように引張強度が強く、エンドレスベルト15の全周に渡って固定できるものが好ましい。一対のエンドレスベルトには、駆動部17から動力伝達部16を介して動力を伝達することができる。駆動部17は、張力伝達部16と対応したもの、前記ローラーチェーンの場合は対応するスプロケットを用いることができる。
【0062】
本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法によれば、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmである繊維強化プラスチック長尺シートを得ることができる。標準偏差が1.0〜3.5μmであると、後述するように厚さ精度が高い多孔質炭素長尺シートを得ることができる。
【0063】
長尺とは、バッチプレスにより得ることが困難な繊維強化プラスチックの長さであることをいい、具体的には、長さが10m以上であることをいう。また、多孔質炭素シートを連続的に焼成して得ること、および、得られた多孔質炭素シートの川下工程での高次加工性を考慮すると、100m以上の長さであることが好ましい。また、多孔質炭素シートの長さは、巻径が大きくなりすぎて取り扱いが困難とならないように1,000m以下であることが好ましい。
【0064】
多孔質炭素シートの幅は、10〜200cmであることが好ましい。多孔質炭素シートの幅が10cmより小さいと、後述する固体高分子型燃料電池として必要なサイズのガス拡散体を得ることが困難となる。また、多孔質炭素シートの幅が200cmより大きいシートを得るためには、後述する焼成時に炉幅の広い連続焼成炉が必要となり、設備が大規模となる。
【0065】
後述するように、多孔質炭素長尺シートが高い表面平滑性を有するためには、補強繊維は炭素短繊維であることが好ましい。炭素短繊維は繊維長が3〜20mmとすることが好ましく、さらに炭素繊維の長さを5〜15mmとすることが好ましい。
【0066】
本発明に係る、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されている多孔質炭素長尺シートは、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.0μmである。
【0067】
多孔質炭素長尺シートは、繊維強化プラスチック長尺シート1を不活性雰囲気に保たれた加熱炉内を連続的に走行せしめながら昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化した後、ロール状に巻き取ることにより得ることができる。
【0068】
繊維強化プラスチック長尺シート1は、10〜1,000℃/分の範囲内の速度で加熱炉内を連続的に走行させながら、少なくとも1,200℃の温度まで昇温することが好ましい。昇温速度が10℃/分未満では、生産性が著しく低下して製造コストが上昇する。逆に、昇温速度が1,000℃/分を超えると、熱硬化性樹脂が急激に炭素化されるために、樹脂炭化物部分のひび割れや、炭素繊維と樹脂炭化物との結着面での剥離が大量に発生し、得られる多孔質炭素シートの厚さ方向への圧縮による歪みや厚さ方向の比抵抗が増大する。
【0069】
昇温速度は、加熱炉入口の温度と、加熱炉内の最高温度と、加熱炉入口から導入されるシートが最高温度域まで移動するのに要する時間(移動時間)とから、次式によって求められる。ここで、加熱炉入口とは、雰囲気が大気から不活性雰囲気へと切り替わる加熱炉入口側の部位である。
V=(T2−T1)/t
ただし、V :昇温速度(℃/分)
T1:加熱炉入口の温度(℃)
T2:加熱炉内の最高温度(℃)
t :移動時間
加熱炉はただ1個である必要はなく、2個以上の加熱炉による多段焼成を行うこともできる。2個の加熱炉を用いる場合には、1段目の加熱炉の昇温速度は上式から求め、2段目の加熱炉の昇温速度は、上式におけるT1を、前段の加熱炉の最高温度、すなわち1段目の加熱炉の最高温度として求める。3個以上の加熱炉を用いる場合にも同様である。
【0070】
焼成温度は、1,200℃以上とすることが好ましいが、1,500〜3,000℃の最高焼成温度で焼成することがさらに好ましい態様である。最高焼成温度が1,500℃以上であると、熱硬化性樹脂の炭素化が進み、得られる基材中における不純物が減少して導電性等の電気的特性がさらに向上するようになる。一方、最高焼成温度が3,000℃を超えると、運転コストが上昇するばかりでなく、加熱炉の消耗が激しくなってその維持コストが上昇し、生産コストが上昇するようになる。より好ましい最高焼成温度の範囲は1,600〜2,500℃であり、さらに好ましい範囲は1,700〜2,000℃である。
【0071】
多孔質炭素長尺シートの厚さは、焼成前の繊維強化プラスチック長尺シートの厚さに大きく依存するため、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmである本発明の繊維強化プラスチック長尺シート1を連続焼成することにより、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.0μmの多孔質炭素長尺シートを得ることができる。
【0072】
焼成用の加熱炉としては、いわゆる連続焼成炉を用いることができ、炉内の不活性雰囲気は、炉内に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを流通させることによって得ることができる。
【0073】
本発明に係る多孔質炭素長尺シートは、固体高分子型燃料電池のガス拡散体として好ましく用いることができる。一般的に、固体高分子型燃料電池では、ガスケットを用いて供給ガスのシールをする。しかしながら、ガス拡散体の厚さのばらつきが大きいと、厚さが大きい部分ではシールが不十分となりガス漏れが生じる。また、厚さが小さい部分ではセパレータとガス拡散体との電気的接触を十分に確保できないためオーム損が増大し、電池性能が低下するという問題が生じる。本発明の多孔質炭素長尺シートは、長手方向の厚さの標準偏差が3.0μm以下であるため、このような問題が生じない。
【0074】
固体高分子型燃料電池のガス拡散体として、一般的に炭素繊維織物、炭素繊維フェルトおよび炭素繊維紙が用いられている。炭素短繊維からなる炭素繊維紙は、繊維のほとんどが面内方向を向いて分散しており、厚さ方向への配向はわずかであるため、表面平滑性が高いという効果を有する。
【0075】
一方、炭素繊維フェルトは、繊維を厚さ方向に交絡させて形態を保持しており、また、炭素繊維織物は織り糸および織り目による凹凸があるため表面平滑性に劣る。
【0076】
表面平滑性に劣るガス拡散体は、燃料電池を構成する固体高分子膜を貫通し短絡を生じやすい、セパレータとの電気的接触を確保しにくい等の問題を有する。本発明の多孔質炭素長尺シートは、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されているため、表面平滑性に優れ、高い表面平滑性を有する。
【0077】
炭素短繊維の繊維長は好ましくは3〜20mmであり、更に炭素繊維の長さを5〜15mmとすることにより、炭素短繊維を分散させ抄紙して炭素繊維シートを得る際に、炭素短繊維の分散性を向上させ、目付のばらつきを抑制することができる。
【0078】
本発明の多孔質炭素長尺シートは、厚さ方向への圧縮による歪みが5μm以下であることが好ましい。燃料電池では、複数の単セルを積層し圧力をかけてスタックしているため、厚さ方向への圧縮による歪みが5μmより大きい場合、ガス拡散体の厚さが経時的に減少して、セパレーターとの接触抵抗が増大するという問題が生じる。
【0079】
本発明の多孔質炭素長尺シートは、厚さ方向の比抵抗が70mΩ・cm以下であることが好ましい。厚さ方向の比抵抗が70mΩ・cm以下であると、ガス拡散体でのオーム損が少なくなり、燃料電池の性能が向上する。
【0080】
常に一定クリアランスに保たれた状態で加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させ炭素短繊維を結着させた繊維強化プラスチック長尺シート1を焼成して得られる、本発明の多孔質炭素長尺シートは、樹脂炭化物が炭素短繊維を十分に結着しているため、厚さ方向への圧縮による歪みが小さく、厚さ方向の比抵抗も小さい。
【0081】
本発明の多孔質炭素長尺シートは、厚さが100〜250μmであることが好ましい。多孔質炭素長尺シートはロール状にして扱うことができるが、厚さが100μmよりも小さいと薄すぎて割れやすく、250μmよりも大きいと厚くて巻きにくいという問題が生じる。多孔質炭素長尺シートの厚さは、製造に用いられる補強繊維および熱硬化性樹脂の目付、ダイス4に設けたスリットのクリアランス等で制御することができる。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T−300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素繊維の目付が約32g/mの長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維紙100重量部に対して20重量部に相当する。
【0083】
株式会社中越黒鉛工業所製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、メタノールを1:4:16の重量比で混合した分散液を用意した。上記炭素繊維紙に、炭素繊維紙100重量部に対してフェノール樹脂が110重量部になるように、上記分散液に連続的に含浸し、90℃の温度で3分間乾燥することにより補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を得てロール状に巻き取った。フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを1:1の重量比で混合した樹脂を用いた。
【0084】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を、長さ10m、幅10cmにトリミングして、一対のベルト2としての両表面をPTFEによりフッ素コーティングした一対のステンレスベルトで挟んだ状態で、230℃の温度に加熱したスリットを有するダイス4に0.6m/分の速度で連続的に引き込みながら加熱成形することにより、長さ10m、幅10cmの繊維強化プラスチック長尺シート1を得た。
【0085】
使用したステンレスベルトの厚さは200μm、幅は15cm、長さは12mであり、該ステンレスベルトにコーティングしたフッ素樹脂の層は20μmである。また、ダイス4に設けたスリットの幅は20cm、クリアランスは620μmであり、ダイス4の幅は30cmであり、長さは18cmである。
【0086】
得られた繊維強化プラスチック長尺シート1を、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2,000℃の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約500℃/分(650℃までは400℃/分、650℃を超える温度では550℃/分)の昇温速度で焼成し、ロール状に巻き取った。得られた繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例2)
一対のベルト2として、中興化成工業株式会社製フッ素コーティング・ガラスクロス チューコーフロー(登録商標)ベルトBGF−500−6(厚さ125μm)を用い、ダイス4に設けたスリットのクリアランスを390μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートを得た。得られた繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
(実施例3)
スリットを有するダイス4として、ステンレス製の金属ブロック19で、ステンレスシートのスペーサー18を挟んだものを用い、一対のベルト3として両表面をPTFEによりフッ素コーティングした一対のステンレス製エンドレスベルト15を用い、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を長さ100m、幅30cmにトリミングしたこと以外は、実施例1と同様にして、長さ100m、幅30cmの繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートを得た。
【0091】
エンドレスベルト15は、幅40cm、長さ2mであり、ダイス4と接すると接する面(エンドレスベルト15の内側面)の両端に全周に渡って動力伝達部16としてアタッチメント付きローラーチェーンを取り付けた。エンドレスベルト15には、駆動部17としての直径30cmのスプロケットから、ローラーチェーンを介して動力を伝達した。 また、金属ブロック18は、大きさがそれぞれ縦18cm、横50cm、高さ5cmであり、スリット側の面の長辺をR加工し、スリット側の表面を鏡面加工したものであり、上記エンドレスベルト15に取り付けたローラーチェーンが通過するための溝を設けたものを用いた。ステンレスシートのスペーサー18は、縦18cm、横3cm、厚さ620μmであった。得られた繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を、表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
(実施例4)
一対のエンドレスベルト15のPTFEによるフッ素コーティングを、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2と接する面(エンドレスベルト15の外側面)のみに施し、ステンレスシートのスペーサー18の厚さを1140μmとし、ステンレス製の金属ブロック19のスリット側の表面から側面にかけて、充填材入りフッ素樹脂シート21としてニチアス株式会社製充てん材入り“ナフロン”(登録商標)PTFEテープT/#9001−G15(厚さ150μm、充填材はガラスファイバー15%)を貼り付けて止め金20で固定したこと以外は、実施例1と同様にして、長さ100m、幅30cmの繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートを得た。得られた繊維強化プラスチック長尺シート1および多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を、表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
(比較例1)
以下の方法で、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を成形し、(間欠プレス装置により製造された)繊維強化プラスチック長尺シート14を得たこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック長尺シート14および多孔質炭素長尺シートを得た。
【0096】
株式会社カワジリ社製100tプレス9に、フッ素系離型剤により離型処理を施した上面盤10および下面盤11(ともに面盤サイズは縦120cm、横120cm)が互いに平行となるようセットし、面盤温度170℃、面圧0.8MPaで、プレスの開閉を繰り返しながら補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を間欠的に搬送しつつ、同じ箇所がのべ6分間加熱加圧されるよう圧縮処理した。この際、面盤の有効加圧長LPは1200mmで、間欠的に搬送する際の前駆体繊維シートの送り量LFを100mmとし、LF/LP=0.08とした。すなわち、30秒の加熱加圧、型開き、炭素繊維紙の送り(100mm)、を繰り返すことによって圧縮処理を行い、得られた繊維強化プラスチック長尺シート14をロール状に巻き取った。得られた繊維強化プラスチック長尺シート14および多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を表5に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
(比較例2)
以下の方法で、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2を成形し、繊維強化プラスチックシートを得て焼成したこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックシートおよび多孔質炭素シートを得た。
【0099】
株式会社カワジリ社製100tプレスに、フッ素系離型剤により離型処理を施した上面盤および下面盤(ともに面盤サイズは縦120cm、横120cm)が互いに平行となるようセットし、面盤温度170℃、面圧0.6MPaで、長さ1m、幅10cmにトリミングした補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシート2をバッチプレスで6分間加熱加圧した。上記成形を10回繰り返し、長さ1m、幅10cmの繊維強化プラスチックシート10枚を得た。得られた繊維強化プラスチックシートは長さが不十分で、そのままでは連続焼成が困難であったため、上述の炭素繊維“トレカ”(登録商標)のフィラメントに結び付け、炭素繊維のフィラメントを一定速度で巻き取ることにより加熱炉内を連続的に走行させた。得られた繊維強化プラスチックシートおよび多孔質炭素長尺シートの諸元および評価結果を表6に示す。
【0100】
なお、得られた繊維強化プラスチックシートおよび多孔質炭素シートは長さ1m、幅10cmの枚葉状であるため、10枚のシートを並べて長さ10m、幅10cmの長尺シートであるとみなし、上述した方法と同様にして長手方向の厚さの標準偏差を求めた。
【0101】
【表6】

【0102】
以上の実施例および比較例について、繊維強化プラスチックシートおよび多孔質炭素シート多孔質炭素基材の諸元および評価結果のうち主要なものを表7にまとめる。
【0103】
【表7】

【0104】
上記実施例1および実施例2の繊維強化プラスチック長尺シート1は、長手方向の厚さの標準偏差が2.5および2.4μmと小さい。また、繊維強化プラスチック長尺シート1を焼成した多孔質炭素長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差も、2.4および2.2μmと小さい。さらに、厚さ方向への圧縮による歪みは、ともに4μmと小さく、厚さ方向の比抵抗も、それぞれ57および60mΩ・cmと小さい。
【0105】
これは、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを常に一定クリアランスに保たれた状態で加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させ炭素繊維を結着させたためである。
【0106】
また、実施例3および実施例4の繊維強化プラスチック長尺シート1の長さは、一対のベルト3が一対のエンドレスベルト15であるため、実施例1および実施例2の10mよりも長尺な100mである。
【0107】
一方、比較例1は、繊維強化プラスチック長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差が4.4μmであり、多孔質炭素長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差が4.1μmと厚さ精度が不十分である。これは、間欠プレスにおいて、プレス面盤が開いて成形品を搬送をしている間は、加圧されない状態で樹脂の硬化が進むためである。
【0108】
また、比較例2は、長尺の繊維強化プラスチックシートを得られておらず、また、面盤のサイズも縦120cm、横120cmと大きく、プレス面盤の平行を維持することが困難なため、繊維強化プラスチック長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差が4.3μmであり、多孔質炭素長尺シートの長手方向の厚さの標準偏差が4.0μmと厚さ精度が不十分である。
【0109】
以上のように、本発明の強化繊維プラスチック長尺シートの製造方法によれば、厚さ精度の高い長尺の繊維強化プラスチックシートを提供することができる。また、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートを連続焼成することにより、厚さ精度の高い多孔質炭素長尺シートを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る強化繊維プラスチック長尺シートは、固体高分子型燃料電池のガス拡散体を製造する中間体に限らず、断熱・防音材、不燃建材、電磁波シールド材などにも応用することができるが、その応用範囲が、これに限られるものではない。
【0111】
本発明に係る多孔質炭素長尺シートは、固体高分子型燃料電池のガス拡散体に限らず、ダイレクトメタノール型燃料電池等の各種電池の電極基材や脱水機用電極などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を説明するための概略縦断面図(図2の右端の図の部分拡大図)である。
【図2】図2は、従来技術および本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を示す概略縦断面図、および、繊維強化プラスチック長尺シートが受ける温度と圧力履歴の概略図である。
【図3】図3は、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の他の一形態を説明するための概略断面図である。
【図4】図4は、図3のA−A’面の部分断面図である。
【図5】図5は、本発明で用いられる金属ブロックの一形態を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1:繊維強化プラスチック長尺シート
2:(補強繊維と熱硬化性樹脂を含む)シート
3:一対のベルト
4:ダイス
5:ダブルベルトプレス装置
6:(ダブルベルトプレス装置における)一対のエンドレスベルト
7:予熱ゾーン
8:ロールプレス
9:間欠プレス装置
10:上面盤
11:下面盤
12:本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を説明するための装置
13:(ダブルベルトプレスにより製造された)繊維強化プラスチック長尺シート
14:(間欠プレス装置により製造された)繊維強化プラスチック長尺シート
15:一対のエンドレスベルト
16:張力伝達部
17:駆動部
18:スペーサー
19:金属ブロック
20:止め板
21:充填材入りフッ素樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを、該シートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイスに連続的に引き込みながら加熱成形することを特徴とする繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項2】
ダイスのスリットが一対の金属ブロックで挟まれたスペーサーにより設けられている請求項1記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項3】
補強繊維の繊維配向が非一方向性である請求項1または2記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項4】
一対のベルトが補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートと接する面に離型性を有する層を設けてなるベルトである請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項5】
一対のベルトがダイスと接する面に潤滑性を有する層を設けたベルトである請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項6】
ダイスのスリットが一対のベルトと接する面に潤滑性を有する層を設けてなるスリットである請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項7】
潤滑性を有する層が充填材を含む請求項5または6記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項8】
離型性を有する層がフッ素樹脂を含む層である請求項4記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項9】
潤滑性を有する層がフッ素樹脂を含む層である請求項5〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項10】
一対のベルトがガラス繊維織物とフッ素樹脂を含むシートである請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項11】
一対のベルトが金属シートの両表面をフッ素樹脂で被覆したシートである請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項12】
一対のベルトがエンドレスベルトである請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項13】
エンドレスベルトのダイスと接する面の両端に全周に渡って張力伝達部が設けられてなる請求項12記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項14】
補強繊維が炭素短繊維である請求項1〜13のいずれかに記載の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項15】
補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.5μmであることを特徴とする繊維強化プラスチック長尺シート。
【請求項16】
補強繊維が炭素短繊維である請求項15記載の繊維強化プラスチック長尺シート。
【請求項17】
炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されている多孔質炭素シートであって、長手方向の厚さの標準偏差が1.0〜3.0μmであることを特徴とする多孔質炭素長尺シート。
【請求項18】
厚さ方向への圧縮による歪みが5μm以下である請求項17記載の多孔質炭素長尺シート。
【請求項19】
厚さ方向の比抵抗が70mΩ・cm以下である請求項17または18記載の多孔質炭素長尺シート。
【請求項20】
厚さが100〜250μmである請求項16〜19のいずれかに記載の多孔質炭素長尺シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−264329(P2006−264329A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49864(P2006−49864)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】