説明

繊維強化樹脂用シート及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体

【課題】繊維基材の端部に段差がなく、かつ繊維内に樹脂が均一に浸透し易く、均一な物性の成形品を得ることが可能な繊維強化樹脂用シート及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体を提供する。
【解決手段】本発明の繊維強化樹脂用シート10は、不織布15と繊維基材13を含み、繊維基材13を構成する繊維11は少なくとも一方向に揃えられ、繊維基材13端面は突き合わされており、突き合わせ部14の少なくとも一面に不織布15が配置され、不織布15と繊維基材13とは、不織布15表面に付与された接着層により一体化されており、前記表面に接着層が付与された不織布15は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有する。本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記繊維強化樹脂用シートとマトリックス樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布と補強用繊維を含む繊維強化樹脂用シート及びこれを用いた繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、炭素(カーボン)、アラミド等の強化繊維を用いた繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、高強度、軽量等の特色を生かして、パイプ、パネル、壁材、タンク、各種スポーツ用品、航空機産業、住宅資材、建築資材、輸送資材などに広く応用されている。FRPの成形方法としては、例えば下記の方法が知られている(非特許文献1)。
(1)ハンドレイアップ法、スプレーアップ法などの接触圧成形法
(2)真空バッグ法、加圧バッグ法、オートクレーブ法、インフュージョン法、レジンインジェクト法、コールドプレス法などの低圧成形法
(3)マッチドダイ法、シート モールディング コンパウンド(SMC)法、バルク モールディング コンパウンド(BMC)法、スタンピング法などの高圧成形法
(4)フィラメントワインディング(FW)法、引き抜き法、連続積層法などの連続成形法
【0003】
従来技術として、ガラス繊維に樹脂を含浸させてプリプレグとする際に、ガラスクロスの端面を突き合せ、この突き合せ部の片面に樹脂フィルムと補強用ガラスクロスを積層して圧着する提案がある(特許文献1)。また、補強用繊維基材の端部を重ね、その間に接着剤を介在させる提案もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−18173号公報
【特許文献2】特開2003−166164号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大阪市立工業試験所ら、「プラスチック読本」,プラスチック・エージ、1992年8月15日、268−275頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特許文献1の方法は樹脂フィルムを使用しているため、マトリックス樹脂が補強繊維内に浸入しにくいという問題があること、及び、特許文献2の方法は、補強用繊維基材の端部を重ねるため、段差ができてしまい、この部分の形状と強度が不均一になること、という課題を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の繊維強化樹脂用シートは、不織布と繊維基材を含む繊維強化樹脂用シートであって、前記繊維基材を構成する繊維は少なくとも一方向に揃えられ、前記繊維基材端面は突き合わされており、突き合わせ部の少なくとも一面に前記不織布が配置され、前記不織布と前記繊維基材とは、前記不織布表面に付与された接着層により一体化されており、前記表面に接着層が付与された不織布は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記繊維強化樹脂用シートとマトリックス樹脂を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有する、表面に接着層が付与された不織布を、繊維基材端面の突き合わせ部の少なくとも一面に接着層により一体化することにより、繊維基材の端部に段差がなく、かつ補強用繊維内に樹脂が均一に浸透し易く、均一な物性の成形品を得ることができる。すなわち、通気量が前記の範囲の不織布は、マトリックス樹脂が通過しやすく繊維内に樹脂が均一に浸透し易い。また、繊維基材の端部に段差がないため、この部分の形状及び強度は均一となる。これらの相乗効果により、均一な物性の成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の一実施例における繊維強化樹脂用シートの斜視図である。
【図2】図2は別の実施例における繊維強化樹脂用シートの斜視図である。
【図3】図3は本発明の一実施例における繊維強化樹脂用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、不織布と繊維基材を含む繊維強化樹脂用シートで構成される。繊維基材を構成する繊維は少なくとも一方向に揃えられている。繊維を一方向に揃えた繊維基材としては、例えば構成繊維を一方向に揃えたスダレ状基材、織物、編物、組物又は多軸挿入たて編物がある。この繊維基材端面は突き合わされている。突き合わせにより、段差は形成されない。突き合わせ部の少なくとも一面に不織布が配置され、不織布と繊維基材とは、不織布表面に付与された接着層により一体化されている。この一体化は、マトリックス樹脂を浸入させる成形時まで、所定の形状を保つことができる程度であればよい。成形後は繊維とマトリックス樹脂との一体化により、所定の強度が保たれる。
【0012】
前記不織布は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有する。さらに好ましい通気量は200〜400cm3/(cm2・S)の範囲である。これにより、繊維内にマトリックス樹脂が均一に浸透し易く、均一な物性の成形品を得ることができる。150cm3/(cm2・S)未満の通気量では、気泡の巻込みにより、繊維内にマトリックス樹脂が均一に浸透しにくくなる。700cm3/(cm2・S)の超える通気量では、不織布の強度が低下し、取り扱い性が低下する。
【0013】
前記繊維強化樹脂用シートは板状、管状、その他任意の形状に形成できる。
【0014】
前記不織布は、スパンレース不織布又はスパンボンド不織布であることが好ましい。スパンレース不織布又はスパンボンド不織布は、薄くてマトリックス樹脂の通過性も良好である。とくに好ましくは、バインダーを用いないスパンレース不織布又はスパンボンド不織布である。バインダー、すなわち接着成分となる合成樹脂が、最終的に得られるFRP成形体の強度物性に悪影響を及ぼす恐れがある。なお、不織布には通気量調整のためにメッシュ孔を設けても良い。
【0015】
前記不織布の目付けは、10g/m2を超え50g/m2以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましい目付けは、25〜40g/m2の範囲である。前記の目付けであれば強度保持とマトリックス樹脂の通過性向上の両立を図れる。
【0016】
本発明においては、繊維強化樹脂用シートとマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂成形体を得るため、前記樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂は、成形前の原料段階においては、粘度が低く、繊維に浸入しやすく、成形しやすい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂、フェノール系樹脂等がある。熱可塑性樹脂であっても使用することはできる。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂等がある。
【0017】
本発明の繊維基材は、構成繊維を一方向に揃えたスダレ状基材、織物、編み物、組物又は多軸挿入たて編み物などを使用する。これらの中間体は、最終成形体に使用するためのプリプレグとすることもできる。スダレ状基材、織物、編み物、多軸挿入たて編み物は、シート状に成形して使用でき、スダレ状基材、組み物はパイプ状に成形して使用できる。織物及び編み物の組織は、公知のいかなる組織でも使用できる。繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエステル繊維などから適宜一種又は複数組み合わせて使用できる。繊維基材を構成する繊維は単繊維直径0.5〜50μmのものを一方向に引き揃えたものが好ましい。
【0018】
次に図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例における繊維強化樹脂用シート10の斜視図であり、図3は同断面図である。一方向に引き揃えられた繊維11は編み糸12によってスダレ状に編まれ、繊維基材13を構成している。繊維基材13,13の端面は、段差ができないように突き合わされている。突き合わせ部14の少なくとも一面に不織布15が配置されている。不織布15にはメッシュ孔16が開いているのが好ましい。不織布15と繊維基材13とは、不織布15表面に付与された接着層17により貼りあわされている。この不織布15は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有する。
【0019】
図2は別の実施例における繊維強化樹脂用シート9の斜視図である。このシート9は、多軸挿入たて編み物の概念斜視図である。繊維が一方向に引き揃えられたシート1a〜1fが複数枚方向を異ならせて積層され、編針6に掛けられたステッチング糸7,8によって厚さ方向にステッチング(結束)され、一体化されている。このような多軸挿入たて編み物を繊維補強シートとし、マトリックス樹脂と一体成形する。この多軸状の積層シートは、多方向に補強効果の優れた繊維強化プラスチックを得ることが可能となる。ステッチング糸の代わりに、又は併用してバインダーを用いても良い。
【実施例】
【0020】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
本実施例においては、図1及び図3に示すような構造の繊維強化樹脂用シート10を作製した。まず、ガラスフィラメント(単繊維直径15μm)を一方向に引き揃えて1束の繊維11とし、編み糸12によってスダレ状に編んで繊維基材13(長さ300mm、幅150mm)とした。2枚の繊維基材13,13の端面は、段差ができないように突き合わせ、突き合わせ部14の少なくとも一面に不織布15(長さ300mm、幅100mm)を配置した。なお、この配置によれば1枚の繊維基材には、長さ300mm、幅50mmで不織布15が積層されることとなる。この不織布は、目付け30g/m2のバインダーなしのポリエステル製スパンレース不織布であった。不織布15の一面に、目付け20g/m2のポリエステル系樹脂ホットメルトフィルム状接着剤17を塗布し、これで繊維基材13と貼り合わせた。前記接着層付き不織布15の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で275cm3/(cm2・S)であった。
【0022】
ステンレス板のうえに、不織布15で接続された繊維基材(2枚合わせて、長さ300mm、幅300mm)を載置した。その上からフィルムを被せ、インフュージョン成形を行った。なお、インフュージョン成形とは、上型にフィルムを使用し下型とフィルムの気密性を保ち、真空圧によって樹脂充填、含浸させるクローズモールド成形法である。使用する樹脂は、市販の不飽和ポリエステル樹脂であり、硬化剤として市販のMEKPO(メチルエチルケトンパーオキサイド)を用いた。
【0023】
得られた成形品を、接続断面が分かるように切断し、断面状態を観察した。得られた成形品は、気泡の巻き込みも少なく、均一な含浸状態であった。
【0024】
(比較例1)
実施例1のスパンレース不織布に代えて、スパンボンド不織布(バインダーなし、目付け60g/m2)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。なお、接着層付き不織布の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で120cm3/(cm2・S)であった。得られた成形品を、接続断面が分かるように切断し、断面状態を観察した。得られた成形品は、気泡の巻き込みが多く、不均一な含浸状態であった。
【0025】
(実施例2)
実施例1のスパンレース不織布に代えて、スパンレース不織布(バインダーなし、目付け20g/m2)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。なお、接着層付き不織布の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で450cm3/(cm2・S)であった。得られた成形品は、気泡の巻き込みも少なく、均一な含浸状態であった。ただし、繊維基材の強度が弱くなり、実生産において取扱いが難しいものであった。
【0026】
(実施例3)
実施例1のスパンレース不織布に代えて、スパンボンド不織布(バインダーなし、目付け45g/m2)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。なお、接着層付き不織布の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で190cm3/(cm2・S)であった。得られた成形品を、接続断面が分かるように切断し、断面状態を観察した。得られた成形品は、気泡の巻き込みが見られたが、比較的均一な含浸状態であった。
【0027】
(実施例4)
実施例1のスパンレース不織布に代えて、スパンボンド不織布(バインダーなし:目付け35g/m2)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。なお、接着層付き不織布の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で350cm3/(cm2・S)であった。得られた成形品を、接続断面が分かるように切断し、断面状態を観察した。得られた成形品は、気泡の巻き込みも少なく、均一な含浸状態であった。
【0028】
(比較例2)
実施例1のスパンレース不織布に代えて、スパンレース不織布(バインダーなし、目付け10g/m2)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。なお、接着層付き不織布の通気量は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で750cm3/(cm2・S)であった。得られた成形品は、気泡の巻き込みも少なく、均一な含浸状態であった。ただし、繊維基材の強度が弱くなり、実生産において取扱いが不能なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、パネル、壁材、タンク、各種スポーツ用品、航空機産業、住宅資材、建築資材、輸送資材などに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1a〜1f 繊維強化樹脂用複合糸
6 編針
7,8 ステッチング糸
9,10,20 繊維強化樹脂用シート
11 一方向に引き揃えられた繊維
12 編み糸
13 繊維基材
14 突き合わせ部
15 不織布
16 メッシュ孔
17 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と繊維基材を含む繊維強化樹脂用シートであって、
前記繊維基材を構成する繊維は少なくとも一方向に揃えられ、
前記繊維基材端面は突き合わされており、突き合わせ部の少なくとも一面に前記不織布が配置され、
前記不織布と前記繊維基材とは、前記不織布表面に付与された接着層により一体化されており、
前記表面に接着層が付与された不織布は、JIS L 1096、1999.8.27.1A法で規定されるフラジール法で150〜700cm3/(cm2・S)の範囲の通気量を有することを特徴とする繊維強化樹脂用シート。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂用シートは板状に形成され、前記繊維基材の端面には段差がない請求項1に記載の繊維強化樹脂用シート。
【請求項3】
前記不織布は、スパンレース不織布である請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂用シート。
【請求項4】
前記不織布の目付けは、10g/m2を超え50g/m2以下の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂用シート。
【請求項5】
前記繊維基材は、構成繊維を一方向に揃えたスダレ状基材、織物、編物、組物及び多軸挿入たて編物から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂用シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂用シートとマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂成形体。
【請求項7】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂である請求項6に記載の繊維強化樹脂成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−168936(P2011−168936A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36092(P2010−36092)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】