説明

繊維強化複合材及び繊維強化複合材の締結構造

【課題】繊維強化複合材の締結部を改質することによるクリープ変形の抑制を目的とする。
【解決手段】繊維強化複合材1は熱硬化性樹脂であるマトリックス2と層状に配置された炭素繊維である強化繊維3で形成されている。繊維強化複合材1は他の部材である金属材8と締結されている。繊維強化複合材1に形成された締結用の貫通孔4に締結部材であるボルト10が挿入され、金属材8の側からナット11を締め付けることにより、繊維強化複合材1が金属材8と固定されている。繊維強化複合材1とボルト10が圧接する領域に被膜層6が形成されている。被膜層6はマトリックス2より硬い材料である鉄5で構成されている。被膜層6によりマトリックス2の流動を抑制することができる。また、ボルト10を締結した際の応力は被膜層6が受けるため、前記応力を直接マトリックス2が受ける場合に比べ、繊維強化複合材1のクリープ変形を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、他の部材との締結部を改質した繊維強化複合材及び前記繊維強化複合材と他の部材との締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂をマトリックスとした繊維強化複合材は軽量の構造材として広く使用されている。前記繊維強化複合材は単体で使用される場合は少なく、金属材等の他の部品と接合されて使用される。接合方法としてはボルトによる締結が多い。しかし、前記繊維強化複合材をボルトで直接締結する場合、マトリックスである樹脂のクリープにより前記繊維強化複合材が変形するために、ボルトの軸力が低下し、がたつきが生じるという問題がある。
【0003】
この対策としては、例えば、成形された樹脂材料に孔を形成し、前記孔にボルト挿入用の金属カラーを圧入することによって、前記金属カラーを介して前記樹脂材料を他の部材に締結する方法がある。また、特許文献1に開示されているように、樹脂材料に金属カラーを挿入し、前記金属カラーにボルトを貫通し、前記ボルトにより前記金属カラーを介して前記樹脂材料をエンジン本体に締結する方法がある。具体的には、車載エンジンの回転検出部を保持する樹脂材料からなるハウジングと一体成形された同じく樹脂材料であるフランジに、金属カラーをインサート成形する。前記金属カラーがボルトで締結されることにより、前記回転検出部が金属材料であるエンジン本体と締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2006−275270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術のように、金属カラーを利用する方法は金属カラーがボルトの締結による応力を支えるため、ボルトの締結緩みを抑制することはできる。しかし、樹脂材料に形成した孔に金属カラーを挿入する方法の場合、前記金属カラーの圧入精度、前記孔の加工精度が必要であるためコストがかかる。更に金属カラーの分だけ重量が増すという欠点がある。また、特許文献1のように金属カラーをインサート成形する方法では、成形時にエンジン本体やボルトの頭部と接触する金属カラーの端面に樹脂材料が乗り上げる現象が生じる。このため、樹脂材料の乗り上げによる不都合を回避する対策が必要となり、精度の高い成形技術が要求される。また、金属カラーを使用する点で重量増加の問題は避けられない。
【0006】
本願発明の目的は、繊維強化複合材の締結部を改質することによりクリープ変形の抑制を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本願発明は、樹脂をマトリックスとして強化繊維を含有し、締結部材が挿入される貫通孔を備え、前記締結部材により他の部材に締結される繊維強化複合材において、前記繊維強化複合材の少なくとも前記締結部材が圧接する領域に前記マトリックスよりも硬い被膜材料を付着させたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の本願発明によれば、前記被膜が形成されたれた領域においては、前記被膜材料が前記締結部材の応力を受けるため、応力の緩和効果により被膜材料が付着されていない場合に比べ、前記繊維強化複合材のクリープ変形を抑制することができる。また、繊維強化複合材を締結するための金属カラー等を必要としないので、貫通孔を有する繊維強化複合材の成形が容易となり、また繊維強化複合材の軽量化にも貢献する。
【0009】
請求項2に記載の本願発明は、前記被膜材料は前記被膜が形成される領域の前記マトリックス内に混在していることを特徴とする。従って、前記繊維強化複合材において前記締結部材の応力を受ける領域は、前記被膜材料が混在する分、クリープの原因となる前記マトリックスの量が減少するため、前記被膜材料が混在されていない場合と比べ、前記繊維強化複合材のクリープ抑制効果を高めることができる。
【0010】
請求項3に記載の本願発明は、前記被膜材料は前記マトリックス内に配置された前記強化繊維の層と接触する状態で混在していることを特徴とする。そのため、前記被膜材料を介して前記強化繊維の層の面が前記締結部材の応力を受けるため、前記繊維強化複合材の変形を抑制する効果がある。
【0011】
請求項4に記載の本願発明は、前記被膜が形成される領域は前記貫通孔の内周面を含むことを特徴とする。従って、繊維強化複合材において、締結部材が挿入される貫通孔の内周面に生じるクリープ変形を抑制することができる。
【0012】
請求項5に記載の本願発明は、前記他の部材が金属材であることを特徴とする。従って、金属材に対して繊維強化複合材を緩むことなく固定することができる。
【0013】
請求項6に記載の本願発明は、前記被膜が形成される領域は前記他の部材と接触する表面を含むことを特徴とする。従って、締結部材及び他の部材と接触する全領域に被膜材料が存在するため、クリープ変形の抑制効果をより高めることができる。
【0014】
請求項7に記載の本願発明は、前記被膜材料は金属であることを特徴とする。従って、前記金属は前記繊維強化複合材の前記マトリックスと線膨張係数が近いため、前記被膜材料が付着された領域において、前記繊維強化複合材を高温で使用した場合の変形やがたつきを防止できる。また、前記金属は延性を持つため、締結部材を締め付ける際の衝撃荷重に対して強く、インパクトレンチにより締め付けることもできる。
【0015】
請求項8に記載の本願発明は、締結部材と、樹脂をマトリックスとして強化繊維を含有し、前記締結部材が挿入される貫通孔を備える繊維強化複合材と、前記繊維強化複合材を取り付ける他の部材とからなり、前記貫通孔に前記締結部材が挿入されることで前記繊維強化複合材を前記他の部材に締結する繊維強化複合材の締結構造において、前記繊維強化複合材の少なくとも前記締結部材が圧接する領域に前記マトリックスよりも硬い被膜材料を付着させた被膜が形成されることを特徴とする。従って前記繊維強化複合材の前記被膜材料が付着された領域においては、前記被膜材料が前記締結部材の応力を受けるため、前記被膜材料が付着されていない場合に比べ、前記繊維強化複合材のクリープ変形を抑制することができる。また、繊維強化複合材の締結に金属カラーを使用した場合、貫通孔の成形精度の保証が必要であったが、本願発明では必要なくなった。さらに、金属カラーを使用しない分、軽量化にも貢献する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明は、他の部材と締結して使用される繊維強化複合材及び繊維強化複合材の締結構造において、繊維強化複合材のクリープ変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態における繊維強化複合材の、締結構造を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態における繊維強化複合材の製造方法を示す模式図である。
【図3】第2の実施形態における繊維強化複合材の、締結構造を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態における繊維強化複合材の製造方法を示す模式図である。
【図5】第3の実施形態における繊維強化複合材の、締結構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本願発明を具体化した第1の実施形態を図1及び図2に従って説明する。
【0019】
繊維強化複合材1は図1のように締結して使用される。繊維強化複合材1は熱硬化性樹脂であるマトリックス2と層状に配置された炭素繊維である強化繊維3を含有し、一部に貫通孔4を有する構成である。繊維強化複合材1において、繊維強化複合材1と後述する締結部材の頭部が圧接する領域に、マトリックス2よりも硬い被膜材料である鉄5を付着したときに形成される被膜層6が、貫通孔4の内周面の後述する締結部材と接触する領域に被膜層7が形成されている。被膜層6及び被膜層7は被膜材料である粉末状の鉄5で構成されている。被膜層6は鉄5がマトリックス2に付着されることにより形成されている。具体的には、図2において詳細に説明するように、鉄5は強化繊維層3と接触する状態でマトリックス2内に混在するとともにマトリックス2の表面を覆うように積層されている。他の部材である金属材8は締結用の貫通孔9を有している。繊維強化複合材1は他の部材である金属材8と締結されている。繊維強化複合材1と金属材8とは、繊維強化複合材1に形成された締結用の貫通孔4と、金属材8に形成された締結用の貫通孔9とが一致し、一組の貫通孔を形成するように配置されている。貫通孔4及び貫通孔9に、繊維強化複合材1の側から締結部材であるボルト10が挿入される。前記貫通されたボルト10に金属材8の側からナット11を締め付けることにより、繊維強化複合材1が金属材8に固定される。
【0020】
次に、被膜層6、被膜層7を有する繊維強化複合材1の製造装置を図2に基づいて説明する。第1の被膜形成装置12は、鉄5が充填された収容部13、収容部13内の鉄5を加熱するためのヒーター14、鉄5を噴射する圧縮空気の供給源となる空気圧縮部15及びメッシュ16により構成される。ヒーター14は収容部13の上部に、収容部13を覆うように隣接して配置されている。空気圧縮部15は圧縮シリンダーを備え、ヒーター14の上部に隣接して配置されている。メッシュ16は収容部13の下面に装着され、繊維強化複合材1の貫通孔4と対応する位置17を除いて被膜層6を形成する領域に対応した通孔18を有する。第1の被膜形成装置12の下方には、図示しない駆動源に連結された台19が回転可能に配設されている。台19はその中心部に繊維強化複合材1の貫通孔4と同一径かそれよりも大径の孔20が形成されている。繊維強化複合材1は台19の上部に、貫通孔4と孔20の中心部が一致するように配置されている。
【0021】
台19の孔20の下方には、第2の被膜形成装置21が設けられており、貫通孔4の内周面に被膜層を形成することができる。第2の被膜形成装置21は、鉄5と同一成分の鉄22が充填された収容部23、収容部23内の鉄22を加熱するヒーター24、鉄22を噴射する圧縮空気の供給源となる空気圧縮部25、メッシュ26及びノズル27により構成される。ヒーター24は収容部23の下方に収容部23を覆うように隣接して配置されている。空気圧縮部25は、ヒーター24の下部に隣接して配置されている。メッシュ26は収容部23の上面に設置され、第1の被膜形成装置12におけるメッシュ16とは異なり、全域に通孔28が設けられている。ノズル27はメッシュ26を覆うようにして収容部23の上部に取り付けられた下部本体と前記下部本体のほぼ中央部から上方に延び、途中で直角方向に屈曲させた細いパイプとを備えている。このように構成された第2の被膜形成装置21は図示しない駆動源に連結され、矢印で示すように上下動可能に設けられている。
【0022】
前記のように構成した製造装置において、台19上に繊維強化複合材1を載置し、貫通孔4が台19の孔20と一致するようにして固定する。第1の被膜形成装置12によって被膜層6は以下のように形成される。第1の被膜形成装置12を構成するヒーター14は図示されていない電源から供給された電力により発熱する。第1の被膜形成装置12を構成する収容部13に充填された粒状の鉄5はヒーター14により、マトリックス2のガラス転移温度(Tg)以上の所定温度に加熱される。第1の被膜形成装置12を構成する空気圧縮部15は図示されていない油圧あるいはモータ等の駆動源の作動により圧縮動作を行っている。加熱された鉄5は、空気圧縮部15により繊維強化複合材1の表面に向けて噴射され、メッシュ16の通孔18を通過して繊維強化複合材1の外側表面を成すマトリックス2に吹き付けられる。マトリックス2の外表面は鉄5の熱により溶融された状態になる。鉄5は溶融されたマトリックス2に付着すると共に、マトリックス2内部に侵入して、強化繊維3の層に達し、強化繊維3と接触した状態でボルト10の頭部が圧接する領域に被膜層6を形成する。
【0023】
貫通孔4内周面の被膜層7は第2の被膜形成装置21により次のように形成される。台19と第2の被膜形成装置21の各駆動装置(図示せず)は図示しない制御装置により速度制御及び同期制御されており、台19が一方向に回転されるとともに第2の被膜形成装置21が例えば下方位置から上方位置に直線的に移動される。第2の被膜形成装置21を構成するヒーター24は図示されていない電源から供給された電力により熱を発する。第2の被膜形成装置21を構成する収容部23に充填された鉄22はヒーター24により、前記マトリックス2のガラス転移温度(Tg)以上の所定温度に加熱される。第2の被膜形成装置21を構成する空気圧縮部25は図示されていない油圧あるいはモータ等の駆動源の作動により圧縮動作を行っている。前記加熱された鉄22は、空気圧縮部25から供給される圧縮空気により噴射され、メッシュ26の通孔28を通ってノズル27に入った後パイプ内部を通り、ノズル27の先端部から出て、繊維強化複合材1の貫通孔4内周面に付着される。噴射された鉄22は、被膜層6の形成時と同様に、貫通孔4内周面に形成されたマトリックス2を溶融し、マトリックス2の内部に混在した状態を形成する。また、貫通孔4内周面の表面に露出した強化繊維3にも鉄22が付着される。
【0024】
前記した方法により形成された繊維強化複合材1を図1のように金属材8に締結した締結構造における作用を説明する。繊維強化複合材1は締結用の貫通孔4にボルト10等の締結部材を挿入することで、繊維強化複合材1を金属材8等の他の部材と締結する。通常、繊維強化複合材1においてボルト10に圧接された領域では、繊維強化複合材1のマトリックス2である熱硬化性樹脂のクリープにより、ボルト10の軸力が低下する。しかし、第1の実施形態では、ボルト10が圧接する領域に、マトリックス2より硬い材料である鉄5を付着させた被膜層6が形成されているため、マトリックス2の流動を抑制することができる。ボルト10の締結による応力はマトリックス2ではなく被膜層6によって直接受けられるのでクリープ変形を抑制することができる。
【0025】
鉄5は繊維強化複合材1の表面外部を形成するマトリックス2内部においてマトリックス2と混在した状態を形成している。そのため、ボルト10と繊維強化複合材1が圧接する領域において、混在している鉄5の量だけ、当該領域のマトリックス2の割合が減少する。従って、クリープの原因であるマトリックス2の割合が減るため、繊維強化複合材1のクリープ変形を抑制することができる。
【0026】
特に第1の実施形態では、マトリックス2内部に混在した鉄5が層状に配置された強化繊維3と接触しているため、ボルト10の軸力は鉄5を介してクリープなどを発生することが無い強化繊維3の層によって受けられる。従って、繊維強化複合材1の外側表面を形成するマトリックス2が直接ボルト10から受ける面圧は小さくなり、繊維強化複合材1の締結部のクリープ変形を抑制することができる。
【0027】
繊維強化複合材1の貫通孔4の内周面には被膜層7が形成されている。そのため、貫通孔4の内周面におけるマトリックス2の流動を抑制することができる。また、ボルト10の軸力は鉄22を介して貫通孔4の内周面側のマトリックス2に伝えられるため、マトリックス2にかかる応力を軽減することができる。従って、被膜層7が形成されていない場合に比べてクリープ変形を抑制することができる。
【0028】
なお、繊維強化複合材1と金属材8とが接触する面積は、締結部材であるボルト10と繊維強化複合材1とが圧接された領域に比べて十分広い。そのため、締結による圧力は繊維強化複合材1の広い範囲に分散され、繊維強化複合材1にかかる応力が小さくなるため、繊維強化複合材1のクリープ量は問題になるほど大きくならない。また、貫通孔4の内周面においても通常ボルト10による大きな圧力はかからない。従って、繊維強化複合材1は少なくとも被膜層6を形成すれば、クリープ抑制効果を得ることができる。
【0029】
前記した第1の実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)繊維強化複合材1においてボルト10と圧接する領域には被膜層6が形成されている。そのため、当該領域では被膜層6によりマトリックス2の流動を抑制することができる。また、鉄5が締結によるボルト10の応力を受けるため、鉄5が付着されていない場合に比べ、繊維強化複合材1のクリープ変形を抑制することができる。
【0030】
(2)鉄5は繊維強化複合材1の表面外部を形成するマトリックス2内部に混在しているため、繊維強化複合材1においてボルト10の圧接による応力を受ける領域では、鉄5が混在する分、クリープの原因となるマトリックス2の量が減少する。そのため、鉄5が混在されていない場合に比べ、繊維強化複合材1のクリープ抑制効果を高めることができる。
【0031】
(3)鉄5はマトリックス2内に配置された層状の強化繊維3と接触する状態で混在している。従って、鉄5を介して層状の強化繊維3がボルト10の圧接による応力を受けるため、繊維強化複合材1のクリープ抑制効果をより高めることができる。
【0032】
(4)繊維強化複合材1の貫通孔4の内周面に被膜層7が形成される。そのため、貫通孔4の内周面においてマトリックス2の流動を抑制することができる。また、ボルト10の軸力は鉄22を介して貫通孔4内周面のマトリックス2に伝えられる。従って、被膜層7が形成されていない場合に比べて貫通孔4内周面のクリープ変形を抑制することができる。
【0033】
(5)被膜層6を形成する鉄5はマトリックス2と線膨張係数が近いため、繊維強化複合材1を高温で使用しても繊維強化複合材1の変形や繊維強化複合材1とボルト10との間のがたつきを防止できる。
【0034】
(第2の実施形態)
以下、本願発明を具体化した第2の実施形態を図3及び図4に従って説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0035】
図3に示されるように、繊維強化複合材1には、ボルト10の頭部が圧接する領域に被膜層6が、貫通孔4の内周面の領域に被膜層7が、金属材8と接する領域に被膜層29が形成される。
【0036】
次に、繊維強化複合材1の製造装置を図4に基づいて説明する。第1の被膜形成装置30は、鉄5が充填された収容部31、鉄5を噴射する圧縮空気の供給源となる空気圧縮部32及びメッシュ33により構成される。空気圧縮部32は圧縮シリンダーを備え、収容部31の上部に隣接して配置されている。メッシュ33は収容部31の下面に装着され、繊維強化複合材1の貫通孔4と対応する位置34を除いて被膜層6を形成する領域に対応した通孔35を有する。第1の被膜形成装置30の下方には、図示しない駆動源に連結された台19が回転可能に配設されている。第1の被膜成形装置25は、繊維強化複合材1の上方貫通孔4と孔20の中心部とが一致するように配置されている。
【0037】
台19の孔20の下方には、第2の被膜形成装置36が設けられており、貫通孔4の内周面に被膜層を形成することができる。第2の被膜形成装置36は、鉄5と同一成分の鉄22が充填された収容部37、鉄22を噴射する圧縮空気の供給源となる空気圧縮部38、メッシュ39及びノズル40により構成される。空気圧縮部38は収容部37の下方に隣接して配置されている。メッシュ39は収容部37の上面に設置され、第1の被膜形成装置30におけるメッシュ33と異なり、全域に通孔41が設けられている。ノズル40はメッシュ39を覆うようにして収容部37の上部に取り付けられた下部本体と前記下部本体のほぼ中央部から上方に延び、途中で直角方向に屈曲させた細いパイプとを備えている。このように構成された第2の被膜形成装置36は図示しない駆動源に連結され、矢印で示すように上下動可能に設けられている。
【0038】
さらに、赤外線ヒーター42は第1の被膜形成装置30に隣接し、かつ台19の上方に設置されている。赤外線ヒーター42の赤外線発光部は台19に載置された繊維強化複合材1におけるボルト10の圧接面を含む領域を照射できるように指向されている。また、赤外線ヒーター43は第2の被膜形成装置36に隣接し、かつ台19の下方に設置されている。赤外線ヒーター43の赤外線発光部は台19に載置された繊維強化複合材1における貫通孔4内周面を含む領域を照射できるように指向されている。
【0039】
第1の被膜形成装置30によって被膜層6は以下のように形成される。第1の被膜形成装置30を構成する収容部31には鉄5が充填されている。第1の被膜形成装置30を構成する空気圧縮部32は図示されていない油圧あるいはモータ等の駆動源の作動により圧縮動作を行っている。鉄5は、空気圧縮部32により繊維強化複合材1の表面に向けて噴射され、メッシュ33の通孔35を通過して繊維強化複合材1の外側表面を成すマトリックス2に吹き付けられる。第1の被膜形成装置30に隣接して配置された赤外線ヒーター42の赤外線発光部は図示されていない電源から供給される電力により発光する。繊維強化複合材1におけるボルト10の圧接面を含む領域のマトリックス2は赤外線ヒーター42によりガラス転移温度(Tg)以上の所定温度に加熱され、溶融している。鉄5は溶融されたマトリックス2に付着すると共に、マトリックス2内部に侵入して、強化繊維3の層に達し、強化繊維3と接触した状態でボルト10の頭部が圧接する領域に被膜層6を形成する。
【0040】
第1の被膜形成装置30により被膜層6が形成されると同時に、第2の被膜形成装置36により貫通孔4内周面の被膜層7が次のように形成される。台19と第2の被膜形成装置36は図示しない制御装置により速度制御及び同期制御されており、台19が一方向に回転されるとともに第2の被膜形成装置36が例えば下方位置から上方位置に直線的に移動される。第2の被膜形成装置36を構成する空気圧縮部38は図示されていない油圧あるいはモータ等の駆動源の作動により圧縮動作を行っている。第2の被膜形成装置36に隣接して設置された赤外線ヒーター43の赤外線発光部は、図示されていない電源から供給される電力により発光する。繊維強化複合材1の貫通孔4内周面のマトリックス2は、赤外線ヒーター43によりマトリックス2のガラス転移温度(Tg)以上の所定温度に加熱され、溶融している。第2の被膜形成装置36を構成する収容部37に充填された鉄22は、空気圧縮部38から供給される圧縮空気により噴射され、前記溶融したマトリックス2に付着するとともにメッシュ39の通孔41を通ってノズル40に入った後パイプ内部を通り、ノズル40の先端部から放出されて、繊維強化複合材1の貫通孔4の内周面に付着される。噴射された鉄22は、貫通孔4内周面のマトリックス2の内部に混在した状態を形成するとともに、貫通孔4内周面の表面に露出した強化繊維3に付着する。
【0041】
被膜層29は以下のように形成される。被膜層6が形成された後に、繊維強化複合材1は上下反転され、台19上に固定される。第1の被膜形成装置30及び赤外線ヒーター42はほぼ同様の構成からなる図示しない第3の被膜形成装置及び他の赤外線ヒーターに取り替えられる。前記第3の被膜形成装置は被膜層29の形成領域、即ち金属材8と接触する繊維強化複合材1の表面領域をカバーできる大きさを有し、また前記赤外線ヒーターは前記表面領域を加熱することができる構成を有する。金属材8と接する表面領域のマトリックス2は前記赤外線ヒーターによりガラス転移温度(Tg)以上の所定の温度に加熱され、溶融される。次に、前記第3の被膜形成装置が鉄5を噴射することにより、鉄5は金属材8と接する前記表面領域に付着され、マトリックス2内に混在し、被膜層29を形成する。
【0042】
従って、この実施形態によれば、第1の実施形態における(1)〜(5)と同様の効果の他に次の効果を得ることができる。
(1)繊維強化複合材1と金属材8とが接触する表面領域に、被膜層29が形成されているため、金属材8との接触側におけるクリープをより効果的に抑制することができる。
【0043】
(2)繊維強化複合材1のボルト10の圧接面を含む領域、貫通孔4の内周面の領域および金属材8と接触する領域におけるマトリックス2を直接加熱しているため、第1の実施形態のように鉄5及び鉄22を加熱する場合に比較し、マトリックス2を溶融するために加えられる熱量が少なくて済む。
【0044】
(第3の実施形態)
図5は第3の実施形態における繊維強化複合材の締結構造を示す。繊維強化複合材1は、第1及び第2の実施形態とは異なり、締結される他の部材が繊維強化複合材44で構成されている。繊維強化複合材1はボルト10が挿入される貫通孔4を備え、ボルト10の頭部で圧接される領域に被膜層6が形成されている。繊維強化複合材44は熱硬化性樹脂からなるマトリックス46と層状に配置された炭素繊維である強化繊維47で形成され、ボルト10が挿入される貫通孔48を備えるとともにナット11で圧接される領域に被膜層45が形成されている。繊維強化複合材1及び繊維強化複合材44は貫通孔4及び貫通孔48にボルト10が挿入され、ナット11によって締結される。この締結構造において、ボルト10の頭部は被膜層6に圧接し、ナット11は被膜層45に圧接する。そのため、繊維強化複合材1及び繊維強化複合材44におけるクリープ変形を抑制することができる。被膜層6及び45は第1の実施形態に示した第1の被膜形成装置12又は第2の実施形態に示した第1の被膜形成装置30及び赤外線ヒーター42を用いて形成することができる。
【0045】
従って、この実施形態によれば、第1の実施形態における(1)〜(5)及び第2の実施形態における(1)〜(2)と同様の効果の他に次の効果を得ることができる。
(1)繊維強化複合材1が締結されている他の部材は繊維強化複合材44であるため、他の部材が金属材8である場合に比べて、締結構造全体を軽量化することができる。
【0046】
(2)繊維強化複合材1には、第1の実施形態あるいは第2の実施形態のように繊維強化複合材1に形成された貫通孔4の内周面に被膜層7あるいは、繊維強化複合材1と繊維強化複合材44とが接触する面に被膜層29が形成されていない。そのため、被膜層7や被膜層29が形成された場合に比べて、鉄5及び鉄22の使用量を最小量にすることができる。また、第1の実施形態における第2の被膜形成装置21あるいは第2の実施形態における第2の被膜形成装置36を必要としないため、製造コストを抑えることができると共に、装置を設置するために必要となる面積を小さくできる。
【0047】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
(1)第1及び第2の実施形態において、繊維強化複合材1に被膜層6を形成する被膜材料である鉄5及び被膜層7を形成する被膜材料である鉄22は、必ずしもマトリックス2の内部に混在しなくても良い。例えば、マトリックス2の表面外部に付着しているのみであっても良い。
【0048】
(2)第1〜第3の実施形態において、繊維強化複合材1に被膜層6を形成する被膜材料である鉄5及び、被膜層7及び被膜層29を形成する材料である鉄22は、マトリックス2の内部で強化繊維3と接触していなくても良い。例えば、マトリックス2の内部に混在している状態であっても良い。繊維強化複合材1においてボルト10及びナット11の応力を受ける領域では、鉄5が混在する分、クリープの原因となるマトリックス2の割合が減少するため、鉄5が混在されていない場合と比べ、繊維強化複合材1のクリープ抑制効果を高めることができる。そのため、必ずしも鉄5が強化繊維3と接触していなくても良い。
【0049】
(3)第1〜第3の実施形態において、繊維強化複合材1は、強化繊維3が層状に配置されていなくても良い。例えば、強化繊維3がマトリックス内部に分散されて配置されている状態であっても良い。つまり、強化繊維3が層状に配置されていなくても、繊維強化複合材1においてボルト10及びナット11の応力を受ける領域において、鉄5あるいは鉄22が混在していれば、混在する鉄5あるいは鉄22の分クリープの原因となるマトリックス2の量が減少するため、鉄5あるいは鉄22が混在されていない場合と比べ、繊維強化複合材1のクリープ抑制効果を高めることができるため、強化繊維3の配置を限定しなくても本発明のクリープ抑制効果を得ることができる。
【0050】
(4)第1及び第2の実施形態において、繊維強化複合材1に被膜層6が形成されていれば、必ずしも被膜層7が形成される必要はない。
【0051】
(5)第3の実施形態において、被膜層6を形成するだけではなく、貫通孔4の内周面の領域に被膜層を形成しても良い。
【0052】
(6)第3の実施形態における繊維強化複合材44は、貫通孔48の内周面の領域あるいは、繊維強化複合材1と接する面を含む領域に被膜が形成されても良い。
【0053】
(7)第1の実施形態における繊維強化複合材1に被膜層6が形成される領域は、繊維強化複合材1とボルト8とが圧接する領域の近傍である代わりに、ボルト8の頭部が圧接する側の外側表面全域あるいは、繊維強化複合材1とボルト8とが圧接する領域を含む十分広い領域であっても良い。
【0054】
(8)第3の実施形態において、繊維強化複合材1に締結される繊維強化複合材44については、他のクリープ抑制対策が施されれば、必ずしも本件発明のクリープ対策を実施しなくても良い。
【0055】
(9)繊維強化複合材1の製造方法は、第1の実施形態を説明する図2のように鉄5及び鉄22をガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱する方法あるいは、第2の実施形態を説明する図4のようにマトリックス2をガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱する方法に代えて、図2の加熱方法及び図4の加熱方法を組み合わせ、鉄5、鉄22及びマトリックス2の両方を同時にガラス転移温度(Tg)以上に加熱する方法であっても良い。また、図1及び図3、図5に示す繊維強化複合材1は、図2又は図4の方法あるいは図2と図4を組み合わせた方法のいずれの方法で製造しても良い。
【0056】
(10)第1〜第3の実施形態において、繊維強化複合材1に挿入される締結部材はボルト10及びナット11でなくても良い。例えば、他の部材である金属材8の貫通孔9あるいは繊維強化複合材44の貫通孔48に雌ねじを形成し、繊維強化複合材1を雄ねじによって締結するように構成してもよい。また、その場合、貫通孔48には金属カラー等を装着することが好ましい。
【0057】
(11)第1〜第3の実施形態において、繊維強化複合材1を形成するマトリックス2は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂である代わりに、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、メチルメタアクリレートのような熱可塑性樹脂を用いても良い。
【0058】
(12)第1〜第3の実施形態において、繊維強化複合材1は、炭素繊維を強化繊維3として用いる代わりに、強化繊維3として例えばガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン等を用いても良い。
【0059】
(13)第1及び第2の実施形態あるいは第3の実施形態において、繊維強化複合材1が締結される他の材料は、金属材8あるいは繊維強化複合材44でなくても良い。例えば壁、床や大地を構成する岩石等であっても良い。
【0060】
(14)第1及び第2の実施形態において、繊維強化複合材1に被膜層6及び被膜層7を形成する材料は、鉄5及び鉄22である代わりに、例えばアルミのような、マトリックス2と線膨張係数の近い他の金属材料であっても良い。
【0061】
(15)第1の実施形態において、ヒーター14は収容部13を覆うように収容部13に隣接して配置される代わりに、ヒーターの熱が収容部に充填された鉄に伝達されるのであれば、収容部13の横に隣接して設けても良い。また、ヒーター24は収容部23を覆わずに収容部23の横に隣接して設けても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 繊維強化複合材
2 マトリックス
3 強化繊維
4 貫通孔
5 鉄
6 被膜層
7 被膜層
8 金属材
9 貫通孔
10 ボルト
11 ナット
12 第1の被膜形成装置
13 収容部
14 ヒーター
15 空気圧縮部
16 メッシュ
17 繊維強化複合材1の貫通孔5と対応する位置
18 通孔
19 台
20 孔
21 第2の被膜形成装置
22 鉄
23 収容部
24 ヒーター
25 空気圧縮部
26 メッシュ
27 ノズル
28 通孔
29 被膜層
30 第1の被膜形成装置
31 収容部
32 空気圧縮部
33 メッシュ
34 繊維強化複合材1の貫通孔5と対応する位置
35 通孔
36 第2の被膜形成装置
37 収容部
38 空気圧縮部
39 メッシュ
40 ノズル
41 通孔
42 赤外線ヒーター
43 赤外線ヒーター
44 繊維強化複合材
45 被膜層
46 マトリックス
47 強化繊維
48 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂をマトリックスとして強化繊維を含有し、締結部材が挿入される貫通孔を備え、前記締結部材により他の部材に締結される繊維強化複合材において、
前記繊維強化複合材の少なくとも前記締結部材が圧接する領域に前記マトリックスよりも硬い被膜材料を付着させた被膜が形成されることを特徴とする繊維強化複合材。
【請求項2】
前記被膜材料は前記被膜が形成される領域の前記マトリックス内に混在していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
前記被膜材料は前記マトリックス内に配置された前記強化繊維の層と接触する状態で混在していることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
前記被膜は前記貫通孔の内周面を含む領域に形成されることを特徴とする請求項1〜3に記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
前記他の部材が金属材であることを特徴とする請求項1〜4に記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
前記被膜は前記他の部材と接触する表面を含む領域に形成されることを特徴とする請求項1〜5に記載の繊維強化複合材。
【請求項7】
前記被膜材料は金属であることを特徴とする請求項1〜6に記載の繊維強化複合材。
【請求項8】
締結部材と、樹脂をマトリックスとして強化繊維を含有し、前記締結部材が挿入される貫通孔を備える繊維強化複合材と、前記繊維強化複合材を取り付ける他の部材とからなり、
前記貫通孔に前記締結部材が挿入されることで前記繊維強化複合材を前記他の部材に締結する繊維強化複合材の締結構造において、
前記繊維強化複合材の少なくとも前記締結部材が圧接する領域に前記マトリックスよりも硬い被膜材料を付着させた被膜が形成されることを特徴とする繊維強化複合材の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253697(P2010−253697A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103270(P2009−103270)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】