説明

繊維状構造物およびその用途ならびに製造方法

【課題】吸水速度、保水性、柔軟性に優れ、使用時の性能低下も抑制した繊維状構造物及びその用途ならびに製造方法を提供する。
【解決手段】 エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを含む平均繊維径が20〜500nmのナノ繊維(X)3が所定の密度で叉状部を形成し、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)1を被覆した繊維状構造物、及びこれを用いた繊維製品。また前記(A)を島成分、(B)を海成分とするポリマーアロイを鞘成分とする芯鞘型複合繊維から(B)の一部を除去して得る前記繊維状構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるナノ繊維を含む繊維状構造物およびその用途ならびに製造方法に関する。より詳細には、本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と、水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系共重合体からなるナノ繊維からなる三次元網状構造を有する繊維状構造物およびその用途ならびに製造方法に関するものであり、本発明の繊維状構造物および繊維製品は極めて高い吸水性、保水性、生体適合性などの特性を有している。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性繊維の親水化が求められている。とりわけ吸水速度、保水性が高い繊維が求められている。親水性を付与する手段として、親水性樹脂からなるバインダーで繊維を被覆することが知られているが、繊維の表面が固くなり、風合いが損なわれる。
【0003】
また芯鞘型複合繊維の鞘成分を親水性樹脂とすることも知られているが、同様に繊維の柔軟性が低下する。また吸水速度、保水性は必ずしも高くない。
一方、エチレン含量30〜70%のエチレン−ビニルアルコール共重合体を島成分とする海島型複合繊維の海成分を一部除去することでフィブリル化した親水性繊維を周囲に有する複合繊維が得られることが知られている(特許文献1参照)。この方法では0.004〜0.65dtexの複数の島成分が長手方向にそって海成分を覆う構造となる。親水性繊維が細いので柔軟性が高く、親水性繊維の表面積が高いので吸水速度が高く、また親水性繊維同士の隙間に水が取り込まれるので保水性も高い。親水性繊維をさらに細くすることで吸水速度はさらに高まるが、繊維が細くなるにつれて親水性繊維の強度が低下し、使用中の性能低下などに繋がる。また前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の親水性は必ずしも充分ではないが、さらに親水性を高めるためにエチレン含量を低下させると紡糸工程性が低下する。
【特許文献1】特開2002−309439号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、吸水速度、保水性、柔軟性に優れ、使用時の性能低下も抑制した繊維状構造物及びその用途ならびに製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく種々研究を重ねてきた。その結果、エチレンに由来する構造単位を特定の割合で含有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、特定の重合度、ケン化度、融点およびアルカリ金属イオン含量を有する水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を特定の質量比で溶融混合すると、水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を海成分とし、当該海成分中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなる島成分が所定以上の島数で微細に分散したポリマーアロイが形成されることを見出した。そこで、かかる知見に基づいて、前記ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を製造し、当該繊維を水で処理してポリマーアロイにおける水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(海成分)を溶解除去したところ、ポリマーアロイ中のエチレン−ビニルアルコール系共重合体がナノサイズの繊維状で存在し、しかも当該ナノ繊維の分枝、交差、結合などによる三次元網状構造を有する、従来にない繊維状構造物を得ることができた。さらに、水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系共重合体を水で抽出する際の条件をコントロールすることで、所定量の水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系共重合体を残留させ、非常に高い親水性、保水性、および高度な柔軟性を有する繊維状構造物が得られることを見出した。そして、この繊維状構造物を用いて、親水性、保水性に優れており、様々な用途へ供することのできることが分った。
【0006】
さらに、本発明者らは、前記したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維の製造に当たっては、ポリマーアロイを鞘成分とし他の熱可塑性重合体を芯成分とする芯鞘型複合繊維、ポリマーアロイを海成分とし他の熱可塑性重合体を島成分とする海島型複合繊維、ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体とが層状に貼り合わさった貼合型複合繊維などの種々の複合繊維を製造することができ、それらの複合繊維を水で処理してポリマーアロイ中の水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶解除去したときに、その複合形態に応じて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むナノ繊維で被覆した種々の繊維状構造物を製造できることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。これによって、他の熱可塑性重合体によって構造体としての力学的安定性を保ちつつ、その熱可塑性重合体にはない高度の親水性、保水性を有する繊維構造体が得られることが分った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)と、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とを含む繊維状構造物であって、前記ナノ繊維(X)の平均繊維径が20〜500nmであり、該ナノ繊維(X)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部を繊維状構造物25μm2当たり10個以上有するとともに、前記熱可塑性重合体繊維(Y)の表面をナノ繊維(X)が被覆していることを特徴とする繊維状構造物である。
【0008】
また、請求項2に記載の本発明は、前記ナノ繊維(X)と前記熱可塑性重合体繊維(Y)とが30:70〜3:97の重量比であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状構造物である。
【0009】
また、請求項3に記載の本発明は、前記熱可塑性重合体繊維(Y)がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維から選択されることを特徴とする請求項1に記載の繊維状構造物である。
【0010】
また、請求項4に記載の本発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状構造物を用いてなる繊維製品である。
【0011】
また、請求項5に記載の本発明は、エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部が網状をなすように形成された島成分と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)を海成分と、からなるポリマーアロイを鞘成分とし、他の熱可塑性重合体繊維(Y)を芯成分とする芯鞘型複合繊維から、前記変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の一部を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状構造物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の本発明は次の効果を有する。エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)と、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とを含む繊維状構造物で、前記熱可塑性重合体繊維(Y)の表面をナノ繊維(X)が被覆しているので、熱可塑性重合体繊維は、親水性が著しく向上している。特に親水性の高い変性ポリビニルアルコール系重合体(B)がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と上記の割合であることで、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の親水性を一層高めたナノ繊維(X)を得ることができる。またナノ繊維(X)がこのような組成であることで高い親水性を有しつつも使用時の吸水と放水を繰り返す中で親水性樹脂が溶出することもない。前記ナノ繊維(X)の平均繊維径が20〜500nmであるので、ナノ繊維の表面積が高くなり吸水速度が高いと共に、多数のナノ繊維が互いに多くの隙間を形成することとなり、保水性が高い。該ナノ繊維(X)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部を繊維状構造物25μm2当たり10個以上有するので、ナノ繊維の強度が保持され一部が切断したとしても崩落しにくいので性能低下に繋がりにくいだけでなく、ナノ繊維同士の隙間が一定間隔に固定されることで保水性に一層有利となる。
【0013】
また、請求項2に記載の本発明は加えて次の効果を有する。前記ナノ繊維(X)と前記熱可塑性重合体繊維(Y)とが30:70〜3:97の重量比であることで、熱可塑性重合体繊維(Y)本来の繊維としての強度などの良好な性質を保持しながら吸水性、保水性などを著しく向上できる。
【0014】
また、請求項3に記載の本発明は加えて次の効果を有する。前記熱可塑性重合体繊維(Y)がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維から選択されることで、優れた性質を有しながら親水性の不足によって用途が制限されてきた上記繊維のこれらの課題を解決できる。
【0015】
エチレン単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)からなるナノ繊維を含む本発明の繊維状構造物は、極めて高い吸水性、親水性、保水性(特に水分保持性)を有し、しかも生体適合性および触感などの点でも優れており、そのためそれらの優れた特性を活かして、バインダー繊維、製紙用カットファイバー、乾式不織布用ステープル、紡績用ステープル、織物用マルチフィラメント、編物用マルチフィラメント、セメント補強材、ゴム補強材、包装材、衛生材料、メディカル用使い捨て製品、薬液のバップ材の基体、農業用被履材、フィルター類、ワイパー類、絶縁紙、電池セパレータ、人工皮革、マジックインキの芯、芳香剤の吸液剤など、種々の繊維製品用途に有効に使用することができる。
本発明の製造方法による場合は、前記の優れた特性を有する、本発明の繊維状構造物を、工業的に簡単な手法で、確実に、安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維状構造物は、エチレン単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)と、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とを含む繊維状構造物である。
【0017】
本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)におけるエチレン単位の含有割合は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の全構造単位に対して25〜70モル%であることが必要である。ナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)において、エチレン単位の含有割合が多くなり過ぎると(ビニルアルコール単位の含有割合が少なくなり過ぎると)、水酸基の減少によって、ナノ繊維(X)を含む繊維状構造物の吸水性、親水性、保水性、生体適合性などが低下し、しかも触感が不良になる。一方、ナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)におけるエチレン単位の含有割合が少なくなり過ぎると(ビニルアルコール単位の含有割合が高くなり過ぎると)、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の熱安定性が低下して溶融紡糸によって繊維化することが困難になり、しかも紡糸または延伸時に単糸切れ、断糸が多くなる。ナノ繊維(X)、ひいては当該ナノ繊維(X)を含む繊維状構造物の親水性、吸水性、保水性、生体適合性、繊維状構造物を製造する際の工程性(特に溶融紡糸性)、熱安定性などのバランスを考慮すると、ナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)におけるエチレン単位の含有割合は、30〜55モル%であることが好ましい。
【0018】
ナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)は、一般にエチレン−酢酸ビニル共重合体などのようなエチレンとカルボン酸ビニルの共重合体をケン化処理してカルボン酸ビニル単位をビニルアルコール単位に変えることによって得ることができ、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)におけるビニルアルコール単位のケン化度は95%以上、特に97%以上であることが好ましい。ビニルアルコール単位のケン化度が95%よりも低いと、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の結晶性が低下して、強度などの物性が低下するだけでなく、軟化し易くなり、本発明の繊維状構造物を製造するための後述するポリマーアロイの繊維化工程でトラブルが発生する場合がある。
【0019】
本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)は、メルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分、特に0.2〜100g/10分のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)から形成されていることが、熱安定性および紡糸工程性の点から好ましい。なお、ここでいうエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2160g荷重下で測定したときのメルトフローレートをいう。ただし、融点が190℃付近または190℃を超えるものの場合は、2160g荷重下に、融点以上の複数の温度で測定してメルトフローレートを測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、メルトフローレートを縦軸(対数)としてプロットし、190℃に外挿した値をメルトフローレート(MFR)とする。
【0020】
本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)を形成しているエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の製法は何ら限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、メタノールなどの重合溶媒中でエチレンと酢酸ビニルをラジカル重合触媒の存在下でラジカル重合させ、次いで未反応のモノマーを追い出した後に水酸化ナトリウムによりケン化処反応を行なってエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)とし、それを水中でペレット化し、水洗して乾燥することによって得ることができる。その際に、ペレットの水洗処理は、純水のみを用いて行ってもよいし、ペレットを酢酸を含む大量の純水溶液で洗浄した後に大過剰の純水のみでさらに洗浄する方法で行ってもよい。
【0021】
本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)は、そのもの単体でも高い親水性、保水性を発揮するものの、実際の製造工程や、本発明が想定する用途などにおいては、基体となる他の熱可塑性重合体繊維(Y)にナノ繊維(X)が被覆した状態が好ましいことが分った。混合の形態としては、(1)ナノ繊維(X)の単体物と、他の熱可塑性重合体の単体とを混合する手法と、(2)エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール(B)とを含むポリマーアロイと、他の熱可塑性重合体とを構成成分とする複合繊維(芯鞘型、海島型(多芯の芯鞘型)、積層貼り合せ型など、形態にはとらわれない)から、水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール(B)成分の所定量を水によって抽出し、ワンステップで目的の繊維構造体を得ることが、生産効率、および工程管理上より好ましい。(2)の手法を取ることにより、基体となる他の熱可塑性重合体繊維(Y)にナノ繊維(X)が被覆した状態を容易に発現させることが可能であることが分った。図2は(2)に記載したエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール(B)とを含むポリマーアロイと、他の熱可塑性重合体とを構成成分とする複合繊維の断面の模式図である。図2(a)は単芯をなす熱可塑性重合体をポリマーアロイの鞘で被覆した形状であり、図2(b)は複数の芯(島)をなす熱可塑性重合体をポリマーアロイの鞘(海)で被覆した形状であり、いわゆる海島型複合繊維である。図2(b)では3芯の場合を例示しているが、芯は例えば10以上、例えば100芯以上、例えば1000芯以上であってもよく、芯を増やすことで芯となる熱可塑性重合体からなる繊維の表面積が高くなり吸水性、保水性を高める上で有利となるが、製造が困難になる場合があるので、目的に応じて適宜調整する。請求項5に記載の本発明の製造方法における芯鞘型複合繊維はこれら単芯、多芯のいずれをも含む。芯は鞘の中心である必要はなく、また鞘は芯を完全に被覆していなくてもよいが、得られる繊維状構造物の吸水性、保水性の均一性を図るためには、熱可塑性重合体をポリマーアロイが均一に被覆する構造であることが最も好ましい。図3は図2で示した複合繊維から熱可塑性ポリビニルアルコールを(2)の手法で除去して得られる本発明の繊維状構造物の模式図である。すなわち図2(a)の断面を有する複合繊維からは図3(a)のような繊維状構造物が得られ、図2(b)の断面を有する複合繊維からは図3(b)のような繊維状構造物が得られる。
【0022】
熱可塑性重合体繊維(Y)の繊度は0.001〜20dtexでなくてはならない。熱可塑性重合体繊維(Y)の繊度が0.001dtex以下の場合、繊維強度が低下し、形態保持性、強度保持性など基体としての役割を果たさない場合がある。一方で、熱可塑性重合体繊維(Y)の繊度が20dtex以上の場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコールからなるナノ繊維(X)と、熱可塑性重合体繊維(Y)が均一に混合されない状態になったり、被覆しているナノ繊維(X)が剥離する場合もある。以上の理由から熱可塑性重合体繊維(Y)の繊度は0.001〜20dtexでなくてはならない。より好ましくは0.01〜15dtexである。
【0023】
本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)は、一般に太さが不揃いであり、また1本のナノ繊維(X)においても太い部分と細い部分があったりする。本発明におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の組み合わせにおいては、ナノ繊維の繊維径は不揃いであるが、平均繊維径を所定の値にすることによって、高い親水性、保水性を発揮する繊維構造物とすることができることが分った。
【0024】
本発明の繊維状構造物では、繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)の平均繊維径が、20〜500nmでなくてはならず、特に50〜350nmであることが、本発明の繊維状構造物の製造が容易で且つ繊維状構造物の強度、吸水性、親水性、保水性、生体適合性、触感などがより良好になる点から好ましい。
繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)の平均繊維径が20nm未満であると、繊維状構造物の強度が不足して、実用性のある製品が得られにくくなり、一方500nmを超えると、ナノサイズに十分に繊維化されていないために、繊維状構造物の吸水性、親水性、保水性、生体適合性、感触が低下し易くなる。
ここで、本明細書における繊維状構造物に含まれるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)からなるナノ繊維(X)の「平均繊維径」とは、繊維状構造物の表面(または表面に平行な切断面)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られる写真に基づいて、ナノ繊維(X)における線状部分(叉状部ではない線状部分)の繊維径をそれぞれ測定してその平均値を採ったものであり、その詳細な求め方は以下の実施例の項で説明するとおりである。
【0025】
さらに、本発明の繊維状構造物では、ナノ繊維(X)が、接着点を起点にして任意の3方向以上に延びている叉状部の数が、繊維状構造物25μm2当たり10個以上であることが必要であり、40個以上、特に50個以上であることが好ましい。
本発明の繊維状構造物は、ナノ繊維(X)の分枝、ナノ繊維(X)同士の結合、ナノ繊維(X)同士の交差などによって、ナノ繊維(X)が接着点を中心として任意の3方向以上に延びている叉状部を多数有しており、それによって繊維状構造物中にナノ繊維(X)による三次元の網状構造(ネットワーク構造)が形成されている。
本発明の繊維状構造物が非常に高い親水性、保水性を有する理由の一つが、前記したナノ繊維(X)による三次元のネットワーク構造にあるものと推測される。すなわち、ナノ繊維(X)のネットワーク構造中に水性の物質が取り込まれると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)中の水酸基と、取り込まれた水性物質の水酸基が水素結合を形成することで保持されるため、高い親水性、保水性が発現すると考えられる。
【0026】
また、本発明の繊維状構造物では、ナノ繊維(X)を構成するポリマーとしては、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含むことが重要である。エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)単体でも高い親水性を発揮することができる場合もあるが、所定量の熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)を含むことにより、本発明に特徴的な非常に高度な親水性、保水性を発揮することができるのである。ナノ繊維(X)において、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の構成割合が1%未満の場合、実質的にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)単体での親水性能と変化がない。よって本発明に特徴的な高度な親水性を発揮させるためには、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の構成割合は1%以上である必要がある。一方、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の構成割合が50%より大きい場合、(B)成分の水による溶脱が不十分であり、風合いが硬くなったり、使用によって(B)成分が溶出し、悪影響を及ぼすこともあるため、50%以下であることが必要である。熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の割合が50%以下である場合、風合いや柔軟性に優れた繊維構造体となるため好ましい。
【0027】
上記の通り、ナノ繊維(X)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とが、所定の割合で含んでいるものと言える。ナノ繊維(X)中においては、大部分の成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)であり、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)は微小成分であることでナノ繊維(X)の耐水性、風合いが優れることから好ましい。また他方変性ポリビニルアルコール系重合体(B)はエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を充分に被覆していることが親水性の観点から好ましく、変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の構成割合を高めることでこれが達成しやすくなる。このことからエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とは、重量比で65:35〜98:2の範囲であることが好ましく、70:30〜96:4の範囲であることがより好ましく、85:15〜94:6の範囲であることがさらに好ましい。想定される状態としては、
(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)に熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)が被覆した状態になっている
(2)ナノ繊維(X)中でエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)がブレンドアロイとなっている
(3)ナノ繊維(X)中でエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)が反応し、実質的に新しい別のポリマーになっている
等が挙げられる。
【0028】
繊維状構造物において、ナノ繊維(X)における前記叉状部の数が繊維状構造物25μm2当たり10個未満であると、ナノ繊維(X)による3次元ネットワーク構造が充分に形成されず、目的とする機能(特に高い親水性および保水性)を発現しない。
本発明の繊維状構造物にナノ繊維(X)による前記した三次元のネットワーク構造が形成される機構については必ずしも明確ではないが、後記する本発明の方法にしたがって、特定の水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)よりなる海成分中にエチレン単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島が微細に分散しているポリマーアロイを用いて溶融紡糸して繊維を製造したときに、繊維中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が太さの不揃いなナノサイズで場合によりところどころで互いに接着した状態で繊維状に延びた状態になっていて、その繊維から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)を水で溶解除去したときにナノ繊維(X)同士がさらに交差状や分枝状で接着するためと考えられる。
【0029】
ここで、本明細書における「ナノ繊維(X)が接着点を起点にして任意の3方向以上に延びている叉状部」とは、ナノ繊維(X)の分枝、ナノ繊維(X)同士の接着(結合)、ナノ繊維(X)同士の交差などによって、ナノ繊維(X)がその接着点(分枝点、結合点、交点など)を起点にしていずれかの3つ以上の方向に延びており、それによってナノ繊維(X)に叉状部(非直鎖状の枝分かれ部分)が形成されている箇所をいう。
当該「叉状部」を図1の模式図を用いて例示する。図1において、丸で囲んだa〜kの部分(箇所)では、ナノ繊維(X)がその接着点(分枝点、結合点、交点など)を起点にして、3つ以上の方向に延びており、したがって丸で囲んだa〜kの部分(箇所)はいずれも、本明細書でいう「叉状部」に相当する。
本明細書でいう「繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)における叉状部の数」は、繊維状構造物の表面(または表面に平行な切断面)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られる写真に基づいて、叉状部の数を数えて、25μm2当たりの平均値として求めたものであり、その詳細な算出方法は以下の実施例の項で説明するとおりである。
【0030】
繊維状構造物中にナノ繊維(X)と共に含有させ得る他の熱可塑性重合体繊維としては、耐熱性、強度保持性、寸法安定性などの点から、融点が150℃以上の熱可塑性重合体からなる繊維が好ましく、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などを挙げることができる。
ポリエステル繊維としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェノキシ)エタン、4,4'−ジカルボキシジフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4− ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのジオールまたはこれらのエステル形成性誘導体とから合成されるポリエステルや、ポリ乳酸などのポリエステルからなる繊維を挙げることができ、なかでも構成単位の80%以上がエチレンテレフタレート単位または、ブチレンテレフタレート単位であるポリエステルからなる繊維が好ましい。
【0031】
ポリアミド繊維としては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11,ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6,10、ポリメタキシレンアジパミド、ポリパラキシレンデカンアミドポリビスシクロヘキシルメタンデカンアミドおよびそれらを成分とする脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドなどからなる繊維が挙げられる。そのうちでも、ナイロン6、ナイロン6を主成分とするポリアミドからなる繊維が好ましい。また、少量の第3成分を含むポリアミドからなる繊維であってもよい。
【0032】
また、他の熱可塑性重合体繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、アクリル酸系樹脂、酢ビ系樹脂、ジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエステルケトン、フッ素樹脂、半芳香族ポリエステルアミドからなる繊維が挙げられる。
【0033】
他の熱可塑性重合体繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤などを含有していてもよい。
【0034】
他の他の熱可塑性重合体繊維は、ナノ繊維(X)によって被覆された形態となっており、元来は疎水性である熱可塑性重合体であっても、被覆しているナノ繊維(X)が非常に高い親水性を有しているために、繊維全体として高い親水性を持つこととなる。また、単なる芯鞘繊維や海島繊維のように、芯成分、または海成分の全体をコーティングしたような形態とは異なり、複雑な三次元構造が芯成分、または海成分を取り囲むような形態を有しており、微細なナノオーダーの空隙が無数に存在していることが観察から分った。この無数の空隙に、水、その他の液が保持されることとなり、結果として高い親水性、保水性を発揮する要因となっていることが推定される。
【0035】
本発明の繊維状構造物の形状や構造は特に制限されず、エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)と、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とを含む繊維状構造物であって、前記ナノ繊維(X)の平均繊維径が20〜500nmであり、該ナノ繊維(X)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部を繊維状構造物25μm2当たり10個以上有するとともに、前記熱可塑性重合体繊維(Y)の表面をナノ繊維(X)が被覆していることを特徴とする繊維状構造物であればいずれでもよい。
本発明の繊維状構造物は、例えば、短繊維、フィラメント、綿状物、紡績糸、パーロック糸、スラブ、織編物、不織布、シート状物、紙状物、ブロック状物、人工皮革の基材などのいずれであってもよい。
【0036】
本発明の繊維状構造物は、エチレン単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有する水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(B)を、(A):(B)=2:98〜30:70の質量比で溶融混合して得られる、水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(B)[以下これを「水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)」という場合がある]よりなる海成分中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が1μm2当たり2個以上の島数で分散しているポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を水で処理して、ポリマーアロイ中の海成分をなす水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(B)を溶解除去することによって円滑に製造することができる。
【0037】
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島が微細に分散したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維は、本発明の繊維状構造物を製造するための前駆体に相当する。
ポリマーアロイにおける島成分をなすエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)としては、本発明の繊維状構造物に含まれるナノ繊維(X)を形成している、上記で説明したエチレン単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と同じものが用いられる。
【0038】
また、前記ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B) は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単位をケン化処理してビニルアルコール単位に変えることにより得ることができる。
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の前駆体であるビニルエステル系重合体の製造に用いられるビニルエステル(カルボン酸ビニル)としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、酢酸ビニルがピニルエステル系重合体およびそれをケン化してなる水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を生産性よく製造できる点から好ましく用いられる。
ビニルエステル系重合体は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の方法で製造することができ、その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜200℃の範囲が適当である。
【0039】
また、ビニルエステル系重合体をケン化処理して得られる、上記ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)としては、粘度平均重合度(以下、単に「重合度」と略記する)が200〜500のものを用いることが必要であり、重合度が250〜420、特に320〜390のものを用いることが好ましい。
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の重合度が200未満であると溶融粘度が著しく低くなって、安定に紡糸することが困難な場合があり、一方500を超えると溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルからポリマーを吐出することができず、安定に紡糸することが困難になる場合がある。
重合度が高いほど高強度繊維が得られることから、繊維用には通常重合度が1500以上のPVA系重合体が使用されており、一般的には、重合度が約1700のものや約2100のものが汎用されている。そのことから考えると、本発明で用いている水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の重合度200〜500は極めて低いと言える。
【0040】
ここで、本明細書における水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)およびPVA系重合体の重合度(P)は、JIS K6726に準じて測定される粘度平均重合度をいう。すなわち、本明細書でいう水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)またはPVA系重合体の重合度(P)(粘度平均重合度)は、重合体を完全に再ケン化して精製した後に、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から下記の式(1)により求められる重合度である。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62) (1)
【0041】
繊維を構成する上記ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のケン化度は95〜99.99モル%であり、98〜99.7モル%であることが好ましく、98.3〜99.5モル%であることがより好ましい。水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のケン化度が95モル%未満であると、溶融時の熱的安定性が非常に低くなって、ゲル化、分解を起こしやすくなり、安定に紡糸できない場合があり、一方99.99モル%よりも大きいと、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)自体を安定に製造することが困難になる。
【0042】
ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の質量に基づいて、アルカリ金属イオンを、ナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量%の割合で含有しており、0.0003〜0.8質量% の割合で含有することが好ましく、0.0005〜0.6質量%の割合で含有することがより好ましく、0.0005〜0.5質量%の割合で含有することがさらに好ましい。水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)におけるアルカリ金属イオンの含有量が0.0003質量%未満であると、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)が十分な水溶性を示さず、未溶解物が残ることがある。一方、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)におけるアルカリ金属イオンの含有量が1質量%よりも多いと、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を製造するための溶融紡糸時に分解およびゲル化が著しくなって繊維化が困難になる。
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)中に含有させるアルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどを挙げることができる。
なお、本明細書におけるPVA系重合体中のアルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めたものであり、その詳細については以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0043】
アルカリ金属イオンを上記した特定の量で含有する水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の製法は特に制限されず、例えば、(i)アルカリ金属イオンを含まない水溶性の熱可塑性PVA系重合体を製造した後にアルカリ金属イオンを含有する化合物を添加する方法、(ii)ビニルエステル系重合体を溶媒中でケン化してビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変えて水溶性の熱可塑性PVA系重合体を製造する際に、ケン化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用して当該PVA系重合体中にアルカリ金属イオンを含有させた後、PVA系重合体中のアルカリ金属イオンの含有量が本発明で規定する上記範囲内になるように制御しながら洗浄液で洗浄除去する方法などを挙げることができる。
そのうちでも、上記(ii)の方法が、生産工程を簡略化できる点から好ましい。
【0044】
アルカリ金属イオンの含有量が本発明で規定する上記した範囲内にある水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を上記(ii)の方法で製造する際に使用するケン化触媒(アルカリ性物質)としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを挙げることができ、そのうちでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。アルカリ性物質(ケン化触媒)の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単位1モルに対して0.004〜0.5モルであることが好ましく、0.005〜0.05モルであることがより好ましい。ケン化触媒は、ケン化反応の初期に一括して添加してもよいし、ケン化反応中に逐次に添加してもよい。
【0045】
ケン化反応の際に用いる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができ、そのうちでもメタノールが好ましく用いられる。メタノールを用いる場合は、含水率を0.001〜1質量%、さらには0.0 03〜0.9質量%、特に0.005〜0.8質量%に制御したメタノールを用いることが好ましい。ケン化反応後に用いる洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などを挙げることができ、そのうちでも、メタノール、酢酸メチルまたは水を単独で使用するか、或いは前記した液体の混合液を使用することが好ましい。洗浄温度としては5〜80℃、特に20〜70℃、洗浄時間としては20分間〜100時間、特に1〜50時間が好ましく採用される。
【0046】
ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は、製造の容易さ、溶融時の熱的安定性、紡糸性、などを考慮し、共重合単位であるエチレンを導入した変性PVA系重合体であることが必要である。
【0047】
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)における共重合エチレンの含有割合は、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の全構造単位に対して、5〜12モル%であることが必要であり、6〜10モル%であることがより好ましく、7〜9モル%であることがさらに好ましい。共重合単位の割合が12モル%を超えると、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の水への溶解性が低下し易くなり、ポリマーアロイから水抽出によって水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を除去してナノ繊維(X)を得ることが困難となり、製造効率が悪化する場合がある。一方、エチレン含有量が5モル%未満の場合は、熱的安定性に劣る場合があり、共重合単位を導入したことによるメリットを発揮させることが困難になる場合がある。
【0048】
また、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、ポリマーアロイにおける海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は、必要に応じて、当該重合体の融点や溶融粘度を調整するなどの目的で可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、従来公知のものが使用でき、好ましい例としては、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加したものを挙げることができる。そのなかでも、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル付加した化合物が、入手の容易性などの点から好ましく用いられる。
【0049】
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が微分散したポリマーアロイは、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を、(A):(B)= 2:98〜30:70の質量比、好ましくは5:95〜20:80の質量比で混合し、同一の押出機により溶融混練することで得ることができる。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は、重合体を構成する主たる構造単位がビニルアルコール単位であって互いに類似した構造を有することから、溶解性パラメータ(Solubility Parameter)の値が近く、お互いに分散しやすい。このため、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の混合比率を上記した範囲に設定し、必要に応じてエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)および水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)におけるエチレン単位の含有量などをさらに調整することで、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が微細に分散したポリマーアロイを得ることができる。
【0050】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の合計質量に基づいてエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の割合が30質量%を超えると[水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の割合が70質量%未満であると]、海島構造の相反転が起こって、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が海成分および水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)が島成分となってしまう。
一方、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の合計質量に基づいてエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の割合が2質量%未満であると[水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の割合が98質量%を超えると]、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)が海成分をなし、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が島成分をなすものの、海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去した後に得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)繊維を含む繊維状構造物が非常に脆弱になり、水による溶解処理時の機械的外力により繊維状構造物が崩壊したり、さらに繊維状構造物からなる製品が軽い摩擦力などで崩壊する場合があり、実質的に実用に供することが出来ない。
【0051】
そして、前記したポリマーアロイ[すなわちエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶融混合体]を少なくとも一成分として用いて紡糸口金から溶融吐出させることで、本発明の繊維状構造物を製造するための前駆体である、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維が形成される。
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が微細に分散したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維では、繊維を構成するポリマーアロイ(ポリマーアロイ部分)の1μm2につき、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が2個以上の島数で微分散していることが必要であり、3個以上の島数で微分散していることが好ましく、4〜10個の島数で微分散していることがより好ましい。繊維を構成するポリマーアロイ部分におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島の数がポリマーアロイの1μm2当たり2個未満であると、ポリマーアロイ中の海成分[水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)]を水で溶解除去して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)繊維が太くなりがナノ繊維になりにくくなる。一方、ポリマーアロイ部分における島の数が多すぎると、海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去が円滑に行われなくなる場合がある。
ここで、本明細書における「繊維を構成しているポリマーアロイの1μm2当たりの島数は、繊維の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して実際の島数をカウントして得られる個数であり、その詳細な測定法については以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0052】
また、繊維の少なくとも一成分をなすポリマーアロイ部分に存在するエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)からなる島の直径は、800nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、5〜400nmであることがさらに好ましく、10〜100nmであることが特に好ましい。島の直径が800nmを超えると、島繊度が大きくなり、目的とするナノ繊維(X)を含む繊維状構造物が得られにくくなる。一方、島の直径が小さくなり過ぎると、繊維を構成しているポリマーアロイから海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去後に得られる繊維状構造物およびそれからなる繊維製品の機械的強度が低下し、実用性が失われ易い。
ここで、本明細書でいう「繊維を構成しているポリマーアロイ部分に存在する島の直径」は、繊維の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により写真撮影し、その写真中の島の直径を測定したものである。なお、繊維を構成しているポリマーアロイ中には、2個以上の島が互いに結合して亜鈴型や細長い断面形状をなしているものがあるが、そのような場合には、結合する前のものを1個の島として取り扱って島の直径を測定する。また、その際にも島は完全な円形ではなく、楕円形であったり、変形した円形のものもあるが、そのような島の場合は、島と同じ面積の円の直径の直径に換算して「島の直径」とする。図4、5は、ポリマーアロイ中の、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の混合状態のSEM写真である。繊維の長手方向と垂直になるように試料を切断したものである。図4、5は共に同じ断面部を撮影したものであり、図5は図4を拡大したものである。
【0053】
前記したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維の横断面形状は特に限定されず、例えば、丸形、偏平形、繭形、中空形、T形、三角形、方形、多葉形、ドッグボーン形などの任意の形状にすることができる。
【0054】
上記したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を製造する方法としては、溶融混合押出工程を伴う繊維化方法が好ましく採用される。溶融混合押出工程を伴う繊維化方法の実施に当たっては、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を同一の押出機で溶融混練して溶融混練体にし、当該溶融混練体を単独で所定の紡糸口金より吐出させ、必要に応じて延伸を行って捲き取るか、または当該溶融混練体を他の熱可塑性重合体(特に他の繊維形成性熱可塑性重合体)と共に所定の紡糸口金より吐出させ、必要に応じて延伸を行って捲き取る方法が好ましく採用される。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶融混練するに当たっては、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)および水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は粉末状または粒状のいずれであってもよく、そのうちでも入手のしやすさ、取り扱いの容易さなどの点から、チップ状やペレット状の粒状であることが好ましい。
【0055】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)との混合は、両者のチップを予めブレンドしておくか(チップブレンド)、または溶融混練装置にチップフィーダー取り付けておいて、溶融混練機に両方のチップを同時に供給しながら混合する方法のいずれで行ってもよい。
チップブレンドによる場合は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を本発明で規定する上記した特定の質量比で均一に混合することが重要である。本発明で規定する質量比で混合した場合であっても、混合状態が不均一であると、溶融混練時に混合比率が変化し、安定に溶融押出できないばかりか、ポリマーアロイの構造も変化し、目的とする繊維が得られなくなり、ひいては本発明の繊維状構造物も得られなくなる。チップブレンドによってエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を均一に混合するためには、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のチップと水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のチップの形状およびサイズを完全に一致させておくか、ほぼ同じにしておくことが好ましい。完全に一致させることが困難な場合には、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のチップと一定質量が占める体積と、それと同じ質量の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のチップが占める体積の差が30%以内になるようにしておくことが好ましい。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)ともに、吸湿性の高い樹脂であり、大気中でブレンドを行なった場合、ベント機能を持たない押出し機を使用して紡糸を行なう場合、新たにブレンドチップの乾燥を行なう必要がある。乾燥を行なう際にも、有酸素下で100℃以上の高温に2時間以上曝すと、ブレンドチップの表層が酸化分解を起こし、変色を起こしたり、一部がゲル化してしまう場合もある。このため、可能な限り、酸素の存在を希薄にした雰囲気下で乾燥を行なうことが好ましい。具体的には窒素雰囲気下での乾燥、もしくは真空乾燥機を用いた乾燥などが挙げられる。紡糸を行なう際のブレンドチップの水分率としては1000ppm以下が好ましく、より好ましくは500ppm以下である。
ベント機能を持つ押出し機を用いて紡糸を行なう場合はこの限りではなく、ブレンドチップの乾燥を行なう必要はない場合が多い。
また、チップフィーダーを用いて混合する場合には、高性能のフィーダーを使用して、両重合体チップのチップフィーダーの吐出精度を±1%以内に管理することが好ましい。
【0056】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の混合物を溶融押出するに当たっては、上記したポリマーアロイを工業的に安定して均質に得ることのできる溶融押出機を使用することが望ましく、溶融混練効果の高いスクリューを備える単軸押出機や二軸押出機を使用することが好ましい。単軸押出機を使用する場合には、スクリューの先端に混練効果を向上させるためにダルメージ加工などを施したりすることも有効である。また二軸押出機を使用する場合は、スクリューの軸回転数を100回転/分以上、特に150回転/分以上にすることが好ましく、その際にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)および水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の熱的分解を抑制するためにはスクリューの軸回転数を400回転/分以下にすることが好ましい。
【0057】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなるポリマーアロイの製造に当たっては溶融混練・押出時の温度がその相構造に与える影響が非常に大きいので、溶融混練・押出時の温度条件を適切に管理する必要がある。本発明で規定する上記した特定の構造を有するポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を得るためには、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)や水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の種類、それらの組み合わせにもよるが、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶融混練および押出しを、以下の式(2)および(3)を同時に満足する温度T1(℃)で行なうことが望ましい。
下記の式(2)および(3)を同時に満足する温度T1(℃)の範囲内で溶融混練・押出時の温度を調整することにより、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分の島数を本発明で規定する範囲のものに調整することが可能となる。なお、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)および水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)は共に熱的安定性が比較的に低いので、下記の式(2)および(3)の上限を超える温度で溶融混練・押出を行なうことは極力避ける必要がある。
TA+30< T1 <TA+80 (2)
TB+ 5< T1 <TB+30 (3)
[上記式中、TAはエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の融点(℃)、およびTBは水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の融点(℃)を示す。]
【0058】
本発明では、上記した方法で溶融混練したエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶融混練物を、押出機の先端などに取り付けた紡糸口金から単独で吐出させ、一定速度で捲き取りを行って上記したポリマーアロイのみの単独繊維を製造することができる。
また、本発明では、上記した方法で溶融混練したエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶融混練物を押出機によって紡糸口金に供給すると共に、他の熱可塑性重合体(特に他の繊維形成性熱可塑性重合体)を別の押出機で溶融混練して前記紡糸口金に供給して、紡糸口金から同時に吐出させて、一定速度で捲き取りを行って、上記したポリマーアロイと他の熱可塑性重合体からなる複合繊維を製造することができる。
前記した単独繊維または複合繊維の製造に当たっては、繊維を延伸処理することが好ましい。延伸処理は、捲き取り後に巻き取った繊維を巻き戻して行なう2ステップ分割方式で行ってもよいし、紡糸口金から吐出した繊維を捲き取り前にヒートチューブなどの加熱手段で加熱して延伸すると同時に巻き取る1ステップ方式で行ってもよい。
2ステップ分割方式による場合は、熱風炉や乾熱炉といった非水系の媒体による熱延伸設備によって繊維の延伸処理を行なうことが望ましい。その理由は、ポリマーアロイの海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)が、水分との接触によって膨潤や溶融してしまうことによる。延伸処理は、繊維の延伸後の強度物性や、伸度物性を調整するために、80〜200℃までの温度範囲で行なうことが好ましく、また延伸倍率は1.5〜8倍、特に2〜5倍が好ましい。
【0059】
上記によって得られる、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)よりなる海成分中にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)よりなる島成分が微分散したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維(ポリマーアロイの単独繊維、またはポリマーアロイと他の熱可塑性重合体の複合繊維)の単繊維繊度は、紡糸工程での安定性、延伸工程での安定性、繊維の取り扱い性や強度、当該繊維を水で処理してポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去する際の溶解除去加工性などの点から、0.01〜40dtex程度、さらには0.1〜30dtex 程度、特に0.5〜10dtex程度であることが好ましい。
【0060】
上記ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維が、ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体との複合繊維である場合は、その複合形態はポリマーアロイの少なくとも一部が複合繊維の表面に露出している複合形態であることが望ましい。ポリマーアロイが繊維表面に露出しておらず、繊維中に完全に内包されている複合形態(例えば、ポリマーアロイが芯成分をなし他の熱可塑性重合体が鞘成分をなす芯鞘型複合繊維、他の熱可塑性重合体が海成分をなし当該海成分中にポリマーアロイよりなる島成分が表面に露出することなく存在している海島型複合繊維など)では、当該繊維を水で処理してポリマーアロイの海成分をなす水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去が円滑に行われず、目的とするナノ繊維(X)を含有する繊維状構造物を得ることが困難になる。
【0061】
ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体よりなる複合繊維では、ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体の複合比率は、他の熱可塑性重合体の種類などに応じて調整できるが、一般的には、ポリマーアロイ:他の熱可塑性重合体=5:95〜70:30の質量比、特に10:90〜60:40の質量比であることが、複合繊維の製造の容易性、ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去して得られるナノ繊維(X)を含む繊維状構造物の物性(特に親水性、吸水性、保水性、生体適合性、強度など)が良好になる点から好ましい[この項においては、ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去する前のポリマーアロイと他の熱可塑性重合体との質量比である]。
【0062】
ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体よりなる複合繊維より、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を除去した後のナノ繊維(X)と、他の熱可塑性重合体繊維(Y)との質量比は、30:70〜3:97であることが好ましい。より好ましくは、20:80〜5:95であり、さらに好ましくは15:85〜7:93である。
【0063】
ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体よりなる複合繊維では、ポリマーアロイの少なくとも一部が他の熱可塑性重合体を被覆している複合繊維である限りは、複合形態は特に制限されず、例えば、芯鞘型、海島型、多層積層貼合型などのいずれであってもよい。また、繊維の断面形状も特に制限されない。
ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体よりなる複合繊維の場合は、当該複合繊維を水で処理してポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去すると、他の熱可塑性重合体よりなる繊維が基体繊維となり、その基体繊維を三次元の網状構造を有するナノ繊維(X)が被覆した形態になる。
特に、複合繊維が他の熱可塑性重合体が芯成分をなしポリマーアロイが鞘成分をなす芯鞘型複合繊維である場合には、ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去することによって、他の熱可塑性重合体よりなる繊維の周りを三次元の網状構造を有するナノ繊維(X)が包囲して被覆した繊維状構造物が得ることが容易となる。
ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去した後の繊維状構造物では、他の熱可塑性重合体よりなる繊維の繊度(単繊維繊度)は、上記したように、0.001〜20dtexであり、特に0.01〜15dtexであることが好ましい。
【0064】
特に本発明では、ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体よりなる複合繊維として、他の熱可塑性重合体を芯成分としてポリマーアロイを鞘成分とする芯鞘型複合繊維、およびポリマーアロイを海成分として他の熱可塑性重合体を島成分とする海島型複合繊維が好ましく用いられる。これらの複合繊維を用いた場合には、ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水による溶解除去が容易で、しかも水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去後にはナノ繊維(X)が、他の熱可塑性重合体よりなる基体繊維を被覆した状態で繊維状構造物の表面に多く存在するため、ナノ繊維の有する高い親水性、吸水性、保水性、生体適合性などの機能が繊維状構造物に発現すると共に、他の熱可塑性重合体よりなる基体繊維が繊維状構造物や繊維製品の補強作用を果たす。
【0065】
上記したポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維(ポリマーアロイの単独繊維、ポリマーアロイと他の熱可塑性重合体との複合繊維)、またはそれらの繊維を用いて形成した繊維状基体を水で処理して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去する。本発明では、ナノ繊維(X)における、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の質量比、つまり(B)性分を溶解除去する際の除去率が重要である。本発明に特徴的な高い親水性と、柔軟な風合いを実現するためには、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、水溶性の熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)でなくてはならない。このためには水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去条件を調整する必要がある。水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去する際の処理温度は、熱水を用いて溶解する場合には、55〜105℃、さらには70〜100℃、特に85〜95℃の温度で処理することが、ナノ繊維(X)からなる繊維状構造物をより完全な形態で保持できる点から好ましい。その際に、シート状の繊維構造物であれば、Dip−Nipなどにより、内包されている変性ポリビニルアルコール系重合体(B)を系外に排出してやることも有効である。その場合、ナノ構造を撚り完全に保持するためには、Dip−Nipのローラー間圧力は線圧10kg/cm以下にすることが好ましい。また、適切な溶解助剤を用いて、変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の溶脱速度を加速してやることも有効である。溶解助剤としては、界面活性剤等が挙げられる。助剤が有効に作用するメカニズムとしては、溶解液である水の表面張力を大幅に低下させることで、ナノ分散構造の隅々に水が行き渡り、変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の溶解性を向上させるためと推定される。
【0066】
上述の溶解除去条件で変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の除去処理を行なっても、一度の処理で、所定の除去率を達成できない場合もある。この際は、同一の処理、またはそれよりも溶解浴の温度を所定内で上げた条件で再度処理することが必要である。
ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去は、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維自体を用いて行ってもよいし、または当該繊維を用いて不織布、織編物、紙、その他のシート状またはそれ以外の形状の繊維状基材を製造した後に行ってもよい。
【0067】
ナノ繊維(X)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、水溶性の熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでいなくてはならない。除去が不十分で、ナノ繊維(X)における変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の質量比が50%以上である場合、繊維構造物の風合いが硬くなったり、実質的にナノ繊維が発生していない部分が多くなり、高い親水性、保水性が発現しない場合もある。一方、ナノ繊維(X)における変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の質量比が0.1%以下である場合、実質的にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)単体の場合と性能が変わらない場合がある。
【0068】
ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を用いて不織布、織編物、紙、その他のシート状の繊維状基材を製造した後にポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解除去する場合には、公知の方法でシート状の繊維状基材を製造することができる。
例えば、レピア、グリッパー、エアージェット、ウォータージェット、スルザーなどの織機、丸編み機などの緯編機、トリコット、ラッセル、ミラニーズなどの経編機などを用いて織編物を作製し、その織編物を水で処理してポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去することができる。
また、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維をカットするかまたは捲縮・カットして綿状にし、カーディング、絡合を行って不織布をつくり、その不織布を水で処理してポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を溶解除去してもよい。その際にカーディング時に他のバインダー繊維原綿などを目的に応じて混綿してもよい。不織布を製造する際の絡合方法としては、例えば、ニードルパンチングによる方法、高圧水流による絡合処理方法などを挙げることができる。高圧水流による絡合処理を熱水で行なうと、ポリマーアロイ中の水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去と繊維の絡合を同時に行って、ナノ繊維(X)を含む強度の高い不織布を得ることができる。
また、繊維状基材を紙の形態にする場合には、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維をカットしてなる短繊維を水中で離解する際に、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去を同時に行って抄紙してもよい。
いかなる手法を用いる場合も、上記のように、当該繊維構造物において、溶解処理で生じた水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を系外に排出させること、溶解助剤を使用すること、温度条件を適正化すること、処理回数を適正化することなどにより、除去率を所定の範囲に調整する必要がある。
【0069】
ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維または当該繊維を用いて形成した繊維状基体から水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を水で溶解して除去する方法は特に制限されず、例えば、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維自体、または当該繊維から作製した不織布シート、織編物、紙、その他の繊維状基材を、サーキュラー、ビーム、ジッカー、ウィーンスなどの染色機やバイブロウォッシャー、リラクサーなどの熱水処理設備を用いて処理する方法、高圧水流を噴射して処理する方法などを挙げることができる。いかなる手法を用いる場合も、上記のように、当該繊維構造物において、溶解処理で生じた水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)を系外に排出させること、溶解助剤を使用すること、温度条件を適正化すること、処理回数を適正化することなどにより、除去率を所定の範囲に調整する必要がある。
【0070】
繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とポリマーアロイからなる複合繊維より、上記した水による水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶解除去処理によって、ナノ繊維(X)を含む繊維状構造物であって、平均繊維径が20〜500nmであり、該ナノ繊維(X)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部を繊維状構造物25μm2当たり10個以上有するナノ繊維(X)に被覆された、熱可塑性重合体繊維(Y)が得られる。
【0071】
本発明の繊維状構造物は、バインダー繊維、製紙用カットファイバー、乾式不織布用ステープル、紡績用ステープル、織物用マルチフィラメント、編物用マルチファイラメント、セメント補強材、ゴム補強材、包装材、衛生材料、メディカル用ディスポ製品、農業用被履材、フィルター類、ワイパー類、絶縁紙、電池セパレータ、人工皮革、マジックインキの芯などの用途に用いることができる。特に高い親水性、保水性、生体適合性を活かした用途として、薬液の貼付基材、電池セパレータ、キャパシタセパレータ、高機能性フィルターなどを挙げることができる。
【実施例】
【0072】
以下に本発明を実施例などによりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
以下の例において、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の重合度、エチレン単位の含有量、ケン化度、融点およびアルカリ金属イオンの含有量、ポリマーアロイを少なくとも一成分とする繊維を製造する際の繊維化工程性、繊維を構成するポリマーアロイ部分における島数の測定、並びに繊維を構成するポリマーアロイ部分から海成分を除去して得られる繊維状構造物(ナノ繊維(X)を含む繊維状構造物)の構造や物性の測定または評価は、次のようにして行った。
【0073】
(1)水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の重合度:
上記したように、JIS K6726に準じて、上記した式(1)から水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の重合度(粘度平均重合度)(P)を求めた。
【0074】
(2)水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)中のエチレン単位の含有量:
NMR装置(日本電子社製「JEOL GX−500」、500MHz)を使用して、80℃の条件下で1H−NMR測定を行って水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)中のエチレン単位の含有量(モル%)を測定した。
【0075】
(3)水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のケン化度:
JIS K6726に準じて測定した。
【0076】
(4)水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の融点:
DSC(パーキンエルマー社製「TA3000」)を使用して、水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)試料10mgを窒素雰囲気下で昇温速度10℃/分で300℃まで昇温した後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、そのときの吸熱ピークのピークトップを水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の融点(℃)とした。
【0077】
(5)水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)のアルカリ金属イオンの含有量:
水溶性熱可塑性PVA系重合体(B)の一部を採取し、それを完全に灰化し、その灰化した試料を硝酸に溶解し、その溶液を用いて、原子吸光光度計(株式会社日立製作所製「Z−5300」)を使用して、アルカリ金属イオン(ナトリウムイオン)の含有量(質量%)を測定した。
【0078】
(6)繊維化工程性の評価:
500kgの繊維を紡糸する際に何回断糸するかによって、次のように評価した。
○:断糸回数が2回以内であり、繊維化工程性が良好である。
△:断糸回数が3回以上9回以下であり、繊維化工程がやや不良である。
×:断糸回数が10回以上で、実質的に紡糸ができない。
【0079】
(7)繊維を構成するポリマーアロイ部分における島数の測定:
(i) 繊維を長さ方向に沿って50cmの間隔で切断した繊維横断面の5箇所のそれぞれについて、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製)(以下同じ)を使用して写真撮影し、得られた写真に基づいてポリマーアロイ中の島数を下記の方法で数えてポリマーアロイ1μm2当たりの島数を求め、5箇所の平均値を採って、繊維を構成するポリマーアロイ部分における島数(個/μm2)とした。
すなわち、繊維の横断面が円形またはほぼ円形である場合には、写真撮影された円形の繊維横断面を円の中心を通る直線を引いて100等分して中心角が3.6°の100個の扇形に分け、100個の扇形のうちの5個(円の円周に沿って20個おきに採取)について、各扇形内におけるポリマーアロイ部分中の島数を数えて5個の扇形内の島数を合計し、その合計数を20倍して、円形の繊維横断面内におけるポリマーアロイ部分での島の総数とした。その島の総数を、当該円形の繊維横断面内におけるポリマーアロイ部分の占める面積で割って、ポリマーアロイ1μm2当たりの島数を求めた。5箇所の繊維横断面について前記と同じ操作を行ってポリマーアロイ1μm2当たりの島数を求め、5箇所の平均値を採って、繊維を構成するポリマーアロイ部分における1μm2当たりの島数とした。
なお、繊維横断面の写真におけるポリマーアロイ中には、個々別々に分離独立した島と共に、複数の島が連結したものが存在することがあるが、複数の島が連結したものでは、複数の島が連結していることが判別できるものについては連結に関与している島の数(複数個)で数え、複数の島が連結したものと判別できないものについては1個の島として数えた。
【0080】
(ii) 繊維横断面が円形以外の形状である場合には、写真撮影された繊維横断面をできるだけ均等になるようにして100個に分割して、上記(i)と同様の操作を行って、繊維を構成するポリマーアロイ部分における1μm2当たりの島数を求める。
(iii) 繊維横断面におけるポリマーアロイ部分の面積は、例えば、上記(i)と同じ走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して上記と同じ倍率で撮影した写真から、所定の面積(Sa)の円または正方形を切り取ってその質量(Wa)を測定し、一方繊維横断面の写真からポリマーアロイ部分を切り取ってその質量(Wb)を測定することによって、下記の数式(4)から求めることができる。
繊維横断面におけるポリマーアロイ部分の面積(Sb)=Sa×(Wb/Wa) (4)
【0081】
(8)繊維状構造物におけるポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱率(%):
溶解処理後の繊維構造体の質量変化によりポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体の溶脱率を求めた。
【0082】
(9)ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱後の、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の比率(%):

・親水性熱可塑性PVA系重合体(B)溶脱前のポリマーアロイにおける、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率:a(%)
・(8)で算出した親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱率(%):z(%)
・ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)溶脱後の、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率:A(%)
・ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)溶脱後の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の比率(%):B(%)
上記のパラメータを使用すると、A(%)、B(%)はそれぞれ以下の数式で算出される

A(%)=100×a/(1−z/100+a×z/10000)
B(%)=100−A
【0083】
(10)ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱後の、ナノ繊維(X)と、他の熱可塑性重合体(Y)との比率(%):
新たに、以下のようにパラメータを規定する。
・ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)溶脱前の、複合繊維中におけるポリマーアロイ成分の比率: P(%)
・ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱後の、他の熱可塑性重合体(Y)の比率: Y(%)
・ポリマーアロイ中の親水性熱可塑性PVA系重合体(B)の溶脱後の、ナノ繊維(X)の比率: X(%)
上記のパラメータを使用すると、X(%)、Y(%)は以下の数式で算出される

Y(%)=100×(1−P/100)/{1+P×(a/100−1)/10000}
X(%)=100−Y
【0084】
(11)繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径:
(i) ナノ繊維(X)を含む繊維状構造物(不織布)から縦×横=5cm×5cmの試験片を、繊維状構造物の長さ方向に50cmの間隔をあけて3個切り取り、各試験片の表面(表面からではナノ繊維の含有状態がわかりにくいものでは表面に平行な切断面)における中央部(対角線の交点を中心とする部分)を走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して5000倍の倍率で写真撮影した。
(ii) 上記(i)で得られた各写真における中央部(対角線の交点を中心とする部分)と当該中央部から5μm隔たった左右2箇所の合計3箇所に、一辺が5μmの正方形(面積25μm2)をペンで描き、当該正方形部分に存在するナノ繊維の実質的にすべてについて繊維径を測定し、3個の正方形内に存在するナノ繊維の平均値を採った。3つの試験片について同様の作業を行ってナノ繊維の平均値を採り、さらに3つの試験片におけるナノ繊維の平均値(平均値の平均値)を採って、繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径(nm)とした。
なお、ナノ繊維の繊維径の測定に当たっては、ナノ繊維(X)の分枝、当該ナノ繊維同士の結合や交差などによって、ナノ繊維が接着点を中心として任意の3方向以上に延びている「叉状部」と「叉状部」(互いに隣り合う叉状部)の間の線状部分の中間位置の径を測定した。また、繊維径の測定に当たっては、最表面に位置するナノ繊維およびその奥に位置するナノ繊維の両方(写真の測定対象域に写っている全てのナノ繊維)を測定対象とした。
【0085】
(12)繊維状構造物における叉状部の数の測定:
上記(11)の(ii)において、試験片のSEM写真におけるペンで描いた正方形部分(中央と左右の3箇所、各面積25μm2)に存在する叉状部[ナノ繊維(X)の分枝、ナノ繊維(X)同士の接着(結合)、ナノ繊維(X)同士の交差などによって、ナノ繊維(X)がその接着点(分枝点、結合点、交点)を起点にしていずれかの3つ以上の方向に延びている部分における起点をなす接着点]の数をすべて数え、3箇所(3個の正方形)のそれぞれについて平均値を採り、さらに3つの試験片における叉状部の平均値(平均値の平均値)を採って繊維状構造物における叉状部の数とした。叉状部の数の測定に当たっては、最表面に位置する叉状部およびその奥に位置する叉状部の両方(写真の測定対象域に写っている全ての叉状部)を測定対象とした。
【0086】
(13)吸水率(%):
繊維状構造物(不織布)から試験片(50mm×50mm)[質量=W0(g)]を採取して、温度20℃の蒸留水に浴比1/100で30分間浸漬した後に取り出し、プラスチック板上に30秒間放置して自然に液切りを行ない、そのときの質量[W1(g)]を測定して、下記の式(5)から吸水率を求めた。
吸水率(%)={(W1−W0)/W0}×100 (5)
【0087】
(14)乾燥時間:
繊維状構造物(不織布)から試験片(150mm×150mm)[質量=W0(g)] を採取し、温度20℃の蒸留水に浴比1/100で30分間浸漬した後、直ちに遠心脱水機(コクサン社製)を用いて1分間脱水処理を行なった(脱水かごの回転速度3000r pm)。その後、温度20℃および湿度65%RHの恒温室で自然乾燥し、その際に5分毎に質量[W1(g)]を測定して、試験片の吸水率が20質量%にまで低下する時間を測定(恒温室に入れた時点から測定)して、保水性の指標とした。吸水率が20質量%にまで低下するのに要した時間が長いほど保水性(液体保持力)が高いことを示す。なお、試験片の吸水率は、上記の式(5)から求めた。
【0088】
(15)風合い:
繊維の開発従事者10名によって、繊維状構造物(不織布)の風合いを5段階で評価し、その平均評点で3段階の評価査定とした。
○:4.0< ソフトで嵩高感のある風合い
△:3.0〜4.0 やや硬く嵩高感に劣る風合い
×:3.0> 硬い風合い
【0089】
また、以下の実施例または比較例で用いた水溶性熱可塑性PVA系重合体(B−1)は、粘度平均重合度380、ケン化度99.1モル%、アルカリ金属イオン(ナトリウム換算)0.017質量%、エチレンに由来する構造単位8.6モル%である。
【0090】
《実施例1》
(1) エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)(エチレン含有量44モル%)(株式会社クラレ製「エバール E112Y」)と、PVA系重合体(B−1)を、(A):(B−1)=20:80の質量比でスクリューフィーダーを用いて混合して二軸押出機(株式会社神戸製鋼所製、スクリュー回転数=180回/分)に供給して215℃で溶融混練してポリマーアロイを調製しながら溶融押し出しすることで芯鞘型複合紡糸口金に供給し、同時にイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(以下「変性PET」ということがある)(イソフタル酸変性量=10モル%、株式会社クラレ製「クラペット」)を別の二軸押出機(株式会社神戸製鋼所製、スクリュー回転数=150回/分)で280℃の押出温度で溶融し押し出して前記の芯鞘型複合紡糸口金に供給して、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)とPVA系重合体(B−1)とのポリマーアロイを鞘成分とし、変性PETを芯成分とする芯鞘型複合繊維(鞘成分:芯成分の質量比=50/50、口金温度=250℃で吐出した後に巻き取って紡糸原糸とした。この紡糸原糸を製造する際の維化工程性は良好であった。
(2) 上記(1)で得られた紡糸原糸を2段式の熱風炉(長さ3m)を用いて、1段目の炉(温度=90℃)で1.5倍に延伸した後、2段目の炉(温度=90℃)で2倍に延伸して、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(3) 上記(2)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維における芯成分(変性PET)の繊度は2.5dtexであり、芯鞘型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から繊維横断面全体に占めるポリマーアロイ(鞘成分)の面積比率を求めたところ56%であった。
(4) 上記(2)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットし、不織布用の原綿とした。この原綿90質量部と、バインダー繊維[芯成分がP ET、鞘成分がポリエチレンであるバインダー繊維(株式会社クラレ製、「N−710」、2.2dtex×51mm)の10質量部を混綿し、ローラーカード機で100g/m2 のウェッブを製造した。このウェッブを110℃、線圧40kg/cmのカレンダーロールでカレンダー処理して不織布を製造した。
(5) 上記(4)で得られた不織布を、水溶液(1L中にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1gを含有)に、浴温88℃、浴比100:1で浸漬して120分間処理することを2回繰り返し行ない、繊維を構成しているポリマーアロイ部分における海成分[PVA系重合体(B−1)] を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)を含み、当該ナノ繊維が変性PET繊維の周りを被覆している繊維状構造物を得た。
(6) 上記(5)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ、98%であった。また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は219nm、叉状部の数は43個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は84.7%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は15.3%であった。
さらに、得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は173%、および乾燥時間は88分であり、非常に親水性が高いものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高く柔らかい風合いであり、評価点の平均は5点満点中4.3点と高いものであった。
【0091】
《実施例2》
(1) 芯鞘型複合紡糸口金の代わりに海島型複合紡糸口金を用いて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)とPVA系重合体(B−1)からなるポリマーアロイを海成分、変性PETを島成分とする海島型複合繊維(海成分:島成分の質量比=50/50、島数=16個)を実施例1の(1)と同様にして製造した後、実施例1の(2)と同様に延伸して、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の海島型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維における島成分(変性PET)の繊度は0.16dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ56%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ95質量%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は273nm、叉状部の数は51個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は69.0%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は31.0%であった。
さらに、得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は223%、および乾燥速度は91分であり、非常に親水性が高いものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高く柔らかい風合いであり、評価点の平均は5点満点中4.4点と高いものであった。
《実施例3》
(1) 実施例1において、芯鞘型複合繊維の芯成分をポリプロピレン(出光石油(株)、メルトインデックス20)に変更したこと以外は、実施例1と同様に繊維化を行ない、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維の芯成分の繊度は2.5dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ45%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ96%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は236nm、叉状部の数は35個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は73.5%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は26.5%であった。
さらに、得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は131%、および乾燥速度は55分であり、非常に親水性が高いものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高く柔らかい風合いであり、評価点の平均は5点満点中4.4点と高いものであった。
【0092】
《実施例4》
(1) 実施例1において、芯鞘型複合繊維の芯成分を6ナイロン(宇部興産(株))に変更したこと以外は、実施例1と同様に繊維化を行ない、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維の芯成分の繊度は2.5dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ51%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ99%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は314nm、叉状部の数は45個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は91.7%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は8.3%であった。
さらに、得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は198%、および乾燥速度は89分であり、非常に親水性が高いものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高く柔らかい風合いであり、評価点の平均は5点満点中4.2点と高いものであった。
【0093】
《比較例1》
(1) 実施例1において、ポリマーアロイ成分におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)をエチレン含有量20モル%のものに変更したこと以外は、実施例1と同様に繊維化を行ない、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維の芯成分の繊度は2.5dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ52%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ100%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は18nm、叉状部の数は106個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は100%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は0%であった。これは、エチレン−ビニルアルコール系共重合体成分(A)が、過度に細化−微分散しているため、繊維構造体としての強度が不足しており、PVA系重合体(B−1)溶脱処理中に脱落してしまったためと考えられる。諸条件を検討した結果、現在のところ解決に至っておらず、今後の検討が必要である。
得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は65%、および乾燥速度は27分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩はかなり高いものの、風合いがやや硬く、評価点の平均は5点満点中3.0点と高いものではなかった。
【0094】
《比較例2》
(1) 実施例1において、ポリマーアロイ成分におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)をエチレン含有量75モル%のものに変更したこと以外は、実施例1と同様に繊維化を行ない、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維の芯成分の繊度は2.5dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ50%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ97%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は1048nm、叉状部の数は8個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は78.7%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は21.3%であった。これは、エチレン−ビニルアルコール系共重合体成分(A)が、比較的大きな島成分を形成しているため、B成分溶脱後はナノ繊維と言えるまでの細化には不十分であるためと考えられる。
得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は63%、および乾燥速度は13分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高とは言えず、風合いがやや硬く、評価点の平均は5点満点中3.2点と高いものではなかった。
【0095】
《比較例3》
(1) 実施例1の(5)において、浴温を92℃、処理回数を5回にしたこと以外は、実施例1と同様に繊維化、不織布化、溶脱処理を行った。得られた繊維状構造物のPVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ100%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は187nm、叉状部の数は43個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は100%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は0%であった。
得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は55%、および乾燥速度は10分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高とは言えず、風合いに充実感がなく、評価点の平均は5点満点中3.7点と高いものではなかった。
【0096】
《比較例4》
(1) 実施例1の(5)において、浴温を85℃、処理回数を1回にしたこと以外は、実施例1と同様に繊維化、不織布化、溶脱処理を行った。得られた繊維状構造物のPVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ85%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の最大径、最小径、平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は248nm、叉状部の数は41個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は42.6%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は57.4%であった。
得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は93%、および乾燥速度は48分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、嵩高とは言えず、風合いが硬く、評価点の平均は5点満点中3.3点と高いものではなかった。
【0097】
《比較例5》
(1) 芯鞘型複合紡糸口金の代わりに海島型複合紡糸口金を用いて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)とPVA系重合体(B−1)からなるポリマーアロイを海成分、変性PETを島成分とする海島型複合繊維(海成分:島成分の質量比=80/20、島数=500個)を実施例1の(1)と同様にして製造した後、実施例1の(2)と同様に延伸して、50dtex/24f(単繊維繊度=2dtex)の海島型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維における島成分(変性PET)の繊度は0.0008dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ77%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去処理を行なった。ところが、処理完了後にサンプルを取り出す際に、形態保持が困難でその後の評価に供するサンプルを得ることが実質的に不可能な状況であった。溶脱条件、および不織布化条件(バインダー繊維の量、種類の変更)などを検討したものの、現在のところ解決に至っておらず、今後の検討課題である。
【0098】
《比較例6》
(1) 実施例1において、製糸条件の変更を行ない、600dtex/24f(単繊維繊度=25dtex)の芯鞘型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の芯鞘型複合繊維の芯成分の繊度は25dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(海成分)の面積比率を求めたところ52%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]を溶解除去することによって、ナノ繊維(X)と変性PET繊維からなる繊維状構造物を得た。
(4) 上記(3)で得られた繊維状構造物について、PVA系重合体(B−1)の溶脱率を上記した方法で測定したところ97%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の最大径、最小径、平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は275nm、叉状部の数は39個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は78.7%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は21.3%であった。 得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は59%、および乾燥速度は31分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、風合いが硬くゴワゴワしており、評価点の平均は5点満点中1.8点と低い評価であった。これは芯成分の繊度が25dtexと太いためであると考えられる。
【0099】
《比較例7》
(1) 実施例1において、芯成分と鞘成分を逆転させた事以外は、実施例1と同様にして繊維化した後、実施例1の(2)と同様に延伸して、120dtex/24f(単繊維繊度=5dtex)の海島型複合繊維のマルチフィラメントを製造した。この際に、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。
(2) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維における鞘成分(変性PET)の繊度は2.5dtexであった。海島型複合繊維の横断面をSEMにて写真撮影して、写真から、繊維横断面に占めるポリマーアロイ(芯成分)の面積比率を求めたところ53%であった。
(3) 上記(1)で得られた延伸後の海島型複合繊維マルチフィラメントを51mmにカットして不織布用の原綿とし、この原綿を用いて実施例1の(4)と同様にして不織布を製造し、この不織布を実施例1の(5)と同様にして水溶液に浸漬して、繊維を構成しているポリマーアロイ中の海成分[PVA系重合体(B−1)]の溶解除去処理を行ない上記した方法で溶脱率を測定したところ94%であった。
また、SEMを用いて繊維状構造物に含まれるナノ繊維の最大径、最小径、平均繊維径、叉状部の数を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は336nm、叉状部の数は44個/25μm2であった。PVA系重合体(B−1)溶脱後の、ナノ繊維(X)におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)の比率は64.9%であり、PVA系重合体(B−1)の比率は35.1%であった。 得られた繊維状構造物の吸水率および保水性を上記した方法で測定したところ、吸水率は51%、および乾燥速度は7分であり、親水性が高いとはいえないものであった。また、不織布の風合いを上記の方法で判定したところ、風合いが硬く、評価点の平均は5点満点中2.9点と低い評価であった。これはナノ繊維が、繊維状構造体の表面に露出していないために、親水性が発揮されなかったためと考えられる。
【0100】
以上の実施例、比較例の結果を表1にまとめる。
【0101】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の繊維状構造物が有するナノ繊維(X)の構造を表す模式図
【図2】本発明の製造方法で用いる芯鞘型複合繊維の断面の模式図
【図3】本発明の繊維状構造物の一形態を表す模式図
【図4】本発明の製造方法で用いるポリマーアロイの分散状態を表すSEM写真
【図5】本発明の製造方法で用いるポリマーアロイの分散状態を表すSEM写真
【符号の説明】
【0103】
a〜k 接着点
1 繊度が0.001〜20dtexの熱可塑性重合体繊維成分
2 ポリマーアロイ成分
3 ナノ繊維
4 ポリマーアロイ中におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)成分
5 ポリマーアロイ中における熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)とを、50:50〜99:1の重量比で含んでなるナノ繊維(X)と、繊度が0.001〜20dtexの他の熱可塑性重合体繊維(Y)とを含む繊維状構造物であって、前記ナノ繊維(X)の平均繊維径が20〜500nmであり、該ナノ繊維(X)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部を繊維状構造物25μm2当たり10個以上有するとともに、前記熱可塑性重合体繊維(Y)の表面をナノ繊維(X)が被覆していることを特徴とする繊維状構造物。
【請求項2】
前記ナノ繊維(X)と前記熱可塑性重合体繊維(Y)とが30:70〜3:97の重量比であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状構造物
【請求項3】
前記熱可塑性重合体繊維(Y)がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維から選択されることを特徴とする請求項1に記載の繊維状構造物
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状構造物を用いてなる繊維製品。
【請求項5】
エチレンに由来する構造単位の含有割合が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が接着点を起点として任意の3方向以上に延びている叉状部が網状をなすように形成された島成分と、粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が95〜99.99モル%であり且つアルカリ金属イオンをナトリウム換算で0.0003〜1質量%の割合で含有し、エチレンに由来する構造単位を5〜12モル%の割合で有する熱可塑性の変性ポリビニルアルコール系重合体(B)を海成分と、からなるポリマーアロイを鞘成分とし、他の熱可塑性重合体繊維(Y)を芯成分とする芯鞘型複合繊維から、前記変性ポリビニルアルコール系重合体(B)の一部を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−150005(P2009−150005A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326680(P2007−326680)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】