説明

織機の経糸制御方法

【課題】製織運転中に、緯入れピック番号の更新にともなって織機の主軸の回転速度を変更する形式の織機で、主軸の回転速度の変更期間における服巻ロールおよび経糸ビームの織布巻取量と経糸送出量との差異に起因する緯糸密度むらを目立たなくする。
【解決手段】服巻ロール13を駆動する巻取制御部24と、経糸張力偏差を解消する方向に基本速度を補正して経糸ビーム3を駆動する送出制御部23とからなる経糸制御装置22において、織機1の主軸17の回転速度の変更期間での主軸17の回転速度の切換りに際し、前記2つの制御部(巻取制御部24および送出制御部23)のうち少なくとも一方の制御部を前記主軸17の回転速度の変更期間で、織布巻取量と経糸送出量との差異に起因する緯糸密度むらをより目立たなくするために、通常の駆動態様と異なる駆動態様に基づいて動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定常運転後の織機の主軸の回転速度が予め複数設定されるとともに、織機の製織運転中に、緯入れピック番号の更新にともなって、織機の主軸の回転速度を製織の途中で前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する形式の織機において、定常運転後の主軸の回転速度が変更される期間における織布巻取量と経糸送出量との差異に起因する緯糸密度むらをより目立たなくする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2などは、織機の経糸制御装置を開示している。その織機の経糸制御装置は、織機クランク軸(織機主軸)に対して同期状態で所定の比率で運転する巻取モータにより服巻ロールを駆動する巻取制御装置と、クランク軸の回転信号をもとに織機の回転数を検出し、基本速度を求める一方、上記基本速度に対し経糸張力の偏差に基づき張力偏差を解消する方向に補正された速度信号に従って駆動する送出モータにより経糸ビームを駆動する送出制御装置とを有する。
【0003】
送出制御装置について、より詳しくは張力偏差を解消する方向の補正量Mpを出力するPI(比例積分)演算器と、設定された打込密度と検出された織機の回転速度、経糸ビームの巻径および緯糸打込密度とに基づいて基本速度Noを算出するとともに、基本速度Noに対して補正量Mpにより補正した速度指令Nを出力する速度演算器とで構成され、速度演算器から出力される信号に基づき送出モータを駆動する。
【0004】
また、送出制御装置は、織機の運転速度の選択信号に対応して基本速度を予め出力する。運転速度信号の切換り時には、送出制御装置は、選択信号に対応する基本速度に切り換えて経糸ビームを駆動する。
【0005】
また、特許文献3は、近年の高付加価値織物に対する生産性向上のための技術として選択緯糸の切換りに対応して、織機の運転速度を変更する技術「織機の運転回転数制御装置」を開示している。より詳しくは、その織機の運転回転数制御装置は、飛走特性の異なる複数の緯糸を選択的に緯入れする多色緯入れ織機で、選択緯糸の種別に対応する織機の許容最高回転速度を緯入れピック番号毎に予め記憶しておき、製織運転中、緯入れピック番号の更新によって飛走特性の異なる緯糸へ切り換える時には、織機の運転速度(すなわち主軸の回転速度)を前記切り換り後の糸種に対応する前記許容回転速度で運転する。
【特許文献1】特開平8−246299号公報
【特許文献2】特開昭62−263374号公報
【特許文献3】特開平5−78955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の特許文献1、2、3の技術によると、織機の運転速度が切り換わる度に、緯糸密度むらが発生するという問題がある。しかし、これを有効に解消する技術は、これまで知られていない。本発明者の研究によれば、緯糸密度むらの発生原因は、巻取制御装置および送出制御装置の制御形態が相違することに起因しており、選択緯糸の切換りにより織機の運転速度が切り換わる際の運転速度の変更期間において、織布巻取量と経糸送り量と違うことが原因であることを突き止めた。
【0007】
具体的に記載すると、巻取制御装置では、織機の回転に同期して駆動されるため織機の運転速度の切換りに対し、主軸の回転速度が一方の設定速度から他方の設定回転速度に変更されるまでの間においても、主軸の回転速度に正確に追従して駆動される。これに対し、送出制御装置では、基本速度の更新が数ピック毎になされ、しかも送出制御装置では、織機の運転速度の切換信号により基本速度が直ちに最終の主軸回転速度に対応する値に切換ることになる。このような事情から、織機の運転速度の切換り時における織布の巻取速度の変化に対し、経糸送出速度がより前の時点で変更されることになる。
【0008】
例えば、織機の運転速度が、高い速度から低い速度に切り換わる際、織機運転速度の変更期間では、巻取速度は、織機の運転速度(主軸の回転速度)の低下に同期して徐々に低下するのに対し、送出制御装置の送出速度は、瞬時的に低下してしまい、この期間における経糸送出量が不足することになる。この結果、経糸張力が上昇して、織前位置が織機後方向(経糸送出側)に移動することになって、緯糸密度が密になる(厚段)現象が発生する。逆に、回転速度が低い速度から高い速度に切り換わるとき、前記と全く逆の現象が発生する。
【0009】
このような問題は、運転速度選択信号により基本速度を切換えしない、すなわち単一の基本速度に対し張力偏差を解消するように補正する形式の経糸送出装置では、これとは全く逆の現象が発生する。例えば、織機の運転速度が高い速度から低い速度に切り換わることを一例とすれば、送出制御装置では、張力制御の結果補正量が変更されて速度指令が低く抑制されるまでは、運転速度に切換り前の高い速度で経糸が過剰に送り出されることになって緯糸密度が粗になる(薄段)現象が発生する。
【0010】
本発明の目的は、織機の製織運転中に、緯入れピック番号の更新にともなって織機の主軸の回転速度を製織の途中で前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する形式の織機で、従来発生していた不都合、すなわち主軸の回転速度が変更される期間における経糸走行部材、具体的には服巻ロールの織布巻取量と経糸ビームの経糸送出量との差異に起因する緯糸密度むらを、より目立たなくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題および目的のもとに、本発明は、服巻ロールを駆動する巻取制御部と、経糸張力偏差を解消する方向に基本速度を補正して経糸ビームを駆動する送出制御部とからなる経糸制御装置において、織機の主軸の回転速度の変更期間で主軸(17)の回転速度を、前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する際に、前記2つの制御部(巻取制御部および送出制御部)のうち少なくとも一方の制御部を、織布巻取量と経糸送出量との差異に起因する緯糸密度むらをより目立たなくするために、通常の駆動態様と異なる駆動態様に基づいて一時的に動作させている。
【0012】
具体的には、本発明の織機の経糸制御方法は、定常運転後の織機の主軸の回転速度が予め複数設定されるとともに、所定の変更期間で主軸の回転速度を、前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する織機に用いられる経糸制御装置であって、この経糸制御装置は、服巻ロールを駆動する巻取制御部と、経糸ビームを駆動する送出制御部とを含み、通常の駆動態様として、前記巻取制御部は、織機の回転に同期して服巻ロールを駆動し、前記送出制御部は、経糸の目標張力に対する張力偏差を解消する方向に基本速度を補正して経糸ビームを駆動する。特に、2つの制御部(巻取制御部および送出制御部)のうち少なくとも一方の制御部には、当該制御部に含まれる上記通常の駆動態様と異なる駆動態様であって、主軸の回転速度を前記変更する上記所定の変更期間において前記2つの制御部がともに上記通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差が縮小される駆動態様が設定され、主軸の回転速度を前記変更するに際し、前記少なくとも一方の制御部は、少なくとも上記所定の変更期間の一部を含むように定められる第1の期間にわたり、前記設定された異なる駆動態様で一時的に動作することを特徴とする。
【0013】
本発明の経糸制御装置の送出制御部は、主軸の回転速度に基づく基本速度に対し、目標経糸張力に対する張力偏差に基づき前記張力偏差を解消する方向に補正する形式の装置で、主軸の回転速度を前記変更するに際し、主軸の回転速度の切換信号に対応して基本速度を主軸の回転速度に基づく速度に切り換える装置に適用することができる。
【0014】
主軸の回転速度を前記変更する際に異なる駆動態様を実現するための具体的な構成について、以下4つの形態が考えられる。
【0015】
1)当該制御部には、第1の期間のみ設定速度パターンによる駆動とするために、主軸の回転速度の変更期間に対応して定められる第1の期間にわたり速度パターンを設定するとともに、前記主軸の回転速度を前記変更するに際し、当該制御部は、前記第1の期間では前記設定された速度パターンに基づいて動作する。なお、異なる駆動態様を実現するために用いられる速度パターンは、主軸の回転速度を前記変更する上記所定の変更期間において前記2つの制御部がともに通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差が縮小されるように設定される。また好ましくは、主軸の回転速度の変更期間の一部を少なくとも含むように定められる第1の期間の始点が、前記主軸の回転速度の変更期間における最初の筬打ち時点よりも前となるように設定される。
【0016】
2)第1の期間のみ速度指令に対する補正のために、当該制御部は、さらに出力される速度指令信号を補正する補正部を備える。主軸の回転速度の変更期間に対応して定められる第1の期間にわたり通常と異なる補正率を設定するとともに、前記主軸の回転速度の切換りに際し、当該制御部は、前記第1の期間では前記異なる補正率に基づき補正した速度で動作する。なお、異なる駆動態様を実現する際に用いられる第1の期間における補正率(補正パターン)は、上記した2つの制御部がともに通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差が縮小されるように予め設定される。
【0017】
3)第1の期間のみ主軸速度に同期駆動するために、送出制御部では、基本速度を検出された織機主軸の回転速度に基づいて出力する期間(つまり回転速度を変更する期間)と、つまり実際の織機主軸の回転速度とは関係なく先に出力された基本速度をそのまま出力する期間(つまり回転速度を変更しない期間)とを交互に発生させ、これらの期間に対応する駆動を行うことで、前記異なる駆動態様として動作可能に構成する。なお、回転速度が変更される期間には、検出された主軸の回転速度に対応して基本速度を変更して動作する。
【0018】
4)送出制御部を備えた経糸制御装置で、基本速度の切換タイミングを操作することで、前記異なる駆動態様を実現可能に構成する。異なる駆動態様を実現するために用いられる送出制御部の基本速度の切換え時期は、前記主軸の回転速度の変更期間中における織布巻取量と経糸送出量との差が縮小されるように予め設定され、主軸の回転速度の切換りに際し、前記送出制御部は、前記変更期間中に定められる切換り時期に達することにより、基本速度を切換えるように動作する。より具体的には、前記送出制御部には、前記異なる駆動態様として、主軸の回転速度の切換り信号が入力されてから切換り後に対応する基本速度に切り換えるまでの遅延期間が予め設定されており、前記主軸の回転速度の切換りに際し、前記送出制御部は、前記切換り信号が入力されて前記遅延期間を経過したことにより、前記基本速度を切換り後に対応をする値に切り換えて動作する。遅延期間は、時間、主軸角度のいずれを尺度としてもよい。なお、基本速度の切換り時期は、前記回転速度の変更期間内であって、前記前記回転速度の変更期間における最初の筬打ち時点よりも前となるように、かつ第1の期間の終点は、前記回転速度の変更期間が終了してから次の筬打ち時点よりも前となるように設定する。
【0019】
巻取制御部について、織機の主軸による機械駆動される形態、主軸の回転信号に同期して電動駆動される形態のいずれも考えられ、上記異なる駆動態様をさせる制御部について、例えば上記速度パターンによる駆動の場合を一例とすれば、以下形態が考えられる。巻取制御部が機械駆動の場合、送出制御部のみを異なる駆動態様で駆動可能に構成すればよく、上記速度パターンを送出制御部に対して設定し、第1の期間では、送出制御部は主軸の速度変更パターンに基づいて動作する。これに対し、巻取制御部が電動駆動の場合について、1)送出制御部のみを異なる駆動態様で駆動する場合では、上記速度パターンを送出駆動部に対して設定し、第1の期間では、送出制御部は主軸の速度変更パターンあるいは巻取制御部の速度変更パターン、換言すれば主軸の回転速度の変更態様に対応して設定された速度パターンに基づいて駆動する、2)送出制御部と巻取制御部の双方を異なる駆動態様で駆動するとき、上記速度パターンを送出制御部と巻取制御部の双方に対して設定し、第1の期間では、送出制御部および巻取制御部の双方は、ともに同じ速度パターンに基づいて動作する、3)巻取制御部のみを異なる駆動態様で駆動する場合、速度パターンを巻取制御部に対して設定し、しかも速度パターンは、送出制御部の基本速度の切換りに対応して設定されるため、第1の期間では、巻取制御部は、設定された速度パターンに基づいて、送出制御部の切り換わる基本速度の切換りに対応する速度で駆動される。
【0020】
第1の期間の設定について、主軸の回転速度が変更される期間に、完全に一致させることが理想的であるが、影響のない範囲で精度の粗い設定、すなわち多少のズレがある設定も可能であり、本件発明ではこれら設定される態様も含まれる。
【0021】
本発明の他の織機の経糸制御方法は、定常運転後の織機の主軸の回転速度が予め複数設定されるとともに、所定の変更期間で主軸の回転速度を、前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する織機に用いられる経糸制御装置であって、前記経糸制御装置は、主軸の回転に同期して服巻ロールを駆動する巻取制御部と、検出された主軸の回転速度をもとに基本速度を発生し、前記基本速度に対し実際の経糸張力の張力偏差を解消する方向に補正した補正結果に従って前記経糸ビームを駆動する送出制御部とを有してなる織機の経糸制御装置において、前記送出制御部は、連続的に検出される主軸の回転速度に基づき、主軸の回転速度に比例する前記基本速度を発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、織機の主軸の回転速度の切換りの過程で、主軸の回転速度の変更期間における織布巻取量および経糸送り量の差が従来の経糸制御装置に比して減少されるから、これに起因する緯糸密度むら(運転中に発生する織段)をより目立たなくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、織機1の概要、特に経糸2の送出動作および織布8の巻取動作に関係する部分を示している。図1で、多数の経糸2は、経糸ビーム3からシート状として送り出され、バックロール4を経て複数の綜絖5および筬6に通され、綜絖5の開口運動によって上下の経糸2により開口7を形成しながら織布8の織前9に達している。
【0024】
一方、緯糸10は、上下の経糸2の開口7内に緯入れされた後、筬6の筬打ち運動により織前9に筬打ちされて織布8に織り込まれる。織布8はガイドロール11、プレスロール12、服巻ロール13、プレスロール14を経て、最終的に布巻ビーム15に巻き取られる。
【0025】
綜絖5の開口運動、筬6の筬打ち運動は、織機1の主軸17の回転と連動している。主軸17は、主軸モータ16によって駆動される。主軸17の回転は、例えば電子ドビー式の開口装置18により開口運動に変換され、各綜絖5に伝達されるとともに、筬打運動変換装置19によって筬打ち運動に変換され、筬6に伝達される。
【0026】
主軸モータ16は、主軸駆動部27によって駆動される。経糸制御装置22の内部の選択信号発生部30は、詳細は後述するが、主軸角度信号θをもとに回転速度切換信号を発生し、主軸駆動部27に送る。これに対し、主軸駆動部27では、回転速度切換信号の入力態様に対応して主軸の回転速度の変更態様が予め設定されており、主軸駆動部27は、複数設定されている主軸17の回転速度を一方の回転速度から他方の回転速度に向けて徐々に変更することにより切り換える。製織運転中の主軸17の回転速度は、予め複数設定されている。
【0027】
経糸ビーム3および服巻ロール13は、それぞれ送出モータ20、巻取モータ21により駆動される。経糸ビーム3および服巻ロール13は、両方の回転によって、または一方のみ回転によっても、経糸2および織布8を前後に移動させることができる。例えば主軸17の回転速度の切り換わり時に、服巻ロール13のみが巻き取り方向に余計に回転すれば、織布や経糸の張力がその分だけ上昇される結果、経糸2は織布8とともに巻き取り方向(前方)に移動するから、織前9も同じ方向に移動することになる。
【0028】
送出モータ20は、経糸制御装置22の内部の送出制御部23および駆動部25によって駆動され、巻取モータ21は、経糸制御装置22の内部の巻取制御部24および駆動部26によって駆動される。巻取制御部24は、織機1の主軸17の回転と同期するように駆動される。一方、主軸17には、角度検出器28が連結されており、角度検出器28の出力としての主軸角度信号θ(いわゆる織機のクランク角度信号)は、直接または間接的に送出制御部23、巻取制御部24および主軸駆動部27に出力される。このため、巻取制御部24は、主軸角度信号θをもとに織機1の主軸17の回転と同期するように駆動することができる。なお、主軸角度信号θは、送出制御部23や主軸駆動部27にも出力され、それぞれの制御に利用される。
【0029】
さて、本発明において、主軸駆動部27には、製織運転中の織機回転数すなわち定常運転後の主軸17に対する複数の設定回転速度および回転速度の変化勾配などの変更態様に関係するパラメータが、選択信号発生部30からの回転速度切換信号の入力態様に対応して予め設定されている。このため織機1は、定常運転されてから選択信号発生部30からの回転速度切換信号の発生により、主軸駆動部27は、上記パラメータに従って、所定の変更期間で主軸17の回転速度を一方の回転速度から他方の回転速度に向けて徐々に変更することにより、主軸17の回転速度を切り換える。一方経糸制御装置22では、服巻ロール13および経糸ビーム3をともにモータ駆動するために、服巻ロール13を駆動する巻取制御部24と、経糸ビーム3を駆動する送出制御部23とを含み、通常の駆動態様として、巻取制御部24は、織機1の回転に同期して服巻ロール13を駆動し、送出制御部23は、経糸2の目標張力に対する張力偏差を解消する方向に基本速度を補正して経糸ビーム3を駆動する。
【0030】
そして、前記のように所定の変更期間で主軸の回転速度を予め設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する織機において、本発明を具体的に構成する下記実施例1〜5による織機の経糸制御方法は、2つの制御部すなわち送出制御部23、巻取制御部24のうち少なくとも一方の制御部には、当該制御部に含まれる上記通常の駆動態様と異なる駆動態様であって、主軸の回転速度を前記変更する主軸17の回転速度の所定の変更期間において、前記2つの制御部がともに上記通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差を縮小するための駆動態様が設定される。そして主軸17の回転速度を前記変更するに際し、前記少なくとも一方の制御部は、少なくとも上記所定の変更期間の一部を含むように定められる第1の期間にわたり、前記設定された異なる駆動態様で一時的に動作することによって、織布巻取量と経糸送出量との差を解消する。
【0031】
また、以下実施例6による織機の経糸制御方法は、主軸17の回転に同期して、服巻ロール13を駆動する巻取制御部24と、検出された主軸17の回転速度をもとに基本速度を発生し、この基本速度に対し張力偏差を解消する方向に補正した補正結果に従って経糸ビーム3を駆動する送出制御部23とを有しており、送出制御部23によって、連続的に検出される主軸17の回転速度に基づき、前記基本速度を発生させ、織布巻取量と経糸送出量との差を解消する。
【0032】
以下に、実施例1〜6による織機の経糸制御方法を具体的に説明する。
【実施例1】
【0033】
図2は、経糸制御装置22内の送出制御部23、駆動部25、巻取制御部24、駆動部26、タイミング信号発生器29、選択信号発生部30および主軸駆動部27などの接続例を示している。
【0034】
図2において、選択信号発生部30は、織機1の運転中に、角度検出器28からの主軸角度信号θを入力して、設定値としての回転数切換開始時期(緯入れピック番号)、制御切換開始時期、制御切換期間などのデータに基づいて指定された時期に回転速度切換信号を発生し、主軸駆動部27内の速度指令部31に出力している。速度指令部31には、設定値として主軸17の複数の回転速度のほか、回転速度の変更期間での速度変化勾配など主軸17に対する回転速度の変更態様に関係するパラメータが予め設定されており、速度指令部31は、指定された回転速度でインバータ32を駆動し、誘導モータなどの主軸モータ16を回転させる。
【0035】
織機1の運転が定常運転後である所定の回転数切換開始時期(所定の緯入れピック番号)に達すると、選択信号発生部30は、設定値に基づき回転速度切換信号を発生し、速度指令部31に出力する。このため、速度指令部31は、上記関係するパラメータにしたがってインバータ32を駆動して、主軸17の回転速度を回転速度の変更期間に所定の速度変化勾配で徐々に変更する。
【0036】
また、巻取制御部24の巻取ベース速度発生部33は、設定値としての打込密度(緯糸密度)および主軸角度信号θに基づき主軸17の回転速度に比例する巻取ベース速度信号を発生し、この巻取ベース速度信号を切換器34経由でパルス発生部35に送り、このパルス発生部35でパルスの駆動量信号(巻取の速度指令)に変換し、サーボアンプとしての駆動部26の正逆カウンタ36の加算入力端子に送る。上記の巻取ベース速度信号は、主軸17の回転速度に比例しているから、これに基づいて駆動される服巻ローラ13は主軸17の回転速度の変化に追従して回転することになる。
【0037】
正逆カウンタ36は、加算入力端子からの入力パルス数と減算入力端子からの入力パルス数との減算結果であるパルスカウント値に対応する信号を、速度指令として出力して電流発生器37を駆動し、サーボモータによる巻取モータ21を織布が巻き取られる方向に回転させる。巻取モータ21の回転はパルスジェネレータ38によってパルス信号として検出され、正逆カウンタ36の減算入力端子に入力されて速度指令として入力されるパルス発生部35からのパルス信号に対する閉ループ制御系を構成する。またパルスジェネレータ38からのパルス信号は、電流発生器37にも入力され、例えばモータ21の回転角度に対応する電流を発生させる制御に用いられる。このように通常の駆動態様のときに、巻取制御部24および駆動部26は、織機1の主軸17の回転量に追従しながら巻取モータ21を駆動することになる。
【0038】
一方、タイミング信号発生器29は、経糸2の送り出し制御のために、角度検出器28からの主軸角度信号θを入力して、主軸17の所定の回転角度例えば回転角度0°の信号および回転角度20°の信号を発生し、これを送出制御部23の張力制御部39および送出ベース速度発生部40に送っている。
【0039】
他方、送出制御部23について、張力制御部39は、20°信号の入力時毎に、張力センサ47からの経糸2の実際の張力信号を入力として、経糸張力を検出するとともに、0°信号の入力時に、主軸17の1回転中に、20°毎に検出した計18回のサンプリング経糸張力の経糸張力値の平均値を算出し、平均値と目標値との偏差量に対し、所定の演算例えばPID演算などを行って、張力偏差を解消する方向の補正量を算出し、この補正量を張力制御信号として加算点48に出力する。なお、張力センサ47は、図1で例えばバックロール4の支持位置に組み込まれており、その位置に作用する経糸2の合力から経糸2の張力を検出し、実際に検出した張力値の張力信号を張力制御部39に出力している。また経糸張力平均値を算出するためのサンプリング制御について、主軸角度信号により行うものに限らず、クロック信号により行う形態も考えられる。
【0040】
張力制御部39について、好ましくは、主軸17の回転速度切換り過程では、張力制御を中断し、偏差を補正しないか、あるいは張力制御を無効化し、実質的に作用しないようにすることによって、補正量を抑制する。補正量の抑制によると、後述される異なる駆動態様として行われる速度パターンなどによる送出モータ20の駆動が張力偏差により打消されずに済む。
【0041】
また、送出ベース速度発生部40は、0°信号の入力周期をもとに主軸17の回転速度を検出するとともに、回転速度の切換信号に対応して記憶する。すなわち、送出ベース速度発生部40に回転速度の切換信号が入力されると、送出ベース速度発生部40は、主軸17の回転速度の記憶情報から対応する回転速度を読出すとともに、打込密度や駆動系のギア比などの設定値に基づき、基本速度(送出ベース速度)を決定し、送出ベース速度信号を加算点48に出力する。
【0042】
この結果、加算点48の出力は、送出ベース速度を経糸2の張力偏差解消方向に補正した送出速度指令となる。この送出速度指令の信号は、切換器42経由でパルス発生部43に入り、このパルス発生部43によってパルスの駆動量信号(送り出しの速度指令)に変換され、サーボアンプとしての駆動部25の正逆カウンタ44の加算入力端子に入力される。なお、パルス発生部43は、巻径信号によって出力(駆動量信号)を補正する。巻径信号は、経糸ビーム3での経糸2の巻径を表し、図1に示すように、適当な巻径センサ49により検出される。なお、ビームの巻径について、上記したセンサによる直接的な検出に代えて、単位期間当たりのビームの回転量の関係から間接的に求める公知技術を採用してもよい。
【0043】
正逆カウンタ44は、速度指令(カウント値)に基づいて電流発生器45を駆動し、サーボモータによる送出モータ20を経糸が送り出される方向に回転させる。送出モータ20の回転は、パルスジェネレータ46によってパルス信号として検出され、正逆カウンタ44の減算入力端子に入力されて上記送出制御部と同様の閉ループ制御系を構成し、またパルスジェネレータ46からのパルス信号は、電流発生器45にも入力されて上記巻取部分の駆動部26と同様、入力パルス信号に追従する制御が行われる。このように通常の駆動態様のときに、送出制御部23および駆動部25は、送出ベース速度を経糸2の張力偏差で補正された結果に基づいて送出モータ20を駆動することになる。
【0044】
送出モータ20の通常の駆動態様(通常制御)は、上記の通りであるが、これに対して、織機1の運転中において、主軸17の回転速度の切換(変更)時に、送出モータ20の制御は、切換器42によって通常制御から速度パターンに基づく制御に切り換えられる。すなわち選択信号発生部30は、主軸角度信号θから回転数切換開始時期を検出したときに制御切換信号を速度信号発生部41に送り、速度信号発生部41を起動すると同時に、切換器42を介して速度指令信号発生部41に切り換える。また制御切換信号は、さらに必要に応じて張力制御部39にも供給することにより、前記したように送出ベース速度に対する補正動作を抑制あるいは無効化することもできる。
【0045】
この切り換えにより、速度信号発生部41の出力としての速度指令信号は、制御切換開始時期から所定の制御切換期間にわたり、加算点48の出力(張力制御信号−送出ベース速度信号)に代わって、パルス発生部43に入力される。このため、主軸17の回転速度の切換(変更)時に、パルス発生部43は、所定の制御切換期間にわたって、予め設定されている設定値(速度パターン)に従って駆動量信号(速度指令)を発生し、この駆動量信号(速度指令)により駆動部25を駆動することになる。なお、その後第1の期間が経過した時点で、切換器42を介して再び送出ベース速度発生部40に切り換わるとともに上記張力制御の抑制が解除されて通常の駆動にもどる。
【0046】
図2の具体例によると、巻取制御部24にも送出制御部と同様の切換器34が設けられており、点線で示す制御切換信号および速度指令信号を、巻取制御部側の切換器34に供給することにより、送出制御部と同様に通常と異なる駆動態様で駆動することができる。より詳しくは、主軸17の回転速度の切換(変更)過程において、送出制御部23の出力(駆動量信号)と同時に、巻取制御部24の出力(駆動量信号)も、切換器34によって、速度パターンに基づく速度信号発生部41の速度指令信号による制御に切り換え可能な構成となっている。このため、速度信号発生部41には、送出用速度パターンに基づく速度指令信号と巻取用速度パターンに基づく速度指令信号とが予め設定可能にされる。
【0047】
しかし、本発明は、主軸17の回転速度の切換(変更)過程において、送出制御部23および巻取制御部24の双方を通常と異なる駆動態様で同時に動作させる態様に限らず、送出制御部23および巻取制御部24のうち少なくとも一方のみを通常とは異なる駆動態様で動作させる、すなわち制御切換え信号を、該当するいずれか一方の切換器のみに供給するようにして、例えば送出制御部23のみを動作させる態様、巻取制御部24のみを動作させる態様を含むものとする。
【0048】
図3は、主軸17の回転速度の切換り過程において、経糸制御装置22の動作のタイミングチャートを示す。図3の例で、選択信号発生部30は、主軸角度信号θを入力として主軸17の回転量100(緯入れピックのカウント値すなわち緯入れピック番号が100)になったときに、主軸駆動部27の速度指令部31に対し、いままでの回転速度切換信号(回転速度選択信号r1)を回転速度切換信号(回転速度切換信号r2)に切り換える。このとき、速度指令部31およびインバータ32は、回転速度切換信号r2で指定された速度変化勾配を有する速度パターンのもとに主軸モータ16を駆動し、主軸17の回転速度(rpm)を900から400に低下させる。この速度切換工程1(主軸17の速度変更期間)の時間的な長さは設定される速度変化勾配によって決まる。
【0049】
前記のように巻取制御部24の巻取ベース速度発生部33は、設定値としての打込密度(緯糸密度)および主軸角度信号θに基づき巻取ベース速度信号を発生しているが、この巻取ベース速度信号は、主軸17の回転速度に比例している。このため、巻取制御部24の出力は、主軸17の回転速度の変化に追従して速度指令v11から速度指令v12へと変わり、巻取モータの回転速度も主軸17の回転速度の変化に追従することになる。
【0050】
一方、送出駆動部23は、主軸17の回転量99(緯入れピック番号99)までは通常の制御(通常の駆動態様)、つまり送出ベース速度(基本速度)を経糸2の張力偏差で補正することによって、駆動量信号(速度指令)を出力している。この間、速度信号発生部41は、主軸17の1回転毎に緯入れピック番号を更新しているが、主軸17の回転量100(緯入れピック番号100)になると、選択信号発生部30からの制御切換信号が出力されるため、送出駆動部23は、速度信号発生部40に設定された速度パターンに基づく速度指令信号の駆動量信号(速度指令)を出力する。
【0051】
すなわち選択信号発生部30は、主軸角度信号θから回転数切換開始時期を検出し、主軸17の回転が回転量100(緯入れピック番号100)に到達すると、制御切換信号を速度信号発生部41に送る。この制御切換信号について、第1の期間つまり主軸17の回転量102(緯入れピック番号102)に達するまでの間、出力される。この制御切換信号により、速度信号発生部41を起動させると同時に、切換器42を制御切換期間(第1の期間)にわたって切り換え、さらに必要に応じて張力制御部39の動作を抑制あるいは無効化する。
【0052】
この結果、主軸17の回転速度の切換(変更)時に、送出モータ20の制御は、上記出力される制御切換信号により、第1の期間の開始と同時に、切換器42によって通常制御(張力制御)から速度信号発生部41による速度パターンに基づく制御に切り換えられ、第1の期間の経過後つまり主軸17の回転量102(緯入れピック番号102)に到達すると、切換器42によって再びもとの通常制御(張力制御)にもどされる。このため、第1の期間では、経糸ビーム3は経糸2の張力に関係なく予め設定された速度パターンに基づいて回転することになる。
【0053】
第1の期間中の速度パターンは、速度切換工程1の切換期間(主軸17の速度変更期間)における織布8の巻取量と経糸2の送出量との差を縮小し、織布8の巻取量と経糸2の送出量とを可能な限り等しくすべく設定されるが、この例によると丸付き数字1のように、通常制御のときの速度指令v21をとし、かつ速度指令v21から速度指令v22に減速するときの勾配も主軸17の回転速度の変化態様、換言すれば巻取モータ21の減速時の勾配とほぼ同じとなるように設定される。
【0054】
既述のように、速度パターンの設定に際して作業者は、速度パターンの元になるパラメータとしての制御切換開始時期、制御切換期間、主軸速度の変更量などを図示しない設定器により速度信号発生部41に入力し、速度信号発生部41の内部で自動的に作成させる。なお、速度パターンは、丸付き数字1のような一定の傾きの直線に限らず、各種の曲線、あるいは図3の丸付き数字2のようにステップ差の異なる多段の階段状、または丸付き数字3のように1段の階段状として設定することもできる。
【0055】
既に明らかなように、主軸17の回転速度の切り換え時の速度パターンに基づく制御は、送出制御部23のみに限らず、図2で点線に示すように、さらに巻取制御部24についても行うこともできる。巻取制御部24についての速度パターンに基づく制御で、速度パターンは、送出、巻取ともに同様のパターンを用いればよく、双方の速度を同様に変化させるとき、速度パターンの設定態様は、主軸17の回転速度の変化を考慮しない設定、例えば直線変化、階段状変化、各種の曲線による切換のいずれも考えられる。
【0056】
なお、服巻ロール13の駆動形態について、モータ駆動に限らず、主軸17の回転により機械的に駆動する構成としてもよい。機械的な巻取駆動では、巻取制御部24や、巻取モータ21は不要となるが、そのような場合には、前記した送出制御部により、上記した異なる駆動が実現される。
【実施例2】
【0057】
図4は、実施例2による経糸制御装置22の動作タイミングチャートを示している。実施例2は、図2の経糸制御装置22の構成を利用しながら、主軸17の回転速度の切換(変更)過程において、送出制御部23の制御を上記した速度パターンに基づく制御に切換える制御を実行しないで従来どおりの通常の制御を行うとともに、巻取制御部24の制御を通常の制御(ベース速度による制御)から速度パターンに基づく制御に切換えることにより、巻取モータ21の回転速度を例えば図3の丸付き数字2の速度パターンに基づいて、服巻ロール13を駆動する例である。
【0058】
実施例2は、巻取制御部24の速度パターンを、主軸17の回転速度の変更期間における通常の制御下での送出ベース速度(切換り)に対応して設定し、上記動作することにより、回転速度の変更期間における織布8の巻取量と経糸2の送出量との差を縮小するように服巻ロール13を駆動する。この制御の場合、図2での送出制御部23の切換器42、それに供給する信号を省略した構成とする。
【0059】
以上の実施例1および実施例2は、以下のように変形して実施することもできる。第1の期間(速度パターン制御の期間)は、図3および図4の設定例以外に、図4の下方に例示するように、丸付き数字1のように、その始点を主軸17の回転速度の変更期間である速度切換工程1内の後半期間である1ピックの期間の途中より、速度切換工程1が終了した当該ピックの次のピックまでの期間として、丸付き数字2、3のように速度切換工程1内でその期間よりも短く完全に1ピック内の期間として、丸付き数字4のように速度切換工程1内の最初のピックから次のピックまでの期間として、さらに、丸付き数字5のように速度切換工程1より前のピックから速度切換工程1内のピックの途中までの期間として設定することもできる。
【0060】
主軸17の回転速度の変更期間(速度切換工程1)の長さは、具体的には、数ピック(5ピック)以下、実際には1〜2ピック程度に設定される。これに対し、回転速度の変更期間に入ってからの最初の筬打ちタイミングまでに、経糸送り量と織布巻取量が均衡する方向に経糸走行部材(経糸ビーム3、服巻ロール13)を駆動することで従来の駆動に比べて経糸張力の変化が小さくなるようにすれば、緯糸密度むらは、従来技術に比べてより目立たなくなる。主軸17の回転速度の変更期間(速度切換工程1)が複数ピックにわたる場合、本発明の解決課題の緯糸密度むらに影響する筬打ちは複数回となるが、緯糸密度むらへの影響度合い(重み)を考えるなら、回転速度の変更期間内における最初の筬打ち、次回以降の筬打ちの順になるため、このような補正動作は、最初の筬打ち時よりも前の時点より開始することが好ましい。
【0061】
従って、第1の期間は、主軸17の変更期間の一部を含むようにし、しかもその始点が最初の筬打ちタイミングよりも前であればよく、具体的には第1の期間を丸付き数字2から5のように設定すればよい。また第1の期間の終点について、回転速度の変更期間が終了して、筬打ち時点以降も補正動作を続けることは得策でない。例えば経糸送出制御で、速度パターンによる制御、換言すれば張力制御されない状態が長く続くことは張力制御の観点から好ましくない。このため、第1の期間の終点について、上記主軸17の回転速度変更期間を終了してから次の筬打ちタイミングよりも前に定めることが望ましく、具体的には第1の期間を丸付き数字1から5のように設定すればよい。
【0062】
なお、図4の下方に例示するように、丸付き数字2〜4では、従来に比べ、最初の筬打ち時までに送り量の差の大半部分の解消を期待でき、丸付き数字1では、複数回筬打ちされることにより正規の密度になることを考えれば、最初の筬打ち時における送り量の差が少なくとも解消する方向になるので効果が期待でき、さらに丸付き数字5では、経糸2や織布8に弾性があるため、織前9に伝わるまでの遅れ時間を考慮して制御動作を先行させることが好ましいときに有効である。
【0063】
速度パターン(速度量)について、通常の駆動態様に比べ、織布8の巻取量と経糸送出量のずれを減少させるものもふくまれる。例えば、実施例1を例とすれば、送出制御部23に対する速度パターンを、主軸17の回転速度の変更量、すなわち巻取モータ21の回転量に一致させることが理想的である。しかし、実際には、経糸2や織布8が有する弾性も影響するため、織物種類によっては、設定速度の精度が多少粗く、完全に一致しなくても大きな問題にならない。
【実施例3】
【0064】
図5は実施例3による送出制御部23の構成を示しており、また図6は動作のタイミングチャートを示している。実施例3は、図2の送出制御部23の構成から速度信号発生部41および切換器42を除き、それらの代わりに図5のように加算点48とパルス発生器43との間に補正部50を介在させた例であり、上記第1の期間では、発生される送出ベース速度に対し予め設定される補正率を介して補正することにより、通常と異なる駆動態様を実現する例である。
【0065】
補正部50は、張力制御部39からの速度指令(速度指令値)を入力として、設定値(補正係数αや補正期間t)および制御切換信号(補正開始タイミング信号)を入力として速度指令値に補正係数αを乗じて補正し、補正した速度指令値を出力を発生し、パルス発生器43に出力する。この補正係数αは、第1の期間の始点から終点までの期間にわたって徐々に変化されるように予め設定されている。
【0066】
図6のように、主軸17の回転速度が変更されない期間(定速期間)において、補正部50は、補正係数α=1に設定しているため、主軸17の回転速度の変更前の速度指令v11および主軸17の回転速度の変更後の速度指令v12は補正されない。しかし、主軸17の回転速度が変更される第1の期間に入り、制御切換信号(補正開始タイミング信号)が補正部50に入力されると、補正部50は、切換り後の速度(速度指令v12)を基準とし、その基準速度に経時的に変化する補正係数α乗じて、速度指令v=α×v12を算出する。
【0067】
経時的に変化する補正係数α(α≠0)は、α=f(t)として表されるが、図示例では速度指令v11>速度指令v12のため、一例として3.5から1.0へと順次連続的に小さくなるように変化している。このため、速度指令vは、第1の期間の初期に折れ線的に連続し、これ以後次第に減少して、第1の期間の終期に速度指令v2に折れ線的に連続する。
【0068】
なお、第1の期間において、補正係数αを連続的に変化させないで、段階的に変化させることもできる。補正された速度指令が出力される時間周期であるサンプリング時間t1が多少粗くとも、送出モータ20の回転はほぼ滑らかに変化するから実用状大きな問題にならない。
【実施例4】
【0069】
図7は、実施例4による送出制御部23の構成を示しており、また図8は動作のタイミングチャートを示している。実施例4は、図2の構成を利用しながら、図2の送出制御部23の構成から速度信号発生部41および切換器42を除き、それらの代わりに図7のように加算点48に、主軸の回転速度に対応する特別な送出ベース速度発生部55を接続した例である。
【0070】
送出ベース速度発生部55は、複数のベース速度発生回路51、52、53とこれらの出力信号を選択的に出力する切換器54とで構成されており、それぞれのベース速度発生回路51、52、53は、主軸17の回転速度選択信号毎に設けられる。第1のベース速度発生回路51および第2の送出ベース速度発生回路52は、定速回転用であり、主軸17の回転速度の変更前および変更後に対応する一定速度のベース速度(基本速度)をそれぞれ発生する。また第3のベース速度発生回路53は、主軸回転速度の変更期間に対応して定められる第1の期間にわたって送出ベース速度を変更前の速度から変更後の速度に移行させるための過渡回転用であり、この期間において主軸回転角度信号θの入力周期をもとに検出した主軸17の回転速度に基づきベース速度(基本速度)を発生する。
【0071】
図8のように、主軸17の定速回転の期間には、選択信号発生部30および切換器54は、緯入れピック番号が99までの期間では第1のベース速度発生回路51を選択し、また第1の期間経過後(緯入れピック番号が101である期間の途中以降)では第2のベース速度発生回路52を選択する。第1のベース速度発生回路51は速度指令v11を発生し、また、第2のベース速度発生回路52は速度指令v12を発生するため、これらの速度指令v11、v12は送出ベース速度信号として各期間ごとに加算点48に出力される。
【0072】
主軸17の回転速度に切換りに対する第1の期間には、選択信号発生部30および切換器54は、第1の期間にわたり過渡回転用の第3のベース速度発生回路53を選択する。このとき、第3のベース速度発生回路53は検出した主軸17の回転速度の変化に対応する送出ベース速度信号をサンプリング時間t1毎に発生するように動作することにより、変更期間における織布巻取量と経糸送出量との差を縮小するように経糸ビーム3を駆動する。
【実施例5】
【0073】
図9は、実施例5による送出制御部23の構成を示しており、また図10は動作のタイミングチャートを示している。図9のように、送出制御部23の構成は、図7とほぼ同様であり、送出ベース速度発生部56は、第1のベース速度発生回路57、第2のベース速度発生回路58と切換器59とで構成されている。なお、この実施例は、主軸の回転速度の変更期間に対し送出制御部の基本速度を、予め設定した遅延時間により遅延させて切り換えることで、前記異なる駆動態様を実現する例である。
【0074】
図9,図10のように、第1のベース速度発生回路57は、定速回転用であり、速度切換工程1(速度変更期間)の前後で送出モータ20に対して速度指令v11、v12を発生している。速度切換工程1に入ると、選択信号発生部30は、制御切換信号を発生して切換器59を操作して、第1のベース速度発生回路57の速度指令v11を第2のベース速度発生回路58の速度指令v12に切り換えるが、この切り換えのタイミングは、主軸速度選択信号(回転速度切換信号)の発生時点から遅延時間t2となっている。
【0075】
この遅延時間t2は、変更期間における織布巻取量と経糸送出量との差を縮小できるように予め設定される。このため、送出ベース速度発生部56が主軸速度選択信号(回転速度切換信号の発生時点から遅延時間t2の時点で速度指令v11を速度指令v12に切り換えると、変更期間における織布巻取量と経糸送出量との差が縮小される。遅延時間t2は最適には、図示斜線領域が同じ面積になるように設定する。なお、遅延時間t2の設定精度が多少粗くても 大きな問題にはならない。
【実施例6】
【0076】
図11は、実施例6による送出制御部23の構成を示している。図11のように、送出制御部23は、切換器42、54、59や補正部50を用いないで、1つの送出ベース速度発生部60によって、主軸17の回転速度に比例する送出ベース速度信号を出力し、加算点48に出力する例である。
【0077】
すなわち、送出ベース速度発生部60は、ベース速度の更新を所定の主軸角度(0°)通過時毎に、角度検出器28の出力を入力とし、設定値(緯糸打込密度)に基づいて主軸17の回転速度に比例する送出ベース速度信号を発生しているが、第1の期間(主軸17の速度変更期間)に入ると、角度信号の入力時例えば1°毎に主軸17の回転速度に比例する送出ベース速度信号を発生することによって、主軸17の回転に同期し、かつその回転速度に比例する送出ベース速度信号を発生する。この結果、送出モータ20の回転速度は主軸17の回転速度に追従する。
【0078】
このようにして、送出制御部23は、検出された主軸17の回転速度をもとに送出ベース速度信号(基本速度の信号)を発生し、前記基本速度に対し張力偏差を解消する方向に補正した補正結果に従って経糸ビーム3を駆動することなる。なお、送出ベース速度信号の大きさは、送出ベース速度発生部60の内部の係数の設定により任意に設定できる。
【0079】
ちなみに、経糸ビーム3は、送出モータ20でなく、主軸17の回転を経糸ビーム3に伝達する機械駆動装置でもよい。経糸ビーム3が機械駆動装置によって駆動される場合に、送出制御部23は、連続的に検出される主軸17の回転速度に基づき、機械駆動装置の回転伝達比を調整することになる。このことから巻取駆動は、電動駆動にかぎらず、機械駆動される形態も含まれる。より具体的には、巻取制御部24は、織機主軸の回転運動を駆動源とし服巻ロールを所定の比率で機械的に減速駆動するように構成されるのに対し、送出制御部は、上記したように、前記織機主軸の回転速度の切換りに対応して、送出ベース速度が切り換わる、経糸制御装置も本件発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のすべての実施例において、送出制御部23、巻取制御部24、選択信号発生部30等の内部構成は、図示例に限定されない。各制御部(送出制御部23、巻取制御部24)を別体の回路で構成する代わりに、一体化した回路構成も可能である。また、各部の制御は、ハードウエア回路による処理に代えて、コンピュータとソフトウエアとにより処理する構成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る方法を実施するための織機、特に経糸経路の側面図である。
【図2】本発明の実施例1および実施例2による経糸制御装置のブロック線図である。
【図3】本発明の実施例1による動作のタイミングチャート図である。
【図4】本発明の実施例2による動作のタイミングチャート図である。
【図5】本発明の実施例3による経糸制御装置中の送出制御部のブロック線図である。
【図6】本発明の実施例3による動作のタイミングチャート図である。
【図7】本発明の実施例4による経糸制御装置中の送出制御部のブロック線図である。
【図8】本発明の実施例4による動作のタイミングチャート図である。
【図9】本発明の実施例5による経糸制御装置中の送出制御部のブロック線図である。
【図10】本発明の実施例5による動作のタイミングチャート図である。
【図11】本発明の実施例6による経糸制御装置中の送出制御部のブロック線図である。
【符号の説明】
【0082】
1 織機
2 経糸
3 経糸ビーム
4 バックロール
5 綜絖
6 筬
7 開口
8 織布
9 織前
10 緯糸
11 ガイドロール
12 プレスロール
13 服巻ロール
14 プレスロール
15 布巻ビーム
16 主軸モータ
17 主軸
18 開口装置
19 筬打運動変換装置
20 送出モータ
21 巻取モータ
22 経糸制御装置
23 送出制御部
24 巻取制御部
25 駆動部
26 駆動部
27 主軸駆動部
28 角度検出器
29 タイミング信号発生器
30 選択信号発生部
31 速度指令部
32 インバータ
33 巻取ベース速度発生部
34 切換器
35 パルス発生部
36 正逆カウンタ
37 電流発生部
38 パルスジェネレータ
39 張力制御部
40 送出ベース速度発生部
41 速度信号発生部
42 切換器
43 パルス発生部
44 正逆カウンタ
45 電流発生器
46 パルスジェネレータ
47 張力センサ
48 加算点
49 巻径センサ
50 補正部
51 第1のベース速度発生回路
52 第2のベース速度発生回路
53 第3のベース速度発生回路
54 切換器
55 送出ベース速度発生部
56 送出ベース速度発生部
57 第1のベース速度発生回路
58 第2のベース速度発生回路
59 切換器
60 ベース速度発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常運転後の織機(1)の主軸(17)の回転速度が予め複数設定されるとともに、所定の変更期間で主軸(17)の回転速度を、前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する織機(1)に用いられる経糸制御装置(22)であって、
前記経糸制御装置(22)は、服巻ロール(13)を駆動する巻取制御部(24)と、経糸ビーム(3)を駆動する送出制御部(23)とを含み、
通常の駆動態様として、前記巻取制御部(24)は、主軸(17)の回転に同期して服巻ロール(13)を駆動し、前記送出制御部(23)は、経糸(2)の目標張力に対する張力偏差を解消する方向に基本速度を補正して経糸ビーム(3)を駆動する織機(1)の経糸制御装置において、
前記2つの制御部(23、24)のうち少なくとも一方の制御部には、当該制御部に含まれる上記通常の駆動態様と異なる駆動態様であって、主軸の回転速度を前記変更する上記所定の変更期間において前記2つの制御部がともに上記通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差が縮小される駆動態様が設定され、
主軸(17)の回転速度を前記変更するに際し、前記少なくとも一方の制御部は、少なくとも上記所定の変更期間の一部を含むように定められる第1の期間にわたり、前記設定された異なる駆動態様で一時的に動作することを特徴とする織機の経糸制御方法。
【請求項2】
前記経糸制御装置(22)内の前記送出制御部(23)は、主軸(17)の回転速度に基づく基本速度に対し、目標経糸張力に対する実際の経糸張力の張力偏差に基づき前記張力偏差を解消する方向に補正する形式の装置であって、主軸(17)の回転速度を前記変更するに際し、主軸(17)の回転速度の切換信号に対応して基本速度を主軸(17)の回転速度に基づく速度に切り換えることを特徴とする請求項1記載のことを特徴とする織機の経糸制御方法。
【請求項3】
当該制御部には、前記第1の期間にわたり速度パターンを設定するとともに、前記異なる駆動態様としての速度パターンが、主軸の回転速度を前記変更する上記所定の変更期間において前記2つの制御部がともに上記通常の駆動態様で動作したと仮定した時の織布巻取量と経糸送出量との差が縮小されるように設定されており、
前記主軸(17)の回転速度を前記変更するに際し、当該制御部は、前記第1の期間では前記設定された速度パターンに基づいて動作することを特徴とする請求項1または2に記載のことを特徴とする織機の経糸制御方法。
【請求項4】
前記主軸(17)回転速度の変更期間の一部を少なくとも含むように定められる第1の期間の始点が、前記回転速度の変更期間における最初の筬打ち時点よりも前となるように設定されることを特徴とする請求項1、2または3記載の織機の経糸制御方法。
【請求項5】
前記送出制御部(23)における前記基本速度の切換わり時期が設定可能に構成されるとともに、前記異なる駆動態様としての前記基本速度の切換え時期が、前記主軸(17)の回転速度の上記所定の変更期間における織布巻取量と経糸送出量との差が縮小されるように予め設定されており、主軸(17)の回転速度を前記変更するに際し、前記送出制御部(23)は、前記変更期間中に定められる前記切換え時期に達することにより、基本速度を前記切換えることを特徴とする請求項2記載の織機の経糸制御方法。
【請求項6】
定常運転後の織機(1)の主軸(17)の回転速度が予め複数設定されるとともに、所定の変更期間で主軸(17)の回転速度を、前記設定された一方の回転速度から他方の回転速度に向けて変更する織機(1)に用いられる経糸制御装置(22)であって、
前記経糸制御装置(22)は、主軸(17)の回転に同期して服巻ロール(13)を駆動する巻取制御部(24)と、検出された主軸(17)の回転速度をもとに基本速度を発生し、前記基本速度に対し張力偏差を解消する方向に補正した補正結果に従って前記経糸ビーム(3)を駆動する送出制御部(23)とを有してなる織機(1)の経糸制御装置(22)において、
前記送出制御部(23)は、連続的に検出される主軸(17)の回転速度に基づき、主軸(17)の回転速度に比例する前記基本速度を発生させることを特徴とする織機の経糸制御方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−257605(P2006−257605A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80349(P2005−80349)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】