説明

織機の防振装置

【課題】織機の運転に伴い発生する振動エネルギーの吸収と吸収した振動エネルギーを有効に利用する。
【解決手段】織機3を載置する防振架台5は筐体6と振動吸収装置7により構成される。振動吸収装置7は筐体6内に自由振動可能に配設された錘8と、錘8を弾性的に挟持する第1空気ばね9及び第2空気ばね10とから構成されている。錘8は、織機3の振動により、織機3の振動数と一致する固有振動数で振動し、錘8の反力により織機3の振動を吸収する。錘8と筐体6との間に配設された振動発電機構19は、圧電素子21、22により構成されている。圧電素子21、22は、錘8の振動により変形を反復し、起電力を発生する。従って、織機3の振動及び織機3外部への振動の伝播を抑制して周辺環境への影響を防止し、織機3の振動から得た電力を織機3あるいは織布工場の電気設備に利用することにより、吸収した振動エネルギーを有効に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、織機の振動を吸収する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
織機が運転されると、織製運動に伴う綜絖枠及び筬の高速往復運動により激しい振動が生じる。織機は通常、床面にアンカーボルト等により強固に固定され、織製運動に振動の影響を及ぼさないように対策されている。近年のように、織機の運転がより高速化されてくると、織機の振動は床面を伝播し、織機外部へ影響を及ぼす可能性が生じる。このため、金属製ばね、あるいは空気ばね等を用いた振動吸収装置により織機を支え、織機の振動を床面に伝播させない対策が施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、床面に設置した空気ばねにより織機を支持し、織機の振動を防振する織機の防振装置が開示されている。具体的には、織機が載置される架台を床面に対して少なくとも3個の空気ばねにより支持する。空気ばねは、内部に圧力空気を封入できる空間を形成したベローズと、ベローズの上下の開口端部を閉塞する上板及び下板と、ベローズの上下の開口端部に形成されたフランジを上板及び下板にそれぞれ固定するリング部材とを含んで構成されている。従って、織機の振動は空気ばねにより吸収され、床面への伝播が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−128502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、織機の振動が空気ばねにより吸収され、床面に伝播しないため、織機外部に対する振動の影響を防止することができる。しかし、織機の機能の保全と周辺環境への影響を防止する織機の防振技術は、織機で発生した振動エネルギーを全て廃棄する形態を採っており、織機の振動エネルギーは有効利用されることが無い。
【0006】
本願発明は、織機の運転に伴い発生する振動エネルギーの吸収と吸収した振動エネルギーを有効に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1は、筐体内に振動吸収装置を備えた防振架台に織機を載置した織機の防振装置において、前記振動吸収装置を、少なくとも自由振動可能な錘と前記錘を支持するばねとにより構成し、前記錘の振動により発電する振動発電機構を前記筐体内に配設したことを特徴とする。
【0008】
請求項1によれば、織機の運転により発生する振動を振動吸収装置の錘の振動を利用して効率よく吸収し、織機自体の振動を抑えるとともに振動が床面を通じて外部へ伝播することを抑制することができる。同時に、振動を吸収するための錘の振動を振動発電機構へ伝え、電力を得ることができる。従って、織機の振動及び織機外部への振動の伝播を抑制して周辺環境への影響を防止するとともに、織機の振動を利用して得た電力を織機あるいは織布工場の電気設備に利用することができる。
【0009】
請求項2は、前記振動発電機構は、弾性板の両面に圧電素子を貼着し、前記弾性板の一端部を前記錘に固定し、他端部を前記筐体に固定した構成であることを特徴とする。請求項2によれば、振動発電機構を小型化できるので、防振架台を簡単な構成とすることができる。
【0010】
請求項3は、前記振動発電機構は蓄電池と電気的に接続され、前記蓄電池は織機に配設されたセンサーと電気的に接続されていることを特徴とする。請求項3によれば、振動発電機構により得られた電力を蓄電池に蓄え、織機に備えられた電気設備であるセンサーに供給することができるので、織機の省エネに寄与することができる。
【0011】
請求項4は、織布工場において、全ての織機又は複数に分割した織機群毎に、各織機の前記振動発電機構を1つの蓄電池に電気的に接続したことを特徴とする。請求項4によれば、織布工場内に設備された多くの織機から得られる電力を集電することにより織布工場の電気設備にも利用することができ、織布工場内の省エネにも寄与することができる。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、織機の運転に伴い発生する振動による織機及び織機外部への影響を防止することができるとともに、織機の振動を有効に利用して得た電力を織機あるいは織布工場の電気設備に供給することができ、省エネに大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態における防振架台と織機の位置関係を説明する概略図である。
【図2】防振架台を説明する断面図である。
【図3】1台の織機における電力利用形態を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態における電力利用形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1に示した織機の防振装置は、主な振動源である経糸開口装置1及び筬2等を備えた織機3が、床面4に設置された防振架台5に載置されることにより構成されている。防振架台5は4箇所に配置され、織機3のフレームを4隅で支持している。織機3を安定して支持するためには、防振架台5を少なくとも3箇所に配置する必要があり、また、必要に応じて防振架台5を4箇所以上設置することも可能である。なお、防振架台5は図示しないボルトにより織機3に固定されている。
【0015】
図2において、防振架台5の詳細を説明する。なお、図2は4箇所に設置された防振架台5にうちの1つを示したもので、構造は他の位置に設置したものと同一である。防振架台5は筐体6と筐体6内に収納された振動吸収装置7により構成され、筐体6の外形は図3に示されるように、方形に形成された箱体である。なお、筐体6は方形に限らず、円筒形状であっても構わない。
【0016】
振動吸収装置7は筐体6内のほぼ中央位置に自由振動可能に配設された錘8と、錘8の上面8aと筐体6との間に配設されたばねを構成する第1空気ばね9と、錘8の下面8bと筐体6との間に配設されたばねを構成する第2空気ばね10とから構成されている。第1空気ばね9及び第2空気ばね10は内部に圧力空気が封入される空間を形成したゴム製のベローズにより構成されている。
【0017】
第1空気ばね9は、ベローズの上下の開口端部(図示せず)を閉塞するために、上側端部を上板11及びボルト12により筐体6に固定され、下側端部を下板13及びボルト14により錘8に固定されている。同様に、第2空気ばね10は、ベローズの上下の開口端部(図示せず)を閉塞するために、上側端部を上板15及びボルト16により錘8に固定され、下側端部を下板17及びボルト18により筐体6に固定されている。
【0018】
従って、錘8は第1空気ばね9及び第2空気ばね10によって弾性的に挟持されているため、上下方向に自由に移動可能である。錘8は、錘8の質量と、第1空気ばね9及び第2空気ばね10のばね定数とが適宜選定され、錘8の固有振動数が織機3の運転中に生じる振動数と一致するように設定されている。なお、第1空気ばね9及び第2空気ばね10のばね定数は、封入される圧力空気の量を調整することにより設定される。従って、織機3が振動すると、筐体6を介して錘8に振動が伝わり、錘8は織機3の振動数と同じ固有振動数で振動を始める。錘8の振動は、錘8の反力が筐体6を介して伝達される外力を打ち消すように作用するため、織機3の振動を減衰して吸収し、織機3に設備された各装置や防振架台5を設置した床面4への振動の伝達を防止する。
【0019】
一方、錘8と筐体6との間には、振動発電機構19が配設されている。振動発電機構19は、L字型に形成された弾性板20の一端部側の両面に圧電素子21、22を貼着した構成を有する。弾性板20は圧電素子21、22が水平となるように配置され、L字の一端部が錘8の上面8aにボルト23により固定され、L字の他端部が筐体6にボルト24により固定されている。また、圧電素子21は配線25により筐体6の外部に設けられた整流器26に電気的に接続され、圧電素子22は配線27により整流器26に電気的に接続されている。また、整流器26は配線28により筐体6の外部に設けられた蓄電池29に電気的に接続されている。
【0020】
弾性板20は、織機3の振動により加振される錘8の振動により筐体6側を基点にして上下に揺動される。このため、圧電素子21及び22は上下方向の変形が反復され、起電力を発生する。織機3は高速で運転されるため、発生する振動数が高く、圧電素子21及び22の上下方向の変形回数が大きいため、圧電素子21及び22は大きな起電力を発生する。圧電素子21及び22において発生した起電力は、電流の流れが異なるため、整流器26により整流し、蓄電池29に蓄電される。
【0021】
1台の織機は4箇所に設置された防振架台5によって支持されている。このため、図3に示すように、各防振架台5の振動発電機構19の発電によって得られた電力は、それぞれ整流器26によって整流された後、1つの蓄電池29に集電されるように構成する。蓄電池29に蓄えられた電力は、インバータ30によって交流電力に変換され、緯糸切断検出装置、経糸切断検出装置あるいは緯糸測長貯留装置の緯糸検出装置等に配設された電気設備であるセンサー31の電源として使用される。
【0022】
前記した第1の実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)織機3の運転により発生する振動は、第1空気ばね9及び第2空気ばね10によって支持された錘8を加振する。錘8の固有振動数が織機において発生する振動数と一致するように設定されているため、錘8の反力が織機3の振動を打ち消す方向に作用する。このため、織機3の振動は錘8の振動により効率よく吸収される。従って、織機3の振動が、織機3の各作動部や筐体6及び床面4を介して織機3の外部へ伝播することを確実に防止することができる。
(2)第1空気ばね9及び第2空気ばね10のばね定数は、封入する圧力空気によって設定することができるため、錘8の固有振動数の設定が容易である。
(3)織機3の振動を錘8の振動に変換し、錘8の振動を利用して圧電素子21、22からなる振動発電機構19を作動する構成であるため、従来、無駄に廃棄されていた振動エネルギーを有効に利用することができる。
(4)振動発電機構19を圧電素子21、22によって構成するため、振動発電機構19の小型化が可能であり、織機3の設置スペースに影響を及ぼすことが無い。
【0023】
(第2の実施形態)
図4の第2の実施形態は多数の織機を設置した織布工場における電力利用形態を示したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0024】
図4は、織布工場に設置された多数の織機の内、4台の織機3A、3B、3C、3Dの電力利用形態を示している。各織機3A〜3Dは、それぞれ床面に設置した4個の防振架台5A〜5Dに載置されている。防振架台5A〜5Dは、第1の実施形態に示した防振架台5と同一構造を有し、それぞれ図2に示した振動吸収装置7及び振動発電機構19を備えている。
【0025】
防振架台5A〜5Dに配設された各振動発電機構19は、それぞれ整流器26A〜26Dを介して共通の蓄電池32に電気的に接続されている。蓄電池32はさらにインバータ33を介して織布工場内の電気設備34に電気的に接続されている。なお、電気設備34には、各織機3A、3B、3C、3Dに配設される電気設備を含ませることが可能である。
【0026】
第2の実施形態では、4台の織機3A〜3Dに設備された計16個の振動発電機構19において発電された電力を1つの蓄電池32に集電することにより、より大きな電力として利用することができる。なお、織布工場に多数の織機3が設置されている場合、全ての織機3の振動発電機構19を1つの蓄電池32に蓄電するように構成しても良く、また、複数の織機群に分割し、織機群毎に各織機の振動発電機構19を1つの蓄電池32に蓄電するように構成しても良い。
【0027】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0028】
(1)振動発電機構19は、圧電素子21、22を利用するものに限らず、電磁誘導式発電機や静電式発電機を利用して構成することが可能である。例えば、電磁誘導式発電機では、錘8側に磁石を取り付け、筐体6側にコイルを配置した構成あるいは筐体6側に回転式発電機を設け、錘8の振動による直線運動を回転運動に変換して回転式発電機を回転する構成等により実施することができる。また、静電式発電機では、錘8側に電荷を帯びたエレクトレット電極を取り付け、筐体6側に対向電極を取り付けた構成により実施することができる。
【0029】
(2)振動発電機構19は1つの防振架台5に複数配設するように構成しても良い。例えば、振動発電機構19を構成する2枚1組の圧電素子21、22を錘8に複数取り付けることにより、より大きな電力を得ることができる。
(3)錘8を上下で支持するばねは、第1空気ばね9及び第2空気ばね10に限らず、他の流体を用いた流体ばねや金属製のばねを用いることができる。また、空気ばねや金属製のばねを組み合わせて用いることができる。
(4)蓄電池29、32を介さず、振動発電機構19から直接センサー31や電気設備34に給電するようにしてもよい。
【0030】
(5)錘8を支持するばねは、上下方向に限らず、例えば前後方向又は斜め方向に支持するようにしても良い。
(6)圧電素子は弾性板20の片面にのみ貼り付けられてもよい。
(7)振動発電機構19は、錘8と筐体6との間に配設される構成ではなく、例えば錘8内に空洞を設け、その内部に弾性板20及び圧電素子21、22を配設して発電し、発電された電力を錘8から適宜配線を介して筐体6外に取り出すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
3、3A、3B、3C、3D 織機
5、5A、5B、5C、5D 防振架台
6 筐体
7 振動吸収装置
8 錘
9 第1空気ばね
10 第2空気ばね
19 振動発電機構
20 弾性板
21、22 圧電素子
26、26A、26B、26C、26D 整流器
29、32 蓄電池
30、33 インバータ
31 センサー
34 電気設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に振動吸収装置を備えた防振架台に織機を載置した織機の防振装置において、
前記振動吸収装置を、少なくとも自由振動可能な錘と前記錘を支持するばねとにより構成し、前記錘の振動により発電する振動発電機構を前記筐体内に配設したことを特徴とする織機の防振装置。
【請求項2】
前記振動発電機構は、弾性板の両面に圧電素子を貼着し、前記弾性板の一端部を前記錘に固定し、他端部を前記筐体に固定した構成であることを特徴とする請求項1に記載の織機の防振装置。
【請求項3】
前記振動発電機構は蓄電池と電気的に接続され、前記蓄電池は織機に配設されたセンサーと電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の織機の防振装置。
【請求項4】
織布工場において、全ての織機又は複数に分割した織機群毎に、各織機の前記振動発電機構を1つの蓄電池に電気的に接続したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の織機の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246585(P2012−246585A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119916(P2011−119916)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】