説明

缶の内面検査方法

【課題】内面塗装された缶の内面状態を検査するにあたり、従来の検査方法では検出しにくかった塗装欠陥や内面の変化状況を検出可能として内面検査の精度向上を図る。
【解決手段】缶1の内面に施された塗装によって形成された塗膜が乾燥する前に、缶1の内面をカメラ32によって撮像して缶内面の画像データを得、この画像データに基づいて缶1の内面状態を判断する。塗装後の缶1の内面状態が正常である正常画像データを、濃淡差を表す階調数値に変換して予め保有しておき、この正常数値と、カメラ32によって得られた検査画像データに基づく数値とを比較して差異を見、その差異が所定範囲内である場合には良品、所定範囲外の場合には不良品と判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水、ジュース、酒類等の飲料食品が封入される缶の内面検査方法に係り、特に、缶の内面に塗装を施した後にその内面の塗装の状態を検査する缶の内面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の缶は、底部を有する円筒状の缶胴の開口を缶蓋で閉塞する構成であり、アルミニウム合金やスチール等が一般的な材質である。缶の製造プロセスにおいては、缶胴の内面を保護したり封入物の変化を防止したりする目的で、その内面に塗装を施している。内面塗装の塗料としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の合成樹脂製塗料が用いられ、エナメルはその代表例である。内面塗装後は、内面に塗装が確実に施されたか否か、あるいは塗装にいわゆる異物や塗りムラの不具合が生じていない健全な状態であるかを確認し、塗装状態によっては不良品とみなす内面検査が行われている。
【0003】
従来の缶の内面検査方法は、缶に流した電流測定値から塗装欠陥等の変化状況を検出するエナメルレータ法と呼ばれる方法(特許文献1)や、光電センサを用いる方法(特許文献2)があった。しかしながらこれらの方法では、1個の缶に対する検査時間が長くかかるため、流れ作業で大量の缶を製造する設備においては、例えば100個に1個といった割合で缶を抽出して検査する抜き取り検査の形態が採られている。また、缶の内面をカメラで撮像して得られた画像データから塗装状態を判断する方法も開発されており(特許文献3)、この方法では抜き取り検査ではなく全数検査が可能とされている。
【特許文献1】特開2003−14679号公報
【特許文献2】特開平6−134364号公報
【特許文献3】特開2005−315698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記各文献等に記載される従来の缶の内面検査は、いずれの場合も内面塗装の塗膜を乾燥させた後に行われている。ところが塗装欠陥の種類によっては、従来方法では明確に検出できない、あるいは検出に手間と時間が要するものがあった。さらに、そのような内面塗装の変化状況はたとえ許容範囲内にあり欠陥とは言えないまでも把握しておくべき場合がある。
【0005】
よって本発明は、内面塗装された缶の内面状態を検査するにあたり、従来方法では検出しにくかった塗装欠陥や内面の変化状況も確実かつ迅速に検出することができ、結果として内面検査の精度向上が図られる缶の内面検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塗装が施された後の缶の内面状態を検査する缶の内面検査方法であって、缶の内面に施された塗装によって形成された塗膜が乾燥する前に、缶の内面を撮像手段によって撮像して缶内面の画像データを得、この画像データに基づいて缶の内面状態を判断することを特徴としている。
【0007】
すなわち本発明は、塗装が施された後であって、塗膜が未だ乾燥しておらず、その塗膜が濡れていて湿潤状態が保持されている段階において所定の方法で検査を施すことにより優れた検出精度が得られるとの知見に基づいてなされたものである。検査は、撮像手段で缶内面を撮像して得た画像データに基づいて行う。したがって、乾燥後では判り難かった塗装欠陥や内面の変化状況を高精度で把握することができる。また、撮像手段による内面検査は、製造ラインの途中において検査結果の判断(検査の合否)を含めて1つ1つの缶に対し短時間で行うことを可能とするものであるから、大量生産の設備であっても全数検査が可能である。
【0008】
本発明の撮像手段による内面検査の具体的方法としては、塗装後の缶の内面状態が正常である正常画像データを予め保有しておき、この正常画像データと、撮像した缶内面の検査画像データとを比較して両データの差異を知見し、その差異が所定範囲内である場合には良品、所定範囲外の場合には不良品というような製品の合否判断を行う形態が挙げられる。
【0009】
上記画像データとしては、画像の濃淡を数値化したものが挙げられる。この場合、濃淡差が256階調で表示される数値が好適に用いられ、その場合には、正常な塗装の階調に対し検査した缶の内面の階調が同じであるか、または許容範囲内であるかといった判断で検査がなされる。また、本発明での検査対象の缶は、円筒状で軸線方向一端側が開口した上記缶胴であり、この場合には、撮像手段は光軸を缶の軸心に一致させた状態で、一端側の開口から缶の内面を撮像する形態で用いられる。なお、このように画像の濃淡を判断材料とする場合には、塗料は透明ではなく色を有するものが用いられる。
【0010】
このようにして缶の内面を撮像する場合、缶の内面は塗膜厚に応じた濃淡差が一定であっても、光の反射量すなわち撮像手段の受光量が撮像手段の光軸に対する角度によって異なってくる。つまり、撮像手段で撮像した画像は、缶の内面に濃淡差がなくても光の反射量に応じた濃淡差があるものになる。具体的には、光の反射量は撮像手段の光軸にほぼ直交する底部からのものが最も多く、したがって底部は最も濃さが低い。また、缶の内壁面は底部側から開口側に向かうにしたがって光軸に対する傾斜角度が大きくなっていき、これに比例して光の反射量が少なくなっていき濃さが増していく。撮像手段による検査は、このような缶の内面の場所に応じた光の反射量の違いに応じて適正になされなければならず、そのため本発明は、缶の内面を、底部から前記開口に向かう軸線方向に、底部領域、中間領域、及び上部領域の3つの領域に分け、これら領域ごとに、撮像手段によって得られた画像データを処理することを好ましい形態としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内面塗装された缶の内面状態を検査するにあたり、乾燥後では検出しにくかった塗装欠陥や内面の変化状況も検出することができ、結果として内面検査の精度向上が図られるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
<1>缶の内面検査ライン
図1は缶(缶胴であるが、以下、缶と称する)1の製造ラインの一部であって、内面検査工程に係る工程部分を示している。図1でのライン最上流部には、上下3連型のターレットインデックス機構10が配備されている。この機構10は、上下方向に組み込まれた3つのターレット11,12,13で構成されている。各ターレット11〜13は、水平な回転軸回りに、図中の矢印方向に供回り状態で回転する。
【0013】
各ターレット11〜13の外周部には、それぞれ、各缶1を水平に保持する複数のポケット11a,12a,13aが周方向に等間隔をおいて設けられている。ターレット機構10の上側のターレット11の、回転するに伴って最上部に至るポケット11aには、外面にプリントが施され、かつこれから内面に塗装が施される缶1が、次々と搬入され、保持される。上側ターレット11のポケット11aに保持された缶1は、旋回搬送されて中間ターレット12のポケット12aに受け渡され、中間ターレット12による旋回搬送の途中の図1中矢印Pで示す位置で、内面に塗装が施される。内面塗装はスプレーガンによる塗料噴射によって行われる。内面塗装には、この場合、乾燥が比較的遅いエナメル等の合成樹脂製塗料が用いられる。またこの場合、塗料は透明ではなく色を有するものが用いられる。内面塗装された缶1は、中間ターレット12から下側ターレット13のポケット13aに受け渡される。
【0014】
下側ターレット13に保持された各缶1は、旋回搬送されて、垂直方向に延びる下降搬送路21に受け渡され、下降搬送路21を下降させられる。さらに缶1は下降搬送路21からベルトコンベヤ式の水平搬送路22に移され、水平搬送路22を図1中左から右に搬送される。次いで各缶1は垂直方向に延びる上昇搬送路23に移され、上昇搬送路23を上昇させられる。この上昇搬送路23の途中に、内面検査装置30が配されている。
【0015】
缶1は、内面検査装置30による内面の検査を受けた後、該検査の合格品が引き続き上昇搬送路23を上昇させられ、図示せぬオーブン装置に搬入されて内面の塗装の乾燥処理がなされる。また、内面検査装置30による検査が不合格と判定された缶は、検査後に、排出機構40によって上昇搬送路23より排出される。図1における各缶1は、軸回りに回転はするものの搬送中においては一貫して横向きの姿勢、すなわち自身の軸線が水平となるよう搬送される。
【0016】
<2>内面検査装置
前記内面検査装置30は、図1に一部拡大して示すように、照明31、カメラ(撮像手段)32および制御部33を備えて構成されている。照明31は、缶1の内面を照明するために缶1の開口側に配された例えばリング状のもので、LED等が好適に用いられる。カメラ32は照明31で照明された缶1の内面を撮像するもので、缶1の開口側に照明31を挟んだ位置に配されている。カメラ32はCCD等の素子を有するものなどが用いられ、光軸が缶1の軸心に一致して缶1の開口から缶1の内面を撮像するようにセットされている。
【0017】
上記内面塗装位置Pから内面検査装置30までの缶1の搬送時間は、概ね20秒前後、遅くとも30秒程度とされ、これは、内面に塗装された塗膜が乾燥に至らず、未だ十分に濡れている状態が確保される時間である。缶1の内面は、塗膜が未乾燥の状態で、内面検査装置30により次のように検査される。
【0018】
<3>内面検査方法
上述のように、内面塗装位置Pにて内面塗装され、その塗膜が未乾燥のまま、すなわち濡れた状態で内面塗装装置30に至ると、図2に示すように、照明31で照明された缶1の内面をカメラ32で撮像する。缶1の搬送は、カメラ32による内面の撮像時だけ瞬間的に停止する。カメラ32で撮像された缶1の内面の画像データは制御部33(図1)に供給される。
【0019】
制御部33は供給された画像データに基づき、そのデータを、濃淡差を示す256階調の数値(濃度:X/256で表される)に変換する。制御部33は塗装された缶内面の、塗膜が未乾燥状態での正常な内面状態の数値を保有しており、制御部33はその正常値と検査値とを比較する。
【0020】
そして制御部33は、正常値と検査値とが一致するか、または予め設定された許容範囲内であるか否かを判定し、一致するか、あるいは予め定められた許容範囲内の場合には、内面状態は良好と判断し、缶をそのまま正規の搬送路である上昇搬送路23をさらに上昇させる。一方、検査値が正常値に対し許容範囲を逸脱していた場合(異常値)には内面に欠陥や何らかの変化がある不良品と判断し、排出機構40に作動信号を送る。これにより不良品と判断された缶は、内面検査装置30を通過した直後に排出機構40によって上昇搬送路23から排出される。
【0021】
ところで、缶1の内面が正常に塗装された場合であっても、カメラによって撮像される塗装内面の画像の濃淡は、缶内面の部位からの反射量(カメラ32の受光量)によって異なり、特に、底部と内側面とでは大幅に異なる。そこでこの場合には、図2に示すように、缶1の底部から開口に向かう軸線方向に沿って缶の内面を底部領域1A、中間領域1B、上部領域1Cの3つの領域に分け、これら領域ごとに、カメラ32が撮像した画像データを分けて処理する。図2の上の図に示すように、底部領域1A、中間領域1B、上部領域1Cの濃度は同心状に区画される。
【0022】
図2の下の図には、缶の内面の底部領域1A、中間領域1B、上部領域1Cから反射してカメラ32に入射する光の角度をそれぞれ点線矢印で表している。図2に示す缶1の内面は正常に塗装されて欠陥のないものであり、各領域1A,1B,1Cの濃度は正常値を示している。これら正常値は、制御部33が記憶して保有している。ちなみにこの場合の正常値は、底部領域1A:150/256、中間領域1B:120/256、上部領域1C:100/256とされている{数値が大きいほど薄い(=明るい)}。
【0023】
また、制御部33は、底部領域1A、中間領域1B、上部領域1Cの領域を、それぞれ周方向にも多数分割し、各分割領域の濃度を判断している。これによって各領域1A,1B,1Cにおいては局部的な内面の変化状況も把握され、周方向の濃度差が許容範囲を逸脱していると、やはりその缶は排出されるようになっている。これにより、いわゆる異物や塗りムラと言った、極めて局所的な不具合も高精度に検出することができる。
【0024】
<4>不良品の類型
図3(a)〜図3(c)には、缶1の内面塗装に不備があるものの例をそれぞれ示しており、いずれも検査値に異常値を含む不良品と判断される。図3(a)の缶1は内面が全く塗装されずに材質の生地が内面全面に露出している。この場合の検査値は、底部領域1A:200/256、中間領域1B:180/256、上部領域1C:150/256でいずれも異常値である。図3(b)の缶1は上部領域1Cのも正常に塗装されたが中間領域1Bおよび底部領域1Aが薄く塗装されたもので、この場合の検査値は、底部領域1A:180/256(異常値)、中間領域1B:150/256(異常値)、上部領域1C:100/256(正常値)である。図3(c)の缶1は底部領域1Aおよび中間領域1Bが正常に塗装されたが上部領域1Cが全く塗装されなかったもので、この場合の検査値は、底部領域1A:150/256(正常値)、中間領域1B:120/256(正常値)、上部領域1C:150/256である。
【0025】
以上のようにして、内面塗装後の缶1の内面は、製造ラインの途中において内面検査装置30により1個ずつ全数が検査される。本実施形態によれば、缶の内面検査は、塗装が施された直後であって塗膜が未だ乾燥しておらず、その塗膜が濡れていて湿潤状態が保持されている段階でカメラ32で缶内面を撮像し、その際の画像データに基づき缶内面を検査するものである。
【0026】
したがって、乾燥後では判り難かった塗装欠陥や内面の変化状況を高精度で把握することができる。特に本発明は、上記したように、缶内面の状態を、その塗膜が乾燥する前にカメラ32にて撮像し、画像データに基づいて判断するものである。これにより、塗料乾燥後には検出できない、あるいは検出が難しかった欠陥までをも確実かつ迅速に検出することが実現されている。また、カメラ32による内面検査は、製造ラインの途中において検査の合否を含めて1つ1つの缶に対し短時間で行うことができる。したがって大量生産の設備であっても全数検査が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る内面検査方法が適用された缶製造ラインを概略的に描いた図である。
【図2】一実施形態に係る内面検査方法を示す図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ、缶の内面塗装の欠陥の類型と、各欠陥に対する測定数値の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1…缶
1A…底部領域
1B…中間領域
1C…上部領域
30…内面検査装置
31…照明
32…カメラ(撮像手段)
33…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装が施された後の缶の内面状態を検査する缶の内面検査方法であって、
缶の内面に施された塗装によって形成された塗膜が乾燥する前に、缶の内面を撮像手段によって撮像して缶内面の画像データを得、この画像データに基づいて缶の内面状態を判断することを特徴とする缶の内面検査方法。
【請求項2】
塗装後の缶の内面状態が正常である正常画像データを予め保有しておき、この正常画像データと、前記撮像手段によって得られた検査画像データとを比較して両データの差異を知見し、その差異が所定範囲内である場合には良品、所定範囲外の場合には不良品と判断することを特徴とする請求項1に記載の缶の内面検査方法。
【請求項3】
前記画像データは、画像の濃淡を数値化したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の缶の内面検査方法。
【請求項4】
前記缶は円筒状で軸線方向一端側が開口しており、前記撮像手段は、光軸を缶の軸心に一致させた状態で、一端側の開口から缶の内面を撮像することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の缶の内面検査方法。
【請求項5】
前記缶の内面を、底部から前記開口に向かう軸線方向に、底部領域、中間領域、及び上部領域の3つの領域に分け、これら領域ごとに、前記撮像手段によって得られた画像データを処理することを特徴とする請求項4に記載の缶の内面検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241649(P2008−241649A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86302(P2007−86302)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】