説明

缶用塗料樹脂組成物及びこれを塗布した缶用塗装金属板

【課題】 食品、および飲料用金属缶等に塗装され、加工性、密着性、耐レトルト性、耐内容物性、抽出性、耐オーバーベーク性、耐経時劣化性、耐デント性に優れ、特に缶内面用に適した塗料樹脂組成物、及びこれを塗布した缶内面用塗装金属板を提供する。
【解決手段】 (A)ポリカルボン酸成分としてテレフタル酸40〜100モル%使用され、ポリアルコール成分に1,3−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの内、これらの中から少なくとも1種以上を含有するポリエステル樹脂と、(B)フェノール化合物から合成されるアルコキシメチル化されたレゾール型フェノール樹脂架橋剤、(C)酸触媒が含有する事を特徴とする缶用塗料樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飽和共重合ポリエステル樹脂を有効成分とする塗料樹脂組成物であり、食品、および飲料用金属缶等に塗装され、加工性、オーバーベーク性、耐レトルト性、耐内容物(酸、塩など)性、耐デント性、抽出性、深絞り加工性に優れ、特に缶塗料に適した塗料樹脂組成物、及びこれを塗布した缶用塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
缶塗料のなかで特に缶内面用塗料は内容物の風味やフレイバーを損なわないこと、および多種多様の食物による缶材質の腐食を防止することを目的として使用されるものであり、まず毒性のないこと、加熱殺菌(レトルト)処理に耐えること、次いで成形時の加工性に優れること(加工性、深絞り加工性)、食塩や酸性を示す内容物を加熱殺菌処理したときの耐ブリスター性と耐白化性(耐内容物性)、内容物に含まれる酸や硫黄化合物(硫化黒変)での腐食防止、製缶時の過度の焼付による加工性の劣化の無いこと(耐オーバーベーク性)、レトルト後の耐衝撃性(耐デント性)などが要求される。また特に近年では外因子内分泌撹乱物質(以下、環境ホルモン)を含むビスフェノール型エポキシ樹脂等の物質も使用が避けられつつある。
【0003】
缶内面用塗料樹脂としてはポリ塩化ビニル系樹脂、及びエポキシ−フェノール系樹脂が現在多く使用されているが、これらは次のような重大な問題を指摘されているのが現状である。
【0004】
まず、ポリ塩化ビニル系樹脂は、優れた耐レトルト性、耐内容物性、加工性を有するが樹脂中に残留する塩ビモノマーが発ガン性などの重大な衛生上問題のある物質であることが指摘されている。また、缶をリサイクルや廃棄する際に焼却処理するとポリ塩化ビニル系樹脂から毒性、腐食性の強い塩素ガス、塩化水素ガス、猛毒のダイオキシンが発生するので、焼却装置の腐食や環境汚染につながる問題がある。さらにポリ塩化ビニル系樹脂は缶材質である金属との接着性が不十分でありエポキシ樹脂で処理した上にコーティングする必要があるなどコーティング行程が複雑である。
【0005】
次にエポキシ−フェノール系樹脂では焼き付け温度が高く、焼付け時に発泡等の外観不良を起し易い。また、先に述べたようにエポキシ樹脂中に含まれるビスフェノール−Aが環境ホルモンとして作用する事が発表されたため、これに代わる内面コート剤の開発が望まれている。また、缶外面塗料においても前述した内面塗料と同様に要求される加工性や耐レトルト性に加え、環境ホルモン対策も必要となりつつある。
【0006】
かかる問題点を解決するために、塗装、焼付けが容易で、加工性、金属との密着性、耐レトルト性に優れ、焼却時に有毒、腐食ガスを発生せず、塗膜中にビスフェノール−Aなどの環境ホルモンを含有しないポリエステル系樹脂の製缶用内用コーティング剤への適応が試みられているが、これらに加え耐内容物性、抽出性、耐オーバーベーク性、耐デント性、深絞り加工性に優れた缶用に好適な塗料樹脂、及び塗料樹脂組成物は得られていない。
【0007】
つまり特公昭60−42829号公報、特公昭61−36548号公報のような飽和ポリエステル樹脂単独での缶内面塗料樹脂は沸水または蒸気のみにおいての加熱処理(耐レトルト性)に対して耐ブリスター及び耐白化性に優れるが、いまだ性能不十分で塗膜の表面状態劣化や光沢の低下などを起こしたり、内容物を想定しての食塩水及び酸性雰囲気中でのレトルト処理(耐内容物性)においてはブリスターや白化を生じ、外観不良を起こす。
【0008】
特開平7−113058号公報、特開平7−113059号公報、特開平8−325513号公報においてはポリエステル樹脂にビスフェノール−A型やフェノールノボラック型のエポキシ樹脂を配合、ブレンド、或いはアミノ樹脂を併用することで耐レトルト性、耐内容物性の優れた塗膜の提供を提案しているが、このものは耐オーバーベーク性、耐デント性が不足している。また一部エポキシ樹脂には環境ホルモンとされるビスフェノール−Aが含まれるため使用が困難となっている。
【0009】
また、特開平1−245065号公報、特開平5−112755号公報ではプロピレングリコールを主とした成分の飽和ポリエステル樹脂とアルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂からなる塗料組成物を缶内面用コーティング剤に適用することで加工性と耐レトルト性の優れた塗膜の提供を提案している。しかし、これらは缶内面塗料に必要な耐オーバーベーク性、耐デント性、耐酸性を十分に満足できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭60−42829号公報
【特許文献2】特公昭61−36548号公報
【特許文献3】特開平7−113058号公報
【特許文献4】特開平7−113059号公報
【特許文献5】特開平8−325513号公報
【特許文献6】特開平1−245065号公報
【特許文献7】特開平5−112755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者はこれらの問題点のうち、特に上記した従来技術では検討されていなかった耐オーバーベーク性、耐デント性、耐酸性について鋭意検討した結果、ポリアルコール成分に次に示す特定のものを使用したポリエステル樹脂を、レゾール型フェノール樹脂を含む架橋剤で硬化することでこれらの諸問題を解決できる塗膜を得ることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は(A)ポリアルコール成分に1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの内、これらの中から少なくとも1種以上を含有するポリエステル樹脂と、(B)フェノール化合物原料から合成されるアルコキシメチル化されたレゾール型フェノール樹脂を含む架橋剤、(C)酸触媒からなる缶内面用塗料樹脂組成物、及びこれを塗布した缶内面用塗装金属板である。
【発明の効果】
【0013】
食品や飲料缶内面に塗装される塗料はその性質から毒性がなく、廃棄、リサイクル時にも汚染物質の排出もなく、製缶の加工、レトルト処理の蒸気、熱、内容物の塩、酸に耐えるものでなければならない。また近年はエポキシ−フェノール系塗料など外因子内分泌撹乱物質(環境ホルモン)とされるビスフェノール化合物を含む塗料の代替化も望まれている。本発明の缶内面用塗料樹脂組成物は、上記した毒性化合物の含有、排出がなく、環境ホルモンを含まず、加工性、耐レトルト性、耐内容物性を満足し、更には耐酸加工性や耐オーバーベーク性、耐デント性に優れるため、食品缶の内面塗料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用する(A)ポリエステル樹脂に使用するポリカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、テルペン−マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸などを挙げることができ、これらの中から1種又はそれ以上を使用できる。衛生面で好ましいのはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸である。好ましくはテレフタル酸を40〜100モル%、更に好ましくは60〜100モル%である。
【0015】
本発明に使用される(A)ポリエステル樹脂はポリアルコール成分に1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのうち、これらの中から少なくとも1種以上を含有し、併せて含有される量としては、好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。上記したポリアルコールが含有されることで、レトルト処理、或いは内容物(酸性物質、塩)を充填してのレトルト処理後の塗膜の屈曲性や耐デント性が優れる。
【0016】
その他のポリアルコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルグリコール類、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類などの脂環族ポリアルコールが挙げることができ、これらの中から1種、又はそれ以上を選び使用できる。このうち衛生上好ましいものはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコールなどを挙げることができ、これらの中から1種、又はそれ以上を選び使用できる。
【0017】
本発明に使用される(A)ポリエステル樹脂はポリカルボン酸成分、ポリアルコール成分に3官能以上のポリカルボン酸または/およびポリアルコールを加工性の低下しない範囲で使用して良い。3価以上のポリカルボン酸成分としては、例えばトリメリト酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられ、3官能以上のポリアルコールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコシドなどが挙げられる。衛生上好ましくはトリメリト酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリンである。好ましくは0.1〜3モル%の範囲で使用し、これらの3官能成分が3モル%を越えるとポリエステル樹脂の可撓性が失われ、加工性が低下したりする。
【0018】
本発明に使用される(A)ポリエステル樹脂の特性のうち、数平均分子量は5,000〜100,000が好ましく、より好ましくは8,000〜30,000である。数平均分子量が5,000未満であると塗膜が脆くなり、加工性や耐熱水性に劣ったりし、100,000を越えると塗装作業性が低下する場合がある。また、好ましいガラス転移温度(Tg)は0〜120℃、より好ましくは10〜100℃、更に好ましくは30〜100℃である。ガラス転移温度が0℃未満であると耐レトルト性が劣ることがある。特にフレーバー性を必要とする内容物には50℃以上のTgが望ましい。Tgが120℃を超えると加工性や塗装作業性が低下したりする場合がある。なお、ここで言う数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものであり、ガラス転移温度(Tg)とは示差熱分析(DSC)によって測定したものである。
【0019】
本発明に使用される(A)ポリエステル樹脂は任意の方法で酸価を与えてもよい。酸価を与える目的としては架橋剤との硬化促進、缶用金属材料との密着性改良等が挙げられる。これらを目的とする場合、好ましい酸価の範囲は40〜200eq/106gである。200eq/106gを超えると耐レトルト性が低下したり、酸付加成分が内容物へ溶出する可能性がある。酸価を付与する方法としては重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する解重合方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法などがあるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の解重合方法が好ましい。
【0020】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。好ましくは無水トリメリト酸である。
【0021】
本発明の缶用塗料組成物に使用する(B)架橋剤にはフェノール化合物から合成されるレゾール型フェノール樹脂を含む。フェノール樹脂化合物としては(B−1)3官能性以上のフェノール化合物として、フェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F等が、(B−2)2官能のフェノール化合物として、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノールなどがありる。これらはホルムアルデヒド等によるメチロール化するとフェノール化合物1分子当たりに2個以上のメチロール化が可能なフェノール化合物である。これらを1種、または2種以上混合し使用できる。
【0022】
これらの配合比率は要求される塗膜に応じて任意に配合されるが、好ましくは(B−1)/(B−2)=1/99〜100/0[重量%]である。例えば、塗膜に硬さ、耐酸性を必要とするときは(B−1)>30重量%とすることが好ましく、塗膜に可撓性を必要とし、加工後の残留応力を低くしたい場合は(B−1)<50重量%とすることが好ましい。
【0023】
これらフェノール化合物をフェノール樹脂とする際に用いるホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンが挙げられ、1種または2種以上混合して使用できる。
【0024】
メチロール化されたフェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜4個の一価のアルコールを使用することができ、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、tert−ブタノールなどを挙げることができ、(A)ポリエステル樹脂との相容性、反応硬化性の点からn−ブタノールが好ましい。
【0025】
上記フェノール樹脂架橋剤は(A)ポリエステル樹脂との反応性、相容性の点よりフェノール核1核当たりのアルコキシメチル基を平均して0.3個以上、好ましくは0.5〜3個有する。0.3個未満だとポリエステル樹脂との硬化性が乏しくなり加工性が低下する。
【0026】
これら(B−1)及び(B−2)のフェノール化合物の混合されたフェノール樹脂を得る方法としては、ホルムアルデヒド類によりフェノール樹脂化する前に任意の比率で混合しておく方法や(B−1)及び(B−2)を各々別途にフェノール樹脂化し、これを任意の混合比率で混ぜたものを使用しても良い。
【0027】
本発明の(B)フェノール架橋剤以外に使用できる任意の架橋剤としてはアミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられるが、衛生面よりアミノ樹脂が特に好ましい。これらの架橋剤は塗膜の性能を低下させない程度に配合し使用できる。
【0028】
上記のアミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド、などのアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を炭素原子数1〜6のアルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に含まれる。これらの内、単独或いは併用して使用できる。衛生上、メラミン、ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂が好ましく、更に好ましくは耐レトルト性、抽出性に優れるベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂である。
【0029】
ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。上記、ブチルアルコールとしてはイソブチルアルコール、n−ブチルアルコールが好ましい。
【0030】
メラミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。
【0031】
本発明の缶用塗料組成物に使用する(C)酸触媒としては例えば硫酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸及びこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和している)したもの等が挙げられ、これらの中から1種、又は2種以上を併用することができるが、樹脂との相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びこの中和物が好ましい。
【0032】
本発明の缶用塗料組成物はこれに使用する(A)ポリエステル樹脂、(B)フェノール樹脂架橋剤、(C)酸触媒の比率は下式の範囲内で配合されたものが好ましい。
(A)/(B)/(C)=100/5〜40/0.1〜5 [重量比]
(A)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)フェノール樹脂架橋剤の重量比が40重量部を超えると加工性が劣ることがあり、5重量部未満だと硬化性、耐レトルト性、耐デント性が低下することがある。また、(C)酸触媒量が0.1重量部未満だと硬化性が不十分になり加工性、耐レトルト性が劣ることがあり、5重量部を超えると酸による架橋部分の解裂が促進され加工性や硬化性、耐レトルト性、耐デント性などが低下することがある。
【0033】
本発明の缶用塗料樹脂組成物には用途に合わせた酸化チタン、シリカなどの公知の無機顔料、リン酸およびそのエステル化物、有機スズ化合物等の硬化触媒、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合することができる。特に潤滑剤はDI缶やDR(またはDRD)缶等の成形時に必要とされる塗膜の潤滑性を付与するために添加され、例えばポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びカルナバろう等を挙げることができる。潤滑剤は1種、または2種以上を混合し使用できる。
【0034】
本発明の缶用塗料用樹脂組成物は公知の有機溶剤に溶解された状態で塗料化される。塗料化に使用する有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、芳香族系炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等から溶解性、蒸発速度等を考慮して1種、または2種以上を選択し使用される。
【0035】
本発明の缶塗料樹脂組成物には塗膜の可撓性、密着性付与などの改質を目的としたその他の樹脂を使用できる。その他の樹脂としてはエチレン−重合性不飽和カルボン酸共重合体、及びエチレン−重合性カルボン酸共重合体アイオノマーを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を配合することにより効果的の塗膜の可撓性、密着性を付与できる。
【0036】
本発明の缶用塗料組成物は飲料缶、缶詰用缶、その蓋、キャップ等に用いることができる金属板であればいずれへも、その内外面に塗装し使用でき、例えばブリキ板、ティンフリースティール、アルミ等を挙げることができる。これらの金属板にはあらかじめリン酸処理、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、その他の防錆処理剤などの防食、塗膜の密着性向上を目的とした表面処理を施したものを使用しても良い。
【0037】
本発明の塗料組成物はロールコーター塗装、スプレー塗装などの公知の塗装方法によって塗装し、本発明の塗装金属板を得ることができる。塗装膜厚は特に限定されるものではないが、乾燥膜厚で3〜18μm、更には3〜10μmの範囲であることが好ましい。塗膜の焼付条件は通常、約100〜300℃の範囲で約5秒〜約30分の程度であり、更には約150〜250℃の範囲で、約1〜約15分の程度である事が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において単に部とあるものは重量部を示す。
【0039】
各測定項目は以下の方法に従った。
(1)樹脂組成の測定
核磁気共鳴スペクトル法、およびアルコリシス後のガスクロマトグラフによる分析により、酸成分、アルコール成分のモル比を求めた。
【0040】
(2)数平均分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
【0041】
(3)還元粘度の測定
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25ccに溶かし、30℃で測定した。
【0042】
(4)ガラス転移温度の測定
示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。
【0043】
(5)酸価の測定
ポリエステル0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当りの当量(eq/106g)を求めた。
【0044】
評価項目
(6)テストピースの作成
塗料組成物をアルミニウム金属板(#5052、70mm×150mm×0.3mm)にバーコーターで膜厚が4〜8μmになるように塗装し、硬化焼き付けを行い、これを試験片とした。焼付条件としては250℃(PMT、素材到達最高温度)×1分間で評価を行った。
【0045】
(7)加工性
試験片と同じ厚さの金属板を1枚挟み180度方向に曲げる。この加工部を1%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(≦1.5mA)が良好である。
【0046】
(8)オーバーベーク性
試験片を再度210℃×10分の熱処理を行い、これを(7)と同じ方法で加工性を評価した。
【0047】
(9)耐レトルト性
試験片を立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さまで注ぐ。これを圧力釜の中に設置し、125℃×30分のレトルト処理を行う。処理後の評価は水中部分と蒸気部分とで行い、それぞれ白化の度合いを目視で以下のように判定する。
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターは無し
△:若干白化、または若干のブリスターあり
×:著しい白化、または著しいブリスターあり
【0048】
(10)耐内容物性
試験片を食塩3wt%、及び乳酸3wt%を含む水溶液に浸し、125℃×30分処理した後、塗膜の白化、ブリスターの状態を目視で判定した。
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターは無し
△:若干白化、または若干のブリスターあり
×:著しい白化、または著しいブリスターあり
【0049】
(11)耐酸加工性
試験片をクエン酸1wt%を含む水溶液に浸し、125℃×30分処理した後、これを(7)と同じ方法で加工性を評価、判断した。
【0050】
(12)耐デント性
(11)に示したレトルト処理を行った試験片の塗装面を下にし、デュポン衝撃試験器を用い、その裏面より1/2インチ×1kg×5cm高さの条件で衝撃を加える。次いでその凸部分を1%NaCl水溶液に浸漬したスポンジに接触させ5.5Vの電圧をかけたときの通電値により評価した。通電値が小さい方(≦1.5mA)が良好である。
【0051】
(13)抽出性
(10)に示したレトルト試験後の抽出液を過マンガンカリウムによる滴定により、塗膜からの有機物の抽出量を定量した。数値の少ない方が良好である。
【0052】
(14)深絞り加工性
試験片の塗装面が外側になるよう深絞り加工機を使用して、L/D(直径/深さ)=1/1の成形加工を行った。この試験片の加工側面部の塗膜剥離状態を目視観察し、判定した。
◎:良好
○:塗膜にわずかにスリ傷がある。
△:塗膜に若干の剥離が認められる。
×:塗膜に激しい剥離、損傷が認められる。
【0053】
本発明のポリエステル樹脂の合成
エステル交換法による合成例(a)
ジメチルテレフタル酸890部、トリメリト酸4.4部、プロピレングリコール700部、1,4−シクロヘキサンジメタノール100部、チタンテトラブトキシド0.5部を3Lフラスコに仕込み、4時間かけて220℃まで徐々に昇温しエステル交換を行なった。ついで、30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行なうとともに温度を250℃まで昇温し、さらにこのまま、1mmHg以下で90分間後期重合を行ない本発明のポリエステル樹脂(a)を得た。
【0054】
直接重合法による合成例(a)
テレフタル酸2660部、トリメリト酸15.5部、プロピレングリコール2450部、1,4−シクロヘキサンジメタノール350部、チタンテトラブトキシド1.8部を10Lオートクレーブに仕込み、3.5Kg/cm・Gの窒素加圧下で3時間かけて235℃まで徐々に昇温し、エステル化を行った。次いで、1時間かけて10mmHgまで減圧重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、さらにこのまま1mmHg以下で90分間後期重合を行ない本発明のポリエステル樹脂(a)を得た。それぞれエステル交換法、及び直接重合法で得られた樹脂(a)の性能には差異はなく、組成と特性値は表1に示す。また、得られた樹脂はシクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1溶剤で固形分40%の樹脂ワニスとし、これを用いて本発明の塗料組成物を調製した。
【0055】
合成例(b)
ジメチルテレフタル酸380部、2−メチル−1,3−プロパンジオール255部、ネオペンチルグリコール159部、トリメチロールプロパン3部、チタンブトキサイド0.2部を2Lフラスコに仕込み、4時間かけて220℃まで徐々に昇温しエステル交換を行なった。ついで、200℃以下に冷却後、セバシン酸45部を添加し、再度230℃まで昇温し、エステル化反応を行った。次にこれを、30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行なうとともに温度を250℃まで昇温し、さらに250℃、1mmHg以下で90分間後期重合を行なった。この後、一端樹脂を窒素気流下で220℃まで冷却し、これにトリメリト酸3.4部を添加し本発明のポリエステル樹脂(b)を得た。得られた樹脂の組成と特性値は表1に示す。また、得られた樹脂はシクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1溶剤で固形分40%の樹脂ワニスとし、これを用いて本発明の塗料組成物を調製した。
【0056】
ポリエステル樹脂合成例(c)〜(f)
合成例(a)のエステル交換法、または直接重合法、及び合成例(b)にて、樹脂組成が表1に示されるような本発明のポリエステル樹脂(c)〜(f)、及びそれらの固形分40%の樹脂ワニスを得た。
【0057】
【表1】

*1:1,4−シクロヘキサンジメタノール
【0058】
比較例用合成例(g)〜(k)
合成例(a)または(b)と同様にして、樹脂組成が表2に示されるような比較例ポリエステル樹脂(g)〜(k)を得た。また、得られた樹脂はシクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1溶剤で固形分40%の樹脂ワニスとし、これを用いて塗料組成物を調製した。
【0059】
【表2】

*1:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
【0060】
合成例(l)
レゾール型フェノール樹脂の合成
m−クレゾール100部、37%ホルムアルデヒド水溶液180部、及び水酸化ナトリウム1部を加え、60℃で3時間反応させた後、減圧下50℃で1時間脱水した。ついでn−ブタノール100部とリン酸6部を加え、110〜120℃で2時間反応を行った。反応終了後、得られた溶液を濾過して、固形分約50%のm−クレゾール系のレゾール型フェノール樹脂架橋剤(l)を得た。合成配合を表3に示す。
【0061】
その他のレゾール型フェノール樹脂
その他のレゾール型フェノール樹脂として合成例(l)と同様にして(m)〜(p)を得た。合成配合を表3に示す。また更に、PL−4523(群栄化学(株)製)を使用した。
【0062】
【表3】

種類の欄の略号
m−CS:m−クレゾール
p−CS:p−クレゾール
Xyl:3,5−キシレノール
Ph:フェノール
*:フェノール型 ブチルエーテル化レゾール型フェノール樹脂(群栄化学(株)製)
【0063】
実施例(1)
樹脂ワニス(a)20部、フェノール樹脂(l)3.2部、ドデシルベンゼンスルホン酸0.028部、カルナバろう0.08部を配合した後、シクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1で塗装に適した粘度になるまで希釈し、本発明の塗料組成物(1)を得た。これを前述した方法により塗布、焼付を行い本発明の塗装金属板のテストピースを得た。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表4に示す。
【0064】
実施例(2)、(6)、参考例(3)〜(5)、(7)
実施例(1)と同様にして本発明の塗料樹脂組成物(2)〜(7)を得た後、同じく前述した方法により塗布、焼付を行い本発明の塗装金属板のテストピースを得た。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

*1:フェノール型、ブチルエーテル化レゾール型フェノール樹脂(群栄化学(株)製)
*2:メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(三井サイテック(株)製)
*3:メチルエーテル化メラミン樹脂(三井サイテック(株)製)
*4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ(株)製)ドデシルベンゼンスルホン酸
*5:ドデシルベンゼンスルホン酸*6:ドデシルベンゼンスルホン酸系硬化触媒(キングインダストリイズ社製)
【0066】
比較例(8)〜(15)
実施例(1)と同様にして、比較例の塗料樹脂組成物(8)〜(14)を得た後、同じく前述した方法により塗布、焼付を行い比較例のテストピースを得た。配合組成、並びにテストピースを評価した結果を表5に示す。ちなみに(15)はエポキシ−フェノール樹脂塗料を再現したものである。
【0067】
【表5】

*1:フェノール型、ブチルエーテル化レゾール型フェノール樹脂(群栄化学(株)製
*2:メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(三井サイテック(株)製)
*3:メチルエーテル化メラミン樹脂(三井サイテック(株)製)
*4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ(株)製)
*5:ビスフェノール型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ(株)製)
*6:ドデシルベンゼンスルホン酸*7:ドデシルベンゼンスルホン酸系硬化触媒(キングインダストリイズ社製)
【0068】
表4〜5で明らかなように、本発明の缶塗料用樹脂組成物を塗布した金属板はその加工性、耐レトルト性、耐内容物(酸、塩)性、耐オーバーベーク性、耐酸加工性、抽出性、耐デント性、深絞り加工性に優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカルボン酸成分としてテレフタル酸40〜100モル%使用され、ポリアルコール成分に1,3−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの内、これらの中から少なくとも1種以上を含有するポリエステル樹脂と、(B)フェノール化合物から合成されるアルコキシメチル化されたレゾール型フェノール樹脂架橋剤、(C)酸触媒が含有する事を特徴とする缶用塗料樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の缶用塗料樹脂組成物において、(A)/(B)/(C)が重量比で100/5〜40/0.1〜5であることを特徴とする缶用塗料樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の缶塗料用樹脂組成物を塗布・硬化させたことを特徴とする缶用塗装金属板。


【公開番号】特開2011−12265(P2011−12265A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158567(P2010−158567)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【分割の表示】特願2000−130894(P2000−130894)の分割
【原出願日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】