説明

翼体および回転機械

【課題】翼面上の流れの剥離によって生じる翼後縁からのウェークに起因する流れの損失および流路抵抗を低減可能な翼体および回転機械を提供する。
【解決手段】背面2と腹面3を有する本体部4と、背面2と腹面3とを連続的な曲面35で繋ぐ後縁部36とを備え、後縁部36の曲面35は、背面2または腹面3の何れか一方から流体の流れ方向の最も下流側に位置する後端部37に向かって漸次曲率半径が減少して後端部37で曲率半径が最も小さくなり、その後、後端部37から背面2または腹面3の何れか他方に向かって漸次曲率半径が増加して背面2または腹面3の何れか他方に至り、後端部37は、本体部4のキャンバーライン9の延長線10よりも背面2側または腹面3側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスタービンのタービン部、圧縮機、ファン、蒸気タービン、風車などの回転機械に適用される翼体および回転機械に関するものであり、特にその後縁形状に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービンのタービン部などの回転機械に適用される翼体にあっては、強度を高くするために比較的厚みを持たせて、その後縁を真円による円弧(略半円)形状またはキャンバーラインに対して略垂直にカットした直線形状にする場合がある。このように後縁として真円による円弧形状またはキャンバーラインに対して垂直にカットした直線形状を採用した場合、後縁の厚みが比較的大きくなるので、翼面上の流れが剥離して生じる翼後縁からのウェークが比較的大きくなるため、流れの損失もしくは流路抵抗が増大していた。
そこで、直線または曲率半径の大きい曲線の翼体の腹側縁線の端部と背側縁線の端部との接続点の角度を略垂直に形成した翼体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−76533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の回転機械においては、全体の損失のうち翼体のウェークに起因する流れの損失および流路抵抗の占める割合が未だ高いため、このウェークに起因する損失を低減して更なる効率の向上を図ることが望まれている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、翼体の翼面上の流れの剥離によって生じる後縁からのウェークに起因する流れの損失および流路抵抗を低減可能な翼体および回転機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決して係る目的を達成するために以下の構成を採用する。
本発明に係る翼体(例えば、実施形態における動翼1,21,31)は、背面(例えば、実施形態における背面2)と腹面(例えば、実施形態における腹面3)を有する本体部(例えば、実施形態における本体部4)と、前記背面と前記腹面とを連続的な曲面(例えば、実施形態における曲面5,25,35)で繋ぐ後縁部(例えば、実施形態における6,26,36)とを備え、該後縁部の曲面は、前記背面または前記腹面の何れか一方から流体の流れ方向の最も下流側に位置する後端部(例えば、実施形態における後端部7,27,37)に向かって漸次曲率半径が減少して前記後端部で曲率半径が最も小さくなり、その後、前記後端部から前記背面または前記腹面の何れか他方に向かって漸次曲率半径が増加して前記背面または前記腹面の何れか他方に至り、前記後端部は、前記本体部のキャンバーラインの延長線よりも背面側または腹面側に配置されることを特徴とする。
本発明に係る翼体によれば、本体部の背面または腹面に連続する後縁部の曲面が、曲率半径が徐々に減少して後端部に近づくほど薄型化されるため、強度を確保しつつ、従来の後縁部のように断面形状を単なる略半円形状にしたり、背側縁線の端部と腹側縁線の端部との接続点の角度を略垂直に形成する場合と比較して後端部近傍を肉薄に形成することができるため、翼面からの流れの剥離位置が後方へ移動して後縁部からのウェークが細くなり、流れの損失低減や効率向上を図ることができる。
【0007】
また、後端部が本体部のキャンバーラインの延長線よりも背面側または腹面側に配置される場合であっても、従来の翼体の後縁形状と比較して、翼面上の流れの剥離によるウェークを抑制することができる。
【0008】
また本発明に係る翼体は、上記本発明の翼体において、回転体に等間隔で複数配置された翼体であって、前記後縁部の曲面は、前記後縁部が無い場合の翼間のスロート(例えば、実施形態におけるスロートS)を維持可能な曲率半径で形成されている。
本発明に係る翼体によれば、前記後縁部が、翼間のスロートに影響を与えないため、スロートの減少などにより流量が変化するのを防止することができる。
【0009】
さらに本発明に係る回転機械は、上記本発明の翼体を備えている。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る翼体および回転機械によれば、翼面からの流れの剥離位置が後方へ移動して後縁部からのウェークを細くすることができるため、流れの損失および流路抵抗を低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1参考例におけるガスタービンを側方から見た部分断面図である。
【図2】本発明の第1参考例における動翼のプロファイルを示す図である。
【図3】図2の後縁部周辺の部分拡大図である。
【図4】本発明の第1参考例の他の態様における図3に相当する部分拡大図である。
【図5】本発明の第1参考例における動翼のスロートを示す図である。
【図6】本発明の第2参考例における図3に相当する部分拡大図である。
【図7】本発明の第2参考例の他の態様における図3に相当する部分拡大図である。
【図8】本発明の第3実施形態における図3に相当する部分拡大図である。
【図9】本発明の第3実施形態の他の態様における図3に相当する部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の第1参考例における翼体および回転機械について図面を参照しながら説明する。この第1参考例においては、翼体としてガスタービンのタービン部のロータに等間隔で配置される動翼を一例に説明する(以下、第2実施例および第3実施例も同様)。
【0013】
図1に示すように、ガスタービン100は、圧縮空気を生成する圧縮機102と、圧縮機102から供給される圧縮空気に燃料を供給して燃焼ガスを生成する燃焼器103と、静翼104及び動翼1が交互に配設され、燃焼器103から供給される燃焼ガスにより動翼1が取り付けられたロータ106を回転させるタービン107とを備える。タービン107は、ロータ106の軸線Oと同軸上に配設された筒状のケーシング108の内部を燃焼ガス流路Fとしている。該燃焼ガス流路Fは、その外周側において、ケーシング108の内周側に設けられた筒状の外周側端壁110によってケーシング108と隔てられ、また、内周側において、ロータ106の外周側に設けられた筒状の内周側端壁111によってロータ106と隔てられており、断面ドーナツ状の軸線O方向に沿った流路となっている。そして、該燃焼ガス流路F内に、各段の静翼104及び動翼1がそれぞれ放射状に複数配設されている。
【0014】
図2は、この第1参考例の翼体である動翼1のプロファイルを示している。動翼1は、背面2と腹面3とを有する本体部4を備えている。背面2は曲率半径の比較的小さい曲面で形成され、腹面3は背面よりも曲率半径の大きい曲面で形成される。
【0015】
さらに動翼1は、流体の流れ方向の下流側(図3中、矢印で示す)で本体部4の背面2と腹面3とを連続的な曲面5で繋ぐ後縁部6を備えている。この後縁部6は、図3に示すように、背面2または腹面3の何れか一方から、流体の流れ方向の最も下流側となる後端部7に向かって曲率半径が漸次減少して後端部7で曲率半径が最も小さくなり、その後、後端部7から背面2または腹面3の何れか他方に向かって曲率半径が漸次増加して、背面2または腹面3の何れか他方に至る。この後縁部6と背面2および腹面3とは段差や角部が生じないよう滑らかに接続され、後端部7は、本体部4の翼型中心であるキャンバーライン9の延長線10上に配置される。
【0016】
図3に破線で示す円弧8は、従来の翼体の後縁形状すなわち、真円の円弧(半円)である。本第1参考例の後縁部6は、後端部7に向かうほど曲面5の曲率半径が漸次減少するので、円弧8よりも下流側に細く伸びて形成され、さらに後縁部6の基部側は従来の翼体の後縁と同等の厚みに形成されるため、十分な強度を得つつウェークを細くすることができる。後端部7に向かうほど曲率半径が漸次減少する形状としては、例えば、図4に示すようにキャンバーライン9の延長線10上に長軸が重なる楕円12の孤を用いても良い。
【0017】
後縁部6は、図5に示すように等間隔に配置された複数の動翼1の翼間の流路が最も狭くなる部分であるスロートSの断面積が、後縁部6を改良する前のスロートSの断面積を維持できる様に、翼1の背面2の形状に応じて曲率半径が漸次減少される。
【0018】
したがって、上述した第1参考例の動翼1および回転機械によれば、本体部4の背面2または腹面3に連続する後縁部6の曲面5が、後端部7に近づくほど曲率半径が徐々に減少して薄型化されるため、強度を確保しつつ、従来の翼体の後縁部のように断面形状を単なる略半円形状にしたり背面と腹面との接続点の角度を略垂直に形成する場合と比較して、翼面からの流れの剥離位置が後方へ移動して後縁部6からのウェークを細くすることができ流れの損失低減や効率向上を図ることができる。
【0019】
また、後端部7が、本体部4のキャンバーライン9の延長線10上に配置されるため、腹面側および背面側の曲率半径変化が同等となり、翼形状を容易に滑らかに形成できる。
また、後縁部6が、翼間のスロートSに影響を与えないため、スロートの減少などにより流量が変化するのを防止することができる。
【0020】
なお、上記第1参考例ではガスタービンの動翼を一例に説明したが、これに限られるものではなく、静翼であってもよい。また、ガスタービンの翼体に限られず、圧縮機、ファン、蒸気タービン、風車、航空機の翼体であってもよい。また、背面と腹面との曲率半径が異なる翼型に適用する場合について説明したが、翼型の背面と腹面との形状が対象な対象翼に適用してもよい。
【0021】
次に、本発明の第2参考例における翼体である動翼21について図6、図7を参照しながら説明する。なお、第1参考例の動翼1と同一部分に同一符号を付して説明する。
【0022】
図6に示すように、この第2参考例の動翼21は、背面2および腹面3を有する本体部4と、流体の流れ方向の下流側において背面2および腹面3とを連続的な曲面25で繋ぐ後縁部26とを備えて構成される。後縁部26の曲面25は、流体の流れ方向の最も下流側となる後端部27がキャンバーライン9の延長線10上に配置される。
後縁部26の曲面25は、背面2または腹面3の何れか一方から、後端部27に向かって曲率半径が漸次減少して後端部27で曲率半径が最も小さくなり、その後、後端部27から背面2または腹面3の何れか他方に向かって曲率半径が漸次増加して、背面2または腹面3の何れか他方に至る。
【0023】
ここで、図6に示す後縁部26の曲面25は、背面2から後端部27に至る背面側の曲面25aおよび腹面3から後端部27に至る腹面側の曲面25bで構成されている。これら曲面25aと曲面25bとは、互いに後端部27に近づくほど曲率半径が小さく形成されているがそれぞれ曲率半径の減少率が異なっている。
より具体的には、曲面25aは、背面2から後端部27に向かってのその曲率半径の減少率が比較的一定になるよう形成されているのに対して、曲面25bは、腹面3から後端部27に向かってのその曲率半径の減少率が、後端部27から離れた位置で低くなり、後端部27の近傍で高くなるように形成されている。そして、後端部27の近傍の曲率半径の後端部27に向かっての減少率は、曲面25bよりも曲面25aの方が低くなっている。
【0024】
上述した第2参考例の動翼21のように、後縁部26における後端部27に向かっての背面側の曲面25aの曲率半径の減少率と腹面側の曲面25bの曲率半径の減少率とがそれぞれ異なる場合であっても、従来の翼体の後縁部のように断面形状を単なる略半円形状にしたり、背側縁線の端部と腹側縁線の端部との接続点の角度を略垂直に形成する場合と比較して、連続的な曲面25によって後端部27近傍を肉薄に形成することができるため、翼面からの流れの剥離位置が後方へ移動して後縁部26からのウェークを細くすることができ、流れの損失低減や効率向上を図ることができる。
【0025】
なお、上記第2参考例では、後端部27の近傍における後端部27に向かっての背面側の曲面25aの曲率半径の減少率を腹面側の曲面25bの曲率半径の減少率よりも低く設定した場合について説明したが、スロートS維持の条件等に応じて、例えば図7に示すように、上述した曲面25aと曲面25bとの曲率半径の減少率を入れ替えて、後端部27近傍における後端部27に向かっての腹面3側の曲面25bの曲率半径の減少率を背面側の曲面25aの曲率半径の減少率よりも低く設定するようにしてもよい。
【0026】
次に、本発明の第3実施形態の翼体である動翼31について図8、図9を参照しながら説明する。なお、この第3実施形態は第2参考例の後端部27をキャンバーライン9の延長線10よりも背面側または腹面側にオフセット配置したものである。上述した第1参考例および第2参考例と同一部分に同一符号を付して説明する。
図8に示すように、この第3実施形態の動翼31は、第2参考例の動翼21と同様に、背面2および腹面3を有する本体部4と、流体の流れ方向の下流側において背面2および腹面3とを連続的な曲面35で繋ぐ後縁部36とを備えて構成される。
【0027】
後縁部36の曲面35の流体の流れ方向の最も下流側となる後端部37は、キャンバーライン9の延長線10よりも腹面3側に配置される。
後縁部36の曲面35は、背面2または腹面3の何れか一方から、後端部37に向かって曲率半径が漸次減少して後端部37で曲率半径が最も小さくなり、その後、後端部37から背面2または腹面3の何れか他方に向かって曲率半径が漸次増加して、背面2または腹面3の何れか他方に至る。
【0028】
後縁部36の曲面35は、上述した第2参考例と同様に、背面2から後端部37までの背面側の曲面35aの曲率半径の減少率と腹面3から後端部37までの腹面側の曲面35bとの曲率半径の減少率とが異なっている。より具体的には、曲面35aは、背面2から後端部37に向かってのその曲率半径の減少率が比較的一定になるよう形成されているのに対して、曲面35bは、腹面3から後端部37に向かっての曲率半径の減少率が、後端部37から離れた位置で低くなり、後端部37の近傍で高くなるように形成されている。そして、後端部37の近傍の曲率半径の後端部37に向かっての減少率は、曲面35bよりも曲面35aの方が低くなっている。
【0029】
この第3実施形態の動翼31においても第2参考例と同様に、従来の翼体の後縁部のように断面形状を単なる半円形状にしたり、背側縁線の端部と腹側縁線の端部との接続点の角度を略垂直に形成する場合と比較して、連続的な曲面35によって後端部27近傍を肉薄に形成することができるため、翼面からの流れの剥離位置が後方へ移動して後縁部36からのウェークが細くなり、流れの損失低減や効率向上を図ることができる。
【0030】
なお、上記第3実施形態では、後端部37が延長線10よりも腹面3側にオフセットし、且つ、後端部37の近傍における後端部37に向かっての背面側の曲面35aの曲率半径の減少率を腹面側の曲面35bの曲率半径の減少率よりも低く設定した場合について説明したが、スロートS維持の条件等に応じて、例えば図9に示すように、後端部37を延長線10よりも背面2側にオフセットさせると共に、上述した後端部37に向かっての曲面35aの曲率半径の減少率と曲面35bの曲率半径の減少率とを入れ替えて、後端部37近傍における後端部37に向かっての腹面側の曲面35bの曲率半径の減少率を背面側の曲面35aの曲率半径の減少率よりも低く設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1,21,31 動翼
2 背面
3 腹面
4 本体部
5,25,35 曲面
6,26,36 後縁部
7,27,37 後端部
9 キャンバーライン
10 延長線
100 ガスタービン
S スロート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面と腹面を有する本体部と、
前記背面と前記腹面とを連続的な曲面で繋ぐ後縁部とを備え、
該後縁部の曲面は、前記背面または前記腹面の何れか一方から流体の流れ方向の最も下流側に位置する後端部に向かって漸次曲率半径が減少して前記後端部で曲率半径が最も小さくなり、その後、前記後端部から前記背面または前記腹面の何れか他方に向かって漸次曲率半径が増加して前記背面または前記腹面の何れか他方に至り、
前記後端部は、前記本体部のキャンバーラインの延長線よりも背面側または腹面側に配置されることを特徴とする翼体。
【請求項2】
回転体に等間隔で複数配置された翼体であって、
前記後縁部の曲面は、前記後縁部が無い場合の翼間のスロートを維持可能な曲率半径で形成されることを特徴とする請求項1に記載の翼体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の翼体を備える回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−76413(P2013−76413A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−13723(P2013−13723)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2009−162701(P2009−162701)の分割
【原出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】