説明

耐エタノール性と燃料バリア性に優れるポリアミド樹脂及び容器

【課題】耐エタノール性と燃料バリア性に優れたポリアミド樹脂、並びに該ポリアミド樹脂を用いた多層容器及び容器を提供する。
【解決手段】メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分を重縮合して得られるポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸成分が炭素数4〜12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物であり、ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数がジカルボン酸成分中の全炭素数の5〜25%であり、かつ、ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定から算出される結晶化度が5%以上とするポリアミド樹脂、並びに該ポリアミド樹脂を用いた多層容器及び容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化度を制御することにより耐エタノール性と燃料バリア性に優れたポリアミド樹脂及び該ポリアミド樹脂を用いた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた機械的性能を有することから、自動車や電気電子部品などの射出成形物用の材料として幅広く利用されている。また、食品、飲料、薬品、電子部品等の包装資材としても利用されており、中でもキシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応から得られるポリアミド(MXナイロン)、特にメタキシリレンジアミンとアジピン酸から得られるポリアミド(ポリアミドMXD6)は、酸素、炭酸ガス等のガス状物質に対する低い透過性を示すことから、ガスバリア材料としてフィルム、ボトル等の成形物に利用されている。
【0003】
近年、燃料保存用容器として、軽量化、防錆処理不要化、形状の自由度向上、加工工数の削減や製造の全自動化などの面から、ブロー成形などからなる樹脂製燃料用容器が注目され、金属製燃料用容器からの代替が進んでいる。しかし、用いられるポリオレフィン(特に、高密度ポリエチレン)は、機械的強度、成形加工性、経済性に優れるものの、燃料に対するバリア性能(以下、「燃料バリア性」ということがある。)が乏しいため、燃料透過量に対する規制に対応できなくなっている。
【0004】
そのため、容器の内面をフッ素処理する方法や、燃料バリア性のあるポリアミド樹脂やエチレン−ビニルアルコール共重合体などをバリア層としてポリエチレン層の間に中間層として設けた多層容器などが提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
これらのうち、フッ素処理は、有害ガス取り扱い上の安全性確保や、処理後の回収方法などが問題となり現在はほとんど使用されていない。
多層容器の場合は、バリア層を設けることにより燃料の透過量はある程度減らすことができるものの、燃料に対するバリア性は完全ではない。バリア層の厚みを厚くすると、衝突時の衝撃吸収が低下したり、重量の増加やコスト高になるなどの課題があり、今後ますます強化される規制に十分に応えていくことが困難であった。ガソリンにエタノール等を添加することにより、化石燃料の使用量を減らし二酸化炭素の排出量を削減できるため、エタノールの燃料としても利用検討が進められているが、ナイロン6やエチレン−ビニルアルコール共重合体などは、アルコール類に対するバリア性が劣るために、よりバリア性能を高めた材料が望まれている。
【0005】
また、燃料用容器は、通常ダイレクトブロー方式で成形される。上記した従来のバリア材は耐熱性が劣るため、樹脂温度の上昇や樹脂の滞留によって、ゲルが生じやすくなり、生産条件が制限される。また、成形時に生じるバリのリサイクルや、装置を稼動及び停止する際に熱安定性に優れる樹脂に切り替える必要があるなど、生産性や材料の有効利用に問題を有している。特に、ダイレクトブロー方式では、樹脂の溶融粘度が低いとドローダウンが生じ、得られた製品の厚みが薄すぎたり、偏肉等の不具合が生じる。また、成形温度が高すぎると外層に用いられるポリオレフィンの溶融粘度が低下し、ドローダウンが生じるため好ましくない。
【0006】
燃料バリア性のあるポリアミド樹脂を中間層として有する材料をダイレクトブロー方式で成形して得られる多層の燃料容器では、成形時にできるピンチオフ部にバリア材料が入らず、このピンチオフ部をから燃料が透過し、燃料バリア性が低下するといった問題がある。そこで、昨今、ポリアミド樹脂を内層に用いた多層燃料容器やポリアミド樹脂とポリオレフィンとをブレンドした燃料容器が知られている。これらの容器では、ピンチオフ部でのバリア層の切れがないため、燃料バリア性を高く維持できるが、バリア材料であるポリアミド樹脂と燃料とが接液するため、エタノールにバリア材が侵されて、十分なバリア性能が発揮されないといった問題がある。
【0007】
特許文献6には、燃料バリア性を高めるために、メタキシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸及びナフタレンジカルボン酸を共重合したポリアミド樹脂の記載がある。しかしながら、ナフタレンジカルボン酸の共重合割合が高すぎるため、ポリアミド樹脂が非晶化しすぎてしまい、耐エタノール性が十分に得られないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−32815号公報
【特許文献2】特開平5−345349号公報
【特許文献3】特開平6−340033号公報
【特許文献4】特開平9−29904号公報
【特許文献5】特開2001−97053号公報
【特許文献6】特開2005−314487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、結晶化度を制御することにより耐エタノール性と燃料バリア性に優れたポリアミド樹脂、並びに該ポリアミド樹脂を用いた多層容器及び容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分、及び炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを特定の配合比で混合したジカルボン酸成分を重縮合して得られるポリアミド樹脂を用いて、ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定から算出される結晶化度が5%以上とすることで目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
(1)メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分を重縮合して得られるポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸成分が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物であり、ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数が、ジカルボン酸成分中の全炭素数の5〜25%であり、かつ、ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定から算出される結晶化度が5%以上であるポリアミド樹脂、
(2)上記(1)のポリアミド樹脂を含む材料からなる層を1層以上積層してなる多層容器、及び
(3)上記(1)のポリアミド樹脂とポリオレフィンとの少なくとも2成分からなる樹脂組成物を一部または全部に用いた容器に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶化度を制御することにより耐エタノール性と燃料バリア性に優れたポリアミド樹脂、並びに該ポリアミド樹脂を用いた多層容器及び容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリアミド樹脂は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分を重縮合して得られるポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸成分が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物であり、ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数が、ジカルボン酸成分中の全炭素数の5〜25%であり、かつ、ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定から算出される結晶化度が5%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを用いてポリアミド樹脂を形成する。
本発明では、ジアミン成分としてメタキシリレンジアミンを用いるが、これ以外のジアミン成分を用いることもでき、例えば、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナンメチレンジアミン等を例示することができる。
ジアミン成分中のメタキシリレンジアミンの含有量は70モル%以上である。ジアミン成分中のメタキシリレンジアミンが70モル%以上であると、得られるポリアミド樹脂が優れたガスバリア性を発現する。ジアミン成分中のメタキシリレンジアミンの含有量は、好ましくは75モル%、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上(100モル%を含む)である。
【0014】
本発明においてジカルボン酸成分として、炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物を用いる。
炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示できるが、これらの中でもアジピン酸が好ましい。
【0015】
本発明において使用される芳香族ジカルボン酸としては、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸;イソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。この中では、重合時に、発泡などによる重合釜内での液面上昇が発生しにくく、重合速度が極端に遅すぎないなどの重合のし易さの観点から、イソフタル酸が好ましい。
また、燃料バリア性を高める手段としては、芳香族環をもつジアミンやジカルボン酸を多く共重合することが好ましい。
【0016】
上記以外のポリアミド形成化合物としては、特に限定されないが、カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタムや、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸が挙げられる。
【0017】
メタキシリレンジアミンと炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に、芳香族ジカルボン酸のような他成分を共重合すると、得られるポリアミド樹脂は非晶化する傾向になる。ポリアミド樹脂が非晶化すると燃料バリア性、特にエタノールバリア性が悪化するため、ある程度の結晶性を保持していることが好ましい。
そこで、本発明において、ポリアミド樹脂の結晶化度を保持することができるように、ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数は、ジカルボン酸成分中の全炭素数の5〜25%であり、上記の芳香環に由来する炭素数が、5%以下であると、燃料バリア性に優れたポリアミド樹脂が得られにくくなり、25%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶化度が低くなり、エタノールバリア性に優れたポリアミド樹脂が得られにくくなる。以上の観点から、上記の芳香環に由来する炭素数は、好ましくは5〜15%、より好ましくは5〜10%である。
また、上記と同様の観点から、炭素数4〜12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸のモル比率は、97:3〜90:10の範囲にあることが好ましい。
【0018】
ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数が、上記の範囲内であれば、示差走査熱量測定の結晶化に起因する発熱ピーク(熱量A)と融解に起因する吸熱ピーク(熱量B)を用いて下式から求まる結晶化度は5%以上に制御することができ、耐エタノール性と、燃料バリア性を保持することができる。
結晶化度=((熱量B)―(熱量A))/熱量C×100 (%)
ここで、熱量Cは結晶融解熱であり、その値は151J/gである。また、熱量は絶対値で示される。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂は、示差走査熱量測定における昇温時の結晶化に起因するピーク温度(結晶化ピーク温度)が170℃以下であることが好ましく、165℃以下であることがより好ましい。昇温時の結晶化に起因するピーク温度が低ければ結晶性を持ち合わせると共に結晶化速度が速いことを示すが、170℃以下であれば、ポリアミド樹脂の結晶化度を5%以上に制御することができ、耐エタノール性を発揮できる。一方で、結晶化速度が速すぎると、容器の成形性に影響を及ぼすため、示差走査熱量測定における昇温時の結晶化に起因するピーク温度は、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは130℃以上である。なお、昇温時の結晶化に起因するピーク温度は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
また、本発明では、結晶性を保持する手段として、ポリアミド樹脂に結晶化促進剤を含有させることが好ましい。
無機系の結晶化促進剤としては、ガラス充填剤(ガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等)、ケイ酸カルシウム系充填材(ワラストナイト等)、マイカ、タルク(粉状タルクやロジンをバインダーとした顆粒状タルク等)、カオリン、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、層状珪酸塩等のクレイやナノフィラー、炭素繊維等がある。無機系の結晶化促進剤の最大径は0.01〜5μmであることが好ましい。特に、粒子径が3.0μm以下の粉状タルクが好ましく、粒子径1.5〜3.0μm程度の粉状タルクがより好ましく、粒子径が2.0μm以下の粉状タルクが特に好ましい。また、この粉状タルクにロジンをバインダーとした顆粒状のタルクは、ポリアミド樹脂中での分散状態が良好であるため、特に好ましい。
また、有機系の結晶化促進剤としては、通常熱可塑性樹脂に用いられるものでよく、2分子膜からなるマイクロレベルからナノレベルサイズのカプセル内に核剤成分等を添加した2分子膜からなるカプセル、ベンジリデンソルビトール系やリン系の透明化結晶核剤、ロジンアミド系のゲル化剤等があり、特に、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤が好ましい。これらの結晶化促進剤は、2種以上を併用することもできる。
結晶化促進剤の含有量としては、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.1〜1質量部がより好ましい。結晶化促進剤の含有量が0.01質量部以下では、結晶化促進剤を含有させた効果が少なく、2質量部を超えて含有させてもポリアミド樹脂の結晶化度を高める効果が大きくならない。
ポリアミド樹脂に結晶化促進剤を含有させる方法は、例えば、ポリアミド樹脂に結晶化促進剤をブレンドして、押出機にて押出し、ポリアミド樹脂に結晶化促進剤が均一に分散したポリアミド樹脂組成物(フィルム)を製造することができる。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる、
【0022】
本発明のポリアミド樹脂は、リン原子含有化合物を添加して溶融重縮合(溶融重合)法により製造されることが好ましい。溶融重縮合法としては、例えばジアミン成分とジカルボン酸成分からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法がある。また、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸成分に直接加えて、重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を均一な液状状態に保つために、ジアミン成分をジカルボン酸成分に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0023】
本発明においては溶融重縮合の段階でリン原子含有化合物を添加することが好ましい。この段階で系内にリン原子含有化合物が存在すると、得られるポリアミドは黄色く着色することを防ぐことができ、さらにはアミド化反応速度の低下を防ぐことができる。このため、例えば包装材料として利用可能な重合度まで重縮合を進めても熱履歴が増大するといったことがなく、ポリアミド樹脂のゲル化、着色を防ぐことができる。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂の重縮合系内に添加されるリン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸エチル、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。これらの中でも特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩がアミド化反応を促進する効果が高く、かつ着色防止効果にも優れるため好ましく用いられ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましい。本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂の重縮合系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド樹脂中のリン原子濃度換算で50〜400質量ppmであることが好ましく、より好ましくは60〜350質量ppmであり、さらに好ましくは70〜300質量ppmである。
【0026】
また、本発明のポリアミド樹脂の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用してアルカリ金属化合物を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミドの着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、場合によってはポリアミドのゲル化を招く恐れがあるため、アミド化反応速度を調整するためにもアルカリ金属化合物を共存させることが好ましい。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が好ましい。本発明で用いることのできるアルカリ金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム等が挙げられるが、これらの化合物に限定されることなく用いることができる。
【0027】
溶融重縮合で得られた本発明のポリアミド樹脂は一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用される。また更に重合度を高めるために固相重合しても良い。乾燥乃至固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミド樹脂の固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回分式加熱装置が、系内を密閉化でき、着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0028】
上述の工程を経て得られる本発明のポリアミド樹脂は、着色が少なく、ゲルの少ないものであるが、本発明では上述の工程を経て得られたポリアミドのうち、JIS−K−7105の色差試験におけるb*値が3以下のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2以下のものであり、さらに好ましくは1以下のものである。ポリアミドのb*値が3を超えるものは、後加工によって得られる成形品が黄色味がかったものとなり、その商品価値は低いものとなるため好ましくない。
*値を3以下にするためには、例えば、ポリアミド樹脂の重縮合系内にリン原子含有化合物をポリアミド樹脂中のリン原子濃度換算で50〜400質量ppm添加することで、b*値低下を抑えることが可能である。また、溶融重合工程中のポリアミドへの伝熱が局所的にならないような適切な形状の攪拌翼を用いたりすればよい。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂の重合度の指標としてはいくつかあるが、相対粘度は一般的に使われるものである。本発明のポリアミド樹脂において好ましい相対粘度は1.5〜4.2であり、より好ましくは1.7〜4.0、さらに好ましくは2.0〜3.8である。本発明のポリアミド樹脂の相対粘度が1.5以上であれば、溶融したポリアミド樹脂の流動性が安定し、成形品の外観が良好となる。またポリアミド樹脂の相対粘度が4.2以下であれば、ポリアミド樹脂の溶融粘度が高すぎることがなく、安定して成形加工することができる。
なお、ここで言う相対粘度は、ポリアミド0.2gを96質量%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96質量%硫酸そのものの落下時間(t0)の比であり、次式で示される。
相対粘度=t/t0
【0030】
本発明のポリアミド樹脂は、他のポリアミドとブレンドしてもよく、ブレンドする好ましい他のポリアミドとしては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4,6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6IT、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXD6、ポリアミド1,3−BAC6、ポリアミド1,4−BAC6、ポリアミドMXD10、ポリアミドPXD10、ポリアミドMP6などを使用することが出来る。本発明のポリアミド樹脂と他のポリアミドをブレンドすることで、溶融粘度を調整し、ドローダウン等により、偏肉などの成形不良を避ける目的としてもよい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂は、本発明のポリアミド樹脂を含む材料からなる単層の容器、及び本発明のポリアミド樹脂を含む材料からなる層を1層以上積層してなる多層容器に用いることができる。
本発明は、少なくとも1層の前記ポリアミド樹脂を含む材料からなる層(ガスバリア層)と、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層が積層してなる多層容器を提供することができる。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネートおよびポリアミド等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレン、ブテン等から選ばれる2種類以上のオレフィンの共重合体、およびそれらの混合体が例示できる。中でも、超高分子量高密度ポリエチレンが中空成形時のドローダウン防止、耐衝撃性、耐燃料膨潤性、耐水性に優れるため好ましく用いられる。また、熱可塑性樹脂として、以上に例示したポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネートおよびポリアミドは、互いに混合したり、エラストマー等の他の樹脂との混合や、例えばカーボンブラックや難燃剤等の他の添加剤と混合して使用することも可能である。
【0032】
前記多層容器の形状としては、特に限定されないが、ボトル状、カップ状、トレイ状、タンク状等が好適に挙げられる。これらの成形方法には特に制限はないが、押出成形後さらに熱成形を行う方法、ブロー成形等の溶融成形法、サンドイッチ成形および二色成形と呼ばれる共射出成形等により製造される。具体的には、Tダイ押出機を用いて多層シートを製造し、さらに熱成形を行い、接着や溶着によって容器を得る方法、射出成形機あるいは押出機を用いて円筒状パリソンを成形し、該パリソンをブロー成形方法、金型内に2種以上の溶融樹脂を順次射出する共射出成形等により製造される。各層の厚さは、多層成形体の形状により異なるが、通常、ガスバリア層の厚さは0.001〜1mm、熱可塑性樹脂層の厚さは0.01〜20mmの範囲から選択される。
【0033】
本発明の多層容器において、ポリアミド樹脂層(ガスバリア層)と熱可塑性樹脂層等の多層容器を構成する各層の間に接着性樹脂層(接着層)を設けることができる。該層を構成する接着性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン類からなる熱可塑性樹脂層を接着する場合であれば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、またはこれらの酸無水物などで変性した、ポリエチレンやポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレン、ブテン類のオレフィン類の共重合体等が使用可能である。また、熱可塑性樹脂層がポリエステルあるいはポリカーボネートからなるものであれば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−アクリル酸系共重合体のアルカリまたはアルカリ土類金属架橋体およびエチレン−アクリル酸エステル系共重合体等が例示できるが、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂を用いた多層容器において、多層容器を構成する層として、本発明のポリアミド樹脂と上記熱可塑性樹脂を混合した樹脂組成物を用いてもよく、その場合、相溶化材として上記接着性樹脂や不飽和カルボン酸またはその無水物で変性されたオレフィンおよび/またはスチレン系共重合体を用いることが好ましい。また、ポリアミド樹脂や熱可塑性樹脂の粘度及び添加量を調整し、ポリアミド樹脂が連続層を形成するような分散状態をとることが望ましい。混合する方法は、公知の方法であれば良く、樹脂ペレット同士をドライブレンドし押出機にて分散を行う方法、樹脂粉末混合し押出機にて分散を行う方法、ミキサーを用いて分散を行う方法などが挙げられるが、特に限定するものではない。
【0035】
本発明の多層容器においては、バリや成形時の不良品を再度溶融し、リサイクル層として多層容器に導入することも可能である。この場合、強度面からバリア層より外側層に配置することが好適である。
【0036】
本発明の多層容器の層構成の例としては、外側層から高密度ポリエチレン/接着剤層/本発明のポリアミド樹脂/接着剤層/高密度ポリエチレンなどの3種5層構成や、外層側から高密度ポリエチレン/リサイクル層/接着剤層/本発明のポリアミド樹脂/接着剤層/リサイクル層/高密度ポリエチレンといった4種7層構成や外層側から高密度ポリエチレン/接着剤層/本発明のポリアミド樹脂といったポリアミド樹脂と燃料が接液する3種3層構成などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。なお、本発明の多層容器では、前記の3種3層構成のように燃料が接液する最内層に本発明のポリアミド樹脂を用いることができるため、ダイレクトブローボトルのピンチオフ部で、ポリアミド樹脂層が切れることがなく、良好な燃料バリア性を保持することが可能である。
【0037】
本発明において、本発明のポリアミド樹脂とポリオレフィンとの少なくとも2成分からなる樹脂組成物を容器の一部または全部に用いた容器を提供することができる。
本発明の容器において、ポリオレフィン中の前記ポリアミド樹脂は、島状に分散するよりも、層状に分散している方が好ましく、燃料バリア性も良好である。さらに、前記樹脂組成物からなる成形体は、単層でも、多層でもよく、多層の場合、この樹脂組成物からなる層が、中間層及び最内層どちらの場合でも構わない。前記樹脂組成物が最内層にある場合、樹脂組成物層と燃料とが接液しているため、ダイレクトブローボトルの場合、ピンチオフ部で、樹脂組成物層が切れることがなく、良好な燃料バリア性を保持することが可能である。
本発明の容器は、押出機を用いてポリアミド樹脂を含む材料からなる円筒状パリソンを形成し、該パリソンをチューブ状に押出し、該パリソンを金型で挟み高圧の空気等をブローして該パリソンを膨らませてボトル状、チューブ状、タンク状等の容器の形状に成形することができる。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂は、耐エタノール性と燃料バリア性に優れているため、燃料用容器、例えば、自動車のエンジン回りの燃料チューブ、燃料タンクや、ボート、スノーモービル、芝刈機等の小型のエンジンを積んだ機械の燃料タンク等に好適である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例、および比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお本発明における評価のための測定は以下の方法によった。
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度
ポリアミド樹脂0.2gを精秤し、96質量%硫酸100mlに20〜30℃で攪拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下速度(t)を測定した。また、96質量%硫酸そのものの落下速度(t0)も同様に測定した。tおよびt0から次式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t0
【0040】
(2)ポリアミド樹脂の反応モル比
ポリアミド樹脂をフェノール/エタノール混合溶媒に溶解し、塩酸を用いて中和滴定し、末端カルボキシル基濃度を求めた。また、ポリアミド樹脂をベンジルアルコール溶媒に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定し、末端アミノ基濃度を求めた。次に、求めた末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度から次式よりポリアミド樹脂の反応モル比を算出した。
反応モル比=(1−18.015×末端アミノ基濃度−73.07×A)/(1−18.015×末端カルボキシル基濃度+68.10×A)
Aは、(末端カルボキシル基濃度−末端アミノ基濃度)を表す。
【0041】
(3)ポリアミド樹脂の結晶化度、昇温結晶化ピーク温度及び融点
(株)島津製作所製、DSC-60を用い、昇温速度10℃/分で窒素気流下にDSC測定(示差走査熱量測定)を行い、測定中の結晶化に起因する発熱ピーク(熱量A)と融解に起因する吸熱ピーク(熱量B)から次式を用いて結晶化度を求めた。なお、結晶融解熱(熱量C)は151J/gとした。
結晶化度=((熱量B)―(熱量A))/熱量C×100 (%)
熱量は絶対値を用いた。
融点は、融解に起因する吸熱ピークトップの温度から求めた。
【0042】
(4)燃料透過係数
本発明のポリアミド樹脂を15mm径の2軸押出機に仕込み、設定温度240〜260℃ にて厚み100μmのフィルムを作成した。燃料透過試験用の筒状のステンレス容器に燃料(イソオクタン/トルエン/エタノール=50/50/12vol%)を100ml充填し、その上に2枚のパッキンの間に得られたフィルムをφ55mmの円形に切断したものを挟み、その上から中心部が空洞になっている蓋でしっかりと締め付けた。この燃料透過試験用の容器を逆さまにして、燃料とフィルムが接液する状態で、40℃/65%RHに調整した防爆型恒温恒湿槽に放置し、燃料充填容器の重量を適宜測定し、重量変化から、燃料透過率を算出した。500時間経時試験を実施し、累積の燃料透過率にフィルムの厚みをかけることで、燃料透過係数(ml・mm/(m2・day・atm))を求めた。
【0043】
(5)ポリアミド樹脂フィルムの耐エタノール性
幅10mm、長さ100mm、厚み100μmのポリアミド樹脂フィルムをエタノール中に23℃で一週間浸した後、蒸留水で水洗した。その後、23℃50%RHの環境下にて、1週間調湿した後、引張試験機(東洋精機(株)製 ストログラフ V1−C)にて、引張速度50mm/minにて引張試験を実施した。得られた引張破断強度とエタノールに浸漬しない場合の引張破断強度から、強度保持率(%)を算出し、これを耐エタノール性の指標とした。
【0044】
(実施例1)
攪拌機、分縮器、冷却器、滴下槽、および窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの3L反応缶にアジピン酸(AA)4.70molと2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDCA 三菱ガス化学(株)製)0.30mol秤量して仕込み、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下に160℃で攪拌混合しながら溶融させスラリー状とした。これに、メタキシリレンジアミン(MXDA)4.97molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、内温は連続的に250℃まで上昇させた。メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は、分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を260℃まで昇温し、1時間反応を継続した。得られたポリマーは反応缶下部のノズルからストランドとして取り出し、水冷した後ペレット形状に切断し、アジピン酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸のモル比が94:6となるポリアミド1を得た。得られたポリアミド1は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点、及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2)
実施例1で得られたポリアミド1 100質量部に、粉状タルク(DG−5000 松村産業(株)製)を1質量部ドライブレンドして、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し(ポリアミド2)、結晶化度、融点、結晶化ピーク温度及び燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例3)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.70mol、ビフェニルジカルボン酸(BPDCA 三菱ガス化学(株)試作品)0.25mol、及びメタキシリレンジアミン(MXDA)4.97molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸とビフェニルジカルボン酸のモル比が95:5となるポリアミド3を得た。得られたポリアミド3は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例4)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.70mol、高純度イソフタル酸(PIA エイ・ジイ・インタナショナル・ケミカル(株)製)0.30mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)4.97molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸と高純度イソフタル酸のモル比が94:6となるポリアミド4を得た。得られたポリアミド4は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例5)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.86mol、高純度テレフタル酸(PTA 三菱ガス化学(株)製)0.54mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)5.4molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸と高純度テレフタル酸のモル比が90:10となるポリアミド5を得た。得られたポリアミド5は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.70molとメタキシリレンジアミン(MXDA)4.67molである以外は実施例1と同様の方法でポリアミドMXD6であるポリアミド6を得た。得られたポリアミド6は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表2に示す。
【0050】
(比較例2)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.70mol、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDCA 三菱ガス化学(株)製)1.1mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)5.67molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸のモル比が80:20となるポリアミド7を得た。得られたポリアミド7は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例3)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.32mol、ビフェニルジカルボン酸(BPDCA 三菱ガス化学(株)試作品)1.1mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)5.37molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸とビフェニルジカルボン酸のモル比が80:20となるポリアミド8を得た。得られたポリアミド8は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
(比較例4)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.32mol、高純度イソフタル酸(PIA エイ・ジイ・インタナショナル・ケミカル(株)製)1.1mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)5.37molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸と高純度イソフタル酸のモル比が80:20となるポリアミド9を得た。得られたポリアミド9は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
(比較例5)
仕込み量がアジピン酸(AA)4.32mol、高純度テレフタル酸(PTA 三菱ガス 化学(株)製)1.1mol及び、メタキシリレンジアミン(MXDA)5.37molである以外は実施例1と同様の方法でアジピン酸と高純度テレフタル酸のモル比が80:20となるポリアミド10を得た。得られたポリアミド10は140℃で6時間真空乾燥を行った後、相対粘度、反応モル比、結晶化度、融点及び結晶化ピーク温度を求めた。また、2軸押出機にて膜厚100μmのフィルムを作成し、燃料透過係数を求め、耐エタノール性を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
これの実施例及び比較例の結果から、実施例1〜5では、結晶化度が5%以上の結晶化度の高いポリアミド樹脂組成物が得られ、このポリアミド樹脂組成物は、燃料透過係数が0.4〜0.7ml・mm/(m2・day・atm)、耐エタノール性が90%以上と耐エタノール性と燃料バリア性に優れていることが確認できた。
【0057】
これに対し、比較例1では、結晶化度が13%の結晶化度の高いポリアミド樹脂が得られたが、芳香族ジカルボン酸を含んでいないので、燃料透過係数が0.9g・mm/(m2・day)、耐エタノール性が82%とやや劣っていた。また、比較例2〜5では、ジカルボン酸成分中の芳香族環に由来する炭素数が多いので、結晶化度が0.5〜1%の結晶化度の低いポリアミド樹脂しか得られず、燃料透過係数が1.2〜1.7ml・mm/(m2・day・atm)、耐エタノール性が80%以下と劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリアミド樹脂は、耐エタノール性と燃料バリア性に優れているため、自動車のエンジン回りの燃料チューブ、燃料タンクや、ボート、スノーモービル、芝刈機等の小型のエンジンを積んだ機械の燃料タンク等への利用が可能であり、その効果は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、ジカルボン酸成分を重縮合して得られるポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸成分が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物であり、ジカルボン酸成分中の芳香環に由来する炭素数が、ジカルボン酸成分中の全炭素数の5〜25%であり、かつ、ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定から算出される結晶化度が5%以上であることを特徴とするポリアミド樹脂。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂の示差走査熱量測定における昇温時の結晶化に由来するピーク温度が170℃以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
結晶化促進剤を、前記ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜2質量部含有する請求項1または2に記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂を含む材料からなる層を1層以上積層してなる多層容器。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂を含む材料が、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂とポリオレフィンとの少なくとも2成分からなる樹脂組成物である請求項4に記載の多層容器。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂を含む材料からなる層が、容器の最内層に配される請求項4又は5に記載の多層容器。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂とポリオレフィンとの少なくとも2成分からなる樹脂組成物を一部または全部に用いた容器。

【公開番号】特開2011−32411(P2011−32411A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181867(P2009−181867)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】