説明

耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉

【課題】廃棄物を燃焼溶融しスラグ化する廃棄物燃焼溶融炉に関して、溶融スラグに対する耐食性を向上した耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉を提供する。
【解決手段】廃棄物燃焼溶融炉の溶融スラグが接する耐火物を、95mass%〜99mass%の、酸化アルミニウム、又は、亜鉛スピネルから構成される耐火性主材と、5mass%〜1mass%の結合材とを含む耐火材であって、外掛けで0.5mass%〜25mass%の添加材として、アルミン酸カリウムを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭やオフィスなどから出される都市ごみ等の一般廃棄物、廃プラスチック、カーシュレダー・ダスト、電子機器、化粧品等の産業廃棄物等、即ち、可燃物を含む廃棄物を焼却処理して生じる灰分を加熱して溶融スラグとする廃棄物燃焼溶融炉の内面を構成する耐火材、及び、その耐火材を炉内壁に使用する廃棄物燃焼溶融炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ等の一般廃棄物や廃プラスチック等の可燃物を含む廃棄物の処理装置の一つとして、廃棄物を熱分解反応器に入れて低酸素雰囲気下で加熱して熱分解し、熱分解ガス(乾留ガス)と主として不揮発性成分からなる熱分解残留物とを生成し、この熱分解ガスと熱分解残留物とを排出装置において分離し、更に、熱分解残留物を不活性雰囲気下の冷却装置で冷却した後、分離装置に供給して熱分解カーボンを主体とする燃焼性成分と、例えば、金属や陶器、砂利などの不燃性成分とに分離し、燃焼性成分を粉砕して粉体とし、この粉砕された燃焼性成分と前記した熱分解ガスとを廃棄物燃焼溶融炉に導いて燃焼させ、生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグとなし、この溶融スラグは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部から外部に排出して冷却固化させるようにした廃棄物処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、耐火材は、鉄鋼、非鉄、セメント、ガラス、窯業など高温処理を必要とする工業の窯炉やボイラ、廃棄物焼却炉等に使用される。この耐火材の採用に際して、溶融スラグと接触する環境の下で使用する場合においては、酸素分圧、アルカリ分圧などの気相側の環境と共に、溶融スラグが関与する苛酷な高温腐蝕についても考慮する必要がある。
【0004】
一般に、酸素分圧が高い使用条件下においては、酸化物系耐火物が使用されるが、空気で燃焼溶融する廃棄物処理での酸化物系耐火物の場合には、酸化アルミウム(Al2 3 :アルミナ)を主体とする中性耐火物が選ばれている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、上記の廃棄物処理装置の灰分を溶融させた溶融スラグは、塩基度が低く、また、塩素やイオウなどの酸化性ガスが共存するため、アルミナやマグネシア等の耐火材成分の溶解度が高い。また、これに加えて、これらの溶融成分がスラグに溶解してスラグ中の濃度が増加しても、スラグの粘性は特段増加しないため、これらの耐火材成分のスラグ中への溶解が継続的に進行するという問題がある。
【特許文献1】特公平06−56253号公報
【特許文献2】特開2004−217517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、廃棄物等を燃焼して溶融してスラグ化する廃棄物燃焼溶融炉において、炉内壁を構成する耐火材が溶融スラグ中に溶解する際に、スラグの粘性が高くなるように調製することにより、耐火材の溶解の進行を抑制できる耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の耐火材は、95mass%〜99mass%(95重量%以上99重量%以下)の、酸化アルミニウム、又は、亜鉛スピネルから構成される耐火性主材と、5mass%〜1mass%(5重量%以上1重量%以下)の結合材とを含む耐火材であって、外掛けで0.5mass%〜25mass%(0.5重量%以上25重量%以下)の添加材として、アルミン酸カリウムを含んで構成される。
【0008】
この亜鉛スピネルとは、ZnAl2 4 結晶を含み、ZnO成分を39mass%〜49mass%(39重量%以上49重量%以下)含み、かつ、ZnO成分とAl2 3 成分の合計が95mass%以上あるものである。
【0009】
つまり、廃棄物を燃焼して溶融してスラグ化する炉等の炉内壁を構成する耐火材において、耐火性主材を95mass%〜99mass%とし、結合材を5mass%〜1mass%とする。
【0010】
このように調製された耐火材にあっては、カリウムイオン−酸素間引力が小さく、溶融スラグ中への溶解に際し系の塩基度を上昇させるため、アルミナが網目形成酸化物として挙動する割合が高くなり、アルミニウムイオンと酸素イオンが無機高分子鎖を形成する。そのため、溶融スラグの粘性が高まり、物質移動速度が低下する。従って、耐火材の耐食性が向上することになる。
【0011】
そして、アルミン酸カリウムを添加材として使用するが、ここで、アルミン酸カリウムの含有量が、耐火性主材と結合材の合計量に対する外掛けで0.5mass%より少ないと、溶融スラグの粘性向上の効果が発現しない。また、その含有量が外掛けで25mass%よりも多いと、炭酸ガスや水分の吸収による不安定性が現れ、実用性が消失する。
【0012】
廃棄物燃焼溶融炉を、上記の耐火材を溶融物と接する炉壁の炉壁材として用いて形成すると、溶融スラグに対する耐食性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉によれば、廃棄物を燃焼溶融しスラグ化する廃棄物燃焼炉において、炉内壁を構成する耐火材の溶融スラグに対する耐食性を向上することができる。 また、耐火性主材にアルミン酸カリウムを加えることにより、溶融スラグ中のカリウムイオン−酸素間引力が小さく、溶融スラグ中へのアルミン酸カリウムの溶解に際して系の塩基度を上昇させることができるため、アルミナが網目形成酸化物として挙動する割合が高くなり、溶融スラグの粘性を増加でき、耐火材の耐食性を上げる効果が生じることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉の実施の形態について説明する。
先ず、最初に、本発明に係る耐火材の実施の形態について説明する。この耐火材は、95mass%〜99mass%の、酸化アルミニウム、又は、亜鉛スピネルから構成される耐火性主材と、5mass%〜1mass%の結合材とを含む耐火材であって、外掛けで0.5mass%〜25mass%の添加材として、イオン半径の大なる元素カリウムを含むアルミン酸カリウム(KAlO2 )を含むものである。
【0015】
そして、この酸化アルミニウムは、電融品、焼結品等を必要に応じて粗粒、中粒、微粒等に調整するが、仮焼アルミナを用いてもよい。この酸化アルミニウムは耐火材主材として構成の中心をなし、結晶相としてαアルミナ(コランダム)を使用することで、機械的強度が大、熱伝導率が比較的大という特徴を示す。
【0016】
一方、亜鉛スピネルは、ZnAl2 4 結晶を含み、ZnO成分を39mass%以上49mass%以下含み、かつ、ZnO成分とAl2 3 成分の合計が95mass%以上あるものであり、酸化亜鉛粉末と酸化アルミニウム粉末との固相反応などにより製造できる。この亜鉛スピネルも酸化アルミニウムと同様に、耐火材主材として構成の中心をなす。この材料は結晶構造が立方晶であり、耐熱スポーリング性が高いという特徴を示す。
【0017】
この上記の酸化アルミニウム、又は、亜鉛スピネルから構成される耐火性主材に、乳酸アルミニウム、アルミナセメント、リン酸塩等の耐火材の結合、強度を増すための結合材を加えて混合するが、耐火性主材を95mass%〜99mass%とし、結合材を残りの%、即ち、5mass%〜1mass%とする。
【0018】
そして、本発明では、添加材として、イオン半径の大なる元素カリウムを含むアルミン酸カリウム(KAlO2 )を用いる。この添加材の量は、外掛けで0.5mass%以上25mass%以下とする。
【0019】
ここで、アルミン酸カリウムの含有量が外掛けで0.5mass%より少ないと、溶融スラグの粘性向上の効果が発現せず、また、25mass%よりも多いと、炭酸ガスや水分の吸収による不安定性が現れ、実用性が消失する。
【0020】
なお、この他に、不定形耐火物の作業性や施工時の周囲温度による影響を減少するために、必要に応じて分散剤や硬化調整剤を加えてもよい。これらは、耐火性主材と結合材との混合物に予め混合しておくか、混練時に加える水に溶解又は懸濁させておくことで添加できる。
【0021】
そして、この分散剤は、耐火性主材と結合材の合計量に対して外掛けで0.02mass%〜0.2mass%程度にするのが好ましく、また、硬化調整剤も、耐火性主材と結合材の合計量に対して外掛けで0.05mass%〜0.2mass%程度にするのが好ましい。
【0022】
上記の耐火性主材、結合材、添加材等を所定の割合で混合した後、成形型に入れて所定の形状に成形する。この成形体を養生・乾燥させる。この後、成形体を加熱炉(焼成炉)に入れて、1400℃〜1700℃で加熱して焼結し、この焼結物を冷却して定形耐火物とする。
【0023】
また、不定形耐火物として使用する場合には、上記の耐火性主材、結合材、添加材等を所定の割合で混合した粉末を用いる。この不定形耐火物を用いて、炉内壁を形成する場合には、不定形耐火物の粉末に水分を加えて混練りしたものを炉壁に設けた型枠内に流し込んで炉内壁を形成し、養生・乾燥させる。この後、この炉内壁を燃焼バーナー等で1200℃〜1400℃で加熱し、炉内壁を焼成する。
【0024】
そして、上記の製造方法によって製造された耐火材は、耐火性主材にイオン半径の大なる元素カリウムを含むアルミン酸カリウム(KAlO2 )を外掛けで0.5mass%〜25mass%加えているので、溶融スラグ中のカリウムイオン−酸素間引力が小さく、溶融スラグ中へのアルミン酸カリウムの溶解に際して系の塩基度が上昇し、アルミナが網目形成酸化物として挙動する割合が高くなるため、溶融スラグの粘性が増加する。これにより、耐火材の耐食性が上がる。
【0025】
次に、この耐火材を用いた廃棄物燃焼溶融炉について説明する。この図1に示す廃棄物燃焼溶融炉は、次のような廃棄物燃焼溶融システムで用いられる溶融炉である。
【0026】
この廃棄物燃焼溶融システムにおいては、都市ゴミ等の一般廃棄物や廃プラスチック等の可燃物を含む廃棄物を熱分解反応器に入れて低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する。この熱分解により、熱分解ガス(乾留ガス)と主として不揮発性成分からなる熱分解残留物とを生成する。この熱分解ガスと熱分解残留物とを排出装置において分離する。
【0027】
この熱分解残留物を不活性雰囲気下の冷却装置で冷却した後、分離装置に供給して熱分解カーボンを主体とする燃焼性成分と、例えば、金属や陶器、砂利などの不燃性成分とに分離する。この燃焼性成分を粉砕して粉体とし、この粉砕された燃焼性成分と前記した熱分解ガスとを廃棄物燃焼溶融炉に導いて燃焼させる。この燃焼で生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグとする。この溶融スラグは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部から外部に排出して冷却固化させる。
【0028】
この図1に示す廃棄物燃焼溶融炉1では、粉砕された燃焼性成分Fが投入口21から、熱分解ガスGがガス投入口22から廃棄物燃焼溶融炉1内に導かれる。また、燃焼用の空気Aが空気供給口23から導入される。そして、燃焼性成分Fと熱分解ガスGが空気Aと混合して燃焼し、この燃焼で生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグCとする。この溶融スラグCは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部24から外部に排出され冷却固化する。
【0029】
この図1に示すような廃棄物燃焼溶融炉において、溶融スラグが接する炉内壁部分(クロスハッチング部)を、上記の耐火材を用いて形成する。この場合に、耐火材を予め決まった形状に焼結した定形耐火物を積み上げて炉内壁を形成してもよいし、この耐火材を、粉末状のキャスタブル耐火物や練り土状のプラスチック耐火物等の不定形耐火物として用いて、流し込み施工等により炉内壁を形成した後、加熱して炉内壁を焼成してもよい。
【0030】
この廃棄物燃焼溶融炉1の溶融スラグに接する炉内壁の部分を上記の構成の耐火材で形成することにより、廃棄物燃焼溶融炉1の炉内壁の溶融スラグに対する耐食性を向上することができる。
【実施例】
【0031】
次に、上記の構成の耐火材の性能を評価するために行った腐食試験について説明する。 母材を亜鉛スピネル、及び、亜鉛スピネル+アルミナとし、添加材として、アルミン酸カリウムを、また、結合材として乳酸アルミニウムを用い、表1に示す配合で、混合、成形、焼結し、実施例1〜4の丸棒状試料(φ10mm×75mm)を作製した。
【0032】
これを、表3に示す組成の実機採取スラグに浸漬し腐食させる試験を行った。所定の温度・時間で浸漬した後、丸棒状試料を切断し、実験前後の外径の変化から腐食量を求めた。その結果、表1に示すような減肉量が得られた。
【0033】
一方、表2に示す配合で単独酸化物アルミナを同様にして結合材と共に比較例の丸棒状試料(φ10mm×75mm)を作製し、表3に示す組成の同じ実機採取スラグに浸漬し腐食させる試験を行った。その結果、表2に示すような減肉量が得られた。
【0034】
この表1、表2の比較から、複合酸化物・亜鉛スピネルにアルミン酸カリウムを添加した試料において、単独酸化物アルミナより優れた耐食性が認められた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る実施の形態の廃棄物燃焼溶融炉を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 廃棄物燃焼溶融炉
21 投入口
22 ガス投入口
23 空気供給口
24 排出部
A 燃焼用の空気
C 溶融スラグ
F 燃焼性成分
G 熱分解ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
95mass%〜99mass%の、酸化アルミニウム、又は、亜鉛スピネルから構成される耐火性主材と、5mass%〜1mass%の結合材とを含む耐火材であって、外掛けで0.5mass%〜25mass%の添加材として、アルミン酸カリウムを含む耐火材。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火材を溶融物と接する炉壁の炉壁材として用いる廃棄物燃焼溶融炉。

【図1】
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【公開番号】特開2007−131495(P2007−131495A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327059(P2005−327059)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】