説明

耐震構造およびその構築方法

【課題】ひび割れ等の発生を防止することができ、しかも施工の簡略化を図ることができる。
【解決手段】耐震構造1に設けられる耐震壁構造体10は、鉄筋コンクリート造の柱3と、柱3の周囲に配置されるとともにPC鋼棒13によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリート造の複数の支柱11(11A、11B、11C)と、支柱11、11どうしを水平方向に一体的に接合する鉄筋コンクリート造の壁部材12とを備えている。 上下階に配置される支柱11、11どうしが同軸に接合され、上下階に連続して配置される連層耐震壁をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の建物に施工される耐震構造およびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の建物において、柱と梁とによって囲まれる架構に構築されるRC耐震壁は、高い強度が得られることから地震等の外力に対して有効な耐震要素となっていることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−18767号公報
【特許文献2】特開2002−129650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の耐震壁を備えた建物では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1、2に示す耐震壁の施工では、鉄筋量も多く、配筋工事に手間がかかるうえ、大きな型枠が必要であるとともに妻面等の収まり部分の固定も困難になることから、型枠工事にも手間がかかっていた。さらに、耐震壁に施工されるコンクリート量も多く、そのためコールドジョイントやジャンカが生じ易いという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ひび割れ等の発生を防止することができ、しかも施工の簡略化を図ることができる耐震構造およびその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐震構造では、鉄筋コンクリート造の建物に施工される耐震構造であって、PC鋼材によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリート造の複数の支柱と、支柱どうしを水平方向に一体的に接合する鉄筋コンクリート造の壁部材とを有する耐震壁構造体が設けられ、支柱は、耐震壁構造体の平面視端部に配置されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る耐震構造の構築方法では、鉄筋コンクリート造の建物に耐震壁構造体を備えるための耐震構造の構築方法であって、PC鋼材によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリート造の複数の支柱を耐震壁構造体の平面視端部に配置する工程と、支柱どうしを壁部材によって水平方向に接合する工程とを有することを特徴としている。
【0008】
本発明では、支柱にはPC鋼材によって緊張力が付与されて上下方向の圧縮力(プレストレス)が導入されているので、軸力方向の引張側において剛性を確保することができる。さらに、支柱の圧縮側に作用する外部からの軸力増加に対してプレストレスが減少しながらも抵抗することになり、コンクリート応力が急激に増大することを防止することができる。そのため、比較的高剛性な曲げ抵抗を安定的に発揮することができ、変動軸力引張側に発生し易いひび割れもプレストレスによるコンクリート圧縮応力の作用によって生じにくくなる。また、プレストレスコンクリートが導入された支柱に高い復元性能があり、この復元性能により地震後などの変形の残留を抑制することができる。そして、支柱に一体的に連結される壁部材においても同様の復元性能を有することから、支柱や壁部材に生じたひび割れも地震後には閉塞し、残留ひび割れが生じにくい耐震壁となる。
したがって、上述したような耐震壁構造体の平面視端部に曲げに強い支柱を配置することで、耐震壁全体が曲げ抵抗に強い剛強な構造となり、壁部材においてもコンクリートのひび割れの発生を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る耐震構造では、上下階に配置される支柱どうしが同軸に接合され、上下階に連続して配置される連層耐震壁をなしていることが好ましい。
また、本発明に係る耐震構造の構築方法は、支柱を配置する工程において、支柱を先行して構築した下層階の支柱に対して同軸に接合することが好ましい。
本発明では、上下階の支柱どうしが同軸に接合され、耐震壁構造体が上下方向に連続してなる連層耐震壁が形成されることから、建物全体の剛性を高めることができる。
【0010】
また、本発明に係る耐震構造では、上下階方向に接合される支柱は、それぞれのPC鋼材どうしが圧着接合により接続されていることがより好ましい。
本発明では、上下階に同軸に配置される支柱どうしが圧着により接続され、そのPC鋼材が建物の上下方向に連続した構造となるので、より曲げに強い耐震構造を実現することができる。
【0011】
また、本発明に係る耐震構造では、支柱は、プレキャストコンクリートにより形成されていてもよい。
本発明では、各階層を一単位とする部材又は複数層を一単位とする部材からなるプレキャストコンクリート(PCa)からなる支柱を予め工場などで製造しておき、現場においてそれらPCa製の支柱を適宜な接合手段により連結するだけの作業により施工することができる。そのため、現場での型枠組立てやコンクリート打設作業をなくすことが可能となり、施工の簡略化を図ることができる。
【0012】
また、本発明に係る耐震構造では、壁部材は、建物の柱と一体的に設けられていることが好ましい。
また、本発明に係る耐震構造の構築方法では、壁部材を設ける工程において、壁部材を建物の柱に一体的に連結することが好ましい。
本発明では、支柱に接合された壁部材を建物の重量による軸力を負担する柱に一体的に設けることで、耐震壁全体の曲げによって生じる軸力変動を抑えることができる。
【0013】
また、本発明に係る耐震構造では、柱は、プレキャストコンクリートにより形成されていることがより好ましい。
本発明では、各階層を一単位とする部材又は複数層を一単位とする部材からなるプレキャストコンクリート(PCa)からなる柱を予め工場などで製作しておき、現場においてそれらPCa製の柱を適宜な接合手段により連結するだけの作業により施工することができる。そのため、現場での型枠組立てやコンクリート打設作業をなくすことが可能となり、施工の簡略化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐震構造およびその構築方法によれば、壁部材がPC鋼材によりプレストレスが導入された支柱によって曲げ抵抗に強い剛強な耐震壁構造体となることから、耐震壁構造体の地震によるひび割れ等の発生を抑制することができる。そして、耐震壁構造体においては、プレストレスが導入された支柱を設けることで、建物内の立面に占める壁部材の設置領域を減少することが可能となることから、施工の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態による耐震壁構造体が構築される建物の所定の階層における平面図である。
【図2】耐震壁構造体の構成を示す一部分解斜視図である。
【図3】耐震壁構造体の水平断面図であって、図2に示すA−A線断面図である。
【図4】耐震壁構造体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による耐震構造およびその構築方法について、図1乃至図4に基づいて説明する。
【0017】
図1の符号1は、鉄筋コンクリート造(RC造)の柱3と梁(図示省略)とスラブ4とからなる建物2に施工された本実施の形態による耐震構造を示している。耐震構造1は、所定階層において、平面視で建物2の外周部に沿って所定間隔をもって配置される複数の耐震壁構造体10、10、…を備えた構成となっている。
【0018】
なお、本実施の形態の建物2では、平面視側辺部に位置する平面視T字型をなす図1の符号10Aの耐震壁構造体と、角部に位置する平面視L字型をなす符号10Bの耐震壁構造体との二形態が設けられているが、符号10Aのものを耐震壁構造体10として以下説明する。符号10Bの耐震壁構造体については、符号10Aのものと同様の作用効果をなすことから、詳細な説明は省略する。
【0019】
図2乃至図4に示すように、耐震構造1に設けられる耐震壁構造体10は、上述した鉄筋コンクリート造の柱3と、その柱3の周囲に配置されるとともにPC鋼棒13(PC鋼材)によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリートからなる複数の支柱11(11A、11B、11C)と、支柱11、11どうしを水平方向に一体的に接合する鉄筋コンクリート造の壁部材12とを備えて概略構成されている。
【0020】
支柱11は、柱3の両側の左右対称位置で且つ建物2の外周に沿う位置に配置される一対の第1支柱11A、第2支柱11Bと、柱3の建物2内側で前記第1支柱11A、11Bを結ぶ直線に対して直交する方向に配置される第3支柱11Cとからなる。そして、各支柱11は平面視T字型をなす耐震壁構造体10(10A)の平面視端部の位置に配置されている。つまり、非プレストレスの鉄筋コンクリート造の柱3が複数(3本)の支柱11A〜11Cによって囲まれた状態となっている。
【0021】
また、各支柱11には、材軸中心に沿ってPC鋼棒13が埋設されており、図示しない緊張力導入手段によって緊張力が付与され、これにより支柱11には材軸方向の圧縮力(プレストレス)が導入された状態となっている。
【0022】
壁部材12は、鉄筋コンクリートからなる壁状体であり、各支柱11A〜11Cと柱3との間を閉塞するようにして配置されて双方に一体的に接合されている。なお、図1に示す建物2の角部に設けられる平面視L字型をなす耐震壁構造体10Bは、そのL字型の頂部に柱3が配置されたものである。
【0023】
また、図2および図4に示すように、上下階に配置される前記支柱11、11どうしが複数層にわたって同軸に接合されており、それら上下階方向に接合される支柱11、11のそれぞれのPC鋼材13、13どうしが例えば機械式継手等を用いた圧着接合により接続されている。つまり、上下階どうしの支柱11、11どうしが同軸に連結されるので、各層に配される耐震壁構造体10、10同士が上下方向に連続して一体的に設けられることになり、建物2全体の剛性が高められた構造となっている。さらに。本実施の形態の壁部材12にあっては、その上端部12aおよび下端部12bがそれぞれスラブ4に接合している。
【0024】
なお、上述した耐震壁構造体10では、柱3と支柱11との距離を支柱11の長さ、断面によって適宜設定される。例えば建物2の外周方向に沿う柱3、3どうしの間隔が6mである場合において平面視で略2m角の範囲に配置することができ、このときの支柱11を断面寸法で例えば40〜60cm角とすることができる。
【0025】
次に、このように構成される耐震構造1の構築方法について図面に基づいて説明する。
図2および図3に示すように、先ず、柱3の周囲の所定位置にPC鋼棒13によりプレストレスが導入されたプレキャストコンクリート(PCa)からなる支柱11(11A、11B、11C)を配置する。このとき、支柱11は各階層を一単位とする部材又は複数層を一単位とする部材として工場等で製作されたものが用いられる。
そして、支柱11は、先行して構築された下層階の支柱11に対して同軸となるようにして接合される。このときPC鋼棒13についても上下方向に連続するようにして機械式継手等の圧着接合(接合手段)により連結する作業により施工することができる。そのため、現場での型枠組立てやコンクリート打設作業をなくすことが可能となり、施工の簡略化を図ることができる。
【0026】
続いて、柱3と各支柱11A、11B、11Cとのそれぞれを壁部材12によって水平方向に繋ぐことで耐震壁構造体10を構築する。具体的に壁部材12は、柱3と各支柱11A、11B、11Cとの間の壁部材12の設置領域に鉄筋や型枠を組み立て、コンクリート打設することにより構築される。このようにして、建物2の上下方向にわたって連続する耐震構造1を構築することができる。
【0027】
次に、上述した耐震壁構造体10を備えた耐震構造1の作用について図面に基づいて説明する。
図2および図3に示すように、本耐震構造1では、支柱11にはPC鋼棒13によって緊張力が付与されて上下方向の圧縮力(プレストレス)が導入されているので、軸力方向の引張側において剛性を確保することができる。さらに、支柱11の圧縮側に作用する外部からの軸力増加に対してプレストレスが減少しながらも抵抗することになり、コンクリート応力が急激に増大することを防止することができる。そのため、比較的高剛性な曲げ抵抗を安定的に発揮することができ、変動軸力引張側に発生し易いひび割れもプレストレスによるコンクリート圧縮応力の作用によって生じにくくなる。
【0028】
また、プレストレスが導入された支柱11に高い復元性能があり、この復元性能により地震後などの変形の残留を抑制することができる。そして、支柱11に一体的に連結される壁部材12においても同様の復元性能を有することから、支柱11や壁部材12に生じたひび割れも地震後には閉塞し、残留ひび割れが生じにくい耐震壁となる。
したがって、上述したような耐震壁構造体10の平面視端部に曲げに強い支柱を配置することで、耐震壁全体が曲げ抵抗に強い剛強な構造となり、壁部材12においてもコンクリートのひび割れの発生を抑制することができる。
【0029】
また、上下階の支柱11、11どうしが同軸に接合され、耐震壁構造体10が上下方向に連続してなる連層耐震壁が形成されることから、建物全体の剛性を高めることができる。
さらにまた、上下階に同軸に配置される支柱11、11どうしが圧着により接続され、そのPC鋼棒13が建物2の上下方向に連続した構造となるので、より曲げに強い耐震構造を実現することができる。
【0030】
上述のように本実施の形態による耐震構造およびその構築方法では、壁部材12がPC鋼棒13によりプレストレスが導入された支柱11によって曲げ抵抗に強い剛強な耐震壁構造体10となることから、耐震壁構造体10の地震によるひび割れ等の発生を抑制することができる。そして、耐震壁構造体10においては、プレストレスが導入された支柱11を設けることで、建物2内の立面に占める壁部材12の設置領域を減少することが可能となることから、施工の簡略化を図ることができる。
【0031】
以上、本発明による耐震構造およびその構築方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では鉄筋コンクリート製の柱3の周囲に支柱11(11A、11B、11C)を配置させ、それぞれの支柱11と柱3とを壁部材12を介して接続した耐震壁構造体10としているが、これに限定されることはなく、例えば耐震壁構造体として柱3を組み込まず、支柱11のみで構成するものあってもかまわない。
【0032】
また、本実施の形態では耐震壁構造体10における支柱11や柱3の配置を平面視でT字型、或いはL字型に配置させた形態としているが、これらに限定されることはなく、例えば平面視でコ字型、十字型等の形状の耐震壁構造体を設けることも可能である。さらに耐震壁構造体の形状だけでなく、支柱11、11どうしの間隔、支柱11と柱3との間の間隔、支柱の数量等も建物の形状等に合わせて任意に設計することができる。また、例えば、耐震構造体10の一部(支柱11)を建物2の外方に張り出し、バルコニーのコンクリートと一体的に設けるような構造であってもかまわない。
【0033】
さらに、本実施の形態では柱3は現場打ちコンクリートにより施工されているが、これに限らず、プレキャストコンクリート(PCa)により形成されていてもかまわない。この場合、各階層を一単位とする部材又は複数層を一単位とする部材からなるPCa製の柱を予め工場などで製作しておき、現場においてそれらPCa製の柱を適宜な接合手段により連結するだけの作業により施工することができる。そのため、現場での型枠組立てやコンクリート打設作業をなくすことが可能となり、施工の簡略化を図ることができる。
一方、本実施の形態では支柱11をPCa製の部材としているが、現場打ちコンクリートによって施工されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 耐震構造
2 建物
3 柱
4 スラブ
10 耐震壁構造体
11、11A、11B、11C 支柱
12 壁部材
13 PC鋼棒(PC鋼材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の建物に施工される耐震構造であって、
PC鋼材によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリート造の複数の支柱と、
該支柱どうしを水平方向に一体的に接合する鉄筋コンクリート造の壁部材と、
を有する耐震壁構造体が設けられ、
前記支柱は、前記耐震壁構造体の平面視端部に配置されていることを特徴とする耐震構造。
【請求項2】
上下階に配置される前記支柱どうしが同軸に接合され、上下階に連続して配置される連層耐震壁をなしていることを特徴とする請求項1に記載の耐震構造。
【請求項3】
上下階方向に接合される前記支柱は、それぞれのPC鋼材どうしが圧着接合により接続されていることを特徴とする請求項2に記載の耐震構造。
【請求項4】
前記支柱は、プレキャストコンクリートにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐震構造。
【請求項5】
前記壁部材は、前記建物の柱と一体的に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐震構造。
【請求項6】
前記柱は、プレキャストコンクリートにより形成されていることを特徴とする請求項5に記載の耐震構造。
【請求項7】
鉄筋コンクリート造の建物に耐震壁構造体を備えるための耐震構造の構築方法であって、
PC鋼材によりプレストレスが導入されたプレストレスコンクリート造の複数の支柱を前記耐震壁構造体の平面視端部に配置する工程と、
前記支柱どうしを壁部材によって水平方向に接合する工程と、
を有することを特徴とする耐震構造の構築方法。
【請求項8】
前記支柱を配置する工程において、該支柱を先行して構築した下層階の支柱に対して同軸に接合するようにしたことを特徴とする請求項7に記載の耐震構造の構築方法。
【請求項9】
前記壁部材を設ける工程において、該壁部材を前記建物の柱に一体的に連結するようにしたことを特徴とする請求項7又は8に記載の耐震構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285783(P2010−285783A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139504(P2009−139504)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】