説明

肌改善剤および肌改善食品

【課題】日々刻々と変化する微小な肌状態、肌のつや、毛穴の目立ち、かさかさ感、しっとり感、さっぱり感、べたつき感、小じわ、目元のくま、透明感、脂っぽさ、にきび、吹き出物、肌のはり、肌のきめ、化粧のり、化粧くずれ等を改善する。
【解決手段】肌改善剤または肌改善食品として、配列表の配列番号1記載のデカペプチドと、GABAまたはGABA誘導体とを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌改善剤および肌改善食品、特に、日々刻々と変化する微小な肌状態を改善するための肌改善剤および肌改善食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肌を美しくするための健康食品としては、コラーゲン、ヒアルロン酸などが代表的であるが、これらは本来肌に存在する成分であり、これらを摂取することによって不足分を補い、肌状態の改善を図るというものである。しかし、これらはいずれも分子構造が大きいため、体内で吸収されたものがそのままの状態で全て肌に到達し、直接肌の構成物質として働くことは難しいと考えられる。
【0003】
一方、肌の構成成分ではないものの、経口摂取することにより美肌に導くという物質も従来より知られており、例えばアスコルビン酸、ダイズイソフラボン、システイン、アスタキサンチン、トコフェロール、トコトリエノール等があげられる。とりわけ、これらを組み合わせることによってそれぞれが持つ効能効果を補い合う、あるいはその効果を相乗的に高めて美白作用や肌荒れ改善作用などの美肌効果を得ようとするものとして、例えば、アスコルビン酸とトコフェロールとダイズイソフラボンの組合せ(特許文献1)、プロアントシアニジンとアスコルビン酸とシステインの組合せ(特許文献2)、アスタキサンチンとトコトリエノールの組合せ(特許文献3)、アスコルビン酸と真珠の組合せ(特許文献4)などがあげられる。
【0004】
ところで、カゼインのトリプシン分解物においては、特許文献5に記載されているデカペプチドが知られており、このデカペプチドの精製物は、ラットを用いた試験で抗痙攣性や鎮静効果が確認されている。また、特許文献6には、ペットのストレスを軽減する効果があることが記載されている。また、非特許文献1および2によれば、ヒト試験によるリラックス作用、鎮静作用、ラットを用いた抗ストレス作用、ストレス要因の睡眠障害に対する有効性が確認されている。しかしながら、デカペプチド経口摂取による美肌への効果はこれまでに全く知られていない。
【0005】
一方、GABAはγ−アミノ酪酸(γ−amino butyric acid)の略称であり、動植物等に広く分布するアミノ酸の一種で、哺乳動物の脳や脊髄に存在する抑制系の神経伝達物質である。GABAは脳の血流を改善し酸素供給量を増加させ脳代謝を更新させる働きを持つことから、脳卒中や頭部外傷後遺症、脳動脈後遺症による頭痛、耳鳴り、欲求低下等の治療に応用される。またその他の生理効果として、学習能力の向上、腎機能の活性化が知られている。さらに、非特許文献3によれば、GABAはリラックスと関係があることが示されているが、異なる成分との組合せによる美肌効果については全く知られていなかった。
【特許文献1】特開2005−229855号公報
【特許文献2】特開2005−323604号公報
【特許文献3】特開2003−325135号公報
【特許文献4】特開2003−335668号公報
【特許文献5】特許第3973244号公報
【特許文献6】特開2004−357504号公報
【非特許文献1】健康産業新聞第1150号(2006年5月10日)
【非特許文献2】食品と容器 Vol.46 No.(10) P555〜559(2005年)
【非特許文献3】Neurochem Res. Vol.28, No.6, p965-976, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が鋭意検討を重ねたところ、上記のデカペプチドとGABAまたはGABA誘導体を組み合わせることによって、肌改善効果が発揮されることが確認された。すなわち、本発明は従来肌改善効果が知られていなかったデカペプチドとGABAまたはGABA誘導体とを組合せることによる、極めて高い効力を有する肌改善剤および肌改善食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の肌改善剤は、配列表の配列番号1記載のデカペプチドと、GABAまたはGABA誘導体とを含有する、すなわち、配列表の配列番号1記載のデカペプチドとGABA、または配列表の配列番号1記載のデカペプチドとGABA誘導体とを含有することを特徴とするものである。
前記デカペプチドは、カゼインの酵素分解物であることが好ましい。
【0008】
本発明の肌改善食品は、配列表の配列番号1記載のデカペプチドとGABA、または配列表の配列番号1記載のデカペプチドとGABA誘導体とを含有することを特徴とするものである。デカペプチドは、カゼインの酵素分解物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の肌改善剤または肌改善食品の経口摂取により、肌状態の改善効果、悪化の予防効果を得ることができる。詳細には、肌のつや、毛穴の目立ち、かさかさ感、しっとり感、さっぱり感、べたつき感、小じわ、目元のくま、透明感、脂っぽさ、にきび、吹き出物、肌のはり、肌のきめ、化粧のり、化粧くずれ等に対して改善効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の肌改善剤は、配列表の配列番号1記載のデカペプチドと、GABAまたはGABA誘導体とを含有することを特徴とする。
【0011】
配列表の配列番号1記載のデカペプチドはカゼインの酵素分解物であることが好ましい。カゼインは、牛乳に含まれる乳タンパク質の約80%を占め、一般に乳固形分と呼ばれる成分の主要成分の一つである。その構成成分は単一のタンパク質ではなく、γ−カゼイン、κ−カゼイン、β−カゼイン、αs1−カゼイン、αs2−カゼインという主な画分に分けられるが、本発明におけるデカペプチドを得るためには、αs1−カゼインを用いることがより好ましい。αs1−カゼインは、通常の方法によって、牛乳、全カゼイン類、酸カゼイン類から得ることができ、例えば、溶解剤として塩化カルシウム濃度勾配を用いたDEAE−セルロースで分画する方法を例示することができる。
【0012】
配列表の配列番号1記載のデカペプチドはαs1−カゼインの酵素分解物、好ましくは特にトリプシンを用いた酵素による加水分解によりαs1−カゼインから得ることが好ましく、より詳細には、例えば特許文献5記載の方法により牛乳カゼインから得ることができる。
【0013】
カゼインの酵素分解物である場合、配列表の配列番号1記載のデカペプチドを含んだペプチド、すなわち、配列表の配列番号1記載のデカペプチドよりも幾分アミノ酸配列が長い状態のものや、配列表の配列番号1記載のデカペプチドの配列から1又は複数のアミノ酸が欠失したオリゴペプチドを含む場合があるが、配列表の配列番号1記載のデカペプチドのみに精製して用いてもよいし、これらを特に取り除くことなく、カゼインの酵素分解物全体として用いることも可能である。
【0014】
本発明におけるGABAは胚芽米、緑茶、米ぬかの乳酸菌による発酵、グルタミン酸から乳酸菌を用いて発酵することにより得ることができるが、特にこれに限定されるものではない。また、GABAの誘導体も知られており、例えばN−メチル−γ−アミノ酪酸、N−ジメチル−γ−アミノ酪酸またはそれらのエステル類、例えばγ−アミノオレイルエステルを好適に用いることができる。
【0015】
本発明の肌改善剤における、配列表の配列番号1記載のデカペプチドとGABA(またはGABA誘導体)の成分比は、肌改善剤として用いるか、肌改善食品として用いるか、さらには、デカペプチドの精製状態等によって異なるため一概には言えないが、カゼイン酵素分解物として配合される場合、概ねカゼイン酵素分解物とGABAの比は50〜1:1〜50、好ましくは15〜1:1〜8、さらには5〜3:1〜2程度であることが好ましい。
【0016】
本発明の肌改善剤の、平均的な成人(約60kg)の1日あたりの摂取量は、含有しているデカペプチドおよびGABA(またはGABA誘導体)の配合比、デカペプチドの精製状態等によって異なるため一概には言えないが、デカペプチドがカゼイン酵素分解物として配合される場合、デカペプチド乾物換算で好ましくは100mg/日以上、より好ましくは200mg/日以上となる量とすることが好ましい。
【0017】
なお、肌改善食品の場合は、肌改善剤と異なり、食品本来の味覚、食感、口溶け等や食品としての形状保持等が優先される場合もあり、デカペプチドとGABA(またはGABA誘導体)の成分比や1日あたりの摂取量はそれに大きく影響されるため、その場合には、必ずしも上記の肌改善剤における成分比、摂取量の範囲としなくてもよい。
【0018】
本発明の肌改善剤の剤形は特に限定されるものではなく、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、ハードカプセル剤、軟カプセル剤、丸剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。本発明の肌改善剤は、形態に応じて通常用いられる賦形剤、崩壊 、結合 、滑沢 、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤 、酸味料、薬剤用担体等を添加して通常使用されている方法によって製造することができる。
【0019】
また、肌改善食品においては、キャンディー、クッキー、ビスケット等の菓子類、かまぼこ、ちくわ等の水産練り製品、ソーセージ、ハム等の畜産製品、生麺、ゆで麺等の麺類、ソース、しょう油、たれなどの調味料、漬け物、総菜、清涼飲料水等一般的な飲食品として用いることができる。その際、本発明の肌改善食品は、その食品に応じて通常用いられる各種成分、例えば、砂糖、小麦粉、ショートニング、食塩、ブドウ糖、鶏卵、バター、マーガリン、水飴、カルシウム、鉄分、調味料、香辛料等を添加して通常使用されている方法によって製造することができる。
【0020】
以下に本発明の実施例を示す。なお、下記の実施例で用いたデカペプチドは特許文献5の実施例1に基づいて酵素分解物を精製したものを用いているが、市販されているデカペプチドを用いてもよい。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
ハードカプセル
デカペプチド 54%(重量%)
GABA 36%
結晶セルロース 6%
リン酸カルシウム 2%
ショ糖脂肪酸エステル 2%
上記処方の中味をハードカプセル(豚ゼラチン 透明2号)に添加してハードカプセルの肌改善剤を作製した。
【0022】
(比較例1)
実施例1においてデカペプチドおよびGABAの代わりにテアニンを用いた以外は実施例1と同様にしてハードカプセルの肌改善剤を作製した。
【0023】
(比較例2)
実施例1においてデカペプチドの代わりにGABAを用いた以外(全てをGABAとした以外)は実施例1と同様にしてハードカプセルの肌改善剤を作製した。
【0024】
<肌改善試験>
実施例1〜比較例2の3種類のハードカプセルについて、それぞれ被験者10名(20〜40代の女性計30名)に対し、実施例1においてはデカペプチド150mg/日のハードカプセル、比較例1においてはテアニン200mg/日のハードカプセル、比較例2においてはGABA100mg/日のハードカプセルを1週間経口投与してもらい、頬部の皮脂量とpHについて測定すると共に、肌状態に関するアンケートを実施した。皮脂量は、セブメーター(Courage + Khazaka Electronic GmbH)を用いて測定し、pHはpHメーターを用いて測定した。皮脂量とpHの変化をそれぞれ表1および2に、肌状態のアンケート結果を図1〜3に示す。なお、1日当たりのそれぞれの物質の投与量はリラックス効果や睡眠改善効果等を調査した素材メーカー情報や文献等を参考に効果が認められた量とした。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
図1〜3から明らかなように、「少し改善された」までを効果が認められたものに含めると、実施例1のハードカプセルを経口投与した80%が肌のつや、目元のくま、透明感、化粧のり、化粧くずれについて改善が、70%が毛穴の目立ちについて改善が、60%が脂っぽさ、にきびについて効果が認められたとの結果が出ている。本ハードカプセルの投与が1週間と短いこと、また肌の生まれ変わる周期が一般に28日(いわゆるターンオーバー)であることを考慮すれば、これは非常に高い肌改善を示すものである。GABAと同様にリラックス効果があるといわれているテアニンを主成分とした比較例1、GABAのみを主成分とした比較例2と比較しても概ね倍以上の効果が出ている。
【0028】
また、この肌改善試験では、かさかさ感、小じわ、肌のはりについて効果が認められたのは40%と半分以下ではあったが、かさかさ感、小じわ、肌のはりはターンオーバーによって日々改善していくものであり、継続摂取によってさらなる効果が出るものと予測できる。
【0029】
さらに、数値的に見れば、実施例1のハードカプセルについては表1に示すように皮脂量がやや上昇しているが、個人差が大きく特筆すべき結果ではなかったものの、表2に示すようにpHは理想的とされるやや弱酸性方向に低下していることが看取された。
【0030】
以下には、その他の製剤の処方例および食品の処方例を示す。
(実施例2) 錠剤
デカペプチド 30.0(重量%)
GABA 5.0
ステアリン酸マグネシウム 0.005
乳糖 適量
セルロース 適量
上記の処方(乳糖とセルロースで100重量%に調整)で全て均一に混合した後、打錠機にて打錠し、直径10mm、重量300mgの錠剤とした。
【0031】
(実施例3) 散剤
デカペプチド 17.0(重量%)
GABA 17.0
還元乳糖 35.0
大豆オリゴ糖 3.0
エリスリトール 3.0
デキストリン 25.0
精製水 適量
上記の処方で全てを均一に混合撹拌し、スプレードライを行い散剤とした。
【0032】
(実施例4) 軟カプセル
デカペプチド 20.0(重量%)
GABA 10.0
大豆油 70.0
上記の処方で全てを均一に混合攪拌し、軟カプセル剤皮(オバール型、重さ150mg)の中に定法により充填し、軟カプセル剤とした。
【0033】
(実施例5) 飲料
精製水 87.1(重量%)
デカペプチド 2.5
GABA 1.0
フラクトース 9.0
クエン酸 0.3
香料 0.1
上記の処方で全てを均一に混合攪拌し、飲料とした。
【0034】
(実施例6)キャンディー
白糖 60.5(重量%)
水あめ 38.9
デカペプチド 0.2
GABA 0.3
香料 0.1
白糖と水あめを加熱混合して均一化した後冷却し、70℃でデカペプチド、GABAおよび香料を添加し、混合均一化した後成型した。
【0035】
(実施例7) クッキー
薄力粉 45.0(重量%)
バター 17.5
グラニュー糖 20.0
デカペプチド 4.0
GABA 1.0
卵 12.5
香料 適量
バターを撹拌しながら、グラニュー糖を徐々に添加した後、卵、デカペプチド、GABAおよび香料を添加しさらに撹拌した。十分に混合した後、均一に振るった薄力粉を加え、低速にて撹拌し塊状で冷蔵庫にて寝かせた。その後、成型し170℃15分焼成しクッキーとした。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1のハードカプセル摂取1週間後のアンケート結果
【図2】比較例1のハードカプセル摂取1週間後のアンケート結果
【図3】比較例2のハードカプセル摂取1週間後のアンケート結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1記載のデカペプチドと、GABAまたはGABA誘導体とを含有することを特徴とする肌改善剤。
【請求項2】
前記デカペプチドがカゼインの酵素分解物であることを特徴とする請求項1記載の肌改善剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の肌改善剤を配合してなることを特徴とする肌改善食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120545(P2009−120545A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296647(P2007−296647)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】