説明

育毛用組成物およびそれを用いた育毛方法

【課題】有効性が高くより安全な育毛用組成物およびそれを用いた育毛方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類またはその塩を含有する組成物を用いることによって、優れた育毛効果が得られる。さらに、コエンザイムQ10を共に含有する組成物を用いると、相乗的なより優れた育毛効果が得られる。


(式中のR、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、フェニル基、または短鎖長のアルキル基、アラルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基若しくはアルキニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン(PQQ)類若しくはその塩、またはさらにコエンザイムQ10(CoQ10)を含有することを特徴とする育毛用組成物、並びに当該組成物を機能性食品または化粧料として用いる育毛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭髪量の減少は美容上の重要な問題でもあることから、人々の育毛剤に対する関心には強いものがある。従来、育毛の目的で毛髪用化粧品、医薬品、医薬部外品が開発されているが、これらの育毛剤には、活性成分として毛根の血管を拡張して血行を改善するもの、毛乳頭を刺激して毛髪の成長を促進するもの等が配合されている。具体的には、ミノキシジル(例えば、特許文献1参照)、ペンタデカン酸(例えば、特許文献2参照)、カイネチン、女性ホルモン、ビタミンE、パントテン酸等が例示される。しかしながら、使用者が満足する育毛効果が得られない場合や使用者に好ましくない症状を与える場合も見られることから、より有効性が高く安全な新たな育毛剤の提供が強く望まれている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第4139619号明細書
【特許文献2】特公平2−37886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、有効性が高くより安全な育毛用組成物、および該組成物を用いる育毛方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PQQ類またはその塩に育毛効果を見出し、更にCoQ10を共存させた場合、育毛効果が相乗的に高まるという予想外の注目すべき新知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は下記の(1)から(3)に示す、PQQ類若しくはその塩、またはPQQ類若しくはその塩とCoQ10を共に含む育毛用組成物、およびこれら組成物を用いた育毛方法に関するものである。
(1)一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類若しくはその塩、またはピロロキノリンキノン類若しくはその塩とコエンザイムQ10を含有することを特徴とする育毛用組成物。
【化1】


(式中のR、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、フェニル基、または短鎖長のアルキル基、アラルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基若しくはアルキニル基を表す。)
(2)(1)に記載の育毛用組成物を機能性食品として用いる育毛方法。
(3)(1)に記載の育毛用組成物を化粧料として用いる育毛方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一般式(1)で示されるPQQ類またはその塩を含有する組成物を用いることによって、優れた育毛効果が得られる。さらに、CoQ10を共に含有する組成物を用いることによって、相乗的なより優れた育毛効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
PQQは、1979年メタノール資化性菌のメタノール脱水素酵素の補酵素として見出された(Nature, 230, 843-844, 1979、FEBS Letter, 108, 443-446, 1979)。細菌類以外にも、大豆、空豆、ピーマン、ジャガイモ、パセリ、ホウレンソウなどの食用植物や、酢、茶、ココア、納豆、豆腐等の加工食品からも検出されている(Biochem. Journal, 307, 331-333, 1995)。また、ヒトやラットの生体内にも存在すること(Biochimica et Biophysica Acta, 1156, 62-66, 1992)が報告されている。2003年にはアミノ酸、リジンの酸化を触媒する酵素(2−アミノアジピン酸 6−セミアルデヒド脱水素酵素)の酸化還元補酵素として機能することが明らかとなり、新しいビタミンと位置付けられている化合物である(Nature, 422, 832, 2003)。
【0008】
PQQの作用としては、これまでに、活性酸素および/またはラジカル除去作用(特開平5-078247号公報)、細胞の増殖促進作用(特開昭61-58584号公報)、アルドース還元酵素阻害作用(特開平6-256191号公報)、メラニン産生抑制および美白作用(特開平8-020512号公報)、紫外線吸収作用(特許第3625493号公報)、神経成長因子産生促進作用(特開平6-211660号公報)、脳機能改善作用(J. Clin. Biochem. Nutr., 42, 29-34, 2008)等が知られている。
【0009】
本発明の対象となる一般式(1)で示されるPQQ類またはその塩において、式中のR、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、フェニル基、または短鎖長のアルキル基、アラルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基若しくはアルキニル基を表す。
【0010】
短鎖長のアルキル基、アラルキル基、アルキルアリール基のアルキル部分としては、例えば直鎖または分枝状の炭素数1〜6のアルキルが挙げられ、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられ、中でもメチルまたはエチルが好ましいものとして挙げられる。
【0011】
短鎖長のアラルキル基としては、例えば炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられ、より具体的にはベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、ナフチルメチル等が挙げられる。
【0012】
短鎖長のアルキルアリール基のアリール部分としては、例えば炭素数6〜14のアリールが挙げられ、より具体的にはフェニル、ナフチル、アントリル等が挙げられる。従って、アルキルアリール基としては、メチルフェニル、エチルフェニル等が挙げられる。
【0013】
短鎖長のアルケニル基としては、例えば直鎖または分岐状の炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、より具体的にはビニル、アリル、1−プロペニルメタクリル、クロチル、1−ブテニル、3−ブテニル、2−ペンテニル、4−ペンテニル、2−ヘキセニル、5−ヘキセニル等が挙げられる。
【0014】
短鎖長のアルキニル基としては、例えば直鎖または分岐状の炭素数2〜6のアルキニル基が挙げられ、より具体的にはエチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル等が挙げられる。
【0015】
上述の一般式(1)においてR、RおよびRが何れも水素原子である化合物は、有機化学的方法(J. Am.Chem. Soc. 103, 5599-5600, 1991)または発酵法によって得られる。例えば、メタノール資化性を有し、かつPQQを生産する能力を有する細菌を、炭素源としてメタノールを含有し鉄化合物の濃度を制御した培養液中で培養することによりPQQを生産する方法(特開平1‐218597号公報)等により製造することが可能である。
【0016】
一般式(1)で示されるPQQ類またはその塩のうち、エステル体はPQQより常法のエステル化反応に従って合成することができる。PQQのトリエステル体は、例えば、PQQまたはその塩を酸性条件下でアルコール類と反応させる方法(特開平3‐123781号公報、特開平3‐145492号公報)や、PQQまたはその塩を塩基の存在下でハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルキニル、ハロゲン化アラルキル、ハロゲン化アラアリール等と反応させる方法を用いることにより容易に合成することができる。また、上記方法によって得られるPQQのトリエステル体を酸性または塩基性条件下で部分加水分解することで、モノエステル体、ジエステル体を得ることができる。
【0017】
このようにして得られる一般式(1)で示されるPQQ類またはそれらの塩は、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、または溶媒抽出法などの通常の方法により、反応液中から分離、精製することができる。それらの同定には、元素分析、NMRスペクトル、IRスペクトル、質量分析等の各種手段が用いられる。
【0018】
一般式(1)で示される化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム、トリエタノールアミン、トリメチルアミン等の有機アミン塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸塩等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
一方、CoQ10は生物に広く存在する生体成分でありヒトにおいてもミトコンドリア内膜の電子伝達系の成分としてATP生産に重要な役割を果たしている。また、細胞膜、ゴルジ体、リソソーム等のミトコンドリア以外の膜系にも存在し、抗酸化物質として機能している。CoQ10は日本では医薬品として鬱血性心不全の治療薬として、日本、欧米等では健康食品または化粧品として広く用いられている。CoQ10は合成法、微生物を用いる発酵法により製造することができる。PQQ類またはその塩単独でも育毛効果は認められるが、CoQ10を併用することにより、育毛効果は相乗的に向上する。
【0020】
本発明の育毛用組成物として、一般式(1)で示されるPQQ類若しくはその塩、または当該物質とCoQ10をそのまま投与することも可能であるが、各種の製剤として提供することも可能である。
【0021】
製剤は、有効成分として一般式(1)で示されるPQQ類若しくはその塩、または当該物質とCoQ10を含有するが、さらに任意の有効成分を含有していてもよい。それら製剤は、有効成分を食品または化粧品に許容される一種またはそれ以上の担体と共に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造される。
【0022】
機能性食品として投与する場合の剤形としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤等の経口剤が好適に用いられる。経口剤として製剤化する際には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることができる。
【0023】
シロップ剤のような液体調製物である場合は、水、蔗糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、パラヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、安息香酸ナトリウム等の保存剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加して製剤化することができる。
【0024】
また、錠剤、散剤または顆粒剤等の場合には、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉糊液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
【0025】
また、経口投与用の製剤には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
【0026】
化粧品としての育毛剤型としては、ヘアーリキッド、ヘアートニック、ヘアーローション等の液状剤型、軟膏、ヘアークリーム等の固形状剤型が挙げられる。液状剤型に好適な基材としては、育毛剤に通常使用されているもの、例えば、精製水、エチルアルコールおよびグリセロール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
【0027】
添加剤としては、界面活性剤、ビタミン類、消炎剤、殺菌剤、ホルモン剤、生薬エキス、チンキ類、清涼剤、保湿剤、酸化防止剤、キレート剤、香料等が挙げられる。
【0028】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(8)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(10)、ポリオキシエチレン(30)グリセリルモノステアレート、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、モノオレイン酸ヘキサグリセリン、モノラウリン酸ヘキサグリセリン、ポリオキシエチレン還元ラノリン、ポリオキシエチレン(20)ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0029】
ビタミン類としては、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、リボフラビン等が挙げられる。
消炎剤としては、グリチルリチン酸ジカリウム、β−グリチルリチン酸、アラントイン、塩酸ジフェンヒドラミン、グアイアズレン、1−メントール等が挙げられる。
殺菌剤としては、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、ヒノキチオール、トリクロサン、クロルヘキシジングルコン酸塩、フェノキシエタノール、レゾルシン、イソプロピルメチルフェノール、アズレン、サリチル酸、ジンクピリチオン、塩化ベンザルコニウム、モノニトログアヤコールナトリウム等が挙げられる。
ホルモン剤としては、エチニルエストラジオール、エストロン、エストアジオール等が挙げられる。生薬エキスとしては、センブリエキス、アロエエキス、キナエキス、冬虫夏草エキス、サフランエキス等が挙げられる。
チンキ類としては、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、カンタリスチンキ等が挙げられる。清涼剤としては、1−メントール、カンフル等が挙げられる。
【0030】
保湿剤としては、L−ピロリドンカルボン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシアニソール、イソプロピルガレート、没食子酸プロピル、エリソルビン酸等が挙げられる。
キレート剤としては、エチレンジアミンテトラアセテートまたはその塩等が挙げられる。
香料としては、オレンジ油、レモン油、ベルガモット油、ライム油、レモングラス油、
ラベンダー油等の天然香料、またはメントール、ローズオキサイド、リナロール、シトラ
ール、酢酸リナリル等の合成香料が挙げられる。
固形状剤型の基剤としては、ワセリン、固型パラフィン、植物油、鉱物油、ラノリン、
蝋類、マクロゴール等が挙げられる。必要により、前記の添加剤、エチルアルコール、イ
ソプロピルアルコール等の低級アルコール等を添加してもよい。
【0031】
本発明の育毛剤組成において、一般式(1)で示されるPQQ類またはその塩にCoQ10を加える場合、PQQ類またはその塩に対するCoQ10の比率は1〜100倍重量、好ましくは1〜50倍重量である。比率が1倍重量を下回る場合はCoQ10の相乗的な育毛促進効果が期待できないようになり、100倍重量を超える場合にはPQQ類またはその塩の育毛促進効果が低くなる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
経皮投与試験
雄性C3H系マウスを購入し、7日間の予備飼育の後、毛周期の休止期にある7週齢から実験に供試した。背部の2cm×3cmの範囲を皮膚に傷をつけないように注意して、バリカンで除毛した。これらを4群(8匹/群)に分け、表1に示す以下の試料を1日1回、0.2ml塗布した。試料塗布開始14日後に被験部の毛の再生が始まった面積を肉眼的に観察し、以下の評価基準により評価した。
著効:毛再生面積70%以上
有効:毛再生面積50〜70%
無効:毛再生面積50%未満
【0034】
【表1】

結果を第2表に示す。PQQ・Na2により育毛促進が見られた。CoQ10単独では、育毛促進効果は認められなかったが、PQQ・Na2とCoQ10を併用することにより育毛促進効果が増強された。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例2
経口投与試験
実施例1と同様に飼育、除毛したC3Hマウスを4群(8匹/群)に分け、以下の試料を1日1回20日間、ゾンデで強制投与し、実施例1と同様に育毛効果を評価した。
対照群:水
1群:PQQ・Na2(20mg/kg)
2群:CoQ10(100mg/kg)
3群:PQQ・Na2(20mg/kg)及びCoQ10(100mg/kg)
結果を表3に示した。PQQ・Na2を摂取させた群で育毛促進効果が認められた。CoQ10単独では、育毛促進効果は認められなかったが、PQQ・Na2とCoQ10を併用することにより育毛促進効果が増強された。
【0037】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類若しくはその塩、またはピロロキノリンキノン類若しくはその塩とコエンザイムQ10を含有することを特徴とする育毛用組成物。
【化1】


(式中のR、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、フェニル基、または短鎖長のアルキル基、アラルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基若しくはアルキニル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の育毛用組成物を機能性食品として用いる育毛方法。
【請求項3】
請求項1に記載の育毛用組成物を化粧料として用いる育毛方法。

【公開番号】特開2010−120904(P2010−120904A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298047(P2008−298047)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】