説明

肺癌を標的とするペプチドおよびその適用

本発明は、診断および治療法を含む適用に用いるための核酸、ペプチドおよび抗体を提供する。ペプチドは肺癌を標的とし、ファージディスプレイによって同定された。ターゲティングファージPC5−2および合成ペプチドSP5−2はどちらも肺癌患者からのヒト肺腫瘍試料を認識できた。NSCLC異種移植片を有するSCIDマウスにおいて、このターゲティングファージは腫瘍塊を特異的に標的にできた。抗癌薬ビノレルビンまたはドキソルビシンを含有するリポソームにペプチドを結合したとき、ヒト肺癌異種移植片に対するこれらの薬物の効果が改善され、生存率が増加し、薬物の毒性が低減した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2007年2月13日に出願された米国仮出願第60/900,973号および2007年2月14日に出願された米国仮出願第60/901,085号ならびに2007年4月13日に出願された米国特許出願第11/783,927号(これらは全て、それらの全体が参考として援用される)への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は世界の癌に関係する死亡率の主因である。進行した非小細胞肺癌(non−small cell lung cancer:NSCLC)の患者に対する5年生存率は15%未満である。大多数の癌細胞を除くために必要な薬物用量の送達が副作用によって妨げられる化学療法にとって、腫瘍特異性の欠如はなおも主要な問題である。しかし、リガンドが介在する標的療法は、化学療法をより腫瘍特異性が高く毒性が低いものにする可能性があり、癌の新規の治療法の開発に有用であり得る。
【0003】
医薬産業においては、癌の処置に対する候補となり得る新たな細胞毒性薬物が多数発見されているが、それでもなおこの生命に関わる疾患が原因で全世界で毎年700万人を超える死者が出ており、その数は増え続けている(Mantyh、2006)。ほとんどの従来の化学療法の臨床的使用は、腫瘍標的組織への治療薬物濃度の不十分な送達によって、または正常な器官への深刻かつ有害な毒性の影響によって、しばしば制限される。したがって、腫瘍を標的とする薬物送達に用いることによって運ばれる薬物の治療指数を改善できるような新規のマイクロキャリア技術を開発することが重要である。
【0004】
ファージディスプレイとは、ペプチドまたはタンパク質がバクテリオファージのコートタンパク質との融合として発現されるような選択技術であり、その結果ビリオンの表面上に融合ペプチドまたはタンパク質が提示(ディスプレイ)される。ファージディスプレイのランダムペプチドライブラリは、B細胞エピトープ(D’Melloら、1997;Fuら、1997;ScottおよびSmith、1990;Wuら、2001;Wuら、2003)およびタンパク質−タンパク質接触(Atwellら、1997;Bottgerら、1996;Nordら、1997;Smithら、1999)をマッピングする機会、受容体(Koivunenら、1999;Liら、1995;Wrightonら、1996)またはタンパク質(Bottgerら、1996;Castanoら、1995;DeLeoら、1995;Kraftら、1999;Pasqualiniら、1995)に結合する生理活性ペプチドを選択する機会、疾患特異的な抗原模倣(Folgoriら、1994;Liuら、2004;Prezziら、1996)を探索する機会、ならびに細胞特異的ペプチド(Barryら、1996;非特許文献1;Mazzucchelliら、1999)および器官特異的ペプチド(Arapら、1998;EsslerおよびRuoslahti、2002;Pasqualiniら、1995;PasqualiniおよびRuoslahti、1996)を定める機会を与える。
【0005】
リポソームは、癌化学療法における薬物担体として提案された(Gregoriadisら、1974)。そのとき以来、リポソームに対する関心は増加し、リポソーム系は現在薬物担体として広範囲に研究されている。リポソームを特に癌組織への薬物送達に用いるために、リポソームには以下の3つの基本的要求が望まれる:(i)血液循環を長くすること、(ii)十分な腫瘍蓄積、(iii)薬物の薬力学に適合する放出プロファイルを有しながら、制御された薬物放出および腫瘍細胞による取込みが行なわれること。
【0006】
最初、リポソーム薬物送達系の研究は、細網内皮系(reticuloendothelial system:RES)による非常に速い血液クリアランスに苦しめられた。粒子サイズ、表面電荷(Weinstein、1984)、およびリポソーム組成は、クリアランスプロファイルに対する影響が強い(例、ホスファチジルイノシトールまたはモノシアロガングリオシドの組込みによって、血液中のリポソーム循環が長くなる)ことが確認された(AllenおよびChonn、1987;GabizonおよびPapahadjopoulos、1988;Senior、1987)。漏出性毛細血管を介して優先的に循環から出て、広範囲の新血管新生を示す腫瘍に蓄積してより高濃度となり、抗腫瘍活性を高めると予測される「ステルス」リポソームによって、この取込みは回避され得る(Wuら、1993)。しかし、合成ポリマーポリエチレングリコール(polyethyleneglycol:PEG)で被覆されたリポソームが血中の半減期を有意に増加させることが発見されたときには、リポソームは単に良好な薬物送達候補としてのみ認識されていた(Allenら、1991;BlumeおよびCevc、1990;Klibanovら、1990;Papahadjopoulosら、1991;Seniorら、1991)。このペグ化リポソームは、リポソームのタンパク質吸着およびオプソニン作用を阻害する高度に水和し保護されたリポソーム表面のために、長く循環する(WoodleおよびLasic、1992)。速いオプソニン作用およびクリアランスの問題を解決して、血中で最大72時間の半減期を有するリポソームを提供する(Drummondら、1999)と、次の挑戦事項は能動的ターゲティングによって腫瘍組織内にリポソームを蓄積させることだった。ターゲティングリポソームの使用によって、腫瘍標的部位における薬物放出を有意に高め、治療効果を増加できる可能性がある(非特許文献1;非特許文献2)。
【0007】
薬物送達研究分野では、腫瘍組織内で蓄積する長く循環するリポソームの構築に成功しており、閉じ込められた薬物は、能動的なトリガが存在しない限り、次いで受動拡散によってリポソームの外に漏出する必要がある。疾患組織に特異的に薬物を放出できる部位特異的トリガの使用は、腫瘍標的部位における薬物の生物学的利用率を増加させる方法の1つである。薬物の生物学的利用率を最適化する別の方法は、能動的ターゲティングによってより高程度のリポソーム蓄積を得ることである。さらに、能動的ターゲティングと能動的トリガとの組合せによって、腫瘍標的部位における有意に高められた特異的な薬物放出をもたらし得る可能性がある(非特許文献1;非特許文献2)。
【0008】
癌を標的とするためにモノクローナル抗体を用いる際の主要な制限の1つは、抗体分子が比較的大きく、分子量(MW)150,000を有することである。この分子は、血液供給が不十分な大きな腫瘍塊の内部に達することが困難である(Dvorakら、1991;Jain、1997;Shockleyら、1991)。この問題を克服するために、何人かの研究者は現在、サイズがより小さいMW25,000の抗腫瘍1本鎖Fv(single chain Fv:scFv)抗体を開発中である(AdamsおよびSchier、1999;Hallら、1998;Wongら、2001)。モノクローナル抗体療法の別の主要な問題は、抗体分子がたとえば肝臓、脾臓および骨髄などの細網内皮系に非特異的に取込まれることである。放射標識抗体または毒素結合抗体の用量を制限する毒性は、肝臓および骨髄毒性である(Neumeisterら、2001;Thomasら、1995)。これに対し、ペプチドはモノクローナル抗体よりもかなり小さくてもよく、一般的に細網内皮系には結合しない(Ainaら、2005)。ペプチドは化学的に安定であり、製造が比較的容易である。加えて、短い合成ペプチドの有効な組織侵入を、それらの選択的結合および癌細胞による内部移行能力と組合せることによって、これらの薬剤は、たとえば細胞毒性薬物、オリゴヌクレオチド、毒素および放射性分子などの治療の送達に対する理想的な候補となる。ウイルス性の送達ベクターおよびモノクローナル抗体とは対照的に、ペプチドは免疫系に対してほとんど不可視であり、最小限の副作用しかもたらさないか、または副作用をもたらさないことが期待されている(LevyおよびHyman、2005)。したがって、ターゲティングリガンドの同定およびリガンド標的リポソームの開発が非常に望ましい。
【0009】
NSCLCに対する有望な新しい治療法には、より大きな腫瘍特異性およびより低い毒性を可能にする腫瘍標的アプローチが必要であると本発明者らは考える。本発明者らは本明細書にペプチドの単離および同定を記載しており、このペプチドは、いくつかのNSCLC細胞系および肺癌患者からのヒト生検試料に特異的に結合できるSP5−2を含む。ビノレルビン(vinorelbine)またはドキソルビシン(doxorubicin)を含有するリポソームに結合されるとき、このターゲティングペプチドSP5−2は、SCIDマウスにおけるヒト肺癌異種移植片に対する薬物の治療指数を高めた。本発明者らの結果は、このターゲティングペプチドおよび本発明者らの研究において同定された他のペプチドが、肺癌の処置における薬物送達剤としての強い臨床的可能性を有することを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Leeら、Cancer Res(2004)64,8002〜8008
【非特許文献2】Parkら、Clin Cancer Res(2002)8,1172−1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、特定の標的組織に対してファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることは、薬物、遺伝子送達ベクターまたはその他の治療薬剤のターゲティングに用いられるペプチド配列の同定における直接的かつ迅速な方法となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はとりわけ、以下のものを単独または組合せて含む。
【0013】
本発明は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、および配列番号19を含むポリヌクレオチドおよびその変異体を提供する。
【0014】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、および配列番号20を含むペプチドおよびその変異体を提供する。一実施形態において、ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む。別の実施形態において、ペプチドは配列番号2を含む。別の実施形態において、ペプチドは融合タンパク質を含む。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の標識を含む。標識はFITC、ビオチンおよび放射性同位元素を含んでもよい。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の薬物に結合される。薬物はドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含んでもよい。
【0015】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、および配列番号20を含む本発明のペプチドまたはその変異体に結合する抗体を提供する。
【0016】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、および配列番号20を含むペプチドを含む本発明のペプチドの1つまたはそれ以上を含むリポソームを提供する。一実施形態において、リポソームは配列番号2またはその変異体を含むペプチドを含む。別の実施形態において、リポソームは配列番号2を含むペプチドを含む。リポソームは1つまたはそれ以上の薬物を含んでもよい。薬物はドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含んでもよい。一実施形態において、薬物はドキソルビシンである。別の実施形態において、薬物はビノレルビンである。ドキソルビシンは、リン脂質1μmol当り約110μgから約130μgの量であってもよい。ある実施形態において、リポソームは約65nmから約75nmの直径を有する。別の実施形態において、リポソーム当りのペプチド分子の数は約300から約500である。リポソームは医薬的に許容できる担体を含んでもよい。
【0017】
本発明は、1つまたはそれ以上の化学療法薬物と、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、および配列番号20からなる群より選択されるペプチド、またはその変異体とを含むリポソームを対象に接触させる工程を含む、癌を処置する方法を提供する。化学療法薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、および放射性分子からなる群より選択されてもよい。一実施形態において、化学療法薬物はドキソルビシンである。別の実施形態において、化学療法薬物はビノレルビンである。一実施形態において、癌はNSCLCおよびSCLCからなる群より選択される肺癌である。
【0018】
本発明は、試料中の癌細胞を検出するための方法を提供し、この方法は、前記試料の癌細胞にペプチドを結合できる条件下で請求項2に記載のペプチドを試料に接触させる工程と、請求項8に記載の抗体を用いて前記試料の前記癌細胞への前記ポリペプチドの結合を検出する工程とを含む。一実施形態において、ペプチドはエピトープを含む融合タンパク質であり、この融合タンパク質のエピトープに対する抗体を用いて融合タンパク質が検出される。別の実施形態において、ペプチドは標識されており、この標識を検出することによってペプチドが検出される。一実施形態において、標識はFITCを含む。別の実施形態において、標識はビオチンを含む。
【0019】
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体分子を同定する方法を提供し、この方法は、ペプチドと標的タンパク質とを含む複合体を形成できる条件下で本発明のペプチドを細胞抽出物に接触させる工程と、その複合体を分析して標的タンパク質を同定する工程とを含む。
【0020】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその変異体の相補体(complement)にハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0021】
本発明は、請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0022】
本発明は、請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0023】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその変異体の相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インビトロファージディスプレイを用いたNSCLC細胞特異的ファージの単離を示す図である。
【図2A】NSCLC細胞に結合する特異的ファージクローンの同定を示す図である。CL1−5およびPC13肺癌細胞におけるPC5−2の結合の視覚化を示す。スケールバー:10μm。
【図2B】NSCLC細胞に結合する特異的ファージクローンの同定を示す図である。PC5−2はCL1−5細胞への結合を示し、SP5−2合成ペプチドによって阻害される。スケールバー:10μm。
【図2C】NSCLC細胞に結合する特異的ファージクローンの同定を示す図である。フローサイトメトリによって測定された、CL1−5細胞の細胞表面へのPC5−2の結合プロファイル。
【図3A】NSCLC細胞およびヒト肺癌生検試料とのターゲティングペプチドの結合活性を示す図である。FITC標識されたSP5−2は5つのNSCLC細胞系に結合するが、正常な上皮細胞(NNM)には結合しない。スケールバー:10μm。
【図3B】NSCLC細胞およびヒト肺癌生検試料とのターゲティングペプチドの結合活性を示す図である。FITC標識されたSP5−2はNSCLC細胞系に結合する。
【図3C】NSCLC細胞およびヒト肺癌生検試料とのターゲティングペプチドの結合活性を示す図である。PC5−2およびSP5−2は、肺癌患者からの肺腺癌生検試料に結合する。スケールバー:25μm。
【図4】インビボでのPC5−2の腫瘍ホーミング能力の確認を示す図である。(A)脳、肺および心臓に対する腫瘍におけるPC5−2の回収。(B)PC5−2の腫瘍組織に対するターゲティングはSP5−2によって競合的に阻害されるが、対照ペプチドには阻害されない。(C)CL1−5由来の異種移植片におけるPC5−2の局在化。スケールバー:25μm。
【図5】ヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスの、SP5−2−Lipo−VinおよびSP5−2−Lipo−Doxによる処置を示す図である。(A)SP5−2−Lipo−Vinで処置されたマウスの腫瘍サイズの変化。(B)処置されたマウスの体重の変化。(C)SP5−2−Lipo−Vinで処置されたマウスの生存曲線。(D)SP5−2−Lipo−Doxで処置されたマウスの腫瘍サイズの変化。
【発明を実施するための形態】
【0025】
表の簡単な説明
表1は、NSCLC異種移植片から選択されたファージからのファージディスプレイペプチド配列を提供する。
【0026】
肺癌は、先進国において最も一般的な悪性腫瘍の1つであり、発展途上国においても増加している問題である(Boyleら、2000)。肺癌には以下の2つの主要なタイプがある:小細胞肺癌(small cell lung cancer:SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。症例の約80パーセントがNSCLCであり、約20パーセントがSCLCである(Schiller、2001)。米国癌学会(American Cancer Society)によると、NSCLCの患者に対する5年生存率は15%未満である。NSCLCは処置が特に困難であることが判明している(Fryら、1999;Ihde、1992)。肺の悪性腫瘍は全世界で100万人を超える死者をもたらし、流行性疾患となっている(Jemalら、2002)。肺癌は診断が困難であり、有効な治療法がないことから、生命に関わる病気である。推奨される処置は手術であるが、化学療法および放射線療法は、局在的に進行した疾患を治癒するための処置戦略の一部として、または転移性腫瘍に対する緩和療法としての役割を有する(Thongprasertら、1999)。しかし、特に高用量が投与されるときに細胞毒性薬物特異性がないことと、その結果生じる有毒の副作用とのために、この処置形式の使用はしばしば制限される。よって、悪い予後を与える分子変化を理解し、その情報を用いて診断および患者の管理を改善する必要性が高く、当該技術分野においてはより有効な癌処置が必要とされている。
【0027】
癌治療法の主要な目的は、正常な組織を残しながら癌細胞を完全に根絶することである。この目的は、悪性の部位における癌細胞の選択的ターゲティングを必要とする。抗癌薬の選択毒性は、疾患組織に達する薬物の用量を増やすか、または正常な組織に達する薬物の用量を減らすことによって増加できるが、理想的には両方が起こる。したがって、抗癌治療のリガンド介在型ターゲティングが探索されている(Allen、2002)。
【0028】
リガンド標的療法の基礎をなす基本理念は、癌細胞または癌に関連する内皮、線維芽細胞およびリンパ球への化学療法薬物の送達である。癌細胞およびその微小環境の選択的ターゲティングは、正常な組織よりも標的細胞において固有に発現されるかまたは過剰発現される抗原または受容体またはその他の分子に結合する分子に薬物を関連付けることによって高めることができる(AllenおよびCullis、2004;Arapら、1998;HuおよびKavanagh、2003;RosenkildeおよびSchwartz、2004)。この戦略は、癌細胞への薬物の特異的送達を可能にし、抗癌処置に対する治療効果を増加させる(AllenおよびCullis、2004;Arapら、1998;HuおよびKavanagh、2003;RosenkildeおよびSchwartz、2004)。
【0029】
細胞毒性薬物、たとえばシクロホスファミド、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、およびその他数ダースの薬物などは、継続的な増殖を行なっている細胞において最も高い致死活性を有し、多くの一般的な腫瘍タイプの細胞は活発に分裂するため、これらの薬物は多くのタイプの癌の処置において有用であった。典型的に細胞毒性の影響に最も弱い正常な組織は、頻繁に分裂する組織、たとえば骨髄、消化管の上皮内壁、および毛包などを含む(HerbstおよびSandler、2004)。化学療法によってNSCLCの患者を延命できることは周知である。進行したNSCLCに対する化学療法の最近発表された臨床試験では、1990年代に開発された薬物、たとえばパクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、およびイリノテカンなどが使用された(Lynchら、2004)。したがって、進行したNSCLCの高齢の患者に対する現在の標準的な化学療法は、単剤化学療法に対するビノレルビンの使用である(Kellyら、2001)。ビノレルビンは、微小管集合を妨げるビンカアルカロイドである。ビノレルビンの抗腫瘍活性は、主にチューブリンとの相互作用を通じた中期の有糸分裂の阻害によるものと考えられている(Ramalingam、2005)。細胞毒性化学療法はいくつかの癌の処置に対して大きな影響を有したが、ほとんどの固形腫瘍に対するその効果は制限される(Parkinら、2001)。
【0030】
本発明者らはファージディスプレイ技術を用いて、NSCLC細胞系に特異的に結合できるファージクローンを同定した。ペプチドは、癌細胞にホーミングする、または癌細胞を標的とするその能力によっても記載される。「ホーミングする(home)」、「ホーミング(homing)」、「標的(target)」および「ターゲティング(targeting)」という用語は相互交換可能に用いられる。バイオパニング(biopanning)の第5ラウンドにおいては、選択されたファージクローンの結合活性がバイオパニングの第1ラウンドに比べて40倍増加した。ELISAによってCL1−5細胞上の特異的結合ファージをスクリーニングした結果、PC5−2と呼ばれる1つのファージクローンがCL1−5細胞に結合するファージのうち最大量の(選択されたファージの90%を占めた)ものであることが明らかになった(表1)。
【0031】
免疫組織化学的研究によって、PC5−2はNSCLC細胞に対する特異的な結合活性を有することがさらに確認された(図2A)。PC5−2に提示されるペプチドがNSCLC細胞に特異的に結合できることを確かめるため、本発明者らはその同族の合成ペプチドSP5−2を用いて、細胞上のPC5−2と同じ結合部位を競合させた。蛍光染色およびフローサイトメトリ分析の結果から、SP5−2はPC5−2のNSCLC細胞への結合を阻害できたことが示された(図2Bおよび図2C)。これらの結果から、PC5−2はファージ粒子の別の部分ではなくそれが提示するペプチドによって癌細胞と相互作用したことが示される。
【0032】
何種類のNSCLC細胞系がSP5−2によって認識できる標的分子を発現するかを確かめるため、本発明者らはFITC標識したSP5−2を合成してその結合活性を特徴付けた。免疫蛍光染色およびフローサイトメトリを用いて5つの異なるタイプのNSCLC細胞系を分析したところ、これらの細胞系はSP5−2による細胞表面結合の程度が異なっていることを本発明者らは定めた(図3Aおよび図3B)。これら5つのNSCLC細胞系の細胞膜が、SP5−2によって認識され得る未知の分子を発現することは明らかである。SP5−2のNSCLC細胞系との結合率を測定したとき、各系のNSCLC細胞の20.1%から45.8%がSP5−2によって検出できた(図3B)。
【0033】
SP5−2がNSCLCの診断および処置に対する薬物送達剤としての可能性を有するかどうかを確かめるため、本発明者らはビオチン標識したPC5−2を合成し、これを用いて、免疫組織化学によって肺癌患者からの肺腺癌生検試料を検出した。PC5−2およびビオチン標識したSP5−2はどちらもNSCLC生検試料を検出できた(図3C)。10人の患者からの肺腺癌の50パーセント(5/10)が、このペプチドによって検出できる標的分子を発現する。
【0034】
PC5−2の腫瘍ホーミング能力をテストするために、本発明者らはモデルとしてヒト肺癌異種移植片を有するマウスを用いた。インビボのホーミング実験から、PC5−2は腫瘍組織に対してより高い親和性を有することが示され、たとえば肺、心臓および脳などの正常な器官へのこのファージの特異的な結合は見出されなかった(図4A)。ペプチド競合的阻害アッセイが行なわれたとき、PC5−2の腫瘍組織との結合活性は合成ペプチドSP5−2によって阻害された(図4B)。これらの結果は、この合成ペプチドがそれぞれのファージと同じ結合部位に特異的に結合できたことを示唆するものである。
【0035】
ホーミングファージの腫瘍塊および正常な器官における局在化を同定するために、肺癌を有するSCIDマウスにPC5−2を静脈内注射し、次いで組織切片を用いて抗M13モノクローナル抗体によってファージを局在化した。PC5−2の免疫組織化学的局在化から、このファージは腫瘍組織中には局在化したが、脳、肺および心臓組織には局在化しなかったことが示され(図4C)、PC5−2は異種移植片腫瘍細胞に特異的に結合できるが正常な組織および細胞には結合しないという本発明者らの結論がさらに支持された。本発明者らの結果から、PC5−2およびバイオパニングを通じて単離されたその他のペプチドを、リガンド標的療法のための薬物送達剤として、または肺癌もしくはその他の癌に対する診断試薬として用い得ることが示された。
【0036】
リガンド標的療法を開発するために、本発明者らは化学療法薬物のビノレルビン(SP5−2−Lipo−Vin)またはドキソルビシン(SP5−2−Lipo−Dox)を有する、SP5−2に結合されたリポソームを調製した。SP5−2−Lipo−Vinは、NSCLC異種移植片を有するSCIDマウスにおける治療効果の改善を示し、かつこの動物に対する特定の副作用を有さず(図5Aおよび図5B)、臓器毒性の組織学的証拠も有さなかった。SP5−2−Lipo−VinおよびLipo−Vinの腫瘍成長に対する影響を比較すると、治療法の42日後には腫瘍サイズに顕著な差が見出された(P<0.05)が、Lipo−Vin処置によっても腫瘍成長は部分的に阻害されていた(図5A)。Lipo−Vinによるこの部分的な阻害は、「漏出性の」微小血管系および腫瘍範囲を支えるリンパ系の障害を通じた、腫瘍組織におけるリポソームの非特異的付加の蓄積によるものかもしれない(Huangら、1992;Jain、1996;MatsumuraおよびMaeda、1986)。この影響はしばしば、透過性および滞留性向上効果(enhanced permeability and retention effect)と呼ばれる(MatsumuraおよびMaeda、1986)。受動的に標的にされるリポソームLipo−Vinを用いても癌を処置できるが、しばしば「能動的」ターゲティングと呼ばれる、リガンド標的療法によって可能にされるより高くより選択的な抗癌活性によって、これを改善できる。抗腫瘍効果を高めることに加えて、SP5−2−Lipo−VinはLipo−Vinよりも副作用を減少させた(図5B)。
【0037】
本発明者らは、SP5−2−Lipo−Vin、Lipo−VinおよびPBS溶液によって別々に処置した後の動物の生存率を比較し、動物を102日間観察した。SP5−2−Lipo−Vin処置群の生存率は80%だったのに対し、Lipo−Vin処置群の生存率は40%しかなく、PBS処置群では腫瘍マウスの生存は示されなかった(生存率0%)(図5C)。これらの現象から、Lipo−VinをSP5−2ペプチドと結合することによって腫瘍成長阻害の効果が増し、NSCLC異種移植片を有するSCIDマウスの寿命が顕著に長くなることが示唆される。SP5−2ペプチドはSCIDマウスにおけるNSCLC異種移植片に対する薬物の効果を高めただけでなく、薬物の毒性も低減した。Lipo−Vin処置マウスの体重変化は、SP5−2−Lipo−VinおよびPBS処置マウスに比べて60%減少した(図5B)。SP5−2−Lipo−Vinによる治療指数の向上は、NSCLCを標的とする薬物送達系の重要な臨床的可能性を示す(図5)。
【0038】
これらの結果から、本発明者らの腫瘍特異的ホーミングペプチドはターゲティング療法に対する治療薬剤として機能できるだけでなく、イメージングプローブとしてNSCLCの腫瘍組織をターゲティングするための分子ツールとしても働き得ることが示される。この標的リガンドは、NSCLCの細胞膜上の標的タンパク質またはその他の分子を同定するためにも有用であり得る。
【0039】
まとめると、本発明者らは、ファージディスプレイペプチドライブラリを用いてNSCLC細胞をスクリーニングすることによって、インビトロおよびインビボの両方でNSCLC細胞の細胞表面に特異的に結合できる、SP5−2を含む新規のペプチドを同定した。このターゲティングペプチドは、ビノレルビン、ドキソルビシンまたはその他の薬剤を含有するリポソームに結合でき、その結果全身性の副作用なしに治療効果および生存率を増加できる。SP5−2ペプチドはNSCLC細胞への薬物送達のための優れた薬剤であると考えられ、NSCLCの処置における薬物送達系として強力な臨床的可能性を有する。
【0040】
参考文献
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

定義
本明細書において用いられる用語は以下に示すとおりの通常の意味を有し、明細書の文脈においてさらに理解されてもよい。
【0051】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド配列」、および「ヌクレオチド配列」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのヌクレオチドの重合形をいう。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそれらの類似体もしくは誘導体を含有し得る。本明細書に示されるヌクレオチド配列は5’から3’の方向にリストされる。
【0052】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのアミノ酸の重合形を示し、それは天然に発生するアミノ酸、コードおよび非コードアミノ酸、化学的または生化学的に修飾、誘導されたアミノ酸またはデザイナーアミノ酸(designer amino acid)、アミノ酸類似体、ペプチド模倣薬およびデプシペプチド、ならびに修飾された、環状の、二環状の、デプシ環状の(depsicyclic)またはデプシ二環状の(depsibicyclic)ペプチドバックボーンを有するポリペプチドを含んでもよい。この用語は1本鎖タンパク質およびマルチマーを含む。この用語は、以下のものに結合されたタンパク質も含む:たとえばFITC、ビオチン、ならびに64Cu、67Cu、90Y、99mTc、111In、124I、125I、131I、137Cs、186Re、211At、212Bi、213Bi、223Ra、241Am、および244Cmを含むがこれらに限定されない放射性同位元素などの標識;検出可能な生成物を有する酵素(たとえば、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなど);蛍光剤および蛍光標識、蛍光発光金属、たとえば152Eu、またはその他のランタニド系列、電気化学発光化合物、化学発光化合物、たとえばルミノール、イソルミノールまたはアクリジニウム塩など;特異的結合分子、たとえば磁性粒子、微小球、ナノ球体など。この用語は、治療薬剤に結合されたペプチドも含む。
【0053】
この用語は融合タンパク質も含み、この融合タンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(glutathione S−transferase:GST)融合タンパク質、たとえばルシフェリンまたはエクオリン(緑色蛍光タンパク質)などの生物発光タンパク質などの異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質、異種および同種リーダー配列を有する融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有する融合タンパク質または有さない融合タンパク質、ペグ化タンパク質、ならびに免疫学的にタグ付けされたタンパク質またはhisタグ付けされたタンパク質を含むが、これらに限定されない。こうした融合タンパク質はエピトープとの融合も含む。こうした融合タンパク質は、本発明のペプチドのマルチマー、たとえばホモダイマーまたはホモマルチマー、ならびにヘテロダイマーおよびヘテロマルチマーなどを含んでもよい。この用語はペプチドアプタマーも含む。
【0054】
本発明のペプチドは、ペプチドの生物学的に活性な変異体を含み、こうした変異体は構造が実質的に同様である。ポリペプチド配列の変異体は、対象のポリペプチドに比べて挿入、付加、欠失または置換を含んでいてもよい。ポリペプチド配列の変異体は、生物学的に活性な多形変異体を含む。
【0055】
本発明のペプチドは、天然に発生するアミノ酸および天然に発生しないアミノ酸を含んでもよい。ペプチドはD−アミノ酸、D−およびL−アミノ酸の組合せ、およびさまざまな「デザイナー」または「合成」アミノ酸(たとえば、β−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、およびNα−メチルアミノ酸など)を含むことによって特別な特性を有してもよい。加えて、ペプチドは環状であってもよい。ペプチドは非古典的アミノ酸を含むことによって特定の立体構造モチーフを導入してもよい。あらゆる公知の非古典的アミノ酸が用いられてもよい。以下を含むがそれらに限定されないアミノ酸類似体およびペプチド模倣薬をペプチドに組み込むことによって、特定の二次構造を誘導または有利にしてもよい:LL−Acp(LL−3−アミノ−2−プロペニドン(propenidone)−6−カルボン酸)、β−ターンを誘導するジペプチド類似体;β−シートを誘導する類似体;β−ターンを誘導する類似体;α−へリックスを誘導する類似体;γ−ターンを誘導する類似体;Gly−Alaターン類似体;アミド結合アイソスター;またはテトラゾール(tretrazol)など。
【0056】
ペプチドの末端部にデスアミノまたはデスカルボキシ残基を組み込むことによって、末端アミノ基またはカルボキシル基をなくして、プロテアーゼに対する感受性を低下させるか、または立体構造を制限してもよい。C末端官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、およびカルボキシ、ならびにそれらの低級エステル誘導体、ならびにそれらの医薬的に許容できる塩を含む。
【0057】
「リポソーム」という用語は、内部の水性空間を囲む外側の脂質二重層または多層の膜を含む組成物をいう。この用語は多重膜リポソームを含み、これは一般的に約1マイクロメートルから約10マイクロメートルの範囲の直径を有し、水相の層と交互になった2から数百の同心の脂質二重層を含む。この用語は、単一脂質層からなり、一般的に約20ナノメートルから約400ナノメートル(nm)、約50nmから約300nm、約300nmから約400nm、または約100nmから約200nmの範囲の直径を有する単層膜の小胞を含む。この用語は、約65nmから約75nmの直径を有するリポソームも含む。
【0058】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、特定の抗原を認識して結合できる、たとえば免疫系によって、合成によって、または組換えによって生成されるものなどのタンパク質を示す。抗体は当該技術分野において一般的に公知であり、当該技術分野において公知の方法によって調製できる。
【0059】
「エピトープ」とは抗体が結合する分子であり、それはポリペプチド中のアミノ酸残基の隣接する配列であってもなくてもよく、他の化学構造を有する糖および/または分子を含んでもよい。
【0060】
ポリヌクレオチドの状況における「特異的に結合する」という用語は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションを示す。DNA/DNAおよびDNA/RNA両方のハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増大させる条件は、当該技術分野において広く公知であり公表されている。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例には、約65〜70℃での4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーション、または約42〜50℃での4×SSCに50%ホルムアミドを加えたものにおけるハイブリダイゼーションの後に、約65〜70℃での1×SSCにおける1回またはそれ以上の洗浄が行なわれるものが含まれる。
【0061】
「リガンド」という用語は、受容体を含む、別の分子に結合する分子を示す。
【0062】
「宿主細胞」とは、あらゆる組換えベクターまたは単離されたポリヌクレオチドのレシピエントとなり得るかまたはレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物である。宿主細胞は単一の宿主細胞の子孫を含み、その子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な突然変異および/または変化のために、必ずしも(形態または全体のDNA相補体が)元の親細胞と完全に同一でないことがある。宿主細胞は、インビボまたはインビトロで本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドによってトランスフェクトまたは感染された細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と呼ばれてもよい。
【0063】
「試料」とは、患者に由来するあらゆる生体試料である;この用語は、生物学的な流体、たとえば血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、涙、唾液、リンパ、透析液、洗浄液、精液、およびその他の液体サンプルなど、ならびに生体由来の細胞および組織を含むがそれらに限定されない。この用語は細胞またはその細胞に由来する細胞およびその子孫も含み、それは培養物中の細胞、細胞上清および細胞溶解物を含む。この用語はさらに、器官または組織培養由来の流体、組織生検サンプル、腫瘍生検サンプル、糞便サンプル、および生理学的組織から抽出された流体、ならびに固体組織から分離された細胞、組織切片、および細胞溶解物を含む。この定義は、たとえば試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドもしくはポリペプチドなどの特定の成分に対する濃縮などによって、調達後にあらゆる態様で処理されたサンプルを含む。この用語には、患者サンプルの誘導体および画分も含まれる。患者サンプルは、診断、予後またはその他のモニタリングアッセイに用いられてもよい。試料はヒトの患者またはヒト以外の哺乳動物からのものであってもよい。
【0064】
本明細書において用いられる「処置」は、ヒトを含む哺乳動物における疾患に対する治療のあらゆる投与または適用を含み、それは、たとえば退縮をもたらすか、または機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復することなどによる疾患の阻害、疾患の進行の阻止、もしくは疾患の緩和;または非効率的なプロセスの刺激を含む。この用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを含み、ヒトを含む哺乳動物における病理学的状態または障害のあらゆる処置を含む。その効果は、障害もしくはその症状を完全もしくは部分的に防ぐという観点から予防的であってもよく、ならびに/または、障害および/もしくはその障害に起因し得る悪影響に対する部分的もしくは完全な治癒という観点から治療的であってもよい。よって本発明は、処置および予防の両方を提供する。本発明は以下を含む:(1)障害を起こす可能性があるがまだ症状が出ていない対象において、障害の発生または再発を防ぐこと、(2)障害の進行を阻止するなど、障害を阻害すること、(3)障害または少なくともそれに伴う症状を停止または終結させることによって、宿主がもう障害またはその症状に苦しまないようにすること、たとえば、機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復するか、または非効率的なプロセスを刺激することなどによって、障害またはその症状の退縮をもたらすことなど、または(4)障害またはそれに伴う症状を緩和、軽減または改善すること、ここで改善とは広い意味で用いられ、少なくとも、炎症、痛みおよび/または腫瘍サイズなどのパラメータの大きさの低減を示す。
【0065】
「医薬的に許容できる担体」とは、あらゆる従来型の非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料(encapsulating material)、調合補助剤(formulation auxiliary)、または賦形剤を示す。医薬的に許容できる担体は、使用される用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、処方物の他の成分と適合できる。
【0066】
本明細書における「医薬組成物」とは、当該技術分野において従来のものであって、かつ治療、診断または予防の目的のための対象への投与に適した、たとえば医薬的に許容できる担体または賦形剤などの担体を通常含有する混合物を示す。医薬組成物は、細胞または培養液中にポリペプチドまたはポリヌクレオチドが存在する細胞培養物を含んでもよい。たとえば、経口投与のための組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性処方物、口腔リンス液、または粉末を形成してもよい。
【0067】
「疾患」とは、医療介入を必要とするか、または医療介入を行なうことが望ましいようなあらゆる状態、感染症、障害または症候群を示す。こうした医療介入は、処置、診断および/または予防を含み得る。
【0068】
「癌」とは、あらゆる異常な細胞または組織の成長であり、たとえば悪性、前悪性または良性の腫瘍などである。癌は、細胞の無制御の増殖を特徴とし、それは周囲の組織に侵入することもしないこともあるし、新たな身体部位に転移することもしないこともある。癌は、上皮細胞の癌である癌腫を含む;癌腫は、扁平上皮癌、腺癌、黒色腫、および肝癌を含む。癌は、間充織由来の腫瘍である肉腫も含む;肉腫は、骨原性肉種、白血病およびリンパ腫を含む。癌は、1つまたはそれ以上の新生物細胞型を含んでもよい。癌という用語は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌を含む。
【0069】
細胞系
有用な細胞系は、A549、ヒト肺扁平上皮癌系、CL1−5、高転移性ヒト肺腺癌系、H23、ヒト肺腺癌系、H460、ヒト肺大細胞癌系、PC13、ヒト肺癌系、NPC−TW01、ヒト上咽頭癌系、SAS、ヒト口腔扁平上皮癌系、PaCa、ヒト膵臓癌、NNM、ヒト正常鼻粘膜上皮、および線維芽細胞を含む。A549、H23、H460、PC13、PaCaおよびSASは、American Type Culture Collectionから入手可能である。CL1−5およびNPC−TW01細胞系は、それぞれ(Chuら、1997)および(Linら、1990)によって樹立された。
【0070】
ペプチドの調製
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の方法を用いて発現できる。本発明のペプチドを生産するためには、細胞に基づく方法および無細胞の方法が好適である。一般的に、細胞に基づく方法は、インビトロで宿主細胞に核酸構築物を導入する工程と、発現に適した条件下で宿主細胞を培養する工程と、次いで培養液もしくは(たとえば、宿主細胞を破壊することなどによって)宿主細胞のいずれかから、またはその両方からペプチドを採取する工程とを含む。本発明は、当該技術分野において周知の無細胞インビトロ転写/翻訳方法を用いてペプチドを生成する方法も提供する。
【0071】
好適な宿主細胞は原核細胞または真核細胞を含み、たとえば細菌、酵母、真菌、植物、昆虫および哺乳動物の細胞などを含む。
【0072】
典型的には、異種ペプチドは、修飾されていても修飾されていなくても、上述のとおりに単独で、または融合タンパク質として発現されてもよく、分泌シグナルだけでなく分泌リーダー配列を含んでもよい。本発明の分泌リーダー配列は、特定のタンパク質をERに向けてもよい。ERは膜結合タンパク質をその他のタンパク質から分離する。一旦ERに局在化されると、タンパク質はさらに、分泌小胞を含む小胞;細胞膜、リソソーム、およびその他の小器官への分配のためにゴルジ体に向けられてもよい。
【0073】
加えて、ペプチドにペプチド部分および/または精製タグが加えられてもよい。こうした領域は、ポリペプチドの最終的調製の前に取除かれてもよい。ポリペプチドにペプチド部分を付加することによって、特に分泌または排出を誘発したり、安定性を改善したり、精製を容易にしたりすることは、当該技術分野においてよく知られた慣用技術である。好適な精製タグは、たとえばV5、ポリヒスチジン、アビジンおよびビオチンなどを含む。ペプチドをビオチンなどの化合物に結合することは、当該技術分野において周知の技術を用いて達成できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press)。ペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて、放射性同位元素、毒素、酵素、蛍光標識、コロイド金、核酸、ビノレルビン、およびドキソルビシンにも結合できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press;Stefanoら(2006)A conjugate of doxorubicin with lactosaminated albumin enhances the drug concentrations in all the forms of rat hepatocellular carcinomas independently of their differentiation grade.Liver Int.26:726−33)。毒素は当該技術分野において公知のものである。KreitmanおよびPastan、Immunotoxins in the treatment of hematologic malignancies.Curr Drug Targets.7:1301−11(2006)。
【0074】
本発明における使用のために好適な融合パートナーは、たとえば、フェチュイン、ヒト血清アルブミン、Fc、および/またはそれらの断片の1つもしくはそれ以上などを含む。たとえばポリエチレングリコール結合体などの結合タンパク質も提供される。
【0075】
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて化学的に合成することもできる(例、Hunkapillerら、Nature、310:105 111(1984);Grant編(1992)Synthetic Peptides,A Users Guide、W.H.Freeman and Co.;米国特許第6,974,884号を参照)。たとえば、ペプチド合成機の使用によって、または当該技術分野において公知の固相法の使用を通じて、ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドを合成できる。
【0076】
さらに、所望であれば、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸類似体を置換または追加としてポリペプチド配列に導入してもよい。非古典的アミノ酸は、一般的なアミノ酸のD異性体、2,4−ジアミノ酪酸、a−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、Abu、2−アミノ酪酸、g−Abu、e−Ahx、6−アミノヘキサン酸、Aib、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、b−アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、たとえばb−メチルアミノ酸、Ca−メチルアミノ酸、Na−メチルアミノ酸など、および一般的なアミノ酸類似体を含むがそれらに限定されない。さらに、アミノ酸はD(右旋性(dextrorotary))またはL(左旋性(levorotary))であってもよい。
【0077】
本発明のポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィ、リン酸セルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、およびレクチンクロマトグラフィを含むがそれらに限定されない標準的な方法によって、化学合成および組換え細胞培養物から回収および精製されてもよい。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」)が精製に使用される。単離および/または精製の際にポリペプチドが変性したときは、タンパク質をリフォールディングするための周知の技術を用いて活性の立体構造を再生してもよい。
【0078】
本発明のペプチドまたはペプチド模倣薬(peptidomimetic)は、さまざまな親水性ポリマーの1つまたはそれ以上で修飾するか、またはそれと共有結合させることによって、ペプチドの可溶性および循環半減期を増加させることができる。ペプチドに結合させるために好適な非タンパク質親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、たとえばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールによって例示されるものなど、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオキシアルケン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロースおよびセルロース誘導体、デキストランおよびデキストラン誘導体を含むがこれらに限定されない。一般的に、こうした親水性ポリマーの平均分子量は、約500ダルトンから約100,000ダルトン、約2,000ダルトンから約40,000ダルトン、または約5,000ダルトンから約20,000ダルトンの範囲である。ペプチドは、以下において示される方法のいずれかを用いて、こうしたポリマーによって誘導化されるか、またはそれらに結合されてもよい(Zallipsky,S.(1995)Bioconjugate Chem.、6:150−165;Monfardini,C.ら(1995)Bioconjugate Chem.、6:62−69;米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号、第4,179,337号、またはWO95/34326号)。
【0079】
リポソームの調製
リポソームを調製するためのさまざまな方法が当該技術分野において公知であり、そのいくつかはLichtenbergおよびBarenholzによって、Methods of Biochemical Analysis、第33巻、337−462(1988)に記載されている。以前に記載される薄膜水和反応(thin film hydration)と、反復押出し(repeated extrusion)との標準的な方法の組合せによって、小単層膜リポソーム(small unilamellar vesicle:SUV、サイズ<100nm)を調製できる(Tsengら、1999)。特にリポソームによるDNAの封入を含む調製法、およびリポソーム介在型トランスフェクションへの直接適用を有する方法は、HugおよびSleightら(1991)によって記載されている。リポソームを作成する方法は、米国特許第6,355,267号および米国特許第6,663,885号にも開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−derivatized phosphatidylethanolamine:PEG−PE)を含む脂質組成物による逆位相蒸着法によって生成できる。リポソームを定められたポアサイズのフィルタから押出すことによって、所望の直径のリポソームを得る。
【0080】
リポソームは、たとえばTaiwan Liposome Company、Taipei Taiwanなどの供給源から商業的に入手することもできる。付加的な商業的に入手可能なリポソームは、TLC−D99、Lipo−Dox、Doxil、DaunoXome、AmBisome、ABELCET、transfectace(DDAB/DOPE)、ならびにDOTAP/DOPEおよびLipofectinを含む。
【0081】
本発明のリポソームは、リン脂質から調製されることが最も多いが、疎水性および親水性部分の両方を有する類似の分子形および寸法のその他の分子が用いられてもよい。本発明の目的に対して、すべてのこうした好適なリポソーム形成分子は、本明細書において脂質と呼ばれる。リポソームの調製には、1つまたはそれ以上の天然に発生する脂質化合物および/または合成脂質化合物が用いられてもよい。
【0082】
リポソームは、親水性基の選択によって、アニオン、カチオンまたは中性であってもよい。たとえば、リン酸基または硫酸基を有する化合物が用いられるときには、得られるリポソームはアニオンになる。アミノを含有する脂質が用いられるときには、リポソームは正電荷を有し、カチオンリポソームとなる。
【0083】
本発明において有用な最初のリポソームを形成するための代表的な好適なリン脂質または脂質化合物は、リン脂質関連材料、たとえばホスファチジルコリン(レシチン)、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン(ケファリン)、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、リン酸ジセチル、ホスファチジルコリン、およびジパルミトイルホスファチジルグリセロールなどを含むが、これらに限定されない。付加的な非リン(non−phosphorous)脂質は、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、アセチルパルミチン酸塩、グリセロールリシノール酸塩、ヘキサデシルステアリン酸塩(hexadecyl sterate)、イソプロピルミリステート、両性アクリルポリマー、脂肪酸、脂肪酸アミド、コレステロール、コレステロールエステル、ジアシルグリセロール、ジアシルグリセロールコハク酸塩などを含むが、これらに限定されない。
【0084】
本発明における使用のためのリポソーム調製物は、カチオン(正に荷電した)調製物、アニオン(負に荷電した)調製物、および中性調製物を含む。
【0085】
化合物のリポソーム内への遠隔負荷(remote loading)には、膜貫通勾配の形成が用いられる(CehおよびLasic、1995)。この方法は、リポソーム内に負荷すべき化合物とボロン酸化合物とを懸濁リポソームとともにインキュベートすることによって、リポソーム内に化合物を蓄積させる工程を含む(Ceh B.およびLasic D.D.、1995;米国特許第6,051,251号)。
【0086】
リン酸塩アッセイを用いてリポソーム濃度を定めてもよい。リン酸塩アッセイの1つは、モリブデン酸塩とマラカイトグリーン色素との相互作用に基づくものである。主要な原理は、無機リン酸塩とモリブデン酸塩とを反応させて無色の非還元リンモリブデン酸塩複合体を形成することを含み、この複合体は酸性条件下で還元されるときに青色の複合体に変えられる。リンモリブデン酸塩はマラカイトグリーンと複合体を形成すると20倍から30倍多く発色する。最終生成物である還元された緑色の可溶性複合体は、620nmにおける吸光度によって測定され、これは溶液中の無機リン酸塩の直接的な尺度である。
【0087】
いくつかの実施形態において、リポソームは、当該技術分野において多様なものが公知である医薬的に許容できる担体、賦形剤および希釈剤を有する処方物中に与えられる。これらの医薬的担体、賦形剤および希釈剤は、USP医薬賦形剤リストにリストされるものを含む。USP and NF Excipients,Listed by Categories、p.2404−2406、USP 24 NF 19、United States Pharmacopeial Convention Inc.、Rockville,Md.(ISBN1−889788−03−1)。医薬的に許容できる賦形剤、たとえばビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は、一般に容易に入手可能である。さらに、医薬的に許容できる補助的物質、たとえばpH調整および緩衝剤、張度調整剤(tonicity adjusting agent)、安定剤、湿潤剤などは、一般に容易に入手可能である。
【0088】
好適な担体は、水、デキストロース、グリセロール、食塩水、エタノール、およびそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。担体は、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、または処方物の効果を高めるアジュバントなどの付加的な薬剤を含有してもよい。局所的担体は、液体石油、イソプロピルパルミテート、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、または水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)を含む。必要に応じて他の材料、たとえば抗酸化剤、湿潤剤、粘性安定剤、および類似の薬剤などが加えられてもよい。たとえばAzoneなどの経皮浸透促進剤が含まれてもよい。
【0089】
医薬用量の形において、本発明の組成物は医薬的に許容できる塩の形で投与されてもよく、さらに単独で用いられても、または他の医薬的に活性の化合物との適切な結合および組合せにおいて用いられてもよい。対象組成物は、可能な投与のモードに従って調合される。
【0090】
処置の方法
治療薬を含む本発明のペプチドまたはリポソームは、全身的な注射、たとえば静脈注射などによって;または関連部位への注射または適用、たとえば腫瘍への直接注射、もしくは手術中にその部位が露出しているときにはその部位への直接適用などによって;または、たとえば皮膚に障害があるときなどには局所適用によって、処置を必要とする対象に投与されてもよい。
【0091】
本発明のペプチドまたはリポソームは、単独療法として用いられてもよい。代替的には、本発明のペプチドまたはリポソームは、癌を処置するための標準的な化学療法または放射線療法と組合せて用いられてもよい。
【0092】
本発明のペプチドは、処置のために抗体を癌細胞にターゲティングするために用いられてもよい。一実施形態においては、本発明のペプチドが処置を必要とする対象に投与された後に、そのペプチドに特異的に結合する抗体が投与される。ターゲティングされる抗体は、抗体依存性の細胞毒性または相補体依存性の細胞毒性を媒介してもよく、または標的分子の基礎をなす機能を変更してもよい。こうした抗体は抗体結合体の形で用いられることによって、標的組織に治療効果を有する薬剤を直接送達してもよい。こうした薬剤は、放射性核種、毒素、化学療法薬物および抗血管新生化合物を含む。
【0093】
薬剤の投与は、経口、口腔、経鼻、直腸、非経口、腹膜内、皮内、経皮、皮下、静脈内、動脈内、心臓内、心室内、頭蓋内、気管内、および髄腔内投与などを含むさまざまな方法で、または移植もしくは吸入による別様で達成されてもよい。よって、対象組成物は固体、半固体、液体または気体の形の調製物、たとえば錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座薬、注射薬、吸入剤、およびエアロゾルなどに処方されてもよい。以下の方法および賦形剤は単なる例示であって、いかなる態様でも限定するものではない。
【0094】
好適な賦形剤ビヒクル媒体は、たとえば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せである。加えて、所望であれば、ビヒクルは少量の補助的物質、たとえば湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤などを含有してもよい。こうした投薬形態を調製する実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかになる。いずれにせよ、投与される組成物または処方物は、処置される対象における所望の状態を達成するために適切な量の薬剤を含有する。
【0095】
本発明のリポソームまたはペプチドは、水性溶媒または非水系溶媒、たとえば植物油またはその他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルなどに;所望であれば従来の添加剤、たとえば溶解剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、および保存剤などとともに、溶解、懸濁または乳化させることによって、注射のための調製物に処方されてもよい。当該技術分野における従来どおりの、経口または非経口送達のためのその他の処方物が用いられてもよい。
【0096】
本発明のリポソームまたはペプチドは、癌の処置および血管新生の阻害に用いられてきたさまざまな薬物の1つまたはそれ以上を含んでもよく、その薬物は、ビノレルビン、シスプラチン、ゲムシタビン、パクリタキセル、エトポシド、Novantrone(ミトキサントロン)、アクチノマイシンD、カンプトテシン(camptohecin)(またはその水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(たとえばマイトマイシンCなど)、ダカルバジン(DTIC)、シクロホスファミド、ならびに抗新生物性抗生物質、たとえばドキソルビシンおよびダウノマイシンなど、またはたとえばDe Vitaら、2001などに記載されるその他のものを含むが、それらに限定されない。リポソームまたはペプチドは、細胞毒性薬物、オリゴヌクレオチド、毒素および放射性分子も含んでもよい。リポソームまたはペプチドは、(Ngら、2006)に記載される抗VEGFアプタマーなどの化合物も含んでもよい。
【0097】
癌療法において用いられる薬物は、癌細胞に対する細胞毒性もしくは細胞増殖抑制の効果を有してもよく、または悪性細胞の増殖を低減させてもよい。癌処置に用いられる薬物はペプチドであってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、放射線療法と組合されてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、(De Vitaら(2001))に記載される治療アプローチとともに付属的に用いられてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドと第2の抗癌剤とが癌細胞に対して相乗効果を及ぼすような組合せに対しては、第2の薬剤の用量は、第2の薬剤が単独で投与されるときの標準的な用量よりも減らされてもよい。癌細胞の感受性を増加させるための方法は、本発明のリポソームまたはペプチドを、癌細胞の感受性を高めるために有効な量の化学療法の抗癌薬と共投与する(co−administering)工程を含む。共投与は同時投与であっても、または非同時投与であってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、処置療法の過程において他の治療薬剤とともに投与されてもよい。一実施形態において、本発明のリポソームまたはペプチドと、他の治療薬剤との投与は連続的である。適切な時間経過は、患者の病気の性質および患者の状態などの因子に従って医師によって選択されてもよい。
【0098】
診断方法
疾患特異的バイオマーカの検出は、有効なスクリーニング戦略を提供する。早期の検出は早期の診断を与えるだけでなく、癌の場合には多形性をスクリーニングし、手術後の残余腫瘍細胞および潜在性の転移、すなわち腫瘍再発の初期指標を検出することを可能にできる。よって疾患特異的バイオマーカの早期検出は、診断前、処置の最中および寛解期の患者における生存性を改善できる。
【0099】
本発明のペプチドは、疾患に対する診断または予後として用いられてもよい。ペプチドは、ELISA、ウエスタンブロット、蛍光、免疫蛍光、免疫組織化学、またはオートラジオグラフィを含むがこれらに限定されないいくつかの方法で、診断として用いられてもよい。
【0100】
本発明の抗体は、癌を検出するために本発明のペプチドと組合せて用いられてもよい。いくつかの実施形態において、そのアッセイは、癌細胞に結合した本発明のペプチドと抗体との結合を検出する結合アッセイである。対象ポリペプチドまたは抗体は固定されてもよく、対象ポリペプチドおよび/または抗体は検出可能になるよう標識されてもよい。たとえば、抗体は直接標識されても、または標識された二次抗体によって検出されてもよい。すなわち、抗体に対する好適な検出可能な標識は、目的のタンパク質に対する抗体を標識する直接標識と、目的のタンパク質に対する抗体を認識する抗体を標識する間接標識とを含む。別の実施形態において、ペプチドは標識を含み、ペプチドの組織への結合は標識の存在をアッセイすることによって検出される。
【0101】
スクリーニング方法
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体リガンドを同定するための方法を提供する。
【0102】
方法の1つにおいて、本発明のペプチドは、2ハイブリッドアッセイまたは3ハイブリッドアッセイ(例、米国特許第5,283,317号;Zervosら(1993)Cell、72:223−232;Maduraら(1993)J.Biol.Chem.268:12046−12054;Bartelら(1993)Biotechniques、14:920−924;Iwabuchiら(1993)Oncogene、8:1693−1696;およびSuterら(2006)Biotechniques、40:625−44を参照)における「ベイトタンパク質」として用いられることによって、本発明のペプチドと結合または相互作用する他のタンパク質を同定することができる。
【0103】
別の方法においては、本発明のペプチドが細胞抽出物とともにインキュベートされて、本発明のペプチドに結合する分子が同定される。方法の1つにおいて、本発明のペプチドはHPLCカラムなどの固体支持上に固定され、本発明のペプチドの標的分子への結合を促進する条件下で細胞抽出物が固定ペプチドに露出される。結合した分子は溶出され、質量分析法などの標準的な技術を通じて同定される。
【0104】
標的タンパク質のアフィニティ精製
肺癌細胞からタンパク質を溶解緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.4、150mMのNaCl、30μg/mlのDNアーゼ、1%のノニデットP−40、およびプロテアーゼ阻害剤(Complete tabs;Roche Molecular Biochemicals))によって4℃にて30分間抽出する。15,000×gでの20分間の遠心分離によって、タンパク質溶解物から.残屑を取除く。溶解物を最初に対照ペプチドを含有する1mlカラム上で予め清澄にし、SP5−52またはSP5−2ペプチド固定アフィニティカラムの第2の1mlカラムにフロースルーを直接添加する。カラムを洗浄して溶出する。単離されたタンパク質の純度をSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)によってモニタし、銀染色によって視覚化する。所望のタンパク質バンドを、トリプシンによるインゲル(in−gel)消化のためにゲルから切出す。その結果得られるポリペプチドをさらに質量分析法によって分析する。
【実施例】
【0105】
実施例は本発明を純粋に例示することが意図され、したがっていかなる態様でも本発明を制限すると考えられるべきでなく、さらに上記において議論した本発明の詳細な局面および実施形態をも説明するものである。
【0106】
実施例1.ファージディスプレイバイオパニング
A549、CL1−5、H23およびH460細胞を、2gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、および10%のウシ胎児血清を補ったRPMI1640中で、95%の空気および5%のCO2(v/v)の加湿された環境下で37℃にて生育した。NPC−TW01、PC13、SAS、PaCa、NNM、および線維芽細胞を、3.7gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、および10%のウシ胎児血清を含有するDMEM中で、90%の空気および10%のCO2(v/v)の加湿された環境下で37℃にて生育した。
【0107】
NSCLC、CL1−5細胞を無血清RPMIで洗浄し、次いでブロッキング緩衝液(1%BSAを含有する無血清RPMI)で4℃にて30分間ブロックした。細胞をUV処理した不活性対照ヘルパーファージ(挿入なしのファージ)とともに4℃にて1時間インキュベートした。非特異的結合を阻害した後、ファージディスプレイペプチドライブラリ(New England BioLabs、MA、USA)を加えて4℃にて1時間インキュベートした。結合したファージを、氷上の溶解緩衝液(150mMのNaCl、50mMのTris−HCl pH 8.0、1mMのEDTA pH 7.5、1%のNP−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS)によって溶出した。この溶出されたファージプールを、Escherichia coli ER2738培養物(New England BioLabs、MA、USA)中で増殖させて力価測定した。回収されたファージを、その後のラウンドのパニングに対する入力として用いた。第5ラウンドの選択後の溶出ファージを、LB/IPTG/X−Galプレート上で力価測定した。ファージ力価測定のために、5mlのLBにER2738の単一コロニーを接種し、対数期の中間部(OD600約0.5)まで振とうしながらインキュベートした。培養物が対数期の中間部に達したとき、200μlの培養物をミクロチューブに分配し、各希釈の10μlを各チューブに加えた後にチューブを迅速にボルテックスして、室温で5分間インキュベートした。感染した細胞を1つずつAgarose Top(Cambrex Bio Science Rockland,Inc.、ME、USA)を含有する培養管に移し、迅速に混合して直ちに予め温めたLB/IPTG/X−Galプレートの上に注ぐ。
【0108】
96ウェルELISAプレート(Falcon、CA、USA)に癌細胞および対照細胞を別々に播種した。細胞を無血清DMEMで洗浄し、次いでブロッキング緩衝液でブロックした。次いで、個々のファージ粒子を細胞被覆プレートに加えて4℃にて2時間インキュベートした後、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を結合したマウス抗M13モノクローナル抗体(Pharmacia、Sweden)とともにインキュベートし、次いでペルオキシダーゼ基質o−フェニレンジアミン二塩化水素化物(o−phenylenediamine dihydrochloride:OPD;Sigma、Germany)とともにインキュベートした。490nmにてマイクロプレートリーダを用いて反応を読取った。
【0109】
選択されたファージクローンをDNA配列決定によってさらに分析した。精製ファージのDNA配列を、自動DNA配列決定装置(ABI PRISM 377、Perkin−Elmer、CA、USA)を用いてジデオキシヌクレオチド鎖終止法に従って決定した。配列決定は、pIII遺伝子配列に対応するプライマ5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’[配列番号21]によって行なわれた。ファージディスプレイペプチド配列は、Genetics Computer Group(GCG)プログラムを用いて翻訳およびアラインメントされた。
【0110】
4ラウンドのバイオパニングの後、NSCLC、CL1−5細胞から溶出したファージの力価は第1ラウンドの30倍に増加し、第5ラウンドの選択では40倍に増加した(図1)。第3から第5バイオパニングラウンドからの濃縮ファージをランダムに選択して配列決定した。本発明者らはより高いCL1−5結合活性を有するファージクローンの配列も決定した。
【0111】
ファージPC3−1、PC4−1、PC4−5、PC5−2およびPC5−4は、コンセンサスモチーフのトリプトファン(W)−スレオニン(T)/チロシン(Y)−チロシン(Y)(表1)を提示する。興味深いことに、PC5−2は第3(PC3−1)、第4(PC4−1)および第5(PC5−2)バイオパニングラウンドにおいても現れた。各バイオパニングラウンドにおけるPC5−2の頻度は、第3サイクルの20%(1/5)から第5サイクルの90%(27/30)まで増加した(表1)。本発明者らはさらなる研究のために、ペプチドTDSILRSYDWTY(SP5−2)に注目した。
【0112】
実施例2.免疫組織化学による癌細胞に結合しているファージの同定
PC5−2がNSCLC細胞に特異的に結合できるかどうかを調べるために、本発明者らは免疫組織化学を用いて異なる細胞型においてファージ粒子を局在化させた。すべての癌細胞系、NNMおよび線維芽細胞をカバーガラス上に蒔いて、約80%集密になるまで生育した。カバーガラスをブロッキング緩衝液中でインキュベートし、1%の過酸化水素に0.1%のNaNを加えたもので処理して内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断し、次いで各選択ファージとともに4℃にて1時間インキュベートした。カバーガラスを洗浄し、HRP標識したマウス抗M13モノクローナル抗体とともに4℃にて1時間インキュベートした。スライドを3%のホルムアルデヒドで10分間固定し、ペルオキシダーゼ基質に晒し、PBS中の50%グリセロールによって封入した。
【0113】
その結果、PC5−2はCL1−5およびPC13を含むNSCLC細胞系に特異的に結合することが示された(図2A、矢印)。このペプチドを提示しなかった対照ヘルパーファージはCL1−5細胞に結合できなかった。PC5−2は、口腔癌(SAS)および上咽頭癌細胞(NPC―TW01)などの他の癌細胞系、または鼻粘膜からの正常な上皮細胞(NNM)にも結合できなかった(図2A)。スケールバー:10μm。
【0114】
合成ペプチドと選択されたファージクローンとが同じ結合部位に対して競合するかどうかを調べるために、免疫蛍光染色によってペプチド競合的阻害アッセイを行なった。ターゲティングペプチドTDSILRSYDWTY(SP5−2)[配列番号2]および対照ペプチド(RLLDTNRPLLPY)[配列番号22]を合成して、Invitrogene,Inc.(CA、USA)による逆相高速液体クロマトグラフィによって>95%の純度にまで精製した。同じ会社によってペプチドNH末端にFITCまたはビオチンを付加することによって、これらのペプチドとFITCまたはビオチンとの結合を行なった。
【0115】
CL1−5細胞をカバーガラス上で一晩培養し、次いでブロッキング溶液中でUV処理した不活性対照ファージとともにプレインキュベートして非特異的な結合を遮断した。ファージを異なる濃度の合成ペプチドと混合し、細胞とともに4℃にて1時間インキュベートした。スライドをマウス抗M13モノクローナル抗体(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)とともにさらにインキュベートした後、FITC標識したヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)とともにインキュベートした。スライドを洗浄し、封入剤(Vector、CA、USA)によって封入した。次いでLeica Universal顕微鏡の下でスライドを調べた。画像をSimplePCI(C−IMAGING、PA、USA)ソフトウェアによってマージした。
【0116】
その結果、CL1−5細胞とPC5−2ファージとの結合活性は、SP5−2合成ペプチドによって用量依存的な態様で阻害されることが示された。27μg/mlのSP5−2によってPC5−2結合活性を完全に阻害できた(図2B)のに対し、対照ペプチドにはそうした効果はなかった。このアッセイにおいて、対照ファージはCL1−5細胞に結合できず、PC5−2はNPC−TW01に結合できなかった(図2B)。スケールバー:10μm。
【0117】
さらに、CL1−5の細胞表面に発現された標的分子を調べるために、本発明者らはフローサイトメトリを用いてPC5−2結合細胞を測定した。肺およびその他の癌細胞系を一晩培養し、次いで50mMのEDTAを含有するPBSに懸濁して、ブロッキング緩衝液によって4℃にて30分間ブロックした。細胞をフロー緩衝液(1%のウシ胎児血清を含有するPBS)で2回洗浄した。細胞をファージまたはFITC標識ペプチドとともにインキュベートした。ペプチド競合的阻害アッセイに対しては、ファージを異なる濃度の合成ペプチドと混合し、混合物を細胞とともにインキュベートした。冷たいフロー緩衝液で2回洗浄した後、ファージ結合細胞を抗M13モノクローナル抗体とともに4℃にて1時間インキュベートし、次いでFITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体によって処理した。細胞を冷たいフロー緩衝液で2回洗浄し、次いでフローサイトメータ(Becton Dickinson)に適用した。
【0118】
その結果、CL1−5細胞の42.6%にPC5−2が結合でき(図2C、c)、結合したファージはSP5−2ペプチドによって完全に阻害される(図2C、d)ことが示された。PC5−2はSASおよび正常な上皮細胞(NNM)に結合できなかった(図2C、eおよびf)。PC5−2は、このアッセイによってNPC−TW01にも結合できなかった(図2C、b)。これらの結果から、CL1−5細胞の一部はPC5−2上に提示されるペプチドリガンドによって認識できる未知のタンパク質またはその他の分子を発現することが示された。
【0119】
実施例3.ターゲティングペプチドとNSCLC細胞および肺癌生検との結合
PC5−2に提示されるペプチド配列が確かにNSCLC細胞と相互作用したかどうかを定めるために、本発明者らは免疫蛍光染色を用いたペプチド結合アッセイに対して、PC5−2ファージの代わりにFITC標識したSP5−2ペプチドを用いた。その結果、FITC標識したSP5−2はCL1−5、H460、A549、PC13およびH23を含む異なるNSCLC細胞系に特異的に結合するが、正常な上皮細胞(NNM)には結合しないことが示された。FITC標識した対照ペプチドはこうした結合活性を示さなかった(図3A)。スケールバー:10μm。
【0120】
FITC標識したSP5−2がこれらのNSCLC細胞系に結合できることをさらに確認するために、本発明者らはフローサイトメトリを用いてSP5−2に結合した細胞も測定した。サンプルは実施例2と同様に調製した。フローサイトメトリヒストグラムは、各NSCLC細胞系に結合しているFITC標識SP5−2(青)およびFITC標識した対照ペプチドのバックグラウンド(赤)を示す。CL1−5、H460、A549、PC13およびH23に対する結合活性の比率は、それぞれ43%、45.8%、44.3%、20.1%および44%であった(図3B)。これらの結果は、PC5−2およびSP5−2がNSCLC細胞を標的にできることを示した。
【0121】
このターゲティングリガンドがヒト肺癌生検試料に対する親和性を有するかどうかをさらに識別するために、本発明者らは免疫組織化学によって肺癌患者からの肺腺癌とPC5−2およびSP5−2との反応性をテストした。ヒトの肺腺癌切片を調製し、スライドをブロッキング緩衝液中で30分間インキュベートし、次いでメタノール中の3%の過酸化水素と0.1%のNaNとで処理して内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断し、ファージクローンまたはビオチン標識したペプチドとともにインキュベートした。慣用的な免疫組織化学染色を用いて、HRPに結合した抗M13抗体を用いてPC5−2を検出した。
【0122】
その結果、PC5−2およびビオチン標識したSP5−2はどちらもNSCLC生検試料中の腫瘍細胞を認識できたことが示された(図3C、aおよびb、矢印)。しかし、対照ファージおよびビオチン標識した対照ペプチドはNSCLC生検試料に結合できなかった(図3C、cおよびd)。これらのデータは、SP5−2がNSCLC細胞系および肺癌患者からの癌細胞において発現される未知の分子を認識したことを示す。スケールバー:25μm。
【0123】
実施例4.インビボでのPC5−2の腫瘍ホーミング能力の確認。
【0124】
インビボでのPC5−2のターゲティング能力を調べるために、CL1−5由来の腫瘍を有するマウスの尾静脈にファージを注射し、灌流後に回収した。SCIDマウスの背外側の側腹部に1×107個の癌細胞を皮下注射した。サイズを合せた肺癌由来の腫瘍(腫瘍サイズ約500mm3)を有するマウスの尾静脈を通じて、ターゲティングファージまたは対照ファージを注射した。注射の8分後にマウスをジエチルエーテルで処置してマウスを深い麻酔に導いた。次いでマウスに50mlのPBSを灌流させて未結合ファージを洗浄した。対照器官(脳、心臓および肺)および腫瘍塊を取出して重量測定し、冷たいPBS−PI(プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤;Roche、Germany)で3回洗浄した。器官および腫瘍サンプルをホモジナイズした。次いで、0.5mlのER2738細菌を37℃にて30分間加えることによって、腫瘍塊または対照器官に結合したファージを回収した。溶出されたファージ粒子は、1mg/LのIPTG/X−Galの存在下で寒天プレート上で力価測定した。ペプチド競合的阻害実験においては、ファージを100μgの合成ペプチドと同時注入した。本発明者らは対照ペプチドも用いた。器官および腫瘍塊をブアン固定液中で2時間固定した。固定の後、サンプルをパラフィンブロックに埋め込んだ。パラフィン切片を脱パラフィンし、再水和して、前述のとおりM13モノクローナル抗体を用いた免疫染色に供した。
【0125】
本発明者らは、腫瘍塊および正常な対照器官(脳、肺および心臓)におけるファージの力価を定めた。PC5−2は、脳、心臓および肺を含む対照器官よりも4倍から13倍高い濃度で腫瘍塊への特異的ホーミングを示した(図4A)。対照ヘルパーファージは腫瘍組織に対する特異的ターゲティングをまったく示さなかった(図4A)。PC5−2の腫瘍ホーミング能力は、ペプチド競合的阻害実験によってさらに確認され、この実験においては合成ペプチドSP5−2をPC5−2と同時注入することによって、腫瘍塊からのファージの回収が顕著に阻害された(図4B)。100マイクログラムのSP5−2は、腫瘍塊へのPC5−2結合の92%を阻害したが、同濃度の対照ペプチド(control peptide:Con−P)にはそうした阻害的効果はなかった(図4B)。
【0126】
免疫染色によってPC5−2の組織分布も研究した。NSCLC異種移植片を有するSCIDマウスにPC5−2を静脈内注射し、異種移植片および対照器官を取出して、ファージ結合部位の局在化のために固定した。その結果、PC5−2は腫瘍組織中に局在することが示された(図4C、d)。より高倍率では、抗ファージの免疫反応性は細胞膜上で見られ、腫瘍細胞の周囲の細胞質にいくらかの拡散が見られた(図4C、e)。脳、心臓および肺組織などの正常な器官(図4C、a−c)または対照ファージで処置された腫瘍組織(図4C、i)には反応生成物はなかった。インビボのホーミング実験において、NSCLC異種移植片とのPC5−2の特異的ターゲティング能力は、合成ペプチドSP5−2によって阻害された(図4C、j)。スケールバー:25μm。
【0127】
実施例5.ヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスの、SP5−2−Lipo−VinおよびSP5−2−Lipo−Doxによる処置。
【0128】
進行したNSCLCの高齢患者に対する現在の標準的な化学療法は、単剤化学療法のためのビノレルビンの使用である(Kellyら、2001)。肺癌ホーミングペプチドであるSP5−2を癌処置の化学療法の効果を改善するために用いることができるかどうかを定めるために、本発明者らはこのペプチドをビノレルビンを含有するリポソームに結合した(SP5−2−Lipo−Vin)。ペプチドをNHS−PEG−DSPE[N−ヒドロキシスクシニミド−カルボキシル−ポリエチレングリコール(N−hydroxysuccinimido−carboxyl−polyethylene glycol)(PEG;平均分子量、3000)由来のジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(distearoylphosphatidylethanolamine)(NOF Corporation、Tokyo、Japan)]に1:1.5のモル比で結合した。この結合は、ペプチジル−PEG−DSPEを生成するためのペプチドのN末端の固有の遊離アミン基を用いて行なった。この反応は完了し、残りのアミノ基の定量化によって確認された。アミノ基はTNBS(トリニトロベンゼンスルホネート(Trinitrobenzenesulfonate))試薬によって測定された(Habeeb AFSA、1966)。DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン(distearoylphosphatidylcholine))、コレステロール、PEG−DSPEからなるリポソームを硫酸アンモニウム溶液(250mM(NHSO、pH=5.0、530mOs)中で55℃にて水和し、60℃にて高圧押出し装置(Lipex Biomembranes、Vancouver、BC、Canada)を用いて0.1μmおよび0.05μmのポアサイズのポリカーボネート膜フィルタ(Costar、Cambridge、MA、USA)から押出した;抗癌薬のビノレルビンまたはドキソルビシンを、10μmolのリン脂質当り1mgの薬物の濃度で、遠隔負荷法によってリポソームに封入した。リン酸塩アッセイによってリポソームの最終濃度を定めた。0.2mlの希釈薬物負荷リポソームに1mlの酸性イソプロパノール(81mMのHCl)を加えた後、励起波長として470nmを用い、放出波長として582nmを用いる分光蛍光光度計(Hitachi F−4500、Hitachi,Ltd、Tokyo、Japan)によって、リポソームの内側に閉じ込められたドキソルビシンの量を定めた。サブミクロン粒子分析計(モデルN4プラス;Coulter Electronics、Hialeah、FL、USA)による動的レーザ散乱によって、小胞サイズを測定した。脂質二重層の遷移温度を超える温度でともにインキュベートした後に、ペプチジル−PEG−DSPEを予め形成されたリポソームに移した(Zalipskyら、1997)。以前に記載されたとおりに算出したところ(Kirpotinら、1997)、リポソーム当り300〜500個のペプチド分子があった。
【0129】
4〜6週齢のマウスの背外側の側腹部に、ヒトNSCLC癌細胞を皮下注射した。サイズを合せた腫瘍(腫瘍サイズ約50〜100mm)を有するマウスを異なる処置群にランダムに割当てて、尾静脈を通じて、ビノレルビン(SP5−2−Lipo−Vin)またはドキソルビシン(SP5−2−Lipo−Dox)を含有するSP5−2結合リポソーム、およびLipo−VinまたはLipo−Doxによって処置した。マウスをこの薬物で8回処置した(1mg/kg、週2回)。マウスの体重および腫瘍サイズをノギスで週2回測定した。腫瘍体積は次の式を用いて算出した:長さ×(幅)×0.52。平均腫瘍体積の差をANOVAによって評価した。
【0130】
サイズを合せたNSCLC異種移植片(約100mm)を有するSCIDマウス群を、静脈内注射によってSP5−2−Lipo−Vin、Lipo−VinおよびPBSで別々に処置し、合計ビノレルビン用量を48mg/kg(12回、2mg/kgを週2回)とした。
【0131】
SP5−2−Lipo−Vinを受けた腫瘍マウスの群(図5A、群a)は、Lipo−VinおよびPBSの群よりも有意に小さいサイズの腫瘍を有することが見出された(P<0.005)(図5A、群bおよび群c)。Lipo−Vin(LV)群の腫瘍は、SP5−2−Lipo−Vin(SP5−2−LV)群の腫瘍よりもサイズが6.75倍大きくなったことが見出された。対照PBS群のマウスの腫瘍は、SP5−2−Lipo−Vin群の腫瘍よりもサイズが25倍大きくなったことが見出された(n=6;P<0.01)(図5A)。
【0132】
化学療法薬物によってもたらされる可能性のある副作用を評価するために、マウスを週2回体重測定した。そのデータから、SP5−2−Lipo−Vin処置群の体重変化(1.37g増加)は、PBS群の体重変化(1.33g増加)と同様であったことが明らかになった。これに対し、Lipo−Vin処置群の示した体重増加は少なかった(0.58gしか増加しなかった)(n=6;P<0.05)(図5B)。
【0133】
ターゲティングリポソームの治療効果をさらに特徴付けるために、本発明者らは102日間にわたり、SP5−2−Lipo−Vin、Lipo−VinまたはPBSによって別々に処置された後の動物の生存率を比較した。PBS処置群ではすべての動物が死んだ(生存率0%)。Lipo−Vin処置群では3匹の動物が死んだ(生存率40%)が、SP5−2−Lipo−Vin処置群は102日後に実験が終了したときに80%という有意に増加した生存率を示した(n=5;図5C)。
【0134】
SP5−2は肺癌に対する治療効果を増加できるのかどうかをさらにテストするために、本発明者らはこのターゲティングリガンドを別の抗癌薬であるドキソルビシンにつないで(SP5−2−Lipo−Dox)、別のNSCLCであるH460を処置した。ドキソルビシンは最もよく用いられる抗癌薬の1つである。この化学療法薬剤は、癌細胞に対する細胞毒性効果に加えて、抗血管新生活性を有することが公知である(Arapら、1998)。そのデータから、SP5−2−Lipo−Dox(SP5−2−LD)もLipo−Dox(LD)よりも高い治療効果を有することが示された(n=6 P<0.05)(図5D)。ターゲティングリポソームSP5−2−Lipo−Doxは、PBSで処置したマウスに比べてH460由来の腫瘍成長を顕著に阻害した(図5D)。これらの結果から、Lipo−VinまたはLipo−DoxをターゲティングリガンドSP5−2に結合することによって、動物モデルにおけるヒト肺癌異種移植片を阻害する薬物の効果が高められることが示された。
【0135】
表1.NSCLC細胞によって選択されるファージディスプレイペプチド配列のアラインメント
【0136】
【表1】

ファージディスプレイされるコンセンサスアミノ酸配列を太字体で示す。
【0137】
PC3−1、PC4−1およびPC5−2は同じアミノ酸配列を提示する。
【0138】
PC4−5およびPC5−4は同じアミノ酸配列を提示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、および配列番号19からなる群より選択される、ポリヌクレオチドまたはその変異体。
【請求項2】
配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、および配列番号20からなる群より選択される、ペプチドまたはその変異体。
【請求項3】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
第2のペプチドに融合された第1のペプチドを含む融合ペプチドであって、前記第1のペプチドは請求項2に記載のペプチドを含む、融合ペプチド。
【請求項6】
前記第2のペプチドはエピトープを含む、請求項3に記載の融合ペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドはより多くまたはそれ以上の標識を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項8】
前記標識は、FITC、ビオチンおよび放射性同位元素からなる群より選択される、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される1つまたはそれ以上の薬物に結合される、請求項2に記載のペプチド。
【請求項10】
請求項2に記載のペプチドに結合する抗体。
【請求項11】
請求項2に記載のペプチドを少なくとも1つ含むリポソーム。
【請求項12】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項12に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソームは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される少なくとも1つの薬物をさらに含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項15】
前記薬物はドキソルビシンを含む、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記薬物はビノレルビンを含む、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項17】
前記リポソームは医薬的に許容できる担体を含む、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項18】
哺乳動物の疾患を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に請求項9に記載のペプチドの有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記哺乳動物はヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物の癌を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に、1つまたはそれ以上の化学療法薬物と、
請求項2に記載のペプチドを含む1つもしくはそれ以上のポリペプチドまたはその変異体とを含むリポソームを投与する工程を含む、方法。
【請求項21】
前記哺乳動物はヒトである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記化学療法薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、および抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記化学療法薬物はドキソルビシンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記化学療法薬物はビノレルビンである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記癌は、NSCLCおよびSCLCからなる群より選択される肺癌である、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
試料中の癌細胞を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項2に記載のペプチドに、前記試料の前記癌細胞に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)請求項10に記載の抗体を用いて、前記試料の前記癌細胞への前記ポリペプチドの結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項30】
試料中の癌を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項6に記載の融合ペプチドに、前記試料の前記癌細胞に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記融合タンパク質のエピトープに特異的な抗体を用いて、前記試料への前記融合ペプチドの結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項31】
試料中の癌細胞を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項7に記載のペプチドに、前記試料の前記癌細胞に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記ペプチドの標識を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項32】
請求項2に記載のペプチドに結合する生体分子を同定する方法であって、
a)細胞抽出物を請求項2に記載のペプチドに、前記ペプチドおよびリガンドを含む複合体を形成できる条件下で接触させる工程と、
b)前記複合体を分析して前記リガンドを同定する工程と
を含む、方法。
【請求項33】
ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその変異体の相補体にハイブリダイズする、ポリヌクレオチド。
【請求項34】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項35】
請求項34に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項36】
請求項33に記載のポリヌクレオチドによってコードされるペプチド。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−517575(P2010−517575A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549135(P2009−549135)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/001809
【国際公開番号】WO2008/100481
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【出願人】(503209342)ナショナル タイワン ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】