説明

胃の治療法およびそのための組成物

胃および/または十二指腸のピロリ菌の治療のための、一以上の部分における組成物であって、前記組成物が有効な量の:(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;(b)粘液溶解製剤;(c)経胃的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;および(d)脂肪酸および/またはモノグリセリド、を含んでいる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃および/または十二指腸のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症の治療に向けられている。特に、本発明はかかる治療における使用のための組成物に向けられている。
【背景技術】
【0002】
1980年代における、細菌ヘリコバクター・ピロリによる胃内壁感染症の発見は画期的であった。ピロリ菌(H. pylori)はその後、90%を超える十二指腸潰瘍、ほとんどの胃潰瘍、の原因であることが示されてきており、胃癌の重要な原因因子である。また、胃におけるピロリ菌のコロニー形成が多様な胃腸症状の原因論に関与することも可能であることを示唆している証拠がある。
【0003】
現在、胃からのピロリ菌の除去は、通常、プロトンポンプ阻害剤(酸抑制のため)と二以上のタイプの抗生物質との併用療法に依存している。抗生物質耐性を増すことは、感染の治療を著しく困難なものにしてきた。これに加え、患者の治療レジメンのコンプライアンスという問題がある。標準的なトリプル療法は、1〜2週間にわたる患者による薬物の使用を必要とし、コンプライアンスおよび耐性というさらなる問題を生じている。
【0004】
通常のトリプル療法において使用される抗生物質は、ピロリ菌のコロニー形成場所へ到達するためには、腸において吸収され、次いで血液循環の後に胃組織から分泌されねばならない。このことは、結果として薬物の希釈を生じるであろう。胃の粘液層は、それらが胃内腔方向からピロリ菌のコロニー形成場所へ到達するのを妨げる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、胃および/または十二指腸のピロリ菌感染症の代替え療法を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、以下の記述から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、胃および/または十二指腸のピロリ菌感染症の治療のための、一以上の部分における組成物であって、前記組成物が有効な量の:
(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;
(b)粘液溶解製剤;
(c)経胃的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;および
(d)脂肪酸および/またはモノグリセリド
を含んでいる組成物を提供する。
【0008】
好ましくは、脂肪酸(「FA」)またはモノグリセリド(「MG」)は、ピロリ菌に対し5mM以下の「最小殺菌濃度」(「MBC」)を有する。
【0009】
好ましくは、FAまたはMGは、任意の一以上の;カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノレイン酸、モノラウリン、またはモノミリスチンから選ばれる。
【0010】
好ましくは、FAおよび/またはMGは、胃の水性相中で分散または溶解することが可能な形状にある。
【0011】
好ましくは、FAは塩の形状で提供される。
【0012】
好ましくは、FAおよび/またはMGは、可溶化剤と組合わされる。
【0013】
好ましくは、可溶化剤は非イオン界面活性剤であり、(d)は脂肪酸である。
【0014】
好ましくは、非イオン界面活性剤はソルビタンを主成分とする界面活性剤(たとえば、ツイーン(Tween)20、ツイーン80)、胆汁酸塩界面活性剤、ブリジ(Brji)界面活性剤、またはトリトン(Triton)界面活性剤である。
【0015】
好ましくは、非イオン界面活性剤は密度調整剤および増粘剤と組合わされる。
【0016】
好ましくは、非イオン界面活性剤はツイーン20またはツイーン80である。
【0017】
別の形状においては、組成物は、好ましくはMGおよびFAの双方を含んでおり、MGはFAの乳化を援助する。
【0018】
好ましくは、MG/FA混合物はまた可溶化剤も含む。
【0019】
好ましくは、プロトンポンプ阻害剤は、一以上のオメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプロゾール(esomeprozole)、チモプラゾール(timoprazole)、またはピコプラゾール(picoprazole)から選ばれる。
【0020】
好ましくは、全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形は、液体、半固体、また固体の剤形である。
【0021】
好ましくは、全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形は、経腸的にコートされた剤形である。
【0022】
好ましくは、経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形は、液体、タブレット、または類似の剤形である。
【0023】
好ましくは、経胃的に利用可能でありかつ全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の形状は、同じであるがしかし経腸的にコートされた剤形ではない。
【0024】
好ましくは、粘液溶解剤は適当なスルフヒドリル試薬から選ばれる。
【0025】
好ましくは、粘液溶解剤はN−アセチルシステインである。
【0026】
本発明のもう一つの観点においては、ピロリ菌感染症の治療のためのキットであって、上記の成分(a)、(b)、(c)、および(d)を含んでいるキットを提供する。
【0027】
好ましくは、キットは界面活性剤も含む。
【0028】
好ましくは、成分(d)および界面活性剤は、密度調整剤および増粘剤と一緒に組合わされて提供される。
【0029】
好ましくは、組成物またはキットの個々の成分は、付加的な添加剤、充填剤、甘味料、および類似の化合物をさらに含んでもよい。
【0030】
好ましくは、組成物またはキットはさらに、少なくとも一つの抗生物質を含む。
【0031】
好ましくは、本発明の第1の観点における成分(c)および(d)は、1回量の剤形で含有される。
【0032】
好ましくは、可溶化剤は成分(d)とともに1回量の剤形中に含まれる。
【0033】
本発明はまた、胃および十二指腸のピロリ菌感染症を治療するための方法であって:
(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤を投与すること;
(b)粘液溶解製剤を投与すること;
(c)経胃的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、脂肪酸および/または
モノグリセリドとを、一緒に、またはいずれかの順序で連続的に投与すること;
および
(d)任意に、段階(b)および(c)を、胃のピロリ菌感染症を治療するために有効な回数にわたり繰返すこと、
の段階を連続的に含む方法も提供する。
【0034】
好ましくは、段階(b)および(c)および(d)は、絶食後に行なわれる。
【0035】
好ましくは、段階(a)は単回の、反復されない投与段階である。
【0036】
好ましくは、段階(a)は絶食前に行なわれる。
【0037】
好ましくは、段階(b)は段階(c)の約15分〜約3時間前に行なわれる。
【0038】
好ましくは、段階(c)は1回量の剤形を用いて成遂げられる。
【0039】
好ましくは、FAおよび/またはMGは、胃の水性相中で分散または溶解することが可能な形状にある。
【0040】
好ましくは、FAおよび/またはMGは、任意の一以上の;カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、モノラウリン、またはモノミリスチンから選ばれる。
【0041】
好ましくは、FAはラウリン酸ナトリウムである。
【0042】
好ましくは、段階(c)は、FAおよび/またはMGと、混合ミセルまたはミクロエマルジョン/エマルジョンを形成することができる、非イオン界面活性剤のような可溶化剤の投与を含む。
【0043】
好ましくは、非イオン界面活性剤は脂肪酸、密度調整剤、および増粘剤と組合わされる。
【0044】
幅広い言い方では、本発明は、胃および十二指腸のピロリ菌感染症の治療における使用のための薬剤組成物の製造における、全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;粘液溶解製剤;経胃的および/または経十二指腸的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;および、脂肪酸および/またはモノグリセリド、の使用を含むものと見なされてよい。
【0045】
本発明はまた、胃または十二指腸のピロリ菌感染症によって引き起されるか、または引き起されると信じられている任意の疾病状態の管理における、上記の組成物、キット、または方法の使用も含む。
【0046】
本発明はまた、胃および/または十二指腸のピロリ菌の治療のための、一以上の部分における組成物であって、前記組成物が有効量の:
(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;
(b)粘液溶解製剤;
(c)経胃的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤;および
(d)脂肪酸および/またはモノグリセリドを、非イオン界面活性剤と一緒に、
含んでいる組成物を提供する。
【0047】
好ましくは、成分(d)は密度調整剤および増粘剤をさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明は全般的に、胃/十二指腸管系に存在する細菌ヘリコバクター・ピロリに関連した、胃内壁の感染症の治療に向けられている。
【0049】
胃および十二指腸のピロリ菌感染症の治療の難しさは、ピロリ菌が筋肉層の下、胃粘膜細胞のすぐ隣に生息していることである。筋肉層は酸およびペプシン(タンパク質分解性)による損傷から胃表面を保護しており、さらにピロリ菌を攻撃から保護している。
【0050】
胃のピロリ菌感染症の治療の主な難しさの一つは、胃内腔に存在する薬剤からの直接的な攻撃からピロリ菌を保護することにおいて胃内の筋肉層がもつ効果である。
【0051】
本発明は、胃のピロリ菌感染症のための治療の提供において助けとなることが可能な、治療法および成分の組合せを提供する。したがって本発明は、かかる感染症に由来するか、または由来することが分っている症状(たとえば、十二指腸/胃潰瘍、胃癌)の治療法であるとみなされてもよい。この治療では通常の抗生物質の使用は任意であるにすぎないことから、かかる薬剤(アモキシシリン;エリスロマイシン; メトロニダゾール)の抵抗性の問題もまた克服される。殺菌は生理的現象によるものと見られるため、脂肪酸/MG、または脂肪酸/MG+界面活性剤に対する抵抗性が発生することはありそうもない。
【0052】
その好ましい形状においては、組成物は幅広い言い方では、脂肪酸(「FA」)またはモノグリセリド(「MG」)、プロトンポンプ阻害剤、および粘液溶解剤を組合せることができる。FAおよび/またはMGは、好ましくは、この環境内のピロリ菌に対しその作用を促進するべく、胃内容物の水性相中で分散/溶解されるその能力を最大に活用する形状で、または活用する方法を用いて、投与されるべきである。FAは、好ましくは塩として投与されるべきである(たとえばラウリン酸はラウリン酸ナトリウムとして投与されてよい)。FA/MGは、硬いゼラチンカプセル内へ充填されることも可能であり、あるいは、脂肪酸および/またはモノグリセリドを、非イオン界面活性剤のような、FA/MGと混合ミセルまたはミクロエマルジョン/エマルジョンを形成することが可能な可溶化剤と製剤することによる。たとえば、界面活性剤は水中油型エマルジョンを形成することも可能であり、これにおいて脂肪酸および/またはモノグリセリドは細かく均一に分散され、より高濃度のFA/MGが水性相中に保持されるようにする。使用される温度に依存して(たとえば約40℃未満)、FA/MG(たとえばラウリン酸)の水中懸濁液が形成されることとなる。
【0053】
後述するように、界面活性剤を含むことは、結果としてピロリ菌の除去について、界面活性剤とFAとの間に相乗的な殺菌効果を生じる。界面活性剤の使用は、より高濃度のFAが胃環境内の水性相中に存在でき、かつピロリ菌と相互作用することができるようにするという仮説がたてられているが、活性促進の機構はまだ細かく確定されていない。MG/界面活性剤の組合せでは、なぜ効果増大が見られないのか、この段階では分っていない。
【0054】
FA/MGは、好ましくはそれ自身がピロリ菌に対しpH7.0で5mM以下の最小殺菌濃度(MBC)を有することができる多数の化合物から選択可能である。これらは、任意の一以上の、たとえばカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、モノラウリン、またはモノミリスチンから選択可能である。このリストは、制限されることを意図したものではない。サン(Sun)ら著、「FEMS Immun. Med. Microbiol.」、2003年、第36巻、p.9−17(その開示は参考として本文に含まれている)の表1もまた参照可能である。MBCは、生きた細胞数において、5対数単位の減少を生じる結果となる薬剤の最小濃度である。
【0055】
界面活性剤は好ましくは、ツイーン(たとえば、ツイーン20またはツイーン80)のような、ソルビタンエステルに由来する非イオン界面活性剤であることができる。他のオプションは、胆汁酸塩界面活性剤、ブリジ界面活性剤、トリトン界面活性剤、または、リン脂質またはMG/FA混合物といった界面活性剤を含むであろう。再度、これは制限されることを意図したものではない。界面活性剤はFAまたはMGを水性相中に分散/可溶化することができ、この点で、乳化剤/可溶化剤として作用しているとみなされてよい。治療における使用に適した他の乳化剤/可溶化剤もまた使用されることも可能である。しかしながら界面活性剤の使用はまた、ピロリ菌治療において有益な特性をもつこともある。このことが、界面活性剤側の何らかの形状の直接的な作用によるのか、あるいは胃中にある間に水性相中で特にFAを分散/可溶化し、かくてピロリ菌との接触を増大するようにするその能力によるのかは、この時点では不明である(前述)。いくつかのMGの乳化剤/界面活性剤特性が、FAの乳化において助けとなるべく利用され得ることも、また可能である。しかしながら、かかる混合物はまた、増大されたFAの殺菌効果を利用するべく、界面活性剤も含むようにすることが好ましい。
【0056】
約50と約5000の間の凝集数を有する界面活性剤が、この組成物において使用されることも可能である。低い凝集数(約1000未満)をもつような界面活性剤が好ましい。たとえば、ツイーン80は凝集数133を有する。FA/MGは、高い凝集数をもつものよりも、低い凝集数をもつ界面活性剤に関し、混合ミセルのミセル/水性溶媒境界面においてさらに利用可能となるであろう。低い凝集数(たとえばツイーン80、20)については、水性相中のピロリ菌に対し暴露されたFA/MGの有効水性濃度が高くなるという仮説がたてられている。しかしながら、約4000の凝集数をもつレシチンのような界面活性剤はまた、適度に有効であろう。界面活性剤をFAとともに使用することは非常に好ましいが、界面活性剤をMGとともに使用することはそれほど好ましくない。しかしながら、MG/界面活性剤の組合せはなお、ピロリ菌に対しかなりの殺菌作用を有する。
【0057】
FA/MGの厳密かつ均一な投薬を最大にする、液体剤形を調製することができることもまた非常に好ましい(たとえばラウリン酸など)。この液体剤形は、脂肪酸(たとえばラウリン酸)および界面活性剤(たとえばツイーン20)の、適切なドーシングを確保しかつ正確な投与を可能にするべく、均質かつ均一であるべきである。加えて、生じた剤形は物理的に安定であって、遅い沈降および再分散の容易さといった製薬上許容される懸濁液の要求を満たさねばならない。
【0058】
FA/MG(たとえば、カプリン酸、ミリスチン酸)を、可溶化剤(たとえば非イオン界面活性剤)を用いて、密度調製剤および増粘剤と組合せることにより、適当な剤形が調製可能であることが見出されてきた。この組合せは製剤に、物理的安定性、振盪時の再構成の緩和、および迅速な相分離に対する抵抗性をもつことを可能にする。この付加的な発明の観点はまた、特にFA+界面活性剤の相乗的殺菌作用を獲得することができる投与形状を可能にする。
【0059】
用いた密度調整剤は、任意の一以上のアニス油、ハッカ油、またはウイキョウ油から選択可能である。しかしながら、このリストは制限されることを意図したものではない。
【0060】
用いた増粘剤は、任意の一以上の、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)のようなセルロース誘導体、および、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、ゼラチン、およびデンプンといった他の懸濁化剤から選択可能である。再度、このリストは制限されることを意図したものではない。
【0061】
好ましくは、密度調整剤はハッカ油であり、粘度調整剤はCMCである。粘度調整剤がCMCであるとき、それは2%(w/v)として含まれることが好ましいであろう。使用した調整剤に依存して、溶液中の0.1〜5%(w/v)の範囲の粘度調整剤が使用されることも可能である。
【0062】
ハッカ油のような密度調整剤の使用は、味のマスキング効果を提供するという付加的な利点を有する。このことはラウリン酸(または他のFA/MG)の不快な味の影響を改善する。
【0063】
最終組成物中の密度調整剤の量は、好ましくは約0.1%と約1.0%(v/v)の間である。最終組成物中の増粘剤の量は、好ましくは約0.1%と約5.0%(v/v)の間である。
【0064】
本発明において使用されることも可能であるプロトンポンプ阻害剤は、ランソプラゾールおよびオメプラゾールを含むであろう。他のオプションは、エソメプラゾール、チモプラゾール、またはピコプラゾールから選ばれる。再度、このリストは制限されることを意図したものではない。
【0065】
本発明においては、プロトンポンプ阻害剤は胃内腔において、全身的および局所的の双方において利用可能とされる必要がある。したがって、最初の投薬はプロトンポンプ阻害剤を全身的に放出するべく適切な形状で投与される。当業者は、この目的を達成するための適切な投与形状を容易に認識するであろう。たとえば、全身的に利用可能な形状は、経腸コートされているものであることも可能である。必要条件は、プロトンポンプ阻害剤が全身的に利用可能となることである。全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤治療は、好ましくは治療において他の化合物の投与の前に与えられ、次の治療段階に取りかかったとき、それが効き目を現し、かつ患者の系内に存在することができるようにする。
【0066】
固体の剤形は、タブレット、カプセル、顆粒、またはペレットなどでよい。半固体の形状は、ゲル、またはペーストなどでよい。液体は、エマルジョン、懸濁液、または溶液などでよい。
【0067】
好ましくは、全身的送達のためのプロトンポンプ阻害剤は、絶食の前、たとえば残りの治療段階の前夜に投与される。このための時間枠は周知であろう。このことの一つの効果は、胃のpHを上げることであり、したがって粘液溶解性の使用によって引き起される可能性のある問題を減少させる。オメプラゾールはプロトンポンプ阻害剤として医学的に使用されており、経口的に送達され、小腸において吸収され、全身的に(血液により)、胃の壁細胞へ送達され、そこで酸分泌を阻害する。この作用は胃の酸性度を減少させ、粘液層バリアが失われるか、破壊されるか、または有効性が低下される時間を通して、内腔内の攻撃的な薬剤(たとえば酸およびペプシン)による胃組織の損傷を制限する。
【0068】
オメプラゾールはそれだけで、ピロリ菌に対しわずかな殺菌作用を有する(ミドロ(Midolo, P.D.)ら著、「JAC」、1997年、第39巻、p.331−7;ジョンカース(Jonkers D)ら著、「JAC」、1999年、第43巻、p.837−9)。しかしながら、本発明者らは、特に、それがFA(たとえばラウリン酸(FA C12:0))および適当な界面活性剤(たとえばツイーン20)と一緒に使用された場合、強力な相乗的殺菌作用を有することを見出した。オメプラゾールはこれを、ピロリ菌における一以上のプロトンポンピング機構を阻害することによって行なっているものと仮定されている。このことは細菌のエネルギー論に影響を及ぼすこととなり、プロトンおよび脂肪酸アニオンを、細胞エネルギープールを費やして追出さねばならないことによってすでに損なわれている、エネルギー保存経路の状態を悪化させる。
【0069】
全身の循環とそれに続く胃粘膜からの分泌/拡散により、胃の筋肉層の下のコロニー形成されたピロリ菌の場所へ到達したオメプラゾールの量を補うべく、粘液溶解剤により粘液バリアが破壊された後に、第二の用量のプロトンポンプ阻害剤が、胃内腔の方向からピロリ菌の場所へ投入される。
【0070】
現行の「トリプル療法」先行技術においては、プロトンポンプ阻害剤は胃の酸性を低下させるために用いられ、ピロリ菌に対し何ら直接的な作用をもつことは想像されていない。いずれにしても、胃組織による内腔へのオメプラゾールの全身性の分泌が、コロニー形成の部位において何らかの影響を及ぼすべく充分に高い濃度のオメプラゾールを産生することはありそうもない。また、本発明者らの発見が、プロトンポンプ阻害剤との併用の利点が相乗作用であって、プロトンポンプ阻害剤単独では有意でないことを示唆していることから、適当なFA/MG濃度なしには、細菌は影響を受けないかもしれない。全組成物が既存のオプションに対し有用な代替えを提供できるようにするのは、この相乗的併用効果である。
【0071】
最近の論文(オルセン(Olsen, J.W.)&メイヤー(Maier, R.J.)著、“Molecular hydrogen as an energy source for Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリのエネルギー源としての分子状水素)”「Science」、2002年、第298巻、p.1788−1790)は、ピロリ菌における主要なエネルギー保存経路がヒドロゲナーゼによる水素の取込みおよび酸化であることを示唆している。もしそうであれば、細菌デヒドロゲナーゼの阻害剤の添加は、本発明の組成物の恩恵をさらに増大し、細胞代謝(すでにFA+ツイーン+プロトンポンプ阻害剤の併用によって傷つけられている)に利用可能なエネルギーを減少させることにより、細菌をさらに損なうようにするかもしれない。
【0072】
したがって、本発明においては、プロトンポンプ阻害剤は、胃内へプロトンポンプ阻害剤を放出することが可能な液体またはタブレットといった、それを経胃的に利用可能にする形状においても投与されねばならない。この点では、プロトンポンプ阻害剤が必要なだけ利用できるようにされるなら、経胃的に利用可能な形状と全身的に利用可能な形状とが、同じであることも可能である。明らかに、経腸コートされた形状は全身的投与には好ましい(プロトンポンプ阻害剤を腸内へ放出できるため)が、かかる形状は、経胃的に利用可能な形状としての使用には不適当であろう。この形状は、好ましくは、粘液溶解製剤が投与された後に投与される。経胃的に利用可能な形状が、粘液溶解薬とともに投与され得ることも可能であるが、このことはあまり好ましくはない。経胃的に利用可能な形状は、好ましくは、以下にさらに議論されるように、FAおよび/またはMGとともに投与される。
【0073】
全身的および経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤をもつことは必要ではあるが、製剤の性質に依存して、この要求が、必ずしもプロトンポンプ阻害剤の二つの異なる製剤の使用を必要とするのではないことが認識されるであろう。胃/十二指腸および全身的投与に適した適当なプロトンポンプ阻害剤の製剤は、製剤技術の熟練者には周知であろう。
【0074】
前文に議論されたように、本発明の組成物および方法においては、二つの利用可能な形状のプロトンポンプ阻害剤の使用から、ピロリ菌に対して生じる二重の作用があると考えられる。全身的形状は、患者の系からのピロリ菌を攻撃し、かつ胃のpHを上げるために役立っており、後者の効果は、粘液溶解後の非常に低いpHによる損傷への胃組織の暴露から起こり得る影響を最少化することができる。経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤は、ひとたび粘液層が除去されれば、FAおよび/またはMGの存在下に、ピロリ菌に対し直接的および相乗的な作用をもつべく充分に高い濃度を胃において提供する。
【0075】
先に議論されたように、ピロリ菌感染症の治療に対するバリアの一つは、細菌が、胃粘液をカバーしかつ管腔の薬剤から細菌を保護する粘液層の下に生息していることである。そえゆえ、適当な粘液溶解製剤による、この粘液層の完全性に対する除去または損傷、またはそのバリア効果の破壊は、活性のある殺菌剤に対し細菌を暴露することができ、治療効果を最大にする。粘液溶解剤、N−アセチルシステインは、多くの状況の中でヒトにおいて、特に胃内視鏡検査の間の胃粘膜溶解薬として広く使用されている。他のオプションは、当業者に周知の通り、任意の一以上の適当なスルフヒドリル試薬を含むであろう。
【0076】
全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤(胃の酸性を低下させる)の使用は、粘液溶解剤の投与後の、高レベルの胃酸およびペプシンの影響からの胃内壁に対する損傷を最少化することができる。本発明の組成物および方法は、それゆえ、好ましくは全身的なプロトンポンプ阻害剤および粘液溶解薬が作用を及ぼすことができ、それに脂肪酸および/またはMGと、局所的に作用するプロトンポンプ阻害剤とが続くようにする。このことは、連続的に、個別に、または適宜グループ化されて、適当な遅延放出性の剤形によるものであれ、あるいは別の方法であれ、達成されることが可能である。
【0077】
全身的なプロトンポンプ阻害剤投与は、好ましくは、残りの治療が行なわれる前夜である。このことは、プロトンポンプ阻害剤が効果を発し、かつ治療レジメンの継続に先立ち胃を空にすることができるようにする。事実上、このことは一晩の絶食であり、患者のコンプライアンスの見通しから重要である。別法として、他の絶食期間も所望のように使用可能である。もし胃内に有意な量の脂質があれば、処置はFA/MGの、脂質へ分割する性質のため、より有効性が少なくなるであろう。それゆえこのことは、ピロリ菌(胃内の水性相にも存在している)に対し作用を及ぼすための、水性相中のFA/MGの量を有意に減少させるであろう。したがって、FAおよび/またはMGの投与後に、一定期間の連続した絶食(好ましくは少なくとも1時間の)があることが望ましい。
【0078】
粘液溶解製剤の投与と、経胃的なプロトンポンプ阻害剤/FAおよび/またはMG投与との間の好ましいタイムディレイは、15分間と3時間の間であるべきであるが、いくつかの状況においては、約12時間までが可能であるが、しかし粘液バリアが再建される前でなければならない。しかしながら、患者のコンプライアンスを最大にするためには、より短い時間(20〜30分間)が好ましい。粘液溶解/経胃的プロトンポンプ阻害剤/FA/MGの投与は、一晩の絶食の後、何日かにわたり反復されてよい。容易に明らかになるように、このことは好ましくは、一晩の絶食後の朝毎に行なうことができる。
【0079】
本発明は、一つの観点において、全身的に利用可能な形状のプロトンポンプ阻害剤および粘液溶解製剤で処置されていた患者における、胃のピロリ菌感染症の治療のための、経胃的に利用可能な形状のプロトンポンプ阻害剤と、胃の水性相中に容易に分散される形状のFAおよび/またはMGとの使用を含むものとみなされてよい。したがって、全身的に利用可能な形状のプロトンポンプ阻害剤および粘液溶解製剤で処置されていた患者における、胃のピロリ菌感染症の治療における使用のための、経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤と、適当な形状のFAおよび/またはMGとを含む組成物もまた、本発明の一部を形成してよい。かかる患者における胃のピロリ菌感染症の治療における、かかる組成物の使用は、同様に本発明の一部を形成してよい。同様に、本発明は、全身的に利用可能な形状のプロトンポンプ阻害剤であらかじめ処置されていた患者の治療における、粘液溶解薬、経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤、容易に分散可能な/可溶性の形状のFAおよび/またはMGの使用からなることとなる。組成物は当業者に周知のような適当な担体を含むことが可能であり、特にFAを水性相中に分散/溶解するために適した一量の界面活性剤を含むことも可能である。別法として、FAは水性相中でさらに容易に溶解/分散する形状(塩の形状のような)で提供されることも可能である。明らかなように、本発明の種々の成分を組合せた薬剤キットの供給も、本発明の一部を形成するであろう。
【0080】
最後に、本発明の種々の成分を用いたピロリ菌感染症(およびこのことから結果として生じる症状)の治療のための医薬品の調製もまた、本発明の一部を形成する。
【実施例1】
【0081】
ピロリ菌の生存率に対する、ランソプラゾール(0〜400μg/mL)、0.05%ツイーン20、およびFA C12:0(0.1〜1.0mM)の組合せの効果は、標準的な培養において検査された。結果は図1に示されており、ランソプラゾールとツイーン20との異なる組合せによるFA C12:0のMBCは、表1に要約されている。
【0082】
【表1】

【0083】
ツイーン20の存在下では、選ばれた濃度のFA C12:0との組合せにおいて、ランソプラゾールの濃度の増加(0、100、200、300、および400μg/mL)は、脂肪酸(FA)がランソプラゾールの増加とともにより殺菌性になっていくプロフィールを示した(図1、黒塗りの記号)。このプロフィールから計算されたMBCは、この傾向を反映しており、ランソプラゾールなしのFA C12:0の1.0mMから、ランソプラゾール400μg/mLを用いてのFA C12:0の0.3mMへ減少している(表1)。加えて、図1では、400μg/mLのランソプラゾールにおいてであっても(ツイーン20の非存在下では)、低いFA濃度においてプラトー領域が存在しており、その上ではピロリ菌はほとんど影響を受けないことがわかる。このプラトー領域は、ツイーンの存在によって除去された。
【0084】
100μg/mlのランソプラゾールおよび0.05%のツイーン20の存在を用いて同様の実験のセットが行なわれた場合(図1、白抜きの丸)、FAは再度、ランソプラゾールの存在下に漸進的にさらに殺菌性になった。添加されたツイーン20の存在は、FAを、界面活性剤なしの対応するインキュベーションよりもなおさらに強力にし、細胞生存率のプロフィールを左へ移動させた(より有効な殺菌)。対応するMBCは、0.05%ツイーン20を用いるがランソプラゾールなしのFA C12:0の0.5mMから、0.05%ツイーン20プラス200μg/mLのランソプラゾールを用いたFA C12:0の0.3mMへ減少した(表1)。重要なことは、プラトー領域(その上では、ツイーン20の非存在下に、低濃度のFAが何ら効果をもたない)が消えたことである。したがって、ツイーン20の存在下では、低濃度のFAまたはFAプラスランソプラゾールにおいてであっても、常に何らかの細胞生存率に対する影響があった。図1および表1におけるこれらのデータは、これら3つの分子、FA C12:0、ランソプラゾール、およびツイーン20の組合せを用いて、強力な殺菌相乗作用が生ずることを明らかに示している。
【0085】
ツイーン20(ミリスチン、パルミチン、およびステアリン酸との平衡にある約50%ラウリン酸のポリオキシエチレンソルビタンエステル)は、ツイーン80(リノレン、パルミチン、およびステアリン酸との平衡にある約70%オレイン酸のポリオキシエチレンソルビタンエステル)よりも、ピロリ菌を殺菌するために必要なFA C12:0濃度の低減において、さらに有効であった。各ツイーンの効果は、用いたツイーン濃度がそれ自体ではほとんど影響をもたないことから、添加物とは対照的に相乗的であった。それらの確からしい機構は、ミセルを形成することにより、水溶液中で可用性のFAの濃度を増加することである。ツイーン20はツイーン80よりもさらに親水性であり、FAの可用性を増大しやすいようである。形成されたミセルのサイズもまた、先に議論されたように、一部の役割を果たしているかもしれない。FA濃度対細胞生存率のプロフィールは、ツイーン界面活性剤によって変更され、その範囲内では何ら殺菌は見られない、低いFA濃度における最初のプラトー範囲が消えた。このことは、FA濃度が、それが細胞生存率に影響し始める前に、もはや閾値に達する必要がなかったことを示している。
【0086】
ランソプラゾールは、いくつかのトリプル療法においてピロリ菌感染症を治療するべく使用されるPPI薬である。単独では、インビトロで、400μg/mL未満の濃度ではピロリ菌に対しほとんど効果がない(ミドロ(Midolo, P.D.)ら著、「J. Antimicrob. Chemother. 」、1997年、第39巻、p.331−337)。図2は、この観察を確証している。
【0087】
pH7.4では、FAはそのアニオンとして存在していたであろうし、界面活性剤と混合ミセルを形成することはありそうである。これらの混合ミセルは、細菌細胞の表面に存在するFAアニオンの濃度または活性に影響を及ぼすことがありそうである。FAはまた、非常に動的な構造であるミセルの形状で存在することもできる。したがって、ミセル中のFAと界面活性剤分子との間で、分子間交換および分子内交換の双方が可能であろう。ミセルおよび油滴中の分子間の交換は可能であろうが、かなりゆっくりと生じるであろう。
【0088】
これらのデータは、適当な界面活性剤を添加してミセルを形成することにより、インビトロにおいて、FAによるピロリ菌殺菌の有効性を増大することが可能であることを示している。界面活性剤、PPI、およびFAを含有するトリプルカクテルは、これらの薬剤のいずれの一つ、または二重の混合物よりもさらに有効である。3つの成分は全て低濃度であることが可能であり、それら自身では何ら影響をもたないが(0.3mM FA C12:0、0.05%ツイーン20、および200μg/mlのランソプラゾール)、しかし一緒では標準的なインキュベーションにおいてピロリ菌の生存率を少なくとも6対数単位まで減少させることは強調される必要がある。このことは、FA(ラウリン酸)が界面活性剤(ツイーン20)と組合わされたとき相乗作用が起こり、細菌感染症(ピロリ菌)を治療することを強力に支持する証拠である。
【実施例2】
【0089】
インビボでは、ピロリ菌と胃内腔との間の粘液の存在が、ピロリ菌感染の部位への、経胃的に利用可能な任意の医薬品の接近を妨げるであろう。粘液溶解剤および粘液の存在が、組合せ(FA+界面活性剤+PPI)の活性に影響を及ぼすかどうかを試験するべく、以下のインビトロ試験が行なわれた。
【0090】
ピロリ菌(NCTC11637)の培養物は、豚の胃粘膜と40分間混合され、次いでピロリ菌コロニーは希釈および播種により再単離された。再単離された株は以下の実験において使用された。16SrDNA片のPCRおよびシーケンシングが使用され、再単離された細菌株がピロリ菌であったことが確証された。
【0091】
ピロリ菌は、5%ウマ血清(フォート・リチャード(Fort Richard))を用いたコロンビア寒天(Columbia agar)(オキソイド(Oxoid))上に播種することにより、微好気条件(80%窒素、15%二酸化炭素、5%酸素)下に、37℃で48時間増殖された。48時間寒天プレートの2白金耳が、5%ウマ血清を含有するあらかじめ加温された(37℃)アイソ・センシテストブイヨン(Iso-sensitest broth)(オキソイド)へ接種され、微好気条件下に24時間インキュベートされた。
【0092】
この24時間のピロリ菌ブイヨン培養物(500μL)は、3.5gの、解凍され、あらかじめ加温された豚胃粘液(あらかじめ−20℃で凍結された)へ添加され、混合された。粘液/ピロリ菌混合物は室温で30分間、微好気条件下にインキュベートされた。粘液/ピロリ菌混合物アリコートはテストチャンバー(図3)へ移された。粘液/ピロリ菌層は厚さ1mmであった;集合の後、テストチャンバーはアイソ・センシテストブイヨン(オキソイド)を異なる試験添加物とともに含有している、50mLのファルコンチューブへ入れられた。
【0093】
テストチャンバーの説明図は、図3に示されている。
【0094】
粘液/ピロリ菌テストチャンバーを含有しているファルコンチューブは、37℃で40分間、微好気条件下に、ロータリーシェーカー(200rpm)上でインキュベートされた。次いでテストチャンバーは移され、その表面は滅菌蒸留水で3回洗浄された。粘液ゲル/ピロリ菌はテストチャンバーから移され、秤量された。粘液の最初の1:10希釈は、0.245MのN−アセチルシステイン(NAC)を含有する9体積のアイソ・センシテスト・ブイヨンを添加すること、およびガラスホモジナイザ内でホモジナイズすることによって行なわれ、ピペットで移すことも可能な硬さを作成した。さらなる10倍希釈シリーズが、アイソ・センシテストブイヨン中で行なわれた。希釈物(50μL)は次に、5%ウマ血清、10mg/Lのバンコマイシン(シグマ)、330μg/LのポリミキシンB(シグマ)、20mg/Lのバシトラシン(シグマ)、10mg/Lのナリジキシン酸(シグマ)、および5mg/LのアンポテリシンB(シグマ)を含有するコロンビア寒天(オキソイド)上に塗り伸ばされた。計数に先立ち、プレートは37℃で4日間、微好気条件下にインキュベートされた。生存ピロリ菌の最終濃度コロニー形成単位(cfu)は、粘液1グラムあたりで計算された。
【0095】
表2は、以下に示されたように、平行して行なわれた別個のテストチャンバー実験における、種々の水性組成物とのインキュベーション後の、粘液中のピロリ菌生存を示している。使用された略語は:FA=0.1または0.2mMのラウリン酸;TW=0.05%ツイーン20;OM=0.58mMのオメプラゾール;NAC=0.245MのN−アセチルシステイン、である。
(a)粘液1グラムあたりに最初に添加された、計算されたピロリ菌cfu。これはピロリ菌の24時間ブイヨン培養物からの希釈シリーズから得られた。
(b)アイソ・センシテストブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌。
(c)FAを含有するアイソ・センシテストブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌(TW、OM、またはNACもなし)。
(d)FA+TW+NACを含有するアイソ・センシテスト・ブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌(OMなし)。
(e)FA+OM+NACを含有するアイソ・センシテスト・ブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌(TWなし)。
(f)FA+TW+OMを含有するアイソ・センシテスト・ブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌(NACなし)。
(g)FA+TW+OM+NACを含有するアイソ・センシテストブイヨンに対し40分間暴露された、テストチャンバー中の粘液/ピロリ菌(試験添加物の完全な混合物)。
【0096】
【表2】

【0097】
(実施例2の結果の分析)
実施例2において記述された双方の実験は、試料(g)の結果を試料(f)および他の全ての試料と比較することにより、0.245mMのN−アエチルシステイン(NAC)が試験添加物(ラウリン酸、ツイーン20、およびオメプラゾール)の殺菌効果を増大することを示している。NACは、粘液バリアの完全性を減少させることにより、試験薬剤がピロリ菌細胞へ到達できるようにすることがありそうである。NACに対する暴露後の粘液は、外見上糸を引くように見え、容易に均一な懸濁液へホモジナイズされることが可能であり、粘液溶解性の変化と一致する。
【0098】
試験薬剤混合物からのオメプラゾール(OM)の除外は、試料(g)の試料(d)との比較によって示されるように、殺菌効果を減少させた。双方の試料とも、粘液溶解剤を含有している。
【0099】
試験薬剤混合物からのツイーン20(TW)の除去は、0.1mMのFAの実験における、試料(g)の試料(e)との比較によって示されるように、殺菌作用を減少させる。双方の試料とも、粘液溶解剤を含有している。
【0100】
0.2mMのFAの実験では、殺菌剤としてFAのみを含有している試料(c)の、試料(d)、(e)、(f)、または(g)との比較は、最適の殺菌効能を得るためには全ての試験添加物の添加が必要であることを示唆している。0.1mMのFAの実験は、一濃度のFAを単独で含有しており、ピロリ菌生存に対し最少の効果を有していた。
【0101】
粘液の完全性が粘液溶解剤(NAC)の添加によって低減された表2の結果は、粘液が存在しなかった(かつ粘液溶解剤はそれゆえ必要でなかった)図1に示された結果と一致する。したがって、殺菌剤からのピロリ菌細胞の保護における、粘液バリアの有効性を試験するべくデザインされた、インビトロの粘液/ピロリ菌試験チャンバーモデル実験は、本発明において記述されたラウリン酸、ツイーン20、オメプラゾール、およびN−アセチルシステインの混合が、胃における粘液バリアの有効性を克服し、インビボにおいてピロリ菌を殺菌することができることを予言している。
【実施例3】
【0102】
(脂肪酸および界面活性剤の剤形の製剤)
(製剤法)
1.規定された量の脂肪酸(ラウリン酸)および界面活性剤(ツイーン20)をビーカー内に秤量する
2.オーブン内で65〜70℃においてインキュベートする
3.規定された量の水性相を同じ温度においてインキュベートする
4.同じ温度において、油相を水性相に対し徐々に添加する
5.高速で15〜30分間ホモジナイズする
6.適当な容器へ移し、ラベルをつける
【0103】
(製剤A)
【表3】

【0104】
(結果)
製剤Aは、長期間(6か月まで)の貯蔵で安定であった。密度調製剤としてのハッカ油の使用は、ラウリン酸の不快な味をマスクする能力を有する(製品使用の実用的利点)。粘度調整剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)溶液(2%w/v)は、ラウリン酸(脂肪酸)の、振盪時に泡をふく(froth)および泡立つ(foam)傾向を低減させる付加的な利点を有する。このことはおそらくCMCの、表面張力を低下させる能力によるものであろう。密度増強剤および粘度調整剤双方が使用されなかったなら、製剤は多様な安定性の問題を生じたことが判明した。
【0105】
二つの成分、ラウリン酸(脂肪酸)および界面活性剤(ツイーン20)の、水性分散媒体を用いたそれら単独での組合せは、物理的に不安定な系を生じる結果となる。かかる系は、迅速な相の分離のため、正確なドーシングをすることができず、それゆえ液体形状での投与には適さない。しかしながら、脂肪酸/モノグリセリドおよび界面活性剤の組合せの、経口投与に適した製薬上許容される液体剤形は、密度調製剤(たとえばハッカ油)および増粘剤(たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム)の助けを借りて製剤されることが可能である、
【0106】
脂肪酸またはモノグリセリドの貯蔵安定性の製剤を、水性系への統合が可能な剤形において調製することができる能力は、本発明の付加的な観点であるとみなすことができる。この製剤、またはこの製剤と、胃の治療において使用される他の活性成分との組合せは、細菌感染の治療における別の利益を使用者に提供するかもしれない。このことは、一部は、他の活性剤の効果を補足または増強することも可能な、FA/MGの殺菌効果に基づくものであろう。したがって、胃または十二指腸系における感染に関連した細菌の治療のための殺菌組成物の調製における、安定な脂肪酸/界面活性剤組成物の用途は、本発明の付加的な観点である。製剤はMGについてもまた使用可能ではあるが、MGによる界面活性剤の効果の増大がないことは、このことがあまり好ましくはないが、正確なドーシングを提供する能力を想定すればなおオプションであってもよいことを意味している。
【実施例4】
【0107】
(モノラウリン(MG C12)とツイーン80との可能な相互作用を調べるための実験)
ピロリ菌の生存に対するモノラウリンの濃度プロフィールは、0.4%(w/v)のツイーン80の存在下および非存在下に試験され、結果は図4に示されている。MG C12単独では、0〜0.3mMの範囲内ではほとんど効果がない。しかしながら、0.3〜0.5mMのMG C12の範囲内では、殺菌能力に急な増加があり、殺菌は>5対数単位まで増加した(図4、四角形)。ツイーン80の存在は、MG C12の殺菌効果を増強することはなく、実際、その効果をわずかに減衰させているように見える(図4、菱形)。0.4%(w/v)のツイーン80が存在した場合、ツイーン80の非存在下での>5ログと比較して、わずか3ログのピロリ菌殺菌が0.5mMのモノラウリンについて観察されたにすぎない。
【0108】
この結果は、MGが有効な殺菌剤であることを示している。界面活性剤との組合せは、効果の増大を提供することは全くないが、界面活性剤が殺菌効果をわずかに低減させるとしても、組合せはなお殺菌作用を成遂げた。
【0109】
前述において、既知の同等物を有する発明の特定の成分または完全体が参照されてきたが、かかる同等物は個々に示された通りに本文に取入れられている。
【0110】
本発明は、単なる例として、その可能な態様を参照して説明されてきたが、添付のクレイムにおいて定義されたように、本発明の範囲または精神から離れることなく、変更または改良がおこなわれてよいことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】FA C12:0のみ(▲);FA C12:0プラス100μg/mLのランソプラゾール(●);FA C12:0プラス200μg/mLのランソプラゾール(■);FA C12:0プラス300μg/mLのランソプラゾール(▼);FA C12:0プラス400μg/mLのランソプラゾール(◆);FA C12:0プラス0.05%(w/w)ツイーン20(△);FA C12:0プラス100μg/mLのランソプラゾールプラス0.05%(w/w)ツイーン20(○);FA C12:0プラス200μg/mLのランソプラゾールプラス0.05%(w/w)ツイーン20(□)の存在下のピロリ菌の生存。細胞はpH7.4において、37℃で40分間インキュベートされた。
【図2】0.05%ツイーン20(▲)の存在下、および非存在下(△)におけるピロリ菌の生存に対するランソプラゾールの効果。
【図3】消化管中の粘液層のモデルを作るべく使用された装置の説明図である。このテストチャンバーは、胃の内腔に存在する薬剤からのピロリ菌の保護における粘液のバリア効果を調べるための、インビトロモデルとしてデザインされた。pH7.0のアイソ・センシテストブイヨンおよび試験添加物の水性混合物中に浸漬された、ステンレス鋼のグリッドによって所定の位置に保持された、粘液/ピロリ菌層を示す。粘液層(C2)は、特定された多数のコロニー形成単位をもつピロリ菌を含有する。それは、厚さ1mmのディスクとして、テストチャンバーベース(BおよびC4)とステンレス鋼メッシュ(AおよびC1)との間に保持される。これは次に、ブイヨンを含有しているファルコンチューブ内へ挿入された(D)。 A.ステンレス鋼グリッドを含むくぼんだ頂部のあるスクリュー式トップリッド。 B.粘液を含有する、深さ1mm×直径10mmのくぼんだウエルをもつベース(陰影をつけられた領域、C2参照) C.チャンバー(A&B)の断面図。1−ステンレス鋼のメッシュ、2=粘液、3=スクリュー式トップリッド、4=ベース D.アイソ・センシテストブイヨン(添加物あり、またはなし)で覆われたファルコンチューブ内のチャンバー。
【図4】37℃および初期pH7.4における40分間の暴露後の、ツイーン80(0.4%、w/v)の非存在下(四角形)および存在下(菱形)におけるピロリ菌の生存に対するモノラウリン(MG C12)の効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃および/または十二指腸のピロリ菌感染症の治療のための、一以上の部分における組成物であって、前記組成物が有効な量の、
(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、
(b)粘液溶解製剤と、
(c)経胃的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、
(d)脂肪酸および/またはモノグリセリドと
を含んでいる組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸(「FA」)またはモノグリセリド(「MG」)が、ピロリ菌に対し5mM以下の「最小殺菌濃度」(「MBC」)を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記FAまたはMGが、任意の一以上の;カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノレイン酸、モノラウリン、またはモノミリスチンから選ばれる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記FAおよび/またはMGが、胃の水性相中で分散または溶解することが可能な形状である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記FAが、可溶化剤と組合わされる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記可溶化剤が非イオン界面活性剤である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記非イオン界面活性剤が、ソルビタンを主成分とするか、胆汁酸塩界面活性剤、ブリジ(Brji)界面活性剤、またはトリトン(Triton)界面活性剤である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ソルビタンを主成分とする非イオン界面活性剤がツイーン20またはツイーン80である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記非イオン界面活性剤が密度調整剤および増粘剤と組合わされる、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、好ましくはMGおよびFAの双方を含んでおり、前記MGが前記FAの乳化を援助する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記経胃的かつ全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤が、同じかまたは異なることが可能であり、一以上のオメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾール、チモプラゾール、またはピコプラゾールから選ばれる、請求項1〜10のずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形が、液体、タブレット、カプセル、カプレット、または顆粒形状である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形が、経腸的にコートされた剤形である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
経胃的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の剤形が、液体、タブレット、カプセル、カプレット、または顆粒の形状である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記経胃的に利用可能でありかつ全身的に利用可能なプロトンポンプ阻害剤の形状が、同じであるがしかし経腸的にコートされた剤形ではない、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記粘液溶解剤が適当なスルフヒドリル試薬から選ばれる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記粘液溶解剤がN−アセチルシステインである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも一つの抗生物質をさらに含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
胃および十二指腸のピロリ菌感染症を治療するための方法であって、
(a)全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤を投与すること、
(b)粘液溶解製剤を投与すること、
(c)経胃的および/または経十二指腸的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、脂肪酸および/またはモノグリセリドとを、一緒に、またはいずれかの順序で連続的に投与すること、
(d)任意に、段階(b)および(c)を、ピロリ菌感染症を治療するために有効な回数にわたり繰返すこと、
の段階を連続的に含む方法。
【請求項20】
前記段階(b)および(c)および(d)がともに、絶食後に行なわれる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記段階(a)が単回の、反復されない投与段階である、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記段階(a)が絶食前に行なわれる、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記段階(b)が前記段階(c)の約15分〜約3時間前に行なわれる、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記段階(c)が1回量の剤形を用いて成遂げられる、請求項19〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記FAおよび/またはMGが、胃の水性相中で分散または溶解することが可能な形状である、請求項22〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記段階(c)がプロトンポンプ阻害剤、脂肪酸、および非イオン界面活性剤の投与を含む、請求項23〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記非イオン界面活性剤が、密度調製剤および増粘剤と混合される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
胃のピロリ菌感染症の治療における使用のための薬剤組成物の製造における、全身的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、粘液溶解製剤と、経胃的および/または経十二指腸的に利用可能な剤形にあるプロトンポンプ阻害剤と、脂肪酸および/またはモノグリセリドの使用。
【請求項29】
脂肪酸を、界面活性剤、増粘剤、および密度著製剤と一緒に含んでいる組成物。
【請求項30】
前記脂肪酸が、カプリン酸、ラウリン酸、またはミリスチン酸である、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記界面活性剤が約50と約5000の間の凝集数を有する、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
前記凝集数が約1000未満である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記界面活性剤がツイーン20またはツイーン80である、請求項29〜32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記増粘剤が、任意の一以上の、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)のようなセルロース誘導体、および、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、ゼラチン、およびデンプンといった懸濁化剤から選択される、請求項29〜33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記密度調整剤が、任意の一以上のアニス油、ハッカ油、またはウイキョウ油から選ばれる、請求項29〜34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
薬剤キットであって、請求項1に記載の組成物の前記成分(a)〜(d)を含んでいるキット。
【請求項37】
前記成分(d)が非イオン界面活性剤と組合わされる、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記成分(d)もまた、密度調整剤および増粘剤と組合わされる、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
ピロリ菌よって引き起されるか、または引き起されると信じられている任意の疾病状態の管理における、請求項1〜38のいずれか一項に記載の組成物、キット、または方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−510804(P2008−510804A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529759(P2007−529759)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【国際出願番号】PCT/NZ2005/000223
【国際公開番号】WO2006/022560
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(504448092)オークランド ユニサービシズ リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】AUCKLAND UNISERVICES LIMITED
【Fターム(参考)】