説明

脂環式構造重合体および該重合体を含む樹脂組成物並びにこれを用いた光学材料

【課題】 通常の脂環式構造重合体の持つ良好な透明性等の光学特性、耐熱性、耐薬品性、電気特性および低吸水性等を保持しながら、優れた低複屈折性を有する脂環式構造重合体、およびこれを用いた光学材料を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)または式(2)で表される重合単位を少なくとも1種含む脂環式構造重合体である。
式中nは0〜2であり、Xは−CH=CH−または−CH−CH−を表す。R〜Rは水素、ハロゲン元素、または一価の置換基(ただし、芳香環(複素芳香環を含む)又は脂環を有する基を除く。)を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式構造重合体および該重合体を含む樹脂組成物並びにこれを用いた光学材料に関し、詳しくは成型加工時の配向等による複屈折性を抑制し、光学材料等として好適な脂環式構造重合体および該重合体を含む樹脂組成物並びにこれを用いた光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィンをモノマーとして合成される脂環式構造を重合単位として有する脂環式構造重合体は、骨格中に嵩高い脂環式構造を有することから非晶性ポリマーとなりやすい。一般にこのような脂環式構造重合体は、優れた透明性、耐熱性を示し、光学歪みが小さく、低吸水性、耐酸・アルカリ性および高い電気絶縁性を有するなどの特徴があることから、各種の光学機器材料として用いられてきた。例えばディスプレイ、光学レンズ、光ディスク、光ファイバー、光学フィルム/シート、EL素子用基板等として開発が行われている。
【0003】
この様な環状オレフィン類の中でも、特に反応性の高いノルボルネン類をモノマーとする脂環式構造重合体の開発が中心に行われてきた。上述の脂環式構造重合体は、通常、射出成形法及び溶融押出成形法等による成形加工によって製品化されるが、従来の脂環式構造重合体では成形工程時の樹脂の配向によって複屈折性が生じ、得られる光学製品の要求特性を十分満たせない場合があった。近年のエレクトロニクス技術の向上に伴い、従来の脂環式構造ポリマーの優れた透明性、耐熱性等の機能を維持したまま、ポリマーの配向によって生じる複屈折性が小さくなるような材料の開発が強く望まれるようになった。特許文献1、特許文献2には上述のような問題点を解決するための提案として、エステル基を介して芳香族基を有する脂環式構造重合体が開示されている。例えば、特許文献1の明細書(0003)には、この脂環式構造重合体は良好な透明性、耐熱性および耐水性を保持しながら複屈折性を改善できるとされている。しかし、複屈折性抑止効果を十分発揮するために、耐熱性など他の物性が低下したりして十分要求に応える材料とは言いがたかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−321535号公報
【特許文献2】特開2003−238494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、通常の脂環式構造重合体の持つ良好な透明性等の光学特性、耐熱性、耐薬品性、電気特性および低吸水性等を保持しながら、優れた低複屈折性を有する脂環式構造重合体、およびこれを用いた光学材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、下記一般式(1)又は式(2)で表される重合単位を少なくとも1種含む脂環式構造重合体である。
【0007】
【化1】

【0008】
式中nは0〜2であり、Xは−CH=CH−または−CH−CH−を表す。R〜Rは水素、ハロゲン元素、または一価の置換基(ただし、芳香環(複素芳香環含む)又は脂環を有する基を除く。)を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0009】
(2)本発明は、応力光学定数(C)の絶対値が500×10−12Pa−1以下である前記(1)に記載の脂環式構造重合体である。
【0010】
(3)本発明は、重量平均分子量が20,000〜5,000,000である前記(1)または(2)に記載の脂環式構造重合体である。
【0011】
(4)本発明は、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の脂環式構造重合体を含む樹脂組成物である。
【0012】
(5)前記(4)に記載の樹脂組成物を成形してなる光学材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脂環式構造重合体は、従来の脂環式構造重合体の持つ樹脂特性、すなわち光学特性、耐熱性、低吸水性、耐酸・アルカリ性および高い電気絶縁性を有するなどの特長に加え、特に優れた透明性、耐熱性、低吸水性を有し、複屈折性を化学構造により抑制できる。それ故、本発明の脂環式構造重合体樹脂組成物は取扱いの容易な高性能の光学材料とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、上記一般式(1)、(2)のいずれかで表される重合単位を少なくとも1種含む脂環式構造重合体である。(1)、(2)式中のnは0〜2であり、(2)式中のXは−CH=CH−または−CH−CH−を表す。また、R〜Rは水素、ハロゲン元素、または一価の置換基(ただし、芳香環(複素芳香環を含む)又は脂環を有する置換基を除く)を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0015】
本発明の脂環式構造重合体は、上記一般式(1)、(2)のいずれにおいてもノルボルネン誘導体をモノマーとした重合単位を持つ脂環式構造重合体である。式中シクロペンタン構造の繰返しを表すnは0〜2であり通常のノルボルネン系脂環式構造重合体と変わりはない。前記一般式(1)における脂環構造の繰り返し数nとしては、n=0のノルボルナン構造及びn=1のテトラシクロドデカン構造が好ましく、ノルボルナン構造がより好ましい。一般式(2)においても脂環式構造の繰り返し数nは、n=0のシクロペンタン構造及びn=1のトリシクロデカン構造が好ましく、シクロペンタン構造がより好ましい。
【0016】
式(1)の脂環式構造重合体は、シクロペンテンのオレフィン基が重合した一種のポリオレフィン型である。式(2)の脂環式構造重合体は、シクロペンテンが開環重合した開環重合型であり、Xは−CH=CH−または−CH−CH−を表している。Xが−CH=CH−の場合は、シクロペンテンが開環重合したままの構造であり、Xが−CH−CH−の場合は、−CH=CH−を水素化した構造である。脂環式構造重合体の語は、この水素化された構造体をも含む概念である。また、本発明の脂環式構造重合体は、共重合体及び単独重合体のどちらでもよく、重合及び重合体の語には共重合及び共重合体の両者を含む概念とする場合がある。特に明確に両者を含むことを示す概念の語として(共)重合及び(共)重合体と表す場合もある。
【0017】
通常、ノルボルネン系脂環式構造重合体の重合単位構造の場合、五員環部分の作る剛直な側鎖部分は、重合体主鎖とほぼ平行な平面構造であり、回転の自由度もない。そして、重合体主鎖と直接結合しているこの部分が光学的異方性の原因となり、樹脂の成形時等に配向して正の複屈折性を発現する。本発明の重合単位の場合も重合体主鎖と直接結合している五員環部分からマレイミド環構造までは剛直な分子構造をしており、重合体主鎖と直接結合しているこの部分が光学的異方性の原因となり、樹脂の成形時等に配向して正の複屈折性を発現する性質を内在している。
【0018】
一方、本発明の脂環式構造重合体は、このイミドの窒素原子に結合するフェニル基が存在している。本発明においては、イミド基の窒素に結合するこのフェニル基の機能が重要であるので、これについて説明する。通常のノルボルネン系脂環式構造重合体は成形、延伸等により正の複屈折性を示すことがあり、光学材料としての使用が制限される。本発明の脂環式構造重合体における重合単位の側鎖部分では、ノルボルネン誘導体モノマー由来の五員環と縮合したマレイミド環構造およびN置換フェニル基がそれぞれ平面構造をとり、イミド環構造の平面とフェニル基の作る平面が立体障害により互いにほぼ垂直に近くなる。このため、フェニル基の作る平面は、重合体主鎖と剛直に結合している脂環式構造平面およびイミド環構造の平面、すなわち重合体主鎖とはほぼ垂直になる。このことは、フェニル基の作る平面が、脂環式構造重合体に負の複屈折性を付与する効果をもたらす。この効果を利用して、フェニル基の作る平面が、ノルボルネン誘導体モノマー由来五員環構造の正の複屈折性を相殺し、脂環式構造重合体全体としては、複屈折性のほとんどない重合体を作成することが出来る。
【0019】
本発明において、フェニル基は置換基を有していなくともよいが、置換基を有するフェニル基、特にオルト位に置換基のあるフェニル基が負の複屈折性発揮には好適である。さらに、置換基はメチル基のように嵩高い基が負の複屈折性発揮には好適である。フェニル基についた置換基がイミド環のカルボニル基との間で大きな立体障害を生じやすく、フェニル基の作る平面がイミド環とこれに連なる重合体主鎖と直接結合している脂環式構造の作る面とほぼ垂直になりやすく、フェニル基が効率的に負の複屈折性を発揮しやすくなるからである。この点からR〜Rとして、水素、ハロゲン原子、一価の置換基が挙げられる。一価の置換基としてはヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アルキル基が挙げられる。中でも、前記R〜Rとして、アルキル基が好ましく、炭素数1〜5のアルキル基がさらに好ましい。R1〜R5として、炭素数1〜5のアルキル基を用いると、負の複屈折性発揮効果、製造の容易性、脂環式構造重合体としての物性のバランスに優れる。特に、オルト置換メチル基はこのような条件を満たす好適な例である。置換基を多数有するフェニル基も立体障害効果からは好適である。しかし、あまり多くの置換基を持つフェニル基は製造上困難になる。
【0020】
複屈折性の原因となる光学異方性は電子密度の立体的な異方性によるものであり、電子密度の立体的な異方性の高い置換フェニル基は、負の複屈折性を強く発揮する傾向にある。例えば、置換フェニル基としてスチルベン基、ビフェニル基などのアリール基がその例である。しかし、本発明においては置換フェニル基の置換基R〜Rとして芳香環(複素芳香環を含む)又は脂環を有する基である場合を除外している。これらの置換基を持つ置換フェニル基は、液晶分子における、液晶性を発揮する剛直な棒状中間相(液晶相)形成原子団となり、通称メソゲン基とも呼ばれている。メソゲン基は芳香環又は脂環を2つ以上有し、これらは縮合環または非縮合環の場合もある。メソゲン基の具体的な例としては、フルオレニル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基などがある。これらのメソゲン基は負の複屈折性を強く発揮する傾向にある。
【0021】
メソゲン基は液晶相を構成しやすく、製造した脂環式構造重合体を成形加工する際に、熱、圧力、電界等により意図しない液晶相により複屈折性を表すことがあり脂環式構造重合体の複屈折性を制御した光学材料としての取扱いに注意を要する。本発明の脂環式構造重合体は、このような液晶相を形成する可能性のある原子団がイミドの窒素の置換基でないことで複屈折性の制御を容易にしている。また、メソゲン基は、一般に非常に嵩高く、本発明のN置換マレイミド化合物を製造するのが容易ではない場合もある。
【0022】
本発明において複屈折性をほとんど示さない脂環式構造重合体を得るには、分子中の正の複屈折性を示す部分の強さと負の複屈折性を示す部分の強さとの定量的なバランスを取る方法がある。そのためには、脂環式構造重合体の脂環式構造部分すなわち正の複屈折性を示す部分の強度と脂環式構造部分の重合体全体に占める量的割合に対する、N置換フェニル基の構造部分が示す負の複屈折性の強度とその部分の重合体全体に占める量的割合の調整が重要である。一般に本発明の脂環式構造重合体のN置換基であるフェニル基は負の複屈折性を強く示すので重合体の脂環式構造部分より量的に少なくして重合体全体の複屈折性をほぼ0に抑えている。このような場合、式(1)や式(2)で表されるN置換フェニルイミド環を持つ脂環式構造の重合単位と、N置換フェニルイミド環を持たない脂環式構造の重合体単位とが適当に混ざり合っている脂環式構造重合体が望ましい。すなわち、共重合体となっていればよい。共重合体は規則的な共重合体でもランダムな共重合体でも複屈折性を制御することが出来る。例えば後述の実施例中の式(9)、式(10)、式(11)、式(12)に示すような共重合体があげられる。
【0023】
さらに、共重合体としなくとも、それぞれの重合単位の重合体を混合した樹脂組成物でも複屈折性を制御することが出来る。あるいは、本発明の脂環式構造重合体であっても、他の脂環式構造重合体であっても、正の複屈折性を示す重合体または共重合体と負の複屈折性を示す重合体または共重合体とをそれぞれ2種類以上混合した樹脂組成物でも複屈折性を制御することが出来る。本発明の樹脂組成物としては、その中に本発明の脂環式構造重合体を少なくとも一種類含んでおればよい。
【0024】
本発明の脂環式構造重合体は、応力光学定数(C)の絶対値が500×10−12Pa−1以下であることが望ましい。応力光学定数(C)とは、ポリマーが流動状態のときに、加えた応力を横軸、複屈折性を縦軸としたときの傾きに相当し、ポリマーがどれ位複屈折しやすいかの指標として用いることができる。応力光学定数は、例えば、「日本レオロジー学会誌」:Vol.19, No.2, pp 93-97(1991)に記載されているが、その意味するところはポリマーの流動状態における応力による透過光への複屈折(位相差)付与の程度を表すものである。また、Polymer Journal:Vol.27, No.9, pp 943-950(1995)では、ポリマーのガラス状態における応力による透過光への位相差付与の程度を表している。上述のように本発明の脂環式構造重合体は、複屈折性を調整することが出来るものであるが、実際に使用するには応力光学定数(C)の絶対値が500×10−12Pa−1以下、好ましくは300×10−12Pa−1以下であることが光学材料として好適である。このように制御すれば、本発明の脂環式構造重合体は、光学材料としての使用上なんら問題は生じない。
【0025】
本発明の脂環式構造重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定すればよい。分子量測定法は、展開溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法である。ポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、20,000〜5,000,000、好ましくは30,000〜1,000,000、より好ましくは40,000〜100,000が望ましい。分子量が大きいほどガラス転移温度などの耐熱性が向上する一方、成形性などの加工性が悪くなる。上記範囲であれば、両方の特性を好適に保つことができる。
【0026】
また、本発明の脂環式構造重合体のガラス転移温度(Tg)は,100℃〜300℃、好ましくは120〜250℃、より好ましくは140〜230℃である。このように本発明の重合体は高いガラス転移温度を有することから、耐熱性に優れた成形品を与えることができる。ガラス転移温度が高いほど耐熱性が向上するが、あまり高いと成形加工が難しくなる。
【0027】
本発明の脂環式構造重合体は、板状、フィルム状、ファイバー状、棒状、あるいは各種の形状に成形して広範囲の光学材料として好適に使用することが出来る。本発明の光学材料は、従来の脂環式構造重合体の有する、優れた透明性、非吸水性、電気絶縁性および耐薬品性に加えて顕著な低複屈折性をも有し、しかも耐熱性が高い。さらに、本発明の脂環式構造重合体の透明性は、高温高湿状態に置かれてもほとんど低下しない特徴を有する。さらに、本発明の特徴である脂環式構造重合単位の少量の存在で脂環式構造重合体の複屈折性を顕著に低減できるので、従来の脂環式構造重合体に対し製造方法、経済性の面からも影響を最小限に抑えることができる。そのため、一般レンズ、ピックアップレンズ、プリズム、光ディスク、導光板、光学フィルム、液晶素子等の幅広い光学用素子に好適に利用することができる。
【0028】
本発明の脂環式構造重合体の製造法について説明する。本発明の脂環式構造重合体の製造法は特に限定されることはない。まず、本発明の脂環式構造重合体の重合単位のモノマーを製造する。例えば、下記式(3)に示すように、無水マレイン酸とフェニル基X(フェニル基の語は置換フェニル基または非置換フェニル基を表す。以下同じ)置換第一級アミンとを反応させる。通常、70〜250℃、好ましくは80〜200℃にて、通常、0.5〜48時間、好ましくは1〜20時間反応させることによりN−フェニル基置換マレイミドを得る。その後、これにシクロペンタジエンを加えてディールスアルダー反応させて目的の重合単位のモノマーを生成することができる。ディールスアルダー反応では、特に限定はなく、通常、窒素などの不活性ガス雰囲気下で、温度は好ましくは120〜250℃、より好ましくは130〜230℃で、圧力は好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2〜15MPaの圧力下で、好ましくは0.1〜4時間、より好ましくは0.5〜3時間反応させればよい。これにより、下式(3)の本発明の脂環式構造重合体の重合単位モノマーが得られる。通常、mは0、1又は2である。mはシクロペンタジエンの添加量により調整が出来る。
【0029】
【化2】

【0030】
また、本発明の脂環式構造重合体の重合単位モノマーの他の製造法として、上記と反応順序を逆にする方法がある。下記式(4)に示すように、無水マレイン酸とシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により酸無水物基を有する脂環構造含有単量体を合成した後、これに上記同様のフェニル基置換アミンを反応させて酸無水物基をN−フェニル基置換マレイミド化させることも出来る。ディールスアルダー反応及びイミド化反応の条件は前記と同様にすればよい。
【0031】
【化3】

【0032】
従来の脂環式構造含有重合体の成形品に複屈折性が見られる原因は、射出成形、押出成形などの溶融成形の際の溶融流れや、延伸時の延伸方向に重合体の主鎖に添って脂環式構造部分が配向するためとされている。脂環式構造単量体由来の繰り返し単位の分極率楕円体の長軸が重合体の主鎖方向に平行であるため正の配向複屈折性を示すのである。本発明の脂環式構造重合体に存在する重合単位中では、異方性の大きいフェニル基が、主鎖方向に平行な脂環式構造とほぼ平行面をなす剛直な構造のマレイミド基に結合している。このフェニル基はマレイミド基の二つのカルボニル基の立体障害によりマレイミド基とほぼ垂直な面となるように固定されてしまう。このことにより、異方性の大きいフェニル基が負の配向複屈折性の単位となり得るのである。そのため、本発明の脂環式構造重合体の重合単位と従来のフェニル基を有しない脂環式構造含有単量体とを共重合することにより、ほとんど複屈折性のない共重合体を実現することができる。また、フェニル基の選択によって本発明の脂環式構造重合体の重合単位が有する配向複屈折性の負の度合いを調整することができる。ほとんど複屈折性を呈さない本発明に係る重合単位であるノルボルネン誘導体を用いることにより、単独重合体で目的を達成することも可能である。
【0033】
本発明の脂環式構造(共)重合体は、本発明の脂環式構造重合単位を1〜100重量%、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは1〜40重量%、並びに、他の脂環構造重合単位又は/及びα−オレフィン構造重合単位を0〜99重量%、好ましくは40〜99重量%、より好ましく60〜99重量%を(共)重合することが望ましい。なお、従来の脂環式構造重合体の持つ樹脂特性である低吸水性等を維持するために、本発明における脂環式構造重合単位の共重合量は少ないことが好ましい。
【0034】
本発明の(共)重合体の重合形式は、開環(共)重合、付加(共)重合が挙げられる。なお、脂環式構造重合単位モノマーは開環共重合及び付加共重合に用いられるが、α−オレフィン構造重合単位モノマーは付加共重合にのみ用いることができる。
【0035】
脂環式構造重合単位モノマーとしては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられ、単環、多環(縮合多環、橋架け環、これらの組み合わせ環など)いずれでもよい。脂環式構造を構成する炭素数に特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
【0036】
このような脂環式構造重合単位モノマーの例としては、ノルボルネン系単量体、単環の環状オレフィン、環状共役ジエン、ビニル脂環式炭化水素などが挙げられる。中でもノルボルネン系単量体が好ましい。
【0037】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基が挙げられる。中でも、得られる共重合体が低吸水性を維持できるという点で、アルキル基及びアルキレン基が好ましい。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。具体的には、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エンなどが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上併せて用いることができる。
【0038】
α−オレフィン構造重合単位モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの末端に二重結合を有する炭素数2〜20の炭化水素化合物及びこれらの置換誘導体などが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、又は2種以上を併せて用いることができる。これらの中でもエチレンがより好ましい。
【0039】
開環重合は、単量体を開環重合触媒の存在下、無溶媒又は溶媒中で、通常、−50℃〜100℃の温度で、0.01〜5MPaの圧力下で行うことができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硫酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒が挙げられる。また、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属ハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒などが挙げられる。
【0040】
重合反応用溶媒としては生成する重合体を溶解し、かつ重合反応を阻害しない溶媒が限定なく使用される。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチルなどのエステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類、ケトン類又はエステル類の使用が好ましい。溶媒中の単量体の濃度は、通常、1〜50重量%、好ましくは2〜45重量%、より好ましくは5〜40重量%である。
【0041】
付加重合を行う場合は、単量体を付加重合触媒の存在下に溶媒中で−50℃〜100℃の温度で、0.01〜5MPaの圧力下で行うことができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウムなどの金属の化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒などを用いることができる。付加重合反応用溶媒は、上記の開環重合と同様の溶媒が使用される。
【0042】
本発明の脂環式構造重合体の他の製造方法は、本発明のN−フェニル基置換脂環式構造単量体に代えて、前記式(4)における中間体である酸無水物基を有する脂環式構造単量体を用いる方法である。上記の製造方法と同様の単位モノマー比で、脂環式構造重合単位モノマー又は/及びα−オレフィン系単位モノマーと開環もしくは付加(共)重合する。次いで、例えば開環(共)重合体の場合、下記式(5)に示されるように、(共)重合体分子中の酸無水物基を有する脂環式構造重合単位単位の酸無水物基に対し、フェニル基含有第一級アミンを反応させてN−フェニル基置換ジカルボンイミド化する方法である。ここで、上述の製造方法同様Xはフェニル基であり、mは0、1又は2である。
【0043】
【化4】

【0044】
この場合の(共)重合体の製造方法におけるイミド化反応は、(共)重合体の溶液にフェニル基含有第一級アミンを添加して、70〜250℃、好ましくは80〜200℃にて、0.5〜48時間、好ましくは1〜20時間反応させることが好適である。
【0045】
本発明において開環重合をした脂環式構造重合体は、主鎖の二重結合をさらに水素化して安定した脂環式構造重合体とすることができる。水素化は、例えば、側鎖のフェニル基などの脂環式構造重合体単位モノマーより生じる主鎖の炭素−炭素二重結合以外の不飽和結合は水素化されないことが好ましい。このようにするためには、使用する水素化触媒によって異なるが、重合体の反応溶液に、ニッケルやパラジウムなどの遷移金属触媒を含む公知の水素化触媒を添加して、−10〜+250℃、好ましくは0〜200℃の反応系に水素を0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜8MPaの圧力で導入して、0.1〜50時間反応させることが望まれる。水素化率は、主鎖の炭素−炭素不飽和結合については90%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
【0046】
こうして得られる本発明の水素化された脂環式構造重合体は、水素化前の脂環式構造重合体と同様の低複屈折性及び高耐熱性に加えて優れた耐熱老化性及び機械的強度を有する成形品を与えることができる。
【0047】
本発明の脂環式構造重合体を用いて樹脂成形品を製造するには、通常、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料などの着色剤、滑剤、可塑剤、アンチブロッキング剤、蛍光増白剤、防臭剤、充填剤、架橋剤、加硫剤、他の合成樹脂やゴム質重合体などの配合剤を適宜選択して配合し、成形用樹脂組成物を調製する。各配合剤の配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。また、2種類以上の本発明の脂環式構造重合体を混合したり、1種類以上の本発明の脂環式構造重合体に他の樹脂、例えば実施例中の式(13)に示すノルボルネン系樹脂を混合したりすることも出来る。
【0048】
成形用樹脂組成物の調製方法としては、通常、ニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェルミキサ、押出機、ロールなどの公知の混合機により混合し、次いでこれを160〜350℃で溶融混練してペレット等の粒状の成形用樹脂組成物とする方法を採ればよい。
【0049】
上記成形用樹脂組成物から樹脂成形品を製造するには、通常、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、プレス成形、ロール成形などの成形法を採る。成形時の樹脂温度は、通常、220〜330℃、好ましくは230〜320℃、より好ましくは240〜310℃である。
【0050】
このようにして製造された本発明の光学材料は、従来の脂環式構造重合体が有する、優れた透明性、低吸水性、電気絶縁性及び耐薬品性に加えて、顕著な低複屈折性をも示し、しかも耐熱性が高い。さらに、本発明の光学材料の透明性は、高温高湿状態に置かれてもほとんど低下しないので、レンズ、ピックアップレンズ、プリズム、光ディスク、導光板、光学フィルム、液晶素子等の光学部材だけでなく、機械部材、電気部材、建築部材など種々の用途に好適に利用できる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、〔部〕及び〔%〕は、特に断わりのない限り重量基準である。
【0052】
(試験法)
(1)合成モノマーの同定
精製した合成反応生成物をH−NMRスペクトル分析及び赤外線吸収スペクトル分析により解析して同定した。
(2)重量平均分子量(Mw)
重合体の重量平均分子量は、シクロヘキサンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定して、ポリスチレン換算で求めた。
(3)共重合体の繰り返し単位組成比及び水素化率
共重合体の繰り返し単位組成比及び水素化率(%)は、H−NMRスペクトル分析により求めた。
(4)重合転化率
重合転化率(%)は、ガスクロマトグラフィーにより求めた。
(5)ガラス転移温度(Tg)
重合体のガラス転移温度Tgは、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により、1分間に10℃の割合で昇温して測定した。
【0053】
(6)応力光学定数(C
応力光学定数(C)はPolymer Journal、Vol.27、No.9、P.943〜950(1995)に記載の方法により求めた。すなわちフィルム状サンプルを用いて、ガラス転移温度(Tg)以上にて数種類の一定荷重をかけて数パーセント伸びた状態でゆっくりと冷やして室温まで戻した後に、発生した位相差を測定し、加えた応力とから算出した。
(7)飽和吸水率
樹脂ペレットを用いて作製した試験片を用いてJIS K 7209に準拠して飽和吸水率を測定した。
(8)透過率測定
重合体を温度200℃にてプレス成形して縦130mm、横120mm、厚さ3mmの試験片を得た。この試験片を用いてJIS K 7105に準拠して、濁度計(NDH2000 日本電色社製)により、全光線透過率を測定した。透過率は高いほど透明性が高いことを意味する。
(9)高温、高湿下での耐久性
上記(8)において透過率を測定した試験片を、80℃、相対湿度90%の高温高湿状態に48時間置いた後、23℃、相対湿度60%の恒温恒湿室に移した。高温高湿状態に置く前の透過率T、及び、該透過率から恒温恒湿室に移した直後の透過率T’との差(ΔT=T−T’)を測定した。Tは高いほど透明性が高いことを、また、ΔTは小さいほど高温高湿状態での透明度が高いことを意味する。
(10)複屈折値
重合体の樹脂ペレットを作成して、射出成形機(DISC−3、住友重機械工業社製)にて、樹脂温度を300℃に、金型温度を130℃、圧力5MPaに設定して、厚さ1.2mm、直径85mmの光ディスク基板を成形した。この基板の中心から半径25mm位置の複屈折値を偏光顕微鏡(546nmセナルモンコンペンセータ、ニコン社製)を用いて測定した。複屈折値が0に近いほど低複屈折性を有する。
【0054】
(モノマーの合成)
(合成例1)
N−2,6ジメチルフェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)の合成
攪拌機付きガラス反応器に、トルエン700部、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物16部(重量部を表す。以下同じ)及び2,6ジメチルアニリン12部を仕込んで窒素置換後、180℃で10時間還流を行い、室温まで冷却した。溶媒を減圧除去後、析出物をシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶媒で再結晶させて白色結晶20部を得た。また、得られた結晶の純度を高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、99重量%以上であった。
【0055】
得られた結晶のH−NMRスペクトルを図1に、赤外線吸収(IR)スペクトルを図2に示す。図1のNMRスペクトルにおいて、6.3ppmにノルボルネン構造の5位、6位の炭素に結合したプロトンが、3.5ppmにノルボルネン構造の1〜4位の炭素に結合したプロトンが、1.6〜1.8ppmにノルボルネン構造の7位の炭素に結合したプロトンが、また、2.0ppmにベンゼン環に結合したメチル基のプロトンが、7.0〜7.3ppmにベンゼン環に直接結合したプロトンが観測され、また、図2のIRスペクトルにて、2990cm−1付近にベンゼン環のCH伸縮振動吸収が、1710cm−1付近にカルボニル基に基づくCO伸縮振動吸収が観測された。これらの結果から、この結晶が下記式(6)に示される反応によって生成したN−2,6ジメチルフェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)と同定された。
【0056】
【化5】

【0057】
(合成例2)
N−フェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)の合成
合成例1において、2,6ジメチルアニリン12部をアニリン9部に変えた他は合成例1と同様に行い、白色結晶16部を得た。また、得られた結晶の純度を高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、99重量%以上であった。得られた結晶のH−NMRスペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示す。
【0058】
図3のNMRスペクトルにおいて、6.2ppmにノルボルネン構造の5位、6位の炭素に結合したプロトンが、3.3〜3.5ppmにノルボルネン構造の1〜4位の炭素に結合したプロトンが、1.5〜1.8ppmにノルボルネン構造の7位の炭素に結合したプロトンが、また、7.1〜7.5ppmにベンゼン環に直接結合したプロトンが観測され、また、図4のIRスペクトルにて、3000cm−1付近にベンゼン環のCH伸縮振動吸収が、1710cm−1付近にカルボニル基に基づくCO伸縮振動吸収が観測された。これらの結果から、この結晶が下記式(7)に示される反応によって生成したN−フェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)と同定された。
【0059】
【化6】

【0060】
(合成例3)
5−(9−フルオレンカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンの合成の合成
前記特許文献2に記載の実施例5の方法に倣い、下記式(8)で示される反応により5−(9−フルオレンカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンを合成した。滴下ロートを取り付けた500mlフラスコにノルボルネンアルコールを28g(253.9mmоl)仕込み、系内を窒素置換した。これにピリジン41ml(507.8mmоl)を滴下し、スターラーにて攪拌して溶解させた。次に、反応系の温度を氷冷バスで4±2℃に保ち、予め9−フルオレノイルクロリド52.8gを脱水テトラヒドロフラン200mlに溶解させた溶液を十分に攪拌しながら徐々に滴下した。滴下終了後、氷冷バス中で1時間攪拌を継続した後、室温にして1時間攪拌し、更に、125℃に加熱して30分還流を行った。室温に冷却後、減圧、加温して溶媒を除去し、得られた結晶をn−ヘキサン/塩化メチレン混合溶媒で再結晶を繰り返し、黄色固体状物63gを得た。高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、純度は99重量%以上であった。この固体が下記式(8)に示される反応によって生成した5−(9−フルオレンカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンである。
【0061】
【化7】

【0062】
(実施例1)
窒素置換したガラス反応器内にテトラヒドロフラン300部、合成例1で得たN−(2,6−ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)14部、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下ETDと略記)16部及び連鎖移動剤として1−ヘキセン0.7部を加えた後、80℃に加熱した。これに、重合触媒であるベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドのテトラヒドロフラン溶液(0.162%溶液)4.5部を加え、撹拌しながら80℃にて3時間重合した。重合体溶液の一部を採取して分析したところ、重合転化率は99%以上、Mwは67,000であった。また、H−NMR測定により、この重合体が式(9)に示す構造を有する開環共重合体であることが確認された。また、式(9)中の重合単位の割合を表すnは60、mは40であった。
【0063】
【化8】

【0064】
続いて、撹拌機付きオートクレーブに、得られた重合体溶液を全量加え、オートクレーブ内を窒素置換し、これにビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド1.38部及びエチルビニルエーテル1.3部をトルエン13部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、160℃で水素圧4.5MPaにて4時間水素化を行った。次いで、水素化反応液を多量のメタノールに注いで固形分を完全に析出させた。固形分をろ取し、洗浄後、70℃で12時間減圧乾燥し、開環共重合体水素化物を得た。得られた水素化物のMwは67,000であり、ガラス転移温度Tgは176℃であった。また、H−NMRより側鎖の芳香環は実質的に水素化されていないこと、主鎖の水素化率が99%以上であることが確認された。この重合体が式(10)に示す構造を有する開環重合体共重合体水素化物であることが確認された。また、式(10)中の重合単位の割合を表すnは60、mは40であった。
【0065】
【化9】

【0066】
得られた開環共重合体水素化物100部に対し、老化防止剤(イルガノックス1010、チバスペシャリティケミカルズ社製)0.05部を混合して樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を2軸押出機(TEM−35B、東芝機械社(株)製、スクリュー径37mm、L/D32,スクリュー回転数250rpm、樹脂温度240℃、フィードレート10kg/h)で押し出して樹脂ペレットを作製した。前記試験方法により応力光学定数(C)、飽和吸水率、高温高湿下での耐久性、及び複屈折値を測定した結果を表1に記す。
【0067】
(実施例2)
トルエン258リットルを装入した反応容器に、常温、窒素気流下で合成例1で得たN−(2,6ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)(118kg)を加え、5分間撹拌を行った。さらにトリイソブチルアルミニウムを系内の濃度が1.0ml/リットルとなるように添加した。続いて、撹拌しながら常圧でエチレンを流通させ系内をエチレン雰囲気とした。オ−トクレ−ブの内温を70℃に保ち、エチレンにて内圧がゲ−ジ圧で6kg/cmとなるように加圧した。10分間撹拌した後、予め用意しておいたイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリドおよびメチルアルモキサンを含むトルエン溶液5.0リットルを系内に添加することによって、エチレン、N−(2,6ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)の共重合反応を開始させた。このときの触媒濃度は、全系に対してイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリドが0.015mmol/リットルであり、メチルアルモキサンが7.5mmol/リットルである。
【0068】
重合中、系内にエチレンを連続的に供給することにより、温度を70℃内圧をゲ−ジ圧で0.6MPaに保持した。60分後、重合反応をイソプロピルアルコ−ルを添加することにより停止した。脱圧後、ポリマ−溶液を取り出し、その後、水1mに対し濃塩酸5リットルを添加した水溶液と1:1の割合で強撹拌下に接触させ、触媒残渣を水相へ移行させた。この接触混合液を静置したのち、水相を分離除去し、さらに水洗を2回行い、重合液相を精製分離した。
【0069】
次いで精製分離された重合液を3倍量のアセトンと強撹拌下で接触させ、共重合体を析出させた後、固体部(共重合体)を濾過により採取し、アセトンで十分洗浄した。さらに、ポリマ−中に存在する未反応のモノマ−を抽出するため、この固体を40kg/mとなるようにアセトン中に投入した後、60℃で2時間の条件で抽出操作を行った。抽出処理後、固体を濾過により分取し、窒素流通下、130℃、0.05MPaの減圧下で12時間乾燥し、下記式(11)に示すエチレン・N−(2,6−ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)付加共重合体を得た。得られた付加共重合体のMwは41,000であり、ガラス転移温度Tgは170℃であった。式中の重合単位の割合を表すnは60、mは40であった。実施例1と同様の試験を行った結果を表1に記す。
【0070】
【化10】

【0071】
(実施例3)
実施例1において、N−(2,6−ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)14部を合成例2で得たN−フェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)20部に、また、ETD16部を10部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に開環重合及び水素化反応を行い、開環共重合体水素化物を得た。重合転化率は99%以上であった。得られた開環共重合体水素化物のMwは55,000、ガラス転移温度Tgは157℃であった。また、H−NMR測定により、主鎖の炭素−炭素二重結合に対する水素化率が99%以上であり、また、側鎖の芳香環は実質的に水素化されていないことが確認され、この重合体が式(12)に示す構造を有する開環共重合体水素化物であることが確認された。式(12)中の重合単位の割合を表すnは40、mは60であった。実施例1と同様の試験を行った結果を表1に記す。
【0072】
【化11】

【0073】
(比較例1)
実施例1において、N−(2,6−ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)を使用せず、ETD16部を30部に変更した他は実施例1と同様に開環重合及び水素化反応を行い、開環重合体水素化物を得た。重合転化率は99%以上であった。開環重合体水素化物のMwは33,000、ガラス転移温度Tgは138℃であった。また、H−NMR測定により水素化率が99%以上であることが確認され、この重合体が式(13)に示す構造を有する開環重合体水素化物であることが確認された。実施例1と同様の試験を行った結果を表1に記す。
【0074】
【化12】

【0075】
(比較例2)
実施例1において、N−(2,6−ジメチルフェニル)−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)14部を合成例3で得た5−(9−フルオレンカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン18部に、また、ETD16部を同12部に変更した以外は実施例1と同様に開環重合及び水素化反応を行い、開環重合体水素化物を得た。重合転化率は99%以上であった。開環重合体水素化物のMwは35,000、Tgは108℃であった。また、H−NMR測定により、水素化率が99%以上であり、また、側鎖の芳香環は実質的に水素化されていないことが確認され、この重合体が式(14)に示す構造を有する開環共重合体水素化物であることが確認された。式中の重合単位の割合を表すnは40、mは60であった。実施例1と同様の試験を行った結果を表1に記す。
【0076】
【化13】

【0077】
【表1】

【0078】
表1で示すように、ETD単独の開環重合体(比較例1)に比して、実施例1〜3に示す開環共重合体水素化物(実施例1、3)又は付加共重合体(実施例2)は、優れた耐熱性、非吸水性及び透明性を有している上に顕著に低いレターデーション(複屈折性)を示した。これらは共に、負の複屈折性を与える本発明の重合単位をもつため、ETDに対して適当な割合共重合させることでほとんど複屈折性のない共重合体が生成したことを意味する。これらの共重合体は、高温高湿状態でも透明性はほとんど低下しなかった。また、本発明の開環共重合体のガラス転移温度Tgはいずれも高く、高耐熱性であった。すなわち、本発明の重合体は、ETD単独重合体の特性を保ちながら複屈折性、耐熱性を改善することが出来た。
【0079】
一方、比較例2に示したようにカルボニルオキシ基を介して負の大きな複屈折性を与えると考えられる置換基(9−フルオレン基)を有するノルボルネン誘導体を共重合させた共重合体の場合は、複屈折性は改善することが出来たが、ガラス転移温度Tgや高温耐久性が低下し、バランスのよい光学材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の脂環式構造重合体は、従来の脂環式構造重合体の有する、優れた透明性、非吸水性、電気絶縁性および耐薬品性に加えて顕著な低複屈折性をも有し、しかも高い耐熱性を耐高温高湿性といった特徴を有する。そのため、一般レンズ、ピックアップレンズ、プリズム、光ディスク、導光板、光学フィルム、液晶素子等の幅広い光学用素子に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は合成例1で得られたN−2,6−ジメチルフェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】図2は合成例1で得られたN−2,6−ジメチルフェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)のIRスペクトルを示す図である。
【図3】図3は合成例2で得られたN−フェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図4は合成例2で得られたN−フェニル−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンイミド)のIRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または式(2)で表される重合単位を少なくとも1種含む脂環式構造重合体。
【化1】

(式中nは0〜2であり、Xは−CH=CH−または−CH−CH−を表す。R〜Rは水素、ハロゲン元素、または一価の置換基(ただし、芳香環(複素芳香環を含む)又は脂環を有する置換基を除く)を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
応力光学定数(C)の絶対値が500×10−12Pa−1以下である請求項1に記載の脂環式構造重合体。
【請求項3】
重量平均分子量が20,000〜5,000,000である請求項1または2に記載の脂環式構造重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂環式構造重合体を含む樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物を成形してなる光学材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−52326(P2006−52326A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235143(P2004−235143)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】