説明

脂肪蓄積・代謝改善剤、抗TNF−α作用剤、及び新規トリテルペン化合物

【課題】ザクロ科植物であるザクロの花部より得られる脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤、脂肪蓄積・代謝改善効果及び抗TNF−α効果を有するヒト又は動物用医薬もしくは食品、さらに、ザクロ花部の抽出成分を分離、精製することにより得ることができる新規トリテルペン化合物を提供する。
【解決手段】ザクロの花部、水もしくは低級脂肪族アルコールの含水物等によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、又は該抽出液等を分離、精製して得られるトリテルペン化合物を含むことを特徴とする脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤、この脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤を含有するヒト又は動物用医薬及び食品、並び該抽出液等を分離、精製することにより得ることができる新規トリテルペン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ザクロ科(Punicaceae)植物であるザクロの花部、その抽出物もしくは抽出エキス、又はこれらから得ることができる新規トリテルペン化合物を含有する脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤に関する。本発明は又、前記の新規トリテルペン化合物にも関する。本発明はさらに、前記脂肪蓄積・代謝改善剤又は前記抗TNF−α作用剤を含有する医薬及び食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ザクロ(学名:Punica granatum L.)は、イラン東部から北インドのヒマラヤ山地が原産とされ、中東から中央・東アジアおよび南米に広く分布している。中国伝統医学においては、ザクロの花部を“石榴花(セキリュウカ)”と称し、中薬大辞典(非特許文献1)ではその薬効および主治として「鼻出血、中耳炎、傷による出血を治す。」、「吐血、月経不順、紅崩白帯を治す。」および「やけどには、研って粉末にし、香油を調えて塗布する。」などと記載されている。しかしながら従来は、ザクロの花部に関する詳細な含有成分の探索等の科学的研究は、あまり実施されていなかった。
【非特許文献1】上海科学技術出版社編、中薬大辞典、小学館、1985、pp.1455−1456
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者らは、ザクロ花部の含有成分の解明研究を実施した。その結果、ザクロ花部には、肝細胞における脂肪の蓄積を抑制する作用および肝細胞に蓄積した脂肪の代謝に対する促進作用(脂肪蓄積・代謝改善作用)や、種々疾病(リウマチ、糖尿病、メタボリックシンドロームなど)の発症および進展に関わる炎症性サイトカインであるTNF−αの作用を抑制する作用(抗TNF−α作用)があることを見出し、ザクロ花部より、脂肪蓄積・代謝改善作用を有する薬剤(脂肪蓄積・代謝改善剤)や、抗TNF−α作用を有する薬剤(抗TNF−α作用剤)が得られること、そして、脂肪蓄積・代謝改善作用や抗TNF−α作用を有する化合物が得られることが示唆された。
【0004】
このような背景のもと本発明は、ザクロ花部より得られる脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤を提供することを課題とする。
【0005】
本発明は、又、ザクロ花部より得られ、脂肪蓄積・代謝改善作用や抗TNF−α作用を有する化合物、並びに、この化合物を含有する脂肪蓄積・代謝改善剤及び抗TNF−α作用剤を提供することを課題とする。
【0006】
本発明は、さらに又、前記脂肪蓄積・代謝改善剤又は前記TNF−α作用剤を含有する医薬又は食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ザクロ花部に関する詳細な含有成分の探索、及びその薬剤としての作用についての研究を鋭意行った結果、ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含有させることにより、脂肪蓄積・代謝改善剤又は前記TNF−α作用剤が得られることを見出した。本発明者は、さらに、ザクロ花部には、脂肪蓄積・代謝改善作用や抗TNF−α作用を有する新規トリテルペン化合物が含まれていることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者は、以下に示す態様の発明を完成した。
【0008】
本発明は、その第1の態様として、ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項1)を提供する。
【0009】
本発明者は、ザクロの花部や、ザクロ花部を水や低級脂肪族アルコール等により抽出して得られた抽出液、又は当該抽出液を濃縮して得られる抽出エキスについて、脂肪蓄積・代謝改善剤としての活性評価の指標として、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用いた細胞内脂肪蓄積抑制作用および脂肪代謝促進作用(脂肪蓄積・代謝改善作用)を検討した。その結果、ザクロ花部やその抽出液、抽出エキス等が、脂肪蓄積・代謝改善作用を示すことを見出し、この第1の態様の発明を完成したのである。
【0010】
また本発明は、その第2の態様として、ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする抗TNF−α作用剤(請求項2)を提供する。
【0011】
本発明者は、ザクロの花部や、ザクロ花部を水や低級脂肪族アルコール等により抽出して得られた抽出液、又は当該抽出液を濃縮して得られる抽出エキスについて、抗TNF−α作用剤としての活性評価の指標として、TNF−α感受性細胞であるL929細胞を用いた細胞障害抑制作用を検討した。その結果、ザクロ花部やその抽出液、抽出エキスが、抗TNF−α作用を示すことを見出し、この第2の態様の発明を完成したのである。
【0012】
本発明者は、さらに、前記の抽出液又は抽出エキスを分離、精製し、含有成分の詳細な探索等を行うとともに、この分離、精製により得られた化合物について、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用いた脂肪蓄積・代謝改善作用、及びL929細胞を用いた抗TNF−α作用を検討したところ、前記の含有成分の中に、脂肪蓄積・代謝改善作用及び抗TNF−α作用を有する化合物が含まれていることを見出し、さらに又、これらの化合物の中に新規なトリテルペン化合物が含まれていることを見出し、以下に示す態様の発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、その第3の態様として、下記の構造式(1)で表される新規なトリテルペン化合物(請求項3)を提供する。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明は、さらに、その第4の態様として、構造式(1)で表されるトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項4)、及び構造式(1)で表されるトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする抗TNF−α作用剤(請求項5)を提供する。
【0016】
前記の第1の態様及び第4の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤は、脂肪蓄積抑制作用ならびに細胞内脂肪代謝促進作用を有するため、これを含有させることにより、脂肪蓄積・代謝改善作用を有するヒト又は動物用の医薬や健康食品等の食品を得ることができる。そこで、本発明は、さらに又、その第5の態様として、前記の第1の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項1)又は前記の第4の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項4)を含有することを特徴とする医薬(請求項6)、並びに、前記の第1の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項1)及び前記の第4の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤(請求項4)を含有することを特徴とする食品(請求項7)を提供する。
【0017】
前記の第2の態様及び第4の態様の抗TNF−α作用剤は、TNF−αにより惹起される生物学的応答を抑制することから、これを含有させることにより、体内での過剰なTNF−αの産生により発症および憎悪が報告されている各種疾病(リウマチ、糖尿病、メタボリックシンドロームなど)の改善または予防効果を有するヒトまたは動物用の医薬や健康食品等の食品を得ることができる。そこで、本発明は、さらに又、その第6の態様として、前記の第2の態様の抗TNF−α作用剤(請求項2)又は第4の態様の抗TNF−α作用剤(請求項5)を含有することを特徴とする医薬(請求項8)、並びに、前記の第2の態様の抗TNF−α作用剤又は第4の態様の抗TNF−α作用剤を含有することを特徴とする食品(請求項9)を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤は、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用いた細胞内脂肪蓄積抑制作用および細胞内脂肪代謝促進作用を示し、脂肪蓄積・代謝改善剤としての優れた活性を有する。又、本発明の第2の態様の抗TNF−α作用剤は、TNF−α感受性細胞として知られているL929細胞のTNF−αにより惹起される細胞死に対する抑制作用を示し、抗TNF−α作用剤としての優れた活性を有する。
【0019】
本発明の第3の態様の構造式(1)で表される新規なトリテルペン化合物は、脂肪蓄積・代謝改善剤としての優れた活性、及び、抗TNF−α作用剤としての優れた活性を有する。そこで、この新規なトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする、本発明の第4の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤は、前記の第1の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤と同様に、脂肪蓄積・代謝改善剤としての優れた活性を有する。又、この新規なトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする、本発明の第4の態様の抗TNF−α作用剤は、前記の第2の態様の抗TNF−α作用剤と同様に、抗TNF−α作用剤としての優れた活性を有する。
【0020】
さらに、本発明の第5の態様の医薬や食品は、優れた脂肪蓄積抑制および脂肪代謝改善効果を示し、又、本発明の第6の態様の医薬や食品は、抗TNF−α作用を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき説明するが、本発明の範囲はこの実施の形態のみに限定されるものではない。
【0022】
本発明の第1の態様の脂肪蓄積・代謝改善剤としては、
・ザクロの花部を有効成分として含むもの、
・ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液を有効成分として含むもの、及び
・前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むもの
を挙げることができる。
【0023】
ザクロ花部を有効成分として含むものの場合は、ザクロ花部をそのまま用いることができるし、又は、粉砕、破砕、切断、すりつぶしなどによる形状変化を行ったもの、もしくは、乾燥などの調製を実施したものを用いることもできる。
【0024】
ザクロ花部を、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液を用いる場合、この抽出液は、ザクロの花部をそのまま、水、低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族アルコールの含水物より選ばれる抽出溶媒により、抽出して得ることもできるが、ザクロの花部を、粉砕、破砕、切断、すりつぶしなどによる形状変化を行ったものを用いて抽出する方法が、抽出効率の面で好ましい。
【0025】
抽出溶媒として用いられるアルコールとしては、炭素数1〜4の低級アルコール類が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、nブタノール、イソブタノール、t−ブタノール又はこれらの混液が挙げられる。抽出溶媒として好ましくは、これらのアルコール、又はこれらのアルコールに30容量%までの水を含有する含水アルコールが用いられる。前記のアルコールの中でもメタノール又はエタノールが好ましい。これらの抽出溶媒は、抽出材料に対して、1〜50倍(重量)程度、好ましくは10〜30倍程度用いられる。
【0026】
抽出温度は、室温〜溶媒の沸点の間で任意に設定できるが、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度が抽出効率を上げるためには好ましい。抽出は、前記の抽出材料、即ち、ザクロの花部、又は、それを粉砕、破砕、切断、すりつぶしなどによる形状変化を行ったもの等を、前記の抽出溶媒に浸漬することにより行うことができる。抽出は、振盪下もしくは非振盪下または還流下に行うことができるが、抽出効率を上げるためには、通常、振盪下または還流下に行うことが適当である。
【0027】
好ましい抽出時間は、抽出温度や抽出の際の振盪の有無等により変動し、特に限定されない。例えば、抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜10時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。又、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分間〜数時間加熱還流するのが好ましい。なお、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、前記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば2〜5回程度繰り返すのが好ましい。
【0028】
前記の抽出により得られた抽出液にはザクロ花部の含有成分が溶出されている。本発明の脂肪蓄積・代謝改善剤には、このようにして得られた抽出液をそのまま加えてもよいが、前記抽出液を濃縮した抽出エキスを有効成分として用いてもよい。
【0029】
抽出液の濃縮は、低温で減圧下に行うのが好ましい。なお、濃縮する前に抽出液を濾過して濾液を濃縮してもよい。抽出エキスは、濃縮したままの状態で脂肪代謝改善剤として用いることができる。また、濃縮は乾固するまで行ってもよく、粉末状又は凍結乾燥品等として用いてもよい。濃縮する方法、粉末状及び凍結乾燥品とする方法は、当該分野での公知の方法を用いることができる。
【0030】
このようにして得られる抽出液又は抽出エキスを、精製処理に付し、含有される各成分に分離することができる。そして、分離された成分中には、脂肪代謝改善作用を有する化合物が含まれており、これらも用いることができる(本発明の第3、第4の態様)。
【0031】
精製処理は、例えば、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独、又は組み合わせて採用することができる。クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのいずれか、又はそれらを組み合わせで行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宣選択することができる。
【0032】
抽出液又は抽出エキスを、精製処理に付し、各成分に分離することにより、前記の構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物を得ることができる。この新規化合物を、プニカノール酸(Punicanolic acid)と命名した。
【0033】
前記のように、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、及び、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、脂肪代謝改善剤としての活性評価の指標として実施したヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用いた細胞内脂肪蓄積抑制作用および細胞内脂肪代謝促進作用試験において、活性が見出された。
【0034】
この脂肪蓄積抑制作用試験は、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用い、オレイン酸−アルブミンおよび被検サンプルを含む培地にて培養し、細胞内に蓄積される脂肪量の指標として細胞内中性脂肪(TG)量を測定したものである。これにより、肝細胞における脂肪蓄積抑制作用の高い検体は、肝臓における脂肪蓄積(脂肪肝)を抑制すると判断される。従って、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、及び、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、脂肪蓄積抑制剤として用いることができる。
【0035】
一方、脂肪代謝促進作用試験は、同じくHepG2細胞を用い、高濃度グルコースを含む培地にて培養し細胞内に脂肪を蓄積させた後、低濃度グルコース含有培地へ交換するとともに被検サンプルを添加し、培養後の細胞内TG残存量を脂肪代謝の指標として評価したものである。これにより、肝細胞における脂肪代謝促進作用の高い検体は、肝臓における脂肪代謝を改善すると判断される。ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、及び、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、この細胞内脂肪蓄積抑制作用および細胞内脂肪代謝促進作用試験において、活性が見出されたので、脂肪蓄積・代謝改善剤として用いられることが明らかとなった。
【0036】
さらに、この本発明の脂肪蓄積・代謝改善剤は、医薬や食品に適用することができ、この脂肪代謝改善剤を含有させることにより優れた脂肪蓄積・代謝改善効果を有する医薬や食品を製造することができる。
【0037】
又、前記のように、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、及び、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、抗TNF−α作用の試験で、抗TNF−α作用を有することが判明した。
【0038】
この抗TNF−α作用の試験では、TNF−α感受性でマウス由来細胞であるL929細胞を用い、被験物質共存下、培養液中にTNF−αを添加した場合に観察される細胞死または細胞増殖の抑制に対する抑制活性についてMTTアッセイ法を利用して判定する。これにより、培養液中のTNF−αにより惹起される細胞障害を抑制する物質は、TNF−αによる生物学的な応答を抑制しており、即ち、TNF−αにより発症および増悪が考えられる疾病群の治療剤または予防剤として利用できる。従って、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、及び、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、抗TNF−α作用剤として用いられることが明らかとなった。
【0039】
さらに、本発明の抗TNF−α作用剤は、医薬や食品に適用することができ、この抗TNF−α作用剤を含有させることにより優れた抗TNF−α作用を有する医薬や食品を製造することができる。
【0040】
本発明の脂肪蓄積・代謝改善剤や抗TNF−α作用剤を医薬に適用する場合、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、又は前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物を、そのままの状態で又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野における公知の方法により、製造することができる。医薬品として使用する形態としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の形態を挙げることができる。
【0041】
これらの形態においては、適当な媒体を添加してもよい。適当な媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント又はポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトール又はグリシン)、錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0042】
錠剤とする場合は、通常の製薬における周知の方法でコートしてもよい。液体製剤とする場合は、例えば水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であってもよい。又、使用前に水や他の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0043】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂等の懸濁化剤、レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴム等の乳化剤(食用脂を含んでもよい)、アーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコールやエチレングリコールのような油性エステル等の非水性賦形剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル又はソルビン酸等の保存剤、を含んでもよく、さらに所望により着色剤又は香料等を含んでもよい。
【0044】
本発明の脂肪蓄積・代謝改善剤や抗TNF−α作用剤を食品に適用する場合、ザクロの花部、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりザクロ花部を抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物は、それぞれ単独で、又は混合物として食品に含有させ、食品に前記の効果を与えることができる。ここで言う食品には健康食品も含まれる。
【0045】
ここで健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味する。食品又は健康食品の形態としては、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、前記の抽出物、抽出エキス、及び/又は化合物を混合又は塗布、噴霧などにより添加して、健康食品とすることができる。
【0046】
本発明の医薬又は食品における、前記抽出液、抽出エキス、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等によって適宣調整される。例えば、医薬として成人について使用する場合は、1回の投与毎に、抽出液又は抽出エキスでは、1mg〜20g程度の範囲で使用し、この範囲内で精製度や水分含量等に応じて調整することが適当な場合が多い。又、前記化合物を使用する場合は、1mg〜1g程度が適当な場合が多い。
【0047】
又、健康食品として使用する場合は、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対して、前記の抽出液又は抽出エキス、前記構造式(1)で表される新規トリテルペン化合物を、1mg〜20g程度の範囲で添加することが適当な場合が多い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒、濾紙、クロマトグラフィー用担体及びHPLCカラムを用いた。
【0049】
[溶媒]
メタノール:ナカライテスク社製、試薬一級
酢酸エチル:ナカライテスク社製、試薬一級
アセトン:ナカライテスク社製、試薬一級
n−ヘキサン:ナカライテスク社製、試薬一級
HPLC用メタノール:ナカライテスク社製、試薬特級
HPLC用アセトニトリル:フィッシャーサイエンス社製、試薬特級
酢酸:ナカライテスク社製、試薬特級
【0050】
[濾紙] アドバンテック社製:No.2
【0051】
[クロマトグラフィー用担体]
順相シリカゲルカラムクロマトグラフ用担体:関東化学社製、Silica Gel 60N(spherical,neutral、63〜210メッシュ)、BW−200(150〜300メッシュ)
逆相ODSカラムクロマトグラフ用担体:富士シリシア社製、Chromatorex ODS1020T(100〜200メッシュ)
多孔質ポリマーカラムクロマトグラフ用担体:日本練水社製、ダイアイオンHP−20
【0052】
[HPLCカラム]
ナカライテスク社製、Cosmosil 5C18−MS−II、20mm(i.d.)×250mm
和光純薬工業社製、Wakopak Navi C30−5、20mm(i.d.)×250mm
【0053】
実施例1 ザクロ花部のメタノール抽出エキスの調製
ザクロの乾燥花部510gを粉砕し、これに約10倍量のメタノール(5L)を加え、加熱還流下3時間抽出した。抽出後、ひだ折り濾紙で濾過した後、抽出残渣に新たに約10倍量のメタノール(5L)を加え、同様の抽出操作を計3回実施した。抽出液をあわせ、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下、溶媒を留去したところ、ザクロ花部のメタノール抽出エキス305g(乾燥原料からの収率59.8%)を得た。
【0054】
実施例2 メタノール抽出エキスの分画
前記のメタノール抽出エキス(255g)に水(約2.5L)を加えて懸濁し、懸濁液に同容量の酢酸エチル(約2.5L)を加え、分液操作を実施し、酢酸エチル及び水移行部に分配した。得られた水移行部について、新たに同容量の酢酸エチルを加え、同様の分液操作を計3回実施した。各移行部をあわせ、酢酸エチル移行部について、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下に溶媒を留去して、ザクロ花部のメタノール抽出エキスの酢酸エチル移行部(42.0g)を得た。
【0055】
実施例3 水移行部の調製
前記水移行部を、多孔質ポリマーカラムカラムクロマトグラフィー(ダイアイオンHP−20:2.0kg,移動相:水→メタノール→アセトン)で順次溶出し、水溶出部(137.3g)、メタノール溶出部(58.4g)及びアセトン溶出部(6.3g)を得た。
【0056】
実施例4 酢酸エチル移行部の分離及び精製
前記酢酸エチル移行部(35.0g)を、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.0kg、移動相:n−ヘキサン/酢酸エチル(10/1→3/1→1/1)→酢酸エチル→メタノール)で順次溶出し、溶出画分1(1.59g)、2(0.65g)、3(0.10g)、4(=オレアノール酸(oleanolic acid、0.40g、0.11%))、5(2.38g)、6(=ウルソール酸(ursolic acid、0.30g、0.084%))、7(0.15g)、8(0.29g)、9(25.30g)および10(5.28g)を得た。
【0057】
実施例5
このうち、溶出画分2(0.65g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(30g,移動相:メタノール→アセトン)にて分離、精製し、β−シトステロール(β−sitosterol、268.3mg、0.076%)を得た。
【0058】
実施例6
溶出画分3(60.0mg)について、HPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MS−II、移動相:アセトニトリル/1%酢酸(55/45))にて分離、精製し、アジアチコ酸(asiatic acid、4.0mg、0.0019%)を得た。
【0059】
実施例7
溶出画分5(500mg)について、HPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:アセトニトリル/水(95/5))にて分離、精製し、オレアノール酸(oleanolic acid,134.4mg,0.18%)およびウルソール酸(ursolic acid、200.3mg、0.27%)を得た。
【0060】
実施例8
溶出画分7(150mg)について、HPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:アセトニトリル/水(95/5))にて分離、精製し、溶出画分7−1(=プニカノール酸(Punicanolic acid(17.8mg、0.0071%))、7−2(14.7mg)、7−3(16.7mg)、7−4(6.5mg)、7−5(8.1mg)、7−6(5.6mg)、7−7(=オレアノール酸、9.7mg、0.0027%)、7−8(=ウルソール酸、25.4mg、0.0071%)を得た。溶出画分7−3(16.7mg)について、更にHPLC(カラム:Cosmosil 5C18−MS−II、移動相:アセトニトリル/1%酢酸(55/45))にて分離、精製し、マスリニン酸(maslinic acid、2.0mg、0.0006%)を得た。
【0061】
実施例9
溶出画分9(25.30g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(1.0kg、移動相:メタノール/水(20/80→40/60→60/40)→メタノール→アセトン)にて分離、精製し、溶出画分9−1(1158.1mg)、9−2(2726.3mg)、9−3(1666.7mg)、9−4(1153.1mg)、9−5(9364.2mg)、9−7(1063.5mg)、9−8(1285.6mg)、9−9(93.8mg)、9−10(117.8mg)、9−11(951.4mg)を得た。
【0062】
溶出画分9−3(500.0mg)について、更にHPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:アセトニトリル/1%酢酸(20/80))にて分離、精製し、1,2−ジ−O−ガロイル−4,6−O−(S)−ヘキサヒドロキシジフェノイルβ−D−グルコピラノシド(1,2−di−O−galloyl−4,6−O−(S)−hexahydroxydiphenoyl β−D−glucopyranoside、29.7mg、0.028%)を得た。また、溶出画分9−4(500.0mg)について、更にHPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:メタノール/1%酢酸(25/75))にて分離、精製し、1,2,6−トリ−O−ガロイルβ−D−グルコピラノシド(1,2,6−tri−O−galloyl β−D−glucopyranoside、25.2mg、0.016%)を得た。
【0063】
また、溶出画分9−8(500.0mg)について、更にHPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:メタノール/1%酢酸(55/45))にて分離、精製し、ルテオリン(luteolin、13.1mg、0.0095%)を得た。また、溶出画分9−10(117.8mg)について、更にHPLC(カラム:Wakopak Navi C30−5、移動相:メタノール/1%酢酸(55/45))にて分離、精製し、トリセチン(tricetin、16.7mg、0.0047%)を得た。
【0064】
実施例8で得られた溶出画分7−1の化合物について、性状、融点、質量分析、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル等の測定を行った。得られた結果を以下に示す。
【0065】
性状: 無色針状結晶
融点: 280−281℃
・旋光度:[α]28: −7.4°(c=0.19,MeOH)
・高分解能質量分析(High−resolution EI−MS):
理論値 C3050 (M) : 474.3709
実測値 : 474.3712
・赤外吸収スペクトル(KBr,cm): 3451,1719
・質量分析EI−MS: m/z 474 (M,4),456(M−HO,19),395(100)
【0066】
・核磁気共鳴スペクトル:
H−NMR(600MHz,pyridine−d)のδ:
0.81(dd,1.9,11.6),0.86(3H,s),0.98(m),1.01(3H,s),1.02(3H,s),1.09(3H,s),1.22(m),1.23(3H,s),1.27(m),1.28(m),1.30(m),1.37(m),1.40(2H,m),1.41(m),1.41(3H,d,6.2),1.43(3H,s),1.53(m),1.55(m),1.60(ddd,4.0,13.5,14.2),1.70(ddd,3.2,3.6,14.0),1.79(dd,10.4,10.5),1.86(m),1.86(2H,m),2.03(m),2.10(ddd,3.2,12.9,16.9),2.32(ddd,2.9,12.9,14.9),2.38(ddd,2.9,4.1,14.2),2.50(dq,10.5,6.2),2.77(ddd,4.0,10.4,14.0),3.46(dd,5.8,10.3),
13C−NMR(150MHz,pyridine−d)のδ:
15.3,16.4,16.5,16.8,18.8,19.0,22.0,28.3,28.7,29.8,30.0,30.9,33.9,35.2,36.1,37.4,37.5,39.3,39.5,40.0,41.0,41.7,43.1,47.9,50.5,51.4,55.9,72.5,78.2,179.3
【0067】
以上の結果より、溶出画分7−1より得られた化合物は、前記構造式(1)で表される新規化合物プニカノール酸であることが判明した。
【0068】
また、実施例4〜9で得られた溶出画分2、3、4、5、6、7−7、7−8、9−3、9−4、9−8、9−10についても、質量分析、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル等の測定を行い、得られた物理化学データと下記の文献1)〜10)に記載の値との比較により同定した。
【0069】
文献1) Seebacher W.,Simic N.,Weis R.,Saf R.,Kunert O.,Magn.Res.Chem.,41,636−638(2003)
文献2) Alves J.S.,deCastro J.C.M.,Freire M.O.,da−Cunha E.V.L.,Barbosa−Filho J.M.,deSilva M.S.,Magn.Res.Chem.,38,201−206(2000)
文献3) Taniguchi S.,Imayoshi Y.,Kobayashi E.,Takamatsu Y.,Ito H.,Hatano T.,Sakagami H.,Tokuda H.,Nishino H.,Sugita D.,Shimura S.,Yoshida T.,Phytochemistry,59,315−323
文献4)Matsuda H.,Morikawa T.,Ueda H.,Yoshikawa M.,Heterocycles,55,1499−1504(2001)
文献5) Matsuda H.,Morikawa T.,Ueda H.,Yoshikawa M.,Chem.Pharm.Bull.,49,1368−1371(2001)
文献6) Haddock E.A.,Gupta R.K.,Al−Shafi S.M.K.,Haslam E.,Magnolato D.,J.Chem.Soc.Perkin Trans.I,2515−2524(1982)
文献7) Fukuda T.,Ito H.,Yoshida T.,Phytochemistry,63,795−801(2003)
文献8) Matsuda H.,Morikawa T.,Toguchida I.,Yoshikawa M.,Chem.Pharm.Bull.,50,788−795(2002)
文献9) Markham K.R.,Ternai B.,Stanley R.,Geiger H.,Mabry T.J.,Tetrahedron,34,1389−1397(1978)
文献10) Kongduang D.,Wungsintaweekul J.,De−Eknamkul W.,Tetrahedron Lett.,49,4067−4072(2008)
【0070】
その結果、
溶出画分3より得られた化合物は、下記構造式(5)で表されるアジアチコ酸、
溶出画分4より得られた化合物は、下記構造式(2)で表されるオレアノール酸、
溶出画分6より得られた化合物は、下記構造式(3)で表されるウルソール酸、
溶出画分5より得られた化合物は、オレアノール酸及びウルソール酸、
溶出画分7−3より得られた化合物は、下記構造式(4)で表されるマスリニン酸、
溶出画分7−7より得られた化合物は、オレアノール酸、
溶出画分7−8より得られた化合物は、ウルソール酸、
溶出画分9−3より得られた化合物は、下記構造式(7)で表される1,2−ジ−O−ガロイル−4,6−O−(S)−ヘキサヒドロキシジフェノイルβ−D−グルコピラノシド、
溶出画分9−4より得られた化合物は、下記構造式(6)で表される1,2,6−トリ−O−ガロイルβ−D−グルコピラノシド、
溶出画分9−8より得られた化合物は、下記構造式(8)で表されるルテオリン、
溶出画分9−10より得られた化合物は、下記構造式(9)で表されるトリセチンであることが判明した。
【0071】
【化2】

【0072】
実施例11 HepG2細胞を用いた脂肪蓄積抑制作用試験
実施例1で得られたメタノール抽出エキス、実施例2で得られた酢酸エチル移行部、実施例3で得られたメタノール溶出部および水溶出部、実施例4〜9で得られたプニカノール酸(構造式(1)の化合物、表3中では、化合物(1)と表す。構造式(2)〜(9)の化合物についても同じである。)、オレアノール酸(構造式(2)の化合物)、ウルソール酸(構造式(3)の化合物)、マスリニン酸(構造式(4)の化合物)、アジアチコ酸(構造式(5)の化合物)、1,2,6−トリ−O−ガロイルβ−D−グルコピラノシド(構造式(6)の化合物)、1,2−O−ジガロイル−4,6−O−(S)−ヘキサヒドロキシジフェニルβ−D−グルコピラノシド(構造式(7)の化合物)、ルテオリン(構造式(8)の化合物)およびトリセチン(構造式(9)の化合物)について、脂肪蓄積抑制作用の指標として、HepG2細胞を用いた細胞内脂肪蓄積抑制作用試験を実施した。
【0073】
試験方法を以下に示す。
大日本住友製薬社より購入したヒト肝がん由来HepG2細胞を用いた。培地はminimum essential medium Eagle(MEM,シグマ−アルドリッチ社製)に10%(v/v)fatal calf serum(FCS)及び100units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン及び0.1mM非必須アミノ酸(インビトロジェン社製)を添加して使用した。細胞の培養は、75cm培養フラスコ(ファルコン社製)中で行い、5%CO雰囲気下37℃にて行った。継代操作は、培養した細胞をダルベッコPBS(−)(日水製薬社製)で洗浄した後、0.02%(w/v)トリプシン(ディフコ社製)及び0.05%(w/v)EDTA−2Na(同人化学社製)を含むPBS(−)により剥離して、定法に従い行った。尚、被験サンプルは0.5%(v/v)DMSO溶液として培地に添加した。
【0074】
HepG2細胞を10cells/well(200μL/well)の細胞密度で48穴培養プレート(住友ベークライト社製)に播種して実験を行った。培養1日後、被験サンプルおよび5%オレイン酸−アルブミン(シグマ−アルドリッチ社製)を添加したdalbecco’s modified eagle’s medium(DMEM、低濃度グルコース(1000mg/L)、200μL/well)に培地交換して計4日間(2日に1回培地を交換)培養した。
【0075】
培養期間終了後、培養上清を除去、次いで蒸留水(100μL/well)を加え、超音波破砕機にて細胞を破砕した後、細胞破砕液を得た。得られた細胞破砕液の中性脂肪濃度及びタンパク質濃度は、それぞれ市販キットであるトリグリセリドEテストワコー(和光純薬工業社製)及びBCAprotein assay kit(Pierce社製)を使用して定量した。
【0076】
定量結果は、タンパク質あたりの中性脂肪量(下表のTG/Protein)で算出し、対照群に対する相対値(% of control)として表1、表2に表した。なお、以下の表中でConc.(μg/mL)とは、被験物質(MeOH抽出エキスなど)の当該実験における、細胞に対して作用させた濃度を表す。例えば、100μg/mLとは、培養液1mL中に当該被験物質が100μg存在するときを意味しており。表中の結果の数値はこのときに得られた、単位蛋白量当たりの中性脂肪量の対照群(100%)に対する相対値を表している。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1及び表2中の値は、平均値±標準誤差(N=4)で表記し、末尾の符号「*」および「**」は、Dunnettの多重比較検定で検定した対照との有意差:pが0.05および0.01未満であったことを表す。
【0080】
表1及び表2の結果より、ザクロ花部のメタノール抽出エキス、酢酸エチル移行部およびメタノール溶出部、及び構造式(1)、(2)、(3)、(6)及び(8)で表される化合物は、HepG2細胞を用いた脂肪蓄積抑制作用試験において有意な脂肪蓄積抑制作用を有することがわかる。
【0081】
とりわけ、構造式(1)の新規化合物プニカノール酸は、市販抗高脂血症薬であるPPAR−αアゴニストのクロフィブレートおよびベザフィブラートよりも強力な脂肪蓄積抑制効果を有することが判明した。
【0082】
実施例12 HepG2細胞を用いた脂肪代謝促進作用試験
前記の実施例11と同様のサンプルについて、脂肪代謝改善作用の指標として、HepG2細胞を用いた細胞内脂肪代謝促進作用試験を実施した。試験方法を以下に示す。
【0083】
試験に供した細胞および試薬類は、前記の実施例11と同様のものを用いた。
【0084】
HepG2細胞を10cells/well(200μL/well)の細胞密度で48穴培養プレート(住友ベークライト社製)に播種して実験を行った。培養1日後、被験サンプルを含む高濃度グルコース(4500mg/L)含有DMEM(200μL/well)に培地交換して計6日間(2日に1回培地を交換)培養した。高濃度グルコース含有DMEMによる培養終了後、被験サンプルを添加した低濃度グルコース(1000mg/L)含有DMEM(200μL/well)に培地交換して、さらに20時間培養した。
【0085】
培養期間終了後、前記実施例11と同様の手法により、細胞中のタンパク質あたりの中性脂肪量(下表のTG/Protein)で算出し、対照群に対する相対値(% of control)として表3及び表4に表した。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
表3及び表4中の値は、前記表1及び表2と同様に平均値±標準誤差(N=4)で表記し、末尾の符号「*」および「**」は、Dunnettの多重比較検定で検定した対照との有意差:pが0.05および0.01未満であったことを表す。
【0089】
表3及び表4の結果より、ザクロ花部のメタノール抽出エキス、酢酸エチル移行部およびメタノール溶出部、及び構造式(1)、(2)、(3)、(6)、(7)、(8)及び(9)で表される化合物は、HepG2細胞を用いた脂肪代謝促進作用試験において有意な脂肪代謝改善作用あるいは脂肪代謝改善傾向を有することがわかる。
【0090】
とりわけ、構造式(1)の新規化合物プニカノール酸は、肝臓での脂肪代謝促進作用が報告されているビグアナイド系市販糖尿病治療薬であるメトホルミンよりも強力な脂肪代謝改善効果を有することが判明した。
【0091】
実施例13 L929細胞を用いたTNF−α誘発細胞傷害抑制作用試験
前記の実施例11及び実施例12と同様のサンプルについて、in vitro試験における抗TNF−α作用の指標として、L929細胞を用いたTNF−α誘発細胞障害に対する保護作用試験を実施した。試験方法を以下に示す。
【0092】
大日本住友製薬社より購入したL929細胞を10%(v/v)FCS、100 units/mLペニシリンG、100 μg/mLストレプトマイシン及び0.1mM非必須アミノ酸(インビトロジェン社製)を含むminimum essential medium(MEM、シグマ−アルドリッチ社製)培地を用いて培養して、本実験に使用した。96穴平底マイクロプレートに1×10細胞/100μL/穴の割合で細胞を播種した後、5%の二酸化炭素雰囲気下、37℃において20時間培養した。その後、前記培地に1ng/mL TNF−α(シグマ−アルドリッチ社製)及び被験物質のDMSO溶液をそれぞれ含有する培地を加えた。ここで、被験物質のDMSO溶液は、培地中のDMSO濃度が0.5%になるように添加した。44時間培養した後、0.5mg/mLの3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム ブロマイド(MTT)を含有する培地と交換し、さらに4時間培養した。培地を除去後、生成したホルマザンを0.04N塩酸含有イソプロピルアルコール100μL/穴で溶解した後、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度(測定波長570nm、参照波長660nm)を測定した。測定された吸光度を用い、以下の式に従って、TNF−αによる細胞の障害抑制率を算出した。
【0093】
【数1】

【0094】
式中、O.D.Normalは、被験物質を含まない培地(即ち、培地中に0.5%DMSOのみを含むもの)で測定される吸光度を示し、O.D.Controlは、培地中に0.5%DMSO及び1ng/mL TNF−αを含有する場合に測定される吸光度を、O.D.Sampleは、培地中に被験物質及び1ng/mL TNF−αを含有する場合に測定される吸光度を意味する。結果を表5、表6に示す。結果はいずれも平均値と標準誤差で表し、対照群との有意差検定には、Dunnettの多重比較検定を用いた。 なお、以下の表中のTNF−α(1ng/mL)が−とはTNF−α非添加群を表し、+とはTNF−αを培地中に1ng/mL含有していることを表す。
【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
前記表5及び表6中、障害抑制率の結果の末尾の符号「*」および「**」は、Dunnettの多重比較検定で検定した対照との有意差:pが0.05および0.01未満であったことを表す。
【0098】
表5及び表6の結果より、ザクロ花部のメタノール抽出エキス、酢酸エチル移行部およびメタノール溶出部、及び構造式(1)、(2)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)で表される化合物は、L929細胞を用いたTNF−α誘発細胞傷害抑制作用試験において有意な抗TNF−α作用を有することが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする脂肪蓄積・代謝改善剤。
【請求項2】
ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする抗TNF−α作用剤。
【請求項3】
下記の構造式(1)で表されるトリテルペン化合物。
【化1】

【請求項4】
請求項3に記載のトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪蓄積・代謝改善剤。
【請求項5】
請求項3に記載のトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする抗TNF−α作用剤。
【請求項6】
ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、又は請求項3に記載のトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とするヒト又は動物用の医薬。
【請求項7】
ザクロの花部、ザクロの花部を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液、前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、又は請求項3に記載のトリテルペン化合物を有効成分として含むことを特徴とする食品。

【公開番号】特開2010−95459(P2010−95459A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266237(P2008−266237)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 :和漢医薬学会 刊行物名:和漢医薬学雑誌 第25巻 増刊号 第25回和漢医薬学会学術大会(大阪)要旨集 発行日 :2008年8月11日
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(304026180)株式会社ダイアベティム (12)
【Fターム(参考)】