説明

脂肪酸を用いた脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び装置

脂肪酸、特に、脂肪酸蒸留物とアルコールとを反応させることにより、グリセリンの精製工程が不要になるだけではなく、脂肪酸の転換率に優れているバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法が開示される。前記脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、反応器の内部に垂直方向に多数の隔室隔室が形成されるように、多数のトレイが反応器の内部に水平方向に設けられており、前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されているカラム型向流式反応器の上部に脂肪酸原料を導入し、反応器の下部にアルコールを導入して、200〜350℃の反応温度及び1〜35バールの反応圧力において、それぞれのトレイにおいて脂肪酸及びアルコールを向流の条件でエステル化反応させるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪酸を用いた脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び装置に係り、さらに詳しくは、高圧条件で、脂肪酸、特に、脂肪酸蒸留物とアルコールとを反応させることにより、グリセリンの精製工程が不要になるだけではなく、脂肪酸の転換率に優れているバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル油は、原油から得られる様々な燃料の中で、燃費が良好であり、安価であり、二酸化炭素の発生量が少ないといったメリットを有するのに対し、燃焼後に大気汚染物質が多量発生するという欠点がある。このような欠点を解消するために、ディーゼル油と物性がほとんど同様であり、経済性に富んでいると共に、大気汚染を防止可能な代替燃料に関する研究が多角的になされている。バイオディーゼルは、ディーゼル油と物性がほとんど同様であると共に、大気汚染の発生を顕著に抑えることのできる自然循環型エネルギーであり、一般に、酸触媒またはアルカリ触媒の存在下で、油菜油、大豆油、ひまわり油、パーム油などの植物性油脂、動物性油脂、廃食用油などとアルコールとをエステル交換反応させて得る。この種のバイオディーゼルの製造にあたっては、バイオディーゼルの約10重量%に相当する分量のグリセリンが副産物として発生するが、最近、バイオディーゼル工場の建設が世界的に盛んに行われている現状を考慮したとき、グリセリンの供給過剰が見込まれる。
【0003】
一方、一般に、油脂には遊離脂肪酸が含有されて、脂肪酸トリグリセリドと混合された形で存在する。遊離脂肪酸は油脂の精製過程において副産物として分離されるが、このようにして分離された遊離脂肪酸から脂肪酸アルキルエステルを製造するいくつかの方法が知られている。遊離脂肪酸をエステル化させる方法は、ヨーロッパ特許公開第127104A号公報、ヨーロッパ特許公開第184740A号公報及び米国特許第4164506号公報などに開示されているが、これらの方法においては、硫酸またはスルホン酸の触媒下、約65℃の温度において、脂肪酸及び脂肪酸トリグリセリドの混合物とメタノールとを一緒に加熱してエステル化反応を行う。また、油脂からの脂肪酸アルキルエステルの歩留まりを高めるための方法として、エステル交換反応の結果として得られたグリセリン相において遊離脂肪酸を分離した後、分離された遊離脂肪酸をエステル化させる方法がヨーロッパ特許公開第708813A号公報に開示されている。この方法においては、グリセリン相を中和させて得られた遊離脂肪酸を濃い硫酸触媒下約85℃の温度において2時間反応させて、脂肪酸の含量を50%から12%まで減少させた。加えて、反応器に動的乱流を引き起こす機械的装置や超音波を用いて、脂肪酸のエステル化反応効率を高める方法が公知されている。(大韓民国特許公開第2004−0101446号公報、国際出願公開WO2003/087278号公報)。これらの方法においては、硫酸またはイオン交換樹脂を触媒として、高圧及び高温の条件で、脂肪酸または油脂に含有されている脂肪酸をアルコールと反応させてエステル化を行う。また、大韓民国特許公開第2004−87625号公報には、固体酸触媒を用いて、廃食用油から遊離脂肪酸を取り除く方法が開示されている。これらの方法は、共通して、硫酸などの触媒を用いるが、このような酸触媒は反応後に完全に除去されなければバイオディーゼルの品質を低下させるため、これを中和、ろ過及び洗浄するための複雑な工程を行うことを余儀なくされるだけではなく、反応器の材質が耐腐食性を有する必要があるため、製造装置の設備費が嵩んでしまうという欠点がある。一方、固体酸の場合、触媒の寿命が短く、これを再生するのに高いコストがかかるという欠点がある。なお、前記従来の方法は、脂肪酸のエステル化反応を低温において行うため、反応中に生成される水が効果的に反応系の外部に除去できず、脂肪酸の脂肪酸アルキルエステルへの転換率が低いため、バイオディーゼル用に適した物性を有さないという欠点がある。
【0004】
さらに、本願出願人による大韓民国特許公開第2007−106136号公報及び国際特許公開WO2007/126166号公報は、上述した従来の欠点をある程度解消可能な方法及び装置を開示しているが、前記方法は触媒を使用しないため、相対的に反応速度が遅いという欠点がある。また、本願出願人による大韓民国特許公開第2008−41438号公報及び国際特許出願PCT/KR2008/1831号は、金属触媒を用いることにより、反応速度及び転換率を高める方法を開示しているが、前記特許に開示された反応器を用いて、10バール以上の条件で脂肪酸とアルコールとをエステル化反応させる場合、反応時に生成された水の除去がスムーズに行われないため反応効率が低下するという欠点がある。さらに、通常、高圧において反応が行われるように講じられたエステル化反応器、例えば、商業的に10バール以上の高圧条件で通常構造のエステル化反応器を脂肪酸とアルコールとのエステル化反応に用いる場合、反応時に生成された水の除去がスムーズに行われず、高品質を要する自動車燃料として用いられるバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルを製造するのに難点がある。加えて、水の除去をスムーズに行うために、前記高圧用エステル化反応器を、特に改造することなく、低圧条件(10バール以下)で使用すると、反応器の周りの気体配管、ノズル及び熱交換器などが相対的に小型であるため、圧力降下が急増して、反応器の設計生産量よりも生産量を減らすことを余儀なくされるという欠点がある。逆に、低圧条件で、生産量を減らすことなく、高圧で反応が行われるように講じられた通常構造のエステル化反応器を使用するためには、周辺配管、ノズル、熱交換器などを改造または交替する必要があるため、コストが高くつくという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ヨーロッパ特許公開第127104A号公報
【特許文献2】ヨーロッパ特許公開第184740A号公報
【特許文献3】米国特許第4164506号公報
【特許文献4】ヨーロッパ特許公開第708813A号公報
【特許文献5】大韓民国特許公開第2004−0101446号公報
【特許文献6】国際出願公開WO2003/087278号公報
【特許文献7】大韓民国特許公開第2004−87625号公報
【特許文献8】大韓民国特許公開第2007−106136号公報
【特許文献9】国際特許公開WO2007/126166号公報
【特許文献10】大韓民国特許公開第2008−41438号公報
【特許文献11】国際特許出願PCT/KR2008/1831号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、バイオディーゼル燃料用に適した脂肪酸アルキルエステルを経済的に製造する方法を提供するところにある。
本発明の他の目的は、無触媒または金属触媒下で、高圧の反応条件でも、脂肪酸とアルコールとを効率よくエステル化反応させることのできる方法及び装置を提供するところにある。
本発明のさらに他の目的は、高圧反応用に設計されたエステル化反応器を改造することなくそのまま使用することのできる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、反応器の内部に垂直方向に多数の隔室が形成されるように、多数のトレイが反応器の内部に水平方向に設けられており、前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されているカラム型向流式反応器の上部に脂肪酸原料を導入し、反応器の下部にアルコールを導入して、200〜350℃の反応温度及び1〜35バールの反応圧力において、それぞれのトレイにおいて脂肪酸及びアルコールを向流の条件でエステル化反応させるステップを含むバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法を提供する。
また、本発明は、カラム型反応器本体と、前記反応器本体の内部に垂直方向に多数の隔室が形成されるように水平方向に設けられており、気体が通過する弁が一定の間隔をあけて分散形成される多数のトレイを備え、前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されており、200〜350℃の反応温度及び1〜35バールの反応圧力において、前記反応器本体の上部に脂肪酸原料を導入し、反応器本体の下部にアルコールを導入して、それぞれのトレイにおいて脂肪酸とアルコールを向流の条件でエステル化反応させるバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び装置は、既存の方法とは異なり、無触媒または金属触媒を投入して、高温及び低圧または高圧(1〜35バール)の条件で、脂肪酸とアルコールとをエステル化反応させて、バイオディーゼル用高品質の脂肪酸アルキルエステルを製造することができる。また、本発明に係る方法は、触媒を除去するための中和、ろ過、洗浄などの工程を必要とせず、簡単な2ステップの蒸留工程だけで高純度、高転換率の脂肪酸アルキルエステルが得られるので、全体の工程が単純化して工程設備費及び運転費を節減することができる。さらに、エステル化反応にあずからない過剰のアルコールを回収して再使用することにより、アルコールの使用量を最少化させることができるというメリットがある。加えて、全世界的な需要の減少により稼動が中断された低圧または高圧の条件で設計されたエステル化反応器、例えば、ジメチルテレフタレート(dimethyltetephtalate:DMT)の製造に用いられる反応器などの遊休設備を最小限の改造費用をかけて本発明の方法に適用することができる。本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、商業的な規模の広い範囲の設計圧力を有する反応装置にも理想的に採用することができるだけではなく、小規模装置においても経済的であるというメリットがあり、特に、製造された脂肪酸メチルエステルは別途の追加工程を経ることなく直ちにバイオディーゼルとして用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法に使用可能な製造装置の全体構成図である。
【図2】図1に示す脂肪酸アルキルエステル反応部の一例を示す詳細構成図である。
【図3】図1に示す脂肪酸アルキルエステル反応部の他の例を示す詳細構成図である。
【図4】本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型向流式反応器の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型向流式反応器の他の例を示す図である。
【図6】攪拌機付き低圧回分式タンク反応器および本発明に係る高圧カラム型向流式反応器を用いて脂肪酸とメタノールとのエステル化反応を行う場合において、反応器の内部位置による含水量を示す図である。
【図7】連続式攪拌タンク反応器および本発明に係る高圧カラム型向流式反応器を用いて脂肪酸とメタノールのエステル化反応を行う場合において、反応器の内部位置によるアルコールの流入量を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型反応器の連結構造を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型反応器の連結構造を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型反応器の連結構造を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型反応器の連結構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき、本発明を詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法に使用可能な製造装置の全体構成図である。図1に示すように、脂肪酸原料1(以下、必要に応じて、単に脂肪酸と称する。)およびアルコール2が反応部10に投入されて、所定の温度および圧力の条件でエステル化反応が行われる。前記エステル化反応時に生成された粗脂肪酸アルキルエステル4は1次精製部20に移送され、蒸留によって低沸点不純物5が1次精製部20の蒸留塔の上部において除去される。前記1次精製された脂肪酸アルキルエステル6は2次精製部30に移送され、蒸留によって、反応にあずかった金属触媒などの残留不純物8は残留し、精製された脂肪酸アルキルエステル7が2次精製部30の蒸留塔の上部から排出される。なお、前記反応部10にはアルコール回収部40が連結されて、反応部10の反応器において生成された水と反応にあずからない過剰のアルコール(アルコール/水)3はアルコール回収部40に移送され、ここでアルコール2は蒸留されて反応部10に再循環され、水9は廃水処理場に送られる。
【0011】
本発明において、脂肪酸アルキルエステル7の製造に用いられる脂肪酸原料1としては、脂肪族部分Rの炭素数が14〜24個の純粋な脂肪酸(RCOOH)が挙げられるが、油菜、大豆、ひまわり、パームなどの植物から採取した植物性粗油脂を高圧スチームなどにより加熱して、油菜油、大豆油、ひまわり油、パーム油などの植物性精製油を得る場合に、副産物として発生する脂肪酸蒸留物を用いることが好ましく、必要に応じて、純粋な脂肪酸と脂肪酸蒸留物との混合物を用いてもよい。前記脂肪酸蒸留物は、脂肪族部分の炭素数が14〜24個の脂肪酸を65〜95重量%、好ましくは、80〜85重量%含み、残りの成分として、β−カロチン、脂肪族部分の炭素数が14個未満、または24個を超える脂肪酸などを含む。本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造にあたって、原料として前記脂肪酸蒸留物を用いると、経済性の側面で一層有利である。本発明において、アルコールとしては、炭素数1〜10の1価アルコール、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜4の低級1価アルコールが使用可能であり、中でも、メタノールが好ましい。
【0012】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、無触媒または金属触媒の存在下で行われる。金属触媒を用いる場合、前記金属触媒としては、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、ジルコニウム、鉛及びこれらの混合物からなる群より選ばれる金属成分を含む化合物、好ましくは、前記金属成分のアセテート、酸化物、アルコキシド、水酸化物、炭酸化物化合物などが使用可能であり、例えば、コバルトアセテート、マンガンアセテート、亜鉛アセテート、鉄アセテート、ゲルマニウムジオキシド、テトラブチルチタネートなどが使用可能である。前記金属触媒は、アルコールに溶解された溶液の形で前記エステル化反応に投入されることが好ましく、前記金属触媒の使用量は、触媒中の金属成分が脂肪酸原料に対して30〜200ppm(重量基準)であることが好ましく、50〜100ppmであることがさらに好ましい。もし、金属触媒の使用量が前記範囲未満であれば、反応速度が低下して経済的に好ましくなく、金属触媒の使用量が前記範囲を超えてもそれ以上の反応速度の向上効果が得られず、単に経済的に不利になるだけである。一方、脂肪酸原料中にリン(P)など金属触媒の活性を阻害する不純物が含まれている場合には、不純物の量に比例して金属触媒の投入量を増大させることが好ましい。なお、前記金属触媒をアルコールに溶解させて反応器に投入する場合において、アルコールの使用量は、金属触媒を溶解させるのに十分な量にする。
【0013】
本発明において、エステル化反応は1ステップまたは2ステップにて行われる。エステル化反応が1ステップにて行われる場合、反応部10は1つの反応器と1つの蒸留塔とから構成され、エステル化反応が2ステップにて行われる場合、反応部10は2つの反応器と1つの蒸留塔とから構成されて蒸留塔を共用するか、あるいは、図2に示すように、各ステップが1つの反応器と1つの蒸留塔とから構成される。加えて、反応器と蒸留塔とがそれぞれ別々に設けられておらず、一体化されていてもよいが、このとき、下部は反応器の役割を果たし、上部は蒸留塔の役割を果たすように構成される。この場合、蒸留塔の役割を果たす上部と、反応器の役割果たす下部との間にはシールトレイを設けて、水が上部から下部へと落下しないように構成される。本発明に係るエステル化反応は連続式で行われ、上述したように、1ステップにて行われてもよく、2ステップに分けて行われても良いが、滞留時間が十分であれば1ステップの反応だけでも高い転換率が得られ、好ましくは、2ステップにて反応を行う。
【0014】
図2は、図1に示す反応部10の具体例であり、2つの反応器11、12と、2つの蒸留塔13、14とから構成された反応部を示している。図2を参照すると、1次反応器11においてある程度反応が行われた生成物4aは2次反応器12にアルコール2と一緒に導入されて2次反応にあずかり、2次反応を経た生成物(粗脂肪酸アルキルエステル)4は図1に示す精製部20、30に移送される。それぞれの反応器11、12において生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物3aは蒸留塔13、14に排出され、蒸留塔13、14において分離されて、蒸留塔13、14の上部には純粋なアルコールまたはアルコール/水の共沸混合物3b、蒸留塔13、14の下部には水濃度の高い水/アルコール混合物3が排出される。ここで、蒸留塔13、14の上部において得られた純粋なアルコールまたはアルコール/水の共沸混合物3bは反応部10に導入されるアルコールとして再使用され、水濃度の高い水/アルコール混合物3は図1に示すアルコール回収部40に移送される。
【0015】
図3は、図1に示す反応部10の他の具体例であり、2つの反応器11、12と、1つの蒸留塔13とから構成された反応部を示している。図3を参照すると、1次反応器11においてある程度反応が行われた生成物4aは2次反応器12にアルコール2と一緒に導入されて2次反応にあずかり、2次反応を経た生成物(粗脂肪酸アルキルエステル)4は図1に示す精製部20、30に移送される。前記2次反応器12において生成された水及び反応にあずからない過剰のアルコールの混合物3aは1次反応器11に導入されて1次反応にあずかる。前記1次反応器11から排出された水、反応にあずからない過剰のアルコール及び少量の脂肪酸アルキルエステル混合物3bは蒸留塔13において分離されて、蒸留塔13の上部にはアルコール/水混合物3、蒸留塔13の下部には脂肪酸アルキルエステル/アルコール/水混合物3cが排出されて1次反応器11に導入されることにより、1次反応器11における脂肪酸アルキルエステルの飛散による損失を修復する。ここで、蒸留塔13の上部において得られた水濃度の高い水/アルコール混合物3は図1に示すアルコール回収部40に移送される。
【0016】
以下、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造条件を詳述する。本発明に係るエステル化反応は高温域において行われるため、高い反応速度及び脂肪酸の転換率が得られる。前記エステル化反応温度は200〜350℃、好ましくは、250〜320℃であり、反応圧力は、通常、1〜35バールであるが、本発明に係る方法は、10〜35バール、特に、20〜30バールの高圧においても高い反応速度及び転換率を示す特徴を有する。前記反応温度及び圧力が前記範囲から外れると、脂肪酸とアルコールとがエステル化反応して生成された水がスムーズに除去できなくなる、反応速度及び脂肪酸の転換効率が低下する、または、逆反応が起こる虞がある。また、通常のエステル化反応器、特に、DMT(dimethylterephtalate)合成用エステル化反応器は10バール以上の高圧において運転されるように設計され、具体的に、気体流路と関連する配管、熱交換器及びノズルのサイズが、低圧反応器の配管、熱交換器及びノズルと比較して、相対的に小さく設計される。このため、エステル化反応器を低圧条件で運転すると圧力損失が発生して、アルコール投入量を減少させる必要があるため、生産性が低下する。逆に、低圧条件で、エステル化反応器の設計生産量を維持するためには、周辺配管、熱交換器、ノズルなども低圧条件で必要とするサイズに改造しなければならないため、高い投資費がかかる。
【0017】
しかしながら、前記反応を多数のトレイからなるカラム型向流式反応器を用いて連続式で行う場合には、1〜35バール以上の低圧及び高圧域においても、1〜10バールの低圧条件と同じ効率にて反応が行われる。前記カラム型反応器を用いて脂肪酸とアルコールとのエステル化反応を行うとき、脂肪酸は反応器の上部に投入し、アルコールは反応器の下部に投入する向流の条件を満たして反応効率を高める。それぞれのトレイにおいて脂肪酸との反応後に排出されるアルコール/水混合物は、高い反応温度に起因して、下トレイには移動できず、上トレイにのみ移動するため、エステル化反応条件において、カラム型反応器の下トレイには水がほとんど存在せず、純粋なアルコール(例えば、メタノール)が多くて、逆反応を減少させる条件を形成することができる。なお、それぞれのトレイは未反応脂肪酸の短距離移動を防いで十分な滞留時間を保証し、先入先出の効果をもたらして転換効率を高める。これらのメリットは、低酸価の脂肪酸メチルエステルを製造可能な最適な反応条件を形成する。
【0018】
本発明により、連続式カラム型向流式反応器をエステル化反応に使用する場合、全体のステップの反応工程を1〜35バール、好ましくは、10〜35バール、特に好ましくは、20〜30バールの所定の圧力において行うことができる。連続式反応が2ステップ反応である場合、1次反応及び2次反応を1〜35バールの所定の圧力において行うか、あるいは、1次反応においては1〜35バール、好ましくは、10〜35バール、特に好ましくは、20〜30バール、2次反応の圧力は、2次反応器から排出された反応にあずからない過剰の気体状態のアルコールが前記1次反応器にスムーズに投入されるように、前記1次反応と同じであるか、あるいは、それよりもやや高い圧力(例えば、0.5バールの高い圧力に)おいて反応を行うことができる。連続式反応において金属触媒を用いる場合、アルコールに溶解させた金属触媒を脂肪酸と一緒に反応器に連続して投入することができる。
【0019】
酸触媒または固体酸触媒を用いた従来の脂肪酸のエステル化反応は、通常、100℃未満の低温において行われ、反応中に生成される水が反応系から除去できないため、反応平衡以上には反応が進まない。しかしながら、本発明においては、200〜350℃の高温において反応を行うので、反応中に生成された水は過剰のアルコールと一緒に反応系から持続的に除去される。このため、本発明に係るエステル化反応は反応平衡を超えて、完全反応に近い程度に反応転換率に優れているというメリットを有する。特に、脂肪酸アルキルエステルの主用途であるバイオディーゼルにおいては、全酸価(mgKOH/g)を所定の値以下に下げる必要があるが、未反応の脂肪酸成分(脂肪族部分の炭素数が14〜18個)が残留すると、製造された脂肪酸アルキルエステルの全酸価(mgKOH/g)が高くなって、バイオディーゼルの品質基準を満たさない虞がある。このように未反応の脂肪酸成分は脂肪酸メチルエステルとほとんど同じ沸点を有して蒸留によっても分離されないため、反応中に完全反応によって除去される必要がある。本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、脂肪酸の転換率が99.7%以上であり、バイオディーゼルの品質基準上の全酸価項目を充足することができるのに対し、通常の酸触媒または固体酸触媒を用いた脂肪酸アルキルエステルの製造方法によっては、脂肪酸の転換率を99.7%以上に高めることが困難である。また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、酸触媒ではない金属触媒を用いるので、酸触媒に対する耐性がある高価な製造設備を使用する必要がない。特に、全世界的に需要が減少しているジメチルテレフタレートの生産設備など、低圧または高圧のエステル化反応設備の使用率が減少しているため、このような遊休設備を本発明に適用する場合、設計圧力を変更するための特別な設備の改造なしに、バイオディーゼル燃料用に適した脂肪酸メチルエステルを経済的に製造することができる。
【0020】
アルコールの投入は、連続式である場合、投入される脂肪酸に対して重量比で0.5〜5倍、好ましくは、0.5〜3倍の流量にて投入し、このとき、脂肪酸に対して重量比で30〜200ppm(金属成分基準)の金属触媒を前記アルコールに溶解させて投入することが好ましく、全体の反応工程の滞留時間は、1〜10時間、好ましくは、3〜5時間である。ここで、アルコールの投入量が前記範囲から外れると、反応速度、反応歩留まりなどが低下する虞があり、経済的にも好ましくない。
【0021】
本発明において用いられるエステル化反応器は、10〜35バールの高圧条件で運転されるカラム型向流式反応器である。本発明において用いられるカラム型向流式反応器は、反応器の内部に垂直方向に多数の隔室が形成されるように、多数のトレイが反応器の内部に水平方向に設けられており、前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されて、反応物が多数の隔室を順次に全て通過するようになっている(図4参照)。このようなカラム型向流式反応器において、反応器の上部に脂肪酸を導入し、下部にアルコールを導入して、それぞれのトレイにおいて脂肪酸とアルコールとが向流の条件でエステル化反応された後に、他のトレイに順次に移送することにより、反応物に十分な滞留時間を保証し、反応物の短距離移動を防ぎ、先入先出の効果を与える。ここで、それぞれのトレイには、気体状態のアルコールが通過する多数の弁またはバブルキャップが一定の間隔をあけて分散形成されて、アルコールが反応物に均一に供給されるようにすることが好ましい。本発明に係るカラム型反応器は向流を採用するため、反応器の下部において水濃度の低い状態で維持される。このため、高圧条件(10バール以上)においても、低圧条件(10バール以下)において反応を行うときと同じ転換効率が得られる。
【0022】
図4は、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型向流式反応器の一例を示す図である。図4に示すカラム型向流式反応器は、液満タン型であり、図4に示すように、カラム型反応器本体30と、アルコールまたはアルコール/水混合物などの気体が通過する多数の弁38が一定の間隔をあけて分散形成される多数のトレイ34a、34b、34c、34dと、を備える。前記多数のトレイ34a、34b、34c、34dは、反応器本体30の内部に水平方向に設けられて、反応器の内部に垂直方向に多数の隔室が形成され、前記多数のトレイ34a、34b、34c、34dの一端には開口部が形成されて、上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されて、反応物が多数の隔室を順次に全て通過するようになっている(図4の実線矢印の流れ)。このため、図4に示す向流式反応器の内部は液状の反応物により満タンになった状態を維持する。また、前記多数のトレイ34a、34b、34c、34dに取り付けられる弁38は、主として気体が上部に移動する場合にのみ用いられる弁であり、反応物に気体(アルコール)を一様に分散させるように多数、例えば、2〜200個、好ましくは、2〜100個取り付けられ、前記トレイ34a、34b、34c、34dの数は、反応器の設計条件によるが、通常、2〜100個、好ましくは、2〜50個である。前記反応器において、原料となる脂肪酸1は反応器30の上部から最上段隔室に流入し、順次に下部の隔室に移動し、含水量の低いアルコール2は反応器30の下部から最下段隔室に流入した後、順次に上部の隔室に移動する向流方式を採用し、反応器30に投入されたアルコール2は気体状態で各トレイ34a、34b、34c、34dおよび弁38を通過しつつ転換効率を高める。前記反応時に生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物3は気体状態で反応器30の上部に排出されて、図1に示すアルコール回収部40に移動する。前記反応器1つを用いて高い転換率を得ることができるが、滞留時間が十分ではない場合、反応器のトレイ数を増やしてもよく、あるいは、図2または図3に示すように、2つの反応器を用いて2ステップにて反応を行ってもよい。
【0023】
図5は、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型向流式反応器の他の例を示す図である。図5に示すカラム型向流式反応器は、反応器本体50と、前記反応器本体50の内部に形成された多数のトレイ56a、56bと、を備え、また、反応器本体50内の各隔室における未反応脂肪酸が下部空間(隔室)に短距離移動することを防ぎ、反応物の先入先出がより完全に行われるように、バブルキャップ58および隔壁52aをさらに備える。前記バブルキャップ58は自体的に内部に隔壁を備え、気体および液体が下部に移動することを防ぎ、下トレイから上トレイへと気体が移動する場合、上トレイの液体を押し出しつつ気体が移動可能な構造を有し、隔壁52aはそれぞれのトレイに十分に滞留した液体(反応物)のみを下部に移動させるためのものである。前記多数のトレイ56a、56bは、反応器50の内部を多数の内部空間、すなわち、隔室54a、54b、54cに分割し、それぞれのトレイ56a、56bの一端には上部開放型の隔壁52aが形成されている。前記隔壁52aは、隣り合う隔室を貫通して連絡する連結管52bを形成し、前記隔壁52a及び連結管52bは隣り合うトレイにおいて互い違いになるように交差形成されて、反応物が多数の隔室54a、54b、54cを順次に全て通過するようになっている(図5の実線矢印の流れ)。前記隔壁52aは、隔室54a、54b、54cと、図5に示す開口部とを分離して、前記開口部が連結管52bになるようにする。前記隔壁52aの上部高さは、所定量の反応物が供給されると、反応物が隔壁52aの上部にオーバーフローされて隣り合う下トレイに移動できるように形成され、反応物が隔室54a、54b、54cに滞留する時間によって決定される。また、前記隔壁52aの下部長さは、反応物のスムーズな移動のために、下段の隔室に滞留される反応物の高さ以下に設定される。前記多数のトレイ56a、56bには多数のバブルキャップ58が一定の間隔をあけて設けられて、アルコール2がそれぞれの隔室54a、54b、54cに一様に分散されるようにする。図5に示す反応器において、脂肪酸1は反応器の上部に流入し、含水量の低いアルコール2は下部に流入する向流方式が採用され、アルコール2は気体状態でバブルキャップ58を通過してそれぞれのトレイ56a、56bにおいてエステル化反応が行われ、前記反応の生成物4は反応器50の下部から排出され、前記反応時に生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物3は気体状態で反応器50の上部に排出されて図1に示すアルコール回収部40に流入する。このとき、それぞれの隔室54a、54b、54cにおいて、未反応脂肪酸1の濃度とアルコール2の濃度とがそれぞれ異なる。脂肪酸1の場合、下隔室に下がるにつれてエステル化反応によって消失されるため濃度が下がり、アルコール2の場合、上隔室に移動するにつれてエステル化反応後に生成された水を含むことになって濃度が下がる。それぞれの隔室54a、54b、54cおよび隔壁52aは、反応器内における未反応の脂肪酸が下部空間に短距離移動することを防ぎ、十分な滞留時間および先入先出が保証される移動経路を形成して、高い転換効率が得られるようにする。前記反応器1つを用いて高い転換率を得ることができるが、滞留時間が十分ではない場合、反応器のトレイ数を増やしてもよく、図2または図3に示すように2つの反応器を用いて2ステップにて反応を行ってもよい。
【0024】
次に、図6に基づき、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法と、本発明者の従来の特許(大韓民国特許公開第2007−106136号公報及び国際特許公開WO2007/126166号公報)に開示された製造方法との相違点を説明する。図6は、攪拌機付き低圧(10バール以下)回分式タンク反応器と、本発明に係る高圧(10バール以上)カラム型向流式反応器を用いて、下記の反応式1(Rは、炭素数14〜24の脂肪族基)の脂肪酸とメタノールとのエステル化反応を行う場合における反応器の内部位置による含水量を示す図である。
【0025】
【化1】

【0026】
図6に示すように、(a)攪拌機付きタンク反応器の場合、反応器の内部の全域#1、#2、#3における水の濃度が同じであり、前記反応器を低圧(10バール以下)条件でエステル化反応に使用する場合、水の除去がスムーズに行われて転換効率に優れている。しかしながら、前記反応器を高圧(10バール以上)条件で使用すると、水の除去がスムーズに行われず、反応器内部の水濃度が高くなるため、脂肪酸アルキルエステルが脂肪酸に転換される逆反応の確率を増加させて転換効率を低下する。しかしながら、(b)多数のトレイにより仕切られたカラム型向流式反応器を高圧(10バール以上)条件でエステル化反応に使用する場合には、10〜35バール以上の高圧条件でも低圧条件と同じ効率にて反応を行うことができる。図6に示すように、カラム型反応器を使用する場合、脂肪酸1は反応器の上部に投入され、アルコール2は反応器の下部に投入され、それぞれのトレイにおいて脂肪酸1との反応後に排出されるアルコール/水混合物3は高い反応温度に起因して下トレイには移動することができず、上トレイにのみ移動する。このため、向流式反応器の上部域(図6の#3)は含水量が高いのに対し、下部域(図6の#1)には水がほとんど存在せず、純粋なメタノールが多くて逆反応の可能性が稀な条件を形成する。
【0027】
図7は、本発明者の大韓民国特許公開第2008−41438号公報及び国際特許出願PCT/KR2008/1831号に開示された連続式攪拌タンク反応器と、本発明に係る高圧(10バール以上)のカラム型向流式反応器を用いて、脂肪酸とメタノールとのエステル化反応を行う場合における、反応器の内部位置によるアルコールの流入量を示す図である。図7に示す連続式攪拌タンク反応器においては、反応器の内部に隔膜を設けて、反応器の内部を多数の隔室により仕切り、それぞれの隔室にアルコールを投入し、それぞれの隔室に攪拌機を取り付けた。脂肪酸の投入量が1であるエステル化反応を行う場合、反応に投入する総メタノールの流量が1であり、それぞれの隔室に投入されたメタノールの10%が反応にあずかるとしたとき、図7に示すように、(a)反応器内に3つの隔室が存在する連続式攪拌タンク反応器を使用する場合、それぞれの隔室#1、#2、#3に投入されるアルコールの流入量は平均して0.33である。しかしながら、(b)本発明に係るカラム型反応器を使用する場合、下トレイ#1に総アルコール流入量1が投入され、メタノール0.1が反応に消耗された後、残留するアルコール0.9は高温の条件によって上トレイ#2に移動する。0.9のメタノールが流入したトレイ#2はアルコール0.09を反応に消耗し、アルコール0.81を上トレイ#3に排出する。これにより、図7に示すように、本発明に係るカラム型反応器を使用する場合、反応器の全域に亘って相対的に多くのアルコールが流入するため、エステル化反応の正反応を促し、反応効率を高めることができる。また、本発明に係るカラム型反応器を使用する場合、それぞれのトレイは未反応脂肪酸の短距離移動を防いで十分な滞留時間を保証し、先入先出の効果をもたらして転換効率を高める。これらのメリットにより、酸価の低い脂肪酸メチルエステルを製造可能な最適な反応条件が形成される。なお、本発明に係るカラム型反応器の場合、アルコールを一様に供給するために、電力が消耗される攪拌機を使用することなく、弁またはバブルキャップを使用することから、経済的に有利である。
【0028】
図8から図11は、本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置に用いて好適なカラム型反応器の連結構造を示す図である。このような連結構造は、1つの反応器を用いては滞留時間が十分ではない場合、図2または図3に示すように、2つの反応器を連結して滞留時間を確保するためのものである。図8は、図4に示す液満タン型カラム型向流式反応器と、図5に示す隔壁付きカラム型向流式反応器とを連結して使用した例であり、全体の脂肪酸の一部(例えば、80〜95%)を脂肪酸アルキルエステルに転換する1次反応器30、11及び前記1次反応器における未転換の残余脂肪酸を脂肪酸アルキルエステルに転換する2次反応器50、12を備える。前記1次反応器30、11の下部から、1次反応の生成物である反応未完了の粗脂肪酸メチルエステル4aが前記2次反応器50、12の上部に流入し、含水量の低いアルコール2が2次反応器50、12の下部に流入してエステル化反応し、前記2次反応の生成物である反応未完了の粗脂肪酸メチルエステル4は反応器50、12の下部から排出されて図1の精製部20に移動する。前記2次反応時に生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物3aは気体状態で2次反応器50、12の上部に排出されて1次反応器30、11の下部に投入されて脂肪酸1とエステル化反応し、このとき、生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物3bは気体状態で1次反応器30、11の上部に排出される。図9は、図5に示す隔壁付きカラム型向流式反応器を1次反応器11として使用し、図4に示す液満タン型カラム型向流式反応器を2次反応器12として連結して使用した例を示す図であり、図10は、図4に示す液満タン型カラム型向流式反応器を1次反応器11及び2次反応器12として連結して使用した例を示す図であり、図11は、図5に示す隔壁付きカラム型向流式反応器を1次反応器11及び2次反応器12として連結して使用した例を示す図である。
【0029】
このように、同型または異型の反応器を2以上連続して連結して、1次反応器11において全体の脂肪酸のほとんどを脂肪酸アルキルエステルに転換させた後、2次反応器12の内部空間を順次に通過しつつ未転換の残余脂肪酸を転換させて、転換効率を一層高めることができる。また、脂肪酸とアルコールが、向流条件で、エステル化反応後に他のトレイに順次に移送されるようにして、未反応脂肪酸の短距離移動を防ぎ、反応物に十分な滞留時間を与え、先入先出の効果を与えて、脂肪酸の脂肪酸アルキルエステルへの転換反応を効果的に行うことができる。このため、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び装置は、低圧だけではなく、10〜35バールの高圧においても、高品質の脂肪酸アルキルエステルが製造可能であり、既存のDMT(dimethylterephtalate)製造反応器などの様々なエステル化反応器を特に改造することなく使用することができる。
【0030】
本発明のエステル化反応により得られた粗脂肪酸アルキルエステル4はほとんど脂肪酸アルキルエステルからなるが、工業的またはバイオディーゼル燃料として使用するためには、相対的に低分子量及び高分子量の脂肪酸アルキルエステル、残渣などを除去する必要がある。特に、脂肪酸メチルエステルの場合、バイオディーゼルの品質基準を満たすためには、脂肪族部分の炭素数が14個未満または24個を超える脂肪酸アルキルエステル、その他の低分子量の不純物は除去されなければならない。これにより、本発明は、2ステップの蒸留工程を通じて精製を行う。図1に戻ると、本発明に係る1次精製部20においては、0.1〜150torr、好ましくは、0.1〜40torrの真空下において蒸留塔の下部温度を150〜250℃、好ましくは、180〜220℃に維持して、流入物に対して1〜10重量%、好ましくは、2〜5重量%を蒸留塔の上部に除去する。前記蒸留塔の上部に除去される分量が、流入物に対して1重量%未満であれば、低沸点不純物が十分に除去されない虞があり、流入物に対して10重量%を超えると、歩留まりが低下する虞がある。ここで、蒸留塔の上部に除去される低沸点不純物はほとんどが低分子量の脂肪酸アルキルエステルであるため、別途の追加工程を経ることなく、直ちにボイラーなどの燃料として使用される。本発明に係る2次精製部30においては、0.1〜150torr、好ましくは、0.1torr〜40torrの真空下において、蒸留塔の下部温度を200〜300℃、特に、220〜280℃に維持して、原料となる脂肪酸の組成によるが、蒸留塔の下部には流入物に対して1〜25重量%の不純物を残留させて除去し、蒸留塔の上部には精製された高純度の脂肪酸アルキルエステルを得る。前記蒸留塔の下部に残留する不純物が流入物に対して1重量%未満であれば、高純度の脂肪酸アルキルエステルが得られなくなる虞があり、前記蒸留塔の下部に残留する不純物が流入物に対して25重量%を超えると歩留まりが低下する虞がある。前記残留不純物は組成のほとんどが炭素数24個を超える脂肪酸アルキルエステルであるため、ボイラーなどの燃料として使用可能である。一方、反応に用いられた金属触媒は残渣と一緒に排出されるため、脂肪酸アルキルエステルの品質には全く影響しない。このように残渣と一緒に排出された金属触媒は廃棄物として処理されるか、あるいは、燃焼後に再生されて再使用される。前記方法により精製された脂肪酸アルキルエステル、特に、脂肪酸メチルエステルは、バイオディーゼルに対する大韓民国、米国、ヨーロッパなど主な国家の全ての品質基準を満足するため、直ちにバイオディーゼル油として使用可能となる。
【0031】
一方、本発明のエステル化反応時に生成された水は、過剰に投入されて反応にあずからないアルコールと一緒に反応部10から排出されるが、この混合物はアルコール回収部40において分離されて、水は廃水処理場に移送され、アルコールは反応部10に再循環されて再使用される。前記アルコール回収部40は、蒸留塔及びこれに付属する設備からなり、蒸留塔の下部温度はアルコールの沸点によって調節されてアルコールを蒸留する。前記蒸留されて再使用されるアルコールは、0〜10重量%、具体的に、0.001〜10重量%の水を含有する。前記アルコールに対する含水量が10重量%を超えると、反応部10におけるエステル化反応速度を低下させる虞がある。また、メタノールを使用する場合には、1台の蒸留塔のみを用いて、十分に純粋なメタノールを精製して反応部10に循環させることができ、エタノールなど炭素数2以上のアルコールを使用する場合には、塔上に排出される水/アルコール共沸混合物に対して脱水化工程を行った後、水は除去し、アルコールは反応部10に再循環させることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。下記の実施例は本発明を一層具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されることはない。
【0033】
[比較例1]脂肪酸メチルエステルの製造(回分式反応)
エステル化反応は、図6の(a)に示す回分式連続攪拌タンク反応器(continuousstirred tank reactor;CSTR)を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器に脂肪酸蒸留物1kg及びテトラブチルチタネート0.8gを溶かしたメタノール0.5kgを投入した後、温度300℃、圧力30バールに調節し、その後、メタノール1300gを連続して投入して4時間反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.8%であり、最終的に達した全酸価は0.34mgKOH/gであった。
【0034】
[比較例2]脂肪酸メチルエステルの製造(回分式反応)
エステル化反応は、図6の(a)に示す回分式CSTR反応器を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器に脂肪酸蒸留物1kg及びテトラブチルチタネート0.8gを溶かしたメタノール0.5kgを投入した後、温度300℃、圧力20バールに調節し、その後、メタノール975gを連続して投入して3時間反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.8%であり、最終的に達した全酸価は0.36mgKOH/gであった。
【0035】
[比較例3]脂肪酸メチルエステルの製造(回分式反応)
エステル化反応は、図6の(a)に示す回分式CSTR反応器を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器に脂肪酸蒸留物1kg及びテトラブチルチタネート0.8gを溶かしたメタノール0.5kgを投入した後、温度300℃、圧力10バールに調節し、その後、メタノール650gを連続して投入して2時間反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.8%であり、最終的に達した全酸価は0.34mgKOH/gであった。
【0036】
[比較例4]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図7の(a)に示す連続攪拌タンク反応器(continuousstirred tank reactor;CSTR)を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器を温度300℃、圧力20バールに調節し、粗パーム油を蒸留して得た脂肪酸蒸留物を6g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を反応器の上部に同時に投入し、反応器に99.7%純度のメタノール2を6g/分の流量にて投入して滞留時間3時間が確保されるように反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.5%で反応が終結した。最終的に達した全酸価は0.87mgKOH/gであった。比較例4において得られた脂肪酸メチルエステルの場合、全酸価0.5mgKOH/gを要求する車両用燃料として用いられるバイオディーゼル燃料用脂肪酸メチルエステルの品質基準を満たしていない。
【0037】
[比較例5]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図7の(a)に示す連続攪拌タンク反応器(continuousstirred tank reactor;CSTR)を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器を温度300℃、圧力10バールに調節し、粗パーム油を蒸留して得た脂肪酸蒸留物を6g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を反応器の上部に同時に投入し、反応器に99.7%純度のメタノール2を6g/分の流量にて投入して滞留時間3時間が確保されるように反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.7%で反応が終結した。終的に達した全酸価は0.5mgKOH/gであった。
【0038】
[比較例6]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図7の(a)に示す連続攪拌タンク反応器(continuousstirred tank reactor;CSTR)を用いて、1ステップ反応にて行った。まず、反応器を温度300℃、圧力5バールに調節し、粗パーム油を蒸留して得た脂肪酸蒸留物を6g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を反応器の上部に同時に投入し、反応器に99.7%純度のメタノール2を6g/分の流量にて投入して滞留時間3時間が確保されるように反応させた。前記反応において得られた脂肪酸メチルエステルの転換率は99.7%で反応が終結した。最終的に達した全酸価は0.42mgKOH/gであった。
【0039】
[実施例1]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図11に示す反応器を用いて、2ステップ反応にて行った。まず、1次反応器11を温度300℃、圧力20バールに調節し、脂肪酸蒸留物を10g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を反応器の上部に同時に投入し、反応器の下部に2次反応器12から排出される気体状態のメタノール/水混合物を直接的に投入して滞留時間1.5時間が確保されるように反応させた。ここで得られた1次反応生成物4aを2次反応器12の上部に導入し、下部に99.7%純度のメタノール2を10g/分の流量にて投入した。2次反応器12の温度および圧力は温度300℃及び圧力20.5バールに維持し、滞留時間1.5時間を確保した。2次反応器12の下部から得られた脂肪酸メチルエステル4の転換率は99.8%で反応が終結した(全酸価0.4未満)。
【0040】
[実施例2]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図11に示す反応器を用いて、2ステップ反応にて行った。まず、1次反応器11を温度300℃、圧力10バールに調節し、脂肪酸蒸留物を10g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を同時に反応器の上部に投入し、反応器の下部に2次反応器12から排出される気体状態のメタノール/水混合物を直接的に投入して滞留時間1.5時間が確保されるように反応させた。ここで得られた1次反応生成物4aを2次反応器12の上部に導入し、下部に99.7%純度のメタノール2を10g/分の流量にて投入した。2次反応器12の温度および圧力は温度300℃及び圧力10.5バールに維持し、滞留時間1.5時間を確保した。2次反応器12の下部から得られた脂肪酸メチルエステル4の転換率は99.8%で反応が終結した(全酸価0.4未満)。
【0041】
[実施例3]脂肪酸メチルエステルの製造(連続式反応)
エステル化反応は、図11に示す反応器を用いて、2ステップ反応にて行った。まず、1次反応器11を温度300℃、圧力5バールに調節し、脂肪酸蒸留物を10g/分の流量にて投入しつつ、脂肪酸蒸留物の投入量に比例してコバルトアセテート50ppm(対脂肪酸蒸留物)を溶かしたメタノール少量を同時に反応器の上部に投入し、反応器の下部に2次反応器12から排出される気体状態のメタノール/水混合物を直接的に投入して滞留時間1.5時間が確保されるように反応させた。ここで得られた1次反応生成物4aを2次反応器12の上部に導入し、下部に99.7%純度のメタノール2を10g/分の流量にて投入した。2次反応器12の温度および圧力は温度300℃及び圧力5.5バールに維持し、滞留時間1.5時間を確保した。2次反応器12の下部から得られた脂肪酸メチルエステル4の転換率は99.8%で反応が終結した(全酸価0.4未満)
【0042】
前記比較例1〜6及び実施例1〜3の試験条件及び結果を下記表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
前記表1から、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、低圧及び高圧において脂肪酸の反応速度及び転換率に優れており、特に、高圧においても反応速度及び転換率に優れていることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器の内部に垂直方向に多数の隔室が形成されるように、多数のトレイが反応器の内部に水平方向に設けられており、前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されているカラム型向流式反応器の上部に脂肪酸原料を導入し、反応器の下部にアルコールを導入して、
200〜350℃の反応温度及び1〜35バールの反応圧力において、それぞれのトレイにおいて脂肪酸及びアルコールを向流の条件でエステル化反応させるステップを含むバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸原料は、反応器上部の最上段隔室に流入して順次に下部の隔室に移動し、前記アルコールは反応器下部の最下段隔室に流入した後に順次に上部の隔室に移動するものである、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記それぞれのトレイには、気体状態のアルコールが通過する多数の弁またはバブルキャップが一定の間隔をあけて分散形成されている、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記エステル化反応において生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物は、気体状態で前記反応器の上部に排出される、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記それぞれのトレイの一端には前記隔室および開口部を仕切る隔壁が形成され、前記隔壁の上部は開放されて、所定量の反応物が供給されると、反応物が隔壁の上部にオーバーフローされて隣り合う下部のトレイに移動するようになっている、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記カラム型向流式反応器2つを連結して、全体の脂肪酸原料の一部を1次反応器において脂肪酸アルキルエステルに転換させ、脂肪酸原料の残りを2次反応器において脂肪酸アルキルエステルに転換させる、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
前記1次反応器の下部から、1次エステル化反応の生成物である粗脂肪酸メチルエステルが前記2次反応器の上部に流入し、アルコールが2次反応器の下部に流入して2次エステル化反応し、前記2次エステル化反応の生成物である脂肪酸メチルエステルは2次反応器の下部から排出され、前記2次エステル化反応において生成された水と反応にあずからない過剰のアルコールとの混合物は気体状態で2次反応器の上部に排出されて1次反応器の下部に投入されて脂肪酸と1次エステル化反応する、請求項6に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項8】
前記反応圧力は10〜35バールである、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項9】
前記反応圧力は20〜30バールである、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項10】
カラム型反応器本体と、
前記反応器本体の内部に垂直方向に多数の隔室が形成されるように水平方向に設けられており、気体が通過する弁が一定の間隔をあけて分散形成される多数のトレイを備え、
前記多数のトレイには開口部が形成されて上下に隣り合う隔室を連絡するが、前記隣り合うトレイの開口部は互い違いになるように交差形成されており、
200〜350℃の反応温度及び1〜35バールの反応圧力において、前記反応器本体の上部に脂肪酸原料を導入し、反応器本体の下部にアルコールを導入して、それぞれのトレイにおいて脂肪酸とアルコールを向流の条件でエステル化反応させるバイオディーゼル燃料用脂肪酸アルキルエステルの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−508282(P2012−508282A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534372(P2011−534372)
【出願日】平成21年9月22日(2009.9.22)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005381
【国際公開番号】WO2010/053258
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】