説明

脱塩方法および脱塩装置

【課題】RO膜は溶媒中に溶解したイオン成分までろ過することができ、大変有用であるが、初期コストが高く、さらにランニングコストも非常に高い。さまざまな局面で純水の要求があるなかで、より安価に純水を得る方法が求められている。
【解決手段】本発明の脱塩方法は、被処理水に所定の粒径または所定分子量以上のスケール分散剤を添加する分散剤添加工程と、前記スケール分散剤が添加された被処理水を、前記スケール分散剤の分子量より小なる孔径または小なる分画分子量を備えた、RO膜以外のろ過膜で処理するろ過処理工程を有することを特徴とし、RO膜以外のろ過膜を用いても、イオン成分までろ過することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水などを脱塩処理する方法および装置に関する発明であり、特に従来RO膜を用いていたプロセスをRO膜以外の膜を用いて脱塩処理を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の不純物を除去する方法のうち、ろ過膜を用いる方法は、装置自体を小型化でき、定常的に運転が可能といった特徴を有するため、さまざまな分野で用いられている。特に溶媒分子は通過させるが、溶質分子を通過させないRO(Reverse Osmosis)膜(逆浸透膜)が開発されてからは、RO膜を通過させるだけで、イオン成分となっている不純物を分離することが可能になった。
【0003】
しかし、RO膜は、微小な溶質分子を分離できるがゆえに、液中の微小物が膜に沈着して液体の透過流束(フラックス)量を低下させるファウリングや、RO膜の中でつまってしまう目詰まりによって生じる性能低下といった問題も発生する。
【0004】
通常、RO膜を用いた設備に供給する原水としては、FI値(ファウリング・インデックス値;汚染指数)が、4ないし3以下であるのが好ましいとされている。そこで、RO膜を用いる場合は原水にRO膜へ供給するための前処理を行って、ある程度不純物を除去した被処理水にしている。
【0005】
特許文献1には、高分子有機成分が含まれる工業用水をRO膜を用いて脱塩処理する水処理100について開示されている。図4を参照して、被処理水としての工業用水は、まず凝集反応槽101に貯留され、凝集剤が投入される。ここで凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)、pH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)等、スライム防止剤として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を投入する。この操作によって工業用水中の鉄、マンガン等の成分が除去される。
【0006】
そして、次にこの上澄みを分画分子量5,000乃至250,000のUF膜(Ultra Filtration:限外ろ過膜とも呼ぶ。)を使ったUF膜分離装置102でろ過する。このようにして、得た水は、ほとんど異物は除去されている。ここで得た水に、非酸化性スライムコントロール剤である2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等を添加した上で、RO膜分離装置103を通過させ処理水を得る。
【0007】
この方法では、高分子有機成分や微細縣濁物質を分画分子量5,000〜250,000のUF膜にて除去することで、RO膜の負荷を軽減し、RO膜の性能低下を防止するという効果を奏する。
【0008】
図5には、特許文献2にかかわる排水処理装置200を示す。特許文献2の排水処理装置200は、シリコン酸化膜の表面を化学機械研磨(CMP)する際に生じる研磨排水を処理するための装置である。研磨排水(CMP排水)は、排水受槽201に貯留され、夾雑物等をMF膜分離装置202を用いて分離し、循環槽203に貯留する。次に循環槽203の貯留水から微細懸濁物質をUF膜分離装置204を用いて分離する。UF膜分離装置204を通過した水は中間槽205に貯留される。
【0009】
中間槽205の貯留水には、溶解性物質しか残っていないので、これをRO膜分離装置206を用いて溶解性物質まで除去する。また、この際、RO膜分離装置206での回収率向上のため、シリカ等の溶解性物質の分散剤を添加するのも好ましい点が開示されている。この場合、分散剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムといったアルカリ、重合リン酸塩、ポリアクリルアミド等の水溶性ポリマーが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−229418号公報
【特許文献2】特開平11−138162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1や2では、脱塩方法として、最終的にRO膜を使用する。その前処理としてMF膜やUF膜を用いて、夾雑物(SS)、高分子有機成分、微細懸濁物質、ウイルス類を除去し、RO膜などの負荷を軽減している。
【0012】
つまり、RO膜では、Ca2+、Na、Cl、SO2−、などのイオン化した溶解性物質の除去だけを行い、それ以外は、UF膜等でろ過し、RO膜の負担を軽減させている。これは、高価なRO膜を長期間使用できるようにするための措置であると考えられる。
【0013】
しかし、これらのような措置を講じても、RO膜においては、ファウリングや目詰まりは生じる。たとえ、特許文献1や特許文献2に記載のように、RO膜を通過させる直前にスライムコントロール剤や回収率向上のための分散剤等を被処理水に投入したとしても、UF膜等を通過した微細な難溶性成分がRO膜でファウリングを起こすか、もしくは目詰まりを生じさせる。結果、RO膜の交換や性能維持・点検といった費用がかさむこととなる。
【0014】
さらに、RO膜を用いる場合は膜に供給する水に逆浸透圧を印加する必要がある。これは、ポンプを用いて行われるが、この時のポンプのエネルギーが大変大きい。すなわち、より省エネルギーの観点からも、脱塩をより廉価で行える方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みて想到されたものであり、RO膜を使用することなく溶解性物質を除去(脱塩)する方法および装置を提供するものである。
【0016】
より具体的には、本発明の脱塩方法は、
被処理水に所定の粒径または所定分子量以上のスケール分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記スケール分散剤が添加された被処理水を、前記スケール分散剤の分子量より小なる孔径または小なる分画分子量を備えた、RO膜以外のろ過膜で処理するろ過処理工程を
有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の脱塩方法はさらに、前記RO膜以外のろ過膜は、分画分子量が100〜5,000のNF膜であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の脱塩方法は、前記RO膜以外のろ過膜は、分画分子量が5,000〜250,000のUF膜であることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の脱塩方法は、前記RO膜以外のろ過膜は、孔径が0.05μm〜0.5μmのMF膜であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の脱塩方法は、前記RO膜以外のろ過膜を逆洗する洗浄工程をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の脱塩方法は、前記被処理水は、前記分散剤添加工程の前に原水に凝集剤を投入して凝集処理を行う凝集工程を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の脱塩方法は、RO膜を用いることを排除せず、
前記ろ過工程で処理した処理水を、RO膜で逆浸透圧を加えて処理する逆浸透処理工程を備えた事を特徴とする。
【0023】
また、本発明の脱塩方法は、前記被処理水若しくは前記原水は、工業用水または井戸水であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の脱塩方法は、前記被処理水が、硬水であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の脱塩装置は、貯留した被処理水に所定の粒径または所定分子量以上のスケール分散剤を添加する分散剤添加手段と、この分散剤添加手段で前記スケール分散剤が添加された被処理水を、前記スケール分散剤より小なる孔径または小なる分画分子量を備えた、RO膜以外のろ過膜で処理するろ過処理手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被処理水に所定の分子量以上のスケール分散剤を添加して、溶液中の溶解性物質をスケール剤に付着させ、スケール分散剤より小さな孔径若しくは分画分子量を有するRO膜以外のろ過膜を通過させるので、溶解性物質をRO膜以外の膜(例えばMF膜や、UF膜、NF膜など)でろ過することができる。これらRO膜以外の膜はRO膜と比較して廉価であるうえに、逆浸透でないため、ろ過の際に逆浸透圧を印加する必要もない。したがって、低コストで水処理を行うことができる。つまり、イニシャルコストおよびランニングコストとも、安価なシステムを得る事ができる。
【0027】
また、RO膜のように逆浸透圧を印加する必要がないので、設備としても省スペース化が可能である。
【0028】
また、スケール分散剤を使用する膜の分画分子量より大きなものを使用すると、溶解性物質やスケール分散剤が膜内に入り込む可能性が低いので、目詰まりが生じにくい。さらに、逆洗を行う時に、膜表面から不純物が剥がれやすくなり、メンテナンスが容易となる。
【0029】
また、かりにRO膜を用いる場合であっても、RO膜を通過させる直前の被処理水に添加物を投入する必要がないので、RO膜への負担は従来より軽くなり、RO膜の維持管理費用は大きく低減させることができる。
【0030】
また、工業用水から超純水を製造する、若しくは海水や地下水などから飲料水等を製造するといった事が、安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の脱塩方法の工程を示す系統図である。
【図2】本発明の他の脱塩方法の工程を示す系統図である。
【図3】本発明の他の脱塩方法の工程を示す概略図である。
【図4】従来の脱塩方法の工程を示す系統図である。
【図5】従来の他の脱塩方法の工程を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の脱塩方法および装置を図を用いて説明する。なお、本実施の形態での説明は本発明の一例であり、本発明の主旨の範囲内で本説明以外の形態へ変更することを妨げるものではない。
【0033】
図1に本発明の脱塩装置1を示す。脱塩装置1には、少なくとも分散剤添加槽2、ポンプ4、ろ過器6を含む。分散剤添加槽2は、被処理水50が貯留されるタンクである。攪拌機8が配設されていてもよい。分散剤添加槽2からは、配管10がろ過器6まで延設され、液密に連結されている。なお、配管10には、ポンプ4が配設されている。
【0034】
ろ過器6にはRO膜以外のろ過膜6mが配置されている。RO膜以外のろ過膜6mは例えば、NF膜、UF膜、MF膜といったグレードの膜を配置させる。ろ過器6の濃縮側6aには、配管11が配置され、分散剤添加槽2に連結されている。配管11の出口11aは、分散剤添加槽2内に開口していれば、特に液密に連結する等の限定はなくてもよい。
【0035】
ろ過器6の透過側6bには配管12が液密に連結されており、その出口12aから処理水56が排出される。排出された処理水56は、処理水槽16に貯留される。また、処理水槽16からは配管18がろ過器6の透過側6bに連通されている。この配管18には逆洗用のポンプ14が配設されている。
【0036】
次に本発明の脱塩装置1の詳細を説明する。本発明の脱塩装置1は、RO膜処理装置の代わりに使われるものであるので、被処理水50は、濁質などの異物は前処理によって出来る限り排除されているのが好ましい。溶解性物質をろ過するのが目的だからである。
【0037】
分散剤添加槽2に貯留された被処理水50には、スケール分散剤60が投入される。スケール分散剤60は、ろ過器6に用いるろ過膜6mの孔径若しくは分画分子量によって決まり、すくなくともろ過器6のろ過膜6mより大きな径若しくは分子量を有するものを選定する。溶解性物質をろ過膜6mでトラップするためである。
【0038】
スケール分散剤60は、イオン化した溶解性物質を捕捉するために、官能基を多く有する物質が好ましい。このような官能基はカルボキシル基に代表される。また、一部に二重結合を有するホスホン酸も使用することができる。より具体的には、分子量100〜5,000のスケール分散剤としては、1−ヒドロキシイチリデン1,1−ジホスホン酸(分子量206)、ニトリロトリアミノトリメチレンホスホン酸(分子量299)、ホスホノブタントリカルボン酸(分子量270)、ポリアクリル酸(分子量4,500)、ポリマレイン酸(分子量600〜1,200)等が好適に利用できる。
【0039】
また、分子量が5,000〜250,000のスケール分散剤としては、ポリアクリル酸(分子量6,000〜8,000)、ターポリマー(分子量9,000〜12,000)が好適に利用できる。
【0040】
また、粒径が0.05μm以上のスケール分散剤としては、ターポリマー(0.05μm〜0.5μm)が好適に利用できる。これらのスケール分散剤は、0.1〜100mg/L程度の範囲で被処理水50に混入する。このとき水中に添加されたスケール分散剤が、イオン化した溶解性物質と結びつくのは、スケール分散剤の持つ官能基が水中の溶解性物質を電気的に引きつけることにより、水中の溶解性物質を付着して、一体的に結合するものである。
【0041】
すなわち、水中の溶解性物質がNaのようなプラスイオンの場合は、例えばスケール分散剤の負の電荷を持つR−COOと電気的に結合して、[R−COO]− +[Na]などの化合物となる。
【0042】
また、水中の溶解性物質がClのようなマイナスイオンの場合は、例えばスケール分散剤の正の電荷を持つR−NHと電気的に結合して、[R−NH+ −[Cl]などの化合物となる。従って、スケール分散剤は複数の種類を混在させてプラスイオンとマイナスイオンを捕捉するようにしてもよい。
【0043】
分散剤添加槽2でスケール分散剤60が投入された被処理水52は、配管10を通って、ろ過器6に送られる。この際、ポンプ4によって送圧がかけられる。ここでの圧力はRO膜を使用する場合のような逆浸透圧ほど高い圧力は必要ない。
【0044】
ろ過器6は、ろ過膜6mを備える。ろ過器6のろ過膜6mのタイプは特に限定されず、スパイラル型、中空糸型、平膜型、管型など任意に用いることができる。ろ過膜6mもNF(Nano Filtration)膜、UF(Ultra Filtration)膜、MF(Micro Filtration)膜などを利用することができる。
【0045】
ここで、MF膜とは精密ろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね0.05μmから0.5μmの膜である。また、UF膜とは限外ろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね2から200nm(分画分子量では、5,000から250,000程度)である。また、NF膜とはナノろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね1から2nmで、イオンや塩類などの阻止率が70%以下(分画分子量で100から5,000)程度のものである。
【0046】
これらの膜は、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子を材料として製造される。また、セラミック等を用いる事もできる。
【0047】
より具体的には、分画分子量100〜5,000のNF膜として、NTR−7400シリーズのNF膜(日東電工株式会社製、分画分子量:100以上)が好適に利用できる。また、分画分子量5,000〜25,000のUF膜としては、HFU−2020、2008、1020、1010(東レ株式会社製、分画分子量:150,000)や、マイクローザUF(旭化成株式会社製、分画分子量:3,000〜8,0000)や、キャピラリー型UF膜モジュール(日東電工株式会社製、分画分子量:6,000〜20,000)や、中空糸型UF膜モジュール、FS10、FE10、他(ダイセンメンブレン株式会社製、分画分子量:6,000〜500,000)等が好適に利用できる。
【0048】
また、孔径が0.05μm〜0.5μmのMF膜として、マイクローザMF(旭化成株式会社製、孔径:0.1μm〜0.25μm)や、HFS−2020、2008、1020、1010(東レ株式会社製、孔径:0.05μm)や、SUR334LB(三菱レーヨン株式会社製、孔径:0.4μm)や、OPMWシリーズ(住友電工株式会社製、孔径:0.1μm)や、SPMWシリーズ(住友電工株式会社製、孔径:0.2μm)などが好適に利用できる。
【0049】
これらの通過孔の大きさのろ過膜6mは、使用されるスケール分散剤60を濾せるだけ小さな孔径若しくは分画分子量であることが必要である。スケール分散剤60で捕捉したイオン化された溶解性物質をスケール分散剤60ごと捕捉するためである。
【0050】
ろ過器6の濃縮側6aに蓄積した濃縮液54は、液密に連結された配管11によって、分散剤添加槽2に戻される。このように、ろ過器6でのろ過が進むと、分散剤添加槽2のスケール分散剤60の濃度は上がるので、適宜、濃縮側6aの濃縮液54は排水するのが好ましい。
【0051】
一方、ろ過器6の透過側6bからは処理水56が得られる。透過側6bはろ過器6と液密に連結された配管12によって、処理水槽16と連結されるので、処理水56は処理水槽16に貯留する。
【0052】
ここで、ろ過膜6mは、スケール分散剤60より小さな孔径若しくは分画分子量であるので、使用によってその表面にスケール分散剤60が付着し、透過流束が低下する。これは図示しない流量計を配管12の出口12aに取付けておくことで、検知することができる。この場合は、一度、ポンプ4を停止させ、ろ過膜6mを洗浄する。
【0053】
洗浄は逆洗と呼ばれる方法で行う。この場合は、ポンプ14を駆動させ、処理水槽16の処理水56を配管18を経由して、ポンプ14でろ過器6の透過側6bに送る。処理水56はろ過膜6mを透過するので、ろ過膜6mの濃縮側6aに付着したスケール分散剤60を配管11を介して、分散剤添加槽2に押し戻すことができる。
【0054】
上記の説明で、分散剤添加槽2で被処理水50にスケール分散剤60を添加するのは、分散剤添加工程であり、ろ過器6でスケール分散剤60が添加された被処理水52をろ過器6でろ過するのはろ過処理工程である。また、ろ過器6のろ過膜6mをポンプ14と処理水56を用いて逆洗するのは、洗浄工程である。
【0055】
図2には、本発明の脱塩装置1の分散剤添加槽2の前段に、凝集槽20とポンプ22を、また処理水槽16の後段にポンプ24とROろ過器26を配設した脱塩装置90を示す。凝集槽20と分散剤添加槽2の間には配管30が配置される。ポンプ22は、配管30の間に配設される。また、処理水槽16とROろ過器26の間には液密に連通した配管32が配設され、ポンプ24はこの配管32に配設される。
【0056】
脱塩装置90は凝集槽20に工業用水若しくは井水(以後まとめて「工業用水等49」と呼ぶ。)が供給される。凝集槽20に貯留された工業用水等49には、凝集剤62が添加される。ここで凝集剤62は、公知の材料でよく、具体的には、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や、硫酸アルミニウム(所謂「硫酸バンド」)等が好適に利用できる。これらの凝集剤は10mg/Lから80mg/Lの範囲で投入することで濁質成分を沈降させることができる。
【0057】
従って、この凝集槽20の上澄みを被処理水50として分散剤添加槽2に配管30を介して、ポンプ22で送る。分散剤添加槽2に入ってから後の処理は、すでに説明したとおりである。
【0058】
次に脱塩装置90の処理水槽16の後段について説明する。処理水槽16には本発明の脱塩装置1によって、脱塩された処理水56が貯留されている。しかし、この貯留された処理水56をさらにRO膜で処理することも可能である。これを行うのが、ポンプ24と配管32およびROろ過器26である。ROろ過器26にはRO膜26mが配置されている。ポンプ24は処理水56を逆浸透圧まで昇圧させてRO膜26mに供給する。ROろ過器26を通過し、透過側26bから得られる浄水70は一時純水装置などの貯留タンクに送られる。また、濃縮側26aから得られる排水は排水処理等の処理に送られる。
【0059】
ここで、RO膜26mに供給する処理水56は十分に浄化された水であるので、特になにも添加する必要はない。これはつまり、RO膜26mに対してはほとんどファウリングや目詰まりする物質がないということである。従って、脱塩装置90では、RO膜26mは極めて長寿命であると言える。
【0060】
また、脱塩装置90で得られる浄水70は、工業用水等49を、RO膜26mまで通過させているため、十分に純水として利用することができる。
【0061】
なお、脱塩装置90において、凝集槽20で工業用水等49に凝集剤62を投入するのは、凝集工程である。ここで、工業用水等49は、被処理水50の元になっており、原水と言える。また、処理水槽16の後段でROろ過器26で処理するのは、逆浸透処理工程である。
【0062】
次に図3には、脱塩装置92を示す。脱塩装置92は、脱塩装置90からROろ過器26、ポンプ24、配管32を取り去った構成をしている。従って、脱塩装置92の各部の作用については、すでに説明されている。
【0063】
脱塩装置92では原水として塩分が含有されている海水やミネラルと呼ばれる金属イオン成分を含有する地下水等(以後「原水48」と呼ぶ。)が選ばれる。原水48中の濁質成分は、凝集槽20中で凝集剤62によって沈降させられる。凝集槽20の上澄みを被処理水50として、分散剤添加槽2に送り、上述と同じ処理を行う。
【0064】
被処理水50中のイオン成分(溶解性物質)は、スケール分散剤60と、ろ過器6で濾し取られるので、処理水56には含まれない。つまり、イオン成分を有していた硬水は、脱塩装置92によって軟水(処理水56)に処理されたと言える。このような軟水は、毒性もなく、生活用水や工業用水として利用することができる。
【0065】
なお、本発明の脱塩装置1、90、92では、ろ過器6を1つのろ過器として説明したが、複数のろ過器6を並列にして使用してもよい。また、孔径や分画分子量が大きいものから順に直列に重ねて配置してもよい。スケール分散剤60は、高分子材料であるため、ブロードな分子量分布を示す。したがって、中心分子量で、ろ過膜6mの孔径若しくは分画分子量より大きいものを用いても、ろ過膜6mの孔径若しくは分画分子量より小さなものも存在するおそれがある。
【0066】
そのためスケール分散剤60より小さな分画分子量の膜を使っても、その膜を通過するスケール分散剤60が存在する可能性がある。できるだけこのようなスケール分散剤60も捕捉するには、分画分子量の異なるろ過膜を直線的に結合するのは効果がある。
【0067】
しかし、仮に、ろ過膜6mを通過する分子量の小さなスケール分散剤60が混じっており、ろ過膜6mが目詰まったとしても、ろ過膜6mはRO膜ではないので、安価に交換することができる。
【0068】
以上のように本発明の脱塩装置による脱塩方法は、所定の大きさのスケール分散剤で液中の溶解性物質を捕捉し、スケール分散剤毎濾し取るので、RO膜を用いる必要がなく、安価な脱塩装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の脱塩装置および脱塩方法は、化学工場、各種プラントで用いられた工業用水などの排液の処理および再利用や、海水、河川、井戸水などの自然の水を、飲料水や生活水へ加工するため局面で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 脱塩装置
2 分散剤添加槽
4 ポンプ
6 ろ過器
6a 濃縮側
6b 透過側
6m ろ過膜
8 攪拌機
10 配管
11 配管
12 配管
14 ポンプ
16 処理水槽
18 配管
20 凝集槽
22 ポンプ
24 ポンプ
26 ROろ過器
26a 濃縮側
26m RO膜
30 配管
32 配管
49 工業用水等
50 被処理水
52 被処理水
54 濃縮液
56 処理水
60 スケール分散剤
62 凝集剤
90 脱塩装置
92 脱塩装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に所定の粒径または所定分子量以上のスケール分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記スケール分散剤が添加された被処理水を、前記スケール分散剤の分子量より小なる孔径または小なる分画分子量を備えた、RO膜以外のろ過膜で処理するろ過処理工程を
有することを特徴とする脱塩方法。
【請求項2】
前記RO膜以外のろ過膜は、分画分子量が100〜5,000のNF膜であることを特徴とする請求項1に記載された脱塩方法。
【請求項3】
前記RO膜以外のろ過膜は、分画分子量が5,000〜25,000のUF膜であることを特徴とする請求項1に記載された脱塩方法。
【請求項4】
前記RO膜以外のろ過膜は、孔径が0.05μm〜0.5μmのMF膜であることを特徴とする請求項1に記載された脱塩方法。
【請求項5】
前記RO膜以外のろ過膜を逆洗する洗浄工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載された脱塩方法。
【請求項6】
前記被処理水は、前記分散剤添加工程の前に原水に凝集剤を投入して凝集処理を行う凝集工程を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの請求項に記載された脱塩方法。
【請求項7】
前記ろ過工程で処理した処理水を、RO膜で逆浸透圧を加えて処理する逆浸透処理工程を備えた事を特徴とする請求項1乃至6のいずれかの請求項に記載された脱塩方法。
【請求項8】
前記原水もしくは前記被処理水が、工業用水または井戸水であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの請求項に記載された脱塩方法。
【請求項9】
前記被処理水は、硬水であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの請求項に記載された脱塩方法。
【請求項10】
貯留した被処理水に所定の粒径または所定分子量以上のスケール分散剤を添加する分散剤添加手段と、この分散剤添加手段で前記スケール分散剤が添加された被処理水を、前記スケール分散剤より小なる孔径または小なる分画分子量を備えた、RO膜以外のろ過膜で処理するろ過処理手段を備えることを特徴とする脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200696(P2012−200696A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69195(P2011−69195)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】