説明

脱脂度判定装置及び方法

【課題】定量的な基準で、製造工程の手順や個々の重量に影響されることなく、油分の性状に関わらず被測定物表面の脱脂状態を自動的に検知する。
【解決手段】試料30に光を照射する光源14と、試料30からの蛍光を検出するカメラ32と、蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる第1の指標と、蛍光の強度分布を統計解析して得られる第2の指標の少なくとも2つの指標を用いて、試料30の脱脂の均一性及び脱脂の度合いを判定する手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱脂度判定装置に関し、特に被測定物表面に光を照射し、被測定物表面からの蛍光を検出することで被測定物表面の脱脂度を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定物表面の脱脂度あるいは汚れを検出するための種々の方法が提案されている。
【0003】
第1は、水濡れ現象を利用する方法である。これは、脱脂後に加工品全体に純水を噴霧させることにより、加工品表面からはじかれた場所を未洗浄部分として検知する方法である。
【0004】
第2は、全有機炭素濃度測定法である。これは、水中もしくは洗浄液中の有機炭素から油分濃度を推定するものである。洗浄液中に残留している汚れを抽出し、洗浄液の管理もしくは洗浄した金属の洗浄度を評価する。
【0005】
第3は、表面洗浄度分析法である。これは、超真空中において対象表面の元素を計測する方法である。
【0006】
第4は、潤滑油膜厚さの計測方法である。これは、内燃機関の制御のための油膜厚さを計測するものである。レーザ誘起蛍光法により油膜厚さを定量的に検出することを目的とし、検出感度を上げるために蛍光添加剤を油に混入させる。蛍光強度により油膜厚さを正確に読み取ることが可能である。
【0007】
第5は、油膜厚計測法である。これは、自然劣化等が発生していない新規の既知の油膜が連続的に存在し、該油膜面に紫外線を励起光として入射させ、100μm以下の油膜面から生成する蛍光強度の積算値が金属表面に塗布した油膜量を推定するものである。測定する油膜の評価には油膜厚さと蛍光強度の相関関係を測った検量線を利用する。
【0008】
第6は、脱脂表面油分計測法である。これは、数μm以下のごく薄い油膜の厚さに紫外・可視光を励起光として入射させ、蛍光強度を計測するものである。洗浄度を評価するため蛍光強度と油膜量との検量線を用いることで脱脂状態を抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−128263号公報
【特許文献2】特開平10−177016号公報
【特許文献3】特開2009−103630号公報
【特許文献4】特許第3508452号
【特許文献5】特開平9−210908号公報
【特許文献6】特許第2915294号
【特許文献7】特開平5−118989号公報
【特許文献8】特開昭57−86743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
脱脂状態の目安として、水の「ぬれ性」がある。加工品を塗装する前に脱脂処理し、加工品の「ぬれ性」の目視による検査では、「ぬれ性」80%以上を合格とする経験則があるが定量性はない。このため、脱脂状態が十分であるかないかを人為的にしか判断できず、豊富な技術経験が必要となる。また、製造ラインで起きる不良の発生原因が突き止められないという問題が生じる。
【0011】
また、組立加工製品はそれぞれの部品が一定とは限らないため前後の重量を測ったとしても洗浄度評価の誤差が大きくなり、残量の少ない脱脂後加工品は評価が難しい。また、洗浄液および容器を計測するたびに交換する必要があり実用的ではない。油の劣化などは評価できるが、微量に付着した防錆油の脱脂状態を測ることができない。
【0012】
また、脱脂直後の加工品表面の計測は大型で高価なシステムが必要で、一般に超真空、真空状態での計測が求められるため、すべての製品の確認をするには向いていない。例えば、自動車の塗装前の車体などは全長5mほどあり、真空状態の設備環境を整えるための投資額が高くなるため、抜き出し計測しか方法がない。また、表面に付着する元素が加工品表面全体の計測をするには時間がかかり、製造ラインへの適用が難しい。
【0013】
また、防錆油に蛍光添加剤を混入させた場合、防錆油の性能が変化しないための別の開発が必要となり追加開発のコストがかかってしまう。できる限り現行の防錆油の成分のみで感度を維持できる方法が望ましい。
【0014】
また、単に蛍光を検出し検量線と対比するだけでは加工品表面上にある水分の影響や形状に対する影響を排除することができない。
【0015】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みなされたものであり、定量的な基準で、製造工程の手順や個々の重量に影響されることなく、油分の性状に関わらず被測定物表面の脱脂状態を自動的に検知できる装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、脱脂度判定装置であって、被測定物表面に光を照射する光源と、前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出する検出手段と、前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定する演算手段とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の1つの実施形態では、空間パターンの解析は空間周波数解析(たとえばフーリエ解析やウェーブレット解析)、あるいは幾何学解析である。それぞれパワースペクトルやウェーブレット係数、あるいは幾何学的量がある。パワースペクトルは、スペクトルの勾配や密度、スペクトルピーク値を用いることができる。
【0018】
また、本発明は、脱脂度判定装置であって、被測定物表面に光を照射する光源と、前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出する検出手段と、前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる第1の指標と、前記蛍光の強度分布を統計解析して得られる第2の指標の少なくとも2つの指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定する演算手段とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、空間パターンの解析は空間周波数解析(たとえばフーリエ解析やウェーブレット解析)、あるいは幾何学解析である。それぞれパワースペクトルやウェーブレット係数、あるいは幾何学的量がある。統計解析は平均値や標準偏差、あるいはこれらの比である変動係数である。
【0020】
また、本発明は、脱脂度判定方法であって、被測定物表面に光を照射するステップと、前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出するステップと、前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定するステップとを有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、脱脂度判定方法であって、被測定物表面に光を照射するステップと、前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出するステップと、前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる第1の指標と、前記蛍光の強度分布を統計解析して得られる第2の指標の少なくとも2つの指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定するステップとを有することを特徴とする。
【0022】
本発明では、蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる指標を用いて脱脂の均一性を判定する。空間パターンの解析には、パワースペクトルやウェーブレット係数、幾何学的量が含まれる。脱脂の均一性に応じてパワースペクトルやウェーブレット係数は変化する。また、汚れ粒子の直径や重心間の距離、汚れの面積等の幾何学的量も当然に変化する。したがって、空間パターンを解析することで、脱脂の度合いを定量的に評価できる。
【0023】
一方、蛍光の強度分布を統計解析して得られる指標には、蛍光強度の平均値や標準偏差等が含まれ、脱脂の均一性に応じてこれらの値は変化する。したがって、空間パターンの解析で得られる指標のみならず、これに加えて統計解析して得られる指標も併せて用いることで、脱脂の度合いをより高精度に評価できる。
【0024】
なお、平均値や標準偏差を用いる場合、被測定物表面に水が存在する場合と存在しない場合とでこれらの値が変動するが、平均値と標準偏差の比である変動係数(=標準偏差/平均値)を指標とすれば、水の有無による変動を除去できる。すなわち、変動係数を指標として用いることで、脱脂度を判定すべき被測定物表面の状態によらずに正確に判定できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、油分の性状に関わらず被測定物表面の脱脂状態を自動的に検知することができ、目視による脱脂状態の判定に比べ、正確性及び効率性が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の構成図である。
【図2】ぬれ性と蛍光強度(輝度)との関係を示す図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】ぬれ性と油膜厚の分布(標準偏差)を示す図である。
【図5】ぬれ性50%及び100%の輝度ヒストグラムを示す図である。
【図6】各試料の輝度値を示す図である。
【図7】ぬれ性とパワースペクトルの勾配の関係を示す図である。
【図8】ぬれ性とパワースペクトル密度の関係を示す図である。
【図9】各試料の平均強度及び標準偏差を示す図である。
【図10】各試料(水ありと水なし)と変動係数(標準偏差/平均値)を示す図である。
【図11】パワースペクトルの勾配と変動係数の関係を示す図である。
【図12】マザーウェーブレットを示す図である。
【図13】ウェーブレット係数(平均量)と平均強度(平均輝度値)の関係を示す図である。
【図14】ぬれ性とウェーブレット係数の関係を示す図である。
【図15】パワースペクトル密度と変動係数の関係を示す図である。
【図16】ウェーブレット係数と変動係数の関係を示す図である。
【図17】パワースペクトルの勾配と面積率の関係を示す図である。
【図18】ウェーブレット係数と面積率の関係を示す図である。
【図19】面積率と変動係数の関係を示す図である。
【図20】面積率と平均強度の関係を示す図である。
【図21】パワースペクトルの勾配と平均強度の関係を示す図である。
【図22】パワースペクトル密度と平均強度の関係を示す図である。
【図23】ウェーブレット係数と平均強度の関係を示す図である。
【図24】ぬれ性と面積率の関係を示す図である。
【図25】ウェーブレット係数と変動係数の関係を示す図である。
【図26】試料が傾いている場合の補正方法を示す図である。
【図27】試料が曲率を有する場合の補正方法を示す図である。
【図28】試料の角度とBin/Boutの関係を示す図である。
【図29】脱脂度の時系列判定を示す図である。
【図30】図29のシステムにおけるパワースペクトルの勾配と蛍光強度の時間変化を示す図である。
【図31】脱脂度の他の時系列判定を示す図である。
【図32】図31のシステムにおけるパワースペクトルの勾配と蛍光強度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0028】
<第1実施形態>
図1に、本実施形態における脱脂度判定装置の全体構成図を示す。KrFエキシマレーザ14から射出されたレーザ光(248nm、300mJ)は、ミラー16、アパーチャ18、ミラー20、シリカガラス22,26を介して試料30に照射される。シリカガラス22,26にはそれぞれビーム拡散器24,28が設けられ、それぞれビームを拡散して照射エネルギを調整する。例えば、シリカガラス22の反射率を10%として照射エネルギを30mJとし、シリガガラス26の反射率を同様に10%として照射エネルギを3mJとする。試料30に照射されるレーザ光のサイズは、例えば16mm×20mmである。エキシマレーザ14からのレーザ光照射は、コントローラ10からの制御指令によりパルス発生器12がエキシマレーザ14に駆動パルスを供給することで制御される。試料30からの蛍光は、CCDカメラ(イメージインテンシファイCCDカメラ)32で計測される。CCDカメラ32のUVレンズには光学カットフィルタが装着される。試料30はスライダに固定され、計測毎に22mm移動させ、上下7箇所、合計14箇所において蛍光が計測される。蛍光の計測波長は、270nmから380nmである。CCDカメラ32での計測結果は、コントローラ10に供給されて解析される。もちろん、CCDカメラ32の計測結果を、別途、コンピュータに供給し、コンピュータで解析してもよい。コントローラ10あるいはコンピュータは、CCDカメラ32の計測結果に基づいて、試料30の脱脂の度合いを判定する。
【0029】
試料30は、鋼材の試料であり、
(1)全面に防錆油を塗布したもの
(2)一部の領域に油を付与したもの
(3)油を塗布していない脱脂状態のもの
の3種類を用い、それぞれ水と試料30とのぬれ性の関係が面積率で
(1)0%
(2)50%
(3)100%
となるように設定している。
【0030】
図2に、3種類の試料30の計測結果を示す。計測結果は14箇所のすべての画像の平均値を表す。試料(1)と試料(2)を比較すると値の比が50倍となり、定量的に判断できることが分かる。
【0031】
図3に、ぬれ性50%(試料(2))と100%(試料(3))の結果を示す。ぬれ性の異なる試料から蛍光強度の比が1.6倍で、標準偏差が試料(2)は33.1、試料(3)は9.0になることが分かる。
【0032】
図4に、図3に示す標準偏差の違いを分布として示す。油の残量の多い場所を直感的に判断できることが分かる。
【0033】
図5に、試料(2)と試料(3)のヒストグラムを示す。基準との差を見ることができ、これも判定の材料の一つとなり得る。
【0034】
一般に、意図的に、かつ巧みな手段を用いて金属表面に油膜を塗布しない限り、金属表面での油膜・汚れのつき方は不均一なものであり、加工品表面に紫外線を当ててその表面から蛍光を発生させる場合、生成する蛍光はその強度分布に拡がり、偏りが現れる。標準偏差を用いることで、油膜・汚れの不均一さを定量値として示すことができ、脱脂度を区別できる。また、油の性状が変化しても輝度値のベースラインが上がるだけであるから同様に計測が可能である。
【0035】
<第2実施形態>
鋼材の試料を用い、(1)防錆油を塗布したもの、(2)アセトンで流水脱脂したもの、(3)アセトンで流水脱脂したのち研磨したものの3種類を用意し、油膜厚さ1μmから脱脂までを再現した。レーザの出力を300mJとし、試料に照射し、試料に当たるレーザのサイズを16×20mmとし、エネルギは3mJである。蛍光強度の測定にはUVレンズに光学カットフィルタを装着したCCDカメラ32によって行う。
【0036】
図6に、励起波長248nmのレーザを照射したときの試料の結果を示す。計測結果は検査領域内の画像の平均値を表す。図において、アは(1)防錆油を塗布したもの、イは(2)アセトンで流水脱脂したもの、ウは(3)アセトンで流水脱脂したのち研磨したものを表す。また、比較のため、エ、オ、カとして図2に示すぬれ性0%、50%、100%の場合をそれぞれ示す。アとイを比較すると、値の比が40倍となっている。すなわち、防錆油の塗布されたものとアセトンでの脱脂度の差は明確であることが分かる。また、イとオと差がみられるため、完全な脱脂状態ではないことも分かる。
【0037】
以上より、平均強度を用いることで脱脂度を評価することができる。
【0038】
<第3実施形態>
本実施形態における装置は、図1に示す構成に加え、さらに結果表示装置を含む。図1に示すコントローラ10あるいはコンピュータで脱脂度を判定した後、その結果を表示装置に表示する。コントローラ10あるいはコンピュータでの判定方法は、ヒストグラム分布、標準偏差、時空間差分、空間周波数解析(フーリエ解析やウェーブレット解析)等である。いずれかの判定アルゴリズムを適用することによって、脱脂後の極めて微量にかつ不均一な油膜の着く加工品表面の脱脂度を判定することができる。
【0039】
例えば、空間周波数解析により空間データから抽出されたパワースペクトルの勾配が利用でき、統計解析により空間データから抽出された平均値、標準偏差が利用できる。パワースペクトルの勾配については、汚れが自然由来に近づくほど1/fゆらぎに勾配が漸近することを利用している。このとき、空間データは画像データや時系列展開マップを利用することで客観的な判定結果を得ることができる。
【0040】
評価方法として、完全に脱脂されているかを確認するには面積率を用いると精度が高い。面積率は、試料30の全面積に対する汚れの存在しない部分の面積の比である。面積率を算出する場合、空間微分法に基づくエッジ検出および二値化画像解析により面積を特定することができる。なお、空間周波数解析を用いる場合、空間分解能は256×256ピクセル画像サイズもしくは256×256点以上の計測点を有するものが望ましい。ただし、空間微分解析を用いる場合は分解能による解析への影響はない。面積率を用いた判定方法については、さらに後述する。
【0041】
コントローラ10あるいはコンピュータは、脱脂度を定量的に判定するに際し、残留する量と油分分布毎に判定の基準に沿ってしきい値を固定して解析する。解析方法は、統計処理、画像空間周波数解析等からなり、計測する場所や面積の違いによりいずれかの処理方法で判定する。
【0042】
以下、空間周波数解析(フーリエ解析やウェーブレット解析)を用いた場合について説明する。
【0043】
油分が付着していると斑模様になるため、横軸を空間周波数(1/ピクセル)、縦軸をパワースペクトルとしてプロットすると、パワースペクトルは右下がり、つまり空間周波数が増大するほどパワースペクトルは小さくなる傾向を示すが、汚れがほとんどなく均一になっている場合には、パワースペクトルは水平に近くなる。そこで、パワースペクトルの勾配を最小二乗法により算出し、この勾配が判定基準より小さくなった場合、脱脂状態になったことを判定する。
【0044】
図7に、種々の試料をぬれ性とパワースペクトルの勾配でマッピングした場合を示す。ぬれ性としては、0%、20%、40%、60%、80%、100%、スーパー100(S100)%とした。ここで、スーパー100%とは、100%の脱脂状態よりもさらに脱脂の程度が進んだ状態を意味する。また、各ぬれ性において、試料の表面が水の存在しない乾燥した状態と水の存在するそれぞれの場合についてパワースペクトルの勾配を示している。なお、水の存在する状態は、具体的には洗浄直後であり、水の存在しない状態は、洗浄直後の状態から窒素スプレーにより乾燥させた状態である。図より、脱脂度が増大すると、パワースペクトルの勾配が減少して0に近づくことが分かる。したがって、基準となるしきい値を設け、パワースペクトルの勾配をしきい値と大小比較することで、脱脂度を定量評価することができる。
【0045】
図8に、種々の試料をぬれ性とパワースペクトル密度でマッピングした場合を示す。ここで、パワースペクトル密度とは、パワースペクトルの所定空間周波数までの積算値を意味する。所定空間周波数は、それ以上はノイズと考えられる周波数である。図に示すように、脱脂度が増大すると、パワースペクトル密度も低下する傾向を示す。したがって、基準となるしきい値を設け、パワースペクトル密度をしきい値と大小比較することで、脱脂度を定量評価することができる。
【0046】
<第4実施形態>
本実施形態では、水分の有無による影響を考慮した判定方法を示す。鋼材の試料を用い、製造ラインで用いられているアルカリ洗浄剤で脱脂後の状態を計測する。洗浄直後の水分を含む表面状態とその状態から窒素スプレーによって乾燥させた後の表面状態の両方を計測する。
【0047】
図9に、その結果を示す。ぬれ性は、40%、60%、80%、100%とし、輝度平均と標準偏差を示す。脱脂後の水分があるときと乾燥させたときの分布画像を比較すると、水分がある試料は蛍光強度が強くなる。したがって、単に輝度平均や標準偏差で比較することはできず、水分の有無の影響を排除するような指標を用いる必要があることを示す。そこで、本実施形態では、変動係数=標準偏差/平均値を用いて脱脂度を評価する。なお、ぬれ性毎に水分有無による分布を観察すると、水分の有無によって強度の違いはあるものの分布の模様は似ていることが判明している。
【0048】
図10に、ぬれ性と変動係数(=標準偏差/平均値)の関係を示す。図に示すように、変動係数、つまり標準偏差と平均値の比で評価すると、水の有無に関係なく同じような傾向を示すことが分かる。これにより、洗浄直後の脱脂状態で得られた画像の標準偏差を平均値で割った変動係数による評価を行えば、水分の有無に関係なく存在する油分を検出することができ、水分の有無の影響を排除して脱脂度を相対的に比較できる。
【0049】
図11に、横軸にパワースペクトルの勾配、縦軸に1/変動係数とした場合のマッピング結果を示す。ぬれ性は、20%、40%、60%、80%、100%、スーパー100%としている。また、図では、パワースペクトルの勾配と1/変動係数の大小に応じて4つの領域に分割している。すなわち、
(I)パワースペクトルの勾配が所定値以下であり、1/変動係数が所定値以下の領域
(II)パワースペクトルの勾配が所定値以下であり、1/変動係数が所定値を超える領域
(III)パワースペクトルの勾配が所定値を超え、1/変動係数が所定値以下の領域
(IV)パワースペクトルの勾配が所定値を超え、1/変動係数が所定値を超える場合
である。領域(I)は、分散汚れが生じている領域であり、領域(II)は清浄な領域であり、領域(III)は分布汚れが生じている領域であり、(IV)は薄膜汚れが生じている領域である。ここで、分散汚れとは、汚れがほぼ均一に存在している状態である。また、分布汚れとは通常の汚れであって種々のサイズの汚れが存在している状態である。薄膜汚れとは、汚れが薄く均一に存在しているような状態である。一般に防錆油を塗布し、有機溶剤やアルカリ性溶剤、もしくは酸性溶剤のような液体で流水脱脂するような場合、主に分布汚れとして油分が残存する。また、たとえパワースペクトルの勾配が所定値以下であっても、1/変動係数が所定値以下の場合には、分散汚れが生じている可能性がある。一方、ぬれ性100%及びスーパー100%については、領域(II)の清浄領域にマッピングされ、また、ぬれ性20%、40%、60%、80%はいずれも分布汚れにマッピングされる。
【0050】
したがって、パワースペクトルの勾配と変動係数をともに用いることで、脱脂度をより正確に評価することができる。コントローラ10あるいはコンピュータは、このマッピング結果に基づいて、被測定物の脱脂度が、「清浄」か否か、より特定的には、「清浄」、「薄膜汚れ」、「分散汚れ」、「分布汚れ」のいずれであるかを判定して表示装置にその旨表示することができる。なお、単に、「清浄」とそれ以外に分けて判定結果を表示してもよい。前者は「脱脂OK」、後者は「脱脂NG」として表示することもできる。
【0051】
<第5実施形態>
上記の実施形態では、パワースペクトルの勾配を用いて脱脂度を判定しているが、ウェーブレット係数を用いて脱脂度を判定することもできる。
【0052】
ウェーブレット解析では、マザーウェーブレットと呼ばれる有限長関数により信号を表現するものである。マザーウェーブレットをスケール(伸縮)、トランスレート(平行移動)することによって、解析する波形中のこれと相似な様々なスケールの波形を、空間軸情報を失うことなく抽出する。定義式は以下のとおりである。
【0053】
【数1】

上式におけるW(a、b)は、ウェーブレット係数であり、マザーウェーブレットΨ(t)との相似性の強さを示す。ウェーブレット係数Wは、自身の情報のほかに、スケール情報と空間情報の2つの情報を持っている。
【0054】
図12に、本実施形態で用いるマザーウェーブレットの一例(Morlet)を示す。また、図13に、各ぬれ性の試料に対してウェーブレット解析を行った場合の、ウェーブレット係数と平均輝度値のマッピング結果を示す。脱脂度が80%、100%、スーパー100%と増大するに従い、ウェーブレット係数は減少する。また、平均輝度値も相対的に減少する。また、図14に、各ぬれ性とウェーブレット係数との関係を示す。図では、ぬれ性60%を境にして、ウェーブレット係数が急峻に減少している。したがって、ウェーブレット係数を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0055】
<第6実施形態>
図15に、パワースペクトル密度と変動係数(=標準偏差/平均値)の関係を示す。図において、横軸はパワースペクトル密度であり、縦軸は1/変動係数である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%、80%は「残留」の領域にプロットされ、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、パワースペクトル密度が所定のしきい値よりも大きく、かつ1/変動係数が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、パワースペクトル密度がしきい値よりも小さく、1/変動係数がしきい値よりも大きい領域として定義される。図に示すように、「残留」領域と「清浄」領域は、2次元マップ上において対極の位置にあり、両領域は明確に区別され得る。したがって、パワースペクトル密度を所定のしきい値と大小比較するとともに、変動係数(あるいは1/変動係数)を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価できる。コントローラ10あるいはコンピュータは、図15の結果に基づいて、被測定物が「清浄」、あるいは「残留」のいずれであるかを判定してその結果を表示装置に表示できる。
【0056】
<第7実施形態>
図16に、ウェーブレット係数と変動係数(=標準偏差/平均値)の関係を示す。図において、横軸はウェーブレット係数であり、縦軸は1/変動係数である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットとすると、40%及び60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、ウェーブレット係数が所定のしきい値よりも大きく、かつ1/変動係数が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、ウェーブレット係数がしきい値よりも小さく、1/変動係数がしきい値よりも大きい領域として定義される。図に示すように、「残留」領域と「清浄」領域は、2次元マップ上において対極の位置にあり、両領域は明確に区別され得る。したがって、ウェーブレット係数を所定のしきい値と大小比較するとともに、変動係数(あるいは1/変動係数)を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0057】
<第8実施形態>
図17に、パワースペクトルの勾配と面積率の関係を示す。図において、横軸はパワースペクトルの勾配、縦軸は面積率である。面積率は、サンプルの全面積に対する汚れのない部分の面積の比率である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、パワースペクトルの勾配が所定のしきい値よりも大きく、かつ1/変動係数が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、パワースペクトルの勾配がしきい値よりも小さく、1/変動係数がしきい値よりも大きい領域として定義される。
【0058】
面積率が大きいほど、汚れていない部分が大きいから脱脂度も良好であると判定することは可能であるが、図17に示すような2次元マップを用い、面積率のみならず、パワースペクトルの勾配も考慮することで、より明確に脱脂度を判定することができる。
【0059】
<第9実施形態>
図18に、ウェーブレット係数と面積率の関係を示す。図において、横軸はウェーブレット係数であり、縦軸は面積率である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、ウェーブレット係数が所定のしきい値よりも大きく、かつ面積率が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、ウェーブレット係数がしきい値よりも小さく、面積率がしきい値よりも大きい領域として定義される。
【0060】
図より、ウェーブレット係数を所定のしきい値と大小比較するとともに、面積率を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0061】
<第10実施形態>
図19に、面積率と変動係数との関係を示す。図において、横軸は面積率、縦軸は1/変動係数である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、面積率が所定のしきい値よりも小さい、かつ1/変動係数が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、面積率がしきい値よりも小さく、1/変動係数がしきい値よりも大きい領域として定義される。
【0062】
図より、面積率を所定のしきい値と大小比較するとともに、変動係数を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0063】
<第11実施形態>
図20に、面積率と平均強度(平均輝度値)の関係を示す。図において、横軸は面積率、縦軸は平均強度である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、80%、100%、スーパー100%はいずれも「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、面積率が所定のしきい値よりも小さく、かつ平均強度が所定のしきい値よりも大きい領域として定義される。また、「清浄」領域は、面積率がしきい値よりも大きく、平均強度がしきい値よりも小さい領域として定義される。
【0064】
図より、面積率を所定のしきい値と大小比較するとともに、平均強度を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0065】
<第12実施形態>
図21に、パワースペクトルの勾配と平均強度の関係を示す。図において、横軸はパワースペクトルの勾配、縦軸は平均強度である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、パワースペクトルの勾配が所定のしきい値よりも大きく、かつ平均強度が所定のしきい値よりも大きい領域として定義される。また、「清浄」領域は、パワースペクトルの勾配がしきい値よりも小さく、平均強度がしきい値よりも小さい領域として定義される。
【0066】
図より、パワースペクトルの勾配を所定のしきい値と大小比較するとともに、平均強度を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0067】
<第13実施形態>
図22に、パワースペクトル密度と平均強度の関係を示す。図において、横軸はパワースペクトル密度、縦軸は平均強度である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、パワースペクトル密度が所定のしきい値よりも大きく、かつ平均強度が所定のしきい値よりも大きい領域として定義される。また、「清浄」領域は、パワースペクトル密度がしきい値よりも小さく、平均強度がしきい値よりも小さい領域として定義される。
【0068】
図より、パワースペクトル密度を所定のしきい値と大小比較するとともに、平均強度を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0069】
<第14実施形態>
図23に、ウェーブレット係数と平均強度の関係を示す。図において、横軸はウェーブレット係数、縦軸は平均強度である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、80%、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、ウェーブレット係数が所定のしきい値よりも大きく、かつ平均強度が所定のしきい値よりも大きい領域として定義される。また、「清浄」領域は、ウェーブレット係数がしきい値よりも小さく、平均強度がしきい値よりも小さい領域として定義される。
【0070】
図より、ウェーブレット係数を所定のしきい値と大小比較するとともに、平均強度を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0071】
<第15実施形態>
図24に、ぬれ性と面積率との関係を示す。図において、横軸はぬれ性、縦軸は面積率を示す。面積率は上記のようにサンプルの全面積に対する汚れのない部分の面積の比であるから、ぬれ性と面積率とはほぼ比例関係にある。したがって、面積率を所定のしきい値と大小比較することで、脱脂度を評価することができる。但し、図17、図18、図19、図20に示されるように、面積率と他の指標とを組み合わせた2次元マップで評価することで、より正確に脱脂度を評価できる。
【0072】
<第16実施形態>
図25に、ウェーブレット係数と変動係数の関係を示す。図において、横軸はウェーブレット係数であり、縦軸は1/変動係数である。ぬれ性40%、60%、80%、100%、スーパー100%のサンプルをプロットすると、40%、60%は「残留」の領域にプロットされ、100%、スーパー100%は「清浄」の領域にプロットされる。ここで、「残留」領域は、ウェーブレット係数が所定のしきい値よりも大きく、かつ1/変動係数が所定のしきい値よりも小さい領域として定義される。また、「清浄」領域は、ウェーブレット係数がしきい値よりも小さく、1/変動係数がしきい値よりも大きい領域として定義される。
【0073】
図より、ウェーブレット係数を所定のしきい値と大小比較するとともに、変動係数を所定のしきい値と大小比較することにより、脱脂度を正確に評価することができる。
【0074】
<第17実施形態>
本実施形態では、図1における試料30が角度を有する場合について説明する。試料30がCCDカメラ32に対して角度を有する場合、蛍光強度分布へ与える影響が無視できない。
【0075】
図26に、入射角度および撮影角度による角度をつけた平板面状の試料30の強度補正方法を示す。本補正法については仮定として、計測対象が脱脂状態のほとんどが油分とし、蛍光散乱光は入射角度に依存せず入射強度に依存するとしている。また、塗装前処理段階を想定して、加工による表面粗さは小さいので影響を受けないものとした。補正に用いる物性値は以下のとおりである。
I:蛍光強度
Ii:入射強度
In:単位面積当たりの蛍光強度
Fs:再吸収率
γ:蛍光率
k:蛍光拡散率
A’:入射側からの照射面積
A’’:投影面積
S:ビーム面積
θ:平板と入射光との角度 −π/2<θ<π/2
ω:平板と計測面との角度 −π/2<ω<π/2
【0076】
入射光のビーム幅に注目すると、角度θが大きくなるとビーム幅も大きくなるため、単位面積当たりの入射強度が低下する。これを考慮すると、入射角度による平板試料30の蛍光強度は、
【数2】

となり、ビームの高さが変化しないとすると平板試料30に当たる幅が変わることを考慮すると上式は、
【数3】

となる。この式は、入射角度θが分かれば平板試料30の蛍光強度が換算できることを意味し、さらに撮影面に対する単位面積当たりの蛍光強度は上式から、
【数4】

が導出される。この式より、入射ビームとCCDカメラ32光軸との計測角度は、α=θ+ωであるので、
【数5】

となる。計測データは、この式から感度係数をかけたものであるので、蛍光の物性値は消去できる。したがって、
【数6】

となる。このとき、計測データBinとし、換算された出力値をBoutとする。sは計測範囲内の入射光領域を表す。この式により計測データの換算ができる。
【0077】
次に、図1における試料30が曲率を有する場合について説明する。試料30がCCDカメラ32に対して曲率を有する場合も、蛍光強度分布へ与える影響が無視できない。
【0078】
図27に、入射角度および撮影角度による曲率のある面の強度補正方法を示す。起点Pから微小面積dA’の蛍光強度は数2の式より、
【数7】

となる。図27のような2次元に曲率を持つ面の起点Pから微小量の位置の蛍光強度は
【数8】

となる。2次元方向に曲率を持つ面の蛍光強度の積算値は、
【数9】

である。このとき積分定数Cは曲面の範囲によって決まる正の定数(0<θ<π/2のとき)となり、上式により曲率による蛍光強度の積算値は角度θが分かると求めることができる。また、数8の式より撮影面に対する単位面積当たりの蛍光強度は、
【数10】

となる。微小空間の光強度は数5の式と同じになり、換算式は数6の式と同様である。
【0079】
図28に、平板試料30における実験結果を示す。装置は光源のエキシマレーザ14とCCDカメラ32で構成され、70×150mmの鋼材の試料30を用いる。試料30全面に防錆油を均一に塗布し、KrFのエキシマレーザ(248nm)を55mJで照射する。ビーム面積は10×100mmである。レーザとCCDカメラ32の位置を固定(照射角度α)し、平板試料30を10度毎に回転させることで平板試料30の角度ωおよびその時の光強度を算出する。図28は、照射角度α=25deg.のときの結果である。図より、α=25deg(0.22rad)で照射したとき、本補正方法により平板試料30の角度が−30度<ω<50度の範囲のとき光強度の補正値の見積もりが誤差10%以下であることが分かる。
【0080】
なお、−90度<ω<−30度、50度<ω<90度では誤差が10%以上になる。その理由は、本補正方法は部材が無限遠に長いことを仮定しており、有限の試料では誤差が生じるためである。しかし、実用上の傾斜面や曲率をもつ対象面の角度は本補正方法で示す範囲より小さいので問題はなく、むしろ本補正方法を適用することにより曲面や傾斜面を多く持つ車体などを大まかに検索するだけで補正できる。
【0081】
本実施形態により、角度や曲率に対する蛍光強度の補正が可能となり、製品の3次元形状情報を参照するだけで強度分布の補正が可能となる。例えば、形状の計測には3次元測定装置の利用やCADデータなどを参照データベースとして用いる方法が挙げられる。ただし、用いる光源はレーザなど高強度で均一性の高いものが望まれる。これには拡散シート(例えばホモジナイザ)など強度を均一にする光学系を組むことで改善できる。
【0082】
<第18実施形態>
本実施形態の脱脂度判定は、製造ラインにおいて脱脂度を評価するために用いることができる。そして、製造ラインの工程において、脱脂度を時系列上で追跡することで、脱脂度の経時変化を知ることができる。
【0083】
図29に、車両組立の製造ラインに適用した場合の一例を示す。車体100は脱脂工程を経て次の組立工程に進んでいく。脱脂前の車体100を脱脂工程の位置まで進行させ、車体100を洗浄液に浸漬して車体100を脱脂し、その後に脱脂度検査工程の位置まで進行させる。脱脂度検査工程には本実施形態の脱脂度判定装置1が設けられており、車体の所定位置(複数位置でもよい)の脱脂度を計測する。脱脂度判定装置1は、計測開始からの経過時間とともに順次脱脂度を判定していく。脱脂度は、例えば蛍光強度とパワースペクトルの勾配をマッピングすることで判定する。そして、順次判定された結果を、蛍光強度−パワースペクトルの勾配−時間の3軸上にプロットして表示装置に表示する。
【0084】
図30に、3軸上に表現された脱脂度の一例を示す。このような3次元表示を用いることで、脱脂度が時間とともにどのように変化しているかを容易に把握することができ、例えばある時間を境にパワースペクトルの勾配が急減に増大した場合には、その時点で何らかの異常、例えば洗浄工程における異常や洗浄液の劣化等を迅速に把握することができる。
【0085】
もちろん、本実施形態の脱脂度判定装置を製造ラインの複数の位置に設置し、製造ラインの各工程において脱脂度を判定することも好適である。
【0086】
図31に、この場合の構成を示す。製造ラインに第1脱脂工程と第2脱脂工程が存在する。脱脂前の車体100は第1脱脂工程に進み、洗浄液に浸漬して洗浄される。その後、車体100は第2脱脂工程に進み、再び洗浄液に浸漬して洗浄される。本実施形態の脱脂度判定装置1は、第1脱脂工程前の位置と、第1脱脂工程後であって第2脱脂工程前の位置と、第2脱脂工程後の位置にそれぞれ設けられ、車体の所定位置の脱脂度を計測する。ある車体100に着目すると、第1脱脂工程前の位置に到達したタイミング(図中、時間t=1で示す)で脱脂度が判定され、次に、第1脱脂工程後の位置に到達したタイミング(図中、時間t=2で示す)で脱脂度が判定され、さらに第2脱脂工程後の位置に到達したタイミング(図中、t=3で示す)で脱脂度が判定されることになるから、脱脂度の経時変化が明らかとなる。この場合においても、蛍光強度−パワースペクトルの勾配−時間の3軸上にプロットして表示装置に表示することで、その時間変化を明確に把握することができる。
【0087】
図32に、3軸上に表現された脱脂度の一例を示す。このような表示を用いることで、製造ラインのどの時点において脱脂度が低下ないし劣化しているのかを容易に把握することができる。
【0088】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。すなわち、本発明は、試料(サンプル)からの蛍光の強度分布を解析して脱脂度を判定するものであるが、脱脂度を判定するための指標として、蛍光の強度分布の空間パターンを解析して得られる指標を用いており、空間パターンにはパワースペクトル、ウェーブレット係数のみならず、幾何学的パターンも含まれ得る。幾何学的パターンには、面積率の他に、特定の汚れに対する対象の等価直径や特定の汚れに対する特徴と同類の特徴との間の距離等もある。ここで、対象の等価直径とは、特定の汚れと同一面積の等価円における直径を意味する。また、同類の特徴との間の距離とは、ほぼ同一サイズの汚れ重心間距離を意味する。蛍光の強度分布の空間パターンを解析することで、脱脂度合いとして脱脂の均一性を評価することができる。例えば、空間パターンの解析としてパワースペクトルを例にとると、清浄状態に比べて小さな粒状の油が存在する場合にはパワースペクトルの高周波成分に変化が現れ、薄い汚れと小さな油の塊の場合にはパワースペクトルの中周波成分に変化が現れ、大きな油の塊の場合にはパワースペクトルの低周波成分に変化が現れる。また、空間パターンの解析として幾何学的特徴を例にとり、等価直径のヒストグラムを算出すると、清浄状態に比べて小さな粒状の油が存在する場合、薄い汚れと小さな油の塊が存在する場合、大きな油の塊が存在する場合でヒストグラムが変化する。
【0089】
また、本発明は、脱脂度を判定するための指標として、蛍光の強度分布の空間パターンを解析して得られる指標と、蛍光の強度分布を統計解析して得られる指標を用いており、上記の実施形態では、統計解析して得られる指標として平均強度、標準偏差、変動係数を用いているが、面積率を統計解析して得られる指標としてもよく、さらにはF検定やt検定を用いてもよい。面積率は、幾何学的量あるいは統計解析して得られる量のいずれとしてもよく、本発明において厳密な区別は意味がない。面積率を幾何学的量として把握する場合、図17におけるパワースペクトルの勾配と面積率の関係、あるいは図18におけるウェーブレット係数と面積率の関係は、空間パターンを解析して得られる2つの指標を用いて脱脂度を判定するということができるし、面積率を統計処理して得られる量として把握する場合、図17あるいは図18における関係は、空間パターンを解析して得られる指標と、統計解析して得られる指標の2つの指標を用いて脱脂度を判定するということができる。いずれの場合も、実質的には変わりない。
【0090】
以下に、本発明において脱脂度を判定するために用いることのできる指標の組み合わせをまとめて示す。一般的に、2つの指標を用いる場合には、それぞれの指標が互いに独立関係にあることが望ましい。すなわち、空間パターンを解析して得られる2つの指標、あるいは統計解析して得られる2つの指標を用いるよりも、空間パターンを解析して得られる指標と、統計解析して得られる指標の組み合わせの方がより好適であろう。どの組み合わせを用いるかは、既述したように、計測する場所や面積の違いによって適応的に決定することが好適であろう。もちろん、複数の組み合わせを併用して総合的に評価することも可能である。
(1)パワースペクトルの勾配と変動係数(=標準偏差/平均値)
(2)パワースペクトル密度と変動係数
(3)ウェーブレット係数と変動係数
(4)パワースペクトルの勾配と面積率
(5)ウェーブレット係数と面積率
(6)パワースペクトルの勾配とF検定(t検定)
(7)パワースペクトル密度とF検定(t検定)
(8)等価直径と変動係数
(9)距離と変動係数
(10)スペクトルピーク値と変動係数
(11)面積率と変動係数
(12)平均強度と面積
(13)平均強度と直径
(14)平均強度と距離
(15)平均強度とパワースペクトルの勾配
(16)平均強度とパワースペクトル密度
(17)平均強度とウェーブレット係数
【符号の説明】
【0091】
10 コントローラ、12 パルス発生器、14 エキシマレーザ、30 試料、32 CCDカメラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂度判定装置であって、
被測定物表面に光を照射する光源と、
前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出する検出手段と、
前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定する演算手段と、
を有することを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記指標は、パワースペクトルの勾配であることを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記指標は、パワースペクトル密度であることを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記指標は、ウェーブレット係数であることを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記指標は、パワースペクトルのピーク値であることを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項6】
脱脂度判定装置であって、
被測定物表面に光を照射する光源と、
前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出する検出手段と、
前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる第1の指標と、前記蛍光の強度分布を統計解析して得られる第2の指標の少なくとも2つの指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定する演算手段と、
を有することを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルの勾配、パワースペクトル密度、パワースペクトルのピーク値、ウェーブレット係数のいずれかであり、
前記第2の指標は、平均強度、標準偏差、平均強度と標準偏差の比率である変動係数、F検定、t検定、面積率のいずれかである
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルの勾配であり、
前記第2の指標は、変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項9】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトル密度であり、
前記第2の指標は、変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項10】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、ウェーブレット係数であり、
前記第2の指標は、変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項11】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルの勾配であり、
前記第2の指標は、面積率である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項12】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、ウェーブレット係数であり、
前記第2の指標は、面積率である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項13】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルの勾配であり、
前記第2の指標は、F検定もしくはt検定である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項14】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトル密度であり、
前記第2の指標は、F検定もしくはt検定である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項15】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、ウェーブレット係数であり、
前記第2の指標は、F検定もしくはt検定である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項16】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルのピーク値であり、
前記第2の指標は、変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項17】
請求項6記載の装置において、
前記第1の指標は、前記蛍光の強度分布の幾何学的量である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項18】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、特定の汚れに対する対象の等価直径であり、
前記第2の指標は、平均強度と標準偏差の比率である変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項19】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、特定の汚れに対する特徴と同類の特徴との間の距離であり、
前記第2の指標は、平均強度と標準偏差の比率である変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項20】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、面積率であり、
前記第2の指標は、平均強度と標準偏差の比率である変動係数である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項21】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、汚れの面積であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項22】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、特定の汚れに対する対象の等価直径であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項23】
請求項17記載の装置において、
前記第1の指標は、特定の汚れに対する特徴と同類の特徴との間の距離であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項24】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトルの勾配であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項25】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、パワースペクトル密度であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項26】
請求項7記載の装置において、
前記第1の指標は、ウェーブレット係数であり、
前記第2の指標は、平均強度である
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載の装置において、さらに、
前記光源と前記被測定物表面とのなす角度あるいは前記被測定物表面の曲率に応じて、前記蛍光の強度分布を基準の角度あるいは曲率における強度分布に補正する補正手段
を有することを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載の装置において、さらに、
前記演算手段の判定結果を表示する表示手段
を有することを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれかに記載の装置において、
前記演算手段は、前記被測定物の洗浄工程に従い時系列に判定する
ことを特徴とする脱脂度判定装置。
【請求項30】
脱脂度判定方法であって、
被測定物表面に光を照射するステップと、
前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出するステップと、
前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定するステップと、
を有することを特徴とする脱脂度判定方法。
【請求項31】
脱脂度判定方法であって、
被測定物表面に光を照射するステップと、
前記光に基づく前記被測定物表面からの蛍光を検出するステップと、
前記蛍光の強度分布を空間パターンの解析で得られる第1の指標と、前記蛍光の強度分布を統計解析して得られる第2の指標の少なくとも2つの指標を用いて、前記被測定物表面の脱脂の度合いを判定するステップと、
を有することを特徴とする脱脂度判定方法。

【図1】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図24】
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【図28】
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【図29】
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【図31】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図30】
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【図32】
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【公開番号】特開2011−107029(P2011−107029A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263978(P2009−263978)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】