説明

腫瘍増殖を阻害する方法および薬剤

本願は、腫瘍幹細胞(TSC)複製が複製中間体構造を伴い、TSCゲノムの実質的な部分は、釣鐘形核が2つの核への分離を開始する場合に単鎖DNA(ssDNA)として存在するという観察に基づくものである。複製中間体構造中に、多量のssDNAが細胞の核に存在し、これは本発明者らが抗腫瘍治療の標的として提案するものである。ssDNAを標的とする抗腫瘍剤のスクリーニング方法および治療におけるかかる薬剤の使用が特許請求される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2007年6月13日に出願された米国仮特許出願第60/934,420号の利益を主張する。上記出願の全教示は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
科学者らは、腫瘍細胞および病理組織構築物(例えばテラトカルシノーマ)が初期胚の細胞および組織に類似していることを認識している。正常であるが未分化の胚性幹細胞は、細胞数の急速な増加および器官原基への分化および続く器官形成を論理的に含む必要がある未定義のプロセスによって器官を生じることができた。悪性腫瘍は、初期胎児と類似した速度で増殖し、正常組織の組織学的外見と共に組織学的に未分化または組織化したニッチを含む。
【0003】
腫瘍および胎児組織は、一般的に多くの分子およびプロセスを共有するように思われる。例えば、細胞表面での複合抗原性グリコサミノグリカン、「胚性癌抗原」は、細胞接着分子のように、胎児組織および腫瘍の両方で発現する。個体発生と同様に腫瘍発生は、拡大する一組の幹細胞を通じた直系先祖によって進行するように思われる。ヒト腫瘍由来の少数部分の細胞だけが、単独または他の細胞と共に、免疫抑制げっ歯類の異種移植片のように新規腫瘍を形成する能力を有する。限界希釈異種移植片実験によって、本来の腫瘍細胞中の1つ以上の細胞が、さらなる幹細胞を含む新規腫瘍を生じることができ、かつ元の腫瘍に存在する表現型が混在した集団の細胞を再生することができる点で、幹細胞様性質を示すと示された。
【0004】
腫瘍のモノクローナル性の概念が1900年代初期に確立された。最近では、後期発生癌のほぼ全ての形態が長期間の前新生物を通過すること、およびこれらの前新生物コロニーがモノクローナルであり、生殖DNAの1つより多くのまれな細胞変異から生じることが決定された。21世紀初めまでに、移植/希釈実験について「幹」細胞を含む腫瘍細胞集団を豊富にする直接の試みによって、組織幹細胞が前新生物の起源である可能性があるだけでなく、腫瘍自身が「幹」細胞を含むことも示された。実際に、腫瘍が合理的に十分に組織化されたヘテロ胎児性構造であるという仮説の再主張が現在提案されている。「胚性癌」幹細胞は、数で増加することが予想され、腫瘍塊内の非常にヘテロなニッチを集団とする分化細胞型を生じる。
【0005】
幹細胞分野全体で使用されている様々な抗原性マーカーは、高い程度で、組織または腫瘍を表面上再生できる細胞を豊富にするために使用されている。しかし、これらの豊富にした集団内の細胞は、幹細胞として印付ける任意の顕微鏡の形態学的細胞性質を示さない。腫瘍が単一の幹細胞から生じることが真実である場合、これらを同定する手段、ならびに分子および生化学分析物の分析に十分な均一の集団の幹細胞としてこれらを回収する手段が必要とされる。新生物および前新生物の幹細胞の増殖の選択的な阻害または該幹細胞の殺傷に関する新規治療剤の開発のための腫瘍細胞標的の同定が主に重要である。
【発明の概要】
【0006】
(発明の概要)
幹細胞集団内の変異は、癌幹細胞を生じるために必要とされる。19世紀の病理学的観察に由来する現代の「腫瘍幹細胞」仮説は、腫瘍が正常幹細胞および胎児組織の両方と類似した性質を有する特有のサブセットの細胞を含むことを前提としている。これらの細胞は、非対称および非有糸分裂性回転の細胞分裂によって広範に増殖する。この集団の細胞は、おそらくは自己再生し、ほとんどの腫瘍の増殖および維持に重要である。従って、腫瘍幹細胞分裂の阻害は、現在のアプローチよりも改善された有効性を約束する新規治療介入を表すと広く考えられる。
【0007】
本発明は、ヒト胎児/若年性増殖の期間が幹細胞系統の高い割合の変異と関連があること、およびこの系統が以前に検出されていない様式のDNA分離および複製を行うことを示す観察に基づくものである。米国出願番号第2006/0063144号およびPCT/US06/047136に以前に記載された教示は参照によって本明細書に援用され、腫瘍および胎児幹細胞が釣鐘形核と呼ばれる特有の核形態を特徴とする。(釣鐘形核は合胞体にも見られ、本明細書に記載される本発明の方法は、また、合胞体および細胞に存在する釣鐘形核を含むことが理解される)。釣鐘形核を含む腫瘍および胎児幹細胞は、本明細書で異型核(metakaryote)と呼ばれる。本発明は、腫瘍および胎児幹細胞の釣鐘形が特有の形態の複製を起こすという本明細書に記載される最も重要な観察に基づいている。このゲノム複製の特有の形態は、核構造立体配置を有する複製中間体を伴い、釣鐘形核は(「カップからカップへの」分離として)分離し、分離中に、大部分のゲノムは、最初に単鎖DNA(ssDNA)に分離し、その後、ゲノム複製が起こる。この観察は、DNA合成が短い間隔のDNAの反復コピーによって進み、続いて染色分体凝集が起こり、二本鎖DNA(dsDNA)形態における有糸分裂で分離する場合のヒト細胞分裂の以前の観察とは対照的である。
【0008】
さらに、特有の形態のゲノム複製中に、実質的な量のssDNAが釣鐘形核内に含まれるssDNAとは別に観察することができ、さらにこのssDNAが腫瘍幹細胞複製に特有の複製中間体構造(replicative intermediate configuration)と関連し、該構造を示すという観察は等しく重要である。重要なことに、釣鐘形核分裂中に、腫瘍および胎児幹細胞および合胞体が中間体構造にあり、ゲノムは、有意なおよび利用可能な期間中、釣鐘形核の内部または外部のいずれかで実質的に単鎖DNA(ssDNA)であるというこれらの重要な観察によって、複製中間体構造中のssDNAを含む釣鐘形核の検出またはssDNAのみの検出によって抗癌剤および治療剤の有効性をアッセイする方法の基礎を形成することができる。さらに、腫瘍および胎児幹細胞および合胞体に特有なゲノム複製の動物(および植物)モデルによって、この幹細胞複製中間体構造の阻害また破壊を標的とすることによる新規癌治療剤の知的設計の基礎を形成することができる。
【0009】
例えば、破壊または分解の標的とすることができ、腫瘍幹細胞の増殖の阻害または死滅を生じる釣鐘形核内の多量のssDNAが、この特有の腫瘍幹細胞複製中間体構造に存在する。あるいは、釣鐘形核内ではなく腫瘍幹細胞に含まれるssDNAが、破壊または分解の標的とすることもでき、腫瘍細胞の増殖の阻害または死滅を生じる。(本明細書で使用される場合、用語「腫瘍幹細胞」および「異型核」は互換的に使用され、腫瘍幹細胞および胎児幹細胞の両方を含むことを意図する)。本明細書で使用される場合、用語「複製中間体」または「複製中間体構造」がssDNAと共に使用される場合はいつでも、釣鐘形核内に含まれるssDNAだけでなく、釣鐘形核内に含まれない腫瘍幹細胞内のssDNAも含むことが意図される。従って、例えば、ssDNAを標的とすることができる薬剤が本明細書に記載される場合、標的とされたssDNAが釣鐘形核または釣鐘形核の境界の外部だけに含まれ得ることを意味する。
【0010】
また、他の巨大分子がこの複製中間体構造に存在すると考えることは合理的である(例えば、この複製プロセスに必要な巨大分子は、本明細書で「腫瘍幹細胞特異的分子」と称され、この用語は、また、必ずしも具体的に記載しないが、「胎児幹細胞特異的分子」および「合胞体特異的分子」を含む)。腫瘍幹細胞特異的分子は、周辺の細胞ではなく、腫瘍幹細胞、好ましくは核に存在する分子(例えば、本明細書で異型核細胞に特有な細胞分子と称される)である。これらの腫瘍幹細胞特異的分子(例えば、構造タンパク質、ヌクレアーゼ等)は、また、新規抗癌治療剤の標的として機能することができる。
【0011】
従って、本発明は、近接した環境の正常または維持幹細胞の最小限の傷害の有り無しで、腫瘍幹細胞の成長/増殖の特異的な阻害または完全な破壊のための薬剤および治療剤の同定方法、ならびに該薬剤の治療利用に関する。本明細書に記載される場合、腫瘍幹細胞は、特有の釣鐘形の形態特徴を有する核を含み、核分裂中に、ゲノムは、有意なおよび利用可能な期間中、実質的に単鎖DNA(ssDNA)である。かかる特有の腫瘍幹細胞は、本明細書で異型核と称され、特定の期間で単鎖DNAを含む釣鐘形核を特徴的に含む。薬剤、例えば、異型核細胞のssDNAを標的とするまたは修飾する化学薬剤または酵素薬剤(例えば、アルキル化剤、単鎖特異的ヌクレアーゼ、毒性コンジュゲート)を使用することによって、腫瘍幹細胞の核物質は、修飾ssDNAが二本鎖DNA(ssDNA)に戻るさらなる複製を起こすことができないように、破壊の標的とされる。
【0012】
また、本発明は、腫瘍幹細胞分裂の複製中間体構造に特有な腫瘍幹細胞の標的またはマーカーの同定方法に関する。かかる標的は、例えば、複製を起こす釣鐘形核を含む腫瘍幹細胞を単離し、細胞を培養し、標準技術を用いて培養腫瘍幹細胞を回収し、当業者に周知な技術も用いて複製中間体に特有なmRNA、転写物またはタンパク質を同定することによって同定することができる。異型核の単離は、ssDNAを含む釣鐘形核または核の外部のssDNAの存在に基づくことができる。本明細書に記載される複製中間体に特有な分子の同定をもたらす異型核の単離および研究が、抗腫瘍治療剤に有用な新規標的の同定をもたらすと考えることは合理的である。
【0013】
一態様において、本発明は、特有の釣鐘形核の複製中間体構造と相互作用する薬剤をインビトロおよびインビボで同定するための方法を記載する。かかる薬剤は、例えば、結合、修飾、不安定化、分解によって腫瘍または腫瘍幹細胞増殖を阻害または改変することができ、あるいはそうでない場合はssDNAまたは腫瘍幹細胞の複製中間体構造中の他の腫瘍幹細胞特異的分子を改変して、腫瘍幹細胞複製を阻害するおよび/または腫瘍増殖を遅くすることができる。特に、腫瘍試料(例えば、固形腫瘍からの組織生検試料)は、被験体、具体的に固形腫瘍から得られる。腫瘍試料は、適切な生理学的条件(例えば、釣鐘形核の複製中間体構造を保つ条件)下で候補薬剤と接触させることができ、腫瘍/腫瘍試料、特に腫瘍幹細胞中の釣鐘形核の存在が、接触/処理の前および後に比較される。腫瘍増殖を阻害する薬剤は、候補薬剤で処理した後の試料中のssDNAを含む釣鐘形核の数またはssDNAのみの量と、処理前の試料中のssDNAを含む釣鐘形核の数またはssDNAのみの量およびモック処理対照試料中のssDNAを含む釣鐘形核の数またはssDNAのみの量とを比較することによって決定される。釣鐘形核内のssDNAおよび釣鐘形核外部のssDNAの量は、例えば、アクリジンオレンジ染色によって定量的に測定することができ、または定量的な量は標準技術を用いて測定することができる。処理腫瘍または腫瘍幹細胞中のssDNAを含む釣鐘形核の数の減少またはssDNAを含む釣鐘形核の非存在(またはssDNAのみの量の減少もしくは非存在)は、目的の薬剤がssDNAを標的とすることおよび腫瘍幹細胞の増殖を阻害することまたは腫瘍幹細胞を殺傷することに有効であることを示す。また、釣鐘形核の複製中間体の存在または非存在をアッセイすることができる。
【0014】
別の態様において、ヘテロ動物モデル(heterogeneous animal model)は、癌異種移植片を動物に注入することによって作製される。インビボアッセイ法の使用に適切な動物は、当業者に公知であり、評価される特定の種類の腫瘍に特異的であってもよい。例えば、マウスおよびラットなどのげっ歯類は典型的に固形腫瘍解析に使用される。該方法は、動物へ異種移植片を移植する工程、異種移植片を固形腫瘍内で成熟させる工程、候補薬剤/治療剤を用いて試験動物を処理する(および腫瘍と接触させる)工程、腫瘍を切除する工程ならびに対照動物(例えば、候補薬剤で処理されていない動物)と比べたssDNAを含む釣鐘形核の複製中間体またはssDNAのみの存在または非存在について腫瘍組織を解析する工程を含む。米国特許出願第2006/0063144号に開示される手順は、釣鐘形核構造を同定するために使用することができる。さらに、PCT/US06/047136に開示される手順に従って、釣鐘形核内部または外部のssDNAを同定することができる。例えば、試験動物は、(細胞に存在する二本鎖DNAよりも優先的に)ssDNAと結合し、ssDNAを修飾し、ssDNAを改変しまたはssDNAを分解することが公知の薬剤、例えばアルキル化剤、ssDNAヌクレアーゼ、他の酵素またはタンパク質で処理することができる。対照に対する増殖腫瘍の縮小または異種移植動物の生存パターンに基づいて薬剤の活性を調べる古典的な腫瘍モデルと異なり、この戦略には、ssDNA染色異型核細胞またはssDNAの存在もしくは非存在もしくは減少について増殖する異種移植片の評価が含まれる。
【0015】
例えば、目的の薬剤(または本明細書で候補薬剤と称される)は、対照群に対してアクリジンオレンジ染色異型核の数を有意に減少する薬剤である。(アクリジンオレンジは単鎖DNAを染色し、赤蛍光を放出するが、適切な条件下で二本鎖DNAは緑蛍光を放出する)。別の態様において、DNAの再アニーリングを阻止する薬剤は、ssDNAを破壊または分解する薬剤と別々にまたは共に使用される。本発明のアッセイモデルは、異型核プロセスを標的とし、腫瘍塊ではなく、急速に分裂する有糸分裂腫瘍細胞を標的とする標準薬剤で処理されていない残存する表面腫瘍の処理のための薬剤を同定する。
【0016】
さらなる態様において、方法は、周辺の細胞(例えば、維持幹細胞)の増殖を実質的に阻止または阻害することがない腫瘍幹細胞の治療選択阻害に関する。例えば、標的とされた幹細胞は核分裂を起こすが、該方法は、細胞の核に入ることができる薬剤と細胞とを接触させる工程、および標的細胞の釣鐘形核のさらなる核分裂の阻止を生じるssDNAの修飾または改変によって釣鐘形核の複製中間体構造を修飾または改変する工程および/または細胞の破壊工程を含む。また、腫瘍幹細胞特異的分子は、細胞内を標的とすることができ、腫瘍幹細胞特異的分子の機能または活性のターゲティングおよび破壊が、腫瘍細胞増殖を阻止または阻害する。特定の態様において、薬剤は、化学薬剤、放射性薬剤、酵素または放射線治療であり、釣鐘形核の複製中間体が標的とされる。
【0017】
本明細書に提示されるデータに基づいて、癌発生は、特定の胎児/若年性幹細胞が変異したために、これらが成体期を通じて若年性幹細胞として増殖し続け、急速(胎児速度)に増殖し命を奪う新生物幹細胞を作り出すような、さらなる1つまたは複数の変化を獲得する連続プロセスであるようであると考えることは合理的である。ヒト胎児、前新生物病変および新生物病変の釣鐘形核中の特有で顕著な複製中間体を認識する場合、以前に認識されていない形態の幹細胞DNA複製および分離中のssDNA、または特有の複製プロセスにも必要とされる幹細胞特異的分子が、ヒト新生物および前新生物の幹細胞を殺傷するまたは該幹細胞の増殖を遅くする治療目的のための新規で重要な標的を構成することが教示される。
【0018】
特許または出願書類は、カラーで印刷された少なくとも1つの図面を含む。(1つまたは複数の)カラー図面を有する本特許または特許出願公開のコピーは、請求および必要な費用の支払いで庁が提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
(図面の簡単な説明)
【図1】図1は、重要な画像の概要である。A)ヒト胎児腸、正常結腸粘膜、腺腫および腺癌における間期および初期前期(E.P)で観察される核形態の例。B)胎児腸の釣鐘形核の高解像度画像(x1400)。凝縮したDNAは、中空釣鐘構造に開口を維持する輪を作るように思われる。スケールバー、5μm。
【図2】図2AおよびBは、5〜7週の胚性腸の画像である。図2A:位相差画像(左フレーム)および染色核画像(中央)および合成画像(右)は、約50ミクロン直径の管状構造合胞体内の核の線状配置を示す。図2B:高解像度の核は、中空釣鐘形構造を示す。釣鐘の「頭からつま先」配置は、観察された全ての胚性管状構造で保存されるが、管状構造は、平行した管状構造が局所的に逆平行の釣鐘形核配置を有する場合があるように、前後に蛇行している。スケールバー、低倍率で50μmおよび高倍率で5μm。
【図3】図3A〜Dは、胎児腸における釣鐘形核の核分裂の画像を示す。図3AおよびB:対称核分裂。釣鐘形核は同様の形状の釣鐘形核から生じる。図3CおよびD:非対称核分裂。球形核および「葉巻」形核は釣鐘形核から生じる。スケールバー、5μm。
【図4】図4A〜Cは、正常成体結腸陰窩の画像を示す。図4A:陰窩の基部に位置する認識可能な釣鐘形核(矢印)を時折(<1/100)含む約2000個の長球形、球形または楕円形核の陰窩。図4B:別の釣鐘形核を示す陰窩基部。図4C:十分に伸展した陰窩における壁および管腔表面の間期および有糸分裂核の形態。拡大画像は:(i)球形および楕円形間期核、(ii、iii)球形核および楕円形核の初期前期、ならびに(iv)後終期核を示す。スケールバー、低倍率で100μmおよび高拡大画像で5μm。
【図5】図5A〜Eは、腺腫の画像を示す。図5A:腺腫の特徴的で大きな分岐陰窩。図5B:腺腫中に見られる不規則陰窩様構造。典型的に、2つであるが時々1、4または8個もの釣鐘形核(挿入)がこれらの大きな(>4000細胞)の不規則な陰窩様構造の基部に見られる。図5C:1つの釣鐘形核を含む同様の核形態の細胞のクラスター。これらの形態のクラスターは、正確に16、32、64、および128個の全細胞を含む。左パネル、フォイルゲンギムザ染色。右パネル、位相差自家蛍光画像。図5D:釣鐘形核が腺腫で見られる状況(i)31個の楕円核および1つの釣鐘形核を有するクラスター、(ii)肩から肩配置の多数の釣鐘形核、(iii)平行パターンに配置される釣鐘形核(矢印)(iii)。いくつかの釣鐘形核を有する約250個の核の不規則混合物が初期陰窩基部を示す。図5E:1つの釣鐘形核(矢印)を基部に有する5つの異なる核形態の細胞の明らかなクローナルパッチを含む不規則陰窩様構造。スケールバー、100μm(「a、b」)および5μm(「e」)。
【図6】図6A〜Eは、腺癌の画像を示す。図6A:頻度が高い分岐点を有する分岐を有する非常に大きな陰窩様構造(>8000細胞)。矢印は、腫瘍の表面近くに主に見られる約250個の細胞の陰窩様構造の例を示す。図6B:複数の釣鐘形核(全ての核形態のうち約3%)を有する複数の内部腫瘍塊。図6C:頭からつま先の合胞体および非合胞体が並んだ配置を向いた図6Bにおける釣鐘形核。図6D:腺癌における対称核分裂。図6E:腺癌で葉巻形核を作り出す釣鐘の非対称核分裂。同様の構造は、肝臓への結腸転移で観察された。スケールバー、5μm。
【図7】図7A〜Dは、ヒト組織および細胞の研究における定量的画像サイトメトリーの段階の図である。図7A:固定のために準備された外科廃棄新鮮結腸。図7B:ポリープからの1mm切片の伸展の結果を示す顕微鏡スライド調製物(ポリープの位置に、「上から下」に輪郭を描く)。図7C:陰窩全体に観察できる細胞核伸展(マゼンダ色)。陰窩核の全ては、上記に示す5μ切片(BrdU染色およびH&M染色)と比べて、保存されている。図7D:電動式Axioscop顕微鏡-AxioCamカラーCCDカメラ-KS 400ソフトウエア画像解析ワークステーション。
【図8】図8AおよびBは、腫瘍における非分裂および分裂釣鐘形核を調べるために、FISHを適用した「目的の標的」の図である。図8A:クロマチン(μm2あたりの高いDNA含有量のために黒く染色される)は、2つの平行円として配置される前期染色体に似た特有の構造を作り出す。図に描かれたこれらの円は、特定の染色体がこの釣鐘形核の特定の部位で見られる場合があるという予測を示す。図8B:釣鐘形核の非対称分裂全体を生じる想像上の変化(ここでは「釣鐘から楕円」形核)のようにクロマチン分布および特定の染色体の位置が変化する。
【図9】図9A〜Dは、TK-6ヒト細胞の球形核中の第11染色体の蛍光インサイチュハイブリダイゼーションの結果を示す画像である。図9A:前期染色体伸展物中の2組の染色体。図9B:球形核DAPI核染色。図9C:FITC蛍光プローブを用いてハイブリダイズした同じ染色体組。図9D:DAPIおよびFITC間期染色体染色の合成画像。バースケール、5ミクロン。
【図10】図10は、合胞体に配置された釣鐘形核の対称核分裂の画像を示す。
【図11】図11は、核分裂を生じる釣鐘形核中のDNA局在を示す画像を示す。
【図12】図12は、釣鐘形核の核分裂中の核物質の配置および組成(ssDNAまたはdsDNA)を示す。
【図13】図13A〜Dは、以前に認識されていない一連の核形態を示すヒト胎児性調製物からの画像を示す。これらの形態は、最初の釣鐘形核を生じる。図13Aは、球形核または少し楕円形核の長軸の周りの「帯」のように、全DNA含量の約10%の凝縮を有する核を示す。図13Bは、2つの凝縮した核「帯」が分離しているように思われるがそれでも1つの核の一部である核を示す。図13Cは、図13Bの2つの帯状核の分裂によって生じたように思われる一組の核を示す。図13Dは、各合胞体が一組の釣鐘を含み、一組の釣鐘は図13Cのように線の中点で口状構造を有することを示す。これらの画像は、一連の対称分裂によって、中央の組から押し出される核が作り出されることを示す。
【図14】図14AおよびBは、結腸腺腫(図14A)および腺癌(図14B)の核形態を示す。癌発生の形態型は、楕円形核の長軸の周りの1つまたは2つの類似した帯を示す。
【図15】図15A〜Cは、ヒト動原体に特異的なFISH染色を示す。図15は、ヒト12週胎児結腸の組織からの球形核(図15A)、「葉巻形核」(図15B)および釣鐘形核(図15C)における動原体(明)を示す。
【図16】図16は、およそ妊娠12週のヒト胎児心筋中の釣鐘形核から生じる多核合胞体を示す。特定の方法は、酵素組織分離後のアクリジンオレンジ染色および蛍光顕微鏡使用を伴う。
【図17】図17は、分裂する釣鐘形核のDNA合成の進行を示す。DNA含有量の増大は、画像の上に示され、下にグラフで表にした。画像は、高解像度(ピクセルあたり1000bp)フォイルゲンDNA画像サイトメトリーによって取得された。
【図18】図18A〜Bは、ssDNA中間体を利用する釣鐘形核の複製中間体構造を示す。図18Aは、釣鐘形核の対称分裂を示し、DNA含有量の対応する増大を示す。図18Bは、釣鐘形核のアクリジンオレンジ染色を示す。アクリジンオレンジ染色の赤色蛍光はssDNA中間体の存在を示す。隣接細胞中の二本鎖DNAが、アクリジンオレンジ染色の緑色蛍光によって示される。
【図19】図19は、腫瘍幹細胞の位置を決定し、均一な試料を作製し、知的治療設計のための腫瘍幹細胞に特異的な標的巨大分子を同定する方法のフロー図式を示す。
【図20】図20A〜Fは、アクリジンオレンジおよびssDNA抗体によって染色された釣鐘形核のssDNA中間体パターンを並べた比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、腫瘍幹細胞、例えば分裂し腫瘍をもたらす細胞が釣鐘形核を特徴とし、特有の形態の複製を起こすという発見に関するものである。釣鐘形核は、腫瘍組織を除いて、成体組織でごくまれに見られ、または非常に減少した数で見られ、ゲノムは単鎖DNA(ssDNA)として表わされる期間を経る。釣鐘形核は、結腸および膵臓ヒト腫瘍中の非有糸分裂プロセスによって対称および非対称の両方で分裂する(Gostjevaら、Cancer Genetics and Cytogenetics, 164:16-24 (2006); Gostjevaら、Stem Cell Reviews, 1 : 243-252 (2005))。これらの釣鐘形核は、釣鐘形核が管状構造の合胞体に包まれ、核全体の30%を含む5〜7週の胚性後腸および「未分化」ニッチが豊富な腫瘍組織の両方に多数で存在する。これらは、いくつかの幹細胞様性質、特に「標語」(shibboleth)の非対称分裂およびヒト結腸前新生物および新生物組織の増殖速度と一致した核分裂頻度を有する(Herrero-Jimenez, P.,ら、Mutat.Res., 400:553-78 (1998), Herrero-Jiminez, P., ら、Mut. Res. 447:73-116 (2000); Gostjevaら、Cancer Genetics and Cytogenetics, 164:16-24 (2006); Gostjevaら、Stem Cell Reviews, 1 : 243-252 (2005))。これらの以前に認識されていない核形態は、腫瘍生成および分化の両方の供給源であり、従って癌治療戦略の標的である。これら釣鐘形核はゲノムがssDNAとして実質的に表わされる段階を経るという観察によって、ターゲティングおよび破壊が可能になる。
【0021】
抗腫瘍剤の同定方法
本明細書に記載される予期しない観察は、腫瘍幹細胞複製が、複製中間体構造を伴い、釣鐘形核が2つの核に分裂し始めること、および核分裂中に腫瘍幹細胞の実質的な部分が最初にssDNAに分離することである。この複製中間体構造中に、日常業務の方法を用いて検出できる多量のssDNAが、核および細胞に存在する。この観察は、釣鐘形核の増殖の阻害/阻止で薬剤の有効性を評価し、本明細書に記載される有効な抗腫瘍剤のスクリーニングおよび同定方法の基礎を元にしている。さらに、腫瘍幹細胞特異的分子は、この複製中間体構造の細胞に存在することもでき、アッセイ法の基礎として機能することもできる。本明細書に記載される方法および米国特許出願第2006/0063144号およびPCT/US06/047136を用いて、(各教示は、その全体が参照によって本明細書に援用される)候補抗腫瘍剤への接触もしくは処理の前および後の両方で、固形腫瘍塊中のssDNAを含む釣鐘形核またはssDNAのみを視覚化でき、釣鐘形核(異型核)を有する細胞の相対密度を、候補/試験薬剤を用いた処理の前および後のいずれかと、または薬剤と接触/処理されていない他の腫瘍組織と比較できる。相対密度の減少、例えば細胞数もしくは腫瘍塊重量に対するssDNAを含む釣鐘形核またはssDNAのみの数の減少は、薬剤が腫瘍幹細胞の増殖を減少するまたは阻止することに有効であることを示す。
【0022】
例えば、患者または宿主生物への異種移植片として形成される固形腫瘍から得られる腫瘍試料は、ssDNAを含む釣鐘形核の相対密度が全体または一部分の腫瘍試料で決定された後に、釣鐘形核が非対称に分裂する場合に存在するssDNA中間体構造に基づいて、ssDNAを標的とし、かつssDNAを分解する薬剤、ssDNAのアニーリングを阻止する薬剤、またはssDNA鋳型の複製を阻止する薬剤などの抗腫瘍特異的薬剤と接触させられる。薬剤に接触した後に、釣鐘形核の相対密度は再度決定することができる。ssDNAを含む密度が減少するまたは全体的に非存在である場合に、候補薬剤は有効な抗腫瘍剤であると考えることは合理的である。
【0023】
より具体的に、被験体または宿主動物の腫瘍試料と候補薬剤とを接触させる工程であって、該腫瘍試料がssDNAを含む釣鐘形核を含む腫瘍幹細胞またはssDNAのみを含み、該釣鐘形核のいくつかまたは全てが複製中間体構造である工程;薬剤がssDNAと相互作用するのに適切な条件下で、候補薬剤と接触する腫瘍試料を維持する工程;接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核またはssDNAのみの存在、非存在または数を決定する工程;および候補薬剤と接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核またはssDNAのみの存在、非存在または数と、対照試料中のssDNAを含む釣鐘形核またはssDNAのみの存在、非存在または数とを比較する工程を含む、腫瘍増殖を阻害する薬剤の同定方法が本明細書に記載される。候補薬剤と接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核の数の減少もしくは非存在、またはssDNAの減少もしくは非存在の決定は、薬剤が腫瘍増殖を阻害することを示す。
【0024】
あるいは、釣鐘形核の存在、非存在または数が、複製中間体構造または複製中間体構造の近傍における1つ以上の腫瘍幹細胞特異的分子の存在を検出することによって決定することができる。さらに、本発明の方法は、釣鐘形核の複製中間体構造に特異的なかかる巨大分子を検出するために使用することができる。腫瘍幹細胞の釣鐘形核は、他のヒト細胞で見られない事象を表すために、これらの分子の同定が治療薬物設計のための標的の同定を容易にする。さらに、腫瘍幹細胞中の大部分のDNAは複製中に単鎖であるために、対称分裂のプロセス中の幹細胞が、当業者による巨大分子の同定のために単離することができる。複製中間体構造を伴い得る可能な巨大分子の例としては、ssDNA結合タンパク質、例えばヘテロ核リボ核タンパク質;ssDNAの物理移動および分離に関わる構造維持染色体(SMC)タンパク質;新規動原体タンパク質;DNA修復に関わる酵素;新規ポリメラーゼ;およびまだ同定されていないタンパク質のアレイが挙げられる。
【0025】
特定の態様において、適切なヘテロ動物モデルは、癌異種移植片を動物に注入することによって作製することができる。次に、異種移植片は、固形腫瘍内で成熟させて、切除することができる。釣鐘形核を有する細胞、釣鐘形核を有する異型核または合胞体の存在は、本明細書に記載されるようにおよびPCT/US06/047136に確認することができる。次に動物および/または腫瘍は、ssDNAの再アニーリングを阻止し、ssDNAと結合し、ssDNAを改変または分解することが公知の薬剤、例えば、アルキル化剤、ssDNAヌクレアーゼ、または他の酵素もしくはタンパク質、例えば、ssDNAを標的とする抗体、オリゴヌクレオチド、リボザイム、リボタンパク質または融合タンパク質などの薬剤と接触させることができる。いくつかの非限定例としては、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドが挙げられる。
【0026】
増殖腫瘍の縮小または対照に対する異種移植動物の生存パターンに基づいた薬剤の活性を調べる他の腫瘍モデルと異なり、この戦略には、ssDNA染色異型核細胞の頻度について増殖する異種移植片の評価が含まれる。目的の薬剤は、例えば、対照群(例えば、未処理腫瘍試料または薬剤と接触させる前の同じ腫瘍試料の一部分もしくは全体)に対してアクリジンオレンジ染色異型核の数を有意に減少する薬剤である。分裂する腫瘍細胞のssDNA複製中間体を妨げる薬剤/化合物は、異型核プロセスを標的とすることが予測され、従って腫瘍塊ではなく、急速に分裂する有糸分裂腫瘍細胞を標的とする標準薬剤で処理されていない残りの表面腫瘍の処理に有効な薬剤であると考えることは合理的である。当業者は、候補薬剤(または目的の薬剤)がさらなる評価のための実行可能な候補であるかどうかを決定するために、釣鐘形核のssDNA、異型核内のssDNAの量または質で生じる変化、ならびに釣鐘形細胞および腫瘍自体で生じる任意の形態学的変化の観察のみを要する。特に、腫瘍幹細胞形態の変化、異型核内のssDNA量の変化、または腫瘍自体の形態変化は、候補薬剤が腫瘍増殖の阻害に有効であることを示すことができる。かかる変化は、腫瘍幹細胞の減少または非存在によって示される。
【0027】
癌治療剤の「幹細胞標的」
本明細書に提示されたデータの結果として、近接した環境の細胞への最小傷害の有り無しで、腫瘍幹細胞を標的とし、かつ破壊する薬剤を送達する方法が現在利用可能である。本発明の一態様において、ssDNA特異的薬剤または腫瘍幹細胞特異的分子を標的とする薬剤を投与することによって、個体の前新生物、新生物(癌)または他の病気の治療方法が利用可能である。用語「治療」は、本明細書で使用される場合、癌または病気と関連する症状の改善:癌の転移の低減、阻止または遅延;1つ以上の腫瘍の数、容積および/またはサイズの低減;および/または癌もしくは病気の症状の重篤度、持続期間または頻度の減少のことを示すことができる。「ssDNA特異的治療剤」は、本明細書で使用される場合、ssDNAの形成の阻止、ssDNAの複製の妨げまたはssDNAのコピー化の妨げによる破壊のための腫瘍幹細胞のssDNAを標的とする薬剤(例えば、化学療法剤)、またはそうでない場合は、癌を治療する、もしくは個体の(1つもしくは複数の)腫瘍もしくは病気の影響を減少するもしくは除去する薬剤のことをいう。本明細書に記載されるように、ssDNAは腫瘍幹細胞維持に重要であり、従ってssDNAの形成の阻止、ssDNAの複製の妨げまたはssDNAのコピーの妨げをもたらすssDNAの破壊が、腫瘍幹細胞複製を阻害するので、癌または病気が治療される。いくつかの態様において、記載される治療方法は、1つ以上の手術、ホルモン切除療法、放射療法または化学療法と共に使用される。本発明の化学療法、ホルモンおよび/または放射療法の薬剤および化合物が、同時に、別々にまたは連続して投与されてもよい。
【0028】
一態様において、ssDNAを標的とし、かつ改変する化学薬剤または酵素薬剤(例えば、アルキル化試薬、単鎖特異的ヌクレアーゼ、複製機構を標的とする薬剤等)は、修飾ssDNAが二本鎖DNA(dsDNA)に戻るさらなる複製を起こすことができないように、破壊のための腫瘍幹細胞の核物質を標的とするために利用することができる。特異的な腫瘍幹細胞阻害は、ssDNAが隣接細胞よりも分裂する腫瘍幹細胞のヘテロ形態核表現型で有意に豊富であるために、ssDNAを特異的に標的とする薬剤の使用によって達成される。例えば、ssDNAの複製を阻止する任意の薬剤、例えばDNAにハイブリダイズするが伸長できない分子、例えば、修飾オリゴヌクレオチドまたは核酸派生物、例えば、伸長に必要なγ-リン酸がない核酸またはペプチド核酸がある。本発明は、腫瘍内の腫瘍幹細胞のssDNAを特異的に標的とすることによる癌腫瘍を有する患者の治療方法であって、単鎖DNAに特異的に結合し、腫瘍幹細胞を破壊する治療有効量のアルキル化剤、DNAヌクレアーゼ、DNA結合ポリペプチド、オリゴヌクレオチドまたは低分子有機分子を患者に投与し、腫瘍の有効な治療処置をもたらす工程を含む方法に関する。任意に、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、またはオリゴペプチドは、増殖阻害剤または細胞傷害剤、放射性アイソトープ、核溶解酵素などにコンジュゲートされてもよい。患者の細胞または腫瘍組織に薬剤を送達する方法は当該技術分野で公知であり、かかる薬剤はssDNAゲノムの複製を破壊または阻止し、腫瘍幹細胞の増殖を阻止する。
【0029】
本発明の方法において、薬剤は、腫瘍幹細胞特異的な様式で、ssDNAに特異的に結合する薬剤または部分を利用して、送達される。ssDNAに「特異的に結合する」薬剤は、その用語が本明細書で使用される場合、dsDNAではなくssDNAに優先的または選択的に結合する薬剤である。特定の程度の非特異的な相互作用がssDNAに特異的に結合する薬剤および二本鎖DNAの間で生じる場合があるが、それでも特定の結合が全体または部分でssDNAの特定の認識によって媒介されるものと識別され得る。典型的に、特定の結合は、腫瘍幹細胞中のssDNAの相対的余剰を好む。
【0030】
本発明の別の態様は、腫瘍幹細胞のssDNAを特異的に標的とする。ssDNAは、核中で遊離していてもよく、または核タンパク質複合体に結合していてもよい。ssDNAは、当業者が特定の標的を利用できる特有の構造配置に存在する。例えば、熱力学では、十字型構造およびヘアピンループの形成が好まれる。本発明の特定の態様において、抗体はこれらの構造を特異的に標的にするために利用することができる。「抗体」は、インビトロまたはインビボ生成の体液性応答によって得られる免疫グロブリン分子であり、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を含む。また、該用語は、遺伝子改変形態、例えばキメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)、ヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異的抗体)、および組換え単鎖Fv断片(scFv)を含む。また、用語「抗体」は、抗体の抗原結合断片、例えば、Fab’、F(ab')2、Fab、Fv、rIgG、および逆位IgG、ならびに可変重鎖および可変軽鎖ドメインを含む。ssDNAと免疫学的に反応する抗体は、ファージまたは類似のベクター中の組み換え抗体のライブラリーの選択などのインビボまたは組み換え法によって作製することができる。例えば、Huseら(1989) Science 246:1275-1281 ;およびWardら (1989) Nature 341 :544-546;およびVaughanら (1996) Nature Biotechnology, 14:309-314を参照。「抗原結合断片」は、ssDNAに結合する抗体の任意の部分を含む。抗原結合断片は、例えば、CDR領域を含むポリペプチド、または親和性および特異性ssDNAを保持する免疫グロブリン分子の他の断片であってもよい。多くのssDNA抗体が、市販されている。特定の例において、当業者は、ssDNA結合抗体の単鎖Fv断片を同定でき、断片は完全サイズの親の特異性および一価結合親和性をそれでも保持する最小抗体形態である。単鎖Fv断片は、1つの遺伝子として発現し、核に抗体断片が進むように核局在シグナルに融合することができる。単鎖Fv断片は、マイクロインジェクションまたはウイルス媒介遺伝子治療の手段によって腫瘍細胞集団内に導入および発現することができる。ssDNAの余剰二次構造に結合すると、抗体断片は、腫瘍幹細胞の複製および分裂を阻害する。
【0031】
別の態様において、当業者は、インビトロで利用する周知方法で、公知で特異的なssDNA結合ドメインのポリペプチドを発現および精製することができる。例えば、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)またはヘテロ核リボ核ファミリータンパク質のssDNA特異的ドメインは、バキュロウイルスまたは他の真核性タンパク質発現系を介して発現することができる。これらの薬剤は、カチオン性細胞透過ペプチド配列にフレームでさらに融合させて生物学的活性ペプチドの急速な細胞取り込みを促進することができる。あるいは、マイクロインジェクションは、細胞にポリペプチドを導入するために利用することができる。
【0032】
さらに別の態様において、カチオン性ホスホルアミデートオリゴヌクレオチドが、単鎖DNAを効率的に標的とするために腫瘍幹細胞に導入される。当業者は、複数の領域のssDNAを完全におよびランダムに標的とするような様式でこれらの薬剤を製造することができる。これらの薬剤は、高い親和性でssDNAと結合し、ベクター化または化学トランスフェクションせずに標的細胞に容易に入る。
【0033】
別の態様において、ssDNAは、化学薬剤によって特異的に標的とすることができる。これらの薬剤は、配列または二次構造依存性様式でssDNAヌクレオチド塩基と優先的に反応する。例としては、以下の表1に示されるアクチノマイシンD、過マンガン酸カリウム、ブロモアセトアルデヒド、クロロアセトアルデヒド、ジエチルピロカーボネート、および四酸化オスミウムが挙げられる。これらのいくつかの物質は高いレベルで毒性であるが、薬剤が局所および用量選択様式で腫瘍に導入され、毒性を最小化できると考えることは合理的である。同様に、いくつかの化学薬剤はssDNAおよび二本鎖DNAの両方に結合するが、腫瘍幹細胞に存在する余剰レベルのssDNAは、非常に低くより効果的な治療用量を促進する。
【0034】

【0035】

【0036】
さらなる態様において、ssDNA治療剤は、活性剤成分/部分および標的剤成分/部分を含む。標的剤成分は、上記のように、ssDNAに特異的に結合する薬剤であり、またはこれを含む。標的剤成分は、活性剤成分に結合する。例えば、これらは互いに直接共有結合することができる。2つが共有結合によって互いに直接結合する場合、結合は、各部分の活性基を介した適切な共有結合を形成することによって形成されてもよい。例えば、一化合物上の酸性基は、他のアミン、酸またはアルコールと縮合して対応するアミド、無水物、またはエステルそれぞれを形成してもよい。カルボン酸基、アミン基、およびヒドロキシル基の他に、標的剤成分と活性剤成分との間の結合の形成に適切な他の活性基としては、スルホニル基、スルフヒドリル基およびハロ酸(haloic acid)およびカルボン酸の無水酸誘導体が挙げられる。
【0037】
別の態様において、治療剤は、2つ以上の部分または成分、典型的に1つ以上の活性剤部分を有する標的剤部分を含む。リンカーは、活性剤を標的剤成分に結合するために使用することができ、標的剤は、特異的にssDNAまたは腫瘍幹細胞特異的分子と相互作用し、活性剤を複製中間体構造に送達し、釣鐘形核のさらなる複製を阻害する。
【0038】
標的剤成分に連結される活性剤成分は、放射性核種(例えば、I125、123、124、131もしくは他の放射性剤); 化学療法剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤もしくは抗真菌剤); 免疫刺激剤(例えば、サイトカイン); 抗新生物剤:抗炎症剤; アポトーシス促進剤(例えば、ペプチド); 毒素(例えば、リシン、エンテロトキシン、LPS); 抗生物質; ホルモン; タンパク質(例えば、界面活性タンパク質、凝固タンパク質); 溶解剤; 小分子(例えば、無機小分子、有機小分子、小分子の誘導体、複合小分子); ナノ粒子(例えば、脂質もしくは非脂質系製剤); 脂質; リポタンパク質; リポペプチド; リポソーム; 脂質誘導体; 天然リガンド; 改変タンパク質(例えば、アルブミンもしくはssDNAへの親和性が増大するように修飾された他の血液担体タンパク質系送達系、もしくはアネキシンA1の誘導体、オロソムコイド); 核溶解酵素; 腫瘍幹細胞の成長、移動を阻害する薬剤; 遺伝子もしくは核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド);ウイルスもしくは非ウイルス遺伝子送達ベクターもしくは系; またはプロドラッグもしくはプロ分子などの薬剤を含む所望の治療結果を達成する任意の薬剤であり得るか、または含み得る。当業者は、活性剤の設計および適用に精通している。
【0039】
例えば、一態様において、放射性核種または他の放射性剤は活性剤成分として使用されてもよい。標的剤成分は放射性剤を腫瘍特異的様式で送達し、局所放射線損傷を可能にし、腫瘍の腫瘍細胞、間質細胞および内皮細胞を含む腫瘍全体に放射線誘導アポトーシスおよび壊死をもたらす。
【0040】
別の特定の態様において、新生物疾患のための化学療法剤が活性剤成分として使用されてもよい。代表的な薬剤としては、アルキル化剤(ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン、アルキルスルホネート、ニトロソ尿素、およびトリアゼン)ならびに他の類似した薬剤が挙げられる。例えば、ある態様において、化学療法剤は、細胞傷害剤または細胞増殖抑制剤であり得る。化学療法剤としてはまた、分化状態への幹細胞状態の反転などの細胞に対して他の効果を有するもの、または細胞複製を阻害するものが挙げられる。本発明に有用な公知の細胞傷害剤の例は、例えば、Goodman et al.,"The Pharmacological Basis of Therapeutics," 第6版、A. G. Gilman et al編/Macmillan Publishing Co. New York,1980に挙げられている。いくつかを以下の表2に示す。
【0041】

【0042】
さらなる細胞傷害剤としては、ビンブラスチンおよびビンクリスチンなどのビンカアルカロイド; L-アスパラギナーゼなどの酵素; シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンなどの白金配位錯体; ヒドロキシ尿素などの置換尿素; ならびにプロカルバジンなどのメチルヒドラジン誘導体が挙げられる。ssDNAは二本鎖DNAよりも多数の潜在的アルキル化標的を示すため、本明細書に記載の方法は、従来の化学療法DNAアルキル化剤の有効性を改善する手段を表す。従来の化学療法計画の顕著な欠点としては、非特異性および有害な副作用が挙げられる。限定された集団の攻撃されやすい腫瘍細胞におけるssDNAの選択的ターゲティングにより、改善された有効性のために投与計画が再検討されてもよいと考えるのは妥当である。
【0043】
現在癌の治療に使用されている化学療法剤のほとんどは、標的剤成分のアミン基またはカルボキシル基と直接化学架橋しやすい官能基を有する。例えば、遊離アミノ基はシスプラチンに対して利用可能であるが、遊離カルボン酸基はメルファランおよびクロラムブシルに対して利用可能である。これらの官能基、すなわち遊離アミノおよびカルボン酸は、これらの薬物を遊離アミノ基に直接架橋することができる種々のホモ二官能性およびヘテロ二官能性化学的架橋剤の標的である。
【0044】
本発明は、具体的に、標的剤成分および/または活性剤成分が、金属をキレート化させるキレート部分、例えば、放射性金属または常磁性イオン用のキレート剤を含む態様を意図する。好ましい態様において、キレート剤は放射性核種用のキレート剤である。本発明に有用な放射性核種としては、γ-放出体、陽電子-放出体、オージェ電子-放出体、X線放出体および蛍光-放出体が挙げられ、β-またはα-放出体が治療的使用に好ましい。放射線療法における毒素として有用な放射性核種の例としては、32P、33P、43K、47Sc、52Fe、57Co、64Cu、67Ga、67Cu、68Ga、71Ge、75Br、76Br、77Br、77As、77Br、81Rb/81MKr、87MSr、90Y、97Ru、99Tc、100Pd、101Rh、103Pb、105Rh、109Pd、111Ag、111In、113In、119Sb 121Sn、123I、125I、127Cs、128Ba、129Cs、131I、131Cs、143Pr、153Sm、161Tb、166Ho、169Eu、177Lu、186Re、188Re、189Re、191Os、193Pt、194Ir、197Hg、199Au、203Pb、211At、212Pb、212Biおよび213Biが挙げられる。好ましい治療放射性核種としては、188Re、186Re、203Pb、212Pb、212Bi、109Pd、64Cu、67Cu、90Y、125I、131I、77Br、211At、97Ru、105Rh,198Auおよび199Ag、166Hoまたは177Luが挙げられる。キレート剤が金属と配位する条件は、例えば、Gansow et al.によって、米国特許第4,831,175号、同第4,454,106号および同第4,472,509号に記載されている。
【0045】
99mTcは、全ての核医学部門に容易に利用可能であり、廉価であり、患者放射線量が最小限であり、ヒドラジノニコチンアミド部分によってかかるDNAオリゴヌクレオチドに容易に固定することができるため、本適用に特に魅力的な放射性同位体である(例えば、Hnatowich,et al.,J. of Nuclear Med.,36:2306-2314(1995)参照)。ランダムDNAオリゴマーの選択物はテクネチウムで標識されてもよく、腫瘍幹細胞のssDNA内の接近可能で豊富な対応配列に結合する。99mTcは6時間の半減期を有し、これは、テクネチウム標識オリゴマーの高速ターゲティングが望ましいことを意味する。したがって、ある態様において、治療剤は、テクネチウム用のキレート化剤を含む。
【0046】
治療剤はまた、放射線増感剤、例えば、放射線に対する細胞の感受性を増大する部分を含み得る。放射線増感剤の例としては、ニトロイミダゾール、メトロニダゾールおよびミソニダゾールが挙げられる(例えば、DeVita,V. T. Jr. in Harrison's Principles of Internal Medicine、p.68、McGraw-Hill Book Co.,N. Y. 1983参照、これは、参照により本明細書に援用される)。活性部分として放射線増感剤を含むssDNA治療剤は投与され、転移細胞に局在する。個体が放射線に曝露されると、放射線増感剤は「刺激され」、細胞死を引き起こす。
【0047】
キレート化リガンドとしての機能を果たし得、ssDNA治療剤の一部として誘導体化されてもよい部分は広範囲である。例えば、キレート化リガンドは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン四酢酸(DOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)および1-p-イソチオシアナト-ベンジル-メチル-ジエチレントリアミン五酢酸(ITC-MX)の誘導体であり得る。これらのキレート剤は、典型的に、側鎖上に、キレート剤が標的剤成分への結合に使用されてもよい基を有する。かかる基としては、例えば、DOTA、DTPAまたはEDTAが例えばインヒビターのアミン基に連結することができるベンジルイソチオシアネートが挙げられる。
【0048】
別の特定の態様において、本発明は、腫瘍細胞のssDNAを破壊するためのssDNA特異的核溶解酵素の使用を含む。例えば、DNAse VI、S1ヌクレアーゼ、RAD2、またはssDNAに特異的な任意の他のヒトエンドヌクレアーゼは、ウイルス媒介性遺伝子発現またはマイクロインジェクションによって腫瘍塊内で異所的に発現されてもよい。当業者は、これらの周知の方法に精通しているであろう。腫瘍幹細胞は、隣接細胞と比べて相当上昇したレベルのssDNAを有するため、ヌクレアーゼは、腫瘍幹細胞に対して増強された細胞傷害効果を有する。類似した態様において、当業者は、立体障害および保護されていないssDNAのヌクレオチド骨格が求核性攻撃に供されるように、触媒性RNA分子(リボザイム)を改変することができよう。例えば、生理学的条件下での単鎖DNA分子の特異的切断は、デオキシリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNA分子によって達成されてもよい。具体例は、求核性2'ヒドロキシルを有するリボース糖とともに5'末端ヌクレオチドを有するリボヌクレオチドポリマーである。また別の態様において、ssDNAを超変異させるため、ssDNA特異的シチジンデアミナーゼをコードするAPOBEC3G遺伝子が腫瘍幹細胞に対して標的とされ、それにより複製が制限されてもよい。当業者は、APOBEC3G発現ベクターの構築およびその標的細胞への送達の手段に精通しているであろう。
【0049】
薬剤の送達
本発明の方法において、薬剤は、それ自体が投与されてもよいか、または生理学的に適合性のある担体または賦形剤とともに薬剤を含む組成物(例えば、医薬組成物または生理学的組成物)で投与されてもよい。本発明の一態様において、インビボ(例えば、個体に対して)またはインビトロ(例えば、組織試料に対して)のいずれかで投与されてもよい。本発明の方法は、ヒト個体に使用されてもよいだけでなく、獣医学的使用(例えば、他の哺乳動物、例えば、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、トリ)および非家畜動物にも適用可能である。担体および組成物は滅菌されたものであり得る。製剤は、投与様式に適したものであるべきである。
【0050】
適当な薬学的に許容されてもよい担体としては、限定されないが、水、塩溶液(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアガム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロースまたはデンプンなどの炭水化物、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、ならびにその組合せが挙げられる。医薬調製物は、所望により、活性剤と有害に反応しない補助薬剤、例えば、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、着色物質、フレーバー物質および/または芳香物質などと混合されてもよい。
【0051】
これらの組成物の導入方法としては、限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、眼内、静脈内、皮下、局所、経口および鼻腔内が挙げられる。また、他の適当な導入方法としては、再充填可能または生分解性のデバイス、粒子加速デバイス(「遺伝子銃」)および緩徐性ポリマーデバイスが挙げられ得る。医薬組成物はまた、他の薬剤との併用療法の一部として投与されてもよい。
【0052】
該組成物は、ヒトまたは動物への投与に適合された医薬組成物として、通常の手順に従って製剤化されてもよい。例えば、静脈内投与のための組成物は、典型的に、滅菌等張水性バッファー中の溶液である。必要な場合は、該組成物はまた、可溶化剤および注射部位の痛みを緩和するための局所麻酔剤を含み得る。一般的に、成分は、別々、または単位投薬形態に一緒に混合されて、例えば、活性剤の量を示したアンプルまたはサシェなどの密封容器内の凍結乾燥粉末または無水濃縮物としてのいずれかで供給される。該組成物が注射によって投与される場合、滅菌注射水または生理食塩水のアンプルは、成分が投与前に混合されてもよいように提供されてもよい。
【0053】
したがって、本発明の結果として、今や、腫瘍および胎児性幹細胞の釣鐘形核の複製の阻害における使用に適当な新規な治療剤を同定するためのアッセイ方法が利用可能である。さらに、釣鐘形核を有する腫瘍幹細胞と関連する前新生物および新生物を治療するための新規な治療方法も利用可能である。
【0054】
以下の実施例は、本発明を例示するために示され、なんらかの様式で限定することを意図しない。
【実施例】
【0055】
実施例:
以下に、本発明の例示的態様を説明する。
【0056】
本明細書に挙げた全ての特許、公開出願および参考文献の教示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0057】
実施例1. 組織および腫瘍の供給源の確立
成人の組織および腫瘍被検物を、Massachusetts総合病院、病理科(Gostjeva,E. et al,Cancer Genet. Cytogenet.,164:16-24,2006)の共同研究者から外科的廃棄物として得た。匿名廃棄腫瘍および組織切片の使用は、Prof. W. G. Thillyの研究所を通じた実験用被検体としてのヒト使用のMIT委員会により承認された。
【0058】
組織の切除、固定、伸展およびDNA染色のための方法の開発
以下のプロトコルは、染色体および核の構造的および定量的観察について望ましい明確さの組織および腫瘍被検物の核の可視化を可能にする。重要な要素は、手術の30分以内に固定した新鮮腫瘍試料の使用および薄い切片作製の標準手順の回避である。釣鐘形核は、明らかに組織および腫瘍試料において自己分解の早期犠牲物であり、切除後45分程度で識別できなくなる。標準的な5ミクロン切片は、ほぼ全てが5ミクロンより大きい最小直径を有すると発見されたいくつかの核形態を通って単純にスライスしたものである。考案された特別な技術は、大きな進歩の印である。
【0059】
切除後30分以内に、剥がした結腸粘膜などの薄片(約1cm2)または腺腫、腺癌もしくは転移癌の約1mm厚の切片は、少なくとも3容量の新鮮調製4℃のカルノア固定剤(3:1、メタノール:氷酢酸)中に配置される。新鮮固定剤を3回交換し(45分毎)、次いで、-20℃で試料保存のため4℃の70%メタノールと交換する。固定された切片を蒸留水ですすぎ、巨大分子の部分加水分解およびDNA脱プリン化のため、2mLの1N HCl中に60℃で8分間配置する。加水分解は、冷蒸留水中ですすぐことにより終了する。顕微鏡カバースリップ上への穏やかな圧力で植物組織切片および動物組織切片の広がりおよび観察を可能にする「組織解離」のため、すすいだ試料を45%酢酸(室温)中に15〜30分間浸す。各解離された切片を約0.5 x 1mm片に二分し、5μLの酢酸とともにカバースリップ下の顕微鏡スライドに移す。組織を広げるため、5層の濾紙をカバースリップ上に配置する。ピンセットの持ち手を濾紙に沿って一方向に一定に、均一でわずかな圧力をかけながら移動させる。充分に広がった結腸組織には損傷核はないが、陰窩が本質的に単層に押し潰される。ドライアイス上での凍結後、カバースリップを除き、スライドを1時間乾燥する。一部脱プリン化DNAを染色する(フォイルゲン染色)ためのシッフ試薬を充填したCoplinジャー内にスライドを室温で1時間配置し、同じCoplinジャー内で、2xSSC(クエン酸三ナトリウム8.8 g/L、塩化ナトリウム17.5 g/L)で2回、30秒間1回および直ちに1回すすぐ。次いで、スライドを蒸留水ですすぐと、核の画像解析に適当となる(Gostjeva,E.,Cytol. Genet.,32:13-16、1998)。優れた解像度を得るため、スライドをギムザ試薬でさらに染色する。2xSSC中ですすいだ直後、スライドを1%ギムザ溶液(Giemsa,Art. 9204、Merck)内に5分間配置し、次いで、まずSoerenssenバッファー(リン酸水素二ナトリウム二水和物11.87 g/L、リン酸二水素カリウム9.07 g/L)中で、次いで蒸留水中で直ちにすすぐ。スライドを室温で1時間乾燥し、キシレンを充填したCoplinジャー内に少なくとも3時間配置して脂肪を除去する。カバースリップをDePexマウント媒体でスライドに接着させ、高解像度スキャニングの前に3時間乾燥する。
【0060】
代替的に、解離は、例えばコラゲナーゼIIなどのタンパク質分解酵素への曝露によって規定の核形態型を有する生細胞の単離を達成することにより達成されてもよい。
【0061】
顕微鏡および画像処理システム
本明細書において使用される定量的画像解析のためのソフトウェアは、初期のサテライトサーベイランスシステムから適合したバックグラウンド抑制のためのアプローチを利用する。この技術はドイツのKontron corporationによって獲得され、それ自体は以前にZeiss,Inc.によって獲得された。全ての画像は、パーソナルコンピュータに接続された電動式光学顕微鏡AxioscopeTM、カラーCCDカメラAxioCamTM(Zeiss、Germany)からなる特注KS-400 Image Analysis SystemTM、Version 3.0(Zeiss、Germany)を用いて得られた。フォイルゲン染色単独を使用した場合は可視光および560nm(緑色)フィルターを用いて、プラナーアポクロマート対物レンズ1.4/100倍率で顕微鏡から画像を送る。フォイルゲン-ギムザ染色が使用される場合は、フィルターは使用されない。フレーム取込み器および最適露光は、各スキャニングセッションの前に調整される。核の画像はピクセルサイズ0.0223 x 0.0223ミクロンで記録される。
【0062】
胚性腸
7つの異なる核形態型(大楕円形、凝縮楕円形、卵形、豆-、葉巻-、ソーセージ-および釣鐘形)が、胎児性腸試料全体に見られた(図1A)。釣鐘形核は、凝縮染色体に類似した凝縮クロマチンによって開放が保持されているように思われた(図1B)。釣鐘形核は、約20〜50ミクロンの管状構造すなわち合胞体内で線形に「頭からつま先」の向きに組織化されていた(図2)。釣鐘形核の「頭からつま先」パターンは、観察した全ての胚性管状構造において保存されたが、管状構造は、平行な管状構造が局所で逆平行な向きの釣鐘形核を有するように前後に蛇行していた。
【0063】
釣鐘形核は、対称および非対称無糸分裂を行なうが、合胞体内のみであることが観察された(図3)。釣鐘形核の対称無糸分裂は、2の重ねられた紙コップの単純な分離と類似していた。最大解像度では、染色体対に類似した凝縮クロマチンが、開口条件において釣鐘「開口」を維持する環形を形成するようであった。管状合胞体の外側では、いくつかの「閉鎖」核形態型の各々で有糸分裂が頻繁に観察され、同一の核形態型の細胞からなる小さなコロニーが明白であった。特定の「閉鎖」核形態は、図1に示されるように、初期前期において保存された。
【0064】
正常結腸上皮
陰窩内のほぼ全ての核は、陰窩基部から管腔表面に観察することができた(図4A)。多くの陰窩は、個々の核の形状が識別できるような様式で広がっていた。卵形または楕円形の核を有する細胞が、基部のすぐ上から管腔内へ広がる上皮までの陰窩に並ぶ(図4C)。陰窩基部の最初の約25細胞において、約2〜3ミクロン厚および約10ミクロン直径の円盤状と特徴付けされる潜在的に異なる9つの核形態型が優勢であった(図4B)。細胞が充分に広がった全ての陰窩基部の1%未満において、孤立した釣鐘形核が明白な円盤状核間で識別された(図4Aおよび4B)。同様の低頻度の釣鐘形核が成人肝臓の調製物において観察された。新生物または前新生物の任意の病理学的徴候のない成人結腸では、千を超える充分に広がった陰窩の細胞毎の細胞スキャンにおいて他の核形態バリアントは観察されなかった。
【0065】
腺腫
腺腫は、各々約2000個の細胞を有する正常結腸陰窩と識別不可能な多くの陰窩を含んでいた。これらは、図5Aに示されるように分岐形態において頻繁に見られた。陰窩壁内の正常結腸陰窩内と同じ楕円形および卵形の核は、正常結腸よりも頻度が高いが、陰窩基部に1つまたは2つの釣鐘形核が存在した。約8000個の細胞を含む不定形の小葉構造もまた観察され、その細胞は、組織解離によってより容易に広がった。ほぼ全ての不定形構造において、構造本体の方向に釣鐘開口が向いた2つ以上の釣鐘形核が存在した(図5B)。また、多くの多様な細胞および群が陰窩と不定形構造間に散在した(図5C)。いくつかの規則的な構造は、約250個、約500個または約1000個の細胞を含む充分なサイズの正常陰窩に成長しているようであった。多くの細胞群は、各々が1個の釣鐘形核を有する正確に8、16、32、64および128個の細胞の「環」として見られた(図5D)。
【0066】
高倍率での検査により、陰窩様構造の壁の細胞のほとんどは、正常成人結腸陰窩内と同様、球形または卵形の核を有することが明らかになった。卵形、葉巻または弾丸形いずれかの核を有する細胞のコロニーは不定形小葉構造内に現れ、いくつかの異なるコロニーの融合を示す。卵形および葉巻形の核を有するコロニーが胚性後腸において観察されたが、弾丸形核形態型は腺腫および腺癌のみに見られた(図5E)。弾丸形核形態型はまた、非対称無糸分裂によって釣鐘形核から生じ、不定形の末端が最初に出現した。弾丸形核を有する細胞の小さなコロニーが見られ、これらのコロニーは、特有の核形態が前期から後期終期を通してある程度維持されているという興味深い事実を除いて通常の有糸分裂を行なっている細胞を含んだ。
【0067】
正常成人結腸では稀であるが、釣鐘形核は、頻繁に多数の腺腫の状況において見られた。いくつかは、陰窩様構造間の空間内に1〜10個以上の「釣鐘」として見られた(図5D)。他は、多細胞環状構造において単一の「釣鐘」として見られ、この場合、楕円形または他の形態の型の(2n-1)個の細胞を有する環内に常に1つの釣鐘核が見られた(図5Cおよび5D)。
【0068】
釣鐘形核は、単一の釣鐘として、より多くの場合では1対の釣鐘として見られ、または場合によっては陰窩様構造基底カップ内に4または8個の釣鐘として見られた。ずっと大きな不定形小葉構造では、釣鐘形核は、他の核形態の細胞と混合された異常構造の壁内に解剖学的にまとまっていた。これは、まるでこれらの大きな不定形陰窩様構造が、各々が自身の核形態型を有する多数の異なる種類のクラスターのモザイクのようであった。大きな腺腫(約1cm)は、約1000個の釣鐘形核を含むと推定された。数百個の釣鐘形核が多数の腺腫の各々において観察されたが、いずれの腺腫でも、胚性切片に頻繁に見られる対称形態の核分裂では1つの釣鐘形核も観察されなかった。しかしながら、腺腫では、非対称核分裂のいくつかの例が観察された。
【0069】
腺癌
腺腫と同様に腺癌は、陰窩、大きな不定形構造ならびに16、32、64および128個の細胞の陰窩内クラスターの混合物を含んだ。釣鐘形核は、なお陰窩の基底カップにおいて単一のもの、対または多数のものとして見られ、大きな不定形小葉構造の壁では複雑な渦巻き内に埋もれていた(図6)。腺癌における核形態型の組は、弾丸形形態型を含む腺腫で見られる組と同一のようである。
【0070】
腺腫と腺癌間の識別可能な差は、腫瘍表面に対して陰窩様構造が無作為な向きであることであった。また、陰窩および不定形構造は腫瘍内部には頻繁に見られず、小さくて局所組織化された構造の折衷的だが無秩序でない集団として、より良好に特徴付けされてもよい。
【0071】
腺癌が腺腫と異なる最も認識可能な差は、多くが頻繁に(約1%)対称核分裂に関与する数百より多くの釣鐘形核の見かけ上組織化された群の頻繁な出現であった。これらの対称分裂は、後に、凝縮核物質を含むと同定された。釣鐘形核は、正常2倍体細胞のものと等しい量のDNAを有する。釣鐘形核が「カップからカップへの」対称分裂を行ない始めると、DNA含有量は、2倍体ゲノム内に含まれるDNAの量の1.05倍に増加する(動原体が複製された場合に期待されるおよその増加)。DNA含有量は、「カップからカップへの」プロセスのかなり後の2つの核が2倍の量のDNA物質を含む点までこのレベルのままである。ゲノムが主にssDNAに組織化されるのは、おそらく動原体のみが複製され、ゲノム鎖が分離される段階の間である。該プロセス中のかなり後の複製まで、ゲノムは再度dsDNAにはならない。
【0072】
低倍率では、これらの構造は陰窩様構造間の空間内に見られ、蜘蛛の巣または葉脈の骨格のような外観であった。高倍率では、細い脈は、脈軸から90°の同じ方向に向いた開口部を有するという興味深い特徴を有する釣鐘形核を有する細胞が一部整列された鎖であることがわかった(図6C)。釣鐘形核はまた、胚性腸に観察された局所範囲内の合胞体にも「頭からつま先」の向きに見られた(図6C)が、腺腫には見られなかった。数百万の釣鐘形核は、頻繁な対称および非対称無糸分裂を伴う腺癌性塊であると推定される(図6Dおよび6E)。直腸結腸腫瘍の肝臓への転移により、見かけ上、腺癌で観察されたものと識別不可能な核形態型、陰窩および不定形構造のパターンが再形成された。
【0073】
3D保存単一釣鐘形核および対称分裂釣鐘形核対の共焦点顕微鏡検査
3D保存単一釣鐘形核および対称分裂釣鐘形核対の共焦点顕微鏡検査を行なうため、DeltaVision(登録商標)RT Restoration Imaging System at Imaging Center、Whitehead Instituteが使用される。該システムは、核画像の復元のためのリアルタイム2Dデコンヴォルーションおよび3D Z投影法を提供する。
【0074】
釣鐘形核の内部構造を調べるため、核細胞質(FITC-ファロイジン)および核(DAPI)の対比染色が適用された。細胞を、フォイルゲン染色の場合と同じ手順に従って「加水分解」解離によってスライド上に広げる。違いは、2つの異なる固定剤での固定を適用し、結果を比較することである:カルノア固定剤(4℃)および3.7%ホルムアルデヒドを15分間 ならびに100mLのPBS(室温)中2%BSA(2g)、0.2%無脂肪乳(0.2g)、0.4%triton X-100(400μL)中ブロッキング溶液を2時間、後者は生組織細胞の固定に推奨されている。PBS中で2回洗浄後の組織を広げた顕微鏡スライドを湿度チャンバに移し、ブロッキング溶液中で適切に希釈した一次抗体の100mLの液滴を広げた部分全面を覆うように滴下し、カバースリップの上面をラバーセメントで封止し、ホイルを巻き付けた容器内に配置し、低温室内の湿度チャンバ内に一晩配置する。次いで、封止を外したスライドをPBS中で3回洗浄する。スライドを取り出し、ブロッキング溶液中に適切に希釈した100μLの液滴の二次抗体および/または細胞染色液(例えば、FITC-ファロイジン、DAPI)を、再度、広げた細胞を含む領域を覆うように配置し、容器内に配置された湿度チャンバに移す。容器/湿度チャンバを密閉し、ホイルを巻きつけ、室温で2時間置く。スライドをPBS中で5回洗浄し、各々が2〜5μLの液滴のマウント媒体(退色防止剤SlowFade、VectaSheildまたはProLong)を有するような様式で調製する。確実に過剰のPBSが除去されるようにして(ペーパータオル上でカバースリップの端を軽くたたく)、カバースリップをマウントする。マウント中に形成される気泡の数は、気泡の数を完全に減らす前に、カバースリップの端をマウント媒体中に導入することにより制限される。カバースリップは、マニキュアを用いてスライド上で密閉され、スライドを4℃(または長期間の場合は-20℃)で暗所で保存する。スライドは、DeltaVision(登録商標) RT Restoration Imaging Systemを用いて可視化される。
【0075】
DNAの細胞化学的局在および化学量論が正確であることが示されたフォイルゲン-シッフ手順のプロトコルを用いて核DNA含有量を測定した。DNA含有量は、単一の核において、フォイルゲン-DNA(色素-リガンド)複合体の分子の吸収度を測定することにより測定した(Kjellstrand,P.,J. Microscopy,119:391-396,1980; Andersson,G. and Kjellstrand,P.,Histochemie,27:165-200,1971)。KS 400画像解析システム(Zeiss Inc,Germany)から適合させたソフトウェアを用いて、個々の各核の全面積において積分された光学密度(IOD)を測定することにより、非分裂(間期)および分裂中の釣鐘形核が測定された。
【0076】
この特定の画像解析ワークステーション(図9D参照)は、Carl Zeiss Inc.のエンジニアによってアセンブルされたコンピュータに接続されたAxioCamカラーCCDカメラ(Zeiss)に連結された顕微鏡Axioscop 2 MOT(Zeiss)からなり、初期前期の染色体測定において、ピクセルあたり約1000bpのDNAである核および細胞構造の高解像画像顕微鏡検査能を有する。したがって、間期の核内の約1Mb対の凝縮クロマチンドメインの正確な測定が可能である。倍率、露光および560nm緑色フィルターを用いた核の閾値(輪郭)の一定のパラメータ下で画像をスキャンする。このDNA含有量測定方法は、最も正確な結果が見込まれるため選択された(Biesterfeld. S. et al.,Anal. Quant. Cytol. Histol,23:123-128,2001; Hardie,D. et al.,J. Histochem. Cytochem.,50:735-749,2002; GregoryおよびHebert,2002; Gregory,2005)。
【0077】
間期および核分裂中の釣鐘形核内の全ての24ヒト染色体の空間分布を規定するための蛍光インサイチュハイブリダイゼーション
FISHを用いて、染色体全体が、釣鐘形核の上部に「環」として出現する凝縮に関与していることを決定した。基本的に、「環」内の染色体の標識は、釣鐘形核が異なる形態の核(図10Bに示される)を生じたときの変化を解析するため、ならびに核形態ではなく他の手段によってこれらの核を認識するための蛍光マーカーの開発の手段として予測される。
【0078】
1〜5 x 107細胞/スライド未満の腫瘍細胞をスライド上に広げる。2つの異なる様式で細胞を広げてスライドを固定する:1つは、フォイルゲンDNA画像サイトメトリーのためのプロトコルに使用されるものであり、別のものは、結腸鏡検査生検材料被検物からの上皮細胞の単離のためにGibsonによって提案されたものである(Gibson,P. et al.,Gastroenterology,96:283-291,1989)。後者は、基本的に、腫瘍組織を手術の30分以内に取り出し、直ちに50mLの冷ハンクス平衡塩溶液に入れ、次いで洗浄する。次いで、被検物を外科用メスの刃で細かくし、4mLのコラゲナーゼ-ディスパーゼ培地(1.2 U/ml ディスパーゼ I(Boehringer Mannheim Biochemicals,Indianapolis,Ind.)および50 U/ml コラゲナーゼIV型(Worthington,Biochemical Corp.,Freehold,N. J. を含有する培養培地)中で1.5時間消化する。カバースリップ上を静かに押さえ付けながらスライドさせてペレットを顕微鏡スライドの表面上に広げる。「加水分解」解離による伸展は、細胞を広げるためのコラゲナーゼ-ディスパーゼ処理の適用後に釣鐘形核形態の任意の歪みが起こったかどうかを確認するための陽性対照としての機能を果たす。調製したスライドを乾燥し、37℃で一晩置く。次いで、氷冷70%、80%エタノール、室温で100%エタノール中で連続的に各2分間スライドを脱水し、完全に乾燥し、70%ホルムアミド/2xSSC中、72℃で2分間変性し、直ちに同じ順序で再度脱水し、完全に乾燥する。7μLのハイブリダイゼーションバッファー、2μLの滅菌水、および1μLプローブを含むハイブリダイゼーション混合物を調製する。混合物を72℃で8〜12分間で変性し、直ちにスライドに添加し、次いで、これにカバースリップをのせ、ラバーセメントで密閉し、暗所に37℃で加湿箱内に一晩置く。
【0079】
次いで、スライドを、冷70%エタノール、冷80%エタノール、および室温100%エタノール中で各2分間脱水し、70%ホルムアミド、2xSSC中72℃で、酢酸変性程度に応じて50〜60秒間変性する。冷70%エタノール、冷80%エタノール、および室温100%エタノール中でスライドを各2分間再度脱水する。ハイブリダイゼーションミックスは、7μLのハイブリダイゼーションバッファー、1.5μLの滅菌H2O、および1.5μLを含む。Spectrum Orange またはSpectrum Greenいずれかの蛍光色素を有するWhole Chromosome Paintプローブ(Vysis)を適用する。ハイブリダイゼーションミックスを5〜10分間72℃で変性し、続いてスライドを完全に乾燥する。ハイブリダイゼーションミックスをスライドに加え、カバースリップをのせ、ラバーセメントで密閉する。次いで、スライドを加湿箱内で一晩37℃でインキュベートする。翌日、50%ホルムアミド、2xSSC中42℃で2回、各8分間スライドを洗浄する。次いで、スライドを2xSSCで37℃で8分間洗浄し、次いで、1xPBD(0.05%Tween、4xSSC)中室温で各1分間3回洗浄する。次いで、10μLのDAPI II Antifade,125ng/mL(Vysis)を添加し、カバースリップをのせる。過剰のDAPI II Antifadeを吸い取り、スライドをラバーセメントで密閉する。画像スキャニング手順の前にスライドを-20℃で暗所に維持する。
【0080】
釣鐘形核の核分裂前、分裂中、分裂後のDNA合成を追跡するための定量的DNAサイトメトリーの使用
本明細書に記載の技術により、ヒト細胞培養物において有糸分裂中の姉妹核の任意の2つの核間または後期終期間の2%という小さい差の検出が可能になる。いつDNAが、釣鐘形核を含む細胞または合胞体によって合成されるかを決定するため、これらの技術を使用した。これは、核分裂の過程にあると思われる核のスキャニングを伴った。一般に、二倍体ヒト細胞には、同じ染色スライド上のヒトリンパ球DNA含有量と比較して予測される量のDNAを含む胎児性釣鐘形核が見られる。また、ヒト前新生物病変および腫瘍の釣鐘形核中のDNAの量は、平均して二倍体DNA量より多く、平均あたりで広いばらつきを示すことに注目する。測定により、別の全く予想外の所見:釣鐘形核が関与する対称および非対称核分裂ではともに、DNA合成が核分裂プロセスより先ではなく同時であるということが明らかになった。核は、単一の核の量からの総DNA含有量の増加が明白に検出される前、「カップからカップへの」分離のプロセスに伴って良好なようである。DNAの総量は、明らかに分裂し始めている核内の単一腫瘍核の平均を近似する低い値から増加し、ちょうど分裂を終了したようである核の核内含有量の平均の約2倍に達する。
【0081】
実施例2. 胎児の器官形成における合胞体釣鐘形核
以前に認識されていない一連の核の形態が、釣鐘形核を生じるヒト胎児性調製物において同定された。これらの形態は、第5週に検出され、最初は、釣鐘形核を含む管状合胞体であった。これらの例を図13A〜Dに示す。これは、初期胚形成の有糸分裂の球形核から、発生上の「幹」細胞系統の正味成長および分化を表す後の無糸分裂の釣鐘形核までの形態変化を示す重要な所見である。
【0082】
これらの所見は、例えば、筋肉、発生中の四肢、神経組織、ならびに胃、膵臓、膀胱、肺および肝臓を含む内臓器官を含む一連の組織調製物において観察されたため、組織型間で一致する。合胞体は、発生中の器官塊内で一定間隔空いた約16〜24個の合胞体のクラスターとして見られ、各々約16個の釣鐘形核を有する。合胞体は、利用可能な最も発生段階の低いヒト材料(約5週間)で見られ、第13週までに消失した。第12週後、釣鐘形核は規則的に3次元で、各器官に特有の様式で分布する。
【0083】
図13Aは、球形またはわずかに楕円形核の長軸に沿った「帯」としての総DNA含有量の約10%が凝縮した核を示す。図13Bは、2つの凝縮核「帯」は分離されて見えるがなお単一の核の一部である核を示す。図13Cは、図13Bの2つの帯状の核の分裂によって生じたと思われる1対の核を示す。図13Dは、各合胞体が、1対の釣鐘を有し、その線形中点に図13Cの場合のように対向する開口を有する1組の釣鐘を含むことを示す。これらの画像は、一連の対称分裂によって、中心のペアから押し離されるように核が形成されることを示唆する。合胞体構造は、4つの釣鐘形核という小さい群で検出される。
【0084】
発癌の核形態型の研究において、核は、結腸腺腫(図14A)および腺癌(図14B)において、少数の類似した帯状(楕円形核の長軸の周囲に1つまたは2つ)を示した。この所見により、発癌は、個体発生提示の多くの重要な表現型変化段階を共有するが、出現する順は逆であるという一般的仮説が確認され、該仮説に対する支持が拡張される。
【0085】
ヒト動原体に特異的なFISH染色
合胞体外部釣鐘形核は、実際にはヒトDNAを含む。ほとんどの動原体は、胎児性試料において釣鐘形核の開口部の凝縮DNA領域と関連している。興味深いことに、標準的なFISHプロトコルでは、合胞体内の釣鐘形または他の形状の核は染色されず、合胞体の収縮性要素含有鞘がFISH試薬の侵入をブロックし得ることを示す。図15は、ヒト12週の胎児性結腸組織由来の球形(図15A)、「葉巻」形状(図15B)および釣鐘形(図15C)の核の動原体(緑色)を示す。
【0086】
また、姉妹核のDNA含有量は胎児性無糸分裂の釣鐘形核と等しいが、多数の組織起源由来のヒト腫瘍の釣鐘形核の無糸分裂において顕著に異なる程度のDNA分離を示すことが観察された。結腸前新生物形成ポリープの釣鐘形核間に無糸分裂の例は見られなかったが、ポリープ1つあたりに見られる何十もの釣鐘形核間のDNA含有量の顕著なばらつきは、異なるDNA区分化が、前新生物ならびに新生物において適切に作用するが、釣鐘形核の胎児性分裂にはそうでない現象であることを示すことは注目される。これらの観察は、腫瘍組織および胚性組織が類似した組織学的特徴を有するというVirchowおよびCohnheimの観察を拡張するが、また、有糸分裂中の腫瘍細胞が、不安定な染色体形成または分離の初期の共通起源を示す全ての腫瘍細胞に共通する大きな異常染色体画分を示すというBoveriのものを拡張する。
【0087】
マウスの核形態
形態が図13A〜Dに示すものとほぼ同一である、特に、釣鐘形核、前合胞体形態および合胞体形態を含む種々の形態の全ての核が、12.5日目に最初に検出され、次いで、14.5〜16.5日目に検出される前合胞体形態を有する胎児性マウス組織に見られ、胎児は、胎児性マウスの器官形成期間にほぼ平行であった。マウスにおけるこれらの所見は、ヒト観察を考慮すると驚くべきことではないが、ヒトにおいて倫理的または可能でない非ヒト種における器官形成の研究の可能性の範囲を大きく開くものである。
【0088】
妊娠第5週から第16週の範囲の品質固定された胎児性廃棄物の試料において、合胞体はもはや明白ではないが、釣鐘形核は、成長中の器官全体に規則的なパターンで分布する。
【0089】
実施例3. 幹細胞マーカー
染色体および染色体要素、種々の収縮性分子(例えば、アクチン)ならびに「幹細胞マーカー」と一般的に称されるものを含む他の同定可能なマーカーの位置の規定のために、FISHを含む一連の組織化学的手順を適用するために原腸の大量の合胞体および釣鐘形核が使用される。本明細書に記載の技術は、ZEISS-P.A.L.M.顕微解剖装置を用いた合胞体および個々の核を収集する作業に適用される。成功の基準は、細胞内mRNA、最も一般的なタンパク質およびグリコサミノグリカンのスキャニングに充分な数である10,000以上の数の核相当物における合胞体形態または核形態型に関して均一な一連の試料の回収である。
【0090】
実施例4. アクリジンオレンジ染色
複製中間体構造を同定するためのさらなるデータを図16〜19に示す。図18Bは特に重要である。これは、釣鐘形核内のssDNAゲノムの存在を決定的に示す。ssDNAに結合すると特異的に単独に赤色蛍光を発するアクリジンオレンジ染色が使用される。
【0091】
染色前、スライドを水浴中、37℃で2時間、2mg/mLの濃度のRNaseに曝露した。スライドをEDTA中で1分間洗浄し、分子等級水中ですすぎ、Bertalanffy(Ann New York Sci,84:p. 227-238(1960); Ann New YorkSci 93:16:p. 717-747(1962))に記載のプロトコルに従ってアクリジンオレンジ溶液中で直ちに染色処理した。簡単に、アクリジンオレンジ染色液は、0.05gを500.0mlの蒸留水中で希釈し、5.0mlの酢酸を添加した。暗所で室温でスライドをCoplinジャー内に入れる前に、その都度、pHが3.1〜3.4 の範囲であるかについて室温溶液を確認した。スライドを30分間染色し、0.5%酢酸を含む100%アルコール、100%アルコール、PBS中ですすぎ、湿らせたままカバースリップをのせて蛍光顕微鏡下で可視化した。
【0092】
実施例5. ssDNA抗体染色
モノクローナル抗体Mab F7-26をssDNA中間体の検出に使用した(Bender MedSystems GmbH,Vienna,Austria)。使用前に、抗体のストック溶液を(PBSおよび5%ウシ胎児血清で)10倍希釈した。ssDNA抗体を適用する前に、10mM HCl中0.005%ペプシン、50mM MgCl2および50mM MgCl2中1%ホルムアルデヒド(Fomina et al.,2000に詳細に記載)を用いて一連の洗浄工程を行なった。各洗浄工程後、スライドをPBSで3回洗浄した(それぞれ5分間)。最後に、スライドを0.05%Tweenで洗浄し、次いで、Tween中ブロッキングタンパク質3%BSA、および再度0.05%Tween中で洗浄した。その後、スライドを5%FBS中Mab F7-26で室温で60分間処理した後、抗マウスIg-G-FITC、Alexa 488を30分間適用した。スライドをDAPIで染色し、一連のエタノール70%、90%および100%で脱水し、空気乾燥し、「Citiflour」媒体中にマウントした。
【0093】
釣鐘形核の「開口」の二本鎖dsDNA環は、最初に2つのssDNA環に分離し、これらはコピーされて、フォイルゲン染色および定量的サイトメトリーを用いて釣鐘分離の最初およびDNA増加の際に先に観察された4つのdsDNA環が形成されるように思われる。
【0094】
胎児性異型核(metakaryotic)合胞体期において、任意の組織試料中、合胞体の一部の5〜15%のみがssDNAを示すが、ssDNAを示す少なくとも1つの核を有する合胞体では多くの他のものが通常観察され、合胞体内の釣鐘形核が分離して同調的にDNAを合成するという本発明者らの先の観察を拡張することは注目に値する。胎児の成長速度およびある程度のssDNAを示す核画分に基づき、本発明者らは、予備的にDNA分離/合成期間を約8時間と推定し、ssDNA塊が分離される期間は、この期間の半分よりいくぶん短かった。図18A〜F参照。
【0095】
本発明を、その好ましい態様を参照して具体的に示し、記載したが、形態および詳細における種々の変形が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずになされ得ることは、当業者によって理解されよう。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)被験体または宿主動物の腫瘍と候補薬剤とを接触させる工程であって、該腫瘍が釣鐘形核を含む腫瘍幹細胞を含み、該釣鐘形核のいくつかまたは全てがssDNAと結合した複製中間体構造である工程;
B)薬剤が腫瘍と相互作用するために適切な条件下で、候補薬剤と接触する腫瘍を維持する工程;
C)腫瘍試料を切除して、工程B)の接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核の存在、非存在もしくは数またはssDNAのみの存在、非存在もしくは量を決定する工程;および
D)候補薬剤と接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核の存在、非存在もしくは数またはssDNAのみの存在、非存在もしくは量と、対照試料中のssDNAを含む釣鐘形核の存在、非存在もしくは数またはssDNAのみの存在、非存在もしくは量とを比較する工程を含み、
候補薬剤と接触した後の腫瘍試料中のssDNAを含む釣鐘形核の数の減少もしくは非存在またはssDNAのみの量の減少もしくは非存在は、薬剤が腫瘍増殖を阻害することを示す、腫瘍増殖を阻害する薬剤の同定方法。
【請求項2】
腫瘍試料が宿主生物への異種移植片から生じた固形腫瘍から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ssDNAが、試料をアクリジンオレンジで染色し、ssDNAを視覚化することによって検出される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
候補薬剤が単鎖DNAを標的とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
候補薬剤がDNAのアニーリングを阻害し、単鎖DNAを分解し、または単鎖DNA鋳型からのDNA複製を阻害する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ssDNAを含む釣鐘形核の存在、非存在または数が、複製中間体構造または複製中間体構造の近傍における1つ以上の腫瘍幹細胞特異的分子の検出によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
あるいは、工程C)が候補薬剤と接触した後の腫瘍幹細胞または腫瘍の形態学的変化を検出する工程を含み、工程D)が候補薬剤と接触した後の腫瘍幹細胞または腫瘍の形態と、対照試料中の腫瘍幹細胞または腫瘍の形態とを比較する工程を含み、腫瘍幹細胞または腫瘍形態の変化は、薬剤が腫瘍増殖を阻害することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項8】
被験体における腫瘍の治療方法であって、被験体の腫瘍幹細胞と、ssDNAと結合する薬剤、ssDNAを修飾する薬剤またはssDNAを分解する薬剤とを接触させる工程を含み、該腫瘍幹細胞がssDNAを含む複製中間体構造の釣鐘形核を特徴とし、該薬剤がssDNAと結合し、ssDNAを修飾し、またはssDNAを分解し、釣鐘形核の分裂を阻害または阻止し、腫瘍幹細胞の増殖または腫瘍の増殖の阻害または阻止が生じる方法。
【請求項9】
薬剤が化学薬剤である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
化学薬剤がアルキル化剤である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
アルキル化剤が、ビス-(クロロエチル)-アミン、ビス-(2-クロロエチル)-スルフィド、2,2'-ビス-(2"-クロロエチルチオ)-ジエチルエーテル、1,2-ビス-(2'-クロロエチルチオ)-エタン、トリス-(2-クロロエチル)-アミン、ビス-(2-クロロエチル)-エチルアミン、ビス-(2-クロロエチル)-メチルアミン、エチレンイミン、ブロモエチレンイミン、シクロホスファミド、プロカルバジン、ダカルバジン、アルトレタミン、cis-ジアミンジクロロ白金(II)、シクロホスホアミジン、ホスファミド、メクロレタミン、メルファラン、クロラムブシル、BCNU、CCNU、メチル-CCNU、N-ニトロソ-N-メチル尿素、N-エチル-N-ニトロソ尿素および他のニトロソ尿素からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
薬剤が酵素である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
酵素が、単鎖DNAエンドヌクレアーゼ、DNAse VI、S1ヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼV、APOBEC3Gおよび触媒性RNA分子からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
薬剤がssDNA結合部分を含む、請求項8記載の方法。
【請求項15】
ssDNA結合部分が配列特異的である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ssDNA結合部分がssDNAに特異的なモノクローナル抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
ssDNA結合部分がssDNA結合タンパク質のssDNA結合ドメインである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
ssDNA結合ドメインが、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ、hnRNPタンパク質、単鎖DNA結合タンパク質およびRecAからなる群より選択されるssDNA結合タンパク質由来である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ssDNA結合部分がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは単鎖オリゴヌクレオチドである、請求項14記載の方法。
【請求項20】
オリゴヌクレオチドがssDNA、RNA、PNAまたはssDNAにハイブリダイズすることができる人工核酸である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
薬剤が第二部分をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項22】
第二部分がssDNAを分解もしくは化学修飾する、または腫瘍幹細胞に毒性である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第二部分が放射性である、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2010−530524(P2010−530524A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512184(P2010−512184)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/007327
【国際公開番号】WO2008/156629
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】