説明

腸溶性顆粒剤及びその製造方法

【課題】アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒剤において、低コーティング量で水への溶出が抑制された腸溶性顆粒剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を担持する素顆粒又は該素顆粒と該素顆粒を被覆する一以上の層とを含む顆粒と、該素顆粒又は該顆粒を被覆する第1腸溶性層とその上の第2腸溶性層を含む腸溶性顆粒剤であって、第1腸溶性層と第2腸溶性層が、溶解pHの異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含み、第2腸溶性層のHPMCASの溶解pHが、第1腸溶性層HPMCASの溶解pHより低い腸溶性顆粒剤およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒剤において、薬効成分が担持された素顆粒に対して少なくとも2層以上の溶解pHが異なる腸溶性コーティング層を有することを特徴とする腸溶性顆粒剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩は、生体内における高エネルギー源として筋肉収縮等に関与し、脳血管・冠血管・末梢血管を拡張して血流を改善する等の薬理作用を示すことから、錠剤、注射剤等として、頭部外傷後遺症に伴う症状、心不全、眼精疲労、消化管機能低下のある慢性胃炎の治療に使用されている。特に顆粒剤は、メニエール病および内耳障害に基づくめまいを改善することが知られており、これらの症状に対する治療薬としても有用である。アデノシン三リン酸は、経口投与製剤とする場合、大半が腸管で吸収されることや胃酸により容易に分解されることから、腸溶性コーティング製剤とすることが一般的である。
【0003】
ところで、腸溶性コーティング方法として、従来腸溶性基剤を有機溶剤に溶解し用いる有機溶剤系コーティングが一般的であった。しかし、大気への有機溶剤放出を抑制するという環境面、有機溶剤による火災等の回避と作業員への安全衛生を含む製剤製造時の作業安全性面、更に最終剤形への残留有機溶剤をなくすという使用安全性面から、近年は、腸溶性基剤の粉末を水に分散させた分散液をスプレーして腸溶性被膜を形成させる水系腸溶性コーティングが嗜好されており、新しい製剤開発は水分散系コーティングで行われることが主流である。
【0004】
水分散系コーティングの場合では、腸溶性基剤が水に分散された分散液をミスト状に錠剤,顆粒等のコーティング対象物に対してスプレーすることになる。スプレーされた分散液は、コーティング対象物表面に均一に付着するものの分散液中に分散している腸溶性基剤の粉末はそのままの形態を保持しており、コーティング対象物表面に不連続に存在するものである。スプレー後、コーティング対象物表面上で付着した分散液が乾燥されるに従い、コーティング時に同時にスプレーされる可塑剤が腸溶性基剤粒子内に浸透し腸溶性基剤を可塑化しフィルムを形成する。必要とされるコーティング量は、コーティング対象物の形状や、その中に含まれる薬物や添加剤の水への溶解性等の性質により、変動するものである。
【0005】
近年、医療用医薬品再評価に係る溶出試験条件おいて、従来の日本薬局方一液(pH1.2)及び二液(pH6.8)の他に、種々試験液での溶出試験が求められるようになってきており、これに対応する必要がでてきた。このことは、即ち、腸溶性製剤において、日本薬局方一液(pH1.2)においての耐酸性を保持し、二液(pH6.8)での崩壊性及び溶解性を保持するだけでなく、水を含めその中間pHでの溶出挙動を求められることである。例えば、アデノシン三リン酸二ナトリウムの腸溶性顆粒製剤について、薬食審査発第1125001号において、試験液として後記が示されている。
(a)pH1.2:日本薬局方崩壊試験の第1液
(b)pH6.8:日本薬局方試薬・試液のリン酸塩緩衝液(1→2)
(c)水:日本薬局方精製水
(d)pH6.0:薄めたMcIlvaineの緩衝液(0.05mol/L リン酸一水素ナトリウムと0.025mol/L クエン酸を用いてpHを調整)
しかし、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒剤において、上記水系コーティング方法により水での溶出試験における耐水性を保持するためには、従来多量のコーティング量を必要とするものであった。
【0006】
溶解pHの異なる腸溶性基剤を用いた多層腸溶性コーティング層を有する製剤としては、特許文献1及び特許文献2が例示できる。これらに示される製剤は、最大直径3〜10mmの錠剤を主体とする製剤であり、外層の腸溶性コーティング層の溶解pHが内層の腸溶性コーティング層の溶解pHより高いことを特徴とするものである。更に、その目的は、薬効成分の小腸での吸収を抑制し特異的に結腸で溶出させることであり、アデノシン三リン酸を薬効成分とする製剤については検討されておらず、またそれらの製剤の水への溶出性に関しては一切の記載がない。
【0007】
また、少なくとも2層のコーティング層を有する腸溶性顆粒剤が、特許文献3に例示される。しかし、これは、その記載から腸溶性基剤を用いたコーティング層の内側あるいは外側または両方に腸溶基剤以外のコーティング層を有するものである。
【0008】
特許文献4には、メタクリル酸−メタクリル酸メチルエステル共重合体を基剤とする腸溶性コーティング層の外表面に水溶性又は腸溶性のコーティング基剤により保護コーティング層を施した多層コーティング層を有する腸溶性製剤が開示されている。そして、その具体例として内側の腸溶性コーティング層にメタクリル酸−メタクリル酸メチル(モル比1:2)エステル共重合体を、外側の保護コーティング層にメタクリル酸−メタクリル酸メチル(モル比1:1)エステル共重合体を用いた2層の腸溶性コーティング層を有する製剤が例示されている。しかし、これらの製剤は顆粒剤の溶出制御を目的とするものではなく、錠剤やカプセル製剤について腸溶性コーティング層の物理的保護を目的としたものである。保護コーティング層のメタクリル酸−メタクリル酸メチル(モル比1:1)エステル共重合体は、腸溶性コーティング層の保護という目的を果たした後、必要な部位において薬剤が放出するのを妨げないよう、腸溶性コーティング層より先に胃腸管で溶解される基剤として例示されたものである。このような外層の基剤の例としてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)が例示されているが、その具体的な使用については開示されておらず、また、それぞれ溶解pHの異なるHPMCASを基剤として腸溶性コーティング層を積層したことによる水への溶出性に対する効果については一切の記載がない。また、アデノシン三リン酸を薬効成分とする製剤についての検討もなされていない。
【特許文献1】特開平10−203983号公報
【特許文献2】特表平11−506433号公報
【特許文献3】特開平8−109126号公報
【特許文献4】特表2005−510539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒剤において、低コーティング量で水への溶出が抑制された腸溶性顆粒剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分として担持する素顆粒に対して、腸溶性コーティング層を施した顆粒剤であって、例えば腸溶性基剤として溶解pHの異なる少なくとも2種のHPMCASを使用し、溶解pHが相対的に高いHPMCASを含むコーティング剤を用いて第1の腸溶性コーティング層を形成し、次いで溶解pHが相対的に低いHPMCASを含むコーティング剤を用いて第1の腸溶性コーティング層の上に第2の腸溶性コーティング層を形成することにより、低コーティング量で水への溶出が抑制された腸溶性顆粒を製造できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
従って、本発明は、以下に示す低コーティング量で水への溶出が抑制されたアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒剤及びその製造方法を提供するものである。
【0011】
具体的には、薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を担持する素顆粒又は該素顆粒と該素顆粒を被覆する一以上の層とを含む顆粒と、該素顆粒又は該顆粒を被覆する第1腸溶性層とその上の第2腸溶性層を含む腸溶性顆粒剤であって、該第1腸溶性層と該第2腸溶性層が、溶解pHの異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含み、該第2腸溶性層のHPMCASの溶解pHが、該第1腸溶性層HPMCASの溶解pHより低い腸溶性顆粒剤を提供する。また、薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を担持する素顆粒又は該素顆粒と該素顆粒を被覆する一以上の層とを含む顆粒を、HPMCASを含む腸溶性コーティング剤で被覆して第1腸溶性層を形成する工程と、上記第1腸溶性層の上に、上記HPMCASよりも溶解pHが低いHPMCASを含む腸溶性コーティング剤を用いて第2腸溶性層を形成する工程とを含んでなる腸溶性顆粒剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を薬効成分とする腸溶性顆粒への従来のコーティングにおいて、低コーティング量で通常達成されない耐水性を得られることから、製剤の腸溶性コーティング量に制限がある場合でも充分な性能を得ることができる。また、素顆粒の性質から少量の水の浸透でも問題が発生する場合でも適度なコーティング量でその素顆粒を水から保護することができる。更には、コーティング時間の短縮及びコスト削減の効果も同時に得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の素顆粒としては、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩の他に、乳糖、バレイショデンプン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、カルメロースカルシウム等を含むことができるが、特に制限されるものではない。
【0014】
アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩としては、経口投与に使用できるものであれば、特に制限されない。例えば、日本薬局方外医薬品規格のアデノシン三リン酸二ナトリウム等が使用できる。
薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩の素顆粒中の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば5〜25質量%が好ましい。
【0015】
また、素顆粒の平均粒子径も制限がないものの、一般的な概念では素顆粒の平均粒子径として200〜1,000μmが好ましく、コーティング後の腸溶性顆粒の平均粒子径にも制限がないものの、同様に一般的概念では平均的な腸溶性顆粒サイズとして2mm以下が好ましい。
【0016】
また、素顆粒には、第1腸溶性層と第2腸溶性層とは別のコーティング層として、アンダーコーティング層が施されていてもよい。
アンダーコーティング層は、第1腸溶性層と素顆粒の間に設けられるものであり、素顆粒の保護コーティング又は溶出特性の調整等を目的とする。アンダーコーティング層としては、特に制限されないが、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、HPMCAS、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、メタアクリル酸−アクリル酸エチルエステル共重合体,メタアクリル酸−メタアクリル酸メチルエステル共重合体等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して用いることもできる。また、ポリエチレングリコール等のフィルム形成助剤や結晶セルロース、乳糖、炭酸カルシウム、タルク等の付着防止剤を適宜添加してもよい。アンダーコーティング層のコーティング量は、素顆粒に対して0.5〜10質量%、特に1〜5質量%が好ましい。また、必要に応じて複層のコーティング層を形成しても良い。
【0017】
本発明において、第1腸溶性層と第2腸溶性層を形成するためのコーティング剤に含まれるHPMCASとは、「医薬品添加物規格1998」に示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのことであり、メトキシル基12.0〜28.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基4.0〜23.0質量%、アセチル基2.0〜16.0質量%及びサクシノイル基4.0〜28.0質量%を含むヒドロキシプロピルメチルセルロースの酢酸及びモノコハク酸の混合エステルである。
【0018】
HPMCASの溶解pHは、HPMCASが溶解し始めるときの水性媒体中のpHであり、同一緩衝液で試験をした場合、相対的序列が規定されるものである。
本発明ではHPMCASの溶解pHの違いを利用するため、溶解pHの測定方法としては、溶解pHの相対的な違いを示すことができる方法であれば特に限定がされるものではない。例えば、McIlvaine、Clark−Lubs等が挙げられる。
溶解pHの異なるHPMCASとしては、上記各置換基種の置換量について下記に示すAからCに該当するものが挙げられる。
A:メトキシル基20.0〜24.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基5.0〜9.0質量%及びサクシノイル基14.0〜18.0質量%を有するHPMCAS、
B:メトキシル基21.0〜25.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基7.0〜11.0質量%及びサクシノイル基10.0〜14.0質量%を有するHPMCAS、
C:メトキシル基22.0〜26.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基6.0〜10.0質量%、アセチル基10.0〜14.0質量%及びサクシノイル基4.0〜8.0質量%を有するHPMCAS。
このうち、Aは最も低いpHで溶解し、Cは最も高いpHで溶解し、Bは溶解pHがA及びCの中間に位置するものである。高分子論文集,vol.42,No.11,pp.803−808(Nov.1985)にMcIlvaine緩衝液を用いて測定されたA、B、Cの溶解pHに関する記載があり、各々のpHは5.5、6.0、6.5である。また、溶解pHの異なるHPMCASとしては、AからCの何れか2種以上を混合したものを用いてもよい。
【0019】
第2腸溶性層と第1腸溶性層の総コーティング量は、素顆粒に対して、好ましくは5〜60質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。
本発明の腸溶性顆粒剤における第1腸溶性層と第2腸溶性層のコーティング量の割合(第1腸溶性層/第2腸溶性層の質量比)は、好ましくは(25/75)〜(98/2)、更に好ましくは(30/70)〜(95/5)、特に好ましくは(50/50)〜(95/5)である。(25/75)〜(98/2)の範囲を外れると、耐水性の効果が低下する場合がある。
【0020】
本発明において、第1腸溶性層と第2腸溶性層を形成するコーティング剤に上記AからCのHPMCASを用いる場合、それぞれのコーティング層を形成するコーティング剤に含まれるHPMCASの組み合せとしては、AとB、AとC、BとCのいずれかであることが好ましく、特にAとCの場合、耐水性が優れている。
【0021】
本発明において使用するHPMCAS及びその他の各種コーティング層を形成する基剤は、コーティング対象物表面で良好な緻密性を得る意味で微粉末の方が良く、レーザー回折法による平均粒子径として、好ましくは10μm未満、特に好ましくは7μm以下である。更に、同様にレーザー回折法による90%積算粒子径として、好ましくは20μm以下、特に好ましくは15μm以下である。
【0022】
第1腸溶性層と第2腸溶性層を形成するための腸溶性コーティング剤のいずれか一方又は両方は、好ましくは可塑剤を含むことができる。
可塑剤としては、例えばクエン酸トリエチル、トリアセチン、ジアセチン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の公知のものが挙げられ、HPMCAS及びその他の各種コーティング層を形成する基剤に含むことができる。特に第1腸溶性層と第2腸溶性層のコーティング剤が可塑剤を含む場合、クエン酸トリエチルを単独又はその他の可塑剤と組み合わせて使用することが望ましい。
【0023】
本発明の腸溶性顆粒剤において、各コーティング剤中の可塑剤の添加量は、腸溶性基剤(HPMCAS)に対して、好ましくは5〜60質量%、特に好ましくは15〜40質量%である。これより少ないと腸溶性基剤を充分に可塑化することが難しいため所望の耐水性が得られず、これより多いとコーティング顆粒表面の付着性によりコーティング中に団粒を生じやすくなったり、コーティング顆粒が保存中に付着するという問題を生ずることがある。
【0024】
本発明において、第1腸溶性層及び/又は第2腸溶性層のHPMCASと可塑剤との組合せとしては、上記の平均粒径を有する微粉のHPMCASとクエン酸トリエチルの組合せが特に好ましい。
【0025】
溶解pHの異なるHPMCASが上記AからCである場合、コーティング剤に添加する可塑剤の割合は、HPMCASに対して、好ましくは、それぞれ10〜30質量%、20〜40質量%及び30〜60質量%であり、特に好ましくは、それぞれ15〜25質量%、25〜35質量%及び30〜40質量%である。また、第2腸溶性層と第1腸溶性層のコーティング剤に添加する可塑剤の割合は、上記の範囲であって各々異なることが好ましく、第2腸溶性層のコーティング剤、すなわち溶解pHが相対的に低いHPMCASを含むコーティング剤に添加する可塑剤の割合が、より小さいことが望ましい。HPMCASが上記AからCの混合物である場合には、AからCの混合比に応じて可塑剤の添加量を調整すればよい。
【0026】
また、上記各コーティング剤中には、結晶セルロース、乳糖、炭酸カルシウム、タルク等の付着防止剤を含んでいても良く、特にタルクが好ましい。可塑剤は腸溶性基剤の造膜温度を低下させる効果により用いられることから、使用する量によっては団粒を生じさせたり、コーティング顆粒が保存中に付着するという問題を生ずることがあるため、これを防止するために加えるものである。
【0027】
付着防止剤の添加量は、各層の腸溶性基剤(HPMCAS)に対して、好ましくは5〜200質量%、より好ましくは5〜100質量%、更に好ましくは10〜60質量%である。5質量%より少ないと、団粒等の付着による問題を効果的に防止できず、200質量%より多いと腸溶性被膜に欠陥を生ずる要因となり、所望の耐酸性及び耐水性が得られない場合がある。
【0028】
本発明の腸溶性顆粒剤において、第1腸溶性層と第2腸溶性層のいずれか一方又は両方が水分散系コーティングにより形成される場合、コーティング剤として用いる腸溶性コーティング液中には、濡れ性改善のため、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ジオクチルソジウムスルホサクシネートのような界面活性剤を更に加えても良く、特にラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
界面活性剤の添加量としては、分散性、耐水性の観点から、各層の腸溶性基剤に対して、好ましくは0.5〜10質量%、特に好ましくは1.0〜5.0質量%である。
【0029】
第2腸溶性層の腸溶性コーティング層の更に上に、放置による顆粒製剤の付着防止、甘味付与、苦み隠蔽等を目的として、必要に応じてオーバーコーティング層を設けることができる。
オーバーコーティング層としては、腸溶性基剤以外であれば特に制限されないが、例えばステアリン酸、カルナウバロウ、ビーズワックス等のワックス類、乳糖、炭酸カルシウム、タルク等の付着防止剤、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のコーティング基剤等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して用いることもできる。また、コーティング基剤の場合には、ポリエチレングリコール等のフィルム形成助剤のようなものを適宜添加してもよい。オーバーコーティング層のコーティング層のコーティング量は、目的とする効果が得られる量であれば良く、特に限定されない。
【0030】
また、必要に応じて複層のオーバーコーティング層を形成しても良い。また、オーバーコーティング層に用いられる材料は、同一物質であって、含有する置換基種の置換量に応じて物性の異なる種類の基剤を組合せて使用しても良い。
【0031】
次に、本発明の腸溶性顆粒剤の製造方法について述べる。
本発明の素顆粒は、アデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩と、乳糖、バレイショデンプン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、カルメロースカルシウム等とを流動層造粒、流動転動造粒、撹拌造粒、押出造粒、転動造粒、溶融造粒等の常法に従って、造粒することにより得ることができる。溶解pHの異なるHPMCASを含む第1腸溶性層と第2腸溶性層、並びにその他の各種コーティング層を形成するコーティング液は、必要に応じて可塑剤や湿潤性改良剤を添加して、有機溶剤に溶解するか、水性ラテックス又は水の分散液として調製する。
水分散系の場合、可塑剤を水に溶解し次いで界面活性剤等の添加剤を添加し、更に腸溶性基剤、タルク及びその他の水に分散する添加剤を分散させた分散液を一つのコーティング液とする場合と、上述したコーティング液から可塑剤のみを除いたコーティング液と可塑剤溶液の二つの液とする場合のいずれも使用できる。二つの液とする場合は、各々の液を別々に同時にスプレーするものである。
【0032】
流動層コーティング装置等の通常のコーティング装置を用いて、素顆粒に順次調製されたコーティング液をコーティングする。この際、各コーティング層は別々にコーティングして形成することが好ましい。すなわち、素顆粒に対して、第1の基剤を含む第1のコーティング剤でコーティングして第1層のコーティング層を形成し、次いで第2の基剤を含む第2のコーティング剤を用い第1のコーティング層上にコーティングし第2層のコーティング層を形成し、更にその後、同様にして順次コーティング層を重ねて必要に応じて水溶性又は腸溶性コーティング層を形成する。その上に、第1腸溶性層と第2腸溶性層を形成するためコーティング液のうち、溶解pHが高い方のHPMCASを含むコーティング液を用いて第1腸溶性層を形成し、さらにその上に、溶解pHが低い方のHPMCASを含むコーティング液を用いて第2腸溶性層を形成すればよい。
また、第1の基剤を含む第1のコーティング剤をコーティングした後、第2の基剤を含む第2のコーティング剤をコーティングする前に、及び/又は第2の基剤を含む第2のコーティング剤をコーティング終了した時点で、必要に応じてコーティング層を乾燥する工程を入れることができる。乾燥条件は、通常顆粒コーティングで実施される条件から選択され、その条件が薬物の有効成分を損なわないものであれば、特に制限はない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は後記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
(1)素顆粒の作成
アデノシン三リン酸二ナトリウム1700g、乳糖5110g、バレイショデンプン2330g、結晶セルロース1050g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース1940g、カルメロース500g及びヒドロキシプロピルセルロース370gを、撹拌造粒装置(深江パウテック社製FS−GS−65J型)で3分間混合した。更に、50v/v%エタノール水溶液8.6Lを加えて練合した後、押し出し造粒装置(畑鐡工所社製HG−300−V−II型)に入れスクリーン径Φ1.0mmで押し出し、マルメ装置(不二パウダル社製QJ-400型)によりプレート回転数800rpmで球形化処理を施し、流動層造粒乾燥コーティング装置(フロイント社製FLO−5/15型)により給気温度55℃で30分間乾燥した。得られた顆粒を14メッシュ〜22メッシュ(目開き1180〜710μm)の粒度に篩分けたし、アデノシン三リン酸二ナトリウム13.1質量%を含有する素顆粒を得た。
【0034】
(2)コーティング液の調製
室温の精製水に必要量のクエン酸トリエチル(可塑剤)を入れ溶解し、その後、所定量のラウリル硫酸ナトリウム(湿潤性改良剤)を溶解した。その液に、HPMCASを撹拌しながら分散させ、更に、タルクを所定量分散させコーティング液とした。
コーティング膜を2層形成するために、2種類のコーティング液を用意した。1層目(第1腸溶性層)のコーティング液に含まれるHPMCASは、上記Cに該当するもの(信越化学工業社製、信越AQOAT)を用い、2層目(第2腸溶性層)のコーティング液に含まれるHPMCASは、上記Aに該当するもの(信越化学工業社製、信越AQOAT)を用いた。表1に各コーティング液の組成を示す。
【0035】
(3)コーティング操作
上記(1)で作成したアデノシン三リン酸二ナトリウム含有素顆粒 6400gを流動層造粒乾燥コーティング装置(フロイント社製FLO−5/15型)に仕込み、上記(2)で得たコーティング液を用いて以下の条件で腸溶性コーティングを施した。1層目のコーティングが終了し乾燥工程を行った後、2層目のコーティングを実施した。各層のコーティング量を表1に示す。
(コーティング条件)
スプレー方式:トップスプレー
ガン高さ:剤面から約6−8cm(静止時)
流動空気量:5−7m3/min.
スプレー空気圧:0.3MPa
吸気温度:65−75℃
排気温度:35−40℃
コーティング液噴霧速度:100−160mL/min.
【0036】
(4)コーティング顆粒剤の評価
最終的に得られた腸溶性顆粒剤について、溶出試験器(日局パドル法 75 rpm、試験液 900 mL)を用いて、以下に示す条件でアデノシン三リン酸二ナトリウム溶出率を測定した。得られた評価結果を第1表に示す。
(測定条件)
試験液と時間:
pH1.2:日本薬局方崩壊試験の第1液(120分後の溶出率)
pH6.8:日本薬局方試薬・試液のリン酸塩緩衝液(1→2)(30分後の溶出率)
水:日本薬局方精製水(120分後及び360分後の溶出率)
サンプル量:600mg
測定:UV 259nm
【0037】
実施例2〜4
1層目のコーティングと2層目のコーティングのコーティング量の質量比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0038】
比較例1
実施例1に示す1層目のコーティング液のみを使用し、1層コーティングを施し、その量が多い以外は、全て実施例1と同様に実施した。
【0039】
比較例2
実施例1に示す1層目のコーティング液のみを使用し、1層コーティングを施した以外は、全て実施例1と同様に実施した。
【0040】
比較例3
実施例1に示す2層目のコーティング液のみを使用し、1層コーティングを施した以外は、全て実施例1と同様に実施した。
【0041】
比較例4
実施例1に示したコーティング液組成において、1層目のコーティング液に含まれるHPMCASとして、HPMCAS中で最も低いpHで溶解する上記Aを用い、2層目のコーティング液に含まれるHPMCASは、HPMCAS中で最も高いpHで溶解する上記Cを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
【0042】
比較例5
実施例1に示したコーティング液組成において、1層目のコーティング液に含まれるHPMCASとして、HPMCAS中で最も高いpHで溶解する上記Cを用い、2層目のコーティング液として、オイドラギッド(Eudragit)L 100を用いた以外は実施例1と同様に実施した。なお、オイドラギッドL 100(ローム・ファーマ社製)は、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの1:1(モル比)の分子量135,000の共重合体でありpH6以上で溶解する。
【0043】
比較例6
実施例1に示したコーティング液組成において、1層目のコーティング液として、オイドラギッドS 100を用い、2層目のコーティング液として、オイドラギッドL 100を用いた以外は実施例1と同様に実施した。なお、オイドラギッドS 100(ローム・ファーマ社製)は、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの1:2(モル比)の分子量135,000の共重合体でありpH7以上で溶解する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、実施例1〜4で示す腸溶性顆粒剤は、比較例2〜6と比較して、同量のコーティング量でより優れた充分な耐水性を示す。特に実施例3及び4は、比較例1で示す通常の腸溶性コーティングと比較して、約半分のコーティング量で同等の耐水性を示すものである。
【0047】
本発明の腸溶性顆粒剤において、低コーティング量で水への溶出が抑制される機構を実施例を用いて以下に示す。素顆粒に対して、最初にコーティングされるCを含む第一のコーティング液は、Cに対して質量比で35質量%のクエン酸トリエチルを含む。次にコーティングされるAを含む第二のコーティング液は、Aに対して20質量%のクエン酸トリエチルを含む。クエン酸トリエチル量の多いCを含むコーティング層とクエン酸トリエチル量の少ないAを含むコーティング層の界面において、一部クエン酸トリエチルの移行を生じ、界面近傍のAを含むコーティング層はより緻密になっていると推定される。しかしながら、最外層まではその影響がないため、付着等の問題を生じない。この緻密な界面層により、少ないコーティング量で必要充分な耐水性が確保されたと考察できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を担持する素顆粒又は該素顆粒と該素顆粒を被覆する一以上の層とを含む顆粒と、該素顆粒又は該顆粒を被覆する第1腸溶性層とその上の第2腸溶性層を含む腸溶性顆粒剤であって、該第1腸溶性層と該第2腸溶性層が、溶解pHの異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含み、該第2腸溶性層のHPMCASの溶解pHが、該第1腸溶性層のHPMCASの溶解pHより低い腸溶性顆粒剤。
【請求項2】
上記第1腸溶性層と上記第2腸溶性層のいずれか一方又は両方が、さらに可塑剤を含む請求項1に記載の腸溶性顆粒剤。
【請求項3】
上記可塑剤が、クエン酸トリエチルである請求項2に記載の腸溶性顆粒剤。
【請求項4】
上記HPMCASが、下記A〜C:
A:メトキシル基20.0〜24.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基5.0〜9.0質量%及びサクシノイル基14.0〜18.0質量%を有するHPMCAS、
B:メトキシル基21.0〜25.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基7.0〜11.0質量%及びサクシノイル基10.0〜14.0質量%を有するHPMCAS、
C:メトキシル基22.0〜26.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基6.0〜10.0質量%、アセチル基10.0〜14.0質量%及びサクシノイル基4.0〜8.0質量%を有するHPMCAS、
から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の腸溶性顆粒剤。
【請求項5】
上記第1腸溶性層と上記第2腸溶性層が、上記HPMCASの水分散系コーティング液を用いて形成されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の腸溶性顆粒剤。
【請求項6】
薬効成分としてアデノシン三リン酸又はその薬学的に許容される塩を担持する素顆粒、又は該素顆粒と該素顆粒を被覆する一以上の層とを含む顆粒を、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む腸溶性コーティング剤で被覆して第1腸溶性層を形成する工程と、
上記第1腸溶性層の上に、上記HPMCASよりも溶解pHが低いHPMCASを含む腸溶性コーティング剤を用いて第2腸溶性層を形成する工程と
を含んでなる腸溶性顆粒剤の製造方法。
【請求項7】
上記第1腸溶性層と上記第2腸溶性層を形成するための腸溶性コーティング剤のいずれか一方又は両方が、可塑剤を含む請求項6に記載の腸溶性顆粒剤の製造方法。
【請求項8】
上記可塑剤が、クエン酸トリエチルである請求項7に記載の腸溶性顆粒剤の製造方法。
【請求項9】
上記第1腸溶性層と第2腸溶性層を形成するための腸溶性コーティング剤に含まれるHPMCASが、下記A〜C:
A:メトキシル基20.0〜24.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基5.0〜9.0質量%及びサクシノイル基14.0〜18.0質量%;
B:メトキシル基21.0〜25.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基5.0〜9.0質量%、アセチル基7.0〜11.0質量%及びサクシノイル基10.0〜14.0質量%;
C:メトキシル基22.0〜26.0質量%、ヒドロキシプロポキシル基6.0〜10.0質量%、アセチル基10.0〜14.0質量%及びサクシノイル基4.0〜8.0質量%;
から選ばれる請求項6〜8のいずれかに記載の腸溶性顆粒剤の製造方法。
【請求項10】
上記第1腸溶性層と上記第2腸溶性層を形成するための腸溶性コーティング剤が、水分散系コーティング液である請求項6〜9のいずれかに記載の腸溶性顆粒剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−332102(P2007−332102A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167815(P2006−167815)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】