説明

膜分離型水素製造装置及びそれを用いた水素製造方法

【課題】水素濃度の高い改質ガスが得られる条件で改質反応を行うとともに、同一の反応器内で水素分離膜にとって好適な条件で水素分離膜による水素の分離精製を行うことが可能で、結果としてコンパクトでかつ高い収率で水素を製造することが可能な水素製造装置を提供する。
【解決手段】炭化水素と水蒸気の入口部1を上流として、上流側に水蒸気改質触媒層2が配置され、該水蒸気改質触媒層2の下流側に非触媒粒子からなる非触媒層3が配置され、さらに、該非触媒層3の下流側に改質ガスのシフト反応を行うシフト触媒からなるシフト触媒層4が配置されており、水素分離膜5が、前記シフト触媒層4を貫通して、前記水蒸気改質触媒層2に配置又は接することなく、前記非触媒層3内に少なくとも一部がかかるように配置されていることを特徴とする膜分離型水素製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離型水素製造装置及びそれを用いた水素製造方法に関し、特には、水素分離膜を用いて水素を効率よく製造することが可能な水素製造装置及び水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素の改質反応により水素を含有する改質ガスを生成させ、該改質ガスからPd系水素分離膜を利用して水素を分離する膜分離型水素製造装置においては、水素発生量が高くなる高温領域で改質反応を行う運転を志向することが多い。これに対し、Pd系水素分離膜の中でも特に利用が進んでいるPd−Ag合金系の水素分離膜では、膜の温度が高温になるほど水素透過特性は高くなるが、水素分離膜自体の強度は低下する。一方、Pd−Cu合金系の水素分離膜においては、膜の温度が450℃近傍で最も高い水素透過特性を示し、それ以上の高温では水素の透過特性および水素分離膜自体の強度が低下する。
【0003】
また従来、水素分離膜を利用した水素の製造装置は、例えば、特許文献1(特開平06−048701号公報)に記載されているように、水素分離膜の周りに改質触媒を配して構成されていた。しかしながら、このような構成においては、改質触媒層と水素分離膜とがほぼ同じ温度で運転されるため、Pd−Ag系水素分離膜を組み込んだ場合には、改質反応温度が高いほど水素濃度が高い組成の改質ガスが得られ、水素分離膜の水素透過性からも、望ましい装置運転条件となるが、500〜800℃のような高温においては水素分離膜の強度の点で問題が生じる。一方、Pd−Ag系水素分離膜に比べて高温での強度が期待できるPd−Cu系の水素分離膜は、水素透過特性が極大を示す温度領域(350〜600℃)が改質反応に望ましい温度領域(600〜800℃)よりも低い。そのため、Pd−Cu系水素分離膜を利用し、Pd−Cu系水素分離膜が良好な水素透過性能を示す温度条件で水素製造装置を運転した場合、改質触媒を水素分離膜の周囲に配した同一反応器内では、改質反応に最適な温度範囲よりも低い温度条件で改質反応を行うことになるため、改質反応において水素濃度が十分に高い改質ガスを得ることができず、水素分離膜表面に水素濃度が十分に高いガスを供給することが困難であった。
【0004】
また、上記のような膜分離型の水素製造装置においては、原料ガスの入口付近で反応に伴う吸熱のため水蒸気改質触媒の温度が低下する。これに対し、触媒層入口領域での反応量の低下と温度低下に伴うコーキングの抑制を目的として、改質触媒層内のガスの流れと水素分離膜の低圧側のガスの流れとを向流に設定するとともに、水素分離管の触媒層入口部分に水素分離膜を有しない素管部分である伝熱部を設けた水蒸気改質反応器が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この水蒸気改質反応器は、改質触媒層入口領域の温度低下の抑制を目的としたものであって、水素分離膜は改質触媒層内に内蔵され、水素分離膜は改質触媒層と同じ温度にさらされている。
【0005】
さらに、炭素および水素を含む化合物の燃料を改質反応器内で水素を含む燃料ガスに変換する改質システムにおいて、反応器の化合物入口付近の領域には水素分離膜を設けない改質システムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、このシステムは、水素の差圧を用いて貯蔵手段に水素を蓄えるため、入口付近の領域に水素分離膜を設けないことで水素分圧を高め、水素分離膜により水素を分離して貯蔵手段に蓄えることを目的としており、水素分離膜は改質触媒に接して設けられているため、水素分離膜の温度は改質触媒層の温度と同じである。
【0006】
【特許文献1】特開平6−48701号公報
【特許文献2】特開平6−40702号公報
【特許文献3】特開2004−18280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の膜分離型の水素製造装置は、水素分離膜の耐久性および水素透過性能の観点から水素分離膜の温度を350〜550℃として運転されることが好ましい。加えて、装置内は加圧状態でもあり、平衡反応である改質反応の特性上から、改質ガス中の水素濃度が高くならない条件で運転されるため、高い水素透過量が得られないという課題があった。また、改質ガス中の水素濃度を上げるために予備改質器を設けた場合には、コンパクトな水素製造装置とはならないという問題が発生する。
【0008】
そこで、本発明の目的は、水素濃度の高い改質ガスが得られる条件で改質反応を行うとともに、同一の反応器内で水素分離膜にとって好適な条件で水素分離膜による水素の分離精製を行うことが可能で、結果としてコンパクトでかつ高い収率で水素を製造することが可能な水素製造装置と、該水素製造装置を用いた水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、炭化水素と水蒸気の混合ガスを反応器の上流部分に配置した水蒸気改質触媒層に供給して、高い温度で水蒸気改質を行い、改質ガスを水蒸気改質触媒層の下流部分に配置した非触媒層に供給して冷却し、水素分離膜が水素透過に好ましい温度になるように制御して、水素濃度の高い改質ガスから水素分離膜により水素を分離し、さらには、非触媒層の下流にシフト触媒層を配置して、該シフト触媒層に水素が分離され水素分圧が低下した改質ガスを供給し、シフト反応により水素を生成させるとともに、生成した水素を水素分離膜により分離することで、効率良く水素を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含するものである。
【0010】
(1)炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなる水蒸気改質触媒層と、水素透過能を有する水素分離膜とを備える膜分離型水素製造装置であって、
炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側に前記水蒸気改質触媒層が配置され、該水蒸気改質触媒層の下流側に非触媒粒子からなる非触媒層が配置され、さらに、該非触媒層の下流側に改質ガスのシフト反応を行うシフト触媒からなるシフト触媒層が配置され、
前記水素分離膜は、前記シフト触媒層を貫通して、前記水蒸気改質触媒層に配置又は接することなく、前記非触媒層内に少なくとも一部がかかるように配置されている
膜分離型水素製造装置。
【0011】
(2)前記非触媒粒子が、アルミナ、シリカ、及びシリカ−アルミナの少なくとも1種である上記(1)の膜分離型水素製造装置。
【0012】
(3)前記水素分離膜が、焼結フィルター部を有する金属管の焼結フィルター部上にバリア層を設け、該バリア層の上にパラジウム−銅合金のメッキ膜を配したものである上記(1)又は(2)の膜分離型水素製造装置。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの膜分離型水素製造装置の水蒸気改質触媒層に炭化水素と水蒸気の混合ガスを供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させ、
次に、前記改質ガスを非触媒層に供給し、非触媒粒子と接触させて改質ガスの温度を低下させた後、
前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出し、
さらに、水素が分離された改質ガスをシフト触媒層へ供給し、シフト反応により水素を生成させるとともに、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出す
水素製造方法。
【0014】
(5)前記水蒸気改質触媒層の温度が、前記水素分離膜の温度より高い温度である上記(4)の水素製造方法。
【0015】
(6)前記水蒸気改質触媒層の温度が600〜800℃であり、水素分離膜の温度が600℃未満である上記(5)の水素製造方法。
【0016】
(7)前記炭化水素が、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分からなる群から選択される少なくとも一種である上記(4)〜(6)のいずれかの水素製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、改質反応と水素分離膜による水素の分離精製を、それぞれ好適な温度条件で行えるようにしたので、高効率で水素を回収できるコンパクトな膜分離型の水素製造装置ならびに該装置を用いた高効率な水素製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の膜分離型水素製造装置及び水素製造方法を、図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。図1に示す膜分離型水素製造装置においては、炭化水素と水蒸気の入口部1を上流として、上流側に水蒸気改質触媒層2が配置され、該水蒸気改質触媒層2の下流側に非触媒粒子からなる非触媒層3が配置され、該非触媒層3の下流側に改質ガスのシフト反応を行うシフト触媒からなるシフト触媒層4が配置されており、更に、水素分離膜5が、シフト触媒層4を貫通して、水蒸気改質触媒層2に配置又は接することなく、非触媒層3内に少なくとも一部がかかるように配置されている。また、図1に示す膜分離型水素製造装置は、シフト触媒層4の下流側に非透過ガスの出口部6が設けられており、更に水素分離膜5に連通する製品水素の出口部7を備える。
【0019】
図1に示す膜分離型水素製造装置においては、炭化水素と水蒸気とを入口部1を通して水蒸気改質触媒層2に供給して、水蒸気改質反応により改質ガスを生成させる。生成した改質ガスは、非触媒層3に供給されて、冷却され、非触媒層3に一部内蔵される水素分離膜5を透過して製品水素として、出口部7を通して装置外に取り出される。また、水素分離膜5を透過しなかった改質ガスは、シフト触媒層4に供給されて、シフト反応を受け、該シフト反応で発生した水素は、シフト触媒層4に接する水素分離膜5を透過して製品水素として、出口部7を通して装置外に取り出される。一方、水素分離膜5を透過することなく、シフト触媒層4を通過したガスは、非透過ガスとして出口部6から装置外に排出される。
【0020】
[原料炭化水素]
改質反応により水素を製造するための原料となる炭化水素としては、沸点が370℃以下の炭化水素及びそれらの混合物を用いることができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、天然ガス、LPガスなどの常温で気体状態の炭化水素の他、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分などの常温で液体状態の石油系炭化水素を用いることができる。
【0021】
ナフサ留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として30℃〜180℃の範囲内の沸点を有する留分である。ナフサ留分としては、例えば、沸点範囲が30〜80℃程度の軽質ナフサ留分、沸点範囲が80〜180℃程度の重質ナフサ留分、沸点範囲が30〜180℃程度のホールナフサ留分などが含まれる。
【0022】
ガソリン留分は、沸点範囲として30℃〜200℃の範囲内の沸点を有する留分であり、市販の自動車ガソリン、工業ガソリンの他、自動車ガソリンの調合に用いられる沸点が上記の範囲内である中間製品(基材とも呼ばれる)、沸点が上記の範囲にある中間製品や自動車ガソリンに相当する留分も含まれる。
【0023】
灯油留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として140℃〜270℃の範囲内の沸点を有する留分であり、灯火用、暖房用、ちゅう房用などの市販灯油の他に、上記の範囲内の沸点を有する灯油相当の留分が含まれる。
【0024】
軽油留分は、沸点範囲160℃〜370℃の範囲内の沸点を有する留分であり、ディーゼルエンジン用などに使用する市販軽油の他、上記の範囲内の沸点を有する軽油相当の留分が含まれる。
【0025】
製品の流通面、コスト、入手の容易性から、メタン、LPGなどのガス状炭化水素、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分などの液状炭化水素が好ましく、特には灯油留分が好ましい。また、これら炭化水素は、水蒸気改質触媒に対する被毒の観点から、含有する硫黄分が低いものが好ましく、特には硫黄分が50質量ppb以下のものが好ましい。
【0026】
[水蒸気改質触媒、水蒸気改質触媒層]
本発明に用いる水蒸気改質触媒としては、通常の水蒸気改質触媒を用いることができる。例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptのうちから選ばれる少なくとも1種の触媒活性成分を、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Ba、Laの酸化物および/または水和酸化物から選ばれた少なくとも1種の担体成分を含む担体に担持したものを使用することができる。コーキングの発生を抑制する点から、触媒活性成分としてRuやRhの使用が好ましい。
【0027】
これらの水蒸気改質触媒を、炭化水素と水蒸気の混合ガスの供給方向を基準として、最も上流側に配置して水蒸気改質触媒層2とし、該水蒸気改質触媒層2が水素製造装置の改質部Rに相当する。水蒸気改質触媒層2に含ませる水蒸気改質触媒の量は、原料である炭化水素の種類、改質反応温度、スチーム/カーボン比などにより適宜決定することができる。
【0028】
[非触媒粒子、非触媒層]
本発明において、非触媒粒子とは、改質反応に対して実質的に触媒作用を有さない粒子を指し、改質ガスを冷却する役割を担う。改質ガスを冷却するために用いる非触媒粒子の材料としては、改質ガスに対し反応活性の低いマグネシア、マグネシア−酸化カルシウム−シリカ、マグネシア−シリカ、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等のセラミックボールを挙げることができ、これらの中でも、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナが好ましい。その形状としては、リング状、球状、ペレット状等の各種の形状が挙げられる。
【0029】
上記非触媒粒子を水蒸気改質触媒層2の下流側に配置して非触媒層3とする。非触媒層3内には、後述する水素分離膜5が少なくとも一部がかかるように配置されるが、水蒸気改質触媒層2と水素分離膜5とは非触媒層3を介して適宜距離をとり、改質ガスが非触媒層3を通過することにより冷却され、水素分離膜5が水素透過性能に好ましい温度となるようにする。すなわち、水蒸気改質触媒層2から水素分離膜5までの非触媒層3が冷却部Cに相当し、水素分離膜5が配置された非触媒層3の部分が上部分離部Uに相当し、後述のシフト触媒層4の部分が下部分離部Lに相当する。なお、反応器外部より強制的に冷却管などで冷却することも可能である。また、非触媒層3中に熱媒体などを流通させた冷却管を直接通しても良い。このようにして、冷却部Cにおいて、改質ガスを水素分離膜5の水素透過性に適した温度、即ち350℃以上600℃未満、好ましくは350〜550℃まで冷却する。
【0030】
[シフト触媒、シフト触媒層]
さらに、上記非触媒層3の下流側に、シフト触媒を含むシフト触媒層4を配置する。非触媒層3において水素分離膜5により水素が分離され水素分圧が低下した改質ガスをシフト触媒層4に供給することにより、シフト反応によってさらに水素を生成させるとともに、水素分離膜5により水素を分離することで、より高効率で水素を製造することができる。なお、シフト触媒層の温度は、350℃以上600℃未満とすることが好ましく、350〜550℃とすることが更に好ましい。
【0031】
本発明に用いるシフト触媒としては、従来公知のものが使用できる。例えば、触媒活性成分としては、Fe23系、Cu−ZnO系、Ru、Pt、Auなど貴金属系のもの等が挙げられる。これらの触媒活性成分をマグネシア、マグネシア−酸化カルシウム−シリカ、マグネシア−シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ等に担持したものをシフト触媒として使用することができる。シフト触媒層4に含ませるシフト触媒の量は、使用する原料炭化水素の種類、シフト反応温度などにより適宜決定することができる。
【0032】
[水素分離膜]
本発明に用いる水素分離膜5としては、水素の選択的透過性を有する材料であれば特に限定されないが、高い水素透過選択性を有するパラジウム膜、パラジウム合金膜が好ましく、パラジウム−銅、パラジウム−銀などのパラジウム合金膜がより好ましい。
【0033】
上記水素分離膜5としては、図2に示すような、焼結フィルター部8を有する金属管9の焼結フィルター部8上にバリア層10を設け、該バリア層10の上にパラジウム合金のメッキ膜11を配した水素分離膜を用いることが好ましい。ここで、焼結フィルター部8及び金属管9は、ステンレス製であることが好ましく、バリア層10は、ジルコニア、アルミナなどからなることが好ましく、パラジウム合金のメッキ膜11としては、パラジウム−銅合金のメッキ膜、パラジウム−銀合金のメッキ膜などが好ましく、パラジウム−銅合金のメッキ膜が特に好ましい。前記のバリア層10は、焼結フィルター部8の金属成分がパラジウム合金のメッキ膜11へ拡散してメッキ膜11の水素透過性が劣化することを防止するとともに、表面の平滑度を上げて前記パラジウム合金のメッキ膜11に欠陥が生じることを防止する作用を有する。
【0034】
上記水素分離膜5は、シフト触媒層4を貫通して、水蒸気改質触媒層2に配置または接することなく、上記の非触媒層3内に少なくとも一部がかかるように配置される。
【0035】
[水素製造方法]
本発明の膜分離型水素製造装置を用いた水素製造方法は、次のように行う。上記の炭化水素と水蒸気の混合ガスを、まず上記の水蒸気改質触媒層2に供給し、水蒸気改質反応を行い、水素を主成分とする改質ガスを生成させる。ここで、炭化水素と水蒸気の比率は、スチーム/カーボン比(S/C比)として2.5〜4.0の範囲が好ましく、2.8〜3.5の範囲がより好ましい。S/C比が低い状態ではコーキングが発生し、水蒸気改質触媒の活性を低下させてしまう。また、S/C比が必要以上に高い場合は、効率を低下させてしまう。
【0036】
水蒸気改質触媒層2の温度、すなわち改質反応の温度としては、600〜800℃が好ましく、650〜750℃がより好ましい。改質反応の温度が600℃未満の場合は、水素分率が30vol%以下(メタン原料で反応圧0.9MPaGの条件下で)となり十分な水素透過量が得られず、一方、800℃を超える場合は、反応管の材質などとして耐熱材料(カンタル、インコネル、ハステロイなど)が必要となりコストが高くなる。
【0037】
改質反応の圧力としては、0.5〜1.5MPaGが好ましく、0.7〜1.2MPaGがより好ましい。反応圧力が低過ぎると水素透過量が十分得られず、また反応圧力が高過ぎると炭化水素の反応(水素発生側への反応)が進みにくくなる。
【0038】
原料炭化水素として灯油を用いた場合、SV(灯油ベースのLHSV)としては、現状の触媒において0.3〜3.0h-1の範囲が好ましく、0.3〜1.7h-1の範囲がより好ましい。
【0039】
ついで、改質ガスを、水蒸気改質触媒層2の下流側に配置した非触媒層3に供給し非触媒粒子と接触させて、改質ガスの温度を水蒸気改質触媒層2よりも低く水素分離膜5による水素分離に好ましい温度、特には600℃未満まで冷却した後、水素分離膜5により水素を透過分離する。本発明においては、水蒸気改質触媒層2で水蒸気改質反応に好ましい温度条件で改質反応を行わせて、水素含有量が高い改質ガスとなっているので、水素分離膜5により効率的に水素を分離することができる。
【0040】
さらに、水素分離膜5により水素が分離された改質ガスを、非触媒層3の下流側に配置したシフト触媒層4に供給して、シフト反応によりさらに水素を生成させるとともに、シフト触媒層4を貫通して配置されている水素分離膜5により、生成した水素の分離を行う。非触媒層3で水素が分離され水素分圧が低下した分、シフト反応により水素が生成するので、水素の生成量をより高め、高効率で水素を製造することができる。
【0041】
[変形実施形態]
上記においては、本発明を図1に従い説明したが、本発明の膜分離型水素製造装置は、図1に示した以外の構造とすることもできる。例えば、図3に示すように、冷却部Cに冷却管12を設けて、例えば冷却ガスを流すことにより強制的に冷却を行う構造とすることも可能である。このとき冷却ガスとして原料ガスを用い、改質ガスの熱を原料ガスの予熱に利用することで、熱効率を向上させることもできる。また、冷却部Cに冷却管12を設ける代わりに、図4及び図5に示すように、冷却部Cを多管の熱交換器型として、管13内に非触媒層3を充填し、管13の外側を冷却ガスにより冷却するようにしても良い。また、本発明の膜分離型水素製造装置は、図6に示すように、水素分離膜5を複数備えることもできる。
【0042】
本発明によれば、水蒸気改質触媒層2において改質反応を高温(600〜800℃)の条件で行わせるため高水素濃度の改質ガスを得ることができる。改質ガスは、その後、非触媒層3により水素分離膜5の分離性能が十分に発揮される温度まで冷却され、水素分離膜5が設置されている分離部で水素が高い透過率で分離される。更に、水素分離膜5により水素濃度が低くなった改質ガスは、次いでシフト触媒が充填されたシフト触媒層4に導入され、シフト反応を受けてさらに水素が生成するとともに、シフト反応で発生した水素は水素分離膜5により回収される。
【0043】
上述のように、本発明によれば、高効率で水素を回収できる膜分離型水素製造装置および水素製造方法を提供することができる。なお、本発明の膜分離型水素製造装置は、コンパクトな構成で高純度の水素ガスを高効率かつ高回収量で製造できるので、高分子電解質形燃料電池(PEFC)用の水素製造装置、或いは水素ステーションで用いるオンサイト型の水素製造装置として好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
図1に示す構造を有し、内径43mmφ、長さ700mmのSUS製の反応管内に、長さ45mmの水素透過部を有するSUS製の3/8インチ管を水素分離膜モジュールとして備えた装置を用いた。反応管の上部に、一般的な水蒸気改質触媒(Ru系、サイズ2mmφ)を層高30mmになるように充填し、水蒸気改質触媒層とした。
【0046】
原料炭化水素(メタン)を用いて、水蒸気改質触媒層の反応温度600℃(水蒸気改質触媒層の下端)、反応圧力0.9MPaG、スチーム/カーボン比(S/C)=3.0、GHSV(メタン+スチーム)=1500h-1(触媒層は改質触媒層体積基準とする)の条件で改質反応を行った。
【0047】
冷却部には、非触媒粒子として炭化水素・水蒸気に対し反応活性のないシリカ−アルミナのセラミックボール(2mmφ)を充填し、反応生成ガスが500℃に冷却されるまでの距離をとった。
【0048】
上部の水素分離部においては、水素分離膜の周囲には冷却部と同じく、シリカ−アルミナのセラミックボールを充填し、改質部で生成した改質ガスをその組成のまま水素分離部に導入し、水素分離を行った。ここで、水素分離膜モジュールとしては、SUS製の焼結フィルター部を有するSUS管の焼結フィルター部上にバリア層として安定化ジルコニア層(約20μm)を配した支持体にPd−Cu(Cuが40wt%)のメッキ膜(膜厚約3μm)を配したモジュールを使用した。
【0049】
下部の水素分離部においては、水素分離膜の周囲にシフト反応を促進する触媒として改質触媒と同じ触媒を水素分離膜下端より上方に層高20mm充填し、上部の水素分離部で分離した水素濃度の低下した改質ガスをシフト反応させることにより、水素を生成させながら水素分離を行った。
【0050】
上記の結果、水素分離膜を透過した水素として0.24L/minの水素が得られ、水素回収率(透過水素量/生成水素量)は59.8%であった。
【0051】
(比較例1)
図7に示すように、実施例1と同様の構造を有する装置に対して、実施例1で用いたのと同じ水蒸気改質触媒のみを水素分離膜直上に30mm及び水素分離膜の周囲に充填し、水蒸気改質触媒層の下端の温度を500℃とした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。その結果、水素分離膜を透過した水素として0.16L/minの水素が得られ、水素回収率は46.8%であり、実施例1に比べて約2/3の水素回収量であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の膜分離型水素製造装置に用いる水素分離膜の好適例の部分断面図である。
【図3】本発明の膜分離型水素製造装置の他の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の膜分離型水素製造装置の別の一例を示す模式図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】本発明の膜分離型水素製造装置のその他の一例を示す模式図である。
【図7】比較例1で用いた膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 炭化水素と水蒸気の入口部
2 水蒸気改質触媒層
3 非触媒層
4 シフト触媒層
5 水素分離膜
6 非透過ガスの出口部
7 製品水素の出口部
8 焼結フィルター部
9 金属管
10 バリア層
11 パラジウム合金のメッキ膜
12 冷却管
13 管
R 改質部
C 冷却部
U 上部分離部
L 下部分離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなる水蒸気改質触媒層と、水素透過能を有する水素分離膜とを備える膜分離型水素製造装置であって、
炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側に前記水蒸気改質触媒層が配置され、該水蒸気改質触媒層の下流側に非触媒粒子からなる非触媒層が配置され、さらに、該非触媒層の下流側に改質ガスのシフト反応を行うシフト触媒からなるシフト触媒層が配置され、
前記水素分離膜は、前記シフト触媒層を貫通して、前記水蒸気改質触媒層に配置又は接することなく、前記非触媒層内に少なくとも一部がかかるように配置されている
ことを特徴とする膜分離型水素製造装置。
【請求項2】
前記非触媒粒子が、アルミナ、シリカ、及びシリカ−アルミナの少なくとも1種である請求項1に記載の膜分離型水素製造装置。
【請求項3】
前記水素分離膜が、焼結フィルター部を有する金属管の焼結フィルター部上にバリア層を設け、該バリア層の上にパラジウム−銅合金のメッキ膜を配したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜分離型水素製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離型水素製造装置の水蒸気改質触媒層に炭化水素と水蒸気の混合ガスを供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させ、
次に、前記改質ガスを非触媒層に供給し、非触媒粒子と接触させて改質ガスの温度を低下させた後、
前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出し、
さらに、水素が分離された改質ガスをシフト触媒層へ供給し、シフト反応により水素を生成させるとともに、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出す
ことを特徴とする水素製造方法。
【請求項5】
前記水蒸気改質触媒層の温度が、前記水素分離膜の温度より高い温度である請求項4に記載の水素製造方法。
【請求項6】
前記水蒸気改質触媒層の温度が600〜800℃であり、前記水素分離膜の温度が600℃未満である請求項5に記載の水素製造方法。
【請求項7】
前記炭化水素が、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分からなる群から選択される少なくとも一種である請求項4〜6のいずれかに記載の水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−263183(P2009−263183A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117105(P2008−117105)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年4月2日付け平成19・04・02財資第9号平成19年度新燃料油研究開発調査(将来型燃料高度利用研究開発)委託契約に基づき財団法人石油産業活性化センターが国から委託を受けて実施した「将来型燃料高度利用研究開発事業」における「石油液体燃料用膜型反応分離プロセスの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】