説明

膜厚測定方法及び試料作製方法、並びに、膜厚測定装置及び試料作製装置

【課題】最小限の標準試料及び観察対象となる試料からそれぞれ得られる二次信号に関する最小限の検出結果から観察対象となる試料の膜厚を正確にかつ安定して測定することが可能な膜厚測定方法及び膜厚測定装置並びに試料作製方法及び試料作製装置を提供する。
【解決手段】膜厚測定方法は、標準試料における電子ビームの加速電圧と電子ビームに対する二次信号の強度比との関係である標準データを作成する標準データ作成工程S1と、標準データの変化点の加速電圧を基準値として抽出する基準値抽出工程S2と、対象試料に電子ビームを照射して電子ビームの加速電圧と電子ビームに対する二次信号の強度比との関係である測定データを作成する測定データ作成工程S3と、測定データの変化点の加速電圧を特性値として抽出する特性値抽出工程S4と、基準値と特性値との比較に基づいて標準試料の膜厚に対して対象試料の膜厚を評価する評価工程S5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片に形成された試料の膜厚を測定する膜厚測定方法及び膜厚測定装置、並びに、該膜厚測定方法を使用した試料作製方法、及び、該膜厚測定装置を備えた試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイスなどの特定箇所の解析を行う手法として、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型透過電子顕微鏡(STEM)が用いられている。TEMやSTEMによる試料観察は、試料に対して厚さ方向に電子ビームを照射し、試料を透過した電子ビームを検出して画像化することで行われる。このため、TEMやSTEMによる試料観察で、鮮明な観察像を得るためには、集束イオンビーム加工などによって試料を一定の膜厚で、例えば100nm程度の薄片に精度良く加工する必要がある。そして、試料を精度良く薄片に加工するには、所定の膜厚に形成されているか精度良く測定し、この測定結果に基づいて加工に用いられる集束イオンビームなどの制御を行うことが重要である。
【0003】
このような薄片に形成された試料の膜厚の測定方法としては、膜厚を測定する薄片に形成された膜厚測定領域と、膜厚測定領域外で薄片に形成されていない参照領域とにおいて、試料に電子ビームをそれぞれ照射して発生する二次電子の強度を検出し、膜厚測定領域の二次電子の強度を参照領域の二次電子の強度で除した計算値に基づいて観察試料の膜厚測定領域の膜厚を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。より詳しくは、予め、膜厚測定領域の膜厚が既知である標準試料を、膜厚を異なるものとして多数用意して、それぞれについて膜厚測定領域及び参照領域のおける二次電子の強度を測定し、上記計算値を算出する。そして、これらの測定結果から、膜厚と上記計算値との関係を調べておく。そして、次に観察対象となる試料について、膜厚測定領域及び参照領域のおける二次電子の強度を測定し、上記計算値を算出することで、予め調べておいた膜厚と上記計算値との関係から、観察対象となる試料の膜厚測定領域の膜厚を評価することができるとされている。
【特許文献1】国際公開第06/073063号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような方法では、膜厚測定領域における二次電子の強度とともに、薄片に形成されていない参照領域における二次電子の強度を検出する必要があった。また、観察対象となる試料の膜厚を精度良く評価するためには、膜厚と、膜厚測定領域の二次電子の強度を参照領域の二次電子の強度で除した計算値との関係を精度良く求めておく必要が有り、すなわち標準試料によるデータを、膜厚を異なるものとして多数用意しておく必要あった。このため、観察対象となる試料の膜厚を測定するに際しては、多数のデータを採取しなければならない問題があった。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、最小限のサンプル数の標準試料及び観察対象となる試料からそれぞれ得られる、二次信号に関する最小限の検出結果から、観察対象となる試料の膜厚を正確に、かつ、安定して測定することが可能な膜厚測定方法及び膜厚測定装置、並びに、該膜厚測定方法を使用した試料作製方法、及び、該膜厚測定装置を備えた試料作製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、薄片に形成された対象試料の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、所定の膜厚に形成された少なくとも一つの標準試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射した場合における、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である標準データを作成する標準データ作成工程と、該標準データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を基準値として抽出する基準値抽出工程と、前記対象試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射して前記対象試料から放出された二次信号の強度を検出し、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である測定データを作成する測定データ作成工程と、該測定データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を特性値として抽出する特性値抽出工程と、前記基準値と前記特性値との比較に基づいて、前記標準試料の膜厚に対して前記対象試料の膜厚を評価する評価工程とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の膜厚測定装置は、試料を固定する試料台と、該試料台に固定された前記試料に加速電圧を変化させて電子ビームを照射可能な電子ビーム鏡筒と、前記試料台に固定された前記試料に電子ビームを照射することで該試料から発生する二次信号を検出可能な二次信号検出手段と、前記電子ビーム鏡筒を制御するとともに、前記二次信号検出手段での検出結果が入力され、前記試料の膜厚を解析する制御部とを備え、該制御部は、前記電子ビーム鏡筒から照射された電子ビームの加速電圧と、照射された電子ビームに対する前記二次信号検出手段で検出された二次信号の強度比との関係である測定データを作成する測定データ作成手段と、所定の膜厚に形成された標準試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射した場合における、前記標準試料の膜厚を表わす膜厚データ、及び、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である標準データを記憶する記憶手段と、前記測定データ及び前記標準データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を抽出可能な測定データ解析手段と、少なくとも一つの前記標準試料に関する前記標準データの前記変化点における加速電圧である基準値と、対象となる前記試料に関する前記測定データの前記変化点における加速電圧である特性値との比較に基づいて、前記膜厚データが表わす前記標準試料の膜厚に対して対象となる前記試料の膜厚を評価する評価手段とを有することを特徴としている。
【0008】
この発明に係る膜厚測定方法及び膜厚測定装置によれば、まず、標準データ作成工程として、所定の膜厚に形成された少なくとも一つの標準試料について標準データを作成し、予め制御部の記憶手段に、標準試料の膜厚データと標準データとを記憶させておく。そして、基準値抽出工程として、制御部の測定データ解析手段は、基準値として、記憶手段に記憶された標準データにおいて、変化点を検出し、この変化点における加速電圧を抽出する。ここで、変化点における加速電圧の大きさは、標準試料の膜厚に依存するものである。
【0009】
次に、測定データ作成工程として、観察対象となる対象試料を測定する。すなわち、制御部の測定データ作成手段は、試料台に固定された試料に対して、電子ビーム鏡筒から電子ビームを照射させる。そして、二次信号検出手段によって、電子ビームが照射されることで対象試料から発生する二次信号を検出していく。この電子ビーム照射及び二次信号検出の過程を、電子ビームの加速電圧を変化させながら繰り返す。そして、制御部の測定データ作成手段は、照射された電子ビームの強度及び加速電圧と、対応して発生した二次信号の強度から、その対象試料における測定データを作成する。ここで、測定データにおいて、検出される二次信号の強度は、照射した電子ビームの強度で規格化され、電子ビームの強度の変動の影響を控除することができる。
【0010】
次に、特性値抽出工程として、制御部の測定データ解析手段は、特性値として、作成された測定データにおいて、変化点を検出し、この変化点における加速電圧を抽出する。そして、上記同様に、変化点における加速電圧の大きさは、対象試料の膜厚に依存するものである。このため、評価工程として、制御部の評価手段が、基準値と特性値とを比較することで、この比較に基づいて、少なくとも一つの標準試料の膜厚から、対象試料の膜厚を正確に、かつ、安定して評価することができる。
【0011】
また、上記の膜厚測定方法において、前記標準データ作成工程及び前記測定データ作成工程は、前記標準試料及び前記対象試料からの反射電子の強度または該反射電子の強度に基づいて表示される画像における対象範囲の輝度を前記二次信号の強度として、前記標準データ及び前記測定データを作成することがより好ましいとされている。
【0012】
また、上記の膜厚測定装置において、前記二次信号検出手段は、前記二次信号として前記試料からの反射電子を検出可能であるとともに、前記制御部は、前記反射電子の強度または該反射電子の強度を画像化した画像データにおける対象範囲の輝度を前記二次信号の強度として、前記試料の膜厚を解析することがより好ましいとされている。
【0013】
この発明に係る膜厚測定方法及び膜厚測定装置によれば、反射電子の強度または反射電子の強度に基づいて表示される画像における対象範囲の輝度を二次信号の強度とすることで、標準データ及び測定データのそれぞれにおける変化点がより明確に形成される。このため、変化点における加速電圧である基準値及び特性値をより正確に抽出することができ、これにより、対象試料の膜厚を、より正確に、かつ、より安定して評価することができる。
【0014】
また、上記の膜厚測定方法において、前記標準データ作成工程は、膜厚の異なる少なくとも二つの前記標準試料に対して前記標準データを作成し、前記基準値抽出工程は、それぞれの前記標準データに対して前記基準値を抽出し、前記評価工程は、前記標準データから、膜厚と前記基準値を表わす加速電圧との関係を算出し、得られた該膜厚と加速電圧との関係に前記特性値を表わす加速電圧を入力することで、前記対象試料の膜厚を算出することがより好ましいとされている。
【0015】
また、上記の膜厚測定装置において、前記制御部の前記記憶手段には、膜厚の異なる少なくとも二つの前記標準試料の前記膜厚データ及び前記標準データが記憶されていて、前記制御部の前記評価手段は、複数の前記標準試料の前記膜厚データ及び前記標準データから、膜厚と前記基準値を表わす加速電圧との関係を算出し、得られた該膜厚と加速電圧との関係に前記特性値を表わす加速電圧を入力して対象となる前記試料の膜厚を算出することがより好ましいとされている。
【0016】
この発明に係る膜厚測定方法及び膜厚測定装置によれば、標準データ作成工程において、制御部の記憶手段には、膜厚の異なる少なくとも二つの標準試料の膜厚データ及び標準データが記憶されている。このため、評価工程において、制御部の評価手段は、異なる二つの膜厚と基準値を表わす加速電圧とから、膜厚と加速電圧との関係を定量的に評価することができる。それ故に、制御部の評価手段は、この膜厚と加速電圧との関係から、測定データ解析工程において測定データ解析手段によって抽出された特性値を表わす加速電圧から、対応する対象試料の膜厚を正確に算出することができる。
【0017】
また、本発明の試料作製方法は、上記の膜厚測定方法で測定された前記対象試料の膜厚に基づいて該対象試料のエッチング量を決定し、荷電粒子ビームを照射して前記対象試料を前記エッチング量だけエッチングすることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の試料作製装置は、前記試料台に固定された前記試料に荷電粒子ビームを照射可能な荷電粒子ビーム鏡筒を備え、前記制御部は、前記評価手段によって評価された対象となる前記試料の膜厚に基づいて、該試料のエッチング量を決定し、該エッチング量に応じて前記荷電粒子ビーム鏡筒によって前記試料に荷電粒子ビームを照射させることを特徴としている。
【0019】
この発明に係る試料作製方法及び試料作製装置によれば、上記膜厚測定方法及び上記膜厚測定装置により、対象試料の膜厚を正確に評価することができるので、対象試料の膜厚に基づいて、対象試料に必要とされるエッチング量を正確に決定することができ、それ故に荷電粒子ビーム鏡筒から荷電粒子ビームを対象試料に照射して、対象試料を所望の膜厚に正確に加工することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の膜厚測定方法及び膜厚測定装置によれば、照射する電子ビームの加速電圧と、照射する電子ビームに対する放出される二次信号の強度比との関係から、対象試料の膜厚を評価することで、最小限のサンプル数の標準試料及び対象試料からそれぞれ得られる二次信号に関する最小限の検出結果から、対象試料の膜厚を正確に、かつ、安定して測定することが可能である。
また、本発明の試料作製方法及び試料作製装置によれば、上記試料作製方法及び上記試料作製装置を備えることで、対象試料を所望の膜厚に正確に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1から図5は、この発明に係る実施形態を示している。図1に示すように、試料作製装置1は、試料Pを固定する試料台2と、荷電粒子ビームとして集束イオンビームAを照射可能な荷電粒子ビーム鏡筒である集束イオンビーム鏡筒3と、試料Pに対して厚さ方向Xに電子ビームBを照射可能な電子ビーム鏡筒4と、二次信号として反射電子Cを検出可能な二次信号検出手段である反射電子検出器(BSE検出器)5と、各種手動入力可能な操作部6と、画像を表示するモニタ7と、制御部10と、膜厚測定装置20とを備える。集束イオンビーム鏡筒3は、操作部6による操作、及び、制御部10による制御の下、加速電圧及びビーム強度を所望の値に設定し、また、図示しない走査手段によって試料Pの所望の位置に、集束イオンビームAを照射可能である。また、電子ビーム鏡筒4は、操作部6による操作、及び、制御部10による制御の下、加速電圧及びビーム強度を所望の値に設定し、また、図示しない走査手段によって所望の位置に電子ビームBを照射可能である。また、反射電子検出器5によって検出された反射電子Cの強度は、制御部10に入力される。なお、反射電子検出器5は、シンチレータや半導体検出器など、主として二次電子よりも大きいエネルギーを有する電子を検出可能なものを用いる。
【0022】
また、制御部10は、反射電子検出器5による検出結果に基づいて試料Pの膜厚を解析可能であり、画像解析手段11と、測定データ作成手段12と、記憶手段13と、測定データ解析手段14と、評価手段15とを備える。画像解析手段11は、反射電子検出器5によって検出された反射電子Cの強度の分布を輝度の分布として画像化した画像データを作成可能であり、モニタ7によって画像として表示することが可能である。また、画像解析手段11は、画像の所定の範囲について、輝度の平均値Ip(以下、対象範囲の輝度とする)を求め、これを二次信号の強度として測定データ作成手段12に入力可能である。測定データ作成手段12は、照射された電子ビームBの強度Ibに対して、該強度Ibで電子ビームBを照射した際の対象範囲の輝度Ipを比で表した強度比Riを算出し、照射された電子ビームBの加速電圧Ebと、対応する強度比Riとの関係である測定データMを作成可能である。また、記憶手段13は、膜厚が既知の標準試料についての膜厚を表わす膜厚データLと、この標準試料についての上記測定データMである標準データNとを対応づけて記憶することが可能である。なお、本実施形態においては、膜厚データLについては操作部6によって入力されることによって、標準データNについては後述するように測定データ作成手段12によって標準試料に関する測定データMを作成することによって、記憶手段13に記憶されている。また、測定データ解析手段14は、測定データMを解析し、測定データMにおいて形成されている変化点を検出し、この変化点において対応する加速電圧である特性値Em抽出することが可能である。同様に、測定データ解析手段14は、標準データNを解析し、標準データNにおいて形成されている変化点を検出し、この変化点において対応する加速電圧である基準値Enを抽出することが可能である。また、評価手段15は、標準データNの基準値Enと、測定データMの特性値Emとを比較し、この比較に基づいて、記憶手段13に記憶された膜厚データLが表わす標準試料の膜厚に対して対象となる試料Pの膜厚を評価することが可能である。そして、これらで構成される制御部10、試料台2、電子ビーム鏡筒4、及び、反射電子検出器5によって、試料台2に固定された試料Pの膜厚を測定する膜厚測定装置20を構成している。以下に、制御部10の各構成による膜厚測定方法の詳細、及び、膜厚測定装置20としての作用、並びに、上記膜厚測定方法を使用した試料作製方法、及び、試料作製装置1の作用について、図2に示すフロー図、及び、図3から図5に示す説明図に基づいて説明する。
【0023】
図2に示すように、まず、標準データ作成工程S1として、観察対象試料P3と同じ材質で、かつ、厚みが既知である標準試料の標準データNを作成する。本実施形態では、膜厚Q1の標準試料P1と、標準試料P1の膜厚Q1よりも大きい膜厚Q2の標準試料P2と、膜厚の異なる二つの標準試料を使用する。まず、標準試料P1を試料台2に固定する。そして、操作部6によって標準試料P1と対応する膜厚Q1を入力する。入力された膜厚Q1は、膜厚データL1として制御部10の記憶手段13によって記憶される。次に、制御部10の測定データ作成手段12は、電子ビーム鏡筒4によって電子ビームBを所定の加速電圧Eb、強度Ibで標準試料P1の所定の範囲で走査する。また、反射電子検出器5では、電子ビームBの照射に伴って標準試料P1からの反射電子Cを検出する。検出された反射電子Cの強度は、制御部10の画像解析手段11において輝度に変換され、電子ビームBを走査する位置情報と対応づけて画像データが作成される。図4は、この画像データに基づいてモニタ7に表示された試料Pの画像の一例である。反射電子の強度は試料の厚みが入射電子の侵入長程度より薄い範囲では厚みに応じて減少する。このため、入射電子の侵入長より十分厚い部分Pbと侵入長程度以下の薄膜に形成された部分Paを反射電子像上で比較すると部分Paは部分Pbに対して暗く表現される。さらに制御部10の画像解析手段11は、この画像データの内、予め設定された膜厚測定の対象となる範囲(例えば、図4に示す範囲F)における輝度の平均値である対象範囲の輝度Ipを算出する。算出された対象範囲の輝度Ipは、測定データ作成手段12に入力され、対応する電子ビームBの強度Ibから、強度比Ri(=Ip/Ib)が算出される。これを照射する電子ビームBの加速電圧Ebを変化させながら繰り返し行い、電子ビームBの加速電圧Ebと、対応する強度比Riとの関係である測定データMを作成し、これを標準試料P1における標準データN1として記憶手段13において膜厚データL1と対応づけて記憶させる。そして、標準試料P2についても上記同様の工程を行い、操作部6によって膜厚Q2を入力し、対応する膜厚データL2を記憶手段13に記憶させるとともに、測定データ作成手段12によって標準試料P2と対応する標準データN2を作成し、記憶手段13において膜厚データL2と対応づけて記憶させる。
【0024】
図4において、一点鎖線は、標準データN1を、二点鎖線は、標準データN2を示している。ここで、図4に示すように、加速電圧Ebの増加に対して強度比Riがほとんど変化しない領域と、加速電圧Ebの増加に対して強度比Riが漸減する領域が存在し、その境界で変化点N1a、N2aが形成される。実際の測定データでは、前記変化点N1a、N2aは明瞭なグラフ上の傾きとしては認識されないが、例えば、前記強度比Riがほとんど変化しない領域、及び、前記強度比Riが漸減する領域に直線を当てはめ、その交点を求めるといった方法で変化点N1a、N2aを認識することができる。このように強度比Riが変化し始める変化点N1a、N2aは、電子線のエネルギーの増加に伴い、侵入長が試料厚みと略等しくなった場合であると考えられるので、この変化点における加速電圧Ebを試料厚みと対応する値として用いることが可能である。
【0025】
以上のようにして、標準データN1、N2が作成されたら、次に基準値抽出工程S2として、制御部10の測定データ解析手段14は、標準データN1、N2から、それぞれに形成された変化点N1a、N2aを検出し(ステップS2a)、それぞれの変化点N1a、N2aにける加速電圧を基準値En1、En2として抽出する(ステップS2b)。そして、これらの基準値En1、En2を対応する膜厚データL1、L2と関連づけて記憶手段13に記憶させる。ここで、電子ビームBを試料Pに透過させるには、試料Pの膜厚が大きいほどエネルギーを高くする、すなわち加速電圧Ebを高くする必要がある。つまり、標準データN1、N2において、変化点N1a、N2aにおける加速電圧である基準値En1、En2は、対応する標準試料P1、P2の膜厚Q1、Q2に依存する。このため、膜厚Q2である標準試料P2の変化点N2aの加速電圧En2は、膜厚Q2よりも小さい膜厚Q1である標準試料P1の加速電圧En1よりも大きくなる。なお、上記の標準データ作成工程S1及び基準値抽出工程S2は、予め制御部13の記憶手段13に、膜厚データL1、L2、標準データN1、N2、及び、基準値En1、En2が記憶されているときには行わなくてよい。
【0026】
次に、測定データ作成工程S3として、観察対象となる対象試料P3の測定データM3を作成する。まず、対象試料P3を試料台2に固定する。次に、制御部10の測定データ作成手段12は、電子ビーム鏡筒4によって電子ビームBを所定の加速電圧Eb、強度Ibで対象試料P3に照射させる。そして、加速電圧Eb、強度Ibを一定としたまま、対象試料P3の所定の範囲で走査する。また、反射電子検出器5では、電子ビームBの照射に伴って対象試料P3からの反射電子Cを検出する。そして、検出された反射電子Cの強度は、制御部10の画像解析手段11において輝度に変換され、電子ビームBを走査する位置情報と対応づけて画像データが作成される。さらに制御部10の画像解析手段11は、この画像データの内、予め設定された膜厚測定の対象となる範囲Fにおける輝度Ipを算出する。算出された対象範囲の輝度Ipは、測定データ作成手段12に入力され、対応する電子ビームBの強度Ibから、強度比Ri(=Ip/Ib)が算出される。これを照射する電子ビームBの加速電圧Ebを変化させながら繰り返し行い、対象試料P3について、図4に示すように、電子ビームBの加速電圧Ebと、対応する強度比Riとの関係である測定データM3を作成する。次に、特性値抽出工程S4として、制御部10の測定データ解析手段14は、対象試料P3の測定データM3から変化点M3aを検出し(ステップS4a)、変化点M3aにける加速電圧を特性値Em3として抽出する(ステップS4b)。
【0027】
そして、次に、評価工程S5として、制御部10の評価手段15は、基準値抽出工程S2で抽出された基準値En1、En2と、特性値抽出工程S4で抽出された特性値Em3とを比較し、この比較に基づいて、標準試料P1、P2それぞれの膜厚Q1、Q2から対象試料P3の膜厚Q3を算出する。すなわち、制御部10の評価手段15は、二つの標準試料P1、P2に関する膜厚Q1、Q2及び対応する基準値En1、En3から、膜厚Qと電子ビームBの加速電圧Ebとの関係を表わす直線近似式を求める。そして、制御部10の評価手段15は、求めた直線近似式において、加速電圧Ebとして特性値Em3を入力することで、特性値Em3と対応する対象試料P3の膜厚Q3を求めることができる。
【0028】
ここで、上記の標準試料P1、P2の標準データN1、N2、また、対象試料P3の測定データM3において、対象範囲の輝度Ipを電子ビームBの強度Ibで規格化した強度比Riを用いることで加速電圧Ebを変えた際の強度Ibの変動の影響を受けないようにしている。
【0029】
次に、試料加工工程S6として、対象試料P3をエッチングして所望の膜厚となるように加工する。すなわち、制御部10は、評価工程S5で算出された対象試料P3の膜厚Q3と、加工後の目標とする膜厚とを比較してエッチング量を算出する(ステップS6a)。そして、制御部10は、算出されたエッチング量に基づいて集束イオンビーム鏡筒3から対象試料P3に集束イオンビームAを照射させて対象試料P3をエッチングする(ステップS6b)。これにより、対象試料P3を所望の膜厚に正確に加工することができる。なお、再び測定データ作成工程S3から繰り返し行って対象試料P3の膜厚が所望の膜厚となっているか確認しても良い。そして、さらに加工が必要と判断した場合には、繰り返し試料加工工程S6を行うようにしても良い。
【0030】
以上のように、試料作製装置1において、膜厚測定装置20は、照射する電子ビームBの加速電圧Ebと、照射する電子ビームBに対する検出される対象範囲の輝度Ipの強度比Riとの関係から対象試料P3の膜厚Q3を算出することで、最小限のサンプル数の標準試料と、対象試料からそれぞれ得られる最小限の検出結果から、対象試料の膜厚を正確に、かつ、安定して測定することが可能である。また、試料作製装置1では、このような膜厚測定装置20を備えることで、対象試料P3を所望の膜厚に正確に加工することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、標準試料P1、P2と二つの標準試料に基づいて対象試料の膜厚の測定を行ったが、これに限るものでは無い。標準試料を一つとしても、この標準試料の基準値に対して対象試料の特性値が高いかどうか比較することで、標準試料の膜厚に対して対象試料の膜厚が大きいかどうかを正確に評価することができる。また、標準試料を三つ以上とすれば、膜厚と加速電圧との関係を直線近似式で求めるに際して、より高精度に算出し、この関係式に基づいて対象試料の膜厚を、より正確に算出することができる。さらに、膜厚Qと電子ビームBの加速電圧Ebとの関係式は、直線近似式に限られるもので無く、曲線近似式によって求めるものとしても良い。また、本実施形態では、標準データ作成工程として、膜厚が既知の標準試料に電子ビームを照射して標準データを作成したが、これに限るものでは無く、モンテカルロ法など、既知のシュミレーション手法により、目標とする膜厚における標準データ及び対応する基準値を算出しても良い。あるいは、先行して測定データ作成工程及び特性値抽出工程を行い、標準データ作成工程及び基準値抽出工程として、対象試料について抽出された特性値と適合する基準値、標準データとなる膜厚を逆算するものとしても良い。
【0032】
また、本実施形態では、上記のような膜厚測定を、制御部10の各構成による制御、解析に基づいて自動的に行うものとしたが、これに限るものでは無い。操作者が、操作部6からの入力によって手動により、上記工程に沿って対象試料の膜厚測定を行うものとしても良い。また、本実施形態では、電子ビームBを照射して試料から放出され検出する二次信号の強度として、検出された反射電子の強度を画像化した際の対象範囲の輝度Ipとしたが、これに限るものでは無く、検出される反射電子の強度自体によって標準データ及び測定データを構成しても良い。さらには、電子ビームBを照射して試料から放出される二次信号としては、反射電子に限られるもので無く、二次電子、吸収電流、二次X線などがあり、これらを検出して標準データ及び測定データを構成しても良い。例えば、二次電子においては、照射される電子ビームの加速電圧が低い場合は、照射表面からのみ二次電子が発生するので、二次電子の強度は略一定の値を示す。一方、電子ビームの加速電圧が高くなると、照射表面と反対側の面からも二次電子が発生し、検出される二次電子の強度は急激に高くなる。このため、同様に、膜厚に対応する加速電圧で変化点を形成し、これに基づいて対象試料の膜厚を測定することができる。なお、上記のように反射電子の強度または反射電子の強度に基づいて表示される画像における対象範囲の輝度を、標準データ及び測定データのパラメータとなる二次信号の強度とすることで、標準データ及び測定データにおける変化点がより明確に形成され、好適である。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態の膜厚測定装置及び試料作製装置の構成図である。
【図2】この発明の実施形態の膜厚測定方法及び試料作製方法のフロー図である。
【図3】この発明の実施形態の膜厚測定装置において、試料から放出される反射電子を検出して得られた画像の説明図である。
【図4】この発明の実施形態の膜厚測定装置において、作成された標準データ及び測定データの説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 試料作製装置
2 試料台
3 集束イオンビーム鏡筒(荷電粒子ビーム鏡筒)
4 電子ビーム鏡筒
5 反射電子検出器(二次信号検出手段)
10 制御部
12 測定データ作成手段
13 記憶手段
14 測定データ解析手段
15 評価手段
20 膜厚測定装置
A 集束イオンビーム(荷電粒子ビーム)
B 電子ビーム
C 反射電子(二次信号)
Eb 加速電圧
Em3 特性値
En1、En2 基準値
Ib 電子ビームの強度
Ip 画像の輝度
M、M3 測定データ
M3a 変化点
N、N1、N2 標準データ
N1a、N2a 変化点
P 試料
P1、P2 標準試料
P3 対象試料
Ri 強度比
S1 標準データ作成工程
S2 基準値抽出工程
S3 測定データ作成工程
S4 特性値抽出工程
S5 評価工程
X 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片に形成された対象試料の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
所定の膜厚に形成された少なくとも一つの標準試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射した場合における、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である標準データを作成する標準データ作成工程と、
該標準データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を基準値として抽出する基準値抽出工程と、
前記対象試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射して前記対象試料から放出された二次信号の強度を検出し、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である測定データを作成する測定データ作成工程と、
該測定データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を特性値として抽出する特性値抽出工程と、
前記基準値と前記特性値との比較に基づいて、前記標準試料の膜厚に対して前記対象試料の膜厚を評価する評価工程とを備えることを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の膜厚測定方法において、
前記標準データ作成工程及び前記測定データ作成工程は、前記標準試料及び前記対象試料からの反射電子の強度または該反射電子の強度に基づいて表示される画像における対象範囲の輝度を前記二次信号の強度として、前記標準データ及び前記測定データを作成することを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜厚測定方法において、
前記標準データ作成工程は、膜厚の異なる少なくとも二つの前記標準試料に対して前記標準データを作成し、
前記基準値抽出工程は、それぞれの前記標準データに対して前記基準値を抽出し、
前記評価工程は、前記標準データから、膜厚と前記基準値を表わす加速電圧との関係を算出し、得られた該膜厚と加速電圧との関係に前記特性値を表わす加速電圧を入力することで、前記対象試料の膜厚を算出することを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の膜厚測定方法で測定された前記対象試料の膜厚に基づいて該対象試料のエッチング量を決定し、荷電粒子ビームを照射して前記対象試料を前記エッチング量だけエッチングすることを特徴とする試料作製方法。
【請求項5】
試料を固定する試料台と、
該試料台に固定された前記試料に加速電圧を変化させて電子ビームを照射可能な電子ビーム鏡筒と、
前記試料台に固定された前記試料に電子ビームを照射することで該試料から発生する二次信号を検出可能な二次信号検出手段と、
前記電子ビーム鏡筒を制御するとともに、前記二次信号検出手段での検出結果が入力され、前記試料の膜厚を解析する制御部とを備え、
該制御部は、前記電子ビーム鏡筒から照射された電子ビームの加速電圧と、照射された電子ビームに対する前記二次信号検出手段で検出された二次信号の強度比との関係である測定データを作成する測定データ作成手段と、
所定の膜厚に形成された標準試料に対して厚さ方向に電子ビームを加速電圧を変化させて照射した場合における、前記標準試料の膜厚を表わす膜厚データ、及び、照射した電子ビームの加速電圧と、照射した電子ビームに対する前記標準試料から放出される二次信号の強度比との関係である標準データを記憶する記憶手段と、
前記測定データ及び前記標準データに形成された変化点を検出し、該変化点における加速電圧を抽出可能な測定データ解析手段と、
少なくとも一つの前記標準試料に関する前記標準データの前記変化点における加速電圧である基準値と、対象となる前記試料に関する前記測定データの前記変化点における加速電圧である特性値との比較に基づいて、前記膜厚データが表わす前記標準試料の膜厚に対して対象となる前記試料の膜厚を評価する評価手段とを有することを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の膜厚測定装置において、
前記二次信号検出手段は、前記二次信号として前記試料からの反射電子を検出可能であるとともに、
前記制御部は、前記反射電子の強度または該反射電子の強度を画像化した画像データにおける対象範囲の輝度を前記二次信号の強度として、前記試料の膜厚を解析することを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の膜厚測定装置において、
前記制御部の前記記憶手段には、膜厚の異なる少なくとも二つの前記標準試料の前記膜厚データ及び前記標準データが記憶されていて、
前記制御部の前記評価手段は、複数の前記標準試料の前記膜厚データ及び前記標準データから、膜厚と前記基準値を表わす加速電圧との関係を算出し、得られた該膜厚と加速電圧との関係に前記特性値を表わす加速電圧を入力して対象となる前記試料の膜厚を算出することを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれかに記載の膜厚測定装置を備えた試料作製装置において、
前記試料台に固定された前記試料に荷電粒子ビームを照射可能な荷電粒子ビーム鏡筒を備え、
前記制御部は、前記評価手段によって評価された対象となる前記試料の膜厚に基づいて、該試料のエッチング量を決定し、該エッチング量に応じて前記荷電粒子ビーム鏡筒によって前記試料に荷電粒子ビームを照射させることを特徴とする試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−267895(P2008−267895A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109164(P2007−109164)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】