説明

膨張弁及びそれを備えた蒸気圧縮式冷凍サイクル

【課題】冷媒流量が少ないときにも安定した流量分配の可能な蒸気圧縮式冷凍サイクル及びそれに用いられる膨張弁を提供する。
【解決手段】エジェクタ5、第1蒸発器6及び第2蒸発器7を備えた冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって、放熱器2で放熱した冷媒を流入させる流入部31と、流入した冷媒を絞り膨張させて気液二相冷媒とするオリフィス32と、オリフィス32を通過する冷媒の流量を調節する弁体34と、弁体34を駆動する感温駆動部52と、オリフィス32の下流側に隣接して設けられ、慣性力を利用して冷媒の乾き度分布を形成する乾き度分布形成空間36と、乾き度分布形成空間36に接続され、ノズル部5a側に冷媒を流出させる第1流出口41と、乾き度分布形成空間36に接続され、第1流出口41から流出する冷媒よりも乾き度の高い冷媒を第2蒸発器7側に流出させる第2流出口42とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁及びそれを備えた蒸気圧縮式冷凍サイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蒸気圧縮式冷凍サイクルとして、例えば特許文献1に記載されているように、放熱器で冷却された冷媒を減圧する手段としてのエジェクタと、2つの蒸発器とを備えた蒸気圧縮式冷凍サイクルが知られている。この冷凍サイクルは、圧縮機、放熱器、膨張弁、流量分配器、エジェクタ及び第1蒸発器が環状に接続されるとともに、流量分配器で分岐してエジェクタに接続される吸引用流路に第2蒸発器が設けられた構成を有している。エジェクタは、流量分配器で分配された一方の冷媒を取り入れて等エントロピー的に減圧膨張させるノズル部と、流量分配器で分配された他方の冷媒を第2蒸発器に通してから吸引する吸引部とを備えている。ノズル部で減圧膨張した高速度の冷媒流は、吸引部から吸引された冷媒と混合部で混合され、さらに昇圧部で昇圧されて他方の蒸発器に向けて流出し、当該他方の蒸発器で蒸発した後に圧縮機に吸入される。
【特許文献1】特開2008−8591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の冷凍サイクルでは、膨張弁よりも下流側に設けられた流量分配器によって、ノズル側と第2蒸発器側とに冷媒を分配するようになっている。しかしながら、冷媒流量が少ないときには、膨張弁から流出した冷媒は分離流又はスラグ流となるため、流量分配器による安定した流量分配が困難であった。
【0004】
本発明の目的は、冷媒流量が少ないときにも安定した流量分配の可能な蒸気圧縮式冷凍サイクル及びそれに用いられる膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0006】
請求項1に記載の発明は、冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、圧縮機(1)で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器(2)と、放熱器(2)で放熱した冷媒のうち一部の冷媒を取り入れてノズル部(5a)から噴射させて高速度の冷媒流を形成するとともに、当該冷媒流によって冷媒を吸引部(5b)から吸引するエジェクタ(5)と、エジェクタ(5)から流出した冷媒を蒸発させ、圧縮機(1)側に流出させる第1蒸発器(6)と、放熱器(2)で放熱した冷媒のうち残余の冷媒を取り入れて蒸発させ、吸引部(5b)側に流出させる第2蒸発器(7)とを備えた蒸気圧縮式冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって、放熱器(2)で放熱した冷媒を流入させる流入部(31)と、流入部(31)よりも下流側に設けられ、流入した冷媒を絞り膨張させて気液二相冷媒とするオリフィス(32)と、オリフィス(32)を通過する冷媒の流量を調節する弁体(34)と、弁体(34)を駆動する駆動部(52)と、オリフィス(32)の下流側に隣接して設けられ、慣性力を利用して冷媒の乾き度分布を形成する乾き度分布形成空間(36)と、乾き度分布形成空間(36)に接続され、ノズル部(5a)側又は第2蒸発器(7)側の一方に冷媒を流出させる第1流出口(41)と、乾き度分布形成空間(36)に接続され、第1流出口(41)から流出する冷媒よりも乾き度の高い冷媒をノズル部(5a)側又は第2蒸発器(7)側の他方に流出させる第2流出口(42)とを有することを特徴とする膨張弁である。
【0007】
これにより、オリフィス(32)の下流側に隣接する乾き度分布形成空間(36)において、オリフィス(32)で減圧された直後の冷媒を第1流出口(41)及び第2流出口(42)に分配することができる。オリフィス(32)で減圧された直後の冷媒はミスト流となるため、慣性力を利用して冷媒の乾き度分布を形成するのが容易になる。このため、第1流出口(41)及び第2流出口(42)に分配する冷媒の乾き度を異ならせることによって、冷媒流量が少ないときにも、ノズル部(5a)側及び第2蒸発器(7)側に安定した流量(質量流量)分配を行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、乾き度分布形成空間(36)は、オリフィス(32)が接線方向に接続された円筒状の形状を有し、オリフィス(32)から流出した気液二相冷媒に旋回流を生じさせることを特徴としている。
【0009】
これにより、乾き度分布形成空間(36)では、液相冷媒と気相冷媒との慣性力の差異によって円筒外周側ほど乾き度が低くなる乾き度分布を形成することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、第1流出口(41)は、乾き度分布形成空間(36)において第2流出口(42)よりも円筒外周側に接続されていることを特徴としている。
【0011】
これにより、第1流出口(41)に対し、第2流出口(42)よりも乾き度の低い冷媒を分配することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、第2流出口(42)は、乾き度分布形成空間(36)の中心軸(C1)上に接続されていることを特徴としている。
【0013】
乾き度分布形成空間(36)の中心軸(C1)上は乾き度が最も高くなり易いため、第2流出口(42)に対し、第1流出口(41)よりも乾き度の高い冷媒を分配することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、第1流出口(43)は、乾き度分布形成空間(36)の底部に接続されていることを特徴としている。
【0015】
乾き度分布形成空間(36)の底部は液相冷媒の重力沈降によって乾き度が低くなり易いため、第1流出口(43)に対し、第2流出口(42)よりも乾き度の低い冷媒を分配することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、乾き度分布形成空間(36、37)は、オリフィス(32)から流出する冷媒の流路上に形成されたトラップ構造(38、39)を有し、第1流出口(41、43)は、乾き度分布形成空間(36、37)において第2流出口(42)よりも下方に接続されていることを特徴としている。
【0017】
液相冷媒は、気相冷媒よりも慣性力の影響を受け易いためトラップ構造(38、39)に衝突して流速が低下する。これにより、乾き度分布形成空間(36)では、液相冷媒の重力沈降によって下部ほど乾き度が低くなるため、第1流出口(41)に対し、第2流出口(42)よりも乾き度の低い冷媒を分配することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、第1蒸発器(6)及び第2蒸発器(7)の少なくとも一方に直結されていることを特徴としている。
【0019】
これにより、膨張弁を第1蒸発器(6)又は第2蒸発器(7)の少なくとも一方と一体物として取り扱うことができるため、車両等への搭載が容易になる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、圧縮機(1)で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器(2)と、放熱器(2)で放熱した冷媒のうち一部の冷媒を取り入れてノズル部(5a)から噴射させて高速度の冷媒流を形成するとともに、当該冷媒流によって冷媒を吸引部(5b)から吸引するエジェクタ(5)と、エジェクタ(5)から流出した冷媒を蒸発させ、圧縮機(1)側に流出させる第1蒸発器(6)と、放熱器(2)で放熱した冷媒のうち残余の冷媒を取り入れて蒸発させ、吸引部(5b)側に流出させる第2蒸発器(7)と、上記発明の膨張弁とを有することを特徴とする蒸気圧縮式冷凍サイクルである。
【0021】
これにより、蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて上記発明と同様の効果が得られる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係の一例を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1乃至図5を用いて説明する。図1は、本実施形態の蒸気圧縮式冷凍サイクルを示している。この蒸気圧縮式冷凍サイクルは、車両に搭載されるものであって、圧縮機1、放熱器2、レシーバ2a、膨張弁3、エジェクタ5及び第1蒸発器6が冷媒配管によって環状に接続されるとともに、膨張弁3内で分岐してエジェクタ5に接続される吸引用流路9にキャピラリ4及び第2蒸発器7が設けられて形成されている。圧縮機1は、図示しない制御装置によってその作動が制御されるようになっている。
【0024】
圧縮機1は、第1蒸発器6から流出される冷媒を吸入し、高温高圧に圧縮して放熱器2側へ吐出する流体機械であり、図示しない電磁クラッチ及びベルトを介して車両走行用エンジンにより回転駆動される。圧縮機1は、例えば、電磁式容量制御弁に制御装置からの制御信号が入力されることにより吐出容量が可変される斜板式可変容量型圧縮機となっている。本実施形態の圧縮機1では、斜板室の圧力の調整により吐出容量を100%から0%付近まで連続的に変化させることができる。したがって、吐出容量を0%付近に減少させることにより、圧縮機1を実質的に作動停止状態にすることができる。よって、圧縮機1の回転軸をプーリ及びベルトを介して車両エンジンに常時連結するクラッチレスの構成としてもよい。
【0025】
放熱器2は、図示しない送風機により強制的に送風される車室外空気との熱交換により、圧縮機1から吐出された高圧冷媒を放熱させて冷却する熱交換器である。放熱器2の冷媒流出側には、冷却された冷媒の気液を分離して、液冷媒のみを膨張弁3側に流出させるレシーバ2aが設けられている。レシーバ2aは、放熱器2と一体で形成されている。
【0026】
膨張弁3は、放熱器2(レシーバ2a)から流出する高圧冷媒を減圧する絞り手段である。本実施形態の膨張弁3は、第1蒸発器6から流出する冷媒の温度に応じて弁開度が調整される温度式膨張弁である。また本実施形態の膨張弁3は、減圧した冷媒をエジェクタ5のノズル部5a側及び第2蒸発器7側の2つの流路に分配する機能を有している。
【0027】
図2は、膨張弁3の構成を示す模式的な断面図である。図2中の白抜き太矢印は、冷媒の流れ方向を表している。図3は、膨張弁3の要部を図2の左方から見た構成を示す模式的な断面図である。図2及び図3に示すように、膨張弁3は、アルミニウム合金等を用いて作製された略角柱形状の本体ブロック30を有している。本体ブロック30には、放熱器2側から冷媒が流入する流入部31が形成されている。流入部31よりも下流側には、部分的に流路径が絞られて図中上下方向に延伸するオリフィス32が形成されている。オリフィス32は、流入した液冷媒を絞り膨張させて気液二相とするようになっている。オリフィス32の上流端には弁口33が形成されている。弁口33は、例えば球状の弁体34により開閉されるようになっている。弁体34は、コイルばね35によって閉弁方向に付勢されている。
【0028】
オリフィス32よりも下流側には、オリフィス32で減圧された直後のミスト域の冷媒に乾き度の分布を形成する乾き度分布形成空間36が設けられている。乾き度分布形成空間36は、略水平な中心軸C1を備えた円筒状の形状を有している。乾き度分布形成空間36はオリフィス32の出口に隣接して設けられており、オリフィス32は乾き度分布形成空間36の接線方向(本例では中心軸C1に垂直な平面に含まれる接線方向)に接続されている。これにより、オリフィス32から流出した気液二相冷媒には、乾き度分布形成空間36の円筒状内壁面36aに沿う旋回流(図2及び図3では実線矢印で表している)が生じる。
【0029】
旋回流が生じると、液相冷媒は慣性力の影響を受け易いため乾き度分布形成空間36の外周側に集まる。一方、気相冷媒は液相冷媒よりも密度(比重)が小さく慣性力の影響を受け難いため、乾き度分布形成空間36の中心軸C1側に集まる。したがって、乾き度分布形成空間36は、減圧直後のミスト域の冷媒に対し、外周側ほど乾き度が低く中心軸C1側ほど乾き度が高い乾き度分布を形成するようになっている。
【0030】
本体ブロック30において乾き度分布形成空間36よりも上部には、第1蒸発器6から圧縮機1に至る冷媒流路の一部として過熱度検出通路50が形成されている。過熱度検出通路50と乾き度分布形成空間36との間には、断面円形状に開口されて図2及び図3中上下方向に直線状に延伸する貫通孔51が形成されている。
【0031】
また、過熱度検出通路50において貫通孔51の開口端に対向する位置には、感温駆動部52が取り付けられている。感温駆動部52は、例えばステンレス鋼を用いて薄膜状に形成されたダイヤフラム53と、ダイヤフラム53により密閉され、過熱度検出通路50を流通する冷媒の温度が伝達される飽和状態の冷媒が封入された密閉空間54とを有している。ダイヤフラム53は、密閉空間54内外の圧力差に応じて図2中上下方向に変形変位するようになっている。
【0032】
貫通孔51には、棒状の形状を有する作動棒55が進退自在に挿通されている。作動棒55の一端側はダイヤフラム53に対して固定されており、他端側は乾き度分布形成空間36及びオリフィス32を貫通して弁体34に当接している。
【0033】
過熱度検出通路50を通過する冷媒の過熱度が上昇し、密閉空間54内外の圧力差が増大すると、ダイヤフラム53は下方に変位する。これにより、作動棒55が押し下げられるため、弁体34はコイルばね35の付勢力に抗して開弁方向に移動する。一方、過熱度検出通路50を通過する冷媒の過熱度が低下し、密閉空間54内外の圧力差が減少すると、ダイヤフラム53は上方に変位する。これにより、作動棒55を押し下げる力が弱まり、弁体34はコイルばね35の付勢力により閉弁方向に移動する。したがって、弁口33を通過する冷媒の量は、第1蒸発器6出口側の冷媒の過熱度が所定の値になるように調節される。
【0034】
乾き度分布形成空間36には、気液二相冷媒を分配して流出させる第1流出口41及び第2流出口42が接続されている。第1流出口41及び第2流出口42は例えば同一の内径を有している。第1流出口41は、乾き度分布形成空間36の例えば最外周部に接続されている。第2流出口42は、乾き度分布形成空間36の中心軸C1上に接続されている。本実施形態では、第1流出口41は第2流出口42の下方に位置している。これにより、第1流出口41からは乾き度の比較的低い気液二相冷媒が流出し、第2流出口42からは、第1流出口41から流出する冷媒よりも乾き度の高い気液二相冷媒が流出する。
【0035】
図4は、膨張弁3における冷媒の乾き度に対する第1流出口41及び第2流出口42への液相冷媒の分配比を示すグラフである。グラフの横軸は、オリフィス32により減圧された直後のミスト域での気液二相冷媒の乾き度を表している。縦軸は、第1流出口41に分配される液相冷媒の質量流量q1の、第2流出口42に分配される液相冷媒の質量流量q2に対する比(液分配比)q1/q2を表している。
【0036】
図4に示すように、液分配比は、気液二相冷媒の乾き度が低いほど小さくなっている。例えば、乾き度が0に近づくと旋回流による気液の偏りが生じ難くなるため、第1流出口41及び第2流出口42が同径の場合には液分配比が約1となり、第1流出口41及び第2流出口42にはほぼ均等に液相冷媒が分配される。一方、減圧後の乾き度が高くなると、気液の偏りが生じ易くなるため液分配比が増大する。すなわち、第1流出口41には乾き度が比較的低い液相リッチ側の冷媒が分配され、第2流出口42には乾き度が比較的高い気相リッチ側の冷媒が分配される。液相冷媒の密度が気相冷媒に比較して極めて大きいことを考慮すると、第1流出口41に分配される冷媒の質量流量は、第2流出口42に分配される冷媒の質量流量よりも大きくなる。
【0037】
第1流出口41は、冷媒配管を介してエジェクタ5に接続されている。エジェクタ5は、冷媒を減圧する減圧手段であるとともに、高速で噴出される冷媒流の吸引作用によって冷媒の循環を行う流体輸送用の冷媒循環手段でもある。エジェクタ5には、膨張弁3の第1流出口41から流出する冷媒を取り入れ、その通路面積を小さく絞って冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して等エントロピー的に減圧膨張させるノズル部5aと、ノズル部5aの冷媒噴出口と連通するように配置され、後述する第2蒸発器7からの気相冷媒を吸引する吸引部5bとが備えられている。
【0038】
またエジェクタ5には、ノズル部5a及び吸引部5bの下流側で、ノズル部5aから噴出される高速度の冷媒と吸引部5bからの吸引冷媒とを混合するとともに、混合した冷媒流れを減速し、速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して昇圧させる昇圧部5cが設けられている。昇圧部5cは、冷媒の通路断面積が徐々に大きくなるディフューザ形状に形成されることで、上記の昇圧機能を有するようになっている。
【0039】
昇圧部5cの冷媒流れ方向下流側には第1蒸発器6が接続されている。第1蒸発器6は、強制的に送風される外部空気からの吸熱作用によって、内部を流通する冷媒を蒸発させる熱交換器(吸熱器)である。第1蒸発器6の冷媒流出側は、冷媒配管によって圧縮機1の吸入側に接続されている。
【0040】
膨張弁3の第2流出口42は、吸引用流路9に接続されている。吸引用流路9には、絞り手段であるキャピラリ4が設けられている。キャピラリ4は、第2蒸発器7へ流入する冷媒の流量調整と減圧を行うものであり、螺旋状に巻回された細管によって形成されている。
【0041】
キャピラリ4の下流側には、第2蒸発器7が設けられている。第2蒸発器7は、強制的に送風される外部空気からの吸熱作用によって、内部を流通する冷媒を蒸発させる熱交換器(吸熱器)である。第2蒸発器7は、外部空気の流れにおいて第1蒸発器6の下流側に直列配置されている。
【0042】
ここで、本実施形態では、第1蒸発器6及び第2蒸発器7は一体的に構成されており、膨張弁3は第1蒸発器6及び第2蒸発器7に機械的に直結されている。これにより、第1蒸発器6、第2蒸発器7及び膨張弁3を一体物として取り扱うことができるため、車両への搭載が容易になる。
【0043】
図示しない制御装置は、CPU、ROM及びRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。この制御装置には、操作パネル(図示せず)からの各種操作信号や、各種センサ群からの検出信号等が入力されるようになっている。制御装置は、これらの入力信号に基づいて各種機器(主に圧縮機1)の作動を制御する。
【0044】
次に、上記構成に基づく本実施形態の作動の一例について図5を参照しつつ説明する。乗員の操作により空調作動信号及び設定温度信号等が制御装置に入力されると、制御装置は、圧縮機1の電磁クラッチに通電して当該電磁クラッチを接続状態とする。これにより、車両走行用エンジンから回転駆動力が圧縮機1に伝達される。
【0045】
そして、制御装置から圧縮機1の電磁式容量制御弁に制御電流(制御信号)が出力されると、圧縮機1の吐出容量が調節され、圧縮機1は第1蒸発器6から気相冷媒を吸入、圧縮して吐出する。
【0046】
圧縮機1から圧縮吐出された高温高圧の気相冷媒は放熱器2に流入する。放熱器2では高温高圧の冷媒が車室外空気により冷却されて凝縮する。放熱器2から流出した放熱後の高圧冷媒は、レシーバ2aに流入して気液二相に分離される。
【0047】
そして、レシーバ2aから流出した液相冷媒は、膨張弁3のオリフィス32で減圧されて気液二相のミスト流となる。ミスト流の気液二相冷媒は乾き度分布形成空間36に流入し、気液の慣性力差により乾き度分布が形成される。第1流出口41からは比較的乾き度の低い冷媒が流出し、第2流出口42からは乾き度が同等かそれより高い冷媒が流出する。これにより膨張弁3では、第1流出口41からエジェクタ5のノズル部5aに向かう冷媒流れと、第2流出口42からキャピラリ4を介して第2蒸発器7に向かう冷媒流れとが所定の質量流量比で分配される。
【0048】
第1流出口41からエジェクタ5のノズル部5aに流入した冷媒は、ノズル部5aにより減圧されて膨張する。この減圧膨張時に冷媒の圧力エネルギーが速度エネルギーに変換されるので、冷媒はノズル部5aの噴出口から高速度となって噴出する。そして、この冷媒噴出流の冷媒吸引作用により、第2蒸発器7を通過した後の冷媒が吸引部5bから吸引されることになる。
【0049】
ノズル部5aから噴出した冷媒と吸引部5bに吸引された冷媒は、ノズル部5aの下流側の昇圧部5cに流入する。この昇圧部5cでは通路面積の拡大により、冷媒の速度エネルギーが圧力エネルギーに変換されるため、冷媒の圧力が上昇する。
【0050】
昇圧部5cから流出した冷媒は、第1蒸発器6に流入する。第1蒸発器6では、低圧冷媒が外部空気から吸熱して蒸発する。つまり、外部空気が冷却されることになる。第1蒸発器6を通過後の冷媒は、圧縮機1に吸入されて再び圧縮される。
【0051】
一方、膨張弁3の第2流出口42から流出した冷媒は、吸引用流路9を通ってキャピラリ4により減圧され、低圧冷媒となって第2蒸発器7に流入する。第2蒸発器7では、流入した低圧冷媒が第1蒸発器6で冷却された外部空気から更に吸熱して蒸発する。つまり、外部空気が更に冷却されることになる。第2蒸発器7で蒸発した冷媒は、エジェクタ5の吸引部5bから吸引されて、ノズル部5aを通過した液相冷媒と昇圧部5cで混合されて第1蒸発器6に流入していく。
【0052】
ここで、エジェクタ5のノズル部5aに流入する冷媒流量をノズル流量Gnとし、吸引部5bに流入する冷媒流量を吸引流量Geとする。このとき、エジェクタ5による昇圧量は、ノズル流量Gnに対する吸引流量Geの流量比Ge/Gnが小さくなるほど大きくなるようになっている。
【0053】
よって、夏場等で放熱器2の放熱負荷、あるいは第1蒸発器6及び第2蒸発器7の吸熱負荷(以下、総じて熱負荷)が比較的高い高負荷時には、必要とされる冷凍能力が大きく、圧縮機1から吐出される圧縮機流量Gが増加される。そして、ノズル部5aに供給されるノズル流量Gnも増加するため、ノズル効率を高く維持でき、エジェクタ効率が向上する。具体的には、図5の高負荷線図に示すように、第1流出口41から流出する冷媒の乾き度X1と、第2流出口42から流出する冷媒の乾き度X2とがほぼ同等に調節されて(X1≒X2)、その結果、エジェクタ5による昇圧量が確保され、冷凍サイクルCOPの向上効果分を高く維持することができる。
【0054】
しかしながら、春先や冬場等のように熱負荷が上記高負荷時より低い側となる低負荷時においては、通常、必要とされる冷凍能力が小さくなり、圧縮機流量Gが減少され、ノズル流量Gnも減少して、エジェクタ5による昇圧量が小さくなり、その結果、上記高負荷時ほどのCOP向上効果が得られなくなる。
【0055】
本実施形態では、第1流出口41及び第2流出口42からそれぞれ流出する冷媒の乾き度X1、X2を熱負荷に応じて調節できるようになっているため、低負荷時においても以下のように高いCOP向上効果を得ることができる。
【0056】
即ち、図5の低負荷線図に示すように、低負荷でかつ減圧直後の冷媒が気相リッチの状態では、第1流出口41から流出する冷媒の乾き度X1を第2流出口42から流出する冷媒の乾き度X2よりも低くすることができる。これにより、ノズル部5a側への液相冷媒の流量を増加させることができるため、流量比Ge/Gnを小さくすることができ、エジェクタ5による昇圧量を大きくすることができる。したがって、低負荷時におけるエジェクタ効率を高く維持するとともに、昇圧量を確保して冷凍サイクルCOPを向上させることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態の膨張弁3は、オリフィス32の下流側に隣接する乾き度分布形成空間36において、オリフィス32で減圧された直後の冷媒を第1流出口41及び第2流出口42に分配するようになっている。オリフィス32で減圧された直後の冷媒はミスト流となるため、慣性力を利用して冷媒の乾き度分布を形成するのが容易になる。このため、第1流出口41及び第2流出口42に分配する冷媒の乾き度を異ならせることによって、冷媒流量が少ないときにも、ノズル部5a側及び第2蒸発器7側に安定した流量分配をすることができる。したがって、第1蒸発器6及び第2蒸発器7やノズル部5aの能力を効率良く発揮させることができる。
【0058】
また本実施形態では、円筒状の乾き度分布形成空間36において冷媒に旋回流を生じさせているため、気液の慣性力の差異を利用して、中心軸C1側ほど乾き度が高く、外周側ほど乾き度が低い乾き度分布を容易に形成することができる。本実施形態では、第2流出口42は乾き度分布形成空間36の中心軸C1上に接続され、第1流出口41は第2流出口42よりも外周側に接続されている。したがって、第1流出口41からは乾き度の低い液相リッチ側の冷媒を流出させ、第2流出口42からは乾き度の高い気相リッチ側の冷媒を流出させることができる。
【0059】
さらに本実施形態では、乾き度分布形成空間36において、冷媒流量が多く乾き度が低い場合には第1流出口41及び第2流出口42にほぼ均等に冷媒を分配することができ、冷媒流量が少なく乾き度が高い場合には第2流出口42に優先して冷媒を分配することができる。したがって、熱負荷に応じて冷媒の流量分配を制御できるため、高負荷時には第1蒸発器6及び第2蒸発器7での過熱度上昇を抑制でき、低負荷時には圧縮機1への液相冷媒の流入(液バック)を抑制できる。また、冷媒流量が少ないときにも、ノズル部5a側に優先して冷媒を流すことができるため、ノズル部5aをチョークさせることが可能となる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図6を用いて説明する。図6は、本実施形態における膨張弁103の構成を示す模式的な断面図である。図6に示すように、膨張弁103は、第1流出口43が乾き度分布形成空間36の底部(高さの低い部分)に接続されている点に特徴を有している。乾き度分布形成空間36では、冷媒の旋回流によって円筒外周側ほど乾き度が低くなるとともに、気液の密度差により生じる液相冷媒の重力沈降によって、底部は特に乾き度が低くなり易い。
【0061】
本実施形態では、第1流出口43が乾き度分布形成空間36の底部に接続され、第2流出口42が乾き度分布形成空間36の中心軸C1上に接続されているため、第1流出口41からは乾き度の低い冷媒を流出させ、第2流出口42からは乾き度の高い冷媒を流出させることができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図7を用いて説明する。図7は、本実施形態における膨張弁113の構成を示す模式的な断面図である。図7に示すように、膨張弁113は、乾き度分布形成空間37が冷媒に旋回流を生じさせる構造になっている必要はなく、乾き度分布形成空間37にトラップ構造38が形成されている点に特徴を有している。トラップ構造38は、オリフィス32から乾き度分布形成空間37に流出する冷媒の流路上に設けられている。トラップ構造38は例えば板状の形状を有し、水平に配置されている。これにより、オリフィス32から上方に向かって流出する冷媒流は、トラップ構造38の下面に衝突するようになっている。
【0063】
第1流出口43は乾き度分布形成空間37の底部に接続され、第2流出口42は第1流出口43よりも上部に接続されている。例えば第2流出口42は、トラップ構造38よりもさらに上部に接続されている。
【0064】
オリフィス32から乾き度分布形成空間37に流出した気液二相冷媒のうち、液相冷媒は気相冷媒よりも慣性力の影響を受け易いためトラップ構造38に衝突して流速が低下する。流速が低下した液相冷媒は、気液の密度差により生じる重力沈降によって乾き度分布形成空間37の下部に集まる。これにより、乾き度分布形成空間37には、底部ほど乾き度が低くなる乾き度分布が形成される。したがって本実施形態によれば、第1流出口43からは乾き度の低い冷媒を流出させ、第2流出口42からは乾き度の高い冷媒を流出させることができる。
【0065】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図8を用いて説明する。図8は、本実施形態における膨張弁123の構成を示す模式的な断面図であり、図3に対応する断面を示している。図8に示すように、膨張弁123は、冷媒の旋回流の流路となる乾き度分布形成空間36の円筒状内壁面36a上に、中心軸C1側に向かって突出する板状のトラップ構造39が形成されている点に特徴を有している。第1流出口41は乾き度分布形成空間36の底部近傍に接続され、第2流出口42は第1流出口41よりも上方である例えば中心軸C1上に接続されている。
【0066】
オリフィス32から乾き度分布形成空間36に流出した冷媒には円筒状内壁面36aに沿う旋回流が生じ、液相冷媒は気相冷媒よりも慣性力の影響を受け易いためトラップ構造39に衝突して流速が低下する。流速が低下した液相冷媒は、気液の密度差により生じる重力沈降によって乾き度分布形成空間36の下部に集まる。これにより、乾き度分布形成空間36には、底部ほど乾き度が低くなる乾き度分布が形成される。したがって本実施形態によれば、第1流出口41からは乾き度の低い冷媒を流出させ、第2流出口42からは乾き度の高い冷媒を流出させることができる。
【0067】
(その他の実施形態)
上記第1実施形態では、第1流出口41が第2流出口42よりも下方に接続されているが、第1流出口41の接続位置は、第2流出口42よりも外周側であれば上方や側方であってもよい。
【0068】
また上記実施形態では、第1流出口41、43をノズル部5a側に接続し、第2流出口42を第2蒸発器7側に接続しているが、第1流出口41、43を第2蒸発器7側に接続し、第2流出口42をノズル部5a側に接続してもよい。
【0069】
さらに上記実施形態では温度式の膨張弁を例に挙げたが、電磁式の膨張弁にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態における蒸気圧縮式冷凍サイクルの構成を示す図である。
【図2】第1実施形態における膨張弁の構成を示す模式的な断面図である。
【図3】第1実施形態における膨張弁の要部を図2の左方から見た構成を示す模式的な断面図である。
【図4】冷媒の乾き度に対する液相冷媒の分配比を示すグラフである。
【図5】冷凍サイクルの作動の一例を示す作動線図である。
【図6】第2実施形態における膨張弁の構成を示す模式的な断面図である。
【図7】第3実施形態における膨張弁の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】第4実施形態における膨張弁の構成を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 圧縮機
2 放熱器
3、103、113、123 膨張弁
5 エジェクタ
5a ノズル部
5b 吸引部
6 第1蒸発器
7 第2蒸発器
31 流入部
32 オリフィス
34 弁体
36、37 乾き度分布形成空間
38、39 トラップ構造
41、43 第1流出口
42 第2流出口
52 感温駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、
前記圧縮機(1)で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器(2)と、
前記放熱器(2)で放熱した冷媒のうち一部の冷媒を取り入れてノズル部(5a)から噴射させて高速度の冷媒流を形成するとともに、当該冷媒流によって冷媒を吸引部(5b)から吸引するエジェクタ(5)と、
前記エジェクタ(5)から流出した冷媒を蒸発させ、前記圧縮機(1)側に流出させる第1蒸発器(6)と、
前記放熱器(2)で放熱した冷媒のうち残余の冷媒を取り入れて蒸発させ、前記吸引部(5b)側に流出させる第2蒸発器(7)とを備えた蒸気圧縮式冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって、
前記放熱器(2)で放熱した冷媒を流入させる流入部(31)と、
前記流入部(31)よりも下流側に設けられ、流入した冷媒を絞り膨張させて気液二相冷媒とするオリフィス(32)と、
前記オリフィス(32)を通過する冷媒の流量を調節する弁体(34)と、
前記弁体(34)を駆動する駆動部(52)と、
前記オリフィス(32)の下流側に隣接して設けられ、慣性力を利用して冷媒の乾き度分布を形成する乾き度分布形成空間(36)と、
前記乾き度分布形成空間(36)に接続され、前記ノズル部(5a)側又は前記第2蒸発器(7)側の一方に冷媒を流出させる第1流出口(41)と、
前記乾き度分布形成空間(36)に接続され、前記第1流出口(41)から流出する冷媒よりも乾き度の高い冷媒を前記ノズル部(5a)側又は前記第2蒸発器(7)側の他方に流出させる第2流出口(42)とを有することを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記乾き度分布形成空間(36)は、前記オリフィス(32)が接線方向に接続された円筒状の形状を有し、前記オリフィス(32)から流出した気液二相冷媒に旋回流を生じさせることを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記第1流出口(41)は、前記乾き度分布形成空間(36)において前記第2流出口(42)よりも円筒外周側に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記第2流出口(42)は、前記乾き度分布形成空間(36)の中心軸(C1)上に接続されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記第1流出口(43)は、前記乾き度分布形成空間(36)の底部に接続されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記乾き度分布形成空間(36、37)は、前記オリフィス(32)から流出する冷媒の流路上に形成されたトラップ構造(38、39)を有し、
前記第1流出口(41、43)は、前記乾き度分布形成空間(36、37)において前記第2流出口(42)よりも下方に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記第1蒸発器(6)及び前記第2蒸発器(7)の少なくとも一方に直結されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膨張弁。
【請求項8】
冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、
前記圧縮機(1)で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器(2)と、
前記放熱器(2)で放熱した冷媒のうち一部の冷媒を取り入れてノズル部(5a)から噴射させて高速度の冷媒流を形成するとともに、当該冷媒流によって冷媒を吸引部(5b)から吸引するエジェクタ(5)と、
前記エジェクタ(5)から流出した冷媒を蒸発させ、前記圧縮機(1)側に流出させる第1蒸発器(6)と、
前記放熱器(2)で放熱した冷媒のうち残余の冷媒を取り入れて蒸発させ、前記吸引部(5b)側に流出させる第2蒸発器(7)と、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の膨張弁とを有することを特徴とする蒸気圧縮式冷凍サイクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38454(P2010−38454A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202313(P2008−202313)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】