臍帯血採取デバイス及び臍帯血採取方法
【課題】
採血時に臍帯血管を傷つけるおそれがなく、安定して採血することができ、術者が安心して未熟児及び母体への対応に集中することができる臍帯血の採取デバイスの開発が求められている。
【解決手段】
本発明は、臍帯血採取デバイスに関する。具体的には、先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイスに関する。
採血時に臍帯血管を傷つけるおそれがなく、安定して採血することができ、術者が安心して未熟児及び母体への対応に集中することができる臍帯血の採取デバイスの開発が求められている。
【解決手段】
本発明は、臍帯血採取デバイスに関する。具体的には、先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイスに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臍帯血採取デバイスに関する。具体的には、先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイスに関する。また、本発明は当該デバイスを用いた臍帯血採取方法にも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国において、出生体重2,500g以下の未熟児は年間約10万人出生する。これらの未熟児、特に出生体重1,500g以下の極低出生体重児(VLBWI:Very Low Birth Weight Infant)は、新生児特定集中治療室(NICU:Neonatal Intensive Care Unit)における頻回の採血や急激な体重増加などが原因で、ほとんど全例が貧血に罹患する。この疾患は未熟児貧血として認知され、古くから輸血治療の対象となり、1990年の初頭まで、わが国ではVLBWIの約40%が、欧米では約60〜80%が頻回の輸血を受けていた。未熟児貧血の主な症状としては、無呼吸発作、多呼吸、頻脈、哺乳乳力低下、体重増加不良及び免疫力の低下などが挙げられる。
【0003】
近年、未熟児貧血の治療には、赤血球系造血に対して選択的に強力な増強作用を示すヒトリコンビナントエリスロポエチン製剤の使用が認可され、輸血回数は減少しているが、輸血そのものを完全に回避するに至っていない。
【0004】
わが国では1992年に発足した小児輸血療法研究会において、未熟児の早期貧血に対する輸血ガイドラインが作成され、1999年に厚生省医薬安全局により小児に対する血液製剤の使用指針について通達された。
【0005】
しかしながら、未熟児に対しての成人血液による同種血輸血は一種の臓器移植であり、免疫学的にも未熟で抵抗力に乏しい未熟児には、血清肝炎及びエイズ(AIDS)などwindow periodによるウイルス感染症や免疫片対宿主病(graft-versus-host disease)などの輸血に伴う副作用が不可避である。このような同種血輸血に伴う副作用を回避するために、既に成人に対しては、貯血式自己血輸血が一般に普及している。
【0006】
一方で、未熟児に対しては、成人血ではなく臍帯血を使用する自己臍帯血輸血療法が提案されている。臍帯血は、成人血より酸素解離曲線が左方移動しているため、低酸素状態下での酸素運搬能が高く末梢組織内呼吸に有利に働く。このことは、酸素分圧が30mmHg前後と低い実際の胎児環境において、中枢神経系を含む諸臓器の発達発育のために有利なだけでなく、種々のストレスによる低酸素性虚血性臓器障害をも回避するために合目的である。
【0007】
本発明者は、自己臍帯血輸血療法の症例を重ね、同治療法の有効性を実証するに至っている。具体的には、無呼吸発作回数、発育遅延が改善し、循環器系への負担が減少した結果、退院期間が短縮する。したがって、自己臍帯血輸血療法は、今後同種血輸血を回避することができる普遍的な治療法として世界的にも普及すると期待されている。
【0008】
一方、臍帯血は幹細胞を多く含むため、白血病等の移植治療にも用いられている。臍帯血移植と呼ばれるこの療法は、骨髄移植のように提供者(ドナー)への侵襲がないという利点があり、普遍的な治療法として世界的にも普及している。
【0009】
これらの治療法に用いるための臍帯血の採取・保存技術に関して様々な検討がなされている。一般的に臍帯血の採取方法は、
(A) 臍帯血管に採血針を穿刺して、シリンジなどの吸引力により回収する方法(特許文献1)
(B) 特許文献2〜5に開示された胎盤保持器具を用いて臍帯を垂下げ、臍帯血管に採血針を穿刺して、落差を利用して回収する方法、
が挙げられる。ここで、(A)の方法は急速に吸引すると血管がつぶれて閉鎖するおそれがあるため、落差を利用して回収する(B)の方法で採血することが好ましい。
【0010】
しかしながら、従来の方法は上述したように臍帯を垂れ下げた状態で採血を行うために、採血器具の臍帯静脈挿入における、採血器具と臍帯静脈との相互位置変化により血管を傷付け、血液が漏出、及び/又は飛散するおそれがある。
【0011】
採血作業は児娩出直後に施行されるが、新生児や母体への対応が最優先される都合上、可能な限り臍帯血の採血は簡便かつ確実に行えなければならない。しかし従来の方法では、作業者は針の穿刺方向を固定するために臍帯血を採取する器具と臍帯を作業者の手で握持・固定する必要があり、臍帯血を採取している間中拘束され、母児への対応が著しく制限される。また従来の方法では、臍帯血の採血作業中に、採血針内筒に臍帯組織片が詰まる、又は、血管壁面が採血針先端の口部を塞ぐ場合がある。この場合、針の穿刺方向を変えることによって採血の効率は向上するが、方向を変える際に血管を破損する危険性がある。
【0012】
【特許文献1】特開平07−184991号公報
【特許文献2】特開平10−108869号公報
【特許文献3】特開平10−155809号公報
【特許文献4】特開平11−009576号公報
【特許文献5】特開平11−033016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、採血時に臍帯血管を傷つけるおそれがなく、安定して採血することができ、術者が安心して未熟児及び母体への対応に集中することができる臍帯血の採取デバイスの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
[1] ヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するためのデバイスであって、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイス、
[2] 前記臍帯組織保持具の基部には、前記分岐留置針と直接的に連結する連結部を設け、
前記角度可変手段は、前記分岐留置針に具備した
[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[3] 前記角度可変手段は、前記分岐留置針における穿刺方向に対してなす角を有し、前記臍帯組織保持具の連結部と係合する円柱体又は凹溝である[2]に記載の臍帯血採取デバイス、
[4] なす角が、45〜135度である[3]に記載の臍帯血採取デバイス、
[5] さらに、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を間接的に連結する連結補助具を備え、
前記角度可変手段を、前記連結補助具に設けた[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[6] さらに、採取した臍帯血を収納するための血液バッグを備えた[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[7] 臍帯血採取デバイスを用いてヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するための方法であって、
前記デバイスは、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造を有し、
前記分岐留置針を臍帯組織に穿刺した際に、前記連結手段により前記穿刺方向と前記保持方向とのなす角度を可変することを特徴とする臍帯血採取方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の臍帯血採取デバイスは、安定して臍帯血を採取することができるために、術者が未熟児や母体への対応に集中することができる。具体的には、臍帯血の採取にプラスチック製の外筒針を設けた分岐留置針を、臍帯組織保治具を用いて刺入部位に固定せしめるために、採血中の操作で血管を傷つける危険性が低く、貴重な臍帯血が飛散することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の臍帯血採取デバイスを示す概要図である。本発明の臍帯血採取デバイスは分岐留置針1、臍帯組織保持具2及び角度可変手段3を備える。ここで、臍帯組織保持具2は、分岐留置針1に連結している。
【0017】
図2は、図1における分岐留置針1の詳細を示す図である。本発明の分岐留置針1は、組織への穿刺は金属内針により達成し、その後当該金属内針を引き抜くことによりプラスチック製の外筒針を臍帯血管内に留置しうるデバイスをいう。具体的には、先端側11に設けた外筒針111と、基端側12に設けた内針引抜管部121と、前記内針引抜管部121の内部に設けた内針13と、前記内針引抜管部121から分岐した液体流出管部14を具備する。尚、本発明において、分岐留置針1における基端側12から先端側11への方向(図2中の矢印a)を「穿刺方向」とする。
【0018】
これら分岐留置針1の基本的な構造は市販の分岐留置針となんら相違するものではなく、外筒針111、内針引抜管部121及び液体流出管部14はプラスチックからなり、内針13はステンレス、アルミ、アルミ合金、チタン及びチタン合金などの金属からなる。上記プラスチックは、生体適合性、抗菌性及び可撓性に優れた軟質系樹脂であることが好ましく、例えば、ポリウレタン及びエチレン−ポリテトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられるが、これに限定されるものではない。外筒針111がプラスチック製であるため、採血中の操作により血管を傷つけることがなく、貴重な臍帯血が飛散する恐れがない。臍帯組織から臍帯血を採取する技術分野において、金属針が使用されることが一般的であり、一般医療分野における分岐留置針は使用されていない。本発明者らは、血流による衝動や採血中の操作により金属針が血管を突き破る課題を発見し、これを解決した。
【0019】
図3は、図1における臍帯組織保持具2の詳細な一例を示す図である。本発明の臍帯組織保持具2は、前記分岐留置針1に直接又は間接的に連結する基部21と、臍帯組織を保持するための保持部22を具備する。臍帯組織保持具2は、臍帯血採取時に分岐留置針1が臍帯組織から抜け落ちないよう、臍帯組織に分岐留置針1を保持するための器具をいう。臍帯組織保持具2の保持部22の構造は、臍帯組織から分岐留置針1が脱落せず、臍帯血管を押し潰さない程度の保持力であれば特に限定されるものではない。例えば、臍帯組織を挟持、把持、咬持又は掴持する構造が挙げられるが、製造が容易であり、コストが低い観点から、図3に示すような挟持構造が好ましい。尚、本発明では、臍帯組織保持具2における基部21と保持部22の最短距離の直線に対して平行であり、基部21から保持部22への方向(図3中の矢印b)を「保持方向」とする。
【0020】
そして、分岐留置針1と臍帯組織保持具2は連結手段3により連結する。例えば、図2の分岐留置針1の円柱体311と、図3の臍帯組織保持具2の基部21に設けた把持部312が係合することにより連結が達成される。連結手段の構造は、分岐留置針1の部材と臍帯組織保持具2の部材との、係合、嵌合、溶着、挟持、把持、咬持及び掴持などにより直接的に達成されるもの、分岐留置針1と臍帯組織保持具2とを連結する間接的な部材により達成れるものが挙げられる。これらの連結手段の構造は、当業者が適宜設定できるため、特に限定されるものではない。
【0021】
例えば、図7〜9は図1〜3の連結手段3の構造とは異なる変形例である。図8の分岐留置針1は、内針引抜管部121の側壁に備えた球体321を備える。一方、図9の臍帯組織保持具2は、当該球体321を掴持する構造を有する掴持体322を備え、前記掴持体322を前記分岐留置針1の球体321に掴持させることにより、分岐留置針1と臍帯組織保持具2は連結する。
【0022】
さらに、例えば、図11に示すように、分岐留置針1と臍帯組織保持具2を間接的に連結するための連結補助具33をさらに備えた変形例も挙げられる。
【0023】
上記連結手段3は、分岐留置針1における基端側12若しくは液体流出管部14、及び/又は、臍帯組織保持具2のどの箇所に設けてもよいが、分岐留置針1においては、臍帯組織への穿刺が容易である観点から、基端側12に設けることが好ましく、臍帯組織保持具2においては、臍帯組織への保持が容易である観点から、基部22に設けることが好ましい。また、臍帯組織保持具2は、分岐留置針1から着脱自在であってもよい。
【0024】
上記連結手段3は、分岐留置針1と臍帯組織保持具2とのなす角度を可変する構造である。具体的には、穿刺方向と保持方向とのなす角を可変する構造であり、分岐留置針1の臍帯組織に対する穿刺方向を可変することが可能な構造をいう。この構造により、外筒針111を臍帯血管内に刺入留置後、図4−1に示すように穿刺方向a側で臍帯組織保治具2を用いて臍帯に固定する。その後、分岐留置針1を連結手段3において180°回転させて図4−2に示す様態へ変化させる。このことにより、外筒針111はCの距離だけさらに臍帯血管内に深く挿入され、結果的に外筒針111基部からの臍帯血の漏出を防止することが可能となる。また、外筒針111は先端から基部へと徐々に太くなる構造であると、臍帯血の漏出を防止する効果がさらに高くなる。また、臍帯組織の血管側壁が分岐留置針1の外筒針111の口部を塞いだ場合、連結手段3により臍帯組織への穿刺方向を変化させると、より効率のよい臍帯血の採取が可能となる。
【0025】
例えば、図2の分岐留置針1のように、円柱体311を穿刺方向に対してなす角を有して設ける構造が挙げられる。円柱体311は、図3の臍帯組織保持具2の把持部312と係合した状態で、分岐留置針1を回転することにより穿刺方向aと保持方向bとのなす角を可変することができる(図5)。尚、穿刺方向aと保持方向bとのなす角は、人的な力を加えない限りは円柱体311と把持部312との摩擦抵抗により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。ここで、円柱体311の角度は特に限定されるものではないが、円柱体311の製造が容易である観点から、約5〜45度、好ましくは約10〜30度である。つまり、円柱体の角度が5度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、85〜95度となる。円柱体の角度が30度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、60〜120度となる。円柱体の角度が45度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、45〜135度となる。
【0026】
また、図2に示すような円柱体311でなくとも、図6に示すような凹溝313でも穿刺方向と保持方向とのなす角を可変できることは当業者であれば容易に想到することができる。
【0027】
さらに、図7〜9の連結手段3の構造では、図8の分岐留置針1の球体321と、図9の臍帯組織保持具2の掴持体322との掴持により穿刺方向と保持方向とのなす角を可変することができる(図10)。尚、穿刺方向と保持方向とのなす角は、人的な力を加えない限りは球体321と掴持体322との摩擦抵抗により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。
【0028】
加えて、図11の連結手段3の構造では、連結補助具33に設けた段階的角度可変構造331により穿刺方向と保持方向とのなす角を可変することができる。尚、穿刺方向と保持方向とのなす角は、人的な力を加えない限り、段階的角度可変手段331により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。
【0029】
本発明の臍帯血採取デバイスは、図12に示すように血液バッグ4をさらに備えることが好ましい。血液バッグ4は、上記分岐留置針1の液体流出管部14とあらかじめ接続される。このため、臍帯組織に穿刺後、無菌的に血液バッグに臍帯血を導入することができる。本発明における接続とは、内部的な連通を可能としたものであればよく、一般的には、チューブ5を介して接続することが挙げられる。上記チューブ5の材質は、汎用の医療用チューブと同種のものを使用すればよく、例えばポリ塩化ビニル製のチューブが挙げられる。また、上記血液バッグの材質は、公知の血液バッグと同種のものを選択すればよく、ポリエチレン及びポリ塩化ビニルなどが挙げられる。上記血液バッグ4の容量は、未熟児出産における臍帯血の採血量が、経膣分娩では約40〜150mlであること、及び、後述する薬液が血液バッグ4にあらかじめ収容され、採取された臍帯血と混合することを考慮すると、約100〜400ml、好ましくは約150〜250mlである。
【0030】
さらに、上記血液バッグには血液保存に適した薬液を含んでもよい。薬液としては、全血製剤(日本標準商品分類番号:876341)、赤血球保存液(生物学的製剤基準血液保存液A液ともいう、日本標準商品分類番号:873339)及び血液成分製剤(日本標準商品分類番号:876342)などが挙げられ、目的に応じて使い分けることができる。また、該薬液の含有量は、輸血時における人体への影響の観点から、約10〜60ml、好ましくは約20〜30mlである。さらに、チューブ5には、連通ピース及び/又はクランプなどの液流制御手段6を設けてもよい。血液バッグの接続に関するこれらの設計は、当業者により適宜設定できるものであるため、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の図12の臍帯血採取デバイスを用いた臍帯血の採取方法について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1:臍帯血の採取
本実施例においては、まず、事前の各保険医療施設の倫理委員会の承認及び患児の保護者に対する十分なインフォームドコンセントが不可避である。ここで、本発明におけるインフォームドコンセントとは、患児の保護者に自己臍帯血輸血療法について十分な説明を行い、保護者が納得した上で、自己決定により同意を得ることで倫理的な問題を解決していることをいう。
【0033】
(1) 児娩出後胎盤娩出前に臍帯児側端を2ヵ所クランプし、その間を切離してまず児を取り上げる。帝王切開の場合は、児切離後に絨毛血管を傷つけないように胎盤を剥離し、膿盆に胎盤を移す。
(2) 臍帯血の細菌感染のリスクを抑制するために、外用消毒剤(日本標準商品分類番号:872612)を浸したガーゼで臍帯を児側端から胎盤側に向かって清拭し、次に清潔な乾ガーゼで同様に清拭する。
(3) 切離した胎盤及び臍帯を、落差で臍帯血を採取できるようにセッティングする。例えば、特開平10−108869号公報、特開平10−155809号公報、特開平11−009576号公報及び特開平11−033016号公報などに開示されている胎盤保持器具を用いて、臍帯を垂れ下げる方法が好ましいが、これに限定されるものではない。
(4) 分岐留置針1で臍静脈を穿刺する。
(5) 内針13を引き抜く。
(6) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を先端側に調節する。
(7) 臍帯組織保持具2で臍帯を固定する。
(8) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を基端側に調節し、外筒針111を臍帯血管の奥に差し込む。(血液が漏れにくくなる)
(9) 連通ピース61を折ることにより採血を開始する。
(10) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)角度調節をし、適当な穿刺角度を模索する。
(11) 液流制御手段62をクランプして採血を終了する。この時、特開平11−009576号公報及び特開平11−033016号公報などに開示されている胎盤保持器具を用いた場合、胎盤に残った血液を容易に視認することができ便利である。また、胎盤の赤黒くなっている部分を押すことにより、無駄なく臍帯血を採取することができる。
【0034】
実験例1:採血量の比較
本発明の臍帯血採取器具を用いて臍帯血を採取した。具体的には、
(1) 後胎盤娩出前に臍帯児側端を2ヵ所クランプし、その間を切離してまず児を取り上げた。帝王切開の場合は、児切離後に絨毛血管を傷つけないように胎盤を剥離し、膿盆に胎盤を移した。
(2) 臍帯血の細菌感染のリスクを抑制するために、外用消毒剤(日本標準商品分類番号:872612)を浸したガーゼで臍帯を児側端から胎盤側に向かって清拭し、次に清潔な乾ガーゼで同様に清拭した。
(3) 切離した胎盤及び臍帯を、落差で臍帯血を採取できるようにセッティングした。
(4) 分岐留置針1で臍静脈を穿刺した。
(5) 内針13を引き抜いた
(6) 留置針を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を先端側に調節した。
(7) 臍帯組織保持具2で臍帯を固定した。
(8) 留置針を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を基端側に調節し、外筒針を管臍静脈の奥に差し込んだ。(血液が漏れにくくなる)
(9) 連通ピース61を折ることにより採血を開始した。
(10) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、適当な穿刺角度を模索した。
(11) 液流制御手段62をクランプして採血を終了した。
【0035】
以上の採血作業は、非常に安定して行うことができることを確認した。また、臍帯血の採取量は、95.1mlであった。これは、従来の採血量(70.4ml、関西医科大学 21世紀への医学への飛翔 臨床医学系講座 小児科学講座のWebページ参照、URL:http://www2.kmu.ac.jp/ann70/tenkai/clin/text8.html)よりも多い採取量であった。この結果からも本発明の有用性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の臍帯血採取デバイスを用いれば、効率よく臍帯血を得ることができる。特に未熟児出産の場合、母体及び未熟児への対応を制限することなく、片手間で手軽に臍帯血が採取できる。得られた臍帯血は、赤血球成分を分離して自己臍帯血輸血療法に用いてもよいし、白血球成分を分離して移植治療に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のデバイスの一実施形態を示す図である。
【図2】図1のデバイスにおける分岐留置針を示す図である。
【図3】図1のデバイスにおける臍帯組織保持具を示す図である。
【図4】図1のデバイスを用いた臍帯の穿刺を示す図である。
【図5】図1のデバイスにおける角度可変を示す図である。
【図6】図2の分岐留置針の変形例を示す図である。
【図7】図1のデバイスとは異なる他の実施形態を示す図である。
【図8】図7のデバイスにおける分岐留置針を示す図である。
【図9】図7のデバイスにおける臍帯組織保持具を示す図である。
【図10】図7のデバイスにおける角度可変を示す図である。
【図11】図1及び7のデバイスとは異なる他の実施形態を示す図である。
【図12】図1のデバイスに血液バッグをさらに備えた一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 分岐留置針
11 先端側
111 外筒針
12 基端側
121 内針引抜部
13 内針
14 液体流出管部
2 臍帯組織保持具
21 保持部
22 基部
3 連結手段
311 円柱体
312 把持部
313 凹溝
321 球体
322 掴持体
33 連結補助具
331 段階的角度可変手段
4 血液バッグ
5 チューブ
61 連通ピース
62 液流制御手段
X 臍帯
【技術分野】
【0001】
本発明は、臍帯血採取デバイスに関する。具体的には、先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイスに関する。また、本発明は当該デバイスを用いた臍帯血採取方法にも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国において、出生体重2,500g以下の未熟児は年間約10万人出生する。これらの未熟児、特に出生体重1,500g以下の極低出生体重児(VLBWI:Very Low Birth Weight Infant)は、新生児特定集中治療室(NICU:Neonatal Intensive Care Unit)における頻回の採血や急激な体重増加などが原因で、ほとんど全例が貧血に罹患する。この疾患は未熟児貧血として認知され、古くから輸血治療の対象となり、1990年の初頭まで、わが国ではVLBWIの約40%が、欧米では約60〜80%が頻回の輸血を受けていた。未熟児貧血の主な症状としては、無呼吸発作、多呼吸、頻脈、哺乳乳力低下、体重増加不良及び免疫力の低下などが挙げられる。
【0003】
近年、未熟児貧血の治療には、赤血球系造血に対して選択的に強力な増強作用を示すヒトリコンビナントエリスロポエチン製剤の使用が認可され、輸血回数は減少しているが、輸血そのものを完全に回避するに至っていない。
【0004】
わが国では1992年に発足した小児輸血療法研究会において、未熟児の早期貧血に対する輸血ガイドラインが作成され、1999年に厚生省医薬安全局により小児に対する血液製剤の使用指針について通達された。
【0005】
しかしながら、未熟児に対しての成人血液による同種血輸血は一種の臓器移植であり、免疫学的にも未熟で抵抗力に乏しい未熟児には、血清肝炎及びエイズ(AIDS)などwindow periodによるウイルス感染症や免疫片対宿主病(graft-versus-host disease)などの輸血に伴う副作用が不可避である。このような同種血輸血に伴う副作用を回避するために、既に成人に対しては、貯血式自己血輸血が一般に普及している。
【0006】
一方で、未熟児に対しては、成人血ではなく臍帯血を使用する自己臍帯血輸血療法が提案されている。臍帯血は、成人血より酸素解離曲線が左方移動しているため、低酸素状態下での酸素運搬能が高く末梢組織内呼吸に有利に働く。このことは、酸素分圧が30mmHg前後と低い実際の胎児環境において、中枢神経系を含む諸臓器の発達発育のために有利なだけでなく、種々のストレスによる低酸素性虚血性臓器障害をも回避するために合目的である。
【0007】
本発明者は、自己臍帯血輸血療法の症例を重ね、同治療法の有効性を実証するに至っている。具体的には、無呼吸発作回数、発育遅延が改善し、循環器系への負担が減少した結果、退院期間が短縮する。したがって、自己臍帯血輸血療法は、今後同種血輸血を回避することができる普遍的な治療法として世界的にも普及すると期待されている。
【0008】
一方、臍帯血は幹細胞を多く含むため、白血病等の移植治療にも用いられている。臍帯血移植と呼ばれるこの療法は、骨髄移植のように提供者(ドナー)への侵襲がないという利点があり、普遍的な治療法として世界的にも普及している。
【0009】
これらの治療法に用いるための臍帯血の採取・保存技術に関して様々な検討がなされている。一般的に臍帯血の採取方法は、
(A) 臍帯血管に採血針を穿刺して、シリンジなどの吸引力により回収する方法(特許文献1)
(B) 特許文献2〜5に開示された胎盤保持器具を用いて臍帯を垂下げ、臍帯血管に採血針を穿刺して、落差を利用して回収する方法、
が挙げられる。ここで、(A)の方法は急速に吸引すると血管がつぶれて閉鎖するおそれがあるため、落差を利用して回収する(B)の方法で採血することが好ましい。
【0010】
しかしながら、従来の方法は上述したように臍帯を垂れ下げた状態で採血を行うために、採血器具の臍帯静脈挿入における、採血器具と臍帯静脈との相互位置変化により血管を傷付け、血液が漏出、及び/又は飛散するおそれがある。
【0011】
採血作業は児娩出直後に施行されるが、新生児や母体への対応が最優先される都合上、可能な限り臍帯血の採血は簡便かつ確実に行えなければならない。しかし従来の方法では、作業者は針の穿刺方向を固定するために臍帯血を採取する器具と臍帯を作業者の手で握持・固定する必要があり、臍帯血を採取している間中拘束され、母児への対応が著しく制限される。また従来の方法では、臍帯血の採血作業中に、採血針内筒に臍帯組織片が詰まる、又は、血管壁面が採血針先端の口部を塞ぐ場合がある。この場合、針の穿刺方向を変えることによって採血の効率は向上するが、方向を変える際に血管を破損する危険性がある。
【0012】
【特許文献1】特開平07−184991号公報
【特許文献2】特開平10−108869号公報
【特許文献3】特開平10−155809号公報
【特許文献4】特開平11−009576号公報
【特許文献5】特開平11−033016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、採血時に臍帯血管を傷つけるおそれがなく、安定して採血することができ、術者が安心して未熟児及び母体への対応に集中することができる臍帯血の採取デバイスの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
[1] ヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するためのデバイスであって、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイス、
[2] 前記臍帯組織保持具の基部には、前記分岐留置針と直接的に連結する連結部を設け、
前記角度可変手段は、前記分岐留置針に具備した
[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[3] 前記角度可変手段は、前記分岐留置針における穿刺方向に対してなす角を有し、前記臍帯組織保持具の連結部と係合する円柱体又は凹溝である[2]に記載の臍帯血採取デバイス、
[4] なす角が、45〜135度である[3]に記載の臍帯血採取デバイス、
[5] さらに、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を間接的に連結する連結補助具を備え、
前記角度可変手段を、前記連結補助具に設けた[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[6] さらに、採取した臍帯血を収納するための血液バッグを備えた[1]に記載の臍帯血採取デバイス、
[7] 臍帯血採取デバイスを用いてヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するための方法であって、
前記デバイスは、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造を有し、
前記分岐留置針を臍帯組織に穿刺した際に、前記連結手段により前記穿刺方向と前記保持方向とのなす角度を可変することを特徴とする臍帯血採取方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の臍帯血採取デバイスは、安定して臍帯血を採取することができるために、術者が未熟児や母体への対応に集中することができる。具体的には、臍帯血の採取にプラスチック製の外筒針を設けた分岐留置針を、臍帯組織保治具を用いて刺入部位に固定せしめるために、採血中の操作で血管を傷つける危険性が低く、貴重な臍帯血が飛散することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の臍帯血採取デバイスを示す概要図である。本発明の臍帯血採取デバイスは分岐留置針1、臍帯組織保持具2及び角度可変手段3を備える。ここで、臍帯組織保持具2は、分岐留置針1に連結している。
【0017】
図2は、図1における分岐留置針1の詳細を示す図である。本発明の分岐留置針1は、組織への穿刺は金属内針により達成し、その後当該金属内針を引き抜くことによりプラスチック製の外筒針を臍帯血管内に留置しうるデバイスをいう。具体的には、先端側11に設けた外筒針111と、基端側12に設けた内針引抜管部121と、前記内針引抜管部121の内部に設けた内針13と、前記内針引抜管部121から分岐した液体流出管部14を具備する。尚、本発明において、分岐留置針1における基端側12から先端側11への方向(図2中の矢印a)を「穿刺方向」とする。
【0018】
これら分岐留置針1の基本的な構造は市販の分岐留置針となんら相違するものではなく、外筒針111、内針引抜管部121及び液体流出管部14はプラスチックからなり、内針13はステンレス、アルミ、アルミ合金、チタン及びチタン合金などの金属からなる。上記プラスチックは、生体適合性、抗菌性及び可撓性に優れた軟質系樹脂であることが好ましく、例えば、ポリウレタン及びエチレン−ポリテトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられるが、これに限定されるものではない。外筒針111がプラスチック製であるため、採血中の操作により血管を傷つけることがなく、貴重な臍帯血が飛散する恐れがない。臍帯組織から臍帯血を採取する技術分野において、金属針が使用されることが一般的であり、一般医療分野における分岐留置針は使用されていない。本発明者らは、血流による衝動や採血中の操作により金属針が血管を突き破る課題を発見し、これを解決した。
【0019】
図3は、図1における臍帯組織保持具2の詳細な一例を示す図である。本発明の臍帯組織保持具2は、前記分岐留置針1に直接又は間接的に連結する基部21と、臍帯組織を保持するための保持部22を具備する。臍帯組織保持具2は、臍帯血採取時に分岐留置針1が臍帯組織から抜け落ちないよう、臍帯組織に分岐留置針1を保持するための器具をいう。臍帯組織保持具2の保持部22の構造は、臍帯組織から分岐留置針1が脱落せず、臍帯血管を押し潰さない程度の保持力であれば特に限定されるものではない。例えば、臍帯組織を挟持、把持、咬持又は掴持する構造が挙げられるが、製造が容易であり、コストが低い観点から、図3に示すような挟持構造が好ましい。尚、本発明では、臍帯組織保持具2における基部21と保持部22の最短距離の直線に対して平行であり、基部21から保持部22への方向(図3中の矢印b)を「保持方向」とする。
【0020】
そして、分岐留置針1と臍帯組織保持具2は連結手段3により連結する。例えば、図2の分岐留置針1の円柱体311と、図3の臍帯組織保持具2の基部21に設けた把持部312が係合することにより連結が達成される。連結手段の構造は、分岐留置針1の部材と臍帯組織保持具2の部材との、係合、嵌合、溶着、挟持、把持、咬持及び掴持などにより直接的に達成されるもの、分岐留置針1と臍帯組織保持具2とを連結する間接的な部材により達成れるものが挙げられる。これらの連結手段の構造は、当業者が適宜設定できるため、特に限定されるものではない。
【0021】
例えば、図7〜9は図1〜3の連結手段3の構造とは異なる変形例である。図8の分岐留置針1は、内針引抜管部121の側壁に備えた球体321を備える。一方、図9の臍帯組織保持具2は、当該球体321を掴持する構造を有する掴持体322を備え、前記掴持体322を前記分岐留置針1の球体321に掴持させることにより、分岐留置針1と臍帯組織保持具2は連結する。
【0022】
さらに、例えば、図11に示すように、分岐留置針1と臍帯組織保持具2を間接的に連結するための連結補助具33をさらに備えた変形例も挙げられる。
【0023】
上記連結手段3は、分岐留置針1における基端側12若しくは液体流出管部14、及び/又は、臍帯組織保持具2のどの箇所に設けてもよいが、分岐留置針1においては、臍帯組織への穿刺が容易である観点から、基端側12に設けることが好ましく、臍帯組織保持具2においては、臍帯組織への保持が容易である観点から、基部22に設けることが好ましい。また、臍帯組織保持具2は、分岐留置針1から着脱自在であってもよい。
【0024】
上記連結手段3は、分岐留置針1と臍帯組織保持具2とのなす角度を可変する構造である。具体的には、穿刺方向と保持方向とのなす角を可変する構造であり、分岐留置針1の臍帯組織に対する穿刺方向を可変することが可能な構造をいう。この構造により、外筒針111を臍帯血管内に刺入留置後、図4−1に示すように穿刺方向a側で臍帯組織保治具2を用いて臍帯に固定する。その後、分岐留置針1を連結手段3において180°回転させて図4−2に示す様態へ変化させる。このことにより、外筒針111はCの距離だけさらに臍帯血管内に深く挿入され、結果的に外筒針111基部からの臍帯血の漏出を防止することが可能となる。また、外筒針111は先端から基部へと徐々に太くなる構造であると、臍帯血の漏出を防止する効果がさらに高くなる。また、臍帯組織の血管側壁が分岐留置針1の外筒針111の口部を塞いだ場合、連結手段3により臍帯組織への穿刺方向を変化させると、より効率のよい臍帯血の採取が可能となる。
【0025】
例えば、図2の分岐留置針1のように、円柱体311を穿刺方向に対してなす角を有して設ける構造が挙げられる。円柱体311は、図3の臍帯組織保持具2の把持部312と係合した状態で、分岐留置針1を回転することにより穿刺方向aと保持方向bとのなす角を可変することができる(図5)。尚、穿刺方向aと保持方向bとのなす角は、人的な力を加えない限りは円柱体311と把持部312との摩擦抵抗により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。ここで、円柱体311の角度は特に限定されるものではないが、円柱体311の製造が容易である観点から、約5〜45度、好ましくは約10〜30度である。つまり、円柱体の角度が5度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、85〜95度となる。円柱体の角度が30度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、60〜120度となる。円柱体の角度が45度である場合、穿刺方向と保持方向とのなす角は、45〜135度となる。
【0026】
また、図2に示すような円柱体311でなくとも、図6に示すような凹溝313でも穿刺方向と保持方向とのなす角を可変できることは当業者であれば容易に想到することができる。
【0027】
さらに、図7〜9の連結手段3の構造では、図8の分岐留置針1の球体321と、図9の臍帯組織保持具2の掴持体322との掴持により穿刺方向と保持方向とのなす角を可変することができる(図10)。尚、穿刺方向と保持方向とのなす角は、人的な力を加えない限りは球体321と掴持体322との摩擦抵抗により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。
【0028】
加えて、図11の連結手段3の構造では、連結補助具33に設けた段階的角度可変構造331により穿刺方向と保持方向とのなす角を可変することができる。尚、穿刺方向と保持方向とのなす角は、人的な力を加えない限り、段階的角度可変手段331により固定される。このことにより、安定した臍帯血の採取を可能とする。
【0029】
本発明の臍帯血採取デバイスは、図12に示すように血液バッグ4をさらに備えることが好ましい。血液バッグ4は、上記分岐留置針1の液体流出管部14とあらかじめ接続される。このため、臍帯組織に穿刺後、無菌的に血液バッグに臍帯血を導入することができる。本発明における接続とは、内部的な連通を可能としたものであればよく、一般的には、チューブ5を介して接続することが挙げられる。上記チューブ5の材質は、汎用の医療用チューブと同種のものを使用すればよく、例えばポリ塩化ビニル製のチューブが挙げられる。また、上記血液バッグの材質は、公知の血液バッグと同種のものを選択すればよく、ポリエチレン及びポリ塩化ビニルなどが挙げられる。上記血液バッグ4の容量は、未熟児出産における臍帯血の採血量が、経膣分娩では約40〜150mlであること、及び、後述する薬液が血液バッグ4にあらかじめ収容され、採取された臍帯血と混合することを考慮すると、約100〜400ml、好ましくは約150〜250mlである。
【0030】
さらに、上記血液バッグには血液保存に適した薬液を含んでもよい。薬液としては、全血製剤(日本標準商品分類番号:876341)、赤血球保存液(生物学的製剤基準血液保存液A液ともいう、日本標準商品分類番号:873339)及び血液成分製剤(日本標準商品分類番号:876342)などが挙げられ、目的に応じて使い分けることができる。また、該薬液の含有量は、輸血時における人体への影響の観点から、約10〜60ml、好ましくは約20〜30mlである。さらに、チューブ5には、連通ピース及び/又はクランプなどの液流制御手段6を設けてもよい。血液バッグの接続に関するこれらの設計は、当業者により適宜設定できるものであるため、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の図12の臍帯血採取デバイスを用いた臍帯血の採取方法について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1:臍帯血の採取
本実施例においては、まず、事前の各保険医療施設の倫理委員会の承認及び患児の保護者に対する十分なインフォームドコンセントが不可避である。ここで、本発明におけるインフォームドコンセントとは、患児の保護者に自己臍帯血輸血療法について十分な説明を行い、保護者が納得した上で、自己決定により同意を得ることで倫理的な問題を解決していることをいう。
【0033】
(1) 児娩出後胎盤娩出前に臍帯児側端を2ヵ所クランプし、その間を切離してまず児を取り上げる。帝王切開の場合は、児切離後に絨毛血管を傷つけないように胎盤を剥離し、膿盆に胎盤を移す。
(2) 臍帯血の細菌感染のリスクを抑制するために、外用消毒剤(日本標準商品分類番号:872612)を浸したガーゼで臍帯を児側端から胎盤側に向かって清拭し、次に清潔な乾ガーゼで同様に清拭する。
(3) 切離した胎盤及び臍帯を、落差で臍帯血を採取できるようにセッティングする。例えば、特開平10−108869号公報、特開平10−155809号公報、特開平11−009576号公報及び特開平11−033016号公報などに開示されている胎盤保持器具を用いて、臍帯を垂れ下げる方法が好ましいが、これに限定されるものではない。
(4) 分岐留置針1で臍静脈を穿刺する。
(5) 内針13を引き抜く。
(6) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を先端側に調節する。
(7) 臍帯組織保持具2で臍帯を固定する。
(8) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を基端側に調節し、外筒針111を臍帯血管の奥に差し込む。(血液が漏れにくくなる)
(9) 連通ピース61を折ることにより採血を開始する。
(10) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)角度調節をし、適当な穿刺角度を模索する。
(11) 液流制御手段62をクランプして採血を終了する。この時、特開平11−009576号公報及び特開平11−033016号公報などに開示されている胎盤保持器具を用いた場合、胎盤に残った血液を容易に視認することができ便利である。また、胎盤の赤黒くなっている部分を押すことにより、無駄なく臍帯血を採取することができる。
【0034】
実験例1:採血量の比較
本発明の臍帯血採取器具を用いて臍帯血を採取した。具体的には、
(1) 後胎盤娩出前に臍帯児側端を2ヵ所クランプし、その間を切離してまず児を取り上げた。帝王切開の場合は、児切離後に絨毛血管を傷つけないように胎盤を剥離し、膿盆に胎盤を移した。
(2) 臍帯血の細菌感染のリスクを抑制するために、外用消毒剤(日本標準商品分類番号:872612)を浸したガーゼで臍帯を児側端から胎盤側に向かって清拭し、次に清潔な乾ガーゼで同様に清拭した。
(3) 切離した胎盤及び臍帯を、落差で臍帯血を採取できるようにセッティングした。
(4) 分岐留置針1で臍静脈を穿刺した。
(5) 内針13を引き抜いた
(6) 留置針を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を先端側に調節した。
(7) 臍帯組織保持具2で臍帯を固定した。
(8) 留置針を回転させて(連結手段3を調節して)、臍帯組織保治具2を基端側に調節し、外筒針を管臍静脈の奥に差し込んだ。(血液が漏れにくくなる)
(9) 連通ピース61を折ることにより採血を開始した。
(10) 分岐留置針1を回転させて(連結手段3を調節して)、適当な穿刺角度を模索した。
(11) 液流制御手段62をクランプして採血を終了した。
【0035】
以上の採血作業は、非常に安定して行うことができることを確認した。また、臍帯血の採取量は、95.1mlであった。これは、従来の採血量(70.4ml、関西医科大学 21世紀への医学への飛翔 臨床医学系講座 小児科学講座のWebページ参照、URL:http://www2.kmu.ac.jp/ann70/tenkai/clin/text8.html)よりも多い採取量であった。この結果からも本発明の有用性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の臍帯血採取デバイスを用いれば、効率よく臍帯血を得ることができる。特に未熟児出産の場合、母体及び未熟児への対応を制限することなく、片手間で手軽に臍帯血が採取できる。得られた臍帯血は、赤血球成分を分離して自己臍帯血輸血療法に用いてもよいし、白血球成分を分離して移植治療に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のデバイスの一実施形態を示す図である。
【図2】図1のデバイスにおける分岐留置針を示す図である。
【図3】図1のデバイスにおける臍帯組織保持具を示す図である。
【図4】図1のデバイスを用いた臍帯の穿刺を示す図である。
【図5】図1のデバイスにおける角度可変を示す図である。
【図6】図2の分岐留置針の変形例を示す図である。
【図7】図1のデバイスとは異なる他の実施形態を示す図である。
【図8】図7のデバイスにおける分岐留置針を示す図である。
【図9】図7のデバイスにおける臍帯組織保持具を示す図である。
【図10】図7のデバイスにおける角度可変を示す図である。
【図11】図1及び7のデバイスとは異なる他の実施形態を示す図である。
【図12】図1のデバイスに血液バッグをさらに備えた一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 分岐留置針
11 先端側
111 外筒針
12 基端側
121 内針引抜部
13 内針
14 液体流出管部
2 臍帯組織保持具
21 保持部
22 基部
3 連結手段
311 円柱体
312 把持部
313 凹溝
321 球体
322 掴持体
33 連結補助具
331 段階的角度可変手段
4 血液バッグ
5 チューブ
61 連通ピース
62 液流制御手段
X 臍帯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するためのデバイスであって、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイス。
【請求項2】
前記臍帯組織保持具の基部には、前記分岐留置針と直接的に連結する連結部を設け、
前記角度可変手段は、前記分岐留置針に具備した
請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項3】
前記角度可変手段は、前記分岐留置針における穿刺方向に対してなす角を有し、前記臍帯組織保持具の連結部と係合する円柱体又は凹溝である請求項2に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項4】
なす角が、45〜135度である請求項3に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項5】
さらに、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を間接的に連結する連結補助具を備え、
前記角度可変手段を、前記連結補助具に設けた請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項6】
さらに、採取した臍帯血を収納するための血液バッグを備えた請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項7】
臍帯血採取デバイスを用いてヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するための方法であって、
前記デバイスは、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造を有し、
前記分岐留置針を臍帯組織に穿刺した際に、前記連結手段により前記穿刺方向と前記保持方向とのなす角度を可変することを特徴とする臍帯血採取方法。
【請求項1】
ヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するためのデバイスであって、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造であることを特徴とする臍帯血採取デバイス。
【請求項2】
前記臍帯組織保持具の基部には、前記分岐留置針と直接的に連結する連結部を設け、
前記角度可変手段は、前記分岐留置針に具備した
請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項3】
前記角度可変手段は、前記分岐留置針における穿刺方向に対してなす角を有し、前記臍帯組織保持具の連結部と係合する円柱体又は凹溝である請求項2に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項4】
なす角が、45〜135度である請求項3に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項5】
さらに、前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を間接的に連結する連結補助具を備え、
前記角度可変手段を、前記連結補助具に設けた請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項6】
さらに、採取した臍帯血を収納するための血液バッグを備えた請求項1に記載の臍帯血採取デバイス。
【請求項7】
臍帯血採取デバイスを用いてヒトから分離した臍帯組織から臍帯血を採取するための方法であって、
前記デバイスは、
先端側に設けた外筒針と、基端側に設けた内針引抜管部と、前記内針引抜管部の内部に設けた内針と、前記内針引抜管部から分岐した液体流出管部を具備する分岐留置針と、
基部と、臍帯組織を保持するための保持部を具備する臍帯組織保持具、及び、
前記分岐留置針と前記臍帯組織保持具を連結する連結手段を備え、
前記連結手段は、前記分岐留置針における基端側から先端側への穿刺方向と前記臍帯組織保持具における基部から保持部への保持方向とのなす角度を可変する構造を有し、
前記分岐留置針を臍帯組織に穿刺した際に、前記連結手段により前記穿刺方向と前記保持方向とのなす角度を可変することを特徴とする臍帯血採取方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−79992(P2008−79992A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265684(P2006−265684)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
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