説明

自動二輪車の車輪用回転速度検出装置

【課題】小型且つ低コストで構成できて、しかも、設計の自由度が高く、且つ、回転速度検出の為のエンコーダ14及び回転検出センサ13の設置部分への異物の侵入防止に関するシール性が良好な構造を実現する。
【解決手段】回転側軌道輪である外輪9の軸方向端面22と、上記回転検出センサ13を保持しているホルダ部材15aの外周縁部との間に、第二のシールリップ23を、全周に亙って設ける。そして、上記エンコーダ14及び回転検出センサ13に、磁性分等の異物が付着する事を防止する。上記回転検出センサ13は、回転しない支持軸3に対し、エンコーダ付玉軸受8とは別に支持する事で、このエンコーダ付玉軸受8の小型化及び設計の自由度確保を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車(原動機付自転車を含む)の車輪の回転速度を求める為の、自動二輪車の車輪用回転速度検出装置の改良に関する。具体的には、回転速度検出の為のエンコーダ及び回転検出センサの設置部分への異物の侵入防止を図る為のシール装置の構造を改良して、設計の自由度が高く、しかもシール性の良好な構造の実現を意図したものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の走行状態を安定させる為の装置として、アンチロックブレーキシステム(ABS)が広く使用されている。この様なABSは、従来は四輪自動車を中心に普及していたが、近年、自動二輪車にも採用され始めている。周知の様に、ABSの制御には、車輪の回転速度を求める必要がある為、車輪を懸架装置に回転自在に支持する為の車輪支持用玉軸受ユニットに回転速度検出装置を組み込む事が、従来から広く実施されている。但し、四輪自動車用の回転速度検出装置の構造を、そのまま自動二輪車用に適用する事はできない。この主な理由は、次の(1)(2)の2通りである。
(1) 四輪自動車用の車輪支持用玉軸受ユニットに比べて、自動二輪車用の車輪支持用玉軸受ユニットは、相当に小型である。
(2) 四輪自動車用の車輪支持用玉軸受ユニットの多くは内輪回転型であるのに対して、自動二輪車用の車輪支持用玉軸受ユニットの多くは外輪回転型である。
【0003】
図5は、自動二輪車の車輪支持部の構造の第1例として、スクータの如き、比較的小型の自動二輪車の前輪を回転自在に支持する部分の構造を示している。この構造では、懸架装置を構成する左右1対のホーク1、1の下端部に1対の支持板2、2を、互いに平行な状態で固定している。そして、これら両支持板2、2同士の間に、特許請求の範囲に記載した軸部材である、支持軸3の両端部を支持固定している。又、この支持軸3の中間部2個所位置に、それぞれが単列深溝型である、1対の玉軸受4、4を設置している。具体的には、これら両玉軸受4、4を構成する内輪を上記支持軸3に外嵌すると共に、内輪間座5a、5b、5cにより、これら両内輪の軸方向位置を規制している。又、上記支持軸3の周囲に、特許請求の範囲に記載した外径側部材である、円筒状のハブ6を、この支持軸3と同心に配置している。そして、上記両玉軸受4、4を構成する外輪を、上記ハブ6の内周面両端寄り部分に内嵌固定している。更に、上記ハブ6の外周面にホイール7を支持固定している。
【0004】
上述の様な自動二輪車の車輪支持部に組み込む、ABS制御用の回転速度検出装置を構成する為の転がり軸受として、特許文献1には、図6〜7に示す様な、エンコーダ付玉軸受8が記載されている。このエンコーダ付玉軸受8は、外輪9と、内輪10と、複数個の玉11と、エンコーダ付シールリング12とを備える。上記エンコーダ付玉軸受8は、使用時に、例えば上述の図5に示した様に、上記支持軸3の外周面と上記ハブ6の内周面との間に組み付けて、この支持軸3の周囲にこのハブ6を回転自在に支持する。尚、上記図5の構造に関して本発明を適用する場合には、この図5に示した1対の玉軸受4、4のうちの一方の玉軸受のみを、上記エンコーダ付玉軸受8とする。他方の玉軸受は、エンコーダを備えない、一般的な玉軸受とする。
【0005】
又、回転検出センサ13は、図7に示す様に、上記支持軸3に支持する。即ち、この支持軸3の軸方向中間部で、上記エンコーダ付玉軸受8に組み込んだエンコーダ14の被検出面(軸方向外側面)に対向する部分に外嵌固定した円環状のホルダ部材15に、上記回転検出センサ13を保持する。又、このホルダ部材15と上記エンコーダ付玉軸受8の内輪10との間には間座16を挟持して、上記エンコーダ14の被検出面と上記回転検出センサ13の検出部との距離を適正に規制する。
【0006】
上述の様な特許文献1に記載された構造の場合、外部空間から上記エンコーダ14及び上記回転検出センサ13を設置した部分への異物侵入防止の為のシールに就いては、特に考慮してはいない。一方、上記エンコーダ14と上記回転検出センサ13とを磁気特性の変化により回転速度検出を行う構造とした場合、上記エンコーダ14の被検出面や上記回転検出センサ13の検出部に磁性粉等の異物が付着すると、上記回転速度検出の信頼性確保が難しくなる。例えば、上記エンコーダ14を、永久磁石製で、被検出面にS極とN極とを円周方向に関して交互に配置したものを使用した場合、この被検出面に磁性粉が付着し易く、しかも、付着した場合には、上記回転速度検出の信頼性が悪化する。
【0007】
これに対して特許文献2、3には、単列或いは複列の玉軸受の内部空間に、エンコーダだけでなく回転検出センサも組み込み、この内部空間の開口端部をシールリングにより塞いだ構造が記載されている。この様な特許文献2、3に記載した構造によれば、外部空間から上記エンコーダ及び回転検出センサを組み込んだ内部空間への異物侵入を防止して、回転速度検出の信頼性確保を図れる。但し、上記特許文献2、3に記載した構造の場合には、内部空間に、エンコーダだけでなく回転検出センサも組み込む必要上、特殊、且つ、軸方向寸法が嵩む、大型の玉軸受を使用する必要がある。この様な構造は、製造コストが嵩むだけでなく、設置空間が限られた、自動二輪車の車輪用回転速度検出装置としては、大型の自動二輪車の場合を除き、必ずしも適切な構造とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−285514号公報
【特許文献2】特開2007−139075号公報
【特許文献3】特開2007−211840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、小型且つ低コストで構成できて、しかも、設計の自由度が高く、且つ、回転速度検出の為のエンコーダ及び回転検出センサの設置部分への異物の侵入防止に関するシール性が良好な構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置は、前述の特許文献1に記載された自動二輪車の車輪用回転速度検出装置と同様に、中心軸部材と、外径側部材と、転がり軸受と、エンコーダと、回転検出センサとを備える。
このうちの中心軸部材は、車輪と同心に設けられており、少なくとも中間部外周面が円筒状である。この様な中心軸部材は、一般的には、ホークの先端部にその両端部を支持固定された、固定軸である。但し、一部のスクータの後輪の様な内輪回転型の構造の場合には、上記中心軸部材は、車輪と共に回転する回転軸となる。
又、上記外径側部材は、上記中心軸部材の周囲にこの中心軸部材と同心に設けられたもので、少なくとも中間部内周面が円筒状である。この様な外径側部材は、一般的には、車輪の中心部に設けられてこの車輪と共に回転するハブであるが、上記内輪回転型構造の場合には、車体側に支持されて回転しないハウジングとなる。
又、上記転がり軸受は、上記中心軸部材の外周面と上記外径側部材の内周面との間に設けられて、これら中心軸部材と外径側部材との相対回転を自在とする。この様な転がり軸受は、外周面に内輪軌道を有し、上記中心軸部材に外嵌固定された内輪と、内周面に外輪軌道を有し、上記外径側部材に内嵌固定された外輪と、この外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。
又、上記エンコーダは、被検出面(一般的には軸方向側面)の磁気特性を円周方向に関して交互に変化させたもので、上記内輪と上記外輪とのうちの一方で上記車輪と共に回転する軌道輪である回転側軌道輪の端部周面に、この回転側軌道輪と同心に支持固定されている。
更に、上記回転検出センサは、上記エンコーダの回転に伴って変化する信号を出力するもので、上記中心軸部材と上記外径側部材とのうちの回転しない部材である静止側部材の一部に、環状のホルダ部材により、上記転がり軸受の構成部材と独立して、検出部を上記エンコーダの被検出面に(0.5〜2mm程度の検出隙間を介して軸方向に)近接対向させた状態で、支持固定されている。
【0011】
特に、本発明の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置に於いては、上記回転側軌道輪と上記ホルダ部材との間にシール部材を、全周に亙って設けている。
この様な本発明の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記転がり軸受を、軸方向に関して対称な構造を有するものとする。そして、上記エンコーダを、この転がり軸受の軸方向一端部にのみ設ける。
又、上述の様な本発明の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置を実施する場合に、例えば請求項3に記載した発明の様に、上記ホルダ部材の径方向一部に全周に亙って設けられたシールリップの先端縁を、上記回転側軌道輪の軸方向端面に、全周に亙って摺接させる。
或いは、請求項4に記載した発明の様に、上記エンコーダを、金属板を円環状に形成した芯金の軸方向片側面の径方向一部に添着する。そして、この芯金の周縁部に全周に亙ってその基部を支持したシールリップの先端縁を上記ホルダ部材の一部に、全周に亙って摺接させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置によれば、小型且つ低コストで構成できて、しかも、設計の自由度が高く、しかも回転速度検出の為のエンコーダ及び回転検出センサの設置部分への異物の侵入防止に関するシール性が良好な構造を実現できる。
先ず、回転速度検出の為に必要なエンコーダと回転検出センサとのうち、転がり軸受を構成する回転側軌道輪に組み付ける部材はエンコーダのみである。このエンコーダは、例えば円輪状に造る事で、軸方向寸法を小さく(薄く)できる為、上記回転側軌道輪の軸方向寸法を特に大きくしなくても、この回転側軌道輪に組み付けられる。これに対して、上記エンコーダに比べて軸方向寸法が嵩む上記回転検出センサは、静止側部材の一部に、環状のホルダ部材により、上記転がり軸受の構成部材と独立した状態で支持固定している。従って、請求項2に記載した様に、上記転がり軸受として軸方向に関して対称な構造を有するものの如く、汎用の転がり軸受を使用可能になる等、回転速度検出装置を設置する事に伴い、この転がり軸受全体として、軸方向寸法や製造コストが嵩む事はない。
又、上記回転検出センサを、上記ホルダ部材により上記静止側部材の一部に支持固定しているので、この回転検出センサの設置部分の設計を、上記転がり軸受部分の設計とは、ほぼ独立して行える。この為、各種自動二輪車の車輪の回転速度検出を効果的に行う為の、自動二輪車の車輪用回転速度検出装置の設計を容易に行える。
更に、上記回転側軌道輪と上記ホルダ部材との間に全周に亙って設けたシール部材が、上記エンコーダ及び回転検出センサの設置部分への異物の侵入を防止して、これらエンコーダと回転検出センサとの組み合わせによる回転検出の信頼性向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分断面図。
【図2】同第2例を示す部分断面図。
【図3】同第3例を示す部分断面図。
【図4】第3例に関して、エンコーダ付シールリングの別例を示す部分断面図。
【図5】自動二輪車の車輪の回転支持部の1例を示す断面図。
【図6】従来から知られているエンコーダ付玉軸受の1例を示す部分断面図。
【図7】従来から知られている自動二輪車の車輪用回転速度検出装置の1例を示す部分略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の場合には、前述の図6に示した従来構造の場合と同様のエンコーダ付玉軸受8を使用する。このエンコーダ付玉軸受8は、外輪9と、内輪10と、複数個の玉11と、エンコーダ付シールリング12とを備える。そして、このうちの内輪10を回転しない支持軸3に外嵌固定すると共に、上記外輪9をハブ6(図5参照)に内嵌固定して、この支持軸3の周囲にこのハブ6を回転自在に支持する。上記エンコーダ付シールリング12は、軟鋼板等の磁性金属板を曲げ形成する事により、断面L字形で全体を円環状に形成した芯金17と、エンコーダ14と、シールリップ18とを備える。この芯金17は、外周縁部に形成した外径側円筒部19を上記外輪9の端部に、締り嵌めで内嵌しており、この状態で上記シールリップ18の先端縁を、上記内輪10の端部外周面に、全周に亙って摺接させている。このシールリップ18は、上記各玉11の設置部分に存在するグリースが、上記エンコーダ14と次述する回転検出センサ13との設置部分に入り込むのを防止する役目を有する。又、上記エンコーダ14は、ゴム磁石製、或いはプラスチック磁石製で、被検出面である軸方向外側面にS極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。この様な上記エンコーダ14は、上記芯金17の外側面(玉11を設置したのと反対側の面で、図1の右側面)に、加硫接着、成形接着、或いは別体として成形後に接着する等により、接合固定している。尚、上記芯金17は、磁性金属板である事が好ましいが、非磁性金属板とする事もできる。
【0015】
又、上記回転検出センサ13は、環状のホルダ部材15aにより、上記支持軸3の軸方向中間部で、上記エンコーダ付玉軸受8に組み込んだエンコーダ14の被検出面(軸方向外側面)に対向する部分に支持している。上記ホルダ部材15aは、軟鋼板、ステンレス鋼板等の金属板を曲げ形成する事により、断面L字形で全体を円環状に形成したもので、円輪部20と、この円輪部20の内周縁部から軸方向外側(玉11を設置したのと反対側、図1の右側)に折れ曲がった内径側円筒部21とから成る。上記回転検出センサ13は、この様なホルダ部材15aの円輪部20の径方向中間部の円周方向1個所位置に形成した取付孔に挿通した状態でこの円輪部20に対し、接着、ねじ止め等により支持固定している。この円輪部20に対する上記回転検出センサ13の取付位置関係は、適切に規制している。又、上記外輪9に対する上記エンコーダ付シールリング12の取付位置は、この外輪9の軸方向端面22と上記芯金17の外径側円筒部19の先端縁とを同一平面上に位置させる事により規制している。又、上記ホルダ部材15aの円輪部20と上記内輪10との間には間座16を挟持して、これら円輪部20と内輪10との軸方向に関する位置関係を規制している。更に、この内輪10と上記外輪9との軸方向に関する位置関係も、一義的に規制している。これらにより、上記エンコーダ14の被検出面と上記回転検出センサ13の検出部との距離を適正に規制している。
【0016】
更に、上記ホルダ部材15aを構成する円輪部20の外周縁に、特許請求の範囲に記載したシール部材に相当する、第二のシールリップ23を、加硫接着等により、全周に亙って添着している。そして、この第二のシールリップ23の先端縁を、上記外輪9の軸方向端面22に、全周に亙って摺接させている。この第二のシールリップ23の締め代に関しても、上記間座16により、適正に規制している。尚、上記軸方向端面22は、平滑面に研磨加工して、上記第二のシールリップ23によるシール性の確保と、この第二のシールリップ23の先端縁の摩耗防止とを図っている。
【0017】
上述の様に構成する本例の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置の構造の場合、回転速度検出の為に必要な上記エンコーダ14と上記回転検出センサ13とのうち、前記エンコーダ付玉軸受8を構成する外輪9に組み付ける部材は、上記エンコーダ14のみである。このエンコーダ14は、円輪状に造る事で、軸方向寸法を小さく(薄く)できて、グリースの漏れ防止用等の為に、元々必要であった前記シールリップ18を設置する為の前記芯金17の径方向中間部に、この芯金17の外径側円筒部19よりも軸方向に突出しない状態で組み付けられる。この為、上記外輪9の軸方向寸法を特に大きくしなくても、この外輪9に組み付けられる。これに対して、上記エンコーダ14に比べて軸方向寸法が嵩む上記回転検出センサ13は、支持軸3の一部に、環状のホルダ部材15aにより、上記エンコーダ付玉軸受8の構成部材と独立した状態で支持固定している。従って、このエンコーダ付玉軸受8を構成する玉軸受として、軸方向に関して対称な構造を有するものの如く、汎用の転がり軸受を使用できる。この結果、回転速度検出装置を設置する事に伴って、上記エンコーダ付玉軸受8全体として、軸方向寸法や製造コストが嵩む事はない。
【0018】
又、上記回転検出センサ13を、上記ホルダ部材15aにより上記支持軸3の一部に支持固定しているので、この回転検出センサ13の設置部分の設計を、上記エンコーダ付玉軸受8部分の設計とは、ほぼ独立して行える。この為、各種自動二輪車の車輪の回転速度検出を効果的に行う為の自動二輪車の車輪用回転速度検出装置の設計を容易に行える。
更に、上記外輪9と上記ホルダ部材15aとの間に全周に亙って設けた、上記第二のシールリップ23が、上記エンコーダ14及び回転検出センサ13の設置部分への異物の侵入を防止する。この為、外部空間に浮遊する磁性粉等の異物が上記エンコーダ14の被検出面に付着する事を防止できて、これらエンコーダ14と回転検出センサ13との組み合わせによる回転検出の信頼性向上を図れる。
【0019】
[実施の形態の第2例]
図2も、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、回転検出センサ13を保持する為のホルダ部材15bとして、合成樹脂、硬質ゴム等の、或る程度の剛性を確保できる弾性材を射出成形する事により、全体を円輪状としたものを使用している。上記回転検出センサ13は、この様なホルダ部材15bの射出成形時に包埋するか、或いは、射出成形時に形成した保持凹部に、射出成形後に圧入して、上記ホルダ部材15bに対し保持固定している。又、このホルダ部材15bの内側面(エンコーダ付玉軸受8側の面で、図2の左面)の内径寄り部分に全周に亙って、或いは円周方向複数個所に間欠的に形成した凸部24を内輪10の端面に当接させて、上記回転検出センサ13の検出部とエンコーダ14の被検出面との距離を適正値に規制している。更に、上記ホルダ部材15bの内側面外周縁部に形成した、特許請求の範囲に記載したシール部材である第二のシールリップ23aの先端縁を、外輪9の軸方向端面22に、全周に亙り摺接させている。尚、この第二のシールリップ23aの材質は、上記ホルダ部材15bの本体部分を構成する材質と同じであっても、或いは、このホルダ部材15bを構成する材質よりも軟らかい材質としても良い。軟らかい材質とする場合には、上記第二のシールリップ23aと上記ホルダ部材15bの本体部分とを二色成形したり、或いは、別途成形した第二のシールリップをこの本体部分に、後から接着する。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様である為、重複する説明は省略する。
【0020】
[実施の形態の第3例]
図3は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、エンコーダ付シールリング12aを構成する芯金17aの側に、特許請求の範囲に記載したシール部材に相当する、第二のシールリップ23bを装着している。即ち、上記芯金17aの外径側部分を断面クランク型に折り曲げる事で、外径側円筒部19aの先端縁から径方向外方に折れ曲がった外径側円輪部25を、全周に亙って形成している。そして、この外径側円輪部25の先端縁に、上記第二のシールリップ23bの基端部を、全周に亙って加硫接着等により接合している。そして、この第二のシールリップ23bの先端縁を、ホルダ部材15cの外径寄り部分に、全周に亙って摺接させている。この為に本例の場合には、このホルダ部材15cの外周縁部に、外輪9に向けて折れ曲がった、庇状円筒部26を形成し、この庇状円筒部26の内周面に上記第二のシールリップ23bの先端縁を摺接させている。尚、上記芯金17aを上記外輪9に内嵌する際には、上記外径側円輪部25に押し込み治具の先端面を突き当てる。
【0021】
この様な本例の構造の場合も、前述した実施の形態の第1〜2例の場合と同様に、小型且つ低コストで構成できて、しかも、設計の自由度が高く、しかも回転速度検出の為のエンコーダ14及び回転検出センサ13の設置部分への異物の侵入防止に関するシール性が良好な構造を実現できる。
尚、請求項4に対応する構造を実現する為に、必ずしも上記ホルダ部材15c側に庇状円筒部26を形成する必要はない。図4に示す様に、芯金17bの外周縁部に形成した外径側円筒部19bの先端縁に第二のシールリップ23cの基端部を結合し、この第二のシールリップ23cの先端縁を、上記ホルダ部材15cの円輪部20の内側面の外径寄り部分に摺接させる事もできる。図4に示したエンコーダ付シールリング12bを外輪に装着する際には、上記エンコーダ14の被検出面に押し込み治具の先端面を突き当てる。
【0022】
又、本例の構造は、以下の点で、上記実施の形態の第1〜2例の構造と相違している。先ず、上記芯金17aの外径寄り部分を、上記外輪9の内周面に形成した段部27に突き当てる事で、上記エンコーダ14の軸方向に関する位置決めを図っている。この点は、前述した特許文献1に記載された構造と同様である。
第二に、上記芯金17aの内周縁部に装着したシールリップ18aの先端縁を、内輪10の端部外周面に形成した凹溝28の内側面のうちで、軸方向外寄り部分に摺接させている。本例を含め、本発明を実施する場合に、エンコーダ付シールリングを構成する芯金の内周縁部に装着したシールリップの役目は、主として、玉11を設置した空間内のグリースが、上記エンコーダ14及び回転検出センサ13を設置した空間内に漏れ出す事を防止する点にある。外部空間に存在する異物の侵入防止は、主として前記第二のシールリップ23bが行う。この為本例の場合には、上記シールリップ18aを、上記グリースにより押された場合に当接圧が高くなる側の面に摺接させて、グリースの漏れ防止効果の向上を図っている。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、主として固定の支持軸の周囲でハブが回転する、外輪回転型の構造で実施する。但し、前述した様な、一部のスクータの後輪で実施されている内輪回転型の構造にも適用できる。この様な内輪回転型の構造に本発明を適用する場合には、図示の構造に対して、径方向に関する内外を逆転させる。
【符号の説明】
【0024】
1 ホーク
2 支持板
3 支持軸
4 玉軸受
5a、5b、5c 内輪間座
6 ハブ
7 ホイール
8 エンコーダ付玉軸受
9 外輪
10 内輪
11 玉
12、12a、12b エンコーダ付シールリング
13 回転検出センサ
14 エンコーダ
15、15a、15b、15c ホルダ部材
16 間座
17、17a、17b 芯金
18、18a シールリップ
19、19a、19b 外径側円筒部
20 円輪部
21 内径側円筒部
22 軸方向端面
23、23a、23b、23c 第二のシールリップ
24 凸部
25 外径側円輪部
26 庇状円筒部
27 段部
28 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と同心に設けられた、少なくとも中間部外周面が円筒状である中心軸部材と、この中心軸部材の周囲にこの中心軸部材と同心に設けられた、少なくとも中間部内周面が円筒状である外径側部材と、この外径側部材の内周面と上記中心軸部材の外周面との間に設けられた転がり軸受と、被検出面の磁気特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダと、このエンコーダの回転に伴って変化する信号を出力する回転検出センサとを備え、上記転がり軸受は、外周面に内輪軌道を有し、上記中心軸部材に外嵌固定された内輪と、内周面に外輪軌道を有し、上記外径側部材に内嵌固定された外輪と、この外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、上記エンコーダは、上記内輪と上記外輪とのうちの一方で上記車輪と共に回転する軌道輪である回転側軌道輪の端部周面に、この回転側軌道輪と同心に支持固定されており、上記回転検出センサを、上記中心軸部材と上記外径側部材とのうちの回転しない部材である静止側部材の一部に、環状のホルダ部材により、上記転がり軸受の構成部材と独立した状態で支持固定している自動二輪車の車輪用回転速度検出装置に於いて、上記回転側軌道輪と上記ホルダ部材との間にシール部材を、全周に亙って設けた事を特徴とする自動二輪車の車輪用回転速度検出装置。
【請求項2】
転がり軸受が、軸方向に関して対称な構造を有するものであり、エンコーダがこの転がり軸受の軸方向一端部に設けられている、請求項1に記載した自動二輪車の車輪用回転速度検出装置。
【請求項3】
ホルダ部材の径方向一部に全周に亙って設けられたシールリップの先端縁を回転側軌道輪の軸方向端面に、全周に亙って摺接させている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した自動二輪車の車輪用回転速度検出装置。
【請求項4】
エンコーダが、金属板を円環状に形成した芯金の軸方向片側面の径方向一部に添着されており、この芯金の周縁部に全周に亙ってその基部を支持したシールリップの先端縁をホルダ部材の一部に、全周に亙って摺接させている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した自動二輪車の車輪用回転速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233591(P2012−233591A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173607(P2012−173607)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2008−72859(P2008−72859)の分割
【原出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】