説明

自動周波数制御回路

【課題】送信信号の送信時間、受信信号の受信時間及び出力周波数信号の出力時間を短縮しても、周波数弁別器の応答性の確保と、該出力周波数信号の周波数変動の抑制とが可能なAFC回路を提供する。
【解決手段】ミキサ46は、発振器44からの第1周波数信号S1の第1周波数に基づいて、分配器24からのIF信号Soを、そのIF周波数よりも高周波の第2周波数を有する第2周波数信号S2に変換して、周波数弁別器26の入力ポート26aに出力する。周波数弁別器26は、前記第2周波数に対応する直流信号Sdを生成し、出力ポート26bからLPF48を介してVCO28に出力する。VCO28は、直流信号Sdに応じた制御周波数信号Scを生成してミキサ32に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力周波数信号に応じた直流信号を周波数弁別器で生成し、前記直流信号に基づく制御周波数信号を電圧制御発振器で生成する自動周波数制御回路に関し、より詳細には、船舶用レーダの受信機における中間周波数信号の周波数引き込みに好適な自動周波数制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船舶用レーダでは、空中線が1回転する間に送信信号(所定時間内に繰り返し発生する搬送波を含むパルス変調信号)を電波として送信し、前記電波が物標にて反射したときの反射波を前記空中線を介し受信信号(前記送信信号に応じた搬送波を含むパルス変調信号)として受信機で受信する。この場合、前記受信機では、前記受信信号を短時間で周波数引き込みするために自動周波数制御(AFC)を行っている。
【0003】
例えば、非特許文献1に開示されている自動周波数制御回路(以下、AFC回路ともいう。)を適用した受信機では、ミキサにおいて前記受信信号を低周波の中間周波数信号(IF信号)に変換し、このIF信号を出力周波数信号として出力する。ここで、前記IF信号を構成する搬送波の周波数(以下、IF周波数ともいう。)が所定の同調周波数から離調している場合には、周波数弁別器にて前記IF周波数に応じた信号レベルを有する直流信号を生成し、電圧制御発振器(VCO)にて前記直流信号に応じた局部発振周波数を有する制御周波数信号を生成し、前記ミキサは、前記局部発振周波数に基づいて、前記受信信号を前記同調周波数のIF信号に変換して出力する。
【0004】
【非特許文献1】大越孝敬、大学課程 基礎電子回路(改訂2版)、オーム社、昭和59年12月20日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した船舶用レーダにおいて、空中線が1回転する間の送信信号の送信時間を短縮すると(例えば、1[μs]から0.1[μs]に短縮した場合)、該船舶用レーダの距離分解能は向上するが、これに伴って前記受信信号の受信時間や、前記受信信号から変換したIF信号の時間幅(以下、出力時間ともいう。)が減少する。これにより、周波数弁別器では、前記IF信号の入力に起因して前記直流信号が時間経過に伴って立ち上がる際に、その信号レベルがピークレベルに到達する前に前記IF信号の入力が終了するので、IF周波数に応じた信号レベルの直流信号をVCOに出力することができないという問題がある。
【0006】
また、前記VCOは、前記IF周波数に対応しない前記直流信号に基づいて制御周波数信号を生成するので、前記送信時間や前記受信時間や前記出力時間が短縮した場合に、ミキサは、前記受信信号を同調周波数のIF信号に変換することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、送信信号の送信時間、受信信号の受信時間及び出力周波数信号の出力時間を短縮しても、周波数弁別器の応答性の確保と、該出力周波数信号の周波数変動の抑制とが可能なAFC回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るAFC回路は、第1周波数信号を生成する第1発振器と、前記第1周波数信号と出力周波数信号とに基づいて前記出力周波数信号よりも高い周波数を有する第2周波数信号を生成するミキサと、前記第2周波数信号に応じた直流信号を生成する周波数弁別器と、前記直流信号に基づいて前記出力周波数信号を所定周波数に同調させる制御周波数信号を生成する第2発振器とを有することを特徴とする。
【0009】
この場合、前記ミキサは、前記第1周波数信号に基づいて前記出力周波数信号を高周波の前記第2周波数信号に変換し前記周波数弁別器に出力するので、該周波数弁別器は、前記第2周波数信号に応じた前記直流信号を生成することができる。従って、前記AFC回路を船舶用レーダの受信機に適用した際に、送信信号の送信時間、前記受信信号の受信時間及び前記出力周波数信号の出力時間を短縮しても、前記周波数弁別器の応答性を確保することができる。
【0010】
また、前記周波数弁別器の応答性が確保されるので、前記受信機では、前記第2発振器にて生成された前記制御周波数信号に基づいて前記受信信号を所定の同調周波数のIF信号(出力周波数信号)に変換することができる。これにより、前記受信機では、前記出力周波数信号の周波数変動を抑制することができる。
【0011】
さらに、前記AFC回路では、前記直流信号に含まれる前記出力周波数信号の高周波信号成分を除去して前記第2発振器に供給するフィルタをさらに有すると、前記出力周波数信号の周波数変動を確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、送信信号の送信時間、受信信号の受信時間及び出力周波数信号の出力時間を短縮しても、周波数弁別器の応答性の確保と、該出力周波数信号の周波数変動の抑制とを共に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るAFC回路を船舶用レーダの受信機に適用した好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下に説明するが、その説明に先立ち、本実施形態の前提となる受信機の構成とその課題とについて、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の前提となる受信機(AFC回路)18が適用された船舶用レーダ10のブロック図である。
【0015】
この船舶用レーダ10は、空中線(以下、アンテナともいう。)12、サーキュレータ14、送信機16、受信機18、処理装置20及び表示装置22とから構成され、図示しない船舶内に配置(搭載)されている。
【0016】
アンテナ12が1回転する間に、送信機16から出力された送信信号(所定時間内に繰り返し発生する搬送波を含むパルス変調信号)Stは、サーキュレータ14を介してアンテナ12から電波34として周囲に放射される。電波34は、船舶用レーダ10から所定距離離間した物標で反射し、その反射波30は、アンテナ12及びサーキュレータ14を介し受信機18で受信信号(前記送信信号に応じた搬送波を含むパルス変調信号)Srとして受信される。
【0017】
受信機18は、ミキサ32、分配器(又はカプラ)24、周波数弁別器26及びVCO(第2発振器)28を有する。
【0018】
ミキサ32は、VCO28からの制御周波数信号Scに基づいて、受信信号Srをより低周波のIF信号(出力周波数信号)Soに変換する。分配器24は、IF信号Soを処理装置20及び(又は)周波数弁別器26の入力ポート26aに出力する。周波数弁別器26は、IF信号SoのIF周波数に応じた信号レベルの直流信号Sdを生成し、出力ポート26bからVCO28に出力する。VCO28は、直流信号Sdに基づいて、所定の局部発振周波数を有する制御周波数信号Scを生成する。
【0019】
ここで、前記IF周波数が所定の同調周波数から離調している場合(前記同調周波数に対する前記IF周波数の周波数変動が発生している場合)、分配器24、周波数弁別器26及びVCO28によるIF信号Soのフィードバックにより、ミキサ32は、前記局部発振周波数に基づいて、受信信号Srから前記同調周波数を有するIF信号Soを生成し、生成したIF信号Soを分配器24を介して処理装置20に出力する。なお、前記IF周波数が同調周波数である場合、周波数弁別器26の出力ポート26bから出力される直流信号Sdの信号レベルは、略ゼロレベルである。
【0020】
処理装置20は、入力されたIF信号Soに基づいて、船舶用レーダ10を搭載した前記船舶からの前記物標の方位、距離を算出し、表示装置22に出力する。表示装置22は、表示画面上に前記船舶からの前記物標の方位、距離を画像表示する。
【0021】
次に、この船舶用レーダ10に適用される受信機18の課題(第1の課題〜第3の課題)について説明する。
【0022】
船舶用レーダ10において、アンテナ12が1回転する間の送信信号Stの送信時間を、例えば、1[μs]から0.1[μs]に短縮すると、該船舶用レーダ10の距離分解能は向上するが、これに対応して受信信号Srの受信時間や、ミキサ32にて周波数変換されたIF信号Soの出力時間も短縮する。
【0023】
図2Aは、周波数弁別器26の入力ポート26a(図1参照)に入力され且つ前記同調周波数(例えば、60[MHz])から離調したIF周波数(例えば、30[MHz])のIF信号Soの時間経過を概略的に示し、図2Bは、周波数弁別器26の出力ポート26bから出力される直流信号Sdの時間経過を概略的に示している。
【0024】
受信信号Srの受信時間が短縮化すると、IF信号So中の搬送波の個数は、例えば、図2Aに示すように、破線表示の搬送波及び実線表示の搬送波を含んだ個数から前記実線表示の3周期分の個数にまで減少し、図2Bに示す直流信号Sdは、前記搬送波の入力に起因して時刻t0から時間経過に伴って立ち上がるが、時刻t1にて前記搬送波の入力が終了するので、周波数弁別器26の出力ポート26bからVCO28には、信号レベルV1の直流信号Sdが出力される。
【0025】
すなわち、周波数弁別器26では、6周期分以上の搬送波入力があれば、時刻t2にて直流信号Sdの信号レベルがピークレベルV2に到達し、前記搬送波の周波数(IF周波数)に応じた信号レベルの直流信号Sdを生成することが可能であるが、前述したように、ピークレベルV2に到達する前に搬送波の入力が停止するので、周波数弁別器26の出力ポート26bからVCO28には、前記IF周波数に対応しない信号レベルV1の直流信号Sdが供給されることになる。従って、前記送信時間や前記受信時間や前記出力時間を短縮した場合、VCO28は、前記IF周波数に対応しない直流信号Sdに基づいて制御周波数信号Scを生成することになる。これが第1の課題である。
【0026】
また、VCO28は、前記IF周波数に対応しない直流信号Sdに基づいて制御周波数信号Scを生成することになるので、受信機18では、前記送信時間、前記受信時間及び前記出力時間が短縮した場合に、IF信号Soの周波数変動(同調周波数に対するIF周波数の離調)に対応することができない。これが第2の課題である。
【0027】
さらに、周波数弁別器26の出力ポート26bから出力される直流信号Sdには、受信信号SrやIF信号Soの一部が高周波信号成分(図2Bの直流信号Sdの波形に重畳し上下に変動している信号成分)として重畳するので、VCO28にて生成される制御周波数信号Scの精度が低下し、IF信号Soの周波数変動を抑制することができない。これが第3の課題である。
【0028】
以上が、本実施形態の前提となる受信機18の第1の課題〜第3の課題である。
【0029】
次に、本実施形態に係る受信機42を適用した船舶用レーダ40について、図3を参照しながら説明する。
【0030】
なお、この船舶用レーダ40を説明する際に、船舶用レーダ10(図1参照)と同じ構成要素については、同一の参照符号を付けて説明する。
【0031】
この船舶用レーダ40は、図3に示すように、受信機42内において、分配器24の出力側と周波数弁別器26の入力ポート26aとの間にミキサ46及び発振器(第1発振器)44を設け、さらに、周波数弁別器26の出力ポート26bとVCO28との間にローパスフィルタ(LPF)48を設けた点で、本実施形態の前提となる船舶用レーダ10とは異なる。
【0032】
ここで、ミキサ46は、発振器44からの第1周波数信号S1の第1周波数と、分配器24からのIF信号SoのIF周波数との差を第2周波数とした第2周波数信号S2を生成する。この場合、前記第1周波数は、前記第2周波数が前記IF周波数よりも高くなるような周波数に設定されている(例えば、IF周波数:30[MHz]、第1周波数:210[MHz]、第2周波数:180[MHz])。
【0033】
周波数弁別器26は、第2周波数信号S2の第2周波数に応じた信号レベルの直流信号Sdを生成する。LPF48は、周波数弁別器26の出力ポート26bからの直流信号Sdに含まれる受信信号SrやIF信号Soに起因した高周波信号成分を除去してVCO28に出力する。VCO28は、前記高周波信号成分を除去した直流信号Sdに基づいて、所定の局部発振周波数を有する制御周波数信号Scを生成する。
【0034】
図4Aは、図3の受信機42に関し、周波数弁別器26の入力ポート26aに入力される第2周波数信号S2の時間経過を概略的に示し、図4Bは、周波数弁別器26の出力ポート26bから出力される直流信号Sdの時間経過を概略的に示している。なお、図4Aは、IF信号So(図2A参照)のIF周波数が受信機42の同調周波数から離調している場合(例えば、前記同調周波数:60[MHz]、IF周波数:30[MHz])を図示している。
【0035】
この場合、周波数弁別器26の入力ポート26a(図3参照)には、ミキサ46にてIF信号Soから変換された高周波の第2周波数信号S2が入力され、直流信号Sdは、第2周波数信号S2の搬送波を含むパルス変調信号に起因して時刻t0から時間経過に伴って立ち上がり、前記搬送波の入力が終了する時刻t1前の時刻t3(t3<t1)にて信号レベルがピークレベルV2に到達する。これにより、周波数弁別器26の出力ポート26bから前記搬送波の第2周波数に応じた信号レベルの直流信号Sdを出力することができる。
【0036】
すなわち、周波数弁別器26の入力ポート26aに入力される第2周波数信号S2の第2周波数が、IF信号SoのIF周波数よりも高いので(図2A及び図4A参照)、搬送波入力が終了する時刻t1前の時刻t3にて直流信号Sdの信号レベルがピークレベルV2に到達することにより、前記送信時間、前記受信時間及び前記出力時間を短縮しても、受信機42内の周波数弁別器26は、前記第2周波数に対応した直流信号Sdを生成することができる。従って、VCO28は、前記第2周波数に対応した直流信号Sdに基づいて制御周波数信号Scを生成することができる。なお、図3の周波数弁別器26は、前記第2周波数が同調周波数と第1周波数との差の周波数である場合には、略ゼロレベルの直流信号Sdを出力ポート26bから出力する。
【0037】
このように、本実施形態では、ミキサ46は、第1周波数信号S1の第1周波数に基づいて、IF信号Soを高周波の第2周波数信号S2に変換し周波数弁別器26の入力ポート26aに出力するので、該周波数弁別器26は、第2周波数信号S2の入力に応じて前記第2周波数に対応する直流信号Sdを生成することができる。従って、受信機42を船舶用レーダ40に適用した際に、送信信号Stの送信時間、受信信号Srの受信時間及びIF信号Soの出力時間を短縮しても、周波数弁別器26の応答性を確保することができる。
【0038】
また、周波数弁別器26の応答性が確保されるので、受信機42では、VCO28にて生成された制御周波数信号Scに基づいて受信信号Srを所定の同調周波数を有するIF信号Soに変換することができる。これにより、受信機42は、IF信号Soの周波数変動を抑制することが可能となる。
【0039】
さらに、直流信号Sdに含まれる受信信号SrやIF信号Soの高周波信号成分をLPF48で除去してVCO28に供給するので、IF信号Soの周波数変動を確実に抑制することができる。
【0040】
本発明に係る自動周波数制御回路は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態の前提となる受信機が適用された船舶用レーダのブロック図である。
【図2】図2Aは、図1の周波数弁別器の入力ポートに入力されるIF信号を示すタイムチャートであり、図2Bは、出力ポートから出力される直流信号を示すタイムチャートである。
【図3】本実施形態に係る受信機が適用される船舶用レーダのブロック図である。
【図4】図4Aは、図3の周波数弁別器の入力ポートに入力される第2信号を示すタイムチャートであり、図4Bは、出力ポートから出力される直流信号を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0042】
24…分配器 26…周波数弁別器
26a…入力ポート 26b…出力ポート
28…VCO 32、46…ミキサ
40…船舶用レーダ 42…受信機
44…発振器 48…LPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数信号を生成する第1発振器と、
前記第1周波数信号と出力周波数信号とに基づいて、前記出力周波数信号よりも高い周波数を有する第2周波数信号を生成するミキサと、
前記第2周波数信号に応じた直流信号を生成する周波数弁別器と、
前記直流信号に基づいて前記出力周波数信号を所定周波数に同調させる制御周波数信号を生成する第2発振器と、
を有する
ことを特徴とする自動周波数制御回路。
【請求項2】
請求項1記載の自動周波数制御回路において、
前記直流信号に含まれる前記出力周波数信号の高周波信号成分を除去して前記第2発振器に供給するフィルタをさらに有する
ことを特徴とする自動周波数制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−258899(P2007−258899A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78674(P2006−78674)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】