説明

自動変速機の油圧装置

【課題】プーリ油圧供給系の電磁ソレノイドバルブがフェールしたときも車両の円滑な走行を可能にし、プーリ油圧系の制御範囲が狭まるのを回避する自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】油圧ポンプ70によって生成されて第1油路110を介してドライブプーリのシリンダ室30b1に供給される油圧を制御する第1電磁ソレノイドバルブ102と、第2油路112を介してドリブンプーリのシリンダ室32b1に供給される油圧を制御する第2電磁ソレノイドバルブ104と、第3油路146を介してトルクコンバータに供給して容量制御する第3電磁ソレノイドバルブ116と、フェールによって第1から第3電磁ソレノイドバルブのうちの少なくとも2つへの通電が停止されたときの出力油圧に応じて動作し、変速比が減少するようにプーリのシリンダ室に油圧を供給する切換バルブ122とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の油圧装置に関し、より具体的には無段変速機の油圧装置において電磁ソレノイドバルブのフェール時にも走行を継続できるようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機の油圧装置には多くの電磁ソレノイドバルブが介挿されるが、それらがフェールした場合でも、車両の走行が円滑に継続できなければならない。
【0003】
そのため、例えば特許文献1記載の技術は無段変速機の油圧装置において、ドライブプーリとドリブンプーリのシリンダ室に供給される油圧をそれぞれ設定する第1、第2電磁ソレノイドバルブと調圧バルブからなる第1、第2制御バルブと切換バルブを備え、切換バルブは、第1電磁ソレノイドバルブがフェールしたときに発生する油圧を受けて作動して第2制御バルブから出力される最大油圧を低下するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−236965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術にあっては、プーリ油圧回路において第1、第2電磁ソレノイドバルブがフェールしたときは変速比(レシオ)を最小にして車両の高速走行時においても円滑な走行を可能にすると共に、切換バルブを介挿して第2制御バルブから出力される最大油圧を低減させてベルト張力を低下させ、その耐久性を向上させるように構成される。
【0006】
しかしながら、フェール時のバックアップを行う切換バルブをプーリ油圧供給系に介挿し、第1電磁ソレノイドバルブの動作領域(通電領域)の一部を切換バルブの作動用に割いているため、プーリ油圧の制御可能範囲がその分だけ狭まる恐れがあった。
【0007】
この発明の目的は上記した課題を解決し、プーリ油圧供給系の電磁ソレノイドバルブがフェールしたときも車両の円滑な走行を可能にすると共に、プーリ油圧系の制御範囲が狭まるのを回避するようにした自動変速機の油圧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、流体継手と、ベルトが巻き掛けられたドライブプーリとドリブンプーリとを有する自動変速機とを備え、車両に搭載される駆動源の出力を前記流体継手から入力して前記ドライブプーリとドリブンプーリで変速して駆動輪に伝達して走行させる自動変速機の油圧装置において、油圧ポンプによって生成されて第1油路を介して前記ドライブプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第1電磁ソレノイドバルブと、前記油圧ポンプによって生成されて第2油路を介して前記ドリブンプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第2電磁ソレノイドバルブと、前記油圧ポンプによって生成された油圧を第3油路を介して前記流体継手に供給し、その容量を制御する第3電磁ソレノイドバルブと、フェールによって前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブのうちの少なくとも2つへの通電が停止されたときに出力される油圧に応じて動作し、変速比が減少するように前記ドライブプーリとドリブンプーリのシリンダ室に油圧を供給する切換バルブとを備える如く構成した。
【0009】
請求項2に係る自動変速機の油圧装置にあっては、前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブは、通電が停止されるとき、最大油圧を出力するように構成した。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る自動変速機の油圧装置にあっては、油圧ポンプによって生成されて第1油路を介してドライブプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第1電磁ソレノイドバルブと、生成されて第2油路を介してドリブンプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第2電磁ソレノイドバルブと、生成された油圧を第3油路を介して流体継手に供給し、その容量を制御する第3電磁ソレノイドバルブと、フェールによって第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブのうちの少なくとも2つへの通電が停止されたときに出力される油圧に応じて動作し、変速比が減少するようにドライブプーリとドリブンプーリのシリンダ室に油圧を供給する切換バルブとを備える如く構成したので、フェールによって第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブのうちの少なくとも2つへの通電が停止されたとき、車両が高速走行時にあるときも円滑な走行が可能となると共に、切換バルブが少なくとも2つの電磁ソレノイドバルブから出力される油圧に応じて動作するように構成することでプーリ油圧の制御可能範囲を拡大させることができる。
【0011】
即ち、フェールのときはプーリ油圧系などの第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブの動作領域(通電領域。制御範囲)の一部、通例は低電流側を流用して切換バルブを動作させることになるが、切換バルブが3つのバルブのうちの少なくとも2つから出力される油圧に応じて動作するように構成することで、流用部分を減少でき、プーリ油圧系の制御範囲が狭まるのを回避することができる。その結果、制御範囲を広く使用することができ、油圧ゲインを小さくして動作を一層安定させることが可能となる。
【0012】
また切換バルブは少なくとも2つのバルブから出力される油圧が作用しないと動作しないように構成したので、切換バルブの最低動作圧の設定に余裕をもたせることができ、その径やスプリング荷重あるいはスプリングレートの設計の自由度を上げることができる。さらに、プーリ油圧系に脈動やサージ圧などが生じるときも、それに対するタフネスを向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る自動変速機の油圧装置にあっては、第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブは、通電が停止されるとき、最大油圧を出力するように構成したので、上記した効果に加え、フェールしたときに変速比を確実に減少させることができ、車両の円滑な走行を一層確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る自動変速機の油圧装置が前提とする自動変速機の断面図である。
【図2】図1に示す自動変速機の油圧装置の油圧回路図である。
【図3】図2に示す自動変速機の油圧装置の切換バルブの模式図である。
【図4】図3に示す切換バルブの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の油圧装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、この発明に係る自動変速機の油圧装置(回路)が前提とする自動変速機の断面図である。
【0017】
図1において符号10は自動変速機を示し、自動変速機10はベルト式の無段変速機(以下「CVT」という)からなる。CVT10は車両(図示せず)に搭載され、駆動源(内燃機関。以下「エンジン」という。図示せず)の出力を変速して左右の駆動輪(図示せず)に伝達する。
【0018】
図1に示す如く、CVT10は、互いに平行に設けられた入力軸12と出力軸14と中間軸16を備え、エンジンの出力はトルクコンバータ(流体継手)20を介して入力軸12から入力される。
【0019】
トルクコンバータ20は、エンジンのクランクシャフト22に直結されたドライブプレート24に固定されるポンプインペラ20aと、入力軸12に固定されるタービンランナ20bと、ロックアップクラッチ20cからなる。
【0020】
ロックアップクラッチ20cはシリンダ室20c1を備え、そこに供給される油圧(作動油の圧力)に応じた係合力でエンジンの出力を入力軸12に伝達する。
【0021】
入力軸12と出力軸14の間には、金属Vベルト機構26が設けられる。
【0022】
金属Vベルト機構26は、入力軸12に配設されたドライブプーリ30と出力軸14に配設されたドリブンプーリ32と、その間に巻き掛けられた金属製のベルト34からなる。
【0023】
ドライブプーリ30は入力軸12に相対回転自在で軸方向移動不能に設けられた固定側ドライブプーリ半体30aと、入力軸12に相対回転不能で固定側ドライブプーリ半体30aに対して軸方向移動自在に設けられた可動側ドライブプーリ半体30bからなる。
【0024】
ドリブンプーリ32は、出力軸14に相対回転不能で軸方向移動不能に設けられた固定側ドリブンプーリ半体32aと、出力軸14に相対回転不能で固定側ドリブンプーリ半体32aに対して軸方向移動自在に設けられた可動側ドリブンプーリ半体32bからなる。
【0025】
可動側ドライブプーリ半体30bと可動側ドリブンプーリ半体32bにはシリンダ室30b1,32b1が設けられ、可動側プーリ半体30b,32bはシリンダ室30b1,32b1に供給された油圧(側圧)に応じて固定側ドライブプーリ半体30aと固定側ドリブンプーリ半体32aに接近あるいは離間する。
【0026】
ドライブプーリ30とドリブンプーリ32の間にはVベルト34が巻き掛けられる。Vベルト34は多数のエレメント34aとその両側に嵌められた2本のリング34bからなり、エレメント34aに形成されたV字面がドライブプーリ30とドリブンプーリ32のプーリ面と接触し、両側から強く押圧された状態でエンジンの動力をドライブプーリ30からドリブンプーリ32に伝達する。
【0027】
入力軸12上には前後進切換機構36が設けられる。前後進切換機構36は遊星歯車機構40と前進クラッチ42と後進ブレーキクラッチ44からなる。
【0028】
遊星歯車機構40は、固定側ドライブプーリ半体30aにスプライン結合されるサンギヤ40aと、入力軸12に結合されて入力軸12と一体に回転するリングギヤ40bと、入力軸12に対して相対回転自在に設けられたキャリヤ40cと、キャリヤ40cに回転自在に支承されたピニオンギヤ40dを有する。
【0029】
各ピニオンギヤ40dは、サンギヤ40aとリングギヤ40bの双方と常時噛合する。サンギヤ40aとリングギヤ40bの間には前進クラッチ42が設けられ、キャリヤ40cと変速機ケースとの間には後進ブレーキクラッチ44が設けられる。
【0030】
前進クラッチ42は、シリンダ室42aに油圧(作動油の圧力)が供給されるとき、クラッチピストンをリターンスプリングのばね力に抗して移動させることにより、サンギヤ40a側の摩擦板とリングギヤ40b側の摩擦板とを係合させてサンギヤ40aとリングギヤ40bを結合することで係合(インギヤ)され、車両を前進走行可能にする。
【0031】
後進ブレーキクラッチ44は、シリンダ室44aに油圧(作動油の圧力)が供給され、ブレーキピストンをリターンスプリングのばね力に抗して移動させることにより、変速機ケース側の摩擦板とキャリヤ40cの摩擦板を係合させて変速機ケースとキャリヤ40cを結合することで係合(インギヤ)され、車両を後進走行可能にする。
【0032】
前進クラッチ42がシリンダ室42aに油圧を供給されて係合されると、リングギヤ40bはサンギヤ40aに対して相対回転不能となり、後進ブレーキクラッチ44が係合されると、キャリヤ40cは変速機ケースに対して相対回転不能となる。
【0033】
このため、入力軸12が回転した状態で前進クラッチ42を係合させると、リングギヤ40bはサンギヤ40aと一体となってサンギヤ40aと共に回転し、ドライブプーリ30は入力軸12と同一の方向に回転する。このとき、各ピニオンギヤ40dは自転することなく、サンギヤ40aとリングギヤ40bと一体となって入力軸12のまわりを回転(公転)する。
【0034】
一方、入力軸12が回転した状態で後進ブレーキクラッチ44をシリンダ室44aに油圧を供給して係合させると、キャリヤ40cは固定され、ピニオンギヤ40dは自転し、リングギヤ40bに対してサンギヤ40aは反対の方向に回転する。それによりドライブプーリ30は入力軸12とは反対の方向に回転する。
【0035】
尚、前進クラッチ42と後進ブレーキクラッチ44が共に非係合(アウトギヤ)となっているときには、入力軸12とサンギヤ40aが回転するのみで、エンジンの回転はドライブプーリ30には伝達されない。
【0036】
出力軸14には中間軸ドライブギヤ50が設けられると共に、中間軸16にはそれに噛合される中間軸ドリブンギヤ52とファイナルドライブギヤ54とが設けられる。ファイナルドライブギヤ54はディファレンシャル機構56のケースに固定されたファイナルドリブンギヤ60と常時噛合する。
【0037】
ディファレンシャル機構56には左右のアクスルシャフト58が固定されると共に、その端部には駆動輪が取り付けられる。ファイナルルドリブンギヤ60はファイナルドライブギヤ54と常時噛合し、中間軸16の回転に伴ってディファレンシャルケース全体を左右のアクスルシャフト58回りに回転させる。
【0038】
プーリ30,32のシリンダ室30b1,32b1に供給される油圧を制御し、Vベルト34の滑りが発生することのないプーリ側圧を与えた状態で入力軸12にエンジンの回転を入力すると、その回転は、入力軸12→ドライブプーリ30→Vベルト34→ドリブンプーリ32→出力軸14と伝達される。
【0039】
金属Vベルト機構26にあっては、ドライブプーリ30とドリブンプーリ32の両プーリ側圧を増減させることによってプーリ幅を変化させ、Vベルト34の両プーリ30,32に対する巻き掛け半径を変化させることにより、巻き掛け半径の比(プーリ比)に応じた所望の変速比(レシオ)を無段階で得ることができる。
【0040】
そのとき、中間軸ドライブギヤ50は出力軸14と連結されて一体となって回転し、出力軸14に伝達された回転がさらに中間軸ドライブギヤ50から中間軸ドリブンギヤ52に伝達され、中間軸16が回転する。中間軸16の回転はディファレンシャル機構56とアクスルシャフト58を介して左右の駆動輪に伝達され、それを駆動する。
【0041】
上記したトルクコンバータ20のロックアップクラッチ20cの係合量、ドライブプーリ30などのプーリ幅、前進クラッチ42あるいは後進ブレーキクラッチ44の係合(インギヤ)・非係合(アウトギヤ)などは、それらのシリンダ室20c1,30b1,32b1,42a,44aに供給される油圧を制御することで行われる。
【0042】
図2はCVT変速機10の油圧装置の油圧回路図、図3は図2に示す自動変速機の油圧装置の切換バルブの模式図、図4は図3に示す切換バルブの拡大図である。図でX,HXはドレンを示す。
【0043】
以下、図2を中心に参照してCVT10の油圧装置を説明する。
【0044】
図2において油圧ポンプ70はエンジンにより駆動され、リザーバ72内の作動油を汲み上げて吐出端70aから油路74を介してPHレギュレータバルブ76に送る。PHレギュレータバルブ76は油圧ポンプ70の吐出圧を車両の走行状態に応じて調整し、PH圧(ライン圧。高圧制御油圧)を生成して油路80に供給する。
【0045】
油路80は一方では可動側ドライブプーリ半体30bと可動側ドリブンプーリ半体32bのシリンダ室30b1,32b1に接続されると共に、他方では分岐油路82を介してCRバルブ84に接続される。CRバルブ84は油路82から供給されたPH圧を減圧してCR圧(低圧制御油圧)を生成する。
【0046】
CRバルブ84が生成したCR圧はMODバルブ86に送られる。MODバルブ86はCR圧をさらに減圧したMOD圧を生成して油路90に出力する。
【0047】
プーリ側の説明に戻ると、油路80には第1調圧バルブ92と第2調圧バルブ94が介挿される。第1、第2調圧バルブ92,94の内部には移動自在なスプールが収容される。スプールは一端側(図で右端)でスプリングによって他端側に付勢される。
【0048】
第1、第2調圧バルブ92,94はスプールの一端側で油路96,100を介して第1、第2電磁ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)102,104に接続される。第1、第2電磁ソレノイドバルブ102,104はCRバルブ84の出力端と第1、第2調圧バルブ92,94を接続する油路106に介挿される。
【0049】
第1、第2電磁ソレノイドバルブ102,104においてその内部にそれぞれ収容されるスプールは通電量に応じた距離だけ変位し、CR圧を調整してDRC圧あるいはDNC圧を出力する。
【0050】
出力されたDRC圧あるいはDNC圧は第1、第2調圧バルブ92,94のスプールの一端側に供給されてスプールを変位させ、それによってPH圧を調圧して得た油圧が油路110,112を介して可動側ドライブプーリ半体30bのシリンダ室30b1と可動側ドリブンプーリ半体32bのシリンダ室32b1に供給される。
【0051】
このように油圧ポンプ70の吐出端70aとドライブプーリ30の可動側ドライブプーリ半体30bのシリンダ室30b1とドリブンプーリ32の可動側ドリブンプーリ半体32bのシリンダ室32b1を接続する油路110,112を介して油圧ポンプ70によって生成された油圧がシリンダ室30b1,32b1に供給され、第1、第2電磁ソレノイドバルブ102,104への通電量が制御されることによってドライブプーリ30とドリブンプーリ32の側圧が増減されて変速比が制御される。
【0052】
尚、可動側ドライブプーリ半体30bのシリンダ室30b1にはピストンが2個設けられ、シリンダ室30b1も2つ形成される結果、受圧面積は2倍となり、DRC圧がDNC圧と同一のとき、軸推力は2倍となり、よって変速比は減少(OD側)となる。
【0053】
トルクコンバータ20のロックアップクラッチ20cについて説明すると、CRバルブ84の出力端は油路114を介して第3電磁ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)116に接続されると共に、それから油路120を介して切換バルブ122に接続され、さらにそれから油路124を介してLC制御バルブ126に接続される。即ち、第3電磁ソレノイドバルブ116の出力(「LCC圧」という)は、切換バルブ122を介してLC制御バルブ126に作用させられる。
【0054】
MODバルブ86の出力端は油路90を通じて切換バルブ122に接続され、切換バルブ122は油路130を介してLCシフトバルブ132に接続され、LCシフトバルブ132のスプールの一端(図で右端)にMOD圧を作用させ、図で左方に押圧する。
【0055】
他方、MODバルブ86の出力端はLCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ(オンオフソレノイドバルブ)134に接続され、その出力は油路136を介してLCシフトバルブ132のスプールの他端に作用させられ、スプールをMOD圧に抗して図で右方に押圧する。
【0056】
LCシフトバルブ132はTC制御バルブ140に接続される。TC制御バルブ140はPHレギュレータバルブ76から油路142を介して元圧を供給され、供給された元圧を油路144を介してLCシフトバルブ132に供給する。即ち、LCシフトバルブ132は、油路130,136の油圧で決定されるスプール位置で調整される開度に応じた油圧を油路144から受け、油路146を介してロックアップクラッチ20cのシリンダ室20c1に供給する。
【0057】
切換バルブ122の内部には移動自在なスプール122aが収容されると共に、第3電磁ソレノイドバルブ116からLCC圧を供給される。切換バルブ122はスプール122aが図2に示す開放位置にあるとき、第3電磁ソレノイドバルブ116から供給されるLCC圧をそのままLC制御バルブ126に出力させる。
【0058】
LC制御バルブ126のスプールはそれに応じて変位し、そのスプール位置で決定される油圧をLCシフトバルブ132に供給する。LCシフトバルブ132においてスプールはそれに応じて移動し、油路150を介してロックアップクラッチ20cのシリンダ室20c1から油圧を排出させる。尚、これはロックアップクラッチ20cを解放(オフ)時の動作である。係合(オン)時には、油路150から油圧を供給し、油路146から排出させる。
【0059】
即ち、LCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ134の通電を制御することで、油路136を介してLCシフトバルブ132のスプール位置が調整され、油路146,150を介しての油圧の供給・遮断が調整されてロックアップクラッチ20cの解放(オフ)と係合(オン)が制御される。
【0060】
前進クラッチ42と後進ブレーキクラッチ44について説明すると、CRバルブ84の出力端は油路152を介して第4電磁ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)156に接続されると共に、それから油路160を介して切換バルブ122に接続され、さらにそれから油路162を介してマニュアルバルブ164に接続される。
【0061】
マニュアルバルブ164のスプールは運転者のシフトレバー操作によるポジション選択に応じて移動し、そのマニュアルバルブ164の選択位置に応じて油路166を介して前進クラッチ42のシリンダ室42a、あるいは油路168を介して後進ブレーキクラッチ44のシリンダ室44aに接続される。それによって前進クラッチ42あるいは後進ブレーキクラッチ44が係合される。
【0062】
切換バルブ122は油路170を介して第2電磁ソレノイドバルブ104の出力端に接続されてDNC圧を受けると共に、油路172を介して第1、第2調圧バルブ92,94のスプールの他端側に接続され、スプールを前記した一端側に付勢する。また切換バルブ122は油路120から分岐させられた油路120aに接続され、第3電磁ソレノイドバルブ116からのLCC圧を受ける。
【0063】
さらに切換バルブ122は油路174を介してポンプ容量バルブ176に接続され、MOD圧を供給してポンプ容量バルブ176のスプールを図で右方に移動させる。油圧ポンプ70の出力は油路74の手前で分岐してポンプ容量バルブ176に接続されるが、ポンプ容量バルブ176のスプールが図で右端の位置にあるとき、油圧ポンプ70のもう一つの吐出端70bとの接続は遮断され、油圧ポンプ70の吐出量は半吐出量とされる。
【0064】
図示の油圧装置にあっては、車両に搭載されるエンジンの出力をトルクコンバータ20から入力してドライブプーリ30とドリブンプーリ32で変速して駆動輪に伝達して車両を走行させる。
【0065】
次いで第1から第4電磁ソレノイドバルブ102,104,116,156およびLCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ134がフェールした場合について説明する。尚、ここで「フェール」とは、システムダウンが生じてそれらへの通電量が零となった場合を意味する。
【0066】
またこの実施例においては上記した電磁ソレノイドバルブのいずれかがフェールしたとき、図示しない電子制御ユニットを介してシステムダウンと判定され、必要な電磁ソレノイドバルブの通電量を強制的に零とされる。
【0067】
さらに上記した電磁ソレノイドバルブのうち、第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116とLCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ134はノーマルオープン型(通電量零で出力圧が最大となるバルブ)からなり、第4電磁ソレノイドバルブ156はノーマルクローズ型(通電量零で出力圧が零となるバルブ)からなる。
【0068】
先ず、第1、第2電磁ソレノイドバルブ102,104について説明すると、それらはフェールしたとき、前記したように出力圧が最大とされ、第1調圧バルブ92と第2調圧バルブ94に同一のDRC圧とDNC圧を供給するように構成される。
【0069】
ここでドライブプーリ30の可動側ドライブプーリ半体30bのシリンダ室30b1の受圧面積がドリブン側のそれに比して2倍であることから軸推力がドリブンプーリ32側より大きくなり、よって変速比(レシオ)が減少(OD側)となるように構成される。それにより、車両が高速で走行中であっても円滑に走行を継続することができる。
【0070】
またフェールによって第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116のうちの少なくとも2つ(バルブ104,116)への通電が停止されるとき、それらの出力圧(DNC圧、LCC圧)が最大となるように構成される。
【0071】
それについて図3を参照して説明すると、同図に示す如く、切換バルブ122は前記したように油路170,120aを介して第2、第3電磁ソレノイドバルブ104,116に接続されるように構成される。
【0072】
ここで、図4に示す如く、切換バルブ122において油路170に接続されるポートは両側の径d1、d2のうち、スプール122aがスプリング122bに抗して進む方向(矢印方向)側の径が他方より大きい(d1>d2)ように形成される。
【0073】
同様に、切換バルブ122において油路120aに接続されるポートは両側の径d3、d4のうち、スプール122aが進む矢印方向側の径が他方より大きい(d3>d4)ように形成される。
【0074】
これにより、切換バルブ122は、油路170,120aを介して第2、第3電磁ソレノイドバルブ104,116から圧力(DNC圧、LCC圧)を供給されたとき、スプール122aには矢印方向に向かう圧力が作用するが、スプール122aは2つの圧力(DNC圧、LCC圧)が最大となったときに矢印方向に移動するように、スプリング122bの径、荷重あるいはスプリングレートが設定される。
【0075】
このように切換バルブ122はその2つの最大圧が作用するとき、そのスプール122aは図4で矢印方向に変位し、油路130を遮断する位置(図示せず)に移動する。それにより、油路130からLCシフトバルブ132に供給されるMOD圧も零にされる。
【0076】
またLCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ134もフェールして通電が停止されたとき、油路136から出力する出力圧は最大とされる。その結果、LCシフトバルブ132のスプールが右に移動してロックアップクラッチ20cのシリンダ室20c1への油路146を開放し、TC制御バルブ140から油路144を介しての油圧供給を継続させることでロックアップクラッチ20cをオフさせる。
【0077】
同時に切換バルブ122においてスプール122aの移動に伴い、油路174はドレンに接続され、切換バルブ122から油路174を介してポンプ容量バルブ176に供給されるMOD圧も零にされる。その結果、ポンプ容量バルブ176のスプールは図示位置に移動し、油圧ポンプ70の出力はもう一つの吐出端70bからの出力と合流させられ、油圧ポンプ70の吐出量は全吐出量とされる。このようにフェール時には油圧ポンプ70の吐出量は全吐出量とされる。
【0078】
さらに切換バルブ122においてスプール122aの移動に伴い、油路90は油路172に接続されることになり、MODバルブ86からのMOD圧を油路172を介して第1、第2調圧バルブ92,94のスプールの他端側に供給し、スプールを前記した一端側に付勢する。
【0079】
それにより、第1、第2調圧バルブ92,94を介してプーリのシリンダ室30b1,32b1に供給される油圧はその分だけ低減され、ベルト34の張力を低下させることができ、その耐久性を向上させることができる。
【0080】
最後に前進クラッチ42などについて説明すると、第4電磁ソレノイドバルブ156はフェールしたとき、出力圧は零とされるが、切換バルブ122のスプール122aが図4で右側に移動したことに伴い、油路162は油路160との接続から、CRバルブ84の出力端、換言すれば第1、第2電磁ソレノイドバルブ102,104の上流の油路106から分岐される油路114との接続に切り換えられることになり、その油圧がマニュアルシフトバルブ164を介して供給される。
【0081】
従って、第4電磁ソレノイドバルブ156のフェール時にあっても、前進クラッチ42のシリンダ室42aあるいは後進ブレーキクラッチ44のシリンダ室44aへの油圧は継続して供給され、車両は円滑に走行を継続することができる。
【0082】
尚、上記において切換バルブ122が油路170,120aを介して第2、第3電磁ソレノイドバルブ104,116に接続されるように構成したが、図2において油路96を切換バルブ122に接続し、切換バルブ122が第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116に接続されるように構成しても良い。
【0083】
また図2と図3に示す油圧装置(回路)においてこの発明の特徴と関連しない部分の説明は省略した。
【0084】
上記した如く、この実施例にあっては、トルクコンバータ(流体継手)20と、ベルト34が巻き掛けられたドライブプーリ30とドリブンプーリ32とを有する自動変速機(無段変速機。CVT)10とを備え、車両に搭載される駆動源(エンジン)の出力を前記トルクコンバータ20から入力して前記ドライブプーリ30とドリブンプーリ32で変速して駆動輪に伝達して走行させる自動変速機の油圧装置において、油圧ポンプ70によって生成されて第1油路110、より具体的には第1油路110と第1調圧バルブ92を介して前記ドライブプーリ30のシリンダ室30b1に供給される油圧を制御する第1電磁ソレノイドバルブ102と、前記油圧ポンプ70によって生成されて第2油路112、より具体的には第2油路112と第2調圧バルブ94を介して前記ドリブンプーリ32のシリンダ室32b1に供給される油圧を制御する第2電磁ソレノイドバルブ104と、前記油圧ポンプ70によって生成された油圧を第3油路146、より具体的には第3油路146とLCシフトバルブ132を介して前記トルクコンバータ20に供給し、その容量制御を行う(換言すれば、前記油圧ポンプ70によって生成されて第3油路146、より具体的には第3油路146とLCシフトバルブ132を介して前記トルクコンバータ20に供給される油圧を制御する)第3電磁ソレノイドバルブ116と、フェールによって前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116のうちの少なくとも2つ、より具体的には前記第2、第3電磁ソレノイドバルブ104,116への通電が停止されたときに出力される油圧に応じて動作し、変速比が減少するように前記ドライブプーリ30とドリブンプーリ32のシリンダ室30b1,30b1に油圧を供給する切換バルブ122とを備える如く構成したので、フェールによって第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116のうちの少なくとも2つ、より具体的には前記第2、第3電磁ソレノイドバルブ104,116への通電が停止されたとき、車両が高速走行時にあるときも円滑な走行が可能となると共に、切換バルブ122が少なくとも2つの電磁ソレノイドバルブ104,116から出力される油圧に応じて動作するように構成することでプーリ油圧の制御可能範囲を拡大させることができる。
【0085】
即ち、フェールのときはプーリ油圧系などの第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104の動作領域(通電領域。制御範囲)の一部、通例は低電流側を流用して切換バルブ122を動作させることになるが、切換バルブ122が3つのバルブのうちの少なくとも2つから出力される油圧に応じて動作するように構成することで、流用部分を減少でき、プーリ油圧系の制御範囲が狭まるのを回避することができる。その結果、制御範囲を広く使用することができ、油圧ゲインを小さくして動作を一層安定させることが可能となる。
【0086】
また切換バルブ122は少なくとも2つのバルブ、より具体的にはバルブ104,116から出力される油圧が作用しないと動作しないように構成したので、切換バルブ122の最低動作圧の設定に余裕をもたせることができ、その径やスプリング荷重あるいはスプリングレートの設計の自由度を上げることができる。さらに、プーリ油圧系に脈動やサージ圧などが生じるときも、それに対するタフネスを向上させることができる。
【0087】
また前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブ102,104,116は、通電が停止されるとき、最大油圧を出力するように構成したので、上記した効果に加え、フェールしたときに変速比を確実に減少させることができ、車両の円滑な走行を一層確実に実現することができる
【0088】
尚、上記において流体継手としてトルクコンバータを例示したが、それに止まるものではない。また駆動源として内燃機関を例示したが、電動機あるいは電動機と内燃機関の組み合わせなどであっても良い。
【符号の説明】
【0089】
10 自動変速機(無段変速機。CVT)、12 入力軸、14 出力軸、16 中間軸、20 トルクコンバータ、20c ロックアップクラッチ、20c1 シリンダ室、26 金属Vベルト機構、30 ドライブプーリ、30a 固定側ドライブプーリ半体、30b 可動側ドライブプーリ半体、30b1 シリンダ室、32 ドリブンプーリ、32a 固定側ドリブンプーリ半体、32b 可動側ドリブンプーリ半体、32b1 シリンダ室、34 ベルト、40 遊星歯車機構、42 前進クラッチ、42a シリンダ室、44 後進ブレーキクラッチ、44a シリンダ室、70 油圧ポンプ、84 CRバルブ、86 MODバルブ、92 第1調圧バルブ、94 第2調圧バルブ、102 第1電磁ソレノイドバルブ、104 第2電磁ソレノイドバルブ、110 第1油路、112 第2油路、114 第5油路、116 第3電磁ソレノイドバルブ、122 切換バルブ、126 LC制御バルブ、132 LCシフトバルブ、134 LCオン・オフ制御用電磁ソレノイドバルブ、146 第3油路、156 第4電磁ソレノイドバルブ、162 第4油路、176 ポンプ容量バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体継手と、ベルトが巻き掛けられたドライブプーリとドリブンプーリとを有する自動変速機とを備え、車両に搭載される駆動源の出力を前記流体継手から入力して前記ドライブプーリとドリブンプーリで変速して駆動輪に伝達して走行させる自動変速機の油圧装置において、油圧ポンプによって生成されて第1油路を介して前記ドライブプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第1電磁ソレノイドバルブと、前記油圧ポンプによって生成されて第2油路を介して前記ドリブンプーリのシリンダ室に供給される油圧を制御する第2電磁ソレノイドバルブと、前記油圧ポンプによって生成された油圧を第3油路を介して前記流体継手に供給し、その容量制御を行う第3電磁ソレノイドバルブと、フェールによって前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブのうちの少なくとも2つへの通電が停止されたときに出力される油圧に応じて動作し、変速比が減少するように前記ドライブプーリとドリブンプーリのシリンダ室に油圧を供給する切換バルブとを備えたことを特徴とする自動変速機の油圧装置。
【請求項2】
前記第1、第2、第3電磁ソレノイドバルブは、通電が停止されるとき、最大油圧を出力するように構成されることを特徴とする請求項1記載の自動変速機の油圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196390(P2011−196390A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60260(P2010−60260)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】