説明

自動変速機

【課題】クラッチ異常と判断されたとき、原動機の駆動トルクを抑制するフェールセーフ機能を備えた自動変速機を提供する。
【解決手段】クラッチアクチュエータ25が、最大トルク伝達できる位置にあるときに、原動機11の駆動軸12の回転と変速装置17の入力軸31の回転とが同期できないときは、クラッチ20の異常と判断するクラッチ異常判断部(S106)と、クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、原動機の駆動トルクを低減するトルク抑制制御部(S112、S114)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機と変速装置との間に設けられたクラッチの係脱をクラッチアクチュエータによって制御する自動変速機に関し、特に、クラッチ異常時のフェールセーフ機能を備えた自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを駆動源とする車両において、例えば、特許文献1に記載されているように、既存のマニュアルトランスミッションにアクチュエータを取付け、運転者の意思、若しくは車両状態によって、変速操作(クラッチの断接、ギヤシフト、およびセレクト)を自動的に行なう自動変速機(以下、AMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)という)や、例えば、特許文献2に記載されているように、2つのクラッチおよび2つの入力軸を有し、プレシフトを可能にしたデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)が知られている。
【0003】
この種のDCTあるいはAMTにおいては、クラッチを係合する際には、エンジンの回転数Neと自動変速機の入力軸回転数Ntとを同期させるために、クラッチアクチュエータによってクラッチトルクTcを、図6に示すように、エンジントルクTeに対して+αだけ大きなトルクに制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75814号公報
【特許文献2】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッチあるいはクラッチシステムに何らかの異常が発生した場合、例えば、異物の噛み込みやクラッチディスクの摩耗等によって、クラッチアクチュエータを所定量ストロークさせても、図6に示すように、クラッチトルクTcが目標とするクラッチトルクTctまで上昇せず、エンジントルクTeよりも小さなトルクTczしか得られないことが生ずる。このために、エンジン回転数Neが、同図の実線で示すように、入力軸回転数Ntに同期することができなくなり、変速制御をスムーズに行えなくなる。
【0006】
このような場合には、クラッチトルクTcを目標トルクまで増大させるべく、クラッチアクチュエータの作動が継続されて無理な加重操作が繰り返されることになり、そのような状態で、変速、走行が行われると、クラッチが破損する恐れがでてくる。
【0007】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、クラッチ異常と判断されたときは、原動機の駆動トルクを抑制するフェールセーフ機能を備えた自動変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、車両に搭載された原動機と、前記原動機の駆動軸によって回転される入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する変速装置と、前記原動機の駆動軸と前記変速装置の入力軸とを係脱するクラッチと、前記クラッチのクラッチトルクを制御するクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータが、最大トルク伝達できる位置にあるときに、前記原動機の駆動軸の回転と前記変速装置の入力軸の回転とが同期できないときは、前記クラッチの異常と判断するクラッチ異常判断部と、前記クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、前記原動機の駆動トルクを低減するトルク抑制制御部とを有することである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記トルク抑制制御部は、前記原動機の駆動トルクを、前記クラッチがトルク伝達できないトルクより低い前記クラッチが伝達可能なトルク未満まで低減するようになっていることである。
【0010】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記トルク抑制制御部は、前記原動機の駆動トルクを、前記クラッチの滑り量が所定以下となるまで、所定量ずつ漸減させるようになっていることである。
【0011】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、前記原動機の回転数変化速度に基づいて、前記クラッチが伝達可能な伝達可能トルクを算出する伝達可能トルク算出部を有し、前記原動機の駆動トルクを前記トルク抑制制御部によって、前記伝達可能トルク算出部によって算出された伝達可能トルク未満まで低減するようにしたことである。
【0012】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記クラッチは、前記原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されていることである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、クラッチアクチュエータが、最大トルク伝達できる位置にあるときに、原動機の駆動軸の回転と変速装置の入力軸の回転とが同期できないときは、クラッチの異常と判断するクラッチ異常判断部と、クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、原動機の駆動トルクを低減するトルク抑制制御部とを有している。
【0014】
この構成により、クラッチ異常時には、原動機の駆動トルクを抑制制御するフェールセーフ機能が発揮され、クラッチを破損に至らせることなく、エンジン回転数を入力軸回転数に同期させることが可能となり、クラッチ異常時においても、車両を安全に走行させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、トルク抑制制御部は、原動機の駆動トルクを、クラッチがトルク伝達できないトルクより低いクラッチが伝可能なトルク未満まで低減するようになっているので、原動機の駆動トルクをクラッチが伝達可能なトルク未満まで低減することによって、エンジン回転数を入力軸回転数に確実に同期させることができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、トルク抑制制御部は、原動機の駆動トルクを、クラッチの滑り量が所定以下となるまで、所定量ずつ漸減させるようになっているので、クラッチの滑り量を監視しながら、原動機の駆動トルクを必要なレベルまで正確に低減させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、原動機の回転数変化速度に基づいて、クラッチが伝達可能な伝達可能トルクを算出する伝達可能トルク算出部を有し、原動機の駆動トルクをトルク抑制制御部によって、伝達可能トルク算出部によって算出された伝達可能トルク未満まで低減するようにしたので、簡単な制御によって、原動機の駆動トルクを伝達可能トルク未満まで迅速に低減することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、クラッチは、原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されているので、デュアルクラッチ式自動変速機における第1クラッチおよび第2クラッチの異常時に的確に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機を搭載した車両を示す図である。
【図2】デュアルクラッチ式自動変速機の全体構造を示すスケルトン図である。
【図3】クラッチのトルク伝達特性を示す図である。
【図4】クラッチ異常が発生した場合の、エンジントルク抑制制御を示すフローチャートである。
【図5】エンジントルク抑制制御を示すフローチャートの変形図である。
【図6】従来におけるクラッチ係合時のタイムチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る自動変速機を、図面に基づいて説明する。図1は、自動変速機の一例としてのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)10を、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの車両に適用したブロック図である。当該車両は、デュアルクラッチ式自動変速機10の他、原動機の一例であるガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン11と、差動装置(ディファレンシャル)13と、左右駆動軸15a、15bと、駆動輪としての左右前輪16a、16bなどを備えている。
【0021】
エンジン11の回転数Neは、エンジン11の駆動軸12に近接して設けられたエンジン回転数センサ90によって検出される。アクセルペダル91を踏み込んだときのアクセル操作量は、アクセル開度センサ92によってアクセル開度として検出される。エンジン11の作動を制御するECU(Engine Control Unit)14は、エンジン回転数Neの情報、アクセル開度の情報、および自動変速機10を変速制御するTCU(Transmission Control Unit)23からの各種情報を取得し、これらの情報に基づいて、アクセル開度や燃料噴射量を制御することにより、エンジン制御部14aによって、エンジントルクTeおよびエンジン回転数Neを制御する。
【0022】
自動変速機10は、エンジン11と差動装置13の間の動力伝達経路上に配設され、第1および第2入力軸31a、31b(以下、31a、31bを総称したものを、単に入力軸31と称す)の回転を複数段の変速比に変速して左右前輪16a、16bに伝達する変速装置17と、エンジン11の駆動軸12と変速装置17の入力軸31とを係脱するクラッチ20を備えている。クラッチ20は、エンジン11から出力される駆動軸12の駆動トルクを、第1入力軸31aに伝達する第1クラッチ20aと、第2入力軸31bに伝達する第2クラッチ20bを有するデュアルクラッチにて構成されている。
【0023】
第1入力軸31aおよび第2入力軸31bの回転数Ntは、第1入力軸回転数センサ93aおよび第2入力軸回転数センサ93bによってそれぞれ検出される。左右の前輪16a、16bおよび左右の後輪(図示せず)の車輪速度は、車輪速センサ94a、94bによって検出され、これらの情報は、TCU23に送られる。車輪速センサ94a、94bによって検出された各車輪の回転速度に基づいて、車速(車両速度)が算出される。
【0024】
また、ドライバがシフトレバー95を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置センサ96によって検出される。ECU14とTCU23は、CAN(Controller Area Network)通信によって相互に情報を交換可能となっている。TCU23の変速制御部23aは、シフト位置センサ96によって検出されたシフト位置の情報、ECU14からの変速指令や取得した車両情報などに基づいて、複数の変速ギヤ段を切替えるとともに、第1クラッチ20aおよび第2クラッチ20bを係脱して、自動変速機10の変速制御を行う。
【0025】
デュアルクラッチ20の第1および第2クラッチ20a,20bは、乾式摩擦クラッチからなっている。第1クラッチ20aは、モータを駆動源とする第1のクラッチアクチュエータ25aによって係合制御されるようになっており、第2クラッチ20bは、モータを駆動源とする第2のクラッチアクチュエータ25bによって係合制御されるようになっている。第1および第2のクラッチアクチュエータ25a、25b(以下、25a、25bを総称したものを、単にクラッチアクチュエータ25と称す)は、クラッチアクチュエータ25のストローク量Sをそれぞれ検出するストロークセンサ26a、26b(以下、26a、26bを総称したものを、単にストロークセンサ26と称す)を有している。第1および第2クラッチ20a,20bのクラッチトルクTcは、クラッチアクチュエータ25のストローク量Sに応じて制御される。
【0026】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、図2に示すように、前進7速、後進1速のギヤトレーンを備えている。デュアルクラッチ式自動変速機10は、デュアルクラッチ20と、第1入力軸31aおよび第2入力軸31bと、第1副軸35および第2副軸36を備えている。第1入力軸31aは棒状とされ、第2入力軸31bは筒状とされて、同軸的に回転可能に配置されている。第1入力軸31aの図中左側はデュアルクラッチ20の第1クラッチ20aに連結され、第2入力軸31bの図中左側はデュアルクラッチ20の第2クラッチ20bに連結されている。第1入力軸31aと第2入力軸31bは、独立してトルクが伝達され、異なる回転数で回転可能となっている。第1副軸35は、入力軸31(第1および第2入力軸31a、31b)と並行して、図中下側に配置され、第2副軸36は、入力軸31と並行して、図中上側に配置されている。
【0027】
第1入力軸31aには、複数の奇数変速段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51、3速駆動ギヤ53、5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57が直接形成または別体で固定して設けられている。第2入力軸31bには、複数の偶数変速段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4−6速駆動ギヤ54が直接形成または別体で固定して設けられている。
【0028】
第1副軸35には、1速、3速、4速従動ギヤ61、63、64がそれぞれ遊転可能に設けられ、1速従動ギヤ61は1速駆動ギヤ51に、3速従動ギヤ63は3速駆動ギヤ53に、4速従動ギヤ64は4−6速駆動ギヤ54に、それぞれ噛合されている。
【0029】
第2副軸36には、2速、5速、6速、7速従動ギヤ62、65、66、67がそれぞれ遊転可能に設けられ、2速従動ギヤ62は2速駆動ギヤ52に、5速従動ギヤ65は5速駆動ギヤ55に、6速従動ギヤ66は4−6速駆動ギヤ54に、7速従動ギヤ67は7速駆動ギヤ57に、それぞれ噛合されている。
【0030】
また、第1副軸35には、後進ギヤ70が遊転可能に設けられ、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62の小径ギヤ62bに常時噛合されている。
【0031】
第1副軸35および第2副軸36上には、シンクロメッシュ機能を有する第1、第2、第3、第4ギヤシフトクラッチ71〜74が設けられ、これらギヤシフトクラッチ71〜74は、TCU23の変速制御部によって選択的に作動される。
【0032】
第1ギヤシフトクラッチ71は、第1副軸35上に設けられ、1速従動ギヤ61のシンクロギヤ部と3速従動ギヤ63のシンクロギヤ部との間に配設されている。第1ギヤシフトクラッチ71のスリーブを軸方向にスライドすることにより、1速従動ギヤ61および3速従動ギヤ63の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ61、63とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0033】
同様にして、第1副軸35上に設けられた第2ギヤシフトクラッチ72は、4速従動ギヤ64のシンクロギヤ部と後進ギヤ70のシンクロギヤ部との間に配設され、第2ギヤシフトクラッチ72のスリーブを軸方向にスライドすることにより、4速従動ギヤ64および後進ギヤ70の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結される。第2副軸36上に設けられた第3ギヤシフトクラッチ73は、7速従動ギヤ67のシンクロギヤ部と5速従動ギヤ65のシンクロギヤ部との間に配設され、第3ギヤシフトクラッチ73のスリーブを軸方向にスライドすることにより、7速従動ギヤ67および5速従動ギヤ65の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結される。さらに、第2副軸36上に設けられた第4ギヤシフトクラッチ74は、6速従動ギヤ66のシンクロギヤ部と2速従動ギヤ62のシンクロギヤ部との間に配設され、第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブを軸方向にスライドすることにより、6速従動ギヤ66および2速従動ギヤ62の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結される。
【0034】
上記した第1および第3ギヤシフトクラッチ71、73により、第1入力軸31に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構を構成し、第2および第4ギヤシフトクラッチ72、74により、第2入力軸32に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構を構成している。
【0035】
第1副軸35および第2副軸36には、それぞれ最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59が固定され、これら最終減速駆動ギヤ58、59は、差動装置13(図1参照)に連結された軸33上の減速従動ギヤ80に常時噛合されている。これにより、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59を介して左右前輪16a、16bが駆動される。
【0036】
図3は、クラッチ20(第1および第2クラッチ20a、20b)のトルク伝達特性の一例を示す図で、横軸はクラッチアクチュエータ25のストロークS、縦軸は伝達可能なクラッチトルクTcを示している。クラッチ20は、ストロークS=0で切断状態となるクラッチであり、ストロークSが増加するにしたがってクラッチトルクTcが増加する特性を有している。
【0037】
クラッチ20は、予め実験等によって、クラッチアクチュエータ25のストロークSとクラッチトルクTcとの関係が、図3の特性線図A1となるように設定され、例えば、特性マップとしてTCU23に記憶されている。そして、目標とするクラッチトルクTcが定められると、特性線図A1に基づいて、それに必要なストロークSが演算されるようになっており、最大ストロークSmaxにおいては、必要伝達トルクTrよりも大きな最大クラッチトルクTc1が得られるようになっている。
【0038】
ところが、クラッチ20あるいはクラッチアクチュエータ25に異物が噛み込んだり、クラッチディスクが必要以上に摩耗したりすると、ストロークSとクラッチトルクTcとの関係が、例えば、特性線図A2のように推移し、クラッチアクチュエータ25が最大ストロークSmax作動されても、必要伝達トルクTrよりも小さなクラッチトルクTc2しか得られない状態が起こる。そして、この状態においては、クラッチ係合時におけるクラッチ20の滑り量(エンジン11の駆動軸12と変速装置17の入力軸31の回転差)が大きくなり、図6に示すように、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとを同期回転させることができなくなる。
【0039】
従って、クラッチアクチュエータ25が、最大トルクを伝達できる位置までストロークされているにも、初期のクラッチトルクTcが得られず、このために、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntを同期させることができない場合には、後述するようにクラッチ異常と判断する。
【0040】
なお、クラッチ異常は、上記した異物の噛み込みやクラッチディスクの摩耗の他、クラッチ20およびクラッチアクチュエータ25を制御するシステム等の異常による場合も含む。
【0041】
このようなクラッチ異常が発生すると、図6に示すように、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとを同期回転させるために、エンジントルクTeより所定量αだけ大きなクラッチトルクTcを与えるように、クラッチアクチュエータ25を制御しても、予定されたクラッチトルクTcが得られないために、図6に示すエンジン回転数変化速度ΔNeが変動し、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとを同期回転できなくなる。
【0042】
次に、クラッチ異常が発生した場合に、エンジントルクTeを抑制制御する制御プログラムを、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0043】
まず、ステップS100において、車両が発進中あるいは変速中であるか否かが判断される。車両が発進中あるいは変速中である場合(Y)には、制御プログラムはリターンされ、車両が発進中あるいは変速中でない場合(N)には、ステップS102に移行される。ステップS102においては、エンジン回転数Neと入力軸31(第1入力軸31aもしくは第2入力軸31b)の回転数Ntとの差が、予め定められた所定回転数差(例えば、200rpm)より小さいか否かが判断される。
【0044】
エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が200rpm(所定回転数差)以下の場合(Y)には、クラッチ(第1クラッチ21)がほとんど滑りを生じていないため、ステップS104に移行されて、通常制御が実行される。すなわち、クラッチアクチュエータ25によって、クラッチトルクTcがエンジントルクTeの+αとなるように制御されることにより、図6の2点鎖線に示すように、エンジン回転数Neが低下され、入力軸回転数Ntに同期回転される。
【0045】
一方、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が200rpm以上の場合(N)、すなわち、クラッチトルクTcがエンジントルクTeを吸収できておらず、クラッチ20に必要以上の滑りを生じている場合には、ステップS106に移行される。ステップS106においては、クラッチアクチュエータ25がストロークエンドに到達しているか否かが判断され、未だストロークエンドに到達していない場合(N)には、ステップS108において、クラッチ20の滑りを減少させるべく、クラッチトルクTcを所定量増大させるようにクラッチアクチュエータ25を制御し、その後、前記ステップS104に進む。
【0046】
これに対し、ステップS106における判断結果がYの場合(クラッチアクチュエータ25がストロークエンド(Smax)に到達している)には、ステップS110において、ドライバに対してクラッチ異常が発生したことが異常警告される。次いで、ステップS112以降において、エンジントルクTeを抑制するフェールセーフ処理が実行される。
【0047】
すなわち、ステップS112において、ECU14に対してエンジントルクTeを予め定められた所定トルクだけ低減させる指令が発せられ、エンジン制御部14aによって、アクセル開度や燃料噴射量が制御されることにより、エンジントルクTeを所定トルクだけ低減させる制御が実行される。続いて、ステップS114において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が、所定回転数差(例えば、200rpm)より小さくなったか否かが判断され、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が、所定回転差より小さくなっていない場合には、前記ステップS112に戻って、エンジントルクTeをさらに所定トルクだけ低減させる制御が継続される。
【0048】
このようにして、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が、所定回転数差より小さくなるまで、言い換えれば、クラッチ20がトルク伝達できないトルクより低い、クラッチ20が伝達可能なトルク未満になるまで、エンジントルクTeを低下させる制御が実行され、エンジントルクTeが抑制される。そして、ステップS114において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が、所定回転数差より小さくなったことが判別されると、ステップS116に移行され、車両を安全な位置まで退避走行させる退避走行指令が発せられる。
【0049】
このように、クラッチ20の滑り量を監視しながら、クラッチ20の滑り量が所定以下となるまで、エンジントルクTeを所定量ずつ漸減させるようにしたので、エンジン11の駆動トルクを必要なレベルまで正確に低減させることが可能となる。
【0050】
この場合、ステップS114において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差が、所定回転数差より小さくなるまで、エンジントルクTeを抑制制御する代わりに、エンジントルクTeが出力の50%より小さくなるまで、エンジントルクTeを抑制制御するようにしてもよい。
【0051】
このようなエンジントルクTeの抑制制御により、エンジン11の性能をフルに発揮できなくなるが、異常状態にあるクラッチ20を破損に至らせることなく、安全な場所まで車両を退避走行させるために、エンジン回転数Neを入力軸回転数Ntに同期させるフェールセーフ機能が発揮され、車両を安全に走行させることが可能となる。
【0052】
上記したステップS106により、クラッチ20の異常と判断するクラッチ異常判断部を構成しており、また、ステップS112およびステップS114により、エンジン11の駆動トルクを低減するトルク抑制制御部を構成している。
【0053】
このように本実施の形態においては、クラッチアクチュエータ25がストロークエンドに到達しているにも拘らず、クラッチ20の滑り量(エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとの差)が、予め定められた値よりも大きく、変速時に、エンジン回転数Neを入力軸回転数Ntに同期させることができない場合には、クラッチ異常と判断する。そして、クラッチ異常と判断された場合は、クラッチ20の滑り量が予め定められた値よりも小さくなるまでエンジントルクTeを抑制するフェールセーフによって、クラッチ20を破損させることなく、エンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとを同期回転させることができ、車両を安全に走行させることが可能となる。
【0054】
図5は、本発明の変形例を示すもので、先に述べた実施の形態と異なる点は、クラッチ異常時におけるエンジントルクTeを、エンジン回転数変化速度ΔNe(図6参照)に基づいて算出される伝達可能トルクまで抑制するようにしたことである。
【0055】
すなわち、クラッチ正常時には、図3の特性線図A1に示すように、ストロークセンサ26によって検出されるクラッチアクチュエータ25のストロークが、例えばS1であったとすれば、クラッチトルクTcは、トルクTcaとなるはずである。しかるに、クラッチ異常時には、クラッチアクチュエータ25のストロークがS1であるにも係らず、クラッチトルクTcは、例えば、トルクTc1よりも小さなTcbとなる。
【0056】
そこで、クラッチトルクTcとエンジントルクTeとの関係式「Tc−Te=Ie・ΔNe」(ただし、Ieは、エンジン11のイナーシャトルク、ΔNeは、エンジン回転数を微分したエンジン回転数変化速度)より、クラッチ作動時のエンジン回転数変化速度ΔNeに基づいて、実際上のクラッチトルクTcを算出する(Tc=Ie・ΔNe+Te)。そして、算出したクラッチトルクTcが、図3に示すように、トルクTcbであったとすると、理論上のトルクTcaと実際のTcbとの差分を求めることにより、クラッチ20特性線図が図3のA1から、矢印方向にSa量だけ平行移動したA2に変化していることが分かる。
【0057】
その結果、特性線図A2に基づいて、最大ストロークSmax時における最大クラッチトルク、すなわち、クラッチ20が伝達し得る伝達可能トルクTc2を算出することができる。従って、エンジン回転数変化速度ΔNeに基づいて算出した伝達可能トルクTc2未満にエンジントルクTeを抑制することにより、上記した実施の形態で述べたと同様に、クラッチ20の破損を防止することができるようになる。
【0058】
具体的には、図5のフローチャートで示すように、ステップS200において、クラッチ異常が警告されると、次いで、ステップS202において、上記したように、エンジン回転数変化速度ΔNeに基づいて、クラッチ20が伝達可能な伝達可能トルクTc2が算出され、続くステップS204において、エンジントルクTeを、算出された伝達可能トルクTc2未満に抑制制御する。しかる後、ステップS206において、車両を安全な位置まで退避走行させる退避走行指令が発せられる。
【0059】
上記した変形例によれば、クラッチ異常時に、エンジン11の回転数変化速度ΔNeに基づいて、クラッチ20が伝達可能な伝達可能トルクTc2を算出し、この伝達可能トルクTc2までエンジン11のエンジントルクTeを低減することにより、エンジン11を必要なエンジントルクTeまで迅速に制御できるようになる。
【0060】
上記した実施の形態においては、自動変速機10を、デュアルクラッチ式自動変速機(DCT)に適用したことにより、デュアルクラッチ20(第1および第2クラッチ20a、20b)の異常時に的確に対応することができるようになるが、自動変速機10はデュアルクラッチ式自動変速機に限定されるものではなく、自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)に適用することもできる。また、従来のマニュアルトランスミッションのクラッチ操作のみを自動化した変速機に適用することもできる。
【0061】
また、実施の形態においては、FFタイプの車両に適用した自動変速機10を例にして説明したが、自動変速機10をFRタイプ(フロントエンジン・リアドライブ)タイプの車両に装備することもできる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る自動変速機は、原動機の駆動軸によって回転される入力軸の回転を複数段の変速比に変速して車両の駆動輪に伝達する変速装置と、クラッチアクチュエータによって制御され、原動機の駆動軸と変速装置の入力軸とを係脱するクラッチとを備えた車両に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0064】
10…自動変速機、11…原動機(エンジン)、16a、16b…駆動輪(左右前輪)、17…変速装置、20…クラッチ、25…クラッチアクチュエータ、31…入力軸、S106…クラッチ異常判断部、S112、S114…トルク抑制制御部、Te…エンジントルク、Tc…クラッチトルク、Ne…エンジン回転数、Nt…入力軸回転数。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された原動機と、
前記原動機の駆動軸によって回転される入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する変速装置と、
前記原動機の駆動軸と前記変速装置の入力軸とを係脱するクラッチと、
前記クラッチのクラッチトルクを制御するクラッチアクチュエータと、
前記クラッチアクチュエータが、最大トルク伝達できる位置にあるときに、前記原動機の駆動軸の回転と前記変速装置の入力軸の回転とが同期できないときは、前記クラッチの異常と判断するクラッチ異常判断部と、
前記クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、前記原動機の駆動トルクを低減するトルク抑制制御部と、
を有することを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、前記トルク抑制制御部は、前記原動機の駆動トルクを、前記クラッチがトルク伝達できないトルクより低い前記クラッチが伝達可能なトルク未満まで低減するようになっている自動変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記トルク抑制制御部は、前記原動機の駆動トルクを、前記クラッチの滑り量が所定以下となるまで、所定量ずつ漸減させるようになっている自動変速機。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記クラッチ異常判断部によってクラッチ異常と判断されたとき、前記原動機の回転数変化速度に基づいて、前記クラッチが伝達可能な伝達可能トルクを算出する伝達可能トルク算出部を有し、前記原動機の駆動トルクを前記トルク抑制制御部によって、前記伝達可能トルク算出部によって算出された伝達可能トルク未満まで低減するようにした自動変速機。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記クラッチは、前記原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されている自動変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53732(P2013−53732A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194064(P2011−194064)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】