説明

自動式の自己トリミングを有する聴取装置及び対応する方法

【課題】聴取装置のLC共振回路を所望の周波数範囲で持続的に作動させる。
【解決手段】発振器L、Cresと発振器の発振周波数をトリミングするためのトリミング装置11、12とを有する聴取装置において、予め与えられた目標値に依存してトリミング装置11、12を用い発振器の発振周波数を自動的に調節するための調節装置17、18、19を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器と発振器の発振周波数をトリミング(trimming:調整)するためのトリミング装置とを有する聴取装置に関する。さらに本発明は、聴取装置を制御するための対応する方法に関する。ここで聴取装置とは、特に補聴器、またヘッドホン、ヘッドセット等のようなそれぞれ携帯可能な他の音響機器をも意味する。
【背景技術】
【0002】
補聴器は、難聴者の処置のために用いられる装着可能な聴取装置である。多数の個々の欲求に応じるため、補聴器には種々の構造形式があり、例えば耳掛け式補聴器(HdO)、耳道挿入式補聴器(IdO)及びConcha(甲介)補聴器が用意されている。模範的に挙げられる補聴器は、外耳に又は耳道内に装着される。しかしさらに市場では、骨伝導補聴器、インプラント可能な又は振動触感性の補聴器も利用されている。その際、損なわれた聴覚の刺激は機械的又は電気的に行われる。
【0003】
補聴器は原則的に、基本的な構成要素として入力変換器、増幅器及び出力変換器を持っている。入力変換器は通例、受音器例えばマイクロホン、及び電磁受量器例えば誘導コイル、の少なくとも一方である。出力変換器はたいていの場合電気音響変換器例えば小型スピーカーとして、又は電気機械変換器例えば骨伝導受話器として実現されている。増幅器は通常信号処理ユニット中に組み込まれている。この原則的な構造が、耳掛け式補聴器の例について図1に示されている。耳の後に装着するための補聴器ハウジング1内に、1つ又は複数のマイクロホン2が周囲からの音を取り入れるために組み込まれている。同じように補聴器ハウジング1内に組み込まれた信号処理ユニット3は、マイクロホン信号を処理しそれを増幅する。信号処理ユニット3の出力信号はスピーカーないし受話器4に伝送され、受話器は音響信号を出力する。音は場合によっては、耳道内の耳形成術によって固定されている音響チューブを介して、補聴器装用者の鼓膜に伝送される。補聴器及び特に信号処理ユニット3の給電は、同様に補聴器ハウジング1内に組み込まれた電池5によって行われる。
【0004】
補聴器間の無線式のデータ伝送をエネルギー効率よく実現するために、変調可能なLC発振器回路が設けられる。その際LC回路は受信のためにも送信のためにも使用される。しかしながら、この種の回路の周波数を決定する構成要素は、正確に目標値に合わせられなければならない。製造公差から来る目標値からのずれは、製造過程中に共振回路の1回限りのトリミングによって修正することができる。しかしながら、温度作用及び老化によるパラメータドリフトの影響はそれによっては取り除かれない。しかし例えば4値位相偏位変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)又は2値位相偏位変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)のような特殊の変調法は、周波数の高い絶対確度を要求し、また温度作用及び老化の補償をせざるを得ない。
【0005】
もっぱら無線式にプログラミング可能であるべき補聴器(従来のプログラミングインタフェースなし)においてはさらに、無線式の補聴器・送信/受信回路のLC回路が既に正しくトリミングされている場合のみ無線式のプログラミングが可能という問題がある。外部のプログラミング機器によるトリミングの制御はそれによって不可能である。
【0006】
従来の補聴器においては、データ伝送のため変調方法が使用され、その精度要求は製造における1回限りのトリミングによって満たされ得る。その際LC発振器が起動され、補聴器チップ上に組み込まれた周波数カウンタによって実際の発振器周波数が測定される。この測定値は次いでプログラミングインタフェースを介して読み出すことができる。目標値に対するずれから、プログラミングのために使用されるPCが補償に必要なキャパシタンス値を確定する。このキャパシタンス値は同様にチップ上に組み込まれたプログラミング可能なキャパシタンスマトリックスによって適用され、そのキャパシタンスマトリックスは同様にPCによってプログラミングインタフェースを介して構成される。
【0007】
追従同期技術(PLL(Phase-Locked-Loop)回路)は知られている(例えば非特許文献1参照)。その課題は、発振器の周波数が基準発振器の周波数と一致し、しかも位相ずれはすぐには処置しなくてよいほどに正確に発振器の周波数を設定することにある。その追従発振器は例えば電圧制御型の発振器を用いて実現することができる。
【0008】
さらにスイッチオン可能なコンデンサによって調整可能なRF-CMOS発振器が知られている(例えば非特許文献2参照)。
【非特許文献1】ウルリッヒ ティーテェ(Ulrich Tietze)、クリストフ シェンク(Christoph Schenk)著「半導体回路技術(Halbleiter-Schaltungstechnik)11版、ベルリン(その他)、シュプリンガ(Springer)1999年、第1284〜1286頁、ISBN 3-540-64192-0
【非特許文献2】クラール(Kral,A)、ベバハニ(Behbahani,F)、アビディ(Abidi,A.A.)著「切換チューニングを有するRF-CMOS発振器(RF-CMOS oscillators with switched tuning)」Proceedings of the IEEE 1998年、Custom Integrated Circuits Conference 、1998年、555〜558頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、したがって共振回路のトリミングの高い精度を持続的に保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によればこの課題は、発振器と発振器の発振周波数をトリミングするためのトリミング装置とを有し、さらに予め与えられた目標値に依存してトリミング装置を用い発振器の発振周波数を自動的に調節するための調節装置を有する聴取装置によって解決される。
【0011】
さらに本発明によれば、発振器を有する聴取装置のデータ処理の制御及び発振器の発振周波数のトリミングにより聴取装置を制御するための方法において、トリミングが、あらかじめ与えられた目標値に依存した発振器の発振周波数の自動調節を含む聴取装置の制御方法が提供される。
【0012】
したがって、例えば補聴器の無線式の伝送システムの自動的な自己トリミングが有利な仕方で可能である。簡単なトリミングのため補聴器の専門家を捜し出す必要はない。
【0013】
聴取装置の発振器がLC振動回路を備え、その共振キャパシタンスがトリミング装置のキャパシタンスマトリックスによってトリミング可能であると有利である。トリミングキャパシタンスのマトリックスの自動化された適合は、製造における簡単な、十分に自動化された基本トリミングを可能にする。必要なソフトウェアは、わずかな制御指令を必要とするだけであるから極めて簡単化することができる。
【0014】
調節装置は、周波数カウンタ、窓コンパレータ及びシーケンス制御ユニットを備えることができる。これらの構成要素によって、調節回路は簡単に組み立てることができる。
【0015】
特殊な実施形態によれば、LC振動回路の共振コイルは送信及び受信アンテナの作用をする。それによって、共振コイルは多重機能性を得る。
【0016】
さらに、発振器、トリミング装置及び調節装置は共通のチップ上に組み立てられるようにすることができる。このことは製造要件及び製造コストを著しく引き下げる。
【0017】
発振周波数を調節するための調節装置に対しては、さらに最大時間があらかじめ与えられ得る。このことは、あらかじめ与えられる不連続のキャパシタンス値があらかじめ決められた時間に絶えずトリミングされ得るので、キャパシタンスマトリックスとの関連で有利である。
【0018】
別の実施形態に相応して、発振器の複数の目標周波数に対するトリミング値が聴取装置のメモリに納められるようにされる。それによって発振器は特殊な変調方法に対し複数の変調周波数にトリミング可能である。
【0019】
本発明による聴取装置はさらに、トリミングを時間的にあらかじめ与えられた間隔で繰り返すために時間制御装置を備えることができる。自動的なトリミング過程の周期的な繰り返しは、老化ドリフト及び温度ドリフトの影響の補償を有効に可能にする。しかしトリミングはまた、聴取装置から、また聴取装置へのデータ伝送の直前に、又は聴取装置のスイッチオンの直後にトリガされることも可能である。
【0020】
相応するコンフィギュレーションにおいて、聴取装置及び特に補聴器は、補聴器への制御指令の伝送を必要とすることなく、トリミングをスイッチオン後完全に自主的にも実行することもできる。それによって、補聴器はLC回路を自動的に補正し、したがってスイッチオン後短時間で無線式のプログラミング機器と通信することができる。この点は、プログラミング接点なしでもっぱら無線式のプログラミング可能な補聴器の実現可能性のための基本的前提である。
【0021】
場合によってはトリミングは外部の指令によってもトリガされる。トリミング手順を特別の制御指令を介して起動する可能性は、システムの試験及び分析の可能性を改善し、サービスコンセプトを支援する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明を図面について詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
以下に詳細に説明する実施例は本発明の有利な実施形態を示す。
【0024】
図2には補聴器の一部分が示され、その伝送システムは無線式の伝送のために自動的に自己トリミングし得るようになっている。構成部品の大部分は補聴器チップ上にあり、一方送信コイルLは補聴器チップの周辺部に、しかし補聴器の内部にある。送信コイルLは端子で2つのコンデンサと接続され、それらのコンデンサは電圧の安定化のため及び共振回路の高周波に関連した閉鎖のために用いられる。
【0025】
補聴器チップ上には送信回路10があり、この回路は主要構成部品として共振コンデンサCresを有し、この共振コンデンサは一方では接地され、他方では結合点n1を介して送信コイルLにつながっている。自由選択により、Cresには周波数適合のため別の外部共振キャパシタンスを並列に接続することができる。送信回路の別の重要な要素はコンパレータKであり、その両入力端は送信コイルLの端子と接続され、出力側で電流源ISを制御する。電流源ISは接地と結合点n1との間に接続されている。
【0026】
共振コンデンサCresをトリミングするため、結合点n1を介して共振コンデンサCresと接続されているキャパシタンスマトリックス11が用いられる。キャパシタンスマトリックス11は複数のコンデンサC1、C2、…、CXを有し、これらのコンデンサはそれぞれ一方では結合点n1に、他方では別々のスイッチS1、S2、…、SXを介して接地につながっている。これらのスイッチS1、S2、…、SXの各々は、LC共振回路をトリミングし、そのため対応するコンデンサC1、C2、…、CXを共振コンデンサCresに並列に接続するため、制御装置12を介して操作される。制御装置12は重要な要素としてトリミングマトリックス操作ユニット13及びさらにROMレジスタ14を含み、ROMレジスタを介してトリミング値を読み出すことができる。入力パラメータとして制御装置12は、種々の周波数f1、f2、f3に対するコンフィギュレーションデータをEEPROM15から得る。EEPROM15はそのデータをプログラミングインタフェース16から得る。プログラミングインタフェースとしては場合によっては送信コイルLを用いる。それと逆に、プログラミングインタフェース16を介してトリミング値がROMレジスタ14から例えばプログラミング機器(図示せず)により読み出されることも可能である。
【0027】
送信信号を導く結合点n1はさらに周波数カウンタ17に接続されている。周波数カウンタはさらに例えば基準クロックを与える水晶と接続されている。周波数カウンタ17の出力信号は窓コンパレータ18に導かれる。このコンパレータは周波数カウンタ信号を、それがあらかじめ与えられた窓内にあるかどうかについて分析する。周波数カウンタ信号がその窓の上または下にある場合には、窓コンパレータ18は対応する信号をシーケンス制御部19に与える。このシーケンス制御部19は他方において増分/減分信号を制御装置12に与え、その結果例えばコンデンサは多かれ少なかれ共振コンデンサCresに接続される。シーケンス制御部19はさらにコンパレータKを操作する。
【0028】
図2に従う伝送回路の自己トリミングはおよそ以下のパターンで行われる。シーケンス制御部19によってまず送信器ないしそのコンパレータKが能動化される。それにしたがって窓コンパレータ18は周波数カウンタ17によって確定された値が目標値に対する許容範囲内、即ち予め与えられた窓内にあるかどうかを確定する。その窓内にあることが確認された場合には、それ以上の処置は必要としない。これに対し周波数値が高過ぎると、使用されたトリミングキャパシタンスC1、C2、…、CXの値は1増分だけ増大される。周波数値が低過ぎる場合にはトリミングキャパシタンスC1、C2、…、CXの値は1増分だけ減少される。この方法の連続した繰返しによって、短時間後に目標範囲、即ち窓コンパレータ18により予め与えられた範囲、が確実に達成される。その際手順に対する中止基準として、例えば最大可能な増分数が終えられ得る固定した時間が予め与えられる。それに代えて、目標値の達成を検出するため、窓コンパレータ18の出力信号を用いることもできる。これによって、さもなければ通常手動で行われる、個別ステップの「送信器を能動化する」、「周波数を測定する」、「目標値からのずれを確定する」、「キャパシタンスマトリックスを適合させる」による方法が自動化される。
【0029】
自動式の自己トリミング方法によって確定された目標周波数に対するトリミング値は、目標値が達成された後例えばプログラミング機器によって読み出され、常設のEEPROM15に納められることができる。それに代えて、EEPROM15への直接の引き取りが、例えば特別の制御指令によってトリガされて実行されることも可能である。複数の異なる周波数に対し共振回路が設定されるべき場合には(例えば周波数偏位変調(FSK)に対して)、過程が周波数の各々に対し繰り返される。
【0030】
LC回路の構成部分パラメータの老化ドリフト及び温度ドリフトを補償するため、上述の自動式トリミング手順は適切な時間間隔で繰り返される。トリミング手順の第1の呼び出しは、例えば補聴器のスイッチオン後すぐに行うことができる。トリミング手順のそれ以上の呼び出しは、データ伝送のすぐ前に行うことができ、その結果各伝送されるデータに対する正しい周波数設定が保証される。それに代えて、タイマが手順を規則正しい間隔で起動することもできる。
【0031】
さらに、トリミング手順は外部制御指令を介して明確に起動することもできる。制御命令はそのため例えば有線式ないし無線式のプログラミングインタフェース16を介して送られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】補聴器の原理的構成図を示す。
【図2】自己トリミング式の伝送システムを有する補聴器チップの部分の回路図を示す。
【符号の説明】
【0033】
1 補聴器ハウジング
2 マイクロホン
3 信号処理ユニット
4 受話器
5 電池
10 送信回路
11 キャパシタンスマトリックス
12 制御装置
13 トリミングマトリックス操作ユニット
14 ROMレジスタ
15 EEPROM
16 プログラミングインタフェース
17 周波数カウンタ
18 窓コンパレータ
19 シーケンス制御部
L 送信コイル
K コンパレータ
n1 結合点
res 共振コンデンサ
1、C2、…、CX トリミングキャパシタンス
1、S2、…、SX スイッチ
S 電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器(L、Cres)と発振器の発振周波数をトリミングするためのトリミング装置(11、12)とを有する聴取装置において、予め与えられた目標値に依存してトリミング装置を用い発振器の発振周波数を自動的に調節するための調節装置(17、18、19)を有することを特徴とする聴取装置。
【請求項2】
発振器(L、Cres)がLC振動回路を備え、その共振キャパシタンス(Cres)がトリミング装置(11、12)のキャパシタンスマトリックス(11)によってトリミング可能であることを特徴とする請求項1記載の聴取装置。
【請求項3】
調節装置(17、18、19)が、周波数カウンタ(17)、窓コンパレータ(18)及びシーケンス制御ユニット(19)を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の聴取装置。
【請求項4】
LC振動回路の共振コイル(L)が送信及び受信アンテナの作用をすることを特徴とする請求項2記載の聴取装置。
【請求項5】
発振器(L、Cres)の1つ又は複数の回路要素、トリミング装置(11、12)及び調節装置(17、18、19)が共通のチップ上に組み立てられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項6】
発振周波数を調節するための調節装置(17、18、19)に対し最大時間があらかじめ与えられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項7】
発振器(L、Cres)の複数の目標周波数に対するトリミング値が聴取装置のメモリ(15)内に納められ得るようになっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項8】
トリミングを時間的にあらかじめ与えられた間隔で繰り返すために時間制御装置を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項9】
トリミングがデータ伝送の直前に聴取装置から、また聴取装置へトリガされることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項10】
トリミングが外部指令によりトリガ可能であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の聴取装置。
【請求項11】
発振器(L、Cres)を有する聴取装置のデータ処理の制御及び発振器の発振周波数のトリミングにより聴取装置を制御するための方法において、トリミングが、あらかじめ与えられた目標値に依存した発振器の発振周波数の自動調節を含むことを特徴とする聴取装置の制御方法。
【請求項12】
発振周波数を調節するため最大時間があらかじめ与えられていることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
発振器(L、Cres)の複数の目標周波数に対するトリミング値が聴取装置内に蓄積されることを特徴とする請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
トリミングが時間的にあらかじめ与えられた間隔で繰り返されることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
トリミングがデータ伝送の直前に聴取装置から、また聴取装置へトリガされることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
トリミングが外部指令によりトリガされることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−172786(P2008−172786A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511(P2008−511)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(500524671)シーメンス アウディオローギッシェ テヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (23)
【Fターム(参考)】