説明

自動製パン器

【課題】製パン時の焼成工程における加熱効率の向上が図られ、好適な仕上がり具合のパンを得ることが可能な自動製パン器を提供する。
【解決手段】自動製パン器1は、製パン原料が投入されるパン容器5と、加熱手段であるヒータ34を備え且つパン容器5を着脱可能に収容できる焼成室3を有してなる製パン器本体2とを備えるとともに、パン容器5が、その外面に黒色皮膜5bを有している。これにより、パン容器5全体の熱吸収率を均一化、及び吸収作用の向上を図ることができ、さらに遠赤外線の吸収作用を高めることも可能である。また、焼き上がったパンの仕上がりに関しては、その表面のパリパリ感が増したり、こげ色が強くなったりして、パンの食感や見た目の美感といったパンの仕上がり具合を好適にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として一般家庭で使用される自動製パン器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動製パン器は、製パン器本体の内部に加熱手段を備える焼成室を有し、製パン原料を混練して捏ねる回転羽根式の混練手段を備えるパン焼き型としてのパン容器が焼成室に着脱可能に収容される。このような自動製パン器は、混練手段が駆動源であるモータと連結されて回転駆動されるように設けられており、パン容器に製パン原料などの材料を収容して混練し、発酵後に加熱焼成して、調理するものである。自動製パン器を利用すると、一般家庭において比較的簡単にパンを作ることができる。
【0003】
自動製パン器は、製パン原料である小麦粉やイースト、水、卵などをパン容器に入れ、所望の製パンコースを選択することにより、自動的に製パン工程を実行してパンを完成させるようになっている。製パン工程としては、パン生地を混練する捏ね工程、パン生地を発酵させる発酵工程、パン生地のガス抜きを行うガス抜き工程、パン生地の形を整える丸め工程、生地をパンの形にしながら発酵させる成形発酵工程、パンを焼き上げる焼成工程といった工程を実行する。製パン時間は、パンの種類や選択コースにより異なり、およそ2時間から4時間かかる。
【0004】
このようにして、自動製パン器による製パンでは、多くの工程を実行し、長い時間を必要とする。そこで、少しでも時間短縮が図れるような手法が提案され、その自動製パン器を特許文献1〜3に見ることができる。特許文献1〜3に記載された自動製パン器は、好適な温度制御を実行したり、超音波を利用したり、有機酸を含む果皮やドライフルーツなどを投入したりすることにより、パン生地の発酵を促進し、発酵時間を短縮、若しくは省略して、全体としての製パン時間を短縮することを可能にしている。
【特許文献1】特開平7−8388号公報(第2−3頁、第2図)
【特許文献2】特開平10−201634号公報(第3頁、第3図)
【特許文献3】特開平10−234582号公報(第3頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動製パン器における製パン工程では、パン生地の発酵工程が多くの時間を占めているので、特許文献1〜3で見られるように発酵にかかる時間を短縮することは、全体としての製パン時間短縮に対して効果が高い。しかしながら、製パン工程では、発酵工程に加えて、パンを焼き上げる焼成工程も多くの時間を占めている。したがって、パンを焼くのにかかる時間を短縮することができれば、製パン時間をさらに短縮することが可能になる。すなわち、焼成工程における加熱効率の向上が図られた自動製パン器を開発、設計することが求められる。
【0006】
ここで、製パンにおいては、単に加熱効率を高めるだけでは、焼き上がったパンの食感や見た目の美感を損ねる場合がある。したがって、焼成工程の時間短縮を図りながら、できたパンの仕上がり具合に好感がもてるような加熱手法を確立する必要がある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、製パン時の焼成工程における加熱効率の向上が図られ、好適な仕上がり具合のパンを得ることが可能な自動製パン器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、製パン原料が投入される容器と、加熱手段を備え且つ前記容器を着脱可能に収容できる焼成室を有してなる製パン器本体とを備える自動製パン器において、前記容器が、その外面に黒色皮膜を有することを特徴としている。
【0009】
この構成によると、容器全体の熱吸収率を均一化、及び吸収作用の向上を図ることができる。さらに、遠赤外線の吸収作用を高めることも可能である。
【0010】
また本発明は、前記黒色皮膜が、黒色アルマイト処理にて形成されることを特徴としている。
【0011】
この構成によると、容器の、硬度、耐摩耗性、及び耐食性を向上させることができる。
【0012】
また本発明は、前記容器が、天然酵母の生種を熟成させる生種おこし用容器であることを特徴としている。
【0013】
この構成によると、生種おこし用容器内の生種全体が均一に熟成され、且つ加熱効率の向上によって立ち上がり温度が早く熟成時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成によれば、自動製パン器において、パン生地全体に加熱ムラがなく迅速に、且つ十分に熱を伝えることができ、加熱効率を向上させることが可能である。したがって、焼成工程における加熱時間を短縮することができるので、従来の発酵工程の時間短縮に加えて、さらに全体としての製パン時間を短縮することが可能である。そして、焼き上がったパンの仕上がりに関しては、その表面のパリパリ感が増したり、こげ色が強くなったりする。すなわち、パンの食感や見た目の美感といったパンの仕上がり具合を好適にすることができる。
【0015】
また本発明の構成によれば、製パン原料が投入される容器の外面強度が向上して、傷が付き難くなる。これにより、例えばパンを焼き上げた後、熱さのあまり落としてしまうなどといった容器の取り扱いに過ちが生じたとしても、容器外面に対する傷の発生を防止することができる。
【0016】
さらに本発明の構成によれば、天然酵母の生種の熟成期間においても熱の吸収作用の向上を図ることができ、長時間を要する天然酵母を用いたパン作りにて、全体としての製パン時間を短縮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4に基づき説明する。
【0018】
最初に、本発明の第1の実施形態に係る自動製パン器について、図1を用いてその構造を説明する。図1は、自動製パン器の垂直断面右側面図である。
【0019】
自動製パン器1は、図1に示すように、主として、上部に開口を、内部に加熱手段を備える焼成室3を有する製パン器本体2と、この製パン器本体2の上面に載置され、焼成室3の上部開口をカバーする蓋体4と、焼成室3に着脱可能に収容されるパン焼き用の型としての容器で、且つ内部に製パン原料等を攪拌、混練する混練手段6を備えるパン容器5とを備えている。そして、自動製パン器1は、製パン原料を収容したパン容器5を焼成室3内にセットして外方から加熱し、焼成あるいは調理を行うように構成されている。
【0020】
製パン器本体2は、容器形状をなすケース20と、このケース20の内部で焼成室3を構成する槽体30とを備えている。槽体30は、周側壁31と、底壁32とで囲まれた直方体形状をなし、上部開口33を備えている。
【0021】
蓋体4は、製パン器本体2の背面側上部に設けられた軸部41を介して、製パン器本体2に開閉自在に取り付けられている。軸部41はほぼ水平に延び、蓋体4は、この軸部41を軸として回転させることができる。したがって、蓋体4は、自動製パン器1の前方からその前面側を上下することにより、焼成室3の上部開口33を開放、閉塞することができる。
【0022】
蓋体4の前面側上面には、操作表示パネル42が設けられている。操作表示パネル42には、例えばパン製造における小麦パン、米粉パン、具材入りパン、及び天然酵母パン等のパンの種類を選択する各選択キー、選択されたパンの種類に応じて調理内容等の各メニューを設定する調理設定キー、設定された調理内容やタイマーキーによるタイマー予約の時刻等を表示する表示部、さらにスタートキーや取り消しキー等が設けられている(各キー等は図示せず)。使用者は、この操作表示パネル42を利用して、自動製パン器1の製パンコースを選択したり、調理内容を設定したり、製パンのスタート・取り消しなどの指令を送ったりすることができる。
【0023】
一方、焼成室3の内部には、焼成兼用の加熱手段としてのヒータ34が備えられている。ヒータ34は、周側壁31の内側に沿って、例えば環状に形成されて配置されており、パン容器5をヒータ34の内方に収容できるようになっている。また、焼成室3の周側壁31の内側であって、ヒータ34の上方には、焼成室3内部の雰囲気温度(加熱温度)を検出する温度センサ35が設けられている。ヒータ34は、この温度センサ35からの温度情報に基づいて焼成室3内の雰囲気温度を調節するものであって、焼成室3の底壁32から所定高さに配置されている。
【0024】
焼成室3の底壁32には、その中央部に、パン容器5に備えられた混練手段6への動力伝達用の底部開口36が設けられている。底部開口36の周縁部下面には、有底円筒形状の受け部材21が取り付けられている。受け部材21の底部中央部には、さらに下方に延びる筒部22が設けられている。筒部22には、回転軸23が回転可能にして貫通している。回転軸23の上端部には、回転駆動力を伝達するためのクラッチ24が固定されている。
【0025】
パン容器5は、例えば1〜2斤の食パンを焼成できる大きさであるとともに、上面に開口を有する平面矩形をなす容器で、特には角部に丸みをつけた正方体或いは長方体形状をなしている。パン容器5の外底面には、焼成室3の底壁32に設けられた受け部材21の内側に嵌合し、連結する連結部材51が固定されている。また、パン容器5には、図示を省略した提げ手が設けられている。パン容器5自体の詳細な構造については後述する。
【0026】
なお、パン容器5は前記以外の食パンを焼成できる容量の場合もある。また、自動製パン器1がジャム、スープ、シチュー等の料理の調理にも使用できるものである場合、パン容器5が調理容器を兼ねることになる。
【0027】
混練手段6は、パン容器5の底部中央部に設けられている。混練手段6は、回転軸61、混練羽根62、及び従動ギア63を備えている。回転軸61は、パン容器5の内側から外側まで回転自在にして貫通する形で設けられている。混練羽根62は、回転軸61の、パン容器5の内側で上方に突出した箇所に、着脱自在にして取り付けられている。混練羽根62は、回転軸61の回転に従って回転することにより、製パン原料を混練する(混合して捏ねる)。従動ギア63は、回転軸の下端に固定され、パン容器5外底面の連結部材51の内側に収められている。
【0028】
従動ギア63は、パン容器5を焼成室3に収容したとき、焼成室3の底壁32に設けられたクラッチ24と係合して噛み合う。これにより、クラッチ24を回転させる動力が従動ギア63に伝達し、製パン原料を混練するための混練羽根62を回転させることが可能である。
【0029】
そして、ケース20内の下部には、駆動源であるモータ7、駆動プーリ71、従動プーリ72、及び無端ベルト73が備えられている。駆動プーリ71はモータ7の軸部の下端部に、従動プーリ72は回転軸23の下端部に固定され、これら2個のプーリに無端ベルト73が巻き掛けられている。この構成により、モータ7を駆動させると回転軸23を回転させることができ、さらにクラッチ24、従動ギア63、及び回転軸61を介して、混練羽根62を回転させることが可能である。
【0030】
ケース20内の前面側には、マイコンを搭載した制御部8が備えられている。制御部8は、操作表示パネル42や焼成室3内の温度センサ35からの情報を受けて、ヒータ34による加熱や、モータ7や混練手段6による攪拌、混練などを制御しながら、選択したメニューに対応した製パンや加熱調理に係る制御を行うように構成されている。
【0031】
続いて、パン容器5の詳細な構造について、図2を用いて説明する。図2は、自動製パン器に収容されたパン容器の部分拡大垂直断面図である。なお、図2は、図1に示したパン容器5の円Aの部分を拡大して描画している。
【0032】
パン容器5は、アルミ合金で構成され、その側壁部の厚さが0.8mmとなっている。そして、パン容器5の内面は、図2に示すように、フッ素系合成樹脂皮膜5aによるコーティング処理が施されている。一方、パン容器5の外面には、黒色アルマイト処理による黒色皮膜5bが形成されている。
【0033】
このようにしてパン容器5は、その外面に黒色皮膜5bを有することにより、パン容器5全体の熱吸収率を均一化、及び吸収作用の向上を図ることができる。さらに、遠赤外線の吸収作用を高めることも可能である。したがって、パン生地全体に加熱ムラがなく迅速に、且つ十分に熱を伝えることができ、加熱効率を向上させることが可能である。その結果、焼成工程における加熱時間を短縮することができ、全体としての製パン時間をさらに短縮することが可能である。そして、焼き上がったパンの仕上がりに関しては、その表面のパリパリ感が増したり、こげ色が強くなったりする。すなわち、パンの食感や見た目の美感といったパンの仕上がり具合を好適にすることができる。
【0034】
また、黒色皮膜5bが黒色アルマイト処理にて形成されているので、パン容器5の外面強度が向上して、傷が付き難くなる。これにより、例えばパンを焼き上げた後、熱さのあまり落としてしまうなどといったパン容器5の取り扱いに過ちが生じたとしても、パン容器5外面に対する傷の発生を防止することができる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る自動製パン器の詳細な構成について、図3及び図4を用いて説明する。図3は自動製パン器の垂直断面右側面図、図4は自動製パン器に収容された生種おこし用容器の部分拡大垂直断面図である。なお、図4は、図3に示した生種おこし用容器9の円Bの部分を拡大して描画している。また、この実施形態の基本的な構成は、図1及び図2を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、説明は省略するものとする。
【0036】
第2の実施形態に係る自動製パン器1は、図3に示すように、製パン器本体2内部の焼成室3に、製パンの材料になる生種を入れる生種おこし用容器9を着脱可能にして備えている。
【0037】
生種おこし用容器9は、パン容器5(図1参照)より小形の有底円筒形状をなし、上部開口をカバーする蓋部材91を備えている。投入される生種は混練する必要がないので、パン容器5に見られた混練手段6は備えていない。生種おこし用容器9及び蓋部材91は、ともにセラミック(陶器)で構成されている。そして、生種おこし用容器9及び蓋部材91の外面には、黒色皮膜9aが形成されている。
【0038】
このようにして、生種おこし用容器9がその外面に黒色皮膜9aを有することにより、天然酵母の生種の熟成期間において、熱の吸収作用の向上を図ることができる。これにより、長時間を要する天然酵母を用いたパン作りにて、全体としての製パン時間を短縮することが可能である。
【0039】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、自動製パン器全般において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る自動製パン器の垂直断面右側面図である。
【図2】図1のパン容器の部分拡大垂直断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る自動製パン器の垂直断面右側面図である。
【図4】図3の生種おこし用容器の部分拡大垂直断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 自動製パン器
2 製パン器本体
3 焼成室
5 パン容器(容器)
5b 黒色皮膜
9 生種おこし用容器(容器)
9a 黒色皮膜
34 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製パン原料が投入される容器と、加熱手段を備え且つ前記容器を着脱可能に収容できる焼成室を有してなる製パン器本体とを備える自動製パン器において、
前記容器は、その外面に黒色皮膜を有することを特徴とする自動製パン器。
【請求項2】
前記黒色皮膜は、黒色アルマイト処理にて形成されることを特徴とする請求項1に記載の自動製パン器。
【請求項3】
前記容器は、天然酵母の生種を熟成させる生種おこし用容器であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動製パン器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−213608(P2009−213608A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59149(P2008−59149)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】