説明

自動車のカウル構造

【課題】 本発明は、フードの後端縁に加わる衝撃荷重を効率的に吸収できるカウル構造を提供することである。
【解決手段】 本発明に係るカウル構造は、フード40の後端縁43がカウルルーバ30の前端縁に被せられた状態で、そのフード30とカウルルーバ30との間がシール部材36によってシールされる構成の自動車のカウル構造であって、カウルルーバ30の前端縁にはシール部材36が取付けられるシール取付け部35が形成されて、そのシール取付け部35の後方に車幅方向に延びるルーバ縦壁32eが形成されており、フード40は、ルーバ縦壁32eとの間に隙間Sが形成されるように、その後端縁がカウルルーバ30の前端縁に被せられる構成であり、フード40の後端縁43が衝撃荷重Hを受けてシール部材36等を押圧しながら変位する際に、そのフード40の後端縁43がルーバ縦壁32eと干渉しないように、そのルーバ縦壁32eが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードの後端縁がカウルルーバの前端縁に被せられた状態で、そのフードとカウルルーバとの間がシール部材によってシールされる構成の自動車のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウル構造に関しては、いわゆる歩行者保護対策の観点から衝撃吸収の構造について様々な提案がなされている。
特許文献1に記載の自動車のカウル構造では、図4に示すように、カウルルーバ102の前端縁に断面略U字形のフードシール取付け部103が形成されており、そのフードシール取付け部103の前部103fにシール部材105が取付けられている。カウルルーバ102のフードシール取付け部103は、カウルフロントパネル108によって下方から支持されており、そのカウルルーバ102の後端縁はフロントウインド109の下端縁に連結されている。
エンジンルーム用のフード104の後端下面側にはフードインナー104eが設けられており、そのフードインナー104eの部分がカウルルーバ102のシール部材105によって受けられている。この状態で、フード104とカウルルーバ102の前端縁との間がシール部材105によってシールされるとともに、フード104の後端縁104bとカウルルーバ102のルーバ縦壁103xとの間には隙間が形成される。
このカウル構造では、フード104の後端縁104bに対して衝撃荷重(白矢印参照)が加わると、フード104の後端縁104bが衝撃荷重の方向に変位することでフードシール取付け部103の前部103fとカウルフロントパネル108の先端部分とが下方に折り曲げられる。これによって、フード104の後端縁104bに加わった衝撃荷重が吸収される。
【0003】
【特許文献1】特開平11−165654号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記したカウル構造では、フード104の後端縁104bが衝撃荷重の方向に変位すると、そのフード104の後端縁104bがカウルルーバ102のルーバ縦壁103xに引っ掛かるため、前記フード104の変位が妨げられる。このため、フードシール取付け部103の前部103f及びカウルフロントパネル108の先端部分が衝撃吸収性能を有していても、その性能を十分に発揮できなくなるという問題がある。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、フードの後端縁に加わる衝撃荷重を効率的に吸収できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、フードの後端縁がカウルルーバの前端縁に被せられた状態で、そのフードとカウルルーバとの間がシール部材によってシールされる構成の自動車のカウル構造であって、前記カウルルーバの前端縁には前記シール部材が取付けられるシール取付け部が形成されて、そのシール取付け部の後方に車幅方向に延びるルーバ縦壁が形成されており、前記フードは、前記ルーバ縦壁との間に隙間が形成されるように、その後端縁が前記カウルルーバの前端縁に被せられる構成であり、前記フードの後端縁が衝撃荷重を受けて前記シール部材及び前記カウルルーバのシール取付け部を押圧しながら変位する際に、そのフードの後端縁が前記ルーバ縦壁と干渉しないように、そのルーバ縦壁が形成されていることを特徴とする。
【0006】
本発明によると、フードの後端縁が衝撃荷重を受けてシール部材及びカウルルーバのシール取付け部を押圧しながら変位する際に、そのフードの後端縁が前記ルーバ縦壁と干渉することはない。即ち、衝撃荷重の方向にフードの後端縁が変位する際に、そのフードの後端縁がルーバ縦壁に引っ掛って、前記フードの変位が妨げられることがない。このため、シール部材及びカウルルーバのシール取付け部等の衝撃吸収性能が妨げられることがなく、衝撃荷重を受けた時にフードの安定した変位量を確保できる。これによって、フードの後端縁に加わる衝撃荷重を効率的に吸収できるようになる。
【0007】
請求項2の発明によると、フードの後端縁が衝撃荷重を受けて変位する方向に延びる仮想直線と前記ルーバ縦壁の壁面とがほぼ平行になるように、そのルーバ縦壁が形成されていることを特徴とする。
このため、フードの後端縁との干渉を回避できるルーバ縦壁の製作が容易になる。
請求項3の発明によると、シール取付け部は突条状に形成されて、その上面にシール部材が取付けられる構成であり、シール取付け部とルーバ縦壁との間には、車幅方向に延びる溝部が設けられていることを特徴とする。
このように、溝部が設けられていることで、ルーバ縦壁がシール取付け部の変形等の影響を受け難くなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、衝撃荷重を受けた時にフードの後端縁が途中で引っ掛かることがなく、衝撃荷重を効率的に吸収できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施形態1]
以下、図1から図3に基づいて本発明の実施形態1に係る自動車のカウル構造について説明する。ここで、図1は本実施形態に係る自動車のカウル構造を表す縦断面図、図2は前記カウル構造に使用されるカウルルーバの斜視図である。また、図3は本実施形態に係るカウル構造を備える自動車の正面図である。
なお、図中の前後左右及び上下は、自動車の前後左右及び上下に対応している。
【0010】
<自動車のカウル構造>
自動車の前部には、車室HとエンジンルームEとの間を区分するダッシュパネル20(図1参照)が車幅方向に形成されており、そのダッシュパネル20の前端縁20wにカウルインナパネル23の下端縁23dとダッシュフロントパネル25の後端縁25bとが溶接等により固定されている。さらに、カウルインナパネル23の上端縁23uには、車幅方向に延びるカウルトップパネル24の後端縁24bが固定されており、そのカウルトップパネル24によって車室Hのフロントウインド3の下端部が支持されている。
また、ダッシュフロントパネル25の前端縁25sには、棚状のカウルフロントパネル26の後端縁26bが固定されている。カウルフロントパネル26はエンジンルームEの天井部分を構成するとともに、その先端部分26fでカウルルーバ30を下方から支持できるように構成されている。
【0011】
カウルルーバ30は、図1、図3に示すように、フロントウインド3の下端縁を車幅方向全体に亘って覆うとともに、エンジンフード40の後端縁43を下方から支えるパネルである。カウルルーバ30には、図1、図2に示すように、前後方向におけるほぼ中央位置に車幅方向に延びる山部32が形成されており、その山部32の前面側が段差状に形成されたルーバ縦壁32eとなっている。
また、カウルルーバ30の前端縁には、断面略台形状の台座であるシール取付け部35が車幅方向に延びるように形成されており、シール取付け部35の上面35uにゴム製のシール部材36(ウエザーストリップ36)がシール取付け部35に沿って取付けられている。なお、図2ではシール部材36は省略されている。
【0012】
シール部材36は、カウルルーバ30の前端縁と、そのカウルルーバ30の前端縁に被せられるエンジンフード40の後端縁43との間をシールする部材であり、外部からエンジンルームE内に水や異物等が入り込むのを防止している。
カウルルーバ30のシール取付け部35と山部32(ルーバ縦壁32e)との間には車幅方向に延びる略U字形の溝部34が形成されており、その溝部34が前述のカウルフロントパネル26の先端部分26fによって下側から支持されている。
【0013】
エンジンフード40には、図1に示すように、その下面(裏面)側にフードインナー44が固定されている。フードインナー44は、その後端縁が断面略逆台形状に形成されており、その下端面(台形の上底部分)が平坦なシール面44sとなっている。そして、エンジンフード40の後端縁43がカウルルーバ30の前端縁に被せられた状態で、エンジンフード40のシール面44sがカウルルーバ30のシール部材36に面接触するようになる。これによって、カウルルーバ30とエンジンフード40との間がシール部材36によってシールされる。
また、エンジンフード40の後端縁43がカウルルーバ30の前端縁に被せられた状態で、エンジンフード40の表面43uとカウルルーバ30の山部32の上面32uとがほぼ同一面上に位置するとともに、エンジンフード40の後端縁43とカウルルーバ30のルーバ縦壁32eとの間にスリット状の隙間Sが形成される。
【0014】
カウルルーバ30のルーバ縦壁32eは、エンジンフード40の後端縁43が衝撃荷重W(白矢印)を受けてシール部材36及びカウルルーバ30のシール取付け部35を押圧しながら変位する際に、そのエンジンフード40の後端縁43と干渉しないような傾斜角度で形成されている。即ち、エンジンフード40の後端縁43が衝撃荷重Wを受けて変位する方向(矢印参照)に延びる仮想直線Lがルーバ縦壁32eの壁面とほぼ平行になるように、前記ルーバ縦壁32eが形成されている。
即ち、エンジンフード40が本発明のフードに相当する。
【0015】
<本実施形態に係る自動車のカウル構造の作用>
次に、図1に基づいて、エンジンフード40の後端縁43に対してほぼ直角方向から衝撃荷重Wが加わった場合にカウルルーバ30等が変形する様子について説明する。
エンジンフード40の後端縁43に対して衝撃荷重Wが加わると、エンジンフード40の後端縁43は潰れながら矢印方向に変位し、シール部材36及びカウルルーバ30のシール取付け部35を下方に押圧する。前述のように、エンジンフード40の後端縁43の変位方向を表す仮想直線Lはルーバ縦壁32eの壁面とほぼ平行であり、さらにエンジンフード40の後端縁43とルーバ縦壁32eとの間にはスリット状の隙間Sが形成されている。このため、エンジンフード40の後端縁43が衝撃荷重Wにより下後方に変位しても、その後端縁43がルーバ縦壁32eに引っ掛かるようなことがない。
エンジンフード40の後端縁43がシール部材36及びカウルルーバ30のシール取付け部35を下方に押圧すると、そのシール取付け部35が潰れるとともに、カウルルーバ30及びそれを支えるカウルフロントパネル26が下方に曲げられるように変形する(二点鎖線参照)。このように、エンジンフード40の後端縁43等が潰れるとともに、カウルルーバ30及びカウルフロントパネル26が下方に変形することで、衝撃荷重Wが吸収されるようになる。
【0016】
このとき、カウルルーバ30のルーバ縦壁32eは後方に倒れる方向に変形するため(二点鎖線参照)、カウルルーバ30の変形過程でルーバ縦壁32eがエンジンフード40の後端縁43とが干渉することはない。
このように、エンジンフード40の後端縁43が衝撃荷重Wの方向に変位する際に、エンジンフード40がルーバ縦壁32eに引っ掛るようなことがないため、シール部材36、カウルルーバ30及びカウルフロントパネル26等の衝撃吸収性能が妨げられることがない。したがって、衝撃荷重Wを受けた時にエンジンフード40の安定した変位量を確保でき、エンジンフード40の後端縁43に加わる衝撃荷重Wを効率的に吸収できるようになる。
また、ルーバ縦壁32eの壁面をエンジンフード40の後端縁43の変位方向を表す仮想直線Lとほぼ平行にする方式のため、ルーバ縦壁32eの製作も容易になる。
また、シール取付け部35は突条状に形成されて、その上面35uにシール部材36が取付けられる構成であり、シール取付け部35とルーバ縦壁32eとの間には車幅方向に延びる溝部34が設けられている。このように、溝部34が設けられていることで、ルーバ縦壁32eがシール取付け部35の変形等の影響を受け難くなる。
【0017】
<自動車のカウル構造の変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、シール取付け部35と山部32(ルーバ縦壁32e)等とが一体構造のカウルルーバ30を使用する例を示したが、シール取付け部35を全体的あるいは部分的に取外し可能に構成されたカウルルーバを使用することも可能である。
また、シール取付け部35と山部32(ルーバ縦壁32e)との間に溝部34が設けられたカウルルーバ30を使用する例を示したが、溝部34がない構成のカウルルーバを使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る自動車のカウル構造を表す縦断面図である。
【図2】前記カウル構造に使用されるカウルルーバの斜視図である。
【図3】前記カウル構造を備える自動車の正面図である。
【図4】従来の自動車のカウル構造を表す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
L 仮想直線
30 カウルルーバ
32e ルーバ縦壁
34 溝部
35 シール取付け部
36 シール部材
40 エンジンフード(フード)
43 後端縁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードの後端縁がカウルルーバの前端縁に被せられた状態で、そのフードと前記カウルルーバとの間がシール部材によってシールされる構成の自動車のカウル構造であって、
前記カウルルーバの前端縁には前記シール部材が取付けられるシール取付け部が形成されて、そのシール取付け部の後方に車幅方向に延びるルーバ縦壁が形成されており、
前記フードは、前記ルーバ縦壁との間に隙間が形成されるように、その後端縁が前記カウルルーバの前端縁に被せられる構成であり、
前記フードの後端縁が衝撃荷重を受けて前記シール部材及び前記カウルルーバのシール取付け部を押圧しながら変位する際に、そのフードの後端縁が前記ルーバ縦壁と干渉しないように、そのルーバ縦壁が形成されていることを特徴とする自動車のカウル構造。
【請求項2】
請求項1に記載された自動車のカウル構造であって、
前記フードの後端縁が前記衝撃荷重を受けて変位する方向に延びる仮想直線と前記ルーバ縦壁の壁面とがほぼ平行になるように、そのルーバ縦壁が形成されていることを特徴とする自動車のカウル構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された自動車のカウル構造であって、
前記シール取付け部は突条状に形成されて、その上面に前記シール部材が取付けられる構成であり、
前記シール取付け部とルーバ縦壁との間には、車幅方向に延びる溝部が設けられていることを特徴とする自動車のカウル構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−22426(P2007−22426A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209949(P2005−209949)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】