説明

自動車のフェンダパネル支持構造

【課題】横方向の荷重に対してフェンダパネルを安定に支持し、上方からの衝突荷重に対して変形容易で衝撃を吸収できるフェンダパネル支持構造を提供すること。
【解決手段】車内側面上縁のエプロンアッパメンバ2の上面24に、相対向する脚部31,31と、上面部30とからなる断面ほぼハット形で、脚部31の上半部31aの剛性を下半部31bよりも低くしたブラケット3を脚部31,31が前後位置となるように立設し、ブラケット3の上面部30にフェンダパネル1の上端部10を固定支持せしめたフェンダパネル支持構造において、ブラケット3の両脚部31,31の下半部32b,32bの車内側の側縁間に平板帯状の補強部材4をその板面40が縦面をなすように架けわたし、かつ補強部材4によりエプロンアッパメンバ2とフェンダパネル1の上端部10との車内側の隙間を覆い隠すカバー部材5を固定支持せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフェンダパネルの上端部を、上方からの衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケットを介してエンジンルームの側面上縁部のエプロンアッパメンバに支持せしめたる自動車のフェンダパネル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体のフェンダパネルの支持構造は、歩行者保護対策の観点から、エンジンルームの側面上縁部のエプロンアッパメンバの上面に、上方から作用する衝突荷重に対して衝撃吸収機能を有する複数のブラケットを設け、これらブラケットを介してフェンダパネルの上端を支持することが行われている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
図3、図4は上記支持構造に用いる従来のブラケットの一例を示し、ブラケット3Aは断面ほぼハット形の金属板からなり、相対向する脚部31,31と、これら31,31の上端を水平方向につなぐ上面部30を備え、ブラケット3Aには脚部31,31の上半部にそれぞれ抜き穴39,39が設けられ、上方から作用する衝突荷重に対して潰れ変形するように構成されている。尚、ブラケット3Aはフェンダパネル1の上端が比較的高い位置に設定されたミニバンやSUVタイプの自動車の支持構造に用いるもので高さ寸法が乗用車等に比べて比較的高くなっている。
【0004】
ブラケット3Aは両側の脚部31,31を前後位置としてこれらの下端に形成したフランジ35,35をエプロンアッパメンバ2の上面に溶接結合して設置され、フェンダパネル1の上端から屈曲して車内側へ張り出した上端部10をブラケット3の上面部30に重ね合わせて、ネジ部材Nにより締結している。これによれば、歩行者と車両とが衝突して上方より歩行者の頭部や肩がフェンダパネル1の上端に衝突してフェンダパネル1の上端に上方から衝突荷重が作用したような場合、ブラケット3Aは各抜き穴39を形成した脚部31,31の上半部が潰れ変形して上記衝突荷重を吸収緩和する。
【0005】
またミニバンやSUVタイプの自動車では、フェンダパネルの上端部とエプロンアッパメンバとの隙間幅が大きいので、エンジンフードを開いたときに該隙間やブラケットが露見するのを防ぐため、これらを覆い隠すカバー部材を設け、フェンダパネルの上端部や、ブラケットに形成した取付座により固定支持せしめている。
【0006】
ところで、このようなミニバンやSUVにおいては上述の如く隙間が大きい故に、ブラケット3Aの脚部31,31は、車体横側から作用する荷重に対して支持剛性が充分とはいえない。例えば、洗車時のワックス掛けなどで作業者がフェンダパネル1の上端付近を横方向から車内側へ押すと(図4の白矢印F)、この荷重によりブラケット3の両脚部31,31が、これらの前後の間隔、特に車内側の側縁の間隔が広げられるように撓み、フェンダパネル1の上端付近が車幅方向にぐらぐらして安定感がないといった問題があった。
【0007】
そこでブラケット3Aの両脚部31,31および上面部30の車内側の側端縁全長にわたって、これらの側端縁から屈曲してブラケット内方向へ突出する補強フランジ38(図3の仮想線)を形成して、横方向の荷重に対するブラケット3の剛性を強化することが考えられるが、これではブラケット3A全体の剛性が強化されるので、上方からの衝突荷重に対する衝撃吸収性能が低下する。
【0008】
下記特許文献3に記載されたフェンダパネル支持構造では、ブラケットの両脚部間の上下中間位置に板状の補強部材を、板面を水平面として架けわたし、かつ補強部材にはその中間部に脆弱部を形成し、フェンダパネルに受けから作用するする衝突荷重が所定以上のときに両側へ広がろうとする脚部の引っ張り力により上記脆弱部が破断、変形し、ブラケット全体が下方へ圧縮されて衝撃を吸収する構造としている。
【特許文献1】特開2002−178953号公報
【特許文献2】特開2003−118639号公報
【特許文献3】特開2005−329874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載のブラケットでは、その高さ寸法が大きいと、上部に横方向から荷重が作用すると補強部材に捩じれが生じ、横方向の荷重に対する剛性が充分とはいえない。そこで本発明は、上方からの衝突荷重に対する衝撃吸収性能を充分に発揮でき、かつ横方向の荷重に対してはフェンダパネルを安定に支持する自動車のフェンダパネル支持構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自動車のエンジンルームの側面上縁に沿って前後方向に延びるエプロンアッパメンバの上面に、相対向する脚部と、これらの上端間を水平につなぐ上面部とからなる断面ほぼハット形で、上記両脚部の上半部の剛性を下半部よりも低く設定したブラケットを上記両脚部が前後位置となるように立設し、該ブラケットの上面部にフェンダパネルの上端部を固定せしめた自動車のフェンダパネル支持構造において、上記ブラケットの上記両脚部の下半部の車内側の側縁間に、平板帯状の補強部材をその板面が縦面をなすように架設する。かつ上記補強部材に、上記フェンダパネルの上端部と上記エプロンアッパメンバの隙間を覆うカバー部材を固定支持せしめる(請求項1)。ブラケットの両脚部の下半部の車内側の側縁間に板面を縦面とする補強部材を設けたので、横方向からブラケットに作用する荷重に対してブラケットの車内側の側縁は変形せず、ブラケットは横方向の荷重に対して安定である。上方からの荷重に対してはブラケットの上半部が変形して衝撃を緩和する。また、補強部材はカバー部材の取付座として利用することができる。
【0011】
上記補強部材はその両端にほぼ直角に屈曲する屈曲端部を有し、エンジンルーム内に面する板面を上記両脚部の車内側の側縁と面一として上記両屈曲端部を上記両脚部の対向面に結合する(請求項2)。 上記補強部材に取付孔を設け、該取付孔に上記カバー部材を貫通する係止手段を圧入係止してカバー部材を上記補強部材に固定支持せしめる(請求項3)。補強部材の板面をブラケットの車内側の側縁と面一に設定することで、カバー部材は補強部材に重ね合わせて容易に固定することができる。固定はクリップなどの係止手段により作業性容易になされ得る。
【0012】
上記脚部の上半部に、断面ほぼく字形に屈曲する屈曲部を形成する(請求項4)。上記脚部の上半部に、抜き穴を形成する(請求項5)。屈曲部または抜き穴をもうけたので、上方からの衝突荷重により両脚部の上半部が潰れ変形し、衝撃吸収性能を充分に発揮できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフェンダパネル支持構造によれば、上方からの衝突荷重に対する衝撃吸収性能を充分に発揮でき、かつ横方向の荷重に対してはフェンダパネルを安定に支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2に示すミニバンやSUVタイプの自動車のフェンダパネル支持構造に本発明を適用した実施形態を説明する。本実施形態のフェンダパネル支持構造は、車体のエンジンルームの側面をなすエプロンパネル20の上縁に沿って前後方向に設置されたエプロンアッパメンバ2の上面の前後2カ所にブラケット3,3を立設し、これらブラケット3,3でフェンダパネル1の上端部10を固定支持し、かつフェンダパネル1の上端部10とエプロンアッパメンバ2との隙間および両ブラケット3,3をカバー部材5で覆い隠す構成としてある。図中、29はエンジンルームの側面のサスペンションタワーである。
【0015】
以下、図1に基づいて前側のブラケット3を中心に本実施形態のフェンダパネル支持構造の詳細を説明する。フェンダパネル1の上端は、車体の側面を形成する縦壁状の一般部から緩やかに車体の上方かつエンジンルーム側へ湾曲状に延び、その上端縁から下方へ折り返した縦壁と、該縦壁の下縁から屈曲して車内側へほぼ水平に張り出すフランジ状の上端部10が形成してある。上端部10の車内側の端縁には浅い断面ほぼ逆U字形で、下向きに開いたビードが形成してある。
【0016】
エプロンアッパメンバ2は車体の骨格部材で、断面ほぼL字状のアウタパネル21と断面ほぼ逆L字状のインナパネル22からなり、両パネル21,22の上縁同士および下縁同士を結合して断面ほぼ四角形状の閉断面構造をなす。
【0017】
ブラケット3は金属板からなるプレス成形品で、断面ほぼハット形をなし、相対向する脚部31,31と、これらの上端間をつなぐ平板状の上面部30と、両脚部31,31の下端からそれぞれ屈曲して外側へ突出する結合フランジ35,35とを備えている。
【0018】
ブラケット3は、両脚部31,31をエプロンアッパメンバ2の延在方向に沿って前後位置に配し、結合フランジ35,35をエプロンアッパメンバ2の上面24に重ね合わせて溶接してある。エプロンアッパメンバ2の上面24からブラケット3の上面部30までの高さ寸法は、セダン等の自動車に用いるブラケットでは40mm程度であるの対し、本ブラケット3は60mm程度と高く設定してある。上面部30の前後位置には、これを貫通して上面部30の裏面側にウェルドナットを備えた前後一対のネジ穴300,300が形成してある。
【0019】
ブラケット3の脚部31,31は、上面部30の前後両側の端縁からそれぞれ屈曲して斜め下方へ延出して互いにハ字状に対向し、屈曲部34,34を経てほぼ垂直下方へ延びるく字形の上半部31a,31aと、上半部31a,31aを延長するように下方へ延び、下方へ向けて若干幅が広くなる下半部31b,31bとからなる。
【0020】
両脚部31,31にはこれらの下半部31b,31b間に補強部材4が架設してある。補強部材4は平板帯状の金属板からなり、その幅寸法は脚部31,31全体の高さ寸法の3分の1ないし5分の2程度に設定してある。補強部材4の両端部にはそれぞれ車外側へほぼ直角に屈曲せしめた屈曲端部からなる結合フランジ41,41が形成してある。補強部材4は、板面40が幅方向に縦面となるように、かつエンジンルーム内に面する板面40を両脚部31,31の車内側の側縁と面一となるように、両端の結合フランジ41,41をそれぞれ各脚部31,31の下半部の対向面に重ね合わせて溶接してある。
【0021】
補強部材4には板面40の前後中間位置に、フェンダパネル1とエプロンアッパメンバ2との隙間およびブラケット3を覆い隠す上記カバー部材5取付用の角形の取付穴42が形成してある。
【0022】
そして、エプロンアッパメンバ2の上面24に立設したブラケット3にはその上面部31に上方からフェンダパネル1の上端部10を重ね合わせて前後のネジ穴300に上方からフェンダパネル1の上端部10を貫通するボルト部材N(図2)を締結して、ブラケット3でフェンダパネル1の上端部10を支持せしめる。尚、前側のネジ穴300にはフェンダパネル1の上端部10とともに図略のヘッドランプステーを共締めする。フェンダパネル1の上端部10の後端も同様にエプロンアッパメンバ2の上面24後端に立設した後方のブラケット3(図2)に支持される。後方のブラケット3は一本のボルト部材Nで締結してある。
【0023】
カバー部材5は前後方向に延びる合成樹脂板で、その上下幅寸法を上記フェンダパネル1とエプロンアッパメンバ2との隙間およびブラケット3の高さ寸法よりも若干大きくしてある。カバー部材5はその上縁をフェンダパネル1の上端部10の上記ビードに下方から挿入し、カバー部材5の背面下端をエプロンアッパメンバ2の車内面の上端に重ね合わせて上記隙間を覆うとともにブラケット3を覆い隠し、ブラケット3の補強部材4の車内側の板面40にカバー背面を重ね合わせてある。そして、上記ブラケット3の角穴42とこれに対応してカバー部材5に設けた取付部51の貫通穴52に係止手段たるクリップ50(図2)を車内側から圧入係止してブラケット3に設けた補強部材4でカバー部材5を支持せしめる。カバー部材5の後端も同様、後方のブラケット3に支持される。
【0024】
本実施形態によれば、フェンダパネル1の上縁に歩行者の頭部や肩などが当たって衝突荷重が作用した場合、ブラケット3のく字形の脚部31,31の上半部31a,31aが潰れ変形して荷重を吸収し衝撃が緩和される。また下半部31b,31bには両脚部31,31間を架けわたす補強部材4を設け、かつ補強部材4の板面40を縦面として、脚部31,31の車内側の側縁間に設けたから、両脚部31,31の車内側の側縁が広がり変形するのが確実に防止され、ブラケット3に車外側から横方向に荷重が加えられてもブラケット3が車内側へ捩じれ変形せずフェンダパネル1の上端部10を安定に支持する。
【0025】
また、補強部材4はその板面40を縦面とし、かつブラケット3の脚部31,31の車内側の側縁と面一に設けたから、カバー部材5をこれに重ね合わせて容易に固定支持することができる。
【0026】
本実施形態のブラケット3では、上方からの衝撃荷重で潰れやすいように前後両脚部31,31の上半部に屈曲部34を設け断面ほぼく字形に形成したが、これに限らず、各脚部31,31の上半部に上記衝撃荷重で潰れやすいように従来構造と同様に抜き穴39(図3を参照。)を形成してもよい。この場合、ブラケット3の上面部30へのフェンダパネル1の上端部10の締め付け時にブラケット3が捩じれないように穴径を設定する必要がある。この点、上記捩じれの心配のない屈曲部34を設けることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のフェンダパネル支持構造の要部を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用したミニバンやSUVタイプの自動車のフェンダパネル支持構造を示す全体斜視図である。
【図3】図1に対応する従来のフェンダパネル支持構造の要部斜視図である。
【図4】従来のフェンダパネル支持構造の概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 フェンダパネル
10 上端部
2 エプロンアッパメンバ
24 エプロンアッパメンバの上面
3 ブラケット
30 上面部
31,31 脚部
31a,31a 上半部
31b,31b 下半部
34 屈曲部
4 補強部材
40 板面
5 カバー部材
50 クリップ(係止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジンルームの側面上縁に沿って前後方向に延びるエプロンアッパメンバの上面に、相対向する脚部と、これらの上端間を水平につなぐ上面部とからなる断面ほぼハット形で、上記両脚部の上半部の剛性を下半部よりも低く設定したブラケットを上記両脚部が前後位置となるように立設し、該ブラケットの上面部にフェンダパネルの上端部を固定せしめた自動車のフェンダパネル支持構造において、
上記ブラケットの上記両脚部の下半部の車内側の側縁間に、平板帯状の補強部材をその板面が縦面をなすように架設し、
かつ上記補強部材に、上記フェンダパネルの上端部と上記エプロンアッパメンバの隙間を覆うカバー部材を固定支持せしめたことを特徴とする自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項2】
上記補強部材はその両端にほぼ直角に屈曲する屈曲端部を有し、エンジンルーム内に面する板面を上記両脚部の車内側の側縁と面一として上記両屈曲端部を上記両脚部の対向面に結合した請求項1に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項3】
上記補強部材に取付孔を設け、該取付孔に上記カバー部材を貫通する係止手段を圧入係止してカバー部材を上記補強部材に固定支持せしめた請求項1に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項4】
上記脚部の上半部に、断面ほぼく字形に屈曲する屈曲部を形成した請求項1ないし3のいずれかに記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項5】
上記脚部の上半部に、抜き穴を形成した請求項1ないし3のいずれかに記載の自動車のフェンダパネル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−283941(P2007−283941A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114640(P2006−114640)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】