説明

自動車の下部車体構造

【課題】 排気サイレンサの過度の上方変位に伴う損傷を防止すると共に、車両後方衝突の際のリアサイドフレームの衝突吸収性能の低下を抑制する。
【解決手段】 リアサイドフレーム1の側面1cの後端にストッパ部材13が設けられている。このストッパ部材13は、上方に延びる一対の脚14a、14bを備え、前側の脚14bは前方に向けて湾曲した湾曲部18と斜め上方又は水平方向に延びる取付部19を備えている。車両が例えば段差を乗り越えてバンプしたときに、ストッパ部材13が路面と干渉して排気サイレンサ5が過度に上方に変位するのを防止する。また、車両後方衝突の際の入力によって湾曲部18が弱退部となってストッパ部材13の前側の脚14bが折れる又は屈曲することにより、このストッパ部材13をリアサイドフレーム1に取り付けたことに伴ってリアサイドフレーム1の衝突吸収性能が阻害されるのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の下部車体構造に関し、より詳しくは車体の後端部に配設される排気サイレンサに関連した構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、特許文献1に開示のように、排気ガスの排出音を下げるための排気サイレンサが車両の後端に、上下に変位可能に支持されており、走行路面の段差などを乗り越えたときに排気サイレンサが路面と干渉しても排気サイレンサが上方に逃げることで排気サイレンサの損傷を防止するようになっている。
【特許文献1】特開2000−255456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、排気サイレンサが大きく上方に変位したときに車両のリアフロアなどど衝突したときには、これにより排気サイレンサが損傷を受けてしまう可能性がある。
【0004】
特に、車両の衝突吸収性能を高めるために、車両の前後方向に真っ直ぐに延びるストレートフレーム構造を採用したときに、排気サイレンサをリアサイドフレームの下方に配置せざるを得ない場合には、排気サイレンサの上方への変位量を大きくとることが難しくなることから、排気サイレンサが過度に上方に変位してリアサイドフレームと衝突してしまう可能性が大きくなる。
【0005】
これに対して、排気サイレンサが上方に過度に変位しないように、排気サイレンサが上方に変位してリアサイドフレームと衝突する前に路面などと干渉して排気サイレンサの更なる上方への変位を規制するストッパ部材をを設けることが考えられる。そして、このストッパ部材の取り付けは、強度部材としてリアサイドフレームに対して行うのが好適である。
【0006】
しかし、リアサイドフレームに、剛性部材であるストッパ部材を取り付けたときには、確かに、排気サイレンサの過剰な上方への変位を規制するには好ましい構成となるが、車両の後方衝突の際のリアサイドフレームの座屈による衝突吸収性能が、ストッパ部材によって低下してしまう虞がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、排気サイレンサの上方への過度な変位を抑えて排気サイレンサが損傷してしまうのを防止しつつ、車両の後方衝突に伴うリアサイドフレームの初期の衝撃吸収性能の低下を抑制することのできる自動車の下部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題は、請求項1の発明によれば、
車体前後方向に延びる左右一対のリアサイドフレームを備えたリアフロアの後端の下方に排気サイレンサが配設された自動車の下部車体構造において、
前記リアサイドフレームに、上下方向に延びるストッパ部材が取り付けられ、
該ストッパ部材は、前記排気サイレンサが外的物体との干渉により上方に所定距離変位したときに、前記ストッパ部材が前記外的物体と干渉して前記排気サイレンサの更なる上方への変位を規制する剛性を備えると共に、車体下方からの荷重の入力に比較して車体後方からの荷重の入力に対して変形容易に構成されていることを特徴とする自動車の下部車体構造を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
上記の請求項1の発明によれば、排気サイレンサが上方に過度に変位して車体構成部材と衝突するのをストッパ部材によって防止できることは勿論であるが、ストッパ部材が車体後方側からの入力によって変形容易であることから、車両の後方衝突によるリアサイドフレームの衝突吸収性能をストッパ部材によって阻害してしまうのを防止することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明を前提として、リアサイドフレームが、フロントサイドフレームから直線状に延びる構造であり、該リアサイドフレームの下方に排気サイレンサが配設されていることから、ストレートフレーム構造によって車体の衝突吸収性能を向上しつつ、リアサイドフレームの下方に配置した排気サイレンサが上方変位してフロントサイドフレームと衝突することにより排気サイレンサが損傷を受けるのを防止することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明を前提として、ストッパ部材が車幅方向から側面視したときに略U字状の部材からなるため、ストッパ部材は下方に延びる細長い脚が形成されることになり、これを車体前後方向に広がりを備えた部材で構成した場合に比べて、車体後方からの衝突荷重に対して変形がし易くなるという利点がある。
【0012】
請求項4の発明によれば、請求項3の発明を前提として、略U字状の部材からなるストッパ部材の上方に向けて延びる一対の脚の上端がリアサイドフレームの側面に取り付けられ、該一対の脚のうち、少なくとも一方の脚の上端部には、車体前後方向に湾曲した形状の湾曲部と、該湾曲部に隣接して前記脚の端側に位置して水平又は傾斜して延びる取付部とを有し、該取付部が前記リアサイドフレームの側面に連結されていることから、例えばストッパ部材をパイプ材を折り曲げることにより作ることができるため、ストッパ部材の生産性を高めることができる。このことに加えて、上記の湾曲部は車体後方からの入力に対して弱退部を構成することになるため、簡単な構造でありながら、車両の後方衝突によるリアサイドフレームの衝突吸収性能をストッパ部材によって阻害してしまうのを防止することができる。
【0013】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明を前提として、上から見たときに、リアサイドフレームの全幅が排気サイレンサとオーバラップしており、ストッパ部材は、排気サイレンサの後方の車体後端の近傍に配設され、上記ストッパ部材の一対の脚のうち、車体前方側の脚が、車体前方に向けて湾曲した前記湾曲部と、該湾曲部から車体前方側に延びる前記取付部とを有することから、車両の後端部に配設される排気サイレンサと車両の後端との間の距離が短くても、ストッパ部材を車両の後端近傍に配設することができる。そして、車両の後端近傍にストッパ部材を配設することにより、例えば段差を乗り越えて車両の後端が下方に沈み込んだときに排気サイレンサが路面と干渉して過度に上方に変位してリアサイドフレームに衝突して損傷を受けるのを的確に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
自動車の下部車体構造を示す図1〜図4において、図1は車体後方から見た斜視図であり、図2は車体中心から見た側面図であり、図3は下方から見た図であり、図4は図2の矢印IV−IV線に沿った断面図である。これら図面に図示の参照符号1は、車体前後方向に延びる左右一対のリアサイドフレーム(一方のみを図示)を示す。
【0016】
各リアサイドフレーム1は、その前端がフロントサイドフレーム(図示略)に直線状に連なっている。すなわち、図示の車両はストレートフレーム構造を備えており、リアサイドフレーム1とフロントサイドフレームとの境界部分にクロスメンバ2が接続されている。リアサイドフレーム1の上のリアフロア3の後端はリアエンドパネル4に接合されている。図1の参照符号4aはバックドア用の開口を示す。
【0017】
前記リアサイドフレーム1の下方には、図1、図2に示すように、リアフロア3の後端部下方において排気サイレンサ5が配設されている。この排気サイレンサ5は、車幅方向に幅広の偏平形状を有し、排気サイレンサ5の車体前方側の壁面から前方に延出する排気入口6と、車体後方側の壁面から後方に延出する排気出口7とを有する。従来と同様に、車体前部のエンジンルームに搭載されたエンジン(図示せず)から後方に延びる排気管8が排気サイレンサ5の排気入口6に接続され、他方、排気サイレンサ5の排気出口7にはテールパイプ9が一体又は別体に設けられて、このテールパイプ9から排気ガスが放出される。
【0018】
排気サイレンサ5は、図1〜図3に示すように、リアサイドフレーム1に弾性的に支持されている。すなわち、排気サイレンサ5には複数の支持ロッド10が設けられ、その各支持ロッド10は、リアサイドフレーム1に設けられる支持部材11に対してゴム製の連結具12を介して連結されており、これにより、排気サイレンサ5は、上下に変位可能に吊り下げられた状態でリアサイドフレーム1に取り付けられている。
【0019】
リアサイドフレーム1に対して車幅方向に幅広の排気サイレンサ5は、図4から最も良く理解できるように、排気サイレンサ5はリアサイドフレーム1の真下に配設されている。より詳しくは、排気サイレンサ5の車幅方向内側の側面がリアサイドフレーム1の車幅方向側面内側の側面とほぼ共通の鉛直面上に位置し、排気サイレンサ5の車幅方向外側の側面がリアサイドフレーム1の車幅方向外側の側面よりも車幅方向外方に位置している。すなわち、リアサイドフレーム1と排気サイレンサ5の配置関係は、リアサイドフレーム1を平面視したときに排気サイレンサ5とほぼ完全にオーバーラップした状態となっている。排気サイレンサ5は、また、図2から最も良く理解できるように、その後端壁5bが車両の後端から僅かな距離Lを隔てて位置するように、車両の後端近傍に配設されている。
【0020】
前記リアサイドフレーム1の車幅方向内側の側面1cには、図1〜図4から理解できるように、ストッパ部材13が取付けられている。ストッパ部材13は、金属製板材から作られている。ストッパ部材13は、その上端部に車体前後方向に離間した一対の脚14a、14bと、前後の脚14a、14bの下端から下方に延びる本体15とを有する。
【0021】
ストッパ部材13の後側の脚14aは、鉛直方向に真っ直ぐに延びる形状を有し、その上端が1本の締結具(ボルト、ナット)17によってリアサイドフレーム1の側面1cの後端部に連結されている。このように、ストッパ部材13の後側の脚14aを真っ直ぐに下方に延びる形状にしたため、ストッパ部材13を車両の後端に隣接して配置することができる。したがって、排気サイレンサ5を車両の後端の近くに配設して、この排気サイレンサ5から車両の後端までの距離が小さな車両であっても、図2から理解できるように、排気サイレンサ5の後面5bよりも後方にストッパ部材13を配設することができるという利点がある。
【0022】
他方、ストッパ部材13の前側の脚14bは、その上端部が、前方に湾曲した形状の湾曲部18と、湾曲部18から斜め前方に傾斜して延びる取付部19とを有し、この前側の脚14bの上端取付部19が2本の締結具(ボルト、ナット)によってリアサイドフレーム1の側面1cに連結されている。
【0023】
ストッパ13の上下長さは、ストッパ13の下端が排気サイレンサ5の下端よりも若干上方に位置するように設定される。より詳しくは、排気サイレンサ5が上方に変位して排気サイレンサ5の上面5a(図2)がリアサイドフレーム1の下面と衝突したときの排気サイレンサ5の下端位置よりストッパ13の下端が若干下方に位置するように設定される。すなわち、ストッパ部材13の下方への延び量(突出量)は、例えば走行路面の段差と干渉して排気サイレンサ5が上方に変位した場合に、リアサイドフレーム1に当接する直前の所定距離hだけ上方に変位したときにストッパ部材13の下端が路面の段差と干渉するように設定されている。
【0024】
ストッパ部材13は、車体前後方向に離間して鉛直方向下方に延びる一対の脚14a、14bを備えていることから上方への入力に対して剛性を有する。したがって、例えば自動車が段差を乗り越えるときに排気サイレンサ5が例えば路面の段差と干渉して上方に変位したとしても、排気サイレンサ5がリアサイドフレーム1の下面と衝突する前にストッパ部材13の下端が路面の段差と干渉することにより排気サイレンサ5の更なる上方への変位を規制することができる。したがって、排気サイレンサ5がリアサイドフレーム1の下面と衝突して損傷を受けるのを防止することができる。
【0025】
特に、実施例のように、衝突性能を向上するためにストレートフレーム構造を採用した車両を設計するときに、リアサイドフレーム1の真下に排気サイレンサ5を配設せざるを得ない場合には、走行中に外的物体と干渉して排気サイレンサ5が上方に変位してリアサイドフレーム1の下面と衝突してしまうのをストッパ部材13によって防止することができる。
【0026】
また、実施例のように、排気サイレンサ5の後方且つ隣接してストッパ部材13を配設したことにより、車両が段差を乗り越えて車両の後端がバンプして沈み込んだときに車体の後端近傍に位置するストッパ部材が路面と衝突して排気サイレンサ5が過剰に上方に変位することを防止することができる。
【0027】
また、ストッパ部材3の前側の脚14bに湾曲部18を設けたことにより、車両の後突時にリアサイドフレーム1が座屈すると共にストッパ部材3の湾曲部18が弱体部を構成して、下方からの荷重入力に比べて、当該湾曲部18が容易に折れる又は変形することからリアサイドフレーム1の衝突吸収性能をストッパ部材3によって阻害することを防止することができる。このことは、実施例のように衝突吸収性能に優れたストレートフレームを採用したときには、ストッパ部材3を設けたとしてもストレートフレームの衝突吸収性能を損なうことを防止することができるため、特に好ましいと言える。また、例えば、車両を後退させているときに、路面の障害物とストッパ部材13とが干渉してストッパ部材13の下端が強制的に前方に押し付けられるとストッパ部材13の湾曲部18が折れる又は折り曲がることから、ストッパ部材13を介してリアサイドフレーム1に大きな衝撃力が入力してしまうのを防止することができる。
【0028】
特に上記の実施例においては、前述した如く、前側の脚14bが2本の締結具20を使ってリアサイドフレーム1に固定されていることから、前側の脚14bの取付部19を図示の実施例のように水平から約45度傾斜している場合には、この取付部19の回動を確実に規制することができ、これにより、車体後方側からの入力によって容易に脚14bの湾曲部18を折る又は折り曲げる特性を付与することができる。
【0029】
図5は第2実施例を示す。この第2実施例において、前記第1実施例と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。この第2実施例においては、ストッパ部材13が金属製パイプを折り曲げることにより略U字状に作られており、前後の脚14a、14bの上端部は、夫々、偏平に潰されてリアサイドフレーム1の側面1cに沿った取付面が形成されている。特に、前側の脚14bは、取付部19が水平方向に延びており、この取付部19は1本の締結具20でリアサイドフレーム1に連結されている。この第2実施例にあっては、ストッパ部材13を作るのに、基本的には、パイプ材を単に折り曲げ加工するだけで製造することができるためストッパ部材13の生産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施例の下部車体構造を車体後方側から斜め上方に見た斜視図である。
【図2】第1実施例の下部車体構造を車体内方側から側方に向けて見た側面図である。
【図3】第1実施例の下部車体構造の要部を下方から見た図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】第2実施例に関連した下部車体構造を斜め下方から見た図である。
【符号の説明】
【0031】
1 リアサイドフレーム
1c リアサイドフレームの車体内方側の側面
3 リアフロア
5 排気サイレンサ
13 ストッパ部材
14a ストッパ部材の後側の脚
14b ストッパ部材の前側の脚
18 ストッパ部材の前側の脚の湾曲部
19 ストッパ部材の前側の脚の取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延びる左右一対のリアサイドフレームを備えたリアフロアの後端の下方に排気サイレンサが配設された自動車の下部車体構造において、
前記リアサイドフレームに、上下方向に延びるストッパ部材が取り付けられ、
該ストッパ部材は、前記排気サイレンサが外的物体との干渉により上方に所定距離変位したときに、前記ストッパ部材が前記外的物体と干渉して前記排気サイレンサの更なる上方への変位を規制する剛性を備えると共に、車体下方からの荷重の入力に比較して車体後方からの荷重の入力に対して変形容易に構成されていることを特徴とする自動車の下部車体構造。
【請求項2】
前記リアサイドフレームが、フロントサイドフレームから直線状に延びる構造であり、該リアサイドフレームの下方に前記排気サイレンサが配設されている、請求項1に記載の自動車の下部車体構造。
【請求項3】
前記ストッパ部材が、車幅方向から側面視したときに略U字状の部材からなる、請求項1又は2に記載の自動車の下部車体構造。
【請求項4】
前記略U字状の部材からなるストッパ部材の上方に向けて延びる一対の脚の上端が前記リアサイドフレームの側面に取り付けられ、
該一対の脚のうち、少なくとも一方の脚の上端部には、車体前後方向に湾曲した形状の湾曲部と、該湾曲部に隣接して前記脚の端側に位置して水平又は傾斜して延びる取付部とを有し、該取付部が前記リアサイドフレームの側面に連結されている、請求項1又は2に記載の自動車の下部車体構造。
【請求項5】
上から見たときに、前記リアサイドフレームの全幅が前記排気サイレンサとオーバラップしており、
前記ストッパ部材は、前記排気サイレンサの後方の車体後端の近傍に配設され、前記一対の脚のうち、車体前方側の脚が、車体前方に向けて湾曲した前記湾曲部と、該湾曲部から車体前方側に延びる前記取付部とを有する、請求項3に記載の自動車の下部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−96170(P2006−96170A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284463(P2004−284463)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】