説明

自動車の後部車体構造

【課題】後面衝突に対する衝突ストロークの確保を図り、併せて車高違い車両の後突による後突車両の乗り上げ回避、衝突荷重の分散が十分に行われ、後突時のキャビンの変形を効果的に抑制すること。
【解決手段】左右のリヤサイドフレームに接続されてリヤサスペンションビーム13より車体後方側にスペアタイヤSを横倒し後上がり傾斜状態で収納するスペアタイヤパン21を形成されたリヤフロアパネル19と、スペアタイヤパン21の下底部の車体後方側を車幅方向に延在して両端を左右のリヤサイドフレームに接続されたリヤエンドクロスメンバ23と、スペアタイヤパン21の前部に接続されてリヤサスペンションビーム13に対向する荷重伝達メンバとしてのスペアバンビーム27とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の後部車体構造に関し、特に、トーションビーム式サスペンション等に用いられるリヤサスペンションビームを含む自動車の後面衝突(後突)対策に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のとしては、次のような構造のものが知られている。
【0003】
(従来例1)左右のリヤサイドメンバとサスペンション取付用クロスメンバ及びシートキャッチャー用クロスメンバとリヤフロアパネルとで剛性の高い変形阻止部を構成し、当該変形阻止部とスペアタイヤ格納用の凹部(スペアタイヤパン)との間に、前記変形阻止部より剛性が低い変形許容部を設け、車体後部からの衝突荷重により変形許容部を変形させてスペアタイヤ格納用凹部を車体下方へ回転移動させる構造とし、更に、前記サスペンション取付用クロスメンバを、車両後部から衝突荷重が入力されたときに前記凹部の前端が突き当たる位置に配設した後部車体構造(例えば、特許文献1)。
【0004】
この後部車体構造では、変形許容部の変形によってスペアタイヤの回転移動モードを車体下方へ回転に特定され、エネルギ吸収が行われる。
可能とする。
【0005】
(従来例2)リヤフロアパネルのスペアタイヤパンよりも車両前方位置から車両後方かつ下方に向けて傾斜板を垂設し、この傾斜板の下端部をスペアタイヤパンの前側縦壁に結合し、これら傾斜板とスペアタイヤパンの前側縦壁とリヤフロアパネルとの間に第1閉断面部を形成した後部車体構造(例えば、特許文献2)。
【0006】
この後部車体構造では、第1閉断面部によってスペアタイヤパンの前側縦壁のねじり剛性を増大して後面衝突のエネルギ吸収に必要な圧潰スペースを確保しつつ、燃料タンクへの干渉を防止することができ、燃料タンクの容量を確保するとともに、車体の大型化を避けつつ、補助タイヤの収納スペースを確保できる。
【0007】
(従来例3)車両の後部荷室にてスペアタイヤをほぼ水平に収納するように構成された車両の後部車体構造であって、後部荷室の床面をなすフロアパネルに、スペアタイヤを固定して保持するためのタイヤ受け部を設け、該フロアパネルの下面側には、該タイヤ受け部に対応して、車両の前後方向に延びる補強部材を設ける。そして、上記補強部材は、上記タイヤ受け部に対するスペアタイヤの固定部位に対応しつつ、その後端側で、上記フロアパネルより後方に位置する縦壁部材から所定間隔離間して対向するように設けた後部車体構造(例えば、特許文献3)。
【0008】
この後部車体構造では、後方から大きな荷重が加わった場合にスペアタイヤの離脱を防止することができ、更に、その上、後方からの種々の方向における荷重に対応してスペアタイヤを効果的に傾斜させることができる。
【特許文献1】特許第3620288号公報
【特許文献2】特開2004−314673号公報
【特許文献3】特開2006−193046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来例1のような後部車体構造では、スペアタイヤパンにスペアタイヤが前下がりに配置されると、後面衝突時にスペアタイヤは、車体後方から車体前方に押し出され、後側から立ち上がり易くなる。このために、スペアタイヤパンが十分に変形できなくなり、衝突エネルギの吸収量が低減する。
【0010】
従来例2のような後部車体構造では、後面衝突時にスペアタイヤパンの車両後方部分を上方に持ち上げることができるが、スペアタイヤパンの前側隔壁が車体後方に突き出した出っ張り顎形状をなしているため、後面衝突時にスペアタイヤの持ち上げ過程で、スペアタイヤが前側隔壁の出っ張り顎形状部に引っかかり、スペアタイヤの立ち上げ角度が制限されてしまう。このため、大きな衝突ストロ−クを確保することができない。また、リヤフレーム後部を左右に結合するクロスメンバがないため、オフセット衝突時の非衝突側への荷重伝達が良好に行われない。
【0011】
従来例3のような後部車体構造では、スペアタイヤをほぼ水平に収納し、フロアパネルに固定しているので、後面衝突時にスペアタイヤを立ち上げることはできるが、補強部材で固定されているため、立ち上がる量が制限され、衝突ストロークがスペアタイヤによって制限される。また、リヤフレーム後部を左右に結合するクロスメンバがないため、オフセット衝突時の非衝突側への荷重伝達が良好に行われない。
【0012】
後面衝突に対する衝突ストロークが十分でないことは、車室内と後部荷室とを区画するリヤバルクヘッド(隔壁)が無く、後部座席から車体後端までの距離が短いハッチバックタイプの小型車においても、特に、好ましくない。
【0013】
このことに対して、左右のリヤサイドフレームの強度を上げることが考えられるが、衝突荷重を受ける領域が限られ、必要とする強度を確保することが難しい。後面衝突時のスペアタイヤパンの車体前方への移動を防止するために、後部座席の強度を上げる対策もあるが、衝突以外の性能向上には効果がなく、重量増加によるデメリットのほうが大きい。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、後面衝突(後突)に対する衝突ストロークの確保を図り、併せて車高違い車両の後突による後突車両の乗り上げ回避、衝突荷重の分散が十分に行われ、後突時のキャビン(車室)の変形を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による自動車の後部車体構造は、車幅方向に延在し、両端に左右のトレーリングアームを設けられたリヤサスペンションビームを有する自動車の後部車体構造であって、車体後部に配置されて車体前後方向に延在する左右のリヤサイドフレームと、前記左右のリヤサイドフレームに接続され、前記リヤサスペンションビームより車体後方側にスペアタイヤを横倒し後上がり傾斜状態で収納するスペアタイヤパンを形成されたリヤフロアパネルと、前記スペアタイヤパンの下底部の車体後方側を車幅方向に延在し、両端を前記左右のリヤサイドフレームに接続されたリヤエンドクロスメンバと、前記スペアタイヤパンの前部に接続され、前記リヤサスペンションビームに対向する荷重伝達メンバとを有する。
【0016】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、更に、前記スペアタイヤパンの車体前方側を車幅方向に延在し、両端を前記左右のリヤサイドフレームに接続されたリヤフロアクロスメンバと、前記リヤサスペンションビームより車体前方側にあってフロントフロアパネルの後部に接続されたセンタフロアエクステンションとを有する。
【0017】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、前記センタフロアエクステンションは、前記リヤサスペンションビームの最大上下移動範囲の全域に亘る高さ寸法を有している。
【発明の効果】
【0018】
本発明による自動車の後部車体構造によれば、後突時には、リヤエンドクロスメンバによってスペアタイヤパンが車体前側に押され、スペアタイヤがスペアタイヤパンに横倒し後上がり傾斜状態で収納されていることにより、スペアタイヤパンが変形しながら、スペアタイヤが後側から確実に立ち上がる。これにより、衝突によって潰れる車体後部の前後距離が増大し、後部座席から車体後端までの距離が短いハッチバックタイプの小型車においても、後突に対する衝突ストロークを多く確保でき、併せて、立ち上がったスペアタイヤが障壁をなして後突車両の乗り上げを確実に回避することができる。
【0019】
立ち上がったスペアタイヤが受けた衝突荷重は、スペアタイヤパンの変形に伴って車体前側に変位した荷重伝達メンバがリヤサスペンションビームに当たり、リヤサスペンションビームを介して車体前側に分散される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明による後部車体構造をハッチバックタイプの自動車に適用した実施形態を、図1〜図3を参照して説明する。
【0021】
これらの図において、1は左右の後輪(リヤタイヤ)を、3は車体パネルを、5は車体パネルに形成されたリヤサイドドア開口を、7はトンネル部7Aを有するフロントフロアパネルを、9は左右のサイドシルを各々示している。
【0022】
車体後部構造体として、車体後部には、車体前後方向に延在する左右のリヤサイドフレーム11が設けられている。左右のリヤサイドフレーム11にはリヤサスペンションビーム13が取り付けられている。
【0023】
リヤサスペンションビーム13は、車幅方向に延在して両端の車体前方側に左右のブッシュ部15を有し、当該左右のブッシュ部15によって左右のリヤサイドフレーム11より揺動可能に支持され、トーションビーム式サスペンションのトーションビームをなすものである。リヤサスペンションビーム13は、横断面形状が横転U形のビーム材により構成されて車幅方向に延在し、両端に左右の後輪1を支持する左右のトレーリングアーム17を一体に設けられている。リヤサスペンションビーム13は、全体で見てH形をしていることから、Hビームと云われることがある。
【0024】
左右のリヤサイドフレーム11にはリヤフロアパネル19が取り付けられている。リヤフロアパネル19には、リヤサスペンションビーム13より車体後方側において、スペアタイヤSを横倒し状態で収納する上方開口のスペアタイヤパン21が形成されている。スペアタイヤパン21は、車両前方が水平底部21Aに、車体後方が後方上がりの傾斜底面21になっている。スペアタイヤパン21は、この底面形状により、スペアタイヤSを横倒しの後上がり傾斜状態で収納する。スペアタイヤパン21の前後左右の周面21Cは縦壁になっている。
【0025】
スペアタイヤパン21の下底部の車体後部側には、好ましくは、傾斜底面21Bには、車幅方向に延在して両端を左右のリヤサイドフレーム11に接続されたリヤエンドクロスメンバ23が設けられている。リヤエンドクロスメンバ23は、左右のリヤサイドフレーム11間に橋渡しされて当該左右のリヤサイドフレーム11を剛固に連結するものであり、当該リヤエンドクロスメンバ23に対応する部位に、スペアタイヤパン21に収納されるスペアタイヤSの後側傾斜部が配置される。
【0026】
なお、リヤエンドクロスメンバ23には、車載エンジンの排気系の消音器25との干渉を避けるための円弧形状部23Aが形成されている。
【0027】
スペアタイヤパン21の前部には、スチフナ29と共にスペアバンビーム27が溶接されている。スペアバンビーム27は、リヤサスペンションビーム13に対向し、後突変形時に衝突荷重をリヤサスペンションビーム13に伝達する荷重伝達メンバとして作用する。
【0028】
スペアタイヤパン21の車体前方側には、リヤフロアパネル19の下底面に沿って車幅方向に延在して両端を左右のリヤサイドフレーム11に接続されたリヤフロアクロスメンバ31が設けられている。リヤフロアクロスメンバ31は、左右のリヤサイドフレーム11間に橋渡しされて当該左右のリヤサイドフレーム11を剛固に連結するものであり、スペアタイヤパン21の前部と協働して閉じ断面のクロスメンバをなしている。
【0029】
リヤフロアパネル19とフロントフロアパネル7との間には、車幅方向に延在して両端を左右のリヤサイドフレーム11に接続されたミドルフロアクロスメンバ35、ミドルフロアクロスメンバ35とスペアバンビーム27とに接続されたセンタフレーム33、ミドルフロアクロスメンバ用スチフナ37が設けられている。
【0030】
リヤサスペンションビーム13より車体前方側には、フロントフロアパネル7の後部に接続されたセンタフロアエクステンション39が設けられている。センタフロアエクステンション39は、リヤサスペンションビーム13の最大上下移動範囲の全域に亘る高さ寸法を有しており、上端をセンタフレーム33に接続されている。
【0031】
左右のリヤサイドフレーム11の後端には、リヤバンパエクステンション41によってリヤバンパフレーム43が取り付けられている。
【0032】
上述の構成による後部車体構造によれば、図3に示されているように、後続車100による後突時には、リヤバンパフレーム43やリヤエンドクロスメンバ23によってスペアタイヤパン21が車体前側に押されて変形する。スペアタイヤSはスペアタイヤパン21に横倒し後上がり傾斜状態で収納されているから、スペアタイヤパン21が車体前後方向に座屈変形しながら、スペアタイヤSが、矢印Xで示されているように、後側から立ち上がる。
【0033】
このスペアタイヤSの立ち上がりは、スペアバンビーム27がリヤサスペンションビーム13に当り、リヤサスペンションビーム13によってスペアタイヤSの車体前方への動きを規制された状態で、確実に行われる。
【0034】
スペアタイヤSの立ち上がりにより、衝突によって潰れる車体後部の前後距離が増大し、後部座席から車体後端までの距離が短いハッチバックタイプの小型車においても、後突に対する衝突ストロークを多く確保でき、併せて、立ち上がったスペアタイヤSが障壁をなして後突車両の乗り上げを確実に回避することができる。
【0035】
立ち上がったスペアタイヤSは、リヤフロアクロスメンバ31に引っかかり、それにより車体前方への動きを規制されるから、スペアタイヤSが後部座席側に侵入することがない。
【0036】
立ち上がったスペアタイヤSが受けた衝突荷重は、リヤフロアクロスメンバ31によってフロントフロアパネル7側に分散すると共に、スペアタイヤパン21の変形に伴って車体前側に変位したスペアバンビーム27がリヤサスペンションビーム13に当たることにより、衝突荷重がリヤサスペンションビーム13を介してセンタフロアエクステンション39に伝わり、フロントフロアパネル7全体に分散される。これらのことにより、後突時のキャビンの変形が効果的に抑制される。
【0037】
センタフロアエクステンション39は、リヤサスペンションビーム13の最大上下移動範囲の全域に亘る高さ寸法を有しているから、後突時のリヤサスペンションビーム13の上下位置の如何に拘らず、センタフロアエクステンション39がリヤサスペンションビーム13に当たり、スペアタイヤバン21からリヤサスペンションビーム13への衝突荷重の伝達が行われる。
【0038】
また、スペアバンビーム27やリヤフロアクロスメンバ31、ミドルフロアクロスメンバ35等によって大きい断面のクロスメンバが得られ、大きい重量増加を招くことなく衝突荷重の伝達や剛性の確保ができる。
【0039】
また、リヤエンドクロスメンバ23は、オフセット衝突時に、非衝突側へ衝突荷重を伝達する働きも
【0040】
また、スペアタイヤパン21の車体前側が深いので、大きい荷室容積を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による後部車体構造をハッチバックタイプの自動車に適用した一つの実施形態の要部の底面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う断面図に相当する本実施形態の要部の断面図である。
【図3】図1の線III−IIIに沿う断面図に相当する本実施形態の要部の断面図である。
【図4】衝突変形時の状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 後輪
3 車体パネル
5 リヤサイドドア開口
7 フロントフロアパネル
9 サイドシル
11 リヤサイドフレーム
13 リヤサスペンションビーム
15 ブッシュ部
17 トレーリングアーム
19 リヤフロアパネル
21 スペアタイヤパン
23 リヤエンドクロスメンバ
25 消音器
27 スペアバンビーム
29 スチフナ
31 リヤフロアクロスメンバ
33 センタフレーム
35 ミドルフロアクロスメンバ
37 ミドルフロアクロスメンバ用スチフナ
39 センタフロアエクステンション
41 リヤバンパエクステンション
43 リヤバンパフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延在し、両端に左右のトレーリングアームを設けられたリヤサスペンションビームを有する自動車の後部車体構造であって、
車体後部に配置されて車体前後方向に延在する左右のリヤサイドフレームと、
前記左右のリヤサイドフレームに接続され、前記リヤサスペンションビームより車体後方側にスペアタイヤを横倒し後上がり傾斜状態で収納するスペアタイヤパンを形成されたリヤフロアパネルと、
前記スペアタイヤパンの下底部の車体後方側を車幅方向に延在し、両端を前記左右のリヤサイドフレームに接続されたリヤエンドクロスメンバと、
前記スペアタイヤパンの前部に接続され、前記リヤサスペンションビームに対向する荷重伝達メンバと、
を有する自動車の後部車体構造。
【請求項2】
前記スペアタイヤパンの車体前方側を車幅方向に延在し、両端を前記左右のリヤサイドフレームに接続されたリヤフロアクロスメンバと、
前記リヤサスペンションビームより車体前方側にあってフロントフロアパネルの後部に接続されをセンタフロアエクステンションと、
を有する請求項1に記載の自動車の後部車体構造。
【請求項3】
前記センタフロアエクステンションは、前記リヤサスペンションビームの最大上下移動範囲の全域に亘る高さ寸法を有している請求項2に記載の自動車の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179181(P2009−179181A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20135(P2008−20135)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】